2021年8月2日月曜日

資本市場での米中分離が見えてきたディディへの規制―【私の論評】民主化しなければ古代からの愚行の繰り返しになることに、中国共産党は気づいていない(゚д゚)!

資本市場での米中分離が見えてきたディディへの規制

岡崎研究所



 7月10日付の英Economist誌が「中国の共産主義者がテク企業を統制下に置く。滴々(ディディ)への攻撃は共産党が統制のためにどれだけ高いコストを払うかを示す」との社説を掲載し、配車会社への介入問題を論じている。

 中国の配車会社であるディディ・グローバルは、最近、ニューヨーク証券市場に上場した。ディディは、中国のスーパースター企業で、Uberよりも多い4億9300万人の利用者、1500万人の運転手を有し、ブラジルとメキシコに支店を持つ。ディディは、6月30日、世界中の投資家からの資金を集め、企業価値を680億ドルにする株式上場を行った。

 しかし、上場直後の7月4日、中国共産党の規制当局は、ディディが個人データの収集規則に違反したとして、中国でのアプリ店からディディを締め出した。これはディディの株式価格を20%下げる結果をもたらした。

 中国の規制当局がテク企業の海外、特に米証券市場への上場を問題であると考え、規制を強めようとしている。今度問題になっている滴々(ディディ)は、米国のUberと同じような配車事業を行っているが、ここにはソフトバンクやトヨタが出資している。中国の規制当局の規制強化を受け、滴々の株価はニューヨークで20%以上減価したが、ソフトバンクやトヨタはかなりの損失を出したと思われる。

 今度の中国の規制強化の動きがどうなるのか、やっていることがよくわからないので評価しがたい面があるが、中国テク企業が海外で上場して資金調達することには今後大きなブレーキがかかり、海外の投資家も中国テク企業への投資に慎重になることは確実であると思われる。中国へのお金の流れが減ることが中国経済にどういう影響を与えるかと言えば、中国の経済成長率を押し上げる方向に働くとは思われない。しかし、その影響をいま測定することは難かしい。

 中国がなぜこういうことをしているのかといえば、中国共産党が全般的に統制強化を進めており、テク企業の株式上場にもその統制を及ぼそうとしているからだろう。

 米国でも中国企業をたとえばニューヨーク証券市場から締め出すべしとの議論が投資家保護の観点から提起されている。中国が別の視点から海外証券市場での中国企業の上場を抑えるということになれば、資本市場での中国と米国のいわゆるディカプリングは深まっていくとみておいてよいのではないかと思われる。

 中国の経済は少子高齢化の人口問題、水問題などの環境問題など多くの問題を抱えており、共産党の権力強化以上にすべきことがあるのではないかと思えるが、1992年の鄧小平の南巡講話のような政策転換は、今の習近平には望めないと考えている。鄧小平の改革開放は西側との協調路線でもあったが、習近平にはそれを望めないだろう。


【私の論評】民主化しなければ古代からの愚行の繰り返しになることに、中国共産党は気づいていない(゚д゚)!

6月25日、国務院新聞弁公室が『中国新型政党制度』と題した白書を出版しました。共産党が領導し、“民主派”政党が参政する政党制度(中国語で「共産党領導、多党合作制」)がいかに中国に根付き、発展に寄与してきたかを強調しています。

同白書も認めているように、中国で8つある民主派政党は、日本や欧米を含めた民主主義国家で言うところの「野党」ではありません。現体制が続く限り、民主選挙を通じた政権交代も制度的にあり得ません。

『中国新型政党制度』の表紙

中国の政治体制において、民主派政党とは、共産党一党支配下において、共産党のイデオロギー、政策、戦略、方針などを擁護、支持することを大前提に、政策提言を行っていく組織に過ぎません。

そして、習総書記に権力が一極集中し、共産党が絶対的領導を強調する現状において、体制内部においても、異なる意見や提言をする状況は考えられません。「右に倣(なら)え」の姿勢で、習近平総書記は偉大だ、共産党万歳を徹底するしかないのが昨今の空気感です。

