2021年11月30日火曜日

米潜水艦母艦「フランク・ケーブル」 佐世保に入港 原潜運用に変化か―【私の論評】米軍は攻撃型原潜を台湾近海、南シナ海に常時潜航させている(゚д゚)!

米潜水艦母艦「フランク・ケーブル」 佐世保に入港 原潜運用に変化か

佐世保港に入った「フランク・ケーブル」

 米海軍の潜水艦母艦「フランク・ケーブル」が29日、佐世保港(長崎県)へ入っているのが確認された。同艦は全長198メートル、2万2826トン。潜水艦への補給や乗組員の休養、修理の支援などを担う。

 海上自衛隊呉地方総監部によると、同艦はグアムを母港としている。休養や物資の補給を目的に23日、海自呉基地に寄港し、数日間滞在したという。

 佐世保市によると、原子力潜水艦は2020年3月を最後に佐世保に入港していない。米軍の動向を追うリムピース編集委員の篠崎正人氏は「原潜の運用が変わってきている」と指摘。従来は原潜が港に入って補給や休養をしていたが、潜水艦母艦を用い洋上で補給や休養を取るようになってきているという。

 理由について篠崎氏は「新型コロナウイルス感染防止や、(原潜の)姿を見せないことで海洋進出を強める中国に圧力をかけるためではないか」と分析している。

【私の論評】米軍は空母なみの破壊力を持つ攻撃型原潜を台湾近海、南シナ海に常時潜航させている(゚д゚)!

潜水艦母艦とは別名「潜水母艦」ともいい、旧日本海軍も保有していました。おもな任務は、潜水艦に洋上で魚雷や燃料、食料などの消耗品を補充し、潜水艦乗員の休養や交代要員を用意し、さらには整備や応急修理なども行う、いわば洋上の潜水艦基地ともいえる艦です。

また第2次世界大戦ごろまでの潜水艦は通信能力が低かったため、当時は遠洋において通信連絡の肩代わりを担うことも想定されていました。

このように様々な任務を有するため、「母艦」と称されます。補給のみを担う艦は「母艦」ではなく、単なる「補給艦」や「支援艦」と呼ばれます。

海上自衛隊が過去に運用していたなかに潜水艦救難母艦「ちよだ」という艦がありましたが、こちらは「救難」という言葉が入っているように、潜水艦の救難任務も担っていました。

「ちよだ」は船体中央に搭載した深海救難艇(DSRV)での救難任務以外に、潜水艦への補給用として魚雷やミサイル、燃料、食料、真水を搭載でき、さらに潜水艦への電力供給や潜水艦乗組員80名分(約1隻分)の休養設備を有していました。

潜水艦母艦としての機能も有していたからこそ、「ちよだ」は潜水艦救難母艦と呼ばれたのですが、海上自衛隊の方針で、その後建造された同種の艦は、母艦機能をなくし、より救難機能を充実させた内容になったことから、潜水艦救難母艦ではなく「潜水艦救難艦」と名称を改めています。

一方、米海軍は、攻撃型原子力潜水艦(攻撃原潜)と戦略ミサイル搭載原子力潜水艦(戦略ミサイル原潜)を合計で75隻、保有しているためもあり、補給艦的存在の「潜水艦母艦」と、救難艦の「潜水艦救難艦」をあえて別々に保有しています。

航空母艦(空母)や掃海母艦の「母艦」という語句にも同じ意味があります。前者は航空機の補給や整備、パイロットの交代休養、後者は掃海艇の補給や整備、掃海作業員の交代休養にあたるからこそ、「母艦」と付いています。

ちなみに民間船舶である捕鯨母船の「母船」も同じ意味あいです。こちらは捕鯨船団の指揮や補給、乗組員の各種支援にあたる船です。

上の記事では、リムピース編集委員の篠崎正人氏は「原潜の運用が変わってきている」と指摘していますが、それは当然です。

すでにこのブログも過去に何度か掲載したように、昨年の5月より、米軍は潜水艦を少なくと7隻を派遣していることを公表しています。詳細は以下のリンクから御覧ください。

この記事は昨年11月のものであり、筆者は古森義久氏です。
アメリカ海軍の潜水艦が中国への抑止誇示
古森義久氏

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
 この潜水艦群の動きは太平洋艦隊司令部のあるハワイ州ホノルルの新聞が同司令部からの非公式な通告を受けて5月下旬に報道した。アメリカ海軍は通常は潜水艦の動向を具体的には明らかにしていない。だが今回は太平洋艦隊所属の潜水艦の少なくとも7隻が西太平洋に出動中であることが同司令部から明らかにされた。

