2022年2月1日火曜日

バイデン政権をかき乱す文在寅の北朝鮮交渉―【私の論評】文在寅5年間の対北融和政策の失敗等で、北・韓国が派手に外交の表舞台にでてくることはなくなる(゚д゚)!

バイデン政権をかき乱す文在寅の北朝鮮交渉

岡崎研究所

 北朝鮮は新年早々、新たなミサイル実験を繰り返している。極超音速ミサイルではないかとも言われている。米国は従来同様、同盟国と非難声明を発出し、新たな制裁を発表した。しかし、バイデンの「戦略的忍耐」は持続可能ではないように見える。


 ワシントン・ポスト紙コラムニストのジョシュ・ロウギンは1月13日付けの論説‘We can’t neglect North Korea for another year’で、北朝鮮をもう一年無視することはできない、人道支援のキッカケを掴むべく北を試していくべきだと述べている。

 ロウギンは、⑴ 北朝鮮は2021年世界保健機関(WHO)からの医療物資支援の受け入れを再開し、国際赤十字が同国内で活動を行うことを許可した、⑵ 金正恩の最近の動きは米のワクチンを含む大規模の人道支援を受け入れる兆候とも受け取られ、米国はこれを試すべきだ、⑶ それは交渉のキッカケになるかもしれない、と言う。

 コロナ対策を含む人道支援の可能性は以前より多くの者が言ってきたことであり、誰も異論はないであろう。しかし、目下バイデンが、対中関係、ウクライナなど対露関係、より良い再建法案の議会通過などに忙殺されている現状には留意せざるを得ない。しかし、北が真剣に重大なシグナルを出してきているのであれば、米国は逃すことなく追求していくべきだろう。

 1月17日にも北は再びミサイルを発射した。今年になって4回目となる。北のシグナルは判然としない。北が交渉に出て来ることを拒んでいる以上、他に良いオプションはない。その間に北の武器開発が進むことは、我方にとりジレンマだが、北に交渉の主導権を与えることも得策ではない。当面は国際社会の結束を維持し、ワクチン支援などあらゆるキッカケを見つけながら、辛抱強く対処するしか妙案はない。

 北には硬軟両様の対応が必要である。1月12日の米の独自制裁は評価できる(ロシア人を含めたことも良い)。また、米国がこれを基に安保理による制裁拡大を提案していることも適切である。日本など関係国の非難声明発出も良かったと思われる。

 目下対中国、ロシア関係は厳しいが、北の問題には努めて中国とロシアの関与を求めることも必要だろう。中露の対北協力(政府の関与だけなく民間の関与、取引を含めて)を遮断することが重要である。北が武器の委託実験場になっているのではないかと勘繰りたくもなる。

バイデン政権を苦しめる文在寅のこだわり

 文在寅は、朝鮮戦争終了宣言の発出に執着している。文は豪州訪問(12月)中、米中と南北は戦争終了宣言に原則合意したと述べ、北の条件は米国による対北敵視政策の終了であり、そのために南北や米朝が交渉につけないでいると述べた。

 これに関連して、米国のシンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)のビクター・チャが、「(韓国は)同盟国をコーナーに追い詰めるな」と題する異例の批判記事を書いている(12日付朝鮮日報英文)。文在寅政権のやっていることは、まさにバイデン政権を追い詰めていると言ってよい。文在寅政権による自分のアジェンダ推進のための不正確な記者発表や過早な発言の事例はしばしば見られてきた。

 なお、文在寅は戦争終了宣言を米と合意し、北の同意も得て、2月の北京冬季五輪に乗り込み、南北外交を展開することを構想してきた。しかし、12月6日に米国は北京五輪の「外交ボイコット」を発表、1月5日には北が北京五輪不参加を正式に通知した(金正恩の訪中もない)。

 文在寅は12月上旬から「北京五輪ボイコットは検討しない」と言い続けたが、1月12日に青瓦台は、文在寅が北京五輪には出席しないと正式に表明した。これで文在寅の戦争終了宣言構想や南北五輪外交構想は霧散した(退任の5月までにまた動くかもしれないが)。文在寅の構想は余りにも現実を無視した、独善的な構想だと言わざるを得ない。

【私の論評】文在寅5年間の対北融和政策の失敗等で、北・韓国が派手に外交の表舞台にでてくることはなくなる(゚д゚)!

北朝鮮国営の朝鮮中央通信は7日、同国オリンピック委員会と体育省が中国オリンピック委員会などに書簡を送り、北京冬季五輪への不参加を伝えたと報じました。

これを受け、中国が落胆ないし不快感を覚えることはないでしょう。北朝鮮選手団の不参加が五輪に与えるダメージは大きくないですし、中国は北朝鮮の窮状を誰よりも理解しているからです。

こけれに比べ、韓国の文在寅大統領の落胆はかなり大きなものだっだでしょう。

任期が残りわずか(来年5月9日に任期満了)となった韓国の文在寅氏にとって、最大の外交的課題は朝鮮戦争の「終戦宣言」を実現することでした。もし、北朝鮮が金正恩総書記か、妹の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党副部長を北京五輪の開会式に送ったとしたら、文在寅氏は自ら現地に乗り込んで米国との対話を促し、終戦宣言への道筋をつけようとしたはずです。

しかしそれも、北朝鮮が五輪不参加を表明した以上、実現可能性はなくなりました。しかし、北朝鮮が北京五輪に参加していたとしても、終戦宣言には到達できなかった可能性の方が高いです。

米国政府は先月10日、人権侵害などを理由に北朝鮮の李永吉(リ・ヨンギル)国防相と中央検察所を制裁指定しました。これは、バイデン政権発足後に初めて出された人権問題に関する制裁だ。政治犯に対する虐待や公開処刑などの人権侵害を、決して見過ごさないという態度表明と言えます。

金正恩氏(右)と李永吉氏(左)/2015年10月朝鮮中央通信より

米財務省は「北朝鮮の個人は強制労働と持続的な監視、自由と人権の深刻な制限に苦しんでいる」とし「中央検察所と北朝鮮の司法体系は不公正な法執行をし、これは悪名高い強制収容につながる」と説明した。

続いて、外国人も北朝鮮の不公正な司法体系の被害者になることがあるとし、オットー・ワームビアさんの事例に言及した。オットー・ワームビアさんは大学生だった2016年、北朝鮮訪問中に体制転覆容疑で逮捕され、昏睡状態で米国に送還された後に死亡しました。

米財務省は「生きていれば今年27歳のワームビアさんに対する北朝鮮の処遇は非難されるべき」とし「北朝鮮政府は人権に関連する悲惨な事件に対して今後も責任を取らなければならない」と主張しました。

米財務省は外貨稼ぎの手段として悪用される北朝鮮労働者の海外違法就職斡旋会社も制裁の対象に含めました。

バイデン政権に入って北朝鮮に新たな制裁を加えたのは今回が初めてです。バイデン政権はその間、北朝鮮との対話が必要だという立場を守り、従来の制裁を維持してきました。

米財務省は12日、北朝鮮の核・ミサイル開発などに関わったとしてアメリカ財務省が、12日、北朝鮮の男6人とロシア人の男のあわせて7人と、モスクワにある企業に対して、資産の凍結などの制裁を科したと発表しました。

今回の制裁にあたって米財務省は「北朝鮮は去年9月以降、弾道ミサイルを6回発射し、国連安保理の複数の決議に違反している」と、弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮を強く非難しました。

文在寅氏の望みは事実上、これらの米国の態度表明により潰えました。

一部では、米国が北朝鮮を非核化交渉テーブルに引き出すために制裁カードを活用することもできるという一種の警告メッセージを送ったという解釈もあります。

金正恩氏が、人権問題で非難されるのを何より嫌っていることは広く知られています。それなのに敢えて、人権問題で制裁を加えたのは、バイデン政権に金正恩体制を甘やかす気がないことの表れと言えます。

そうして、最近の北によるミサイルの連続発射は、この警告メッセージへの反発ともみてとれますが、それは先日もこのブログに掲載したように、みせかけであり北朝鮮の苦しい現状を反映したものではないかと考えられます。

北朝鮮では、今年が故金日成(キム・イルソン)主席の生誕110年、故金正日(キム・ジョンイル)総書記の生誕80年に当たります。

2018年に開催された〝太陽節〟金日成主席の生誕祭

北朝鮮では5年、10年の節目の記念日が特に重視されるため、今年は金日成主席の生誕110年(4月15日)、金正日総書記の生誕80年(2月16日)に合わせて例年よりも大規模な記念行事を行う可能性もあります。しかし、それを盛大に祝うための成果が、ミサイル発射以外にないという状況です。

北のミサイル連発に、バイデン政権はすで答えを出しています。それは、先日もこのブログにのべたように、一つはトライデント弾道ミサイル20基と核弾頭数十発を搭載するネバダは15日、グアムにある海軍基地に入港させたことです。

弾道ミサイル原潜がグアムに寄港するのは2016年以来で、寄港が発表されるのは1980年代以降でわずか2度目です。

もう一つは、米軍は空母3隻だけではなく、強襲揚陸艦「アメリカ」「エセックス」2隻を同じ時期にインド太平洋地域に派遣したことです。これは異例中の異例です。まさに、ベトナム戦争以降、この地域での最大の空母集結です。そうして、日本の海上自衛隊も現在も米海軍と行動をともにしています。

バイデン政権としては、中露や北朝鮮が新たな政治的なカードを持ち出すことを封じるためにこのようなことをしているのでしょう。バイデン政権としては、北や韓国、ロシアの撹乱を防ぎ、中国と本気で対峙しているという覚悟をみせた形です。

バイデンを応援する米国メディアは、どちらもありそうもない、中国の台湾侵攻を煽ったり、ロシアのウクライナ侵攻を煽っていますが、これによって、厳しく中露に対峙するバイデン政権をアピールしたいのでしょう。

海上自衛隊が米海軍と実施した共同戦術訓練。右端は米原子力空母、エーブラハム・リンカーン

米国内や米国議会における超党派での反中世論の高まり、アフガニスタンでの失敗や、今秋の中間選挙に向けての劣勢挽回のためにも、バイデン政権は中国に対する融和策を取ったり、大きな失敗はできません。北朝鮮や韓国の撹乱等を真に受けている暇などありません。

北と韓国は、最近ロシアからミサイル関連の技術の供与を受けているようです。上の記事にもあるように、北が武器の委託実験場になっているのではないかという憶測もあります。

一方韓国では2021年9月15日のSLBM発射に合わせて、航空母艦キラーと呼ばれる超音速巡航ミサイルも公開されました。射程距離500キロメートルのミサイルがマッハ3の速度でターゲットに命中する映像が公開されたのですが、ロシアの超音速ミサイル(P800、ヤホント)をコピーしたとみられます。韓国はロシアから兵器を導入する「プルゴム事業」プロジェクトを進めてきました。

これは、韓国が1991年にソ連に提供した経済協力借款14億7000万ドルについて、ロシアが現物償還を提案し、1995年から行われてきた事業です。韓国はロシアから携帯用対戦車誘導弾、携帯用対空ミサイル、戦車(T-80U)、装甲車(BMP3)、空気浮揚艇などを受けました。 2007年からは「韓露軍事技術協力事業」の形でロシアの軍事技術を取り入れています。

ロシアの支援で韓国は弾道ミサイルや巡航ミサイルなど各種の核心軍事技術を手に入れました。今回公開された超音速ミサイルはその一環でしょう。SLBM関連技術もロシアからもらった可能性を排除できないです。

韓国のSLBM開発にロシアが貢献したのなら問題は簡単ではないです。

もし、ロシアが韓国にSLBM関連技術を提供する代わりに、韓国に対して何か相応の情報を求めていたなら問題です。

韓国が有する軍事情報の中で、ロシアが関心を持つのは米国製兵器と運用方法に関することです。 日本をはじめとする自由陣営が対中国や対ロシア牽制に余念がないなか、中国に歩み寄り、ロシアと軍事技術協力事業を行う韓国を米国は疑っていることでしょう。韓国は、のようなことをする前にすべきことがあるはずです。

文在寅氏の、5年間にわたる対北融和政策は失敗に終わりました。その最大の原因は、何より彼自身が、米国との信頼関係構築に失敗したことです。

北朝鮮も結局、長期にわたるミサイル発射により、大きく世界を変えることはできませんでした。

文在寅や金正恩は、結局何も変えられませんでした。何一つ世界に貢献することはありませんでした。プーチンもそうです。結局、韓国・北朝鮮、ロシアは米中対立を複雑にしただけです。

今後、韓国や北朝鮮が、外交の表舞台に出てくることはなくなるのではないでしょか。あるとすれば、北や韓国が直接ということではなく、北は中国やロシアが仲介することになるでしょう。韓国の場合は米韓の首脳級の会談などあまりなくなり、事務方の話し合いが中心になるのでないでしょうか。日本も韓国に力添えすることもないでしょう。

そもそも、北や韓国が派手に外交の表舞台に立っていたことこそが、異常だったのかもしれません。今後はそのようなことはなくなるかもしれません。

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2022年1月31日月曜日

一行目から馬脚をあらわした 岸田首相の『文藝春秋』寄稿の笑止―【私の論評】岸田首相の経済政策は、財務省による遠大な計画を実現するための持ち駒にすぎない(゚д゚)!