中国共産党自身は、あらゆる公式な場面、談話、声明などで、中国が実践してきたのは「民主政治」だと断固主張してきました。

しかし、実際のところ、習近平総書記をはじめとした最高意思決定機関である中央政治局の常務委員(計7人)や委員(計25人)、約3,000人から成る「国会議員」に当たる全国人民代表、そのトップにいる栗戦書(リー・ジャンシュー)全国人民代表大会常務委員会委員長兼政治局常務委員(序列3位)を含め、彼らは人民(有権者)によって直接的、あるいは間接的に選ばれたわけではありません。

中国の官僚機構システムの中で、出身、経歴、派閥、業績などあらゆる指標を根拠に選抜されてきたのです。

たとえば、永田町ではなく、霞が関の省庁において、あるいは大手企業において、激しい競争、人事をめぐる駆け引きやつぶし合いの中で、新入社員からトップまで駆け上がってきたイメージです。習近平、李克強(リー・カーチャン)両指導者とて例外ではありません。

その意味では、中国共産党には、日本を含めた先進国でいうところの政治家は、一人もいません。中国共産党は、すべて官僚の集まりです。

そうして、政策や人事はブラックボックスの中で決定されます。体制に近い、政策に影響力のある知識人や企業家が何らかの役割を果たすことはありますが、基本的に、党指導部の政策決定に、民間人や一般人が関与することはありません。

メディアは原則党・政府の統制、管轄下にあり、政策を監視、批判する機能は持ち合わせていません。基本的に、党・政府の政策を代弁、擁護する宣伝機関です。

政治の現場で共産党の政権運営を監視監督する「野党」も存在しません。デモ集会は厳しく制限、抑圧されているため、人民が直接、間接的に権力者に異を唱える場面もありません。

 そんな中、人々が自らの意見を発表できる唯一のプラットフォームが、インターネット上だと言われてきました。すでにユーザー数は10億を超えています。

確かにそういう側面はあるでしょう。しかし、習近平政権下において、ネット上の議論や言論も、24時間体制で厳格に監視され、例えば、中国版ツイッターと言われる「ウェイボー(微博)」上で、当局が嫌がるつぶやきをしたユーザーには、公安派出所から直接電話がいく、突如訪問されるといった形で、すぐさまツイートを削除するように、さもなければアカウントを永久に凍結するといった措置が取られています。

中国では自らの「お上」として君臨する為政者を自らの意思で選べないのです。政策や世論の形成過程に関与する権利もありません。自らの考えや要望を訴える空間もありまん。

にもかかわらず、なぜ14億の中国人民は、そんな現状を甘んじて受け入れているのでしょうか? 

それは、経済成長ということができるかもしれません。14億の人民が非民主的に選ばれ、治める共産党を受け入れているのは、経済が成長しているから、生活が物質的に豊かに、便利になっているからです。沿岸部と内陸部、都市部と農村部のいわゆる格差が問題視されることがありますが、これらすべての地域において、人々は、他者、他地域との比較ではなく、自らの昔と比べて豊かになっているのです。

ただ、仮にこのような前提が崩れたらどうなるでしょうか。

たとえば、物価の高騰に収入が追い付かなくなったら? 子供の教育にかかる費用が高すぎて、生活が困窮したら? あるいは、中国と諸外国との関係が悪化し、経済的に孤立する中、取引が停止、経営が苦しくなり、多くの倒産企業、失業者が出たら?

それでも、人々は非民主的に君臨、運営する共産党政権を“甘んじて”受け入れるでしょうか?とてもそうは、思えません。人民が経済成長の果実を直接的に享受できなくなれば、それこそ、捨て身の精神で、暴動や造反を引き起こす場面も出てくるでしょう。盛衰を繰り返した中国の歴史が証明しているとおりです。

非民主的な中国共産党による国家運営が持続的に実行され、そのために、経済が持続的に発展していくことができるでしょうか。

そもそも、経済が永遠に成長し続けることはあり得ません。中国共産党は、人々の生活が永遠に経済の恩恵を受け続けることはないという合理的判断・予測に立脚し、経済成長以外で、人々の納得感を増大させる分野を増やしておくべきです。