 その任務は「自由で開かれたインド太平洋」構想に沿っての「有事対応作戦」とされている。この構想の主眼は中国のインド太平洋での軍事膨張を抑えることだとされるため、今回の潜水艦出動も中国が覇権を目指す南シナ海や東シナ海での展開が主目的とみられる。 
 同報道によると、太平洋艦隊所属でグアム島基地を拠点とする攻撃型潜水艦(SSN)4隻をはじめ、サンディエゴ基地、ハワイ基地を拠点とする戦略ミサイル原子力潜水艦(SSBN)など少なくとも合計7隻の潜水艦が5月下旬の時点で西太平洋に展開して、臨戦態勢の航海や訓練を実施している。
この記事にもあるように、米軍は新型コロナウイルスの感染がアメリカ海軍にまで及び、空母「セオドア・ルーズベルト」の乗組員の半数ほどの感染だけでなく、他の艦艇にも同様の感染が広がることから起きるアメリカ海軍全体の危機対応能力への懐疑を抑えることも、目的に潜水艦を派遣しているという側面はあると思います。

ただし、米軍が攻撃型潜水艦が抑止力となると考えているのも事実でしょう。何しろ、米攻撃型原潜は、トマホークを百発以上も発射できるような化け物のような代物で、かつてトランプ大統領か「海の下に沈む空母」と形容したくらい、攻撃能力が高いです。

コロナウイルス感染だけが潜水艦派遣の原因であれば、すでに潜水艦を引き上げでも良いはずですが、そうではないことがわかっています。

それは、米攻撃型原潜「コネティカット」が10月2日に、何かの物体に衝突したことが公表されたことで明らかになりました。

米軍は昨年5月あたりから、西太平洋で潜水艦の動きを活発化させており、それは今も継続されているものとみられます。

そうして、共産党のサイトでは、昨年は米原潜の日本への寄港が半減して、82年以降最少であったことがレポートされています。以下にそのサイトに掲載されていたグラフを掲載します。


確かに、寄港回数は減っています。西太平洋に潜水艦を派遣すれば、日本への寄港回数が増えるというのが普通でしょうが、そうではなく、寄港回数が減っているのです。

攻撃型原潜も原潜であることには変わりありません、原潜なら2年間潜航することはできますし、大規模整備も2年間隔くらいで十分です。しかし乗組員中が持ちません。やはり数ヶ月単位(通常は3ヶ月)で帰港してクルーを交代する必要があります。

クルーはいずれかの港に寄港すると別のチームと交代して静養します。当然、この時に食糧などの補給と整備を行います。

だから、日本への寄港回数が減るというのは不思議です。これは、辻褄が合いません。ただ、一つこの齟齬を解く鍵は、やはり台湾情勢や南シナ海情勢に関係しているのだと思います。

米国はすでにこのブログで掲載して説明したように、緊迫している台湾近海に攻撃型原潜を複数隻派遣している可能性が大です。さらに、南シナ海にも要所要所に原潜を潜ませていることでしょう。

メンテナンス中のシーウルフ級攻撃型原潜(コネティカットと同級) 巨大さがよくわかる

台湾近海や南シナ海に常時潜水艦を配置するということになれば、さすがに米国でも、潜水艦の数には限りがあり、交代のために時間をかけて日本等に寄港するのはやめて潜水母艦で潜水艦に対する物資補給と乗組員休息に切り替え効率的に運用するように切り替えたのでしょう。

ただ、潜水母艦での原潜の交代要員の休憩も長い期間は続けられません。さらに潜水母艦自体の物資補給や乗組員の休息も必要です。そのため、攻撃型原潜や潜水母艦も日本等にも寄港するのでしょうが、それにしても特に原潜の寄港回数は減っていると解釈できます。

このブログでは、何度か述べましたが、米軍は中国に比較すると圧倒的にASW(対潜水艦戦闘力)が優れており、米攻撃原潜が、台湾近海、南シナ海に常時潜んでいれば、中国側は迂闊なことはできません。これは、かなりの抑止力になります。

潜水艦の行動は通常公表しないのが普通です。しかし、リムピースや共産党など、我々と目的は違いますが、上記のような情報を提供するので、様々な軍事的な分析をするのに役立ちます。特に、数値情報は役立ちます。

そういう意味では、朝日新聞でさえも役立つことがあります。結局どのような情報であれ、使う人次第であり、良くも悪くもなるということだと思います。

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