2021年11月26日金曜日

中国軍改革で「統合作戦」態勢整う 防衛研報告―【私の論評】台湾に侵攻できない中国軍に、統合作戦は遂行できない(゚д゚)!

中国軍改革で「統合作戦」態勢整う 防衛研報告


 防衛省のシンクタンク、防衛研究所は26日、中国の安全保障に関する動向を分析した年次報告書「中国安全保障レポート2022」を公表した。中国は習近平国家主席が主導した軍改革により、伝統的な陸海空の軍隊に加え、宇宙やサイバーなどの新たな領域を加えた「一体化統合作戦」が遂行できる軍体制を整えたと指摘した。ただ、残された課題も多く、今後の動向に注視が必要と訴えた。

 報告書のテーマは「人民解放軍の統合作戦能力がどこまで深化したのか」。2012年に発足した習体制のもとで断行した建国以来最大規模の軍改革について、一体化統合作戦が実現可能な態勢を整えたと評価した。

 習体制の軍改革では、全土を5つの「戦区」に再編し、陸海空各部隊の指揮権限を付与している。レポートでは、中央と各戦区にそれぞれ作戦指揮システムを導入し、台湾周辺や南シナ海での訓練を活発化させていると分析した。

 一方、レポートでは指揮系統や人材育成制度など細部にわたり分析を加え、課題もあぶり出した。陸海空司令部と戦区の間の権限調整や、各戦区に配置された政治委員の指揮権限などが残されており、「その克服には時間がかかると目される」とした。

 また、中国軍が各レベルで人材育成に力を入れているとも指摘した。各戦区の政治委員が作戦指揮や科学技術も学び、統合作戦の指揮を可能にすることで、共産党体制との両立を模索しているとした。

【私の論評】台湾に侵攻できない中国軍に、統合作戦は遂行できない(゚д゚)!

このレポートは以下のリンクからご覧いただけます。
http://www.nids.mod.go.jp/publication/chinareport/pdf/china_report_JP_web_2021_A01.pdf
今年のレポートは、1991年の湾岸戦争以降に中国が本格的に研究を始め、2000年代半ばから提唱した「統合作戦構想」に焦点を当てています。

統合作戦そのものは、中国独自のものではなく、同じ軍隊における異なる軍種・部隊間が連携して行う軍事作戦であり、第二次世界大戦の頃から重要性が認識されるようになってきました。その必要性としては軍事技術特に航空機、電子戦、ミサイルの発達によって作戦地域における前線、後方、地上、空中などに限定されることなく戦力が複雑に交錯することになったことが挙げられます。

また、集団安全保障体制の重要性が高まり、軍隊内の意思疎通を万全にして連合作戦を実施する必要性が出てきたことがあります。また軍隊に対する政治統制の希求、徹底した合理化、効率性と経済性の追求なども理由として大きいです。

中国の「統合作戦構想」とは、簡単に言ってしまうと、陸海空の「伝統的安全保障領域」に、宇宙やサイバー電磁波、認知領域など「新型安全保障領域」を連動させるものです。レポートでは、習近平指導部が建国以来最大の軍改革を断行し、習氏の統制力・指揮権限が強化され、統合化を重視した軍上層部の人事が行われたことなどを挙げ、「構想を実現し得る体制を整備した」と記述しています。

また中国軍が台湾周辺や南シナ海での訓練を活発化させていることについて、「一連の訓練を通じて、各軍種間で情報共有体制と指揮体制システムの相互接続などを強化している」と指摘しました。

さらに人材育成面では、軍の学校やオンライン教育によって統合作戦人材の育成に力を入れていることを紹介する一方、課題として、軍と民間との給与面の差が大きく、高度な科学技術知識に優れた人材の確保、維持、育成が難しいことなどを挙げています。

著者の防衛研究所・杉浦康之主席研究官は、今年のテーマについて「中国の軍改革は2020年に完成することになっていた。一体、中国はどこまで能力を強化できたのか、この時点で評価するのは重要と考えた」と語りました。

「統合作戦構想」自体は、いずれの軍隊でも考えておくべきことであり、いずれ将来の戦争はこのような作戦に基づき実行されるようになるのは間違いないでしょう。しかし、それと現状の差異はまだまだあります。