景気が悪くなり、企業経営が悪化したり、中国と諸外国との関係が悪化しても、それを解決するための政策議論や世論形成に、自らも参加しているのだからという当事者意識(オーナーシップ)が普及すれば、人民の共産党政権への許容度、包容力も増していくでしょう。

さらに、経済を持続的に成長させるための措置を取る、対策を打つことです。この意味で、鍵を握るのがイノベーション(中国語で「創新」)です。習近平政権は「創新」国家戦略の観点から重視し、これからは、投資、資源、労働力といった要素ではなく、イノベーションに立脚した成長戦略を掲げ、経済を持続的に発展させるべきだと主張しています。

しかしながら、習近平政権になって、政治の経済に対する介入、政府の市場に対する干渉が横行し、マーケットの主体となる民間のプレーヤーが伸び伸びと活動できていないのが気になります。製造業、サービス業、研究開発、インターネット企業、フィンテック、文化芸術などを含めてです。習近平一強政治の弊害だといえます。

この意味で、中国経済がイノベーションに立脚する形で、持続的に成長していけるか否かは、共産党が「創新」を国家戦略の次元で重視しつつも、必要以上に干渉、介入しないこと、あらゆる規制緩和や市場主導を通じて、タレントぞろいの中国の人材に伸び伸びと、生き生きと、市場の論理で、日々の仕事に打ち込んでもらうことに懸かっているように思います。

このブログでも以前何度か述べたように、こうしたことをするために、必要不可欠なのは、民主化であり、政治と経済の分離であり、法治国家化です。

これができてはじめて、中間層が星の数ほど大量に輩出し、この中間層がありとあらゆる地域と階層において、社会変革へと結びつくイノベーションを行う素地ができます。そもそも、イノベーションとは社会を変革するものです。社会変革に結びつかないイノベーションは単なる思いつきか、珍奇な発明か、暇つぶしでしかありません。

しかし、中国共産党は、創新をそのようには、捉えていないようです。単なる技術革新、経済的に豊かになるための道具としてしかみていないようです。

この状況では、たとえ中国共産党が、音頭をとって、掛け声をかけ、それだけではなく、莫大な投資をして、技術革新をしても、それは点か、良くてもせいぜい、線のイノベーションにしかなりえず、社会に様々な不合理・非合理が残ったままとなり、結果として経済発展もできません。

やはり、民主化、政治と経済の分離、法治国家化が行わて、はじめて大量の中間層が生まれ、それらが、ありとあらゆる地域と階層でイノベーションを行うことにより、はじめて社会全体が豊かになりその結果として、経済成長するのです。

そうでなければ、結局ほとんどすべての発展途上国がそうであったように、社会は豊かになることもなく、国民一人当たりの年収が100万円(1000ドル)を超えられないという「中所得国の罠」から抜け出せなくなるのです。


先進国がなぜ「中所得国の罠」から抜け出せて、豊かになれたかといえは、それは先に述べたように、政府が国内において、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を推進して、多数の中間層を生み出すようにして、それらが、自由に社会経済活動を行えるように担保したために、社会革新が爆発的に起こり、結果として豊かになり先進国となったのです。

多くの発展途上国が現在の中国共産党のように、政府主導でイノベーションを推進して、経済的に豊かになろうとしましたが、ことごとく国民一人当たりの所得が100万円に迫るまでは、経済発展しましたが、その後は行き詰まり、結局「中所得国の罠」から抜け出ることができず、発展途上国のままです。経済的に豊かになりたいと思えば、まず民主化することは絶対に避けられないのです。

中国共産党と政府は先月6日、中国企業の海外市場での上場に関する規制を強化する方針を発表した。企業が保有するデータの国境を越えた取り扱いに関する管理を厳格化し、既に海外で上場している企業に対する監督についても強めます。

中国IT大手に対する締め付けを増している習近平政権が、米中対立を背景に米上場の中国企業への統制を強める狙いがあるとみられます。活発だった中国企業の海外上場の動きに影響を与えるのは必至で、米中対立の新たな火種になる可能性もあります。