一行目から馬脚をあらわした 岸田首相の『文藝春秋』寄稿の笑止

「新しい資本主義」は「新しい社会主義」か?








もう、お里が知れる

 本コラムでは、これまで岸田政権のグダグダ、モタモタを散々と書いてきた。

  2021年12月13日付の「この一ヵ月で岸田政権が間違えた3つのこと」、同27日付の「年の瀬までグダグダ・モタモタの岸田政権 いったいどこに向かうのか?」など, いくら書いても書き足りないくらいだ。これほど「とろこい」政権はひさしぶりだ。 

  筆者は、岸田政権の本質を「左派」だと見てきた。そこで新年早々に出版したのが『岸田政権の新しい資本主義で無理心中させられる日本経済』(宝島社)である。

  岸田首相は、『文藝春秋』2022年2月号に「新しい資本主義」を寄稿した。本コラムの読者であれば、昨年、矢野財務次官が寄稿した『文藝春秋』11月号の原稿について、筆者が会計学的・金融工学的観点から「落第」判定をしたのを覚えているだろう(2021年10月11日付「財務事務次官『異例の論考』に思わず失笑…もはや隠蔽工作レベルの『財政再建論』」)。またも同じ『文藝春秋』上の出来事なので、苦笑せざるを得なかった。


  岸田首相の寄稿を、筆者も早速読んでみた。この種の雑誌寄稿は、実際は首相の首相のブレーンが執筆するものだが、当然岸田首相が了解済みのものだ。

  失笑ものの矢野氏の寄稿を、岸田氏は容認した。それだけでも問題だと思うが、今度は一応本人名義の寄稿である。  総字数は1万をやや超える程度であるが、はじめの1節を読んでみて、さっそく「お里」が知れてしまった。

  はじめの1節は、問題意識や検討対象を述べる重要な箇所だ。そこではこう書かれている。  〈市場や競争に任せれば全てがうまくいくという考え方が新自由主義ですが、このような考え方は、1980年代以降、世界の主流となり、世界経済の成長の原動力となりました。他方で、新自由主義の広がりとともに資本主義のグローバル化が進むに伴い、弊害も顕著になってきました。〉

霞が関の必殺技「真空切り」

 はっきり言えば、これから後は読む必要のないほどの馬脚を露わしている。「新自由主義」なるものを糺していきたいという意気込みがわかるが、問題は「新自由主義」の定義である。岸田首相は、新自由主義を「市場や競争に任せれば全てがうまくいくという考え方」というのだ。

 どのような経済学者に聞いても、市場や競争に任せれば全てがうまくいくと考える人はいない。どのような経済学テキストでも、市場の失敗も政府の失敗の可能性も示される。市場や競争に任せればすべてうまくいくことはないし、政府に任せたからといってすべてうまくいくとは限らない。市場・競争と政府のバランスの問題なのだ。

 ところが岸田首相は、はじめの定義の段階で誤っている。無意味な定義からスタートすれば、それ以降の議論はまったくナンセンスになる。論理学ではよく知られた話ではあるが、どんなデタラメを言おうと形式論としては「正しい論法」となるから、これは最強論法だ。

 こうした論法は、官僚の世界では「真空切り」と言われる。真空切りは、たとえば予算査定においてとんでもなく大きく減額しておいて、補正で手当をしなければいけないような「あり得ない」予算査定のことを指していた。

 しかし、他の場面でもよく使われる。

 第一次安倍政権時代、筆者の仕事で、国会公務員法を改正して天下り斡旋を禁止しようとした。職業選択の自由に反する建前があるため、国家公務員の天下りそのもは規制しづらかった。しかし天下りは役所の人事の一環なので、役所(国家公務員)による斡旋が重要な構成要素となる。天下りの斡旋自体を禁止しようとしたのだ。

 しかし、役所は猛反対した。そのときに、役所側が提示してきた案の一つに「営利法人による斡旋」の禁止があった。役所の人事の一環である天下りを斡旋するのは役所(国家公務員)だから、ありえない前提だ。営利法人を規制しても意味がない。

 ありえない前提を持ち出すことで、規制をまったく骨抜きにする手法だ。これも霞が関における「真空切り」である。

 真空切りで始まる岸田氏の寄稿は、岸田政権のブレーンが書いたにしろ、あまりにもお粗末だ。この「新自由主義」への前提を読めば、その後は読まなくても、デタラメのオンパレードというのは容易に想像できる。

所信表明演説では触れていない

 なお、その他の各論については、長谷川幸洋氏と原英史氏にと私による鼎談(「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル 【岸田政権】『新しい資本主義 徹底分析』」)をご覧いただきたい。



 霞が関文学における「真空切り」論法では、しばしば荒唐無稽な「反対解釈」へと誘導されることが多い。岸田首相の場合も、「市場や競争に任せれば全てがうまくいくという考え方」を否定することで、あたかも「政府に任せれば全てがうまくいく」と思っているかのようだ。

 その一例について、先述した鼎談の中でも触れた。岸田首相は寄稿で「メインバンクの判断で債務軽減できる法整備」を主張している。債権者平等という民法原則に挑む野心策であるが、世界の資本主義国では聞いたことがない手法だ。誰かの一存により他の債権者の権利侵害を平気で行えるとは、まるで全体主義のようだ。

  筆者の周りの経営者の中にも、岸田政権の「新しい資本主義」は「新しい社会主義」ではないかと懸念する人は多い。

  岸田首相のこうした野心的な政策は、所信表明や施政方針演説では、当然ながら言及されていない。一方で、それ以外の政策については、「10兆円規模の大学ファンド」のように、これまで安倍・菅政権でやってきたことをあたかも「新しい」ことにように看板替えしただけだ。

  最後に、本コラム(2022年1月10日付「オミクロン株対策を迷走させる『岸田の鉄砲、官僚の逃亡、メディアの沈黙』」)でも指摘してきた岸田政権の「ちゃぶ台返し」について触れておこう。 

 佐渡金山の世界遺産登録の推薦で、岸田首相はまた「ちゃぶ台返し」をやった。岸田首相は外相時代に「軍艦島」の遺産登録で大トラブルになった経験もある。外務省も文科省も、佐渡金山の推薦見送りを事前説明したはずで、そのつもりだったはずだ。

  だが先々週あたりから安倍元首相を含めた自民党保守系議員から、推薦見送りはおかしいという意見が出始めた。先週1月24日の国会では、高市政調会長の質問に岸田首相はタジタジになった。翌25日の首相動静を眺めていると、関係役人を官邸に呼んでいることがわかったので、一転して推薦すると直感した私は、ツイートし、私のチャンネルでも推薦の見通しを述べた。案の定、28日、岸田首相は、佐渡金山の遺産登録推薦を表明した。 

 この調子で、新型コロナについても「ちゃぶ台返し」で感染症法上第2類相当から第5類への引き下げを期待したいところだが、当分はありそうにない。仮にあったとしても新型コロナが落ち着いてからになるだろう。

髙橋 洋一(経済学者)

【私の論評】岸田首相の経済政策は、財務省による遠大な計画を実現するための持ち駒にすぎない(゚д゚)!

岸田総理大臣は1月25日の衆議院予算委員会のなかで国民民主党の前原氏の質問に対して答えるかたちで、看板に掲げた「新しい資本主義」の分配政策面に関し、株主利益の最大化を重視する「株主資本主義」の弊害を是正したいとの考えを示しました。


「株主資本主義からの転換は重要な考え方の1つだ。政府の立場からさまざまな環境整備をしなければいけないという問題意識を持っている」と述べました。 

これは、一体何を意味するかといえば、「株主資本主義ではなくて株主社会主義を」目指すということでしょうか。そうして、このなかには「財務省の遠大な戦略」があるようですが、それについてはなぜか誰も解説しません。本日はそれについて解説しようと思います。 

まず、岸田氏は、「労働者の利益のため」と語っていますが、それにはは撒き餌というか見せ金があって、それが「賃上げ税制」なのです。岸田政権でも賃上げ税制による税収効果がわかるのですが、せいぜい1000億円程度過ぎません。

そうして、その次に、「資本家の方から金を取る」という意味合いで、配当課税の強化ということになるのです。岸田総理の「新自由主義」発言は、これを糊塗するためのものに過ぎません。配当課税の強化が本命で、こちらは数千億円~1兆円規模のの増収になります。

「配当課税の強化」と「賃上げ税制」をセットにし、「撒き餌」としての賃上げ税制があり、その後に配当課税の強化を実施する腹積もりでしょう。そういう財務省による遠大な計画があって、岸田氏の「新自由主義」発言は、それに則っているだけなのです。

体よく「労働者のために」という言い方をしますが、逆に言うと経営者、資本家の方から金を取るという政策です。 

配当課税の強化とは、分離課税を見直しの一環であり、今回の「株主資本主義」という言葉は、その布石のためのものです。労働者の賃上げをするふりを見せて撒き餌を行い、最後に配当課税の方に持って行くというシナリオです。

これは、すでに総裁選のときに岸田氏から少し出ていたのですが、批判があまりに多くて一旦うやむやになったものです。あまり考えずに 言ってしまったのが、大きな反発をくらってしまったので、うやむやにしたということです。


そのため今回は「株主資本主義」などと遠回しに言っているのでしょう。質問されたときは当面、賃上げ税制の話をしておくわけです。賃上げ税制は、せいぜい1000億円程度のものであり、全く効果がないですし無意味ですから、いくら語っても良いと考えているのでしょう。

そのうち頃合いを見て、配当課税の話に行くでしょう。そうなると、勤労者からすれば、賃上げはほとんどなく、そうして配当課税の方で「ドカン」と増税ということになります。配当課税方がはるかに税収も大きいから、そこを狙っているのでしょう。要するに平たく言えば大増税です。

 分離課税をする理由は、日本でも広く一般に投資をやってもらおうという、NISAやiDeCoと同じ流れのように見えるのですが、そこに政府が手を入れたいとことなのでしょう。資本家の懐の方に手を入れると成長の元手がなくなるのですが、今回の岸田政権には成長戦略がないこととも符号します。それと表裏一体です。 

成長戦略がなく、パイを大きくせずに、パイの切り分け方だけを考えているということです。岸田首相の背後には財務省がいて、取りやすいところに手を突っ込むという戦略の一環です。