昨日も述べたように、中国には台湾に侵攻できるだけの力はありません。それについては、機能はある記事を引用しましたが、本日は再度別の角度から述べてみます。

中国が台湾を武力統一しようとする場合、最終的には上陸侵攻し、台湾軍を撃破して占領する必要があります。来援する米軍とも戦わなければならないです。

国防関係の展示会で展示された対艦ミサイル「雄風3」とキャニスターの模型(手前)=2015年8月、台北市内

その場合、中国は100万人規模の陸上兵力を発進させる必要があります。なぜなら台湾軍の突出した対艦戦闘能力を前に、上陸部隊の半分ほどが海の藻くずとなる可能性があるからです。

それに、昨日も述べたように、日米の潜水艦隊が台湾に加勢すると、上陸部隊のさらに半分が海の藻屑となります。これでは、台湾に到達する前に、全部隊が撃破されることになります。

日米が加勢しないとしても、100万人規模の陸上兵力を投入するためだけにでも5000万トンほどの海上輸送能力が必要となります。これは中国が持つ全船舶6000万トンに近い数字です。

台湾有事を気楽に語っている軍事評論家も忘れているようですが、旧ソ連軍の1個自動車化狙撃師団(定員1万3000人、車両3000両、戦車200両)と1週間分の弾薬、燃料、食料を船積みする場合、30万~50万トンの船腹量が必要だとされています。

旧ソ連軍の演習

船舶輸送は重量トンではなく容積トンで計算するからです。それをもとに概算すると、どんなに詰め込んでも、3000万トンの船舶が必要になります。

この海上輸送の計算式は、世界に共通するもので、中国も例外ではありません。むろん、来援する米軍機を加えると、中国側には上陸作戦に不可欠な台湾海峡上空の航空優勢を確保する能力もありません。

それだけではありません。軍事力が近代化するほど、それを支える軍事インフラが不可欠です、中国側にはデータ中継用の衛星や偵察衛星が決定的に不足しています。

その不足したインフラも、昨日も述べたように米軍が台湾に加勢することになれば、米国は真っ先に攻撃型原潜を派遣し、それをもって中国軍の偵察衛星の地上施設やレーダーなどを破壊するでしょう。そうなると、中国は目を塞がれた状態で戦わざるを得ないです。

しばしば脅威が喧伝される空母キラーと呼ばれる対艦弾道ミサイルも、移動する空母を追跡して直撃する能力には至っていません。さらに、これが機能したにしても、海に潜航する米国の攻撃型原潜を沈めることはできません。そういう中国側が、サイバー攻撃を仕掛けたにしても、上陸作戦の成功がおぼつかないのは明らかです。

それよりも何よりも、昨日も掲載したように、初戦において米攻撃型原潜が3隻くらいででも、台湾を包囲すれば、最初から中国の艦艇も、航空機も台湾に近づくことすらできません。近づけば破壊されます。こうすれば、米軍も台湾軍もほとんど犠牲が出ません。中国軍が無駄に犠牲を増やすだけになります。

中国軍が素早く行動して、運良く台湾に上陸部隊を揚陸できたとしても、その後に米攻撃型原潜に台湾を包囲されてしまえば、上陸部隊に対して補給ができなくなりお手上げになります。

そんなことよりも、注意すべきなのは、台湾国内で親中国的な世論が生まれ、内乱のような混乱に乗じて、傀儡(かいらい)政権が登場することでしょう。中国によるあらゆる手段を駆使するハイブリッド戦こそ警戒すべきです。

米軍トップのミリー統合参謀本部議長

6月17日、米軍トップのミリー統合参謀本部議長は上院で「中国が台湾への侵攻能力を備えるには長い時間がかかり、その意図もない」と述べ、3月の米国のデービッドソン・インド太平洋軍司令官(当時)の「中国の台湾への脅威は6年ほどで現実のものとなる」との発言を否定しましたが、上記のようなリアリズムに基づいていることを知っておくべきです。

先に述べたように、「統合作戦構想」自体は、中国に限らずいずれの国も持っていてしかるべきであり、そこに向けて努力すべきものだとは思います。

しかし、台湾に侵攻できない中国軍が、組織改編等したからといって、すぐに精緻な統合作戦ができるというわけではありません。その前にすべきことが多くあります。その道のりはまだまだ遠いとみるべきでしょう。

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