2021年8月25日水曜日

【日本の解き方】漫然と延長された緊急事態宣言 保健所が介在する仕組みに限界、現場の医師の判断優先すべきだ―【私の論評】保健所を単なる情報の結節点にすべきではない(゚д゚)!

【日本の解き方】漫然と延長された緊急事態宣言 保健所が介在する仕組みに限界、現場の医師の判断優先すべきだ

札幌市保健所

 新型コロナウイルス緊急事態宣言の対象が13都府県に拡大され、9月12日まで延長された。

 先日、筆者の知人から興味深い話を聞いた。知人はワクチン職域接種の待機中に新型コロナに感染してしまったという。幸いなことに、症状は重症まで至らなかったが中程度にまでなり、自宅療養を経て今では回復している。感染経路は不明だが、どうも家庭内のようだ。

 症状が出始めたとき、かかりつけ医のところで適切なアドバイスが得られたことが不幸中の幸いだった。

 新型コロナは感染症法上、「新型インフルエンザ等」に位置付けられているが、自治体や医療機関は、結核などの2類相当あるいはそれ以上の厳格な対応をしている。

 感染者と現場の医師だけで、治療などが完結せず、ほぼ全ての場合に保健所が感染者と医師の間に介在しなければならない。筆者の知人の場合、間に入る保健所の職員が気の毒になったという。医師であれば、薬の処方などさまざまな対処方法を相談できるが、保健所の職員はほぼマニュアル対応だけなので、感染者の聞きたいことに答えられないからだ。

 筆者の知人は入院相当になったが、入院先を決めるのは保健所である。しかし、結果として、保健所から入院先がいっぱいで入院できないという連絡しかこなかったようだ。

 この事例は特殊ではなく、筆者がいろいろなところで聞いている典型例だ。要するに、保健所を介在させるので、感染者側にも現場の医療側にも不満が出るのだ。結果として、日本で豊富とされる医療資源を有効に活用できなくなっている。

 これは、一般的な経済理論であるが、間に介在する主体はないほうがいい。介在する主体が正当化できるのはその方が需給のミスマッチを解消できる場合のみだ。

 保健所を介在させるのは感染法上の措置であるが、保健所の能力などから正当化するのは難しい。役所組織が介在すると不効率ばかりが起こるのが常で、まさに筆者の知人の話を聞いていて、よくある話だと思った。

 新型コロナの感染症表の位置付けは、安倍晋三政権当時の1年前から議論があり、5類への変更も議論された。筆者は、情報を一番持っているのは現場だから、現場の医師の判断を優先するシステムを主張してきたが、それも実現せず、ここにきて限界が明らかになっている。

 こうした本質的な問題点を改善せずに、緊急事態宣言が漫然と延長された。

 政府の分科会は、相変わらず、医療体制の強化や活用を考えるのではなく、感染者の抑制ばかりを議論している。それは、新型コロナ問題の抜本的な解決にはつながらず、経済を弱めるばかりで結果として逆効果にもなりかねない。最近は政府の行うことに不信感も強まっている。

 あるテレビドラマで有名になった、今の状況を適切に語る言葉がある。「事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きてるんだ!」 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】保健所を単なる情報の結節点にすべきではない(゚д゚)!

保健所とというと、私自身はあまり良いイメージがありません。悪いイメージというわけではないのですが、極度に遅れているというイメージか頭にこびりついています。

今から10数年前、おそらくは2005年くらいのことだったと思います。20年はたっていないと思います。私はある地方都市(札幌市ではない)の保健所のパンフレットを読んでいて驚いたことがあります。

何に驚いたかというと、それはその保健所の使用しているコンピュータ・システムに関するものでした。細かいことは忘れましたが、何とその保健所ではその当時にはオフコンなるものが使わていたのです。今では、オフコンなる言葉もほとんど死語になっていますから、知らない人も多いと思います。

そうして、記憶補助媒体は何と8インチフロッピーでした。システムの概念図を見ると、ハードディスクもあるようですが、その容量はたかだか数十メガバイトでした。

8インチフロッピを用いた当時のオフコン

そうして、当時はネットワーク化もされていなかったと思います。少なくとも、概念図には外部のネットワークについては記載されていませんでした。内部のネットワーク化もされていなかったと思います。

