まとめ
- スペースXの大型宇宙船「スターシップ」が無人で打ち上げられ、軌道投入に成功したが、地球への帰還時に追跡不能になった。
- これは過去2回の失敗から大きな進展であり、イーロン・マスクの月・火星有人探査の目標に前進した。
- スターシップは将来的に宇宙飛行士や大量の貨物、衛星の運搬が期待される史上最大の宇宙船である。
テキサス州ボカチカの発射台に置かれたスターシップSN9 |
スペースXは宇宙船が分解した可能性が高いと説明した。今回の試験飛行は過去2回の失敗から大きな進展があり、イーロン・マスク氏の人類を月や火星に送る目標に一歩近づいた。
スターシップはサターンV型ロケットより大型で、将来的には宇宙飛行士や大量の貨物、大型衛星の運搬が期待されている。
【私の論評】スペースX『スターシップ』の成功が変える宇宙開発の地政学
まとめ
- ISSへの補給と乗組員交代は主に、ロシア、米国、日本、欧州などが協力して行っている。
- 各国の貢献度合いは、補給輸送ではロシアが約60%と主力、有人輸送ではロシアが約90%を占める。
- スターシップが成功すれば、その大型輸送能力からロシアが外される可能性が高い。
- スターシップの成功は、米国の宇宙開発主導権の確立や、宇宙資源をめぐる覇権争い激化などの地政学的影響がある。
- 中露が経済的に疲弊し宇宙開発が制約を受ける可能性があり、日本は米国や民間企業との連携、アジア諸国との協力し、独自の有人宇宙活動推進し、新たな領域にも挑戦していくべき。
- ロシアのソユーズ宇宙船による有人運用 ソユーズ宇宙船は長年にわたり、ISS乗組員の食料や水、その他の補給品を運んでいます。また、新しい乗組員を送り込み、済んだ乗組員を地球に帰還させる役割も担っています。
- 米国の民間宇宙船による貨物・人員輸送 スペースX社のドラゴン宇宙船やボーイング社のスターライナーなどが、無人で補給物資を運びISS に積み込む役割を担っています。有人運用も可能です。
- 日本の基幹ロケット H-IIBによる補給機「こうのとり」 日本の無人補給機「こうのとり」は、H-IIBロケットで打ち上げられ、ISSに物資を運んでいます。
- ヨーロッパ、ロシア等の各国の補給機も運用 欧州宇宙機関のATV、ロシアのプログレス補給船なども、ISSへの補給に使われています。
【補給輸送】
- ロシア:約60% ロシアのプログレス補給船が長年にわたり主力を担ってきました。
- 米国:約25% スペースXのドラゴン宇宙船などで対応。
- 日本:約10% 無人補給機「こうのとり」による貢献です。
- その他(欧州など):約5%
ISSに接近するプログレスMS-11 |
- ロシア:約90% ソユーズ宇宙船が事実上の主力でした。
- 米国:約10% 最近、スペースXのクルードラゴンやボーイングのスターライナーでの輸送が開始されています。
スペースXの超大型宇宙船スターシップが実用化されれば、ISS輸送における米国の存在感は一気に高まる可能性があります。
その理由は主に以下の点が挙げられます。
- スターシップは大型で輸送能力が非常に高いです。スターシップは現行の宇宙船を大幅に上回る大型の輸送能力を持つと見られています。大量の物資や多人数の乗組員を効率的に運べるため、ロシアのソユーズ船に代わる主要な輸送手段となり得ます。
- 米国は自国技術への依存を高めたい 長年ロシア技術に依存してきた米国は、自国の民間宇宙企業の技術で自立したい考えがあります。スターシップの成功でその可能性が高まります。
- ロシアとの関係悪化 ロシアによるウクライナ侵攻で、西側諸国との対立が深刻化しています。米国がロシア技術への依存を排し、スターシップを活用する流れになる可能性は高いでしょう。
ただし、ISSは国際プロジェクトであり、ロシアの技術的貢献も大きいため、完全に外された場合の影響も考慮が必要です。段階的な移行が現実的かもしれません。