中国国営新華社通信によると、共産党中央弁公庁と国務院(政府)弁公庁が連名で「法に照らして証券の違法行為を厳重に取り締まる」という文書を公表。この中で「資本市場の秩序を守る」として、証券犯罪の厳格な取り締まりを行う方針などを示しています。

目立つのは、海外上場に関する規制強化の方針です。国境を越えたデータの移動や機密情報の管理に関わる法制度の整備のほか、中国の証券法の域外適用を可能とする仕組みを確立するとしています。

中国当局は7月に入り、上の記事にもあるように、中国配車サービス最大手の滴滴出行(ディディ)などネット企業3社に対し、国家安全上の理由で相次ぎ審査に着手。3社ともニューヨーク証券取引所など米市場に上場したばかりでした。習政権は「国家安全」を守ることを重視しており、新たは規制強化方針もその一環とみられます。

海外に上場しようとする中国企業は、中国内では自由な活動ができないので、海外に活路を見出そうとしたのでしょうが、反民主、政治と経済の不可分の結びつきを志向し、法治国家ではない中国は、これを放置しておけば、自らの統治の正当性が崩れるとみたのでしょうか。

しかし、先程も述べたように、中国共産党の統治の正当性は「経済発展」です。しかし、海外に進出しようとしている企業にまで、規制を加える中国共産党のやり方では、今後「経済発展」は望めず、共産党はいずれ統治の正当性を失うことになるでしょう。

新しい体制ができたとしても、新体制が、民主化、政治と経済の分離、法治国家化をすすめなければ、結局同じ間違いを繰り返すことになるでしょう。

過去に大帝国を築き、やがて衰退して、また先の帝国とは全く無関係の、大帝国を築き、それもまた衰退してまた次の大帝国を築くということを中国は延々と巨大なスケールで繰り返してきました。

どこかで踏ん切りをつけて、民主化を進めない限り、中国は今後もそれを繰り返すことになるかもしれません。そうして、現在ような異質な体制を繰り返せば、市場においても、その他あらゆる面で米中分離が進むことになるでしょう。世界で孤立することになるでしょう。

【関連記事】

中国のサイバー攻撃に対抗措置! 米政権の“キーパーソン3人”に注目 対中制裁「香港ドルペッグ制」停止の可能性―【私の論評】バイデンの胸先三寸で決まる、香港ドルペッグ制の停止(゚д゚)!

日米VS中国で応酬! WHOのコロナ起源追加調査巡り…米は賛同、中国「科学に反する」と反発 北京五輪に影響も―【私の論評】北京五輪、先進国は経済的・外交的ボイコットではなく、選手団を送り込まない本格的なボイコットをすべき(゚д゚)!

中国で「今年最悪の洪水」…北京では「休校令」・航空便は「500便の欠航」―【私の論評】食料を海外から円滑に調達できなくなった中国に、危機迫る(゚д゚)!

世界で拡大するウイグル問題 太陽光パネルの価格も上昇中…影響を過小評価すべきでない ―【私の論評】日米に先行され、稼ぎ頭を失いそうな中国の小型原発開発(゚д゚)!

“台湾有事は「存立危機事態」にあたる可能性” 麻生副総理―【私の論評】麻生氏の発言には、軍事的にも裏付けがある(゚д゚)!

0 件のコメント:

特報 米国司法省 IR疑惑で500ドットコムと前CEOを起訴 どうなる岩屋外務大臣―【私の論評】岩屋外務大臣の賄賂疑惑が日本に与える影響と重要性が増した企業の自立したリスク管理

特報 米国司法省 IR疑惑で500ドットコムと前CEOを起訴 どうなる岩屋外務大臣 渡邉哲也(作家・経済評論家) まとめ 米国司法省は500ドットコムと元CEOを起訴し、両者が有罪答弁を行い司法取引を結んだ。 日本側では5名が資金を受け取ったが、立件されたのは秋本司被告のみで、他...