2021年8月29日日曜日

テク企業への統制は中国企業の冬の時代を迎える―【私の論評】今後中国は社会も経済も発展することなく、図体が大きいだけの、アジアの凡庸な全体主義国家になるしかない(゚д゚)!

テク企業への統制は中国企業の冬の時代を迎える

岡崎研究所


 中国では、昨年11月、馬雲(ジャック・マー)のアント・グループの新規株式公開が中国の金融規制当局の指示で中止されて以来、テク企業への統制が進んでいる。中国の2大インターネット企業であるアリババとテンセントは、独占禁止法の規制を受けている。7月初めには、配車サービスの「ディディ」(Didi Global)が、ニューヨークで上場してわずか数日で網にかかった。

 さらに最近、教育関連のテクノロジー業界もターゲットになっている。学校のカリキュラムに載っている科目を教える会社は、海外での上場や外国人投資家の獲得、利益の計上ができないという新しい規制ができた。子供たちを教える事業では、誰も金持ちになってはいけないということだ。

 エコノミスト誌7月31日号の社説は、こうしたテク企業統制を取り上げ、この締め付けは、国内外の企業活動や投資にネガティブな影響を与えうることを論じている。同社説によれば、中国の意向ははっきりしている。中国は、自国の取引所で、自国の権限で、自国の条件で資本を調達することを望んでいる。このことが金融市場に与えるマイナスの影響は、まだまだ続くと思われる。中国自身が最大の敗者となるかもしれない。

 教育産業やITやネットサービス産業が、急速かつ野放図に発展し、経済の安定的発展、あるいは社会の安定のために、規制を強化する必要があったことは否定できない。問題は規制の仕方であり、中国のやり方は国内外の企業活動や投資にネガティブな影響を与えうるという上記エコノミスト社説の指摘は正しい。だからといって中国国内の規制強化、中国式の管理、監督強化の流れが変わるとも思えない。

 それは、習近平政権の体質、発想と深く関わっているからだ。政治、イデオロギーの優先であり、「党の指導」の強調は特に際立っている。彼らは、中国のすべての空間に「党の指導」を行き渡らせることが、中国の成功と共産党の統治の持続を保証すると考えている。なぜなら中国共産党ほど優秀な政党は存在せず、「党の指導」を貫徹することにより、正しいことを確実に成し遂げるというのが建前だからだ。

 この「想定」と現実とが一致するかどうかは別問題だ。種々の議論はあり得るし、現にある。しかし、習近平路線と異なる声を発出できる環境はほぼ存在しなくなった。経済の現場が、持続的経済発展への負荷が大きくなりすぎて悲鳴を上げるまで、習近平は聞く耳を持たないであろう。

 しかも、米中関係の悪化は、現時点をとれば習近平への追い風となっている。あの米国が理不尽にも中国を潰しにかかってきている。習近平主席の下に全人民が一丸となって、この難局を乗り切らなければならない。しかも時間は中国に有利であり、今頑張れば必ず勝てる。これが中国の大衆社会の雰囲気なのだ。

 中国の経済関係部門の人材は育っている。経済のことはよく分かっている。実体経済への損害を最小にするために彼らは現場で全力を尽くすであろう。しかし、管理・監督部門は往々にして政治、イデオロギーに引っ張られる。しかも、当局が管理を強化しようとしている分野は、中国で最も活力のある創造的な民営企業が作りだした産業である。

 そこに手を入れることは、中国経済の活力をそぐ。民営企業は、現在、首を縮めて風向きを図り、どうするか考えている。先進的な民営企業に冬の時代が来たことは間違いない。

【私の論評】今後中国は社会も経済も発展することなく、図体が大きいだけのアジアの凡庸な全体主義国家になるしかない(゚д゚)!

経済に関して、中国共産党が全く理解できていないことがあります。それは、先進国がどうして先進国になりえたかということです。

多くの発展途上国は、中国のように政府主導で、経済発展することができます。実際、過去には経済発展をした発展途上国もありました。ところが、一人あたりの国民の所得が100万円前後になると、それ以上になることはありませんでした。これを中進国の罠(中所得国の罠とも呼ぶ)といいます。

例外もありますが、それは産油国やシンガポール(人口570万人の都市国家)のような例外的な国だけでした。

なぜ、このようなことになるかといえば、それは民主化と、政治と経済の分離、法治国家化が行われないからです。

先進国は、過去において民主化、政治と経済の分離、法治国家化を成し遂げました。そのため、中所得国の罠を超えて、成長し現在に至っています。それ以外の国は、経済発展できず、発展途上国のままです。

これは、高橋洋一氏が作成した下の「民主主義指数(横)と一人当たりのGDP」を見ても明らかです。


民主化がなされれば、当然のことながら、その後政治と経済の分離、法治国家化もなされていくことになります。無論、経済・社会に規制などはなされますが、それは自由な競争等を阻害するときになされるのが筋です。

これによって何が起こるかといえば、多数の中間層が輩出され、それらが自由な社会経済活動を行うようになります。

自由が保証された中間層は、あらゆる階層、あらゆる地域で社会を変革するイノベーションを行うことになります。それによって、社会が改革され、あらゆる不合理、非効率が解消され、結果として経済発展します。そうして、中進国の罠を突破することになるのです。