財務省にとっても、本来はパイを大きくしてからの方が財政再建になるのではとも見えるのですが、 財務省は本当は財政再建を考えていないのです。考えているように見せかけるのは、先の戦略を成就させるために過ぎません。

はっきり言えば、元々政府には資産を考慮に入れたり、統合政府(政府と日銀を含めた連結決算ベース)でみれば、財政赤字などはなく、財政再建は必要ないですから、そのことを財務官僚は知っており、財政再建は先の戦略を成就するための隠れ蓑にすぎないわけです。そのために言うだけで本当は、必要ないのです。

岸田首相の経済政策は、財務省による遠大な計画を実現するための持ち駒にすぎないようです。このようなことを実行して、政権支持率が急降下しても、財務省は岸田政権を助けるようなことはしないでしょう。

財務省は、自分たちの省益を追求しているだけなので、岸田政権が存続しようが、短期政権で終わろうが、どうでも良いわけで、とにかく少しでも税金を多く徴収し、それによって各省庁を差配できる幅を増やし、自らの権力基盤を強化し、優雅な天下り生活をすることだけしか考えていないのです。

岸田政権が崩壊しても、国民経済が落ち込もうが、次の政権でまた増税ができて、国家・天下などどうでもよく、とにかくとびきり優雅な天下り生活に一歩でも早く近づければれば、それだけで満足であり、理念も哲学も、矜持も、品性も何もないのです。彼らは、そのためだけに日々邁進しているのです。

岸田首相はそのことにはやく気づくべきです。気づかないようなら、短期政権で終わらせるべきです。

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2022年1月30日日曜日

米の対北政策行き詰まり ウクライナ危機と同時進行のジレンマ―【私の論評】ベトナム戦争以降、インド太平洋地域に最大数の空母を集結させた米軍は、中露北の不穏な動きに十分に対応している(゚д゚)!

米の対北政策行き詰まり ウクライナ危機と同時進行のジレンマ

昨年12月1日に開いた党中央委員会政治局会議に参加した金正恩

 バイデン米政権がウクライナ危機の対応に集中する中、北朝鮮が今年7回目のミサイル発射を行った。対話の門戸を開き続けるだけの対北政策の行き詰まりは明白だ。核・ミサイルの脅威に対する優先度の低さを金正恩(キム・ジョンウン)政権に印象付け、開発を進める時間を与えている。

 「われわれの皿の上にはたくさん(の課題や脅威が)のっていて、その一つ一つに集中している」

 国防総省のカービー報道官は今月27日の記者会見でこう語った。ロシアによるウクライナ侵攻危機、中国による台湾への統一圧力と同時に、北朝鮮の挑発にどのように対処するのか-という質問に対する釈明は、米国が陥ったジレンマを浮き彫りにしている。

 バイデン政権は昨年、「現実的アプローチ」という対北政策を打ち出した。「最大限の圧力」を使い首脳間対話を実施したトランプ政権と、「戦略的忍耐」というオバマ政権の中間といわれてきたが、実情は個別の発射実験に声明で非難と対話呼びかけを繰り返すのみだった。

 米国が中国とロシアとの二正面の対処に追われていく過程で、北朝鮮の弾道ミサイル発射は頻度を増し、受け身の対北政策は「もはや機能しないという結論」(米誌フォーリン・ポリシー)が出たといえる。

 ヘリテージ財団のブルース・クリングナー上級研究員は本紙取材に「北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射したり、金正恩氏が首脳会談を提案したりすれば、バイデン大統領は北朝鮮に集中するだろう」と語る。そうした優先度の低い姿勢が、同国がICBMや核実験に踏み切るまで「傍観する」というシグナルを与えてしまった。

 その間に、北朝鮮は極超音速や多弾頭のミサイル開発など「米国と同盟国のミサイル防衛網を突破する」(米議会調査局の報告書)目標に着実に進んでいる。

 バイデン氏が今、プーチン露大統領に毅然(きぜん)と対処できなければ、金氏や中国の習近平国家主席を喜ばせるだけだ。米主導の世界秩序に挑戦する複数の脅威に対峙(たいじ)しつつ、対北圧力強化へ早急な転換が迫られる。

【私の論評】ベトナム戦争以降、インド太平洋地域に最大数の空母を集結させた米軍は、中露北の不穏な動きに十分対応している(゚д゚)!

北朝鮮はこのところ、なぜミサイルを発射し続けるのかということについて、様々な憶測が流れていますが、私はマスコミが報道するようなことはほとんど根拠がないと思います。

これには、北朝鮮が今年大きな節目を迎えることが関係していると思います。北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は4日付の記事で、2022年は「わが党と人民にとって特別に重要で意義深い年」だと伝えましたた。

今年が故金日成キム・イルソン)主席の生誕110年、故金正日キム・ジョンイル)総書記の生誕80年に当たることを踏まえ、「意義深い今年を革命的大慶事の年として輝かせることは、偉大なる首領様の子孫、偉大なる将軍様の戦士、弟子たちであるわが人民の本分だ」と指摘しました。

北朝鮮では5年、10年の節目の記念日が特に重視されるため、今年は金日成主席の生誕110年(4月15日)、金正日総書記の生誕80年(2月16日)に合わせて例年よりも大規模な記念行事を行う可能性もあります。

2018年に開催された〝太陽節〟金日成主席の生誕祭

北朝鮮が金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党総書記)について金日成主席から3代続く「白頭血統」の正当性を連日強調し、結束を図っていることからも、先代の節目の生誕記念日を一段と際立たせるとみられます。

しかし、金正恩は体調不良説が噂されているとともに、この節目に相応しい成果をほとんど何も上げていません。コロナ対策は無論のこと、食糧増産、経済強国を目指したリゾート開発でも何も成果を上げられませんでした。

ただ、一つだけ例外があります。それが、核開発やミサイル開発です。党指導部は、その優れた技術力、特にそれが韓国に先んじているということを喧伝し、「国内における政権の正当性」を強化したいと考えているのでしょう。これは同時に日米韓への国外へのメッセージにもなっていると、国内に向けての大きなメッセージになります。

北朝鮮は今年から、新たな経済5カ年計画を始めました。正恩氏は昨年12月1日に開いた党中央委員会政治局会議で「国家経済が安定的に管理され、わが党が重視する農業部門と建設部門で大きな成果を収めた」と語りました。

しかし、金正恩は「制裁が続く限り、生産設備の保守・更新に必要な資材が入ってこない。自力更生路線だけでは、徐々に生産量は落ちていくだろう。このままなら、新たな5カ年計画も失敗に終わるだろう」とも語っています。

そうして、それは現実のものになりつつあります。そうなると、今年大きな節目に成果を誇れるものは何もないということになってしまいます。それを打開する窮余の策が、新技術を用いた核ミサイルの発射なのでしょう。

そのため、ミサイル発射は北京五輪の前には終了し、五輪開催中は実施しないでしょう。五輪が終わってからは、また再開するかもしれません。

そのあたりは、米国も見抜いているのでしょう。それにしても、万一に備えて、米国はそれに対して手を打っています。

このブログにも以前掲載したように、一つはトライデント弾道ミサイル20基と核弾頭数十発を搭載するネバダは15日、グアムにある海軍基地に入港しました。弾道ミサイル原潜がグアムに寄港するのは2016年以来で、寄港が発表されるのは1980年代以降でわずか2度目です。

もう一つは、23日、日本の海自と米海軍と沖縄南方で17~22日に大規模な共同戦術訓練を実施したことです。欧米諸国がロシアのウクライナ侵攻に警戒心を募らせるなか、北朝鮮は今年に入って極超音速ミサイルや弾道ミサイルの発射を繰り返している。中国が台湾への軍事的圧力を強める可能性も指摘される。日米共同訓練は、これらに対して牽制をする意味もあります。

海上自衛隊が米海軍と実施した共同戦術訓練。右端は米原子力空母、エーブラハム・リンカーン

北朝鮮もこうした米国の動きに抗って、わざわざ核ミサイルを日本や韓国などに打ち込むつもりなど、全くないでしょう。

このブログにも述べたように、イランとロシアによる関係強化により、世界の対立軸はこの2カ国に中国を加えた「反米枢軸」と「米国連合」という図式に収れんしつつあります。

とりわけ、米国の制裁に対抗しようとするイランの動きが目立ちます。イランは昨年9月、ライシ師がタジキスタンで開催された「上海協力機構(SCO)」首脳会議に出席、機構への正式加盟が承認されたのですが、これもそうした動きの一環です。

このSCOに北朝鮮は参加していません。ちなみに、SCO参加国は、中華人民共和国・ロシア・カザフスタン・キルギス・タジキスタン・ウズベキスタン・インド・パキスタン・イランの9か国にです。

これらの国々による多国間協力組織、もしくは国家連合です。中国の上海で設立されたために「上海」の名を冠するが、本部(事務局)は北京です。加盟8か国の人口は世界の4割、国内総生産は世界の2割、面積はユーラシア大陸の6割を占める。アメリカ一極集中への対抗軸としての性格が濃いうえ、紛争地帯を域内や隣接地帯に抱えるという地政学的意味合いもあり、国際的に存在感を強めています。

北朝鮮はSCOに加入するどころではないのでしょう。あるいは、SCO加盟国、特に中露イランなどからは、戦力外とみられているのでしょう。実際、北朝鮮にはミサイル発射実験くらいしかできないです。

だからといって、危険であることには変わりはなく、これに対する対処は考えなくてはなりません。特に日本はそうです。

それにしても、上の記事のように米の対北政策行き詰まりなどというこはないです。通常潜水艦の行動は、いずれの国も表に出さないのが普通ですが、上で述べたように、ネバダがグァムに寄港したことを公表し、さらに2つの空母打撃群が日本と共同訓練をしていますが、現状では海外で作戦中の米海軍の原子力空母は計4隻ですが。このうち地中海で中東関連の任務を担当する「ハリー・トルーマン」(CVN75)を除いた残り3隻がインド・太平洋で集結しています。

このように空母3隻だけではなく、強襲揚陸艦「アメリカ」「エセックス」2隻が同じ時期にインド太平洋地域に出現しており、これは異例中の異例です。まさに、ベトナム戦争以降、この地域での最大の空母集結と言っても良いです。そうして、日本の海上自衛隊も現在も米海軍と行動をともにしていると考えられます。

ワスプ型強襲揚陸艦「エセックス」

2017年11月の北朝鮮の核・ミサイル危機当時、米空母3隻が韓半島近隣で訓練しました。このため北朝鮮に対する警告性のメッセージだという解釈が出ていました。

米海軍勢力が2017年当時と異なるのは最新ステルス戦闘機F35を搭載している点です。「カール・ビンソン」「エイブラハム・リンカーン」はF35C(空母搭載型)を、「アメリカ」「エセックス」はF35B(垂直離着陸型)をそれぞれ搭載しています。

ウクライナ情勢に関しては、以前このブログにも述べたように、現在のロシアは一人あたりのGDPが韓国を大幅に下回り、米国を除いたNATOと正面から対峙するのは困難です。それに、ロシア地上軍は今や20数万人の規模であり、ウクライナ全土を掌握することはできません。

米国としては、ウクライナ情勢に関しては、無論米国も関与するつもりでしょうが、それにしても大部分はウクライナに任せいざというときは、NATOにかなりの部分を任せるつもりなのでしょう。

それよりも、中国・北の脅威に対処するとともに、ロシアに対して東側から圧力を加えることによって、ロシアの軍事力を分散させることを狙っているのでしょう。実際、ロシアは戦車や歩兵戦闘車、ロケット弾発射機などの軍事装備を極東の基地から西方へ移動し始めています。米当局者やソーシャルメディアの情報で明らかになっています。

装備はなお移動中ですが、当局者や専門家は、ロシアによる軍備増強の次の段階なのか否かを見極めようとしています。

以上のような事実から、米国が対北政策行き詰まりと見るのは明らかに筋違いです。米軍は、中露北の不穏な動きに対して十分に対応しているといえます。

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2022年1月29日土曜日

ウクライナ大統領、ロシア侵攻めぐる発言の抑制要求 「これはパニック」―【私の論評】ウクライナ問題を複雑化させる右翼武装グループ「ロシア帝国運動」と「アゾフ連隊」(゚д゚)!