もし、ネットワークの必要性を感じるようなことがあった場合は、オフコンから資料をプリントアウトし、それをファクスで送信したのだと思います。

1990年代には、私は会社のIT部門に在籍していて、当時パソコンを用いて、40箇所をネットワークで結ぶという仕事をしたばかりでした。当時から、私は次世代はパソコン・ネットワークの時代になると確信していたので、多くの業者がオフコンも提案してきたのですが、結局パソコンを用いたネットワークを構築しました。

当時では、パソコンを用いると後で様々な変更などができること、オープンな環境が構築できることが魅力でした。パソコンはいくつか種類がありましたが、当時のNECのPC9800シリーズを用いました。OSはマイクロソフトのMS-DOSでした。当初は、通信機能を含んでいないOSだったので、通信部分は当時のノベル社製のソフトウェアであるネットウェアを用いました。このネットウェアというソフトは、その後マイクロソフトのwindowsosに通信機能がバンドルされるようになって、衰退しました。

いまではみられななくなったフロッピーディスクで供給さていたPC98用のNetWare

ただ、当時のMS-DOSには通信機能がバンドルされていなかったので、ネットウェイを用いたのです。

以上は、まだ現在のような、商用インターネットが普及していませんでした。当時は、学術用に用いられ、大学の研究室等からのみアクセスできました。それにしても、ケミカル・アブストラクトなどにアクセスして、その便利さには驚嘆しました。

当時はネットウェアの導入実績が少なかったので、業者の方々と互いに勉強をしながら、構築していきました。そうした経験があった私からみると、当時の保険所のシステムには驚愕しました。

そうして、保健所のシステムの実体を知って、いかに地方の保健所などでは、業務のほとんどがルーチン業務で占められているのか、理解できました。

おそらくこのシステム数十年前に、優れたSEが開発したのでしょう。そうして、数十年たっても、保健所の業務はほとんど同じなので、そのまま継承され使われてきたのでしょう。だからこそ、生き残ったのだと思います。

これは、当該地方都市に限らず、全国の他の保健所でも同じようなものだったのだと思いスマ。そのような組織が、いきなりコロナ感染症で、主役に躍り出たというのが現実なのだと思います。あまり備えがなされていないうちに、コロナ感染症情報の最前線の役を担うことになったというのが実態なのでしょう。

テレビをつければ昨年から「今日新たに確認された感染者数は○人でした」とニュースが告げる光景がすっかり日常になった令和ニッポンです。繰り返しますが、令和です。

ご存じでしょうか。新型コロナウイルスと最前線で対峙する医療関係者が、いまなお「昭和」の世界を強いられていることを。キーワードは「紙に手書き」「ファクス」。どういうことかでしょうか?

きっかけは、ある公立病院に勤務する医師だという人がツイッター上に投稿したツイートでした。「もう止めようよ…。手書きの発生届…(中略)コロナも手書きでFAX…。もう止めようよ…。手書きの発生届…。こんなん昭和ですよ…(後略)」

感染症法では、医師は新型コロナなどの患者を確認した場合、すぐに地域の保健所(各都道府県)に「発生届」を出して報告することになっています。問題は、これがお役所が定めた書式の用紙に、医師らが手書きし、保健所などにファクスしなければならない、ということなのです。

このツイートが投稿されるやいなや、1万回以上リツイートされ、「医療崩壊寸前の戦場のような中でこれを書く側の手間(中略)何という無駄」など、医療関係者にとどまらず共感が広がり、IT政策を担当する内閣府の平将明副内閣相も「対処します」と乗り出す事態になったのでした。

このツイートが投稿されるやいなや、1万回以上リツイートされ、「医療崩壊寸前の戦場のような中でこれを書く側の手間(中略)何という無駄」など、医療関係者にとどまらず共感が広がり、IT政策を担当する内閣府の平将明副内閣相も「対処します」と乗り出す事態になったのです。

感染症法を所管する厚生労働省のホームページでは、医師が書き込む「発生届」がアップされ、自由にプリントアウトできるようになっています。各都道府県も厚労省のものを参考に書式を作っており、各地の医師はこれに従い、保健所に届け出る、というわけです。

読者もご覧いただきたいものです。感染者の名前や住所、職業、症状、初診の年月日、診断方法など計19項目を記入するようになっています。よほど字を小さくしないと手書きの記入が難しいのです。日々の診療に加え、コロナ対応で疲弊しきった医師らに細々書かせるのは無駄というほかないです。