これらをなし得たから、先進国は先進国になりえたのであり、故なく先進国になったわけではありません。

すべての発展途上国は、先進国のようにどこかで、民主化、経済と政治の分離、法治国家化に踏み切らなければ、中所得国の罠から逃れることはできないのです。

中国もその例外ではありません。いくら政府が音頭をとって、大金を投入してイノベーションをせよと号令をかけたところで、それは点のイノベーション、せいぜい線のイノベーションにしかなりえず、先進国の自由が保証された中間層による、あらゆる階層、あらゆる地域で社会を変革するイノベーション、立体的なイノベーションにはなりえないです。

その結果社会にあらゆる不合理、非効率が解消されずに残ったままで、社会が発展することなく、結果として経済発展もできなくなるのです。そうして、中進国の罠から逃れられなくなるのです。

社会にあらゆる不合理、非効率が残ったままで、経済発展しようとしてもできません。それでも、中国共産党は、デジタル政府、デジタル経済、デジタル社会を含むデジタルエコシステムによるデジタル中国を目指そうとしています。


しかし、いくらデジタル化をすすめたところで、社会にあらゆる不合理、非効率が残ったままでは、経済発展などできません。せいぜい、国民監視の能力を飛躍的に高めることができるだけでしょう。監視能力が高まっただけでは、社会は変革されず、経済発展もできません。

中国共産党は7月1日に結党100年周年を迎えました。国民党との内戦に勝利し、1949年10月1日に中華人民共和国の建国を宣言。以来、単独で統治しています。

1980年代に鄧小平氏の下で始まった中国の経済的奇跡は、かなりの政策的工夫がなされた結果であることを忘れるべきではありません。ソビエト連邦崩壊後のロシアでは、政府が急きょ規制を撤廃して自由市場を導入し、「ショック療法」と呼ばれる手法が取られました。

毛沢東氏の急進的な社会主義が、中国経済をソ連モデル以上に硬直的で脆弱なものにしていたことから、中国にはロシアが取ったような選択肢はありませんでした。

代わりに、鄧小平氏の指導の下、改革派は地元の有力者に自由化を慎重に試す権限を与え、私有財産を徐々に復活させ、農民や企業家が利益を保持できるようにしました。共産党は株や債券の取引所を復活させ、米金融市場を利用して非効率的な省庁の形態だった組織を上場企業に変えました。

彼らはいくつかの大胆な決断をしました。朱鎔基首相(当時)は、1990年代に非効率な政府系企業の従業員を推定で4000万人解雇しました。また中国共産党は、不動産資産を公的管理から私的管理に移行するという歴史上最も大々的な措置に踏み切りました。

中国の経済復興の大部分は勤勉な国民のおかげです。しかし、中国の政治指導者は、たとえ最初に混乱を引き起こしたとしても、賢明に道を切り開いたと評価できます。

このところ、中国共産党の創造力は枯渇の兆しを見せています。自由貿易試験区のような、現在の問題には対処できない古い解決策へのノスタルジーが高まっているようです。習氏は「頭を叩く」ことには長けているかもしれないです。彼の厳しい反腐敗キャンペーンは、低迷していた中国共産党に対する国民の信頼を取り戻すのに大いに役立ちました。しかし、経済的には、習政権は改革を止めたどころか失敗しました。

より生産性の高い資産クラスから資金を奪い、中国の家計を負債で苦しめている不動産への過剰投資を減らすための長期的キャンペーンを例に取ってみます。当局はパンデミックの際、景気刺激のための資金が不動産に流入しないよう努力したのですが、中核都市の住宅価格は再び急上昇しています。

その理由の一つは、中国共産党がパンデミックへの対応として、信用を緩和しつつインフラに支出するという、昔ながらの手法を用いたことでした。その結果、2008年の世界金融危機の後と同様に、資金が住宅に流れ込むことになりました。しかし、政府はこの流れを止めることができず、冷却効果があると思われる不動産税の導入も見送られました。

官僚は、問題のある業界の頭を叩くことを、改革と同義であると考えがちです。しかし、これは必ずしも正しいとは限らず、高くつく誤解である可能性が高いです。例えば、中国共産党が主導するアリババのようなテクノロジー大手に対する脅しは、投資やイノベーションを促進するとは思えません。

アリババは時価総額でアマゾンと肩を並べることを狙っていたがそれはもはや不可能になった

一方、当局は半導体分野での自立化を目指していますが、この問題に何年も資金を投入しているにもかかわらず、ほとんど成功していません。不良債権が2兆ドルに達しようとしている中、中国は無駄なイノベーションモデルに執着している余裕はありません。

例は枚挙にいとまがないです。労働人口の減少による人口動態の危機が加速する一方で、貧富の差が拡大しています。しかし、共産党は「戦狼」的な男性が牛耳っており、女性の出産に関する決定を細かく管理し、フェミニストを逮捕し、労働力の移動を制限することに依然固執しています。

15兆ドルの経済規模を誇る中国の共産党は莫大な資源と国民の支持を得ています。しかし、中国共産党が直面している問題は、鄧小平氏の改革者たちが克服した問題よりもさらに複雑です。共産党がもう1世紀持続したいならば、過去の成功に甘んじることをやめなければならないです。

過去の成功に甘んじることをやめるには、民主化をすすめるしかないのです。しかし、中国共産党にはその気は全くないようですから、今後中国は経済発展することなく、図体が大きいだけの、アジアの凡庸な全体主義国家になるしかないのです。

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