ウクライナ大統領、ロシア侵攻めぐる発言の抑制要求 「これはパニック」

ロシア侵攻に関する発言が「パニック」を引き起こしていると訴えるゼレンスキー大統領

ウクライナのゼレンスキー大統領は28日、他国の指導者がロシアとの戦争の可能性を誇張し、「パニック」とウクライナ経済の不安定化を引き起こしていると訴え、発言の抑制を求めた。

外国報道陣との会見で述べた。これによると、ゼレンスキー氏はバイデン米大統領やマクロン仏大統領との電話会談で、ロシアからの脅威は「差し迫った絶え間ない」ものではあるものの、2014年の侵攻以降、ウクライナ国民はこうした脅威と暮らすことを学んできたと説明したという。

ゼレンスキー氏は「彼らは明日にも戦争になると言っている。これはパニックを意味する」と述べた。

ロシアはウクライナ国境に数万人規模の兵力を集結させており、プーチン大統領が侵攻を計画しているとの懸念の声が上がる。ただ、ロシアはウクライナ侵攻を繰り返し否定している。

ロシアの脅威の深刻さは正確には不明なままで、この点をめぐりゼレンスキー氏とバイデン氏の見解が対立しているとの情報がある。

ウクライナ高官がCNNに明かしたところによると、両氏の27日の会談は不調に終わったとされる。バイデン氏がロシアの侵攻はほぼ確実で差し迫っていると警告する一方、ゼレンスキー氏は脅威は「危険だがあいまい」なものにとどまるとの認識を改めて表明したという。

一方、ホワイトハウスはこの説明に異を唱え、匿名の情報筋が「偽情報をリーク」していると指摘。報道官の1人は、バイデン氏はゼレンスキー氏に2月侵攻の「明確な可能性」があると警鐘を鳴らしたと述べた。

【私の論評】ウクライナ問題を複雑化させる右翼武装グループ「ロシア帝国運動」と「アゾフ連隊」(゚д゚)!

このブログでは、ロシアによるウクライナ侵攻の確率はかなり低いことを主張してきました。その論拠としては、まずはロシアのGDPは今や韓国と同程度あり、しかも人口はロシアが1億4千万人、韓国は5千万であり、一人あたりのGDPとなると、韓国を大幅に下回ることです。

これだけGDPが低く、しかも国土は世界一の広さとなると、守備すべき国境線も長大であり、最早ロシアは大きな戦争はできません。米国抜きのNATOともまともに戦えば、負けます。

さらに、もう一つの論拠はロシア地上軍は兵站を鉄道にかなりの部分を頼っており、脆弱であることを考えると、ロシア軍はウクライナ全土に侵攻するのは不可能というものです。よって、侵攻するのは最大でもドネツクなどのいくつかの州であり、それも州全部ではなく、州の骨棘近くまでかもしれません。

なぜなら、兵站を鉄道に頼るロシア地上軍は、国境近くでは、高いパフォーマンスを発揮できるものの、それを超えると急激にパフォーマンスが低下するからです。

ウクライナ南部クリミア半島で18日、高速道路を走るロシア軍の装甲車

さらに、26日には別の論拠もあげました。それは、米国のランド研究所のアナリストによれば、ウクライナによる反乱を抑え込むためには、ウクライナ人1000人に対してロシアの戦闘員20人を要するとしていることです。

そうなると、ロシアは88万6000人の占領軍を必要とする計算になり。明らかに非現実的であり、反乱を鎮圧するのは困難だというものです。

ロシア地上軍の兵力は、2016年現在、約27万人の兵力と戦車を約2,700両(その他保管約17,500両)保有している(国境警備隊や内務省軍などの準軍事組織を含まない)に過ぎません。これでは、ロシア全陸軍を投入したとしてもウクライナを占拠するのは、到底不可能です。

以上は、純粋に軍事的な観点からの分析です。実は、この他にウクライナ問題を複雑にしている問題があります。それは、ウクライナとロシアに存在する過激な右翼団体の存在です。これについては、情報も少ないので、このブログではとりあげてきませんでしたが、最近は少しずつでてきているので、本日はこれについて掲載します。

ウクライナ側の右翼団体は、アゾフ連隊です。ロシア側のそれは、ロシア帝国運動です。

これについては、以下の記事が詳しいですし、よくまとまとまっています。日本にいて、漏れ聞こえてきた情報をまとめると、おおよそこの記事のようになると思います。私の知り得た情報もこれ以上のものはありません。
ウクライナ危機の影の主役――米ロが支援する白人右翼のナワバリ争い
以下に一部をこの記事から引用します。
クリミア危機の後のミンスクII合意でロシアと欧米そしてウクライナは「外国の部隊」の駐留を禁じることを約束した。これは緊張緩和の一環だった。

ところが、その後もロシア系人の多いウクライナ東部ではウクライナからの分離独立とロシア編入を求める動きが活発化しており、その混乱に乗じて2019年段階ですでに50カ国以上から約17,000人の白人系右翼が集まっていたと報告されいる。

彼らは立場上「民間人」ですが、実質的には外国人戦闘員です。とりわけ多いのがロシアから流入した白人系右翼で、その背後にいるのが「ロシア帝国運動」だ。

「ロシア帝国運動」の国内でのデモ

民間人の立場を隠れ蓑に軍事活動を活発化させるロシア帝国運動は、ウクライナでエスカレートする緊張と対立の、いわば影の主役とさえいえる。
そうして、影の主役はウクライナ側にもいるのです。ウクライナの右翼団体アゾフ連隊です。
アゾフ連隊(現在はアゾフ大隊と呼ばれている)は2014年、クリミア危機をきっかけに発足し、民兵としてロシア軍やロシア帝国運動と戦火を交えた経験を持ち、その頃から民間人の虐殺といった戦争犯罪がしばしば指摘されてきた。そのためロシアメディアではネオナチ、ファシストと呼ばれている。 
ロシア軍のクリミア侵攻の時に記念写真をとるアゾフ連隊
戦場の様子などもFacebookなどで発信し、欧米からも右翼活動家をリクルートするアゾフは、欧米での白人テロを誘発させかねない存在として危険視されている。実際、アメリカ議会は2015年、アゾフを「ネオナチの民兵」と位置付け、援助を禁じる法案を可決した。

ところが2018年、国防総省からの圧力で議会は法案を修正し、それを皮切りに欧米はアゾフに軍事援助をしてきた。ジョージワシントン大学研究チームが昨年発表した報告書によると、アゾフやその下部団体のメンバーは米国をはじめ欧米諸国から訓練を受けており、なかにはイギリス王室メンバーも卒業生のサンドハースト王立陸軍士官学校に留学した者までいる。

要するに、欧米はロシアを睨んでアゾフを手駒として利用しようとしているのです。これこそ冷たい国際政治の現実であるが、欧米での右翼過激派の動向を考えれば、危険な賭けであることも確かです。

しかし、それはアゾフには関係ない。むしろ、欧米から承認を取り付けたアゾフは、ウクライナ危機がさらにエスカレートすれば、これまで以上に活動を活発化させることになるだろう。

いわば世界が懸念を募らせるウクライナ危機は、日陰の身にあったコーカソイド系右翼にとっての晴れ舞台ともなり得るのである。

ウクライナ問題で、こうした右翼の影の動きがほとんど報道されなかったのは、 ロシアは武装グループである、「ロシア帝国運動」を支援して都合よく使ってきたからであり、欧米やウクライナもロシアの抵抗勢力として、アゾフ連隊を手駒として用いようとしてきたからでしょう。

こうした右翼団体の活動が、両陣営のコントロールが及ばなくなったときのことも想定して、ロシア軍は国境に大部隊を配置している面は否めないと思います。何しろ、ロシアはウクライナと国境を接しているので、その緊迫感は欧米よりは高いでしょう。

国境を直接接していない欧米側は、あくまでウクライナ政府にコントロールさせようとしているのでしょう。

ロシア側としては、「ロシア帝国運動」がロシアの意向に反した行動をした場合、あるいはしそうな場合は、これを攻撃して阻止するつもりでしょう。

また、アゾフ連隊が越境したり、越境しそうな場合には、これを攻撃して阻止するつもりでしょう。また、アゾフ連隊がウクライナ領内外の「ロシア帝国運動」の拠点を潰したり、潰そうとした場合これを攻撃して、拠点を確保するつもりだと思います。そうして、あわよくば、その拠点を増やそうという腹だと思います。

また、「ロシア帝国運動」や「アゾフ連隊」が不穏な動きをしないように、抑止するという意味もあると考えられます。

以上のようなことを知らない人が、ウクライナ情勢をみると、一触即発でウクライナとロシアがすぐに大戦争を始めてしまう可能性を危惧してしまうのでしょう。

米国、NATO、ウクライナ、ロシアもそれは望んでいないでしょう。ロシアとしては、戦争を望んではいないのでしょうが、ウクライナがNATOに入るのは許容できないのでしょう。

冒頭の記事でのゼレンスキー大統領の発言は、以上のようなことを説明していないので、なんとも歯切れがわるいというか、理解しにくいものになっています。

ウクライナ問題を解決するには、まずは両陣営とも、テロリストでもある右翼武装グループに対する支援を打ち切ることだと思います。その方が良いですし、そもそもテロリストはいつ飼い主の手を噛むかわかったものではないからです。

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2022年1月28日金曜日

首相「最後は俺が決める」 佐渡金山で外務省押し切り―【私の論評】今回のちゃぶ台返しは評価できる!岸田首相はこれからもどんどんちゃぶ台返しを(゚д゚)!

首相「最後は俺が決める」 佐渡金山で外務省押し切り


 岸田文雄首相は「佐渡島の金山」(新潟県)をめぐる韓国との「歴史戦」に挑むにあたり、さまざまな情報の間で揺れ動いた。国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦する覚悟を決めたのは27日だった。「最後は俺が決める」。そう周囲に語る言葉は自身を鼓舞するようでもあった。

 「世界遺産に登録できるように、冷静で丁寧な議論をやろう。米国や韓国をはじめ、関係国にしっかりと説明してくれ」

 首相は28日午後、官邸の首相執務室に林芳正外相や末松信介文部科学相ら関係閣僚を集め、こう指示した。

 首相は、昨年末に佐渡金山が世界遺産の推薦候補に選ばれてから、推薦の可否を慎重に探ってきた。

 外務省からは、韓国が3月に大統領選を控え、佐渡金山を「日本たたき」に利用する懸念が伝えられた。ウクライナ危機を抱える米国は日韓間の対立が深まることを憂慮しているとの見立てもあった。「簡単には通らないな」「今年やるのが良いのかどうか」。そんな慎重な思いが広がっていた。

 外務省などが推薦見送りの調整に動き、自民党重鎮議員らへの根回しに入っていた。これに対し自民党内からは「来年に先送りして登録の可能性が高まるのか」(安倍晋三元首相)、「誤ったメッセージを国際社会に発信することになりかねない」(高市早苗政調会長)などの声が強まった。

 推薦論と見送り論の板挟みになったが、首相は平成27年に長崎市の端島炭坑(通称・軍艦島)を含む「明治日本の産業革命遺産」が登録された際の外相だ。当時は、韓国の主張を一部認めることで登録を実現させたが、韓国はその後も問題を蒸し返しており、軍艦島は今も韓国との歴史戦の最中にある。

 首相は佐渡金山の推薦を見送っても、韓国を相手に登録への道が開ける保証はないとの判断に傾いていった。地元・新潟の強い希望も踏まえた。

「安倍政権のときのような『歴史戦チーム』を復活させたい」

 首相は22日、安倍氏にそう打ち明けた。韓国から疑義が呈された場合、一つ一つ証拠を挙げて反論する態勢を整えるためだった。外務省、文科省を中心に省庁一体で取り組むタスクフォースを早期に発足させるという。「登録に向けて早く議論を始めるべきだ」と語る首相の韓国との「歴史戦」が始まった。(永原慎吾)

【私の論評】今回のちゃぶ台返しは評価できる!岸田首相はこれからもどんどんちゃぶ台返しを(゚д゚)!