米国の宇宙開発における主導権の確立。スターシップは史上最大となる大型宇宙船であり、月や火星への有人探査を可能にします。これにより、米国は宇宙開発における主導的地位を確立できます。ロシアや中国などに比べ、圧倒的な優位性を持つことになります。
民間宇宙企業の台頭による新たな覇権争い。スペースXのような民間宇宙企業が宇宙開発の主役になることで、国家間の覇権争いに加え、企業間の覇権争いが新たな地政学的課題となります。宇宙資源の確保などを巡り、企業間競争が熾烈化する可能性があります。
宇宙資源の獲得競争の加速。巨大なスターシップの輸送能力により、月や小惑星などの宇宙資源の獲得競争が一層活発化すると予想されます。希少資源を確保できる国や企業が有利になるため、資源を巡る地政学的緊張が高まる 可能性があります。
新たな宇宙協力の可能性。一方で、スターシップのような革新的な宇宙輸送システムは、国際協力を促進する契機ともなり得ます。共同で宇宙資源を開発・活用する新たな国際的枠組みが生まれる可能性があります。
つまり、スターシップの成功は、宇宙をめぐる覇権争いを激化させる側面と、新たな国際協調を生む側面の両方があり得ます。覇権争いは、西側諸国と中露の争いとなり、国際協調は、西側諸国内と中露内で行われることになるでしょう。
宇宙を巡る覇権争い AI生成画像 |
ただし、中国とロシアが経済的に疲弊し、宇宙開発を十分に続けられなくなる可能性は十分にあり得ます。
中国の場合、過去数年間の零コロナ政策による経済的打撃が大きく、さらに米国との対立による技術移転規制などの影響で、宇宙開発計画への投資が制約される可能性があります。
また、ロシアに関してはウクライナ侵攻による西側からの経済制裁の打撃が甚大です。武器開発など安全保障分野への予算は確保されるでしょうが、民生分野としての宇宙開発費が大幅に削減されかねません。
両国とも経済が低迷し、宇宙開発が後回しになれば、高額な有人宇宙計画は延期や中止を余儀なくされる恐れがあります。その場合、民間企業主導の米国などに遅れをとる可能性が高くなります。
一方で、宇宙開発は国家的威信の象徴でもあるため、一定の投資は継続されるかもしれません。しかし、技術力や財政力の面で、中露は米国などに比べ劣位に立たされる公算が大きくなるでしょう。
つまり、経済的疲弊次第では、中露の宇宙開発が大きく制約を受ける事態に陥る可能性は否定できません。
火星の日本の開発拠点 AI生成画像 |
このような状況下で、日本は以下のような方策を検討すべきでしょう。
1. 米国との連携強化
米国との技術協力関係を一層強化し、スペースXなどの民間宇宙企業との連携も深めていく。米国の宇宙開発の躍進に乗り遅れないよう努める。
2. 国際宇宙ステーションへのコミットの継続
ISSへの「こうのとり」無人補給機の運用を維持し、日本の技術的貢献度を高めていく。有人活動への参加も視野に入れる。
3. 自前の有人宇宙活動への投資
将来的に独自の有人宇宙活動を可能とするため、技術基盤の整備と必要な予算の確保に努める。有人宇宙船の開発も選択肢の一つ。
4. アジア諸国との宇宙協力の模索
中国が孤立する中、インド、韓国、台湾、ASEANなどのアジア諸国と宇宙分野での協力関係を深める。
5. 民間企業の育成と技術移転
日本の優れた宇宙技術を民間企業に移転し、新興の宇宙ベンチャー企業の成長を後押しする。
6. 月・火星探査への参画
NASA主導の有人月面探査計画などに協力し、日本の技術力を発揮する機会を得る。
日本は、日銀や財務省の過去の誤謬で、経済的制約はありますが、それを克服し、機会を捉えて着実に宇宙開発を進めることが重要です。同盟国や民間との連携を深め、日本の得意分野を生かしつつ、新たな領域にも挑戦していくべきです。
【関連記事】
0 件のコメント:
コメントを投稿