しかし、私自身は正直なところ、上で述べた経験があったので、さほど驚きませんでした。

政府が5月に運用を始めた新型コロナウイルス感染症の情報把握システム「HER-SYS」(ハーシス)の普及が遅れている。国、自治体、医療機関が感染者らの情報を共有できるようになるシステムだですが、保健所が設置されている155自治体のうち、昨年7月14日時点で4分の1の39自治体が利用を始めていません。

独自システムを使う東京都、神奈川県、大阪府で切り替えに時間がかかっているためだといわれていました。国内初の感染者が確認された1月16日から半年たっても、全国的な情報集約システムが確立していないというのが実情でした。

上の高橋洋一氏の記事では、「保健所を介在させるので、感染者側にも現場の医療側にも不満が出るのだ。結果として、日本で豊富とされる医療資源を有効に活用できなくなっている」としていますが、まさにそのような状況が発生しているのだと思います。

ドラッカー氏は現在の組織について以下のように語っています。
知識労働のための組織は、今後ますます専門家によって構成されることになる。彼ら専門家は、自らの専門領域については、組織内の誰よりも詳しくなければならない。(『ポスト資本主義社会』)

いまや先進国では、あらゆる組織が、専門家によって構成される知識組織です。

そのため昔と違って、ほとんどの上司が、自分の部下の仕事を知らない。そもそも今日の上司には、部下と同じ仕事をした経験がない。彼らが若かった頃には、なかったような仕事ばかりである。したがって彼らのうち、部下たる専門家の貢献を評価できるだけの知識を持つ者もいない。

 いかなる知識といえども、他の知識よりも上位にあるということはないのです。知識の位置づけは、それぞれの知識に特有の優位性ではなく、共通の任務に対する貢献度によって規定されるのです。

かくして現代の組織は、知識の専門家によるフラットな組織である。じつにそれは、同等の者、同僚、僚友による組織である。

 そしてそのフラットな組織において、彼らの全員が、まさに日常の仕事として、生産手段としての自らの頭脳を用い、組織の命運にかかわる判断と決定を連日行なうのです。

つまり、全員が責任ある意思決定者なのです。

もっともドラッカーは、自分よりも詳しい者が同じ組織にいるようでは、専門家とはいえないと言っています。

「現代の組織は、ボスと部下の組織ではない。僚友によるチームである」(『ポスト資本主義社会』)

専門家によるフラットな組織には、いつでも専門家が最新の情報が得られるようにシステムを構築しなければなりません。このあたりのことを、官僚などは未だに理解していないのでしょう。 

そもそも、保健所がコロナ情報の中心になるという考え方自体が時代遅れです。本来このような情報は、クラウド上に蓄積できるようにし、医師もしくはその代理人がこのクラウドにアクセスして、コロナ患者のデータを入力できるようにすべきでした。

保健所や、コロナ関連の官僚は、情報の結節点そのものになるのではなく、このクラウドにアクセスして、その時々で分析を行い、様々な政策を立案するという方式にすべきでした。その仲でも、特に各地に位置する保健所は、その地域に即したきめ細かい提言などができるはずです。

このようなシステムは、現在ではさほど資金を投下しなくてもできますし、素早く構築できます。

それにしても、末端の保健所の職員は大変です。未だにファクスや電話を用いて、患者に連絡したり、病院の状況を把握したりするのですから、いくら人手があっても足りないと思います。

まさに、上の高橋洋一氏の記事の結論部分にもあるように、「事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きてるんだ!」 のです。

テレビドラマ「踊る走査線」名セリフ「事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きてるんだ!」

無論、保健所が全く関与するなととまではいいませんが、少なくともコロナ感染情報の単なる結節点になるのではなく、情報を分析して、はやめに各方面に実施すべきことを伝えるなどの行動をメインとすべきです。

そうしてこそ、様々な資源の配分が効率よくできるようになるはすです。保健所の所員たちの、能力が活かされることになります。さらに、現場の医師の判断を優先するシステムにすれば、医師の能力もさらに生かされます。そのためにも、コロナ感染情報のクラウドによる一元管理をすすめるべきです。

それに、コロナ感染者数減だけを目指す感染対策はもうやめにすべきです。コロナ感染症を撲滅するにはこれから長い時間がかかります。であれば、感染者数が多少増えたにしても、重傷者、死者を増やさず、社会の機能を損なうことない強靭な社会を目指すべきです。

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