この岸田総理の決断本当に良かったと思います。また、ちゃぶ台返しという批判もあるようですが、このようなちゃぶ台返しなら、何度もやっていただきたいです。

このような決断をしなかった場合、韓国側の主張を認めるような流れのなかで推薦を見送るということになり、諸外国から「日本には後ろめたいところがあるのだろう」と疑われることになったはずです。

 韓国は「安倍晋三政権とは違って、岸田文雄政権はイチャモンをつければ折れてくる」と見て、あらゆる分野で対日攻勢をかけてきたでしょう。というよりは、私は文在寅は、岸田政権を値踏みしていたのだと思います。

推薦を見送った場合、慰安婦問題に関する「河野談話」に匹敵する大失政になりかねない状況だったと思います。

ちなみに 「佐渡島の金山」への韓国側のイチャモンは、「強制動員労働の現場だった」というものです。そんな場所を「日本政府は世界遺産に推薦してはならない」と主張しています。

 本当に「強制動員労働の現場」だったのでしょうかか。 朝鮮日報(2022年1月20日)に、佐渡島の強制動員労働の被害者の娘2人(82歳と77歳)の話を掲載しました(下写真)。 2人の父が佐渡島に入ったのは1940年のことでした。


つまり、徴用令が朝鮮人に適用される(44年9月)前のことです。父は生まれたばかりの長女ともに佐渡島へなどの話をしていますが、ここからして疑問です。そうして、勘違いされないように年のため付け加えておくと、徴用=強制労働ではありません。韓国では、両者を同じように語る人もいるようですが、これがそもそも大きな間違いです。

大戦中は、日本で日本人(当時は朝鮮は日本領だったので、当然のことながら、朝鮮人もふくまれる)が徴用されるのはごく普通のことでした。いや、世界中の他の国々でも、戦争で人手が足りなかったので、米英豪でも、フランス、ドイツでもイタリアでも、当時のソ連でも徴用はありました。

世界中の国々で、男性だけではなく、多くの女性も徴用されました。下の写真は、第2次世界大戦中の女性の徴用工の写真です。


戦時徴用され航空機づくりの作業に従事しているアメリカ人女性

そうして、徴用といった場合、給料を支払われました。強制労働ではありません。

ただ、実際に強制労働をさせた国はありました。それは、どこかといえば、ソ連です。いわゆるソ連によるシベリア抑留です。これは、第二次世界大戦の終戦後、武装解除され投降した日本軍捕虜らが、ソビエト連邦(ソ連)によって主にシベリアなどへ労働力として移送隔離され、長期にわたる抑留生活と奴隷的強制労働により多数の人的被害を生じたことに対する、日本側の呼称です。

ソ連によって戦後に抑留された日本人は約57万5千人に上ります。厳寒環境下で満足な食事や休養も与えられず、苛烈な労働を強要させられたことにより、約5万8千人が死亡しました。このうち氏名など個人が特定された数は2019年12月時点で4万1362人です。

朝鮮人もシベリア抑留された事実も2010年に明らかになっています。しかし、韓国は当時のソ連の非道ぶりを批判するのではなく、この事実を日本への攻撃材料として用いています。

このソ連の行為は、武装解除した日本兵(当然のことながら朝鮮人も含めて)の家庭への復帰を保証したポツダム宣言に反するものでした。ロシアのエリツィン大統領は1993年(平成5年)10月に訪日した際、「非人間的な行為」として謝罪の意を表しました。ただし、現在ロシア側は、移送した日本軍将兵は戦闘継続中に合法的に拘束した「捕虜」であり、戦争終結後に不当に留め置いた「抑留者」には該当しないとしています。

少し話が横道にそれたので、朝鮮日報の話に戻ります。記事に書いてあることから推測できるのは、「日本の強制動員労働」とは、妻子も一緒に連行するばすもなく、この記事の二人の父親は、高給目当ての「押しかけ応募工」だった可能性が高いです。 長女は「奴隷のような待遇だった」という話を具体的に述べています。小学生前の見聞を、82歳になっても鮮明に記憶しているとは俄に信じがたいです。 

それよりも、そうした環境にいた父親が、佐渡島で2女と3女をもうけた事実に着目せざるを得ないです。奴隷のような待遇にあったとは思えません。

 戦時の混乱で、朝鮮人を含む労働者に月給が支払われなかった一時期があったことは確かにあります。しかし、その金額が後に供託された証拠が日本には残っています。供託するにあたっては、賃金台帳がなければできませんが、それも残っています。その一例が下の写真です。

当時徴用された朝鮮人の名簿「半島労務者」、「給与係」と書かれ
ている所に注目 これは今でいえば、賃金台帳のようなものです。

「強制動員労働させられた奴隷」が月給をもらっていたというのは理屈にあいません。しかも、 日本に来たために奴隷のようなひどい目に遭ったというのに、戦後も日本に住み続け、現に娘たちも日本にいるのは、日本人の感覚からすると、どうにも不可解すぎます。

 韓国が慰安婦関連資料のユネスコ登録を目指した際、日本は「関係国が合意しない限り申請しない」という制度導入に中心的役割を果たしました。このため、外務省は「佐渡島の金山」の推薦に消極的だと日韓双方のマスコミは伝えています。

 しかし、慰安婦関連資料が登録を目指したのは「世界記憶遺産」(Memory of the World)Mであり、「佐渡島の金山」が登録を目指すのは「世界文化遺産」(World Heritage)です。基本的性格が異なるものです。

 岸田首相周辺からは「日本政府が推薦すると、韓国が日本に対する悪宣伝を展開しかねない」との見方が伝えられています。甘い見方です。 イチャモンを付けられることを恐れて推薦を見送れば、「悪罵の大国」はますます図に乗って、世界中で対日悪宣伝を進めるでしょう。

 今さら官房副長官が「韓国の主張は受け入れられない」と述べたところで、日本が韓国のイチャモンに屈したとの見方を、どうして払拭できるでしょう。

 宮沢喜一首相と河野洋平官房長官(ともに当時)の〝宏池会コンビ〟が1993年、簡単にだまされて(=もしかしたら、だまされたふりをして)犯した大失策を想起しなくてはならないです。「ケンカするのは怖いから嫌だよ」 岸田首相と林外相のコンビは、同じ轍をもう少しで踏むところでした。

今後も、高市政調会長や安倍元総理なども含めて、まともな自民党国会議員は今後も岸田政権の動向に注目して、今回のような事態が起こりそうなれば、国会で追求したり、忠告をしたりして阻止していただきたいです。

そうして、岸田首相はこれからもどんどんちゃぶ台返しをしてください。外務省、財務省、厚生労働省、その他の官僚達をきりきり舞いさせて欲しいものです。

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2022年1月27日木曜日

中国の太平洋進出を許しかねないソロモン諸島の経済問題―【私の論評】中国による本格的な太平洋進出は、日米豪印のインド太平洋戦略を大きく複雑化させることに(゚д゚)!

中国の太平洋進出を許しかねないソロモン諸島の経済問題

岡崎研究所

 11月24日に始まったソロモン諸島の首都ホニアラでの暴動は、豪州など部隊の介入により、一応抑圧された。この暴動は、中国をめぐる地政学的文脈を持つものとして報道された。略奪された財産の多くは中国人所有のものであったし、ほとんどの暴徒の出身州であるマライタ州知事スイダニは、2年前ソガバレ(首相)が外交承認を台湾から中国へ切り替えた時に反対運動をしたという経緯もある。


 ソロモン諸島は人口70万を擁し、太平洋島嶼国の中では大きな国だが、ここ20年余り政治状況は不安定である。その背景には、①中国と台湾・米国の間の競争(2019年に外交承認を中国に切り替えた。マライタ州は台湾を支持)、②経済発展の欠如(若者が職に就けない)と州間の経済格差の不満、③本島のガダルカナル島と最多人口を擁するマライタ島の対立と指導者の対立(首相のソガバレは中国寄り、マライタ州のスイダニは親台湾で両者はパーソナリティーでも競争している)などが複雑に絡んでいるようだ。

 フィナンシャル・タイムズ紙のキャサリン・ヒル中華圏特派員は12月1日付けの同紙解説記事‘Economic woes, not China, are at the heart of Solomon Islands riots’において、暴動の原因は、中国問題よりも経済にあると主張する。豪州ローウィ研究所のジョナサン・プライクも同様の分析を述べ、地政学、経済、島嶼人種間の格差の3要因を指摘の上、「地政学が火花になったが、真の原因は外交よりも深いものだ」、「人口の3分の2を占める30歳未満の多くが経済機会を見つけられないでいる」、「地域間の経済格差が島嶼間にある人種対立に油を注ぐことになっている」と中台の競争が最大の要因ではないと述べている(11月26日付ローウィ研究所サイト)。

 しかし、12月6日にはソガバレに対する不信任案が議会で投票に掛けられ(結果的には否決された)、その過程で野党代表がソガバレは「一つの大国の利益」だけを考えていると批判し、ソガバレはマライタ州は「台湾の代理人」であり、暴徒は政府転覆を謀っていると応酬したことなどを見れば、中台という地政学が大きな不安定要素になっていることは否定できない。

 中央政府の要請を受けた豪州、フィジー、パプアニューギニア、ニュージーランドの軍・警察部隊の介入で平静を取り戻したことは評価される。しかし、ヒルが指摘するように、ソロモン諸島の経済や政治が変わらない限り、再発する可能性がある。日本を含め関係国が夫々の協力を強化するとともに、太平洋の安定のために島嶼国支援を強化していくべきである。

中国も食指を動かす太平洋島嶼地域

 太平洋島嶼地域の戦略上の重要性は一層増大している。恐らく中国は斯かる重要性を十分認識の上、これらの国々との関係強化に努めているのであろう。何れ中国が南シナ海でやっているような軍事化を太平洋の中心で行うような事態になれば、それは危険である。

 太平洋にはグアム、ホノルル、クワゼリンなど米軍の戦略的施設があり、太平洋は米国が圧倒的なプレゼンスを確立している空間である。更に今後の宇宙戦争を有利にするためにも太平洋の空間確保や施設設置は重要と中国が考えているとしても不思議ではない。中国による本格的な太平洋進出は、米国のインド太平洋戦略を大きく複雑化させる。

 12月9~10日に開催された、米国主催の「民主主義サミット」には多くの島嶼国が招請されたことが注目される(フィジー、キリバス、マーシャル諸島、ミクロネシア、ナウル、パラオ、パプアニューギニア、サモア、ソロモン諸島、トンガ、ツバル、バヌアツ)。そこに米国の国防上の強い危機感が表れているようだ。

 日米豪欧州などが改めて太平洋島嶼国、太平洋水域の重要性を認識、確認することが重要である。なおインド洋では米中がセイシェルに注目していると言う。地政学の舞台は益々大陸から大洋のオープン・エリアに拡大している。

【私の論評】中国による本格的な太平洋進出は、日米豪印のインド太平洋戦略を大きく複雑化させることに(゚д゚)!

中国は、様々な面でソロモン諸島と親交を深めつつあります。

外交部の趙立堅報道官は26日の定例記者会見で、中国の援助物資を満載したチャーター機が26日、ソロモン諸島の首都ホニアラに到着したことを明らかにしました。

趙報道官は、「ソロモン諸島側の要請に応じて緊急提供した5万回分の新型コロナワクチン、2万人分の検査キット、6万枚の医療用マスクなどの感染症対策物資と、これより以前に中国がソロモン諸島政府の治安維持と暴動防止を支援するために約束した約15トンの治安用物資が含まれる」と説明しました。また、中国側の治安顧問チームと建設支援プロジェクト専門家チームも同じチャーター機で到着しました。

趙報道官は、「中国側は今後も引き続きソロモン諸島の国内の安定維持、国民の安全と健康の保護、経済発展と国民生活改善のためにできる限りの支援を提供し、両国の良好な関係の恩恵が両国民に行き渡るようにしていく」と表明しました。


中国は、台湾の国際的活動空間を狭めることで、台湾の蔡英文政権に圧力を加えていますが、2019年にはソロモン諸島と、次いでキリバスが台湾との国交断絶を発表し、中国との外交関係の樹立を発表しました。

これには、大きな中国マネーが動いたと言われています。2019年10月24日号の英エコノミスト誌によれば、中国土木・建設会社は、外交関係の変更のために50万ドルの借款・贈与を提供しました。

他にも、中国鉄道会社は、金鉱再生のために8億2500万ドルを貸すと約束しました。中国政府はスポーツ・スタジアムを建設し、台湾への借金120万ドルを肩代わりすると申し入れました。

上の記事では「人口の3分の2を占める30歳未満の多くが経済機会を見つけられないでいる」、「地域間の経済格差が島嶼間にある人種対立に油を注ぐことになっている」と指摘しています。

ソロモン諸島の経済はどうなのか、一人あたりのGDPを以下にあげておきます。

一人あたりのGDPは、2千ドル台ですから、これは日本円になおすと大雑把に2万円台です。いかに貧しいかがわかります。中国の一人あたりのGDPは1万ドル前後ですから、これは中国よりもかなり低いです。

以前このブログで私は、中東欧諸国が中国から離反して、台湾への接近を推し進める理由をあげたことがあります。それを以下に再掲します。
そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。
中東欧諸国は、先進国のように豊かではありませんが、リトアニアを含めほとんどの国々が一人あたりのGDPは、中国を上回っています。そのため中東欧諸国は、中国に取り込まれる危険はなくなったというか、最初から取り込まれる危険はなかったといえると思います。

台湾も一人あたりGDPが中国をはるかに上回っています。だからこそ、台湾人は大陸中国に飲み込まれることを嫌がるという側面は否めません。

しかし、ソロモン諸島は違います。時間をかけ民主主義を値付け、政治と経済の分離を図り、法治国家化をすすめることにより、多数の中間層を生みだし、それらが自由に社会活動をした結果富を生み出した西欧諸国のような発展方式より、短期間に政府主導で経済を成長させた、中国の方式のほうが通用することが考えられます。日米豪などが、対応を間違えば中国に取り込まれてしまう危険は十分にあります。

そうして、ソロモン諸島は人口が70万弱ということも、西欧諸国と違った形で経済成長する可能性を示唆しています。たとえば、シンガポールです。シンガポールは、都市国家であり、人口は568万人です。

シンガポールは一党独裁状態にあります。日本をはじめとする先進国の政治体制とは仕組みが異なりますので、一概には比較できないですが、①政治の強いリーダーシップと、それに伴う迅速な意思決定力があり、②1971年に発表された長期計画(コンセプトプラン)の維持と、見直しが継続的に行われていること、③他政府の事例等を学びながら、良いところと課題を抽出し、シンガポールに合った形に組み換え実行すること。この3つの力がシンガポールの経済発展をもたらしました。

ただ、私自身はシンガポールは都市国家であったからこそ、管理が行き届き、一党独裁であっても優れた経済政策を打ち出すことができ経済発展できたのでしょう。しかし、逆に優れた経済政策が打てなければ、一党独裁であるが故に、経験交替が起こらず、経済が低迷した状況が長く続くことになると思います。

ただ、ある程度以上の人口を抱えた国では、1党独裁であっては経済発展できないです。それは高橋洋一氏が作成した以下のグラフではっきりと示されていると思います。


このグラフをみると、一人当たりのGDPが1万ドル以下までは、民主化と一人あたりのGDPはあまり関係ないのですが、1万ドル超えると、民主化と一人あたりのGDPには明らかに相関関係があることが示されています。相関係数は0.71であり、社会現象としては高い相関を示していると思います。

ソロモン諸島は、当面一党独裁で中国やシンガポールのような発展をすることもできますし、西欧諸国のように民主化をすすめて経済発展をすることもできます。しかも、ソロモン諸島の人口は70万弱です。そうなると、シンガポールのように一党独裁を保ったままでも、かなりの経済発展ができる可能性すらあります。

しかも、中国の援助を受けながら、将来的には中国と貿易をしながら、経済発展するという道もあります。そうなると、ソロモン諸島等が中国に飲み込まれる可能性は、中東欧諸国やASEAN諸国よりもはるかに高いと認識する必要があります。

第2次世界大戦中、この地域は日米の激戦地でしたが、これらの諸島が持つ地政学的価値があるからです。特に、これらの諸島は米国と豪州を結ぶシーレーンの上にあります。日米豪印が進める「自由で開かれたインド太平洋戦略」にとって、中国の進出は、その戦略を進めていく上で、大きな阻害要因になります。これは日米豪間で話し合うべき問題です。

太平洋にはグアム、ホノルル、クワゼリンなど米軍の戦略的施設があり、太平洋は米国が圧倒的なプレゼンスを確立している空間です。中国が今後の宇宙戦争を有利にするためにも太平洋の空間確保や施設設置は重要と考えているとしても不思議ではありません。中国による本格的な太平洋進出は、日米豪印のインド太平洋戦略を大きく複雑化させます。  

中国は、A2AD(anti-access と area-denial)戦略をとっていると言われてきました。これは防衛的戦略とも言えますが、中国の戦略的意図はそういう防衛的な考え方からより積極的な影響圏の拡大になって来ていることを、この南太平洋への進出は示しているといえます。

中国が進出する前に、あらゆる手段を講じて、阻止すべきです。中国はすぐに軍事基地を設けたりはしないかもしれません。南シナ海のように、サラミ戦術を用いてゆっくりと数十年かけてソロモン諸島を傘下に収め、軍事基地を設営するかもしれません。

日米豪印は、南シナ海の失敗を繰り返さないように早めにを手を打つべきです。一度南シナ海のように、既成事実化されてしまうと、それを元に戻すことは難しいです。

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2022年1月26日水曜日

バイデンが持つウクライナ〝泥沼化〟戦略―【私の論評】ウクライナで失敗すれば、それは米国の失敗ではなく「中露・イラン枢軸国」の「米国連合」への勝利となる(゚д゚)!

バイデンが持つウクライナ〝泥沼化〟戦略

 ワシントン・ポスト紙コラムニストのデビッド・イグネイシャスが、1月6日付け同紙に、バイデン政権はウクライナをロシア軍に攻め込まれてもこれに頑強に抵抗するハリネズミのような国にすることを検討しているとの論説(‘Biden wants to turn Ukraine into a porcupine’)を書いている。


 要点を一部抜粋して紹介すると次の通りである。

 「ロシア軍が国境線を越えれば、米国と北大西洋条約機構(NATO)の同盟国は長期の抵抗戦のための兵器と訓練を提供する。米国と同盟国は、訓練とスティンガー防空ミサイルを含む兵器をもってウクライナの反乱を支援する方法を考え始めている。ランド研究所のアナリストによれば、そのような反乱を抑え込むためには、ウクライナ人1000人に対してロシアの戦闘員20人を要する。だとすれば、ロシアは88万6000人の占領軍を必要とする計算になる。明らかに非現実的であり、反乱を鎮圧するのは困難だ」

 「ウクライナの抵抗能力を強めるために、最近になって、米国とNATOは防空、ロジスティックス、通信、その他の枢要な部分の調査のためのチームを派遣した。米国はロシアのサイバー攻撃と電子戦争に対するウクライナの防衛能力の梃入れもしたようだ」

 敵に侵攻を断念させるため抑止を働かせることが望ましいが、米国と欧州にはウクライナの防衛のために欧州を戦場としてロシアと戦う意思がない。そうであれば、ロシアが一旦国境を越えれば、これに抵抗するウクライナの反乱闘争を武器の提供をもって支援し、泥沼に足を取られるロシアに最大のコストを払わせることをもって戦略とせざるを得ないであろう。厳しい経済制裁だけでは抑止として不十分だと思われるので、この戦略を加えて抑止とすることが重要と考えられる。

 筆者のイグネイシャスは政権の内部情報に通じた人物であるので、論説に書かれているウクライナをハリネズミとする戦略が米国とNATOで検討されていることは事実であろう。もし、1月から始まった一連のロシアとの協議を通じて、ロシアがディエスカレーションに関心がなく、協議を侵攻のための口実作りに利用しているに過ぎないことが明らかになる場合には、米国とNATOは防御兵器だけでなく殺傷兵器を含む武器供与に踏み切るべきであろう。ウクライナ軍のための訓練チームを派遣し駐留させることも検討に値しよう。

NATOとロシアの政治的合意も形骸化

 イグネイシャスは上記論説で、侵攻があれば、NATOは兵を前方に動かすことを議論している、とも書いている。その具体的な内容は分からないが、もはや、1997年5月のNATO・ロシア議定書の規制に縛られる必要はない。

 この議定書はNATOの東方への拡大が議論されていた当時、ロシアを慰撫し、ロシアとの関係を維持するために作成された政治的合意(法的拘束力はない)であるが、その中でNATOは旧共産圏諸国への実質的戦闘部隊の常駐を控えるとの自己規制を表明している。それゆえに、NATOは、バルト三国とポーランドへの部隊の派遣はローテーションによることとしてきた。

 しかし、この規制は「現在および予見し得る安全保障環境」と「ロシアが同様の抑制を行使する」ことを前提とすることが議定書に記述されている。ロシアのクリミアの奪取とウクライナ東部への干渉、更には昨年来のウクライナ国境における軍事的威圧に鑑みれば、規制は死文化していると言うべきであろう。

 恐らく、プーチンはバイデンの精神的強固さを試している。バイデンには確固たる対応が求められる。それは単にロシアとの関係における問題ではない。バイデンが軟弱であるとの印象を中国に与えるような行動を取れば、中国が自身の行動に対する米国の出方を推し量る計算に重大な影響を与えるであろう。

【私の論評】ウクライナての失敗は米国の失敗ではなく「中露・イラン枢軸国」の「米国連合」への勝利となる(゚д゚)!

このブログでは、以前からロシアによるウクライナ侵攻の可能性は低いことを掲載してきました。特に、ロシアがウクライナに侵攻して、全土を掌握することは、かなり難しいことを掲載してきました。

その根拠としては、現在のロシアの一人あたりのGDPは、韓国を大幅に下回るろ(ロシア10,126.72 USD、韓国 31,489.12 USD)こと、さらにロシア軍の兵站は主に鉄道に頼っており、非常に脆弱であることをあげました。

韓国とロシアは国としては、GDPは大体同じくらいでロシアの方が若干少ない程度ですが、韓国の人口は5174万5000人であり、ロシアは1.441億です。韓国よりは、ロシアのほうが軍事技術ははるかに進んでおり、大きな軍隊を持っていますが、それにしても韓国程度の経済力で軍事的に何ができるかと考えれば、ロシアのできることは限られているとみるのが普通だと思います。

韓国とロシアのGDPは同じくらいだが、一人あたりGDPではロシアは韓国よりはるかに低い

この2つをもっても、ロシアがウクライナ侵攻して、全土を掌握するのはかなり困難だということがいえると思います。鉄道に兵站を頼っているロシア軍は、鉄道を破壊されてしまえば、補給が絶たれることになります。

そのため、特にロシア陸軍は国境付近では高い能力が発揮できますが、ウクライナ奥地に入り込むに従い、兵站をウクライナ軍や、NATO軍などにより破壊され、弾薬、水食料、燃料などが手に入りにくくなり、進撃をストップせざるをえなくなります。ちなみに、線路の破壊は、手榴弾でもできます。

そのため、ロシアはウクライナ侵攻はできません。できるとすれば、ロシア国境に近いいくつかの州を掌握できるくらでしょう。それも無理かもしれません。いくつかの州のロシア寄りの狭い部分を掌握できるだけかもしれません。それも、いわゆるハイブリット戦を駆使しまくってもその程度でしょう。

上の記事にもあるように、ランド研究所のアナリストによれば、ウクライナによる反乱を抑え込むためには、ウクライナ人1000人に対してロシアの戦闘員20人を要するとしています。これが、どのようにして計算されたものかは知りませんが、これが正しいとすれば、ロシアのウクライナ全土への侵攻は全く不可能ということになります。

上の記事では、ロシアはウクライナを占領するのに、88万6000人の占領軍を必要としますが、ロシア陸軍の兵力は、2016年現在、約27万人の兵力と戦車を約2,700両(その他保管約17,500両)保有している(国境警備隊や内務省軍などの準軍事組織を含まない)に過ぎません。これでは、ロシア全陸軍を投入したとしても到底不可能です。

1945年から1948年にかけて、動員解除によってソ連軍は1130万人から280万人に減らされ、1946年には33に増加していた軍管区が21に減らされました。また、地上軍は982万2000人から244万4000人に人員を減らしました。減らしたといっても、244万ですから、現状のロシアとは全く異なります。

過去40年では最大のツゴル演習場で行われた露中合同軍事演習「ボストーク2018」にて

ロシアというと、かつての超大国ソ連のイメージが強く残っており、軍事力も世界で第二位とされるので、ロシアによるウクライナ侵攻などを簡単に思ってしまう人も多いようですが、少し数字を確認すれば、そうではないことがわかります。

このことが理解できない人たちは、ロシアがウクライナを破壊することと、ロシアがウクライナを占拠することとは、大違いであることを知らないのかもしれません。破壊するだけなら、核ミサイルを数発発射したり、航空機等を用いれば、それで良いです。

しかし、破壊するだけであれば、ほとんど意味を持ちません。ロシアの狙いは、NATO拡大を防ぐことです。破壊してしまえば、NATOに格好の口実を与え、NATOはウクライナに軍隊を進駐させることでしょう。

しかし、占拠するとなると、多数の軍隊を派遣して、これらに兵站を通じて、弾薬・水・食料(一日3000kcal)等を補給し続けなければなりません。これは、経済力がなければなし得ないことです。現状では、NATO諸国と比較すると、ロシアの経済力はかなり見劣りします。現在のロシアでは、米国を除いたNATOにさえまともに対峙できる状況ではないです。

ただ、ロシアは旧ソ連の核と、軍事技術を継承しています。その点では、決して侮れる相手ではありませんが、過大評価はすべきでないです。あくまで、等身大で見るべきと思います。

そうして、上の記事の結論部分の「プーチンはバイデンの精神的強固さを試している。バイデンには確固たる対応が求められる。それは単にロシアとの関係における問題ではない。バイデンが軟弱であるとの印象を中国に与えるような行動を取れば、中国が自身の行動に対する米国の出方を推し量る計算に重大な影響を与えるであろう」も正しいと思います。

プーチンは、バイデンを値踏みしているともいえると思います。どの程度圧力をかけられるか、その限界はどこまでか、またどの程度圧力をかけるとどの程度の譲歩をするかなどを推し量っていることでしょう。これが、プーチンの目的といえるでしょう。

バイデンとしては、ここで下手な譲歩はするべきではありません。昨日も述べたように、もはやウクライナ情勢一つとっても、米国とロシアの対決という単純なものではなくなっているからです。

昨日も述べたように、イランとロシアによる関係強化により、世界の対立軸はこの2カ国に中国を加えた「反米枢軸」と「米国連合」という図式に収れんしつつあるからです。北朝鮮は危険ではありますが、すでに世界の対立軸からは姿を消したとみるべきでしょう。北に接近し、対立軸の中に入ろうとした韓国も姿を消しました。

バイデンがウクライナで下手な譲歩をすれば、バイデンの失敗ではなく「米国連合」の失敗ということになり、「反米枢軸」は「米国連合」の脆弱な点を見つけ出し、その点を突き、自分たちに有利になるように、あらゆる攻勢をしかけてくることになります。

「米国連合」側である、日本やその他の同盟国は、そうした観点からウクライナ情勢を見るべきであり、ウクライナで失敗すれば、それはバイデンの失敗ではなく「中露・イラン枢軸国」の「米国連合」への勝利となるとみるべきです。

上の記事にもあるように、米国とNATOは防御兵器だけでなく殺傷兵器を含む武器供与に踏み切るべきです。ウクライナ軍のための訓練チームを派遣し駐留させることも検討すべきです。

「枢軸側」が勝利を収め続けることになれば、日本にも悪影響がでてくるでしょう。たとえば、一見ウクライナ情勢とは無関係にみえる、「北方領土交渉」もかなり不利になる可能性があります。

逆に、「米国連合」が勝利を収め続け新冷戦に勝利すれば、日本は旧ソ連との冷戦・中国との新冷戦の両方の戦勝国となり、世界における日本の存在感が増し、「北方領土交渉」どころか、多くの面で有利になるのは確実です。2回におよぶ冷戦の勝利により、名実ともに日本は真の独立を勝ち得ることになるでしょう。

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2022年1月25日火曜日

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バイデン政権がウクライナ危機を失地挽回に利用?保守派の論客は「不干渉」訴え 


米国はウクライナ問題に関わるべきではないという意見が、保守派の間から上がり始めた。 

【画像】輸送機に積み込まれるウクライナへの物資(カリフォルニア州・トラビス空軍基地)

ウクライナへの「不干渉」訴える声

FOXニュースの看板キャスターで、保守派の論客として知られるタッカー・カールソン氏は、18日に放送された自身の番組の中でこう言った。
 今回のウクライナ危機の原因を考えてみましょう。なぜロシアが腹を立て、衝突の危機が迫っているのでしょうか?その理由はこうです。米国政府は長年にわたってウクライナをNATO(北大西洋条約機構)に加盟させるよう推し進めてきました。もしメキシコが中国に軍事的に支配されたらと考えてみてください。我々は当然、それを疑いもない脅威と受け取るでしょう。ロシアもNATOによるウクライナの支配をそう見ているのですが、間違っているでしょうか。それに引き換え我々は、ウクライナをNATOに押し込んでもなんら得なことはないのです。 
(FOXニュース「タッカー・カールソン・トゥナイト」1月18日放送)
 この発言は大きな反響を呼び保守・革新双方から批判の声があがったが、カールソン氏は屈せず、21日には自身の番組で“ウクライナ不干渉説”を説いた。
 昨日はロシアとウクライナの戦いという暗い話題について話しました。ワシントンでは超党派のネオコンの同盟が、この衝突を発火させるべく仕掛けてきました。米国の外交問題の当事者たちは数億ドルもの兵器を世界でもっとも不安定なこの地に送り込み、爆発が起きるのを期待して待っているのです。 その期待が叶う日が近いようです。爆発は起きそうですし、それは米国をいとも簡単に紛争の中心に吸い込むことになるでしょう。私は昨夜そう言ったわけです。しかし正直言って、信じられないことです。我々は本当に戦略的に意味のない地域の腐敗した国のために戦わなければならないのでしょうか。我々の国で他にもいろいろな問題を抱えている時にです。正常な人間ならばそんなことをするわけがないでしょう。それなのになぜそうなるのでしょうか。 
(FOXニュース「タッカー・カールソン・トゥナイト」1月21日放送)
カールソン氏は「ネオコン(新保守主義者)」に対抗する「ペイリオコン(伝統的保守主義者)」で、外交的には「孤立主義」の立場をとり、かつてトランプ前大統領にアフガニスタン撤退を助言したと言われる。

バイデン政権の「ワグ・ザ・ドッグ」作戦?

ウクライナ問題に対しては、別の視点から疑問を挟む声もある。
 この(バイデン)行政府は、ウクライナ問題を「ワグ・ザ・ドッグ」に利用しようとしています。
 保守派のコメンテーターのジャック・ポソビエック氏は、19日に公開したポッドキャストでこう言及した。 

「ワグ・ザ・ドッグ」とは、直訳すれば「(尾が)犬を振る」で「本末転倒」を意味するが、かつて同名の映画(邦題『ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ』)が、大統領のスキャンダルを隠すために米国が架空の戦争を始めるという筋書きでヒットした。

 現実でも、ビル・クリントン元大統領が1998年8月にアフガニスタンとスーダンに爆撃を命じたが、それは同じ日に大陪審で行われたインターンの女性との不倫問題の聴聞から世間の関心を逸らすための「ワグ・ザ・ドッグ」だったと言われている。

 ポソビエック氏は、ホワイトハウスのスタッフから得た情報として、行政府はその失地挽回と国民の関心を逸らすためにウクライナとロシアの間の緊張激化を利用していると、そのポッドキャストで語った。 
彼ら(バイデン政権)は武装衝突を利用して米国の若者たち、あなたの息子や娘たちを戦地に送り込もうとしているのです。政権の国内的、対外的な信頼感を取り戻すために。
 そして同氏はポッドキャストでこう警告した。
 これは「ワグ・ザ・ドッグ」に他なりません。そしてウクライナで米国人が殺されるのです。ちょうど(アフガニスタンの)カブールで起きたのと同じように。私の言葉を信じなさい。
 こうした中、バイデン政権の新たな支持率が47%という世論調査の結果が23日伝えられた。 最近の平均支持率より5ポイントほど上昇している。それも、バイデン政権には厳しいFOXニュースの行った調査なので説得力がある。「ワグ・ザ・ドッグ」作戦が功を奏しているのかもしれない。

【私の論評】日米とその同盟国は、悪の3枢軸こそ本当の敵であることを片時も忘れるな(゚д゚)!

バイデンが失地回復を狙っていることについては、すでにこのブログにも掲載しています。昨日も掲載したばかりです。その部分を以下に引用します。
中国への強硬姿勢に対しての米国内での支持は大きいです。「中国に厳しく」という世論はますます強く、対中国政策で弱気な対応を見せれば、それはバイデン氏の民主党政権にとって国民の支持を失いかねない局面に直結することになります。

秋には中間選挙があります。2021年11月の2つの州知事選挙、バージニア州ではバイデン大統領が応援に入ったにもかかわらず民主党候補が破れ、ニュージャージー州でも民主党の現職知事が大苦戦して辛くも逃げ切りました。中間選挙の結果、そして次期大統領選の結果によっては超大国の指導者がまた変わるかもしれません。

2022年の世界も“世界唯一の超大国”と言われる米国を中心に動くでしょう。2月の北京冬季五輪パラリンピックを見据えた外交戦術、さらにロシア軍が国境に展開して緊張が続くウクライナ情勢など外交の課題は山積です。その一方、苦戦している国内での支持率。バイデン政権2年目は、秋の中間選挙に向けて、国内外の多くの緊張と共に歩んでいくことになる。

移民政策でも、アフガン撤退でも明らかに失敗したバイデン、今年の中間選挙のことを考えると、中露に対して弱い姿勢は見せられません。何らかの形で、失地を回復する必要があります。

米国のウクライナ情勢に対する対応のすべてがバイデンの失地回復のためということはないでしょうが、そういう要素があるのは間違いないです。

21日にジュネーブで行われた米露外相会談で、バイデン米政権は、外交による事態打開に道を残しました。ロシアの要求に対して「文書での回答」を約束したことで、プーチン露政権に言質を与えて交渉の幅をせばめるリスクも負ったといえます。ただ、どのような回答をするかによって、失地回復のための交渉なのか、そうでないのかも、ある程度判断できると思います。

一方ウクライナ国内の現状はどうなのか述べておきます。

「ウクライナの子どもは悪い環境で生まれて悪い選択だけを強要される。そしてその人生は良くならない。政治家は権力さえ手にすれば同じ失敗を繰り返すからだ」。 2015年10月に初放送されたウクライナの国民ドラマ『国民のしもべ(Servant of the People)』の第1話に登場するセリフです。

ドラマの中で小市民であり高校の歴史教師である主人公は、国民の生活よりも自分の利益を真っ先に考える政治家に怒り激しい批判を浴びせ、偶然撮影されたこの様子がSNSを通じて人気を呼び、結局大統領になります。

 その役を演じたウォロディミル・ゼレンスキーは4年後、実際にウクライナの大統領になりました。清廉潔白な政治新人であることを前面に出し、決選投票で73.2%という高い得票率を記録しました。

ウクライナ国民は17歳でロシアのコメディテレビショーに出演して知名度を上げてきたコメディアンに希望をかけるほど、前職大統領の腐敗と無能に身震いしていたのでしょう。

しかし12万7000人を要するロシア軍が侵攻の準備を完了した危機の中で、ゼレンスキー大統領はウクライナ国民の期待とは異なる姿を見せています。

19日(現地時間)この日、ウクライナ裁判所が国家反逆容疑を受けているペトロ・ポロシェンコ前大統領に対して検察が請求した拘束令状を棄却して内紛はさらに泥沼化しています。令状実質審査が行われた裁判所の周囲にはポロシェンコ氏の支持者が集まり、警察と小競り合いが起きました。

ポロシェンコ氏の支持者は大統領宮に向かって行進しながらゼレンスキー大統領に対して抗議デモを行いました。 ポロシェンコ氏は2019年大統領選挙でゼレンスキー氏に敗北して再選に失敗した政治的ライバルです。

彼は在任時代だった2014~2015年、ウクライナ東部ドンバス地域の親ロシア分離主義勢力の資金調達を助ける大量石炭販売に関与したという容疑で調査を受けている間、先月ポーランドに出国しましたが17日にウクライナに復帰しました。

キエフのスタジアムで2019年4月19日、ウクライナ大統領選の決選投票を前に
討論するウクライナのポロシェンコ大統領(左)とゼレンスキー氏

帰国当時の第一声は「危機に瀕している祖国を助けるために帰ってきた。ゼレンスキー氏は全く関係がない容疑を私にかけて粛清を行おうとした。彼はロシアの攻撃に対して何をするべきかも分かっていない」でした。

 国が風前の灯火の状態だというのに、前・現職指導者が団結どころか政治的な争いを繰り広げているのです。17日、米国ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は「ウクライナと西側間の会談で疎外されたゼレンスキー大統領が国内問題に重点を置いている」と指摘しました。

19日、ウクライナ首都キエフでゼレンスキー大統領に会ったトニー・ブリンケン米国務長官も「ロシアに対抗するウクライナのリーダーたちが団結した戦線を形成しなければならない」と強調しました。

ウクライナが本当に危機に瀕していれば、前・現大統領とも利害を超えて、協力すると思うのですが、そうではありません。ウクライナ危機はさほど深刻ではないのか、あるいは前・現大統領とも愚かなのかどちらかです。

一方ウクライナと中国の関係をみてみます。中国とウクライナは2013年末、友好協力条約を締結。両国は中国の100億ドル以上の投資計画で合意し、ウクライナ側も「一帯一路」を全面支援しました。

2014年のロシアによるクリミア併合以降、中国がロシアに代わってウクライナ最大の貿易相手国となり、特にウクライナ製兵器の輸出先は中国向けが圧倒的に多いです。

人民解放軍系企業が穀倉地帯のウクライナ東部で、200万ヘクタールの農地を50年間租借し、中国最大規模の海外農場を建設する計画を進めているとの報道もありました。

友好協力条約には、ウクライナが核の脅威に直面した場合、中国が相応の安全保障を提供するとの一節があります。ウクライナを脅かす国はロシアだけであり、ロシアのウクライナ攻撃では中国がウクライナを擁護するとも読めます。

1月初めには、習主席とゼレンスキー大統領が国交樹立30周年の祝電を送り合い、「戦略的パートナー関係の発展」を誓ったばかりでした。中国はロシアのクリミア併合を承認していません。

そうしたウクライナですが、ウクライナ政府は、同国の航空エンジン製造大手「モトール・シーチ」の中国企業による買収を阻止することを決めています。ゼレンスキー大統領は、昨年3月23日、関連する大統領令に署名しました。中国への軍事技術流出を警戒する米国が買収に懸念を示していました。

阻止の背景には、ロシアとの対立で米国の支援を得たいゼレンスキー政権の思惑があります。ウクライナの国家安全保障・国防会議が11日に開かれ、ダニロフ書記が「近い将来、モトール社はウクライナ国民と国家に戻されることが決まった」と説明していました。

1907年設立のモトール社はソ連の軍用ヘリコプターや輸送機のエンジンを製造し、ソ連崩壊後もロシアが大口顧客でした。しかし、2014年のロシアによるウクライナ南部クリミア半島併合で両国関係が悪化。ロシアとの取引を停止した結果、経営難に陥っていました。

こうした中、モトール社買収を狙ったのが中国企業「北京天驕航空産業投資」(スカイリゾン)で、19年末までに株式の過半数を取得したとされます。しかし、米国はウクライナに買収を認めないよう要請。20年8月に行われたゼレンスキー氏との電話会談で、ポンペオ米国務長官(当時)は「モトール社の買収を目指していることを含め、ウクライナにおける中国の悪意ある投資への懸念」を表明していました。

米商務省は昨年1月、スカイリゾンが「外国の軍事技術の獲得を進めていることは米国の安全保障と外交利益に対する重大な脅威」として、米国製品の輸出を制限する軍事企業のリストに加えました。スカイリゾンが中国人民解放軍と深い関係を持つとも指摘しました。

このような状況をみていると、ウクライナが米中露の間で揺れ動いていることがよくわかります。ただ、モトールシーチへの中国の悪意ある投資を阻止したことで、やはり米国寄りであることが見て取れます。

プーチン氏(左) とライシ氏(右)

こうした最中イランの反米・保守強硬派のライシ大統領は19日、去年8月に就任して以降初めてロシアを訪れ、プーチン大統領と会談しました。

冒頭でプーチン大統領は、国際社会の課題に対してイランと緊密に協力していると強調したうえで「核合意をめぐりイランの立場を知ることは、非常に重要だ」と述べました。

これに対し、ライシ大統領は「両国関係は戦略的で永続的なものになるだろう。アメリカの一方的なやり方に、ロシアとともに対抗していく」と述べ、アメリカの制裁に対抗するため経済面などで両国の連携を強化する考えを強調しました。

イランの核合意をめぐる協議では、アメリカが解除する制裁の範囲などをめぐって意見の隔たりが大きく、妥結のめどは立っていません。

ライシ政権としては、伝統的に友好関係にあるロシアとの関係強化を図ることで、核合意の立て直しに向けた協議でアメリカに譲歩を迫るねらいもあるものとみられます。

ライシ師は20日にはロシア下院で演説、「北大西洋条約機構(NATO)がさまざまな口実を使って独立国家に侵入を図っている」と米欧を非難し、ウクライナ侵攻も辞さないとするプーチン氏を援護射撃しました。外国の首脳が下院で演説するのは極めて異例。プーチン氏がライシ大統領を歓迎し、厚遇した証と受け取られています。

イランは核協議が不首尾に終わった場合、不倶戴天の敵であるイスラエルが核施設などに軍事攻撃を仕掛けてくると警戒しており、SU35、S400ともイスラエルに対する強力な抑止力になると見られています。イスラエルはロシアと良好な関係を維持しており、今後、イランへの兵器売却を思いとどまるようロシア側に働きかけることになるでしょう。

首脳会談での具体的な合意については公式的には発表されていないですが、今年で期限切れとなる「経済・安全保障協力協定」の枠組みを更新することで一致したといいます。特に安全保障面では、ロシアがイランに対し100億ドルに上る兵器売却で合意したとされ、イランが強く求めていた最新鋭戦闘機SU35や地対空ミサイルS400も含まれている模様です。

新協定のモデルになったのはイランが昨年3月に中国と締結した戦略協定です。

中国がイランのエネルギー、通信、交通などの分野に総額4000億ドル(約44兆円)を投資するのと引き換えに、イラン原油を安価で安定調達するというのが骨子。制裁で苦しむイランにとっては国益にかなう協定です。イランはロシアからの兵器購入費約100億ドルの支払いについては、中国からの石油代金の未回収分でまかなうのではないかと観測されています。

イランとロシアによる関係強化により、世界の対立軸はこの2カ国に中国を加えた「反米枢軸」と「米国連合」という図式に収れんしつつあります。とりわけ、米国の制裁に対抗しようとするイランの動きが目立ちます。イランは昨年9月、ライシ師がタジキスタンで開催された「上海協力機構(SCO)」首脳会議に出席、機構への正式加盟が承認されたのですが、これもそうした動きの一環です。

SCOは中国とロシアが主導し、8カ国で構成。オブザーバーで参加してきたイランは9番目の加盟国となります。プーチン氏にとってもイランとの関係強化を世界に見せつけることはプラスです。

中露とイランは3カ国枢軸を誇示するようにこのほど、ペルシャ湾の外側のオマーン湾付近で海軍の合同演習を実施しました。

ウクライナ危機も、「3カ国枢軸」と「米国連合」という図式の中で見ていく必要があります。ただ、その中で一番の強敵はやはり中国です。ただ、この悪の3枢軸は互いに協力しあうでしょう。

たとえば、ロシアによるクリミア併合以降、中国がロシアに代わってウクライナ最大の貿易相手となったり、友好協力条約を結びウクライナが核の脅威に直面した場合、中国が相応の安全保障を提供するとしてロシアのウクライナ攻撃では中国がウクライナを擁護するような素振りをみせましたが、今後もこのような行動をとるでしょう。

このようなことが、今後ウクライナ以外でも行われるでしょう。この三者は互いに連携しており、現実には「3カ国枢軸」にとって最も良いように動くことになるでしょう。ロシアは、中国やイランに軍事技術の提供をある程度強化するかもしれません。

バイデンを含む民主党も、無論共和党にとっても選挙、特にこの秋の中間選挙は重要でしょう。ただ、バイデンは「ワグ・ザ・ドッグ」だけで動くのではなく三国枢軸こそが、本当の敵であると見極めるべきです。共和党もそうです。両者とも選挙に勝つために、悪の3枢軸を利することがあってはならないです。


バイデン政権が同盟国との関係を強化しているのはいかに超大国とはいえども米単独で「反米枢軸」と対峙していくのは財政的にも軍事的にも耐え切れなくなり、応分の負担を要求せざるを得ない、というのが実情でしょう。特に日本は対中、対ロシアの最前線に位置し、同政権にとっての日本の存在価値は格段に上がりました。今後も日本が米戦略にさらに組み込まれていくでしょう。

しかし、昨日も述べたように、これは同時に日本の存在感を高めるチャンスでもあるのです。

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