2023年1月19日木曜日

ロシア、ウクライナ侵攻の短期決着になぜ失敗?アメリカが明かした「宇宙」の攻防―【私の論評】陸だけでなく、宇宙・海洋の戦いでも、ますますズタボロになるロシアの現実(゚д゚)!

ロシア、ウクライナ侵攻の短期決着になぜ失敗?アメリカが明かした「宇宙」の攻防

ロシアはすで宇宙大国ではない AI画像

ロシアによるウクライナ侵攻が始まって1年近くが経つ。海外の研究機関によれば、ロシアは当初侵攻から10日で決着をつける計画だった。なぜ、決着をつけられなかったのか。宇宙での「戦い」に敗れ去ったからだ。(牧野愛博)

ロシア軍は2022年2月、ウクライナに対し、南北と東から侵攻した。部隊の一つは首都キーウ(キエフ)を目指し、特殊部隊がキーウに侵入したという報道もあった。当時、ロシア軍が投入した兵力は最大19万人とされ、日本の約1.6倍あるウクライナ全土を占領するためには少なすぎるという評価もあった。

ところが、ウクライナは緒戦の1カ月で、ロシア軍の戦車400両以上、軍用機100機以上を破壊した。ロシアは2022年4月初めまでにキーウ周辺から完全撤退し、作戦の練り直しを迫られた。

英王立防衛安全保障研究所(RUSI)は2022年11月末、ロシアはウクライナを占領するまでに必要な作戦期間を10日間と見積もっていたとする報告書を発表した。11月に『ウクライナ戦争の教訓と日本の安全保障』(東信堂)を共著で出版した松村五郎元陸将は次のように語る。

「ロシアは、2014年のクリミア併合と同じようなハイブリッド戦争で、激しい戦闘を避けながらウクライナの属国化を達成しようと考えたと思います。作戦を2、3日から長くとも1週間で完了するつもりだったと思います。戦力を分散して多数の正面から侵攻したこと、ベラルーシからキーウに突進した部隊の戦闘準備が不十分だったことは、軍事力をもっぱら威嚇のために使用するという狙いだったからでしょう」

ロシアは2022年1月、ウクライナの政府機関や金融機関などにサイバー攻撃をかけた。侵攻前日の2月23日になると、電磁波に攻撃をかけてウクライナの衛星通信網を無力化し、軍の通信や民間のインターネットを使えないようにした。

特殊工作要員をキーウ市内などに潜入させ、彼らは侵攻が始まった後にやってくるロシア軍空挺部隊が襲撃すべきポイントをマーキングして回った。

なぜ、ロシアのハイブリッド戦争が敗れ去ったのか。米国の政府や国防産業関係者、専門家らは2022年5月、ワシントンを訪れた自民党訪米団に対し、ウクライナが勝利した背景の一端を明らかにした。

米国など北大西洋条約機構(NATO)加盟国は、2014年にロシアがクリミア半島を強制併合した事実を深刻に受け止めていた。特に、ロシアがその際に使ったハイブリッド戦争に注目。米国はロシアによるウクライナ侵攻の兆候が出始めた2021年夏ごろから、特殊部隊要員をウクライナに派遣し、ハイブリッド戦争への対応策について教えていた。そのなかで、力を入れた戦術の一つが「宇宙での戦い」だったという。

米国は湾岸戦争(1990年)やイラク戦争(2003年)などで宇宙を独占して勝利した。湾岸戦争で、衛星情報などを使ってイラクの軍事目標を正確に破壊していく米国の戦いは、「初めての宇宙戦争」と言われた。

この動きをみていたのが、中国やロシアだった。中国は2007年1月、自国の衛星を標的にした衛星破壊実験を実施した。ロシアも2021年11月に同様の実験を行っている。元自衛隊幹部は「米国は2007年の中国による衛星破壊実験をみて、宇宙が自分の独占物ではないことに気がついた」と語る。米国は2019年12月、米国の6番目の軍種として宇宙軍を創設した。

米国は、ロシアがハイブリッド戦争を挑み、ウクライナのインターネットや衛星通信などを無力化するだろうと予測した。

日本など世界では、ウクライナの通信インフラを支えたのが、米スペースX社の衛星インターネットサービス「スターリンク」だとされている。米国が仲介し、ウクライナの通信網のバックアップとしてスターリンクのサービスを提供したのは事実で、ウクライナ侵攻は「初めての民間参入宇宙戦争」とも呼ばれる。

しかし、米側は自民党訪米団に対して「スターリンクはあくまでも一部に過ぎない」と説明したという。自民党関係者は「米国の動きをカムフラージュするため、わざとスターリンクの存在を内外メディアにアピールしたようだ」と語る。

米国の国防産業はすでに十数年前、各国が宇宙で使用している様々なシステムをリンクするシステムの開発に成功していた。ウクライナの衛星通信網を米国のシステムに連結することはもちろん、ドローン(無人航空機)などの地上偵察網や戦車、戦闘機などの攻撃システムにも連動させた。

米側の説明によれば、ロシア軍は確かに、ウクライナの衛星通信網の無力化に成功した。ところが、ウクライナ軍は米国の通信網に完全にリンクしていた。インターネットの利用はおろか、接近してくるロシア軍の戦車や装甲車、ドローンなども映像を通して、リアルタイムで把握できたという。ウクライナ軍は、米軍から教えられたロシア軍戦車などの急所を正確に攻撃し、次々に撃破していったという。

政府が12月16日に閣議決定した新たな国家安全保障戦略は、「宇宙の安全保障の分野での対応能力を強化する」とうたった。国家防衛戦略は「日米共同による宇宙・サイバー・電磁波を含む領域横断作戦を円滑に実施するための協力及び相互運用性を高めるための取組を一層深化させる」と宣言した。

今月11日に開かれた日米安全保障協議委員会(2+2)も共同発表で「閣僚は、とりわけ陸、海、空、宇宙、サイバー、電磁波領域及びその他の領域を統合した領 域横断的な能力の強化が死活的に重要であることを強調した」とうたった。現実は「宇宙を制する者はすべてを制する」という時代になっている。

自民党関係者の一人は「これからは、陸海空だけでなく、宇宙もサイバーも電磁波も一体化しないと戦争には勝てない。宇宙はそのカギになる場所だ」と指摘した上で、こう危機感をあらわにした。「もう、米国の51番目の州にならない限り、この国を守れない」

朝日新聞社

【私の論評】陸だけでなく、宇宙・海洋の戦いでも、ますますズタボロになるロシアの現実(゚д゚)!

ロシアに関しては、宇宙大国というイメージがありますが、宇宙大国であれば、ウクライナ軍は米国の通信網に完全にリンクしていたとしても、何とでもできたはずです。にもかかわらず、どうしてそうはならかったのでしょうか。

それは簡単に理解できます。ロシアは、すでにかなり以前から宇宙大国ではないのです。

2019年にプーチン大統領は演説で、ロシアの宇宙開発について「衛星通信システムなどは、品質、信頼性などで競合相手より劣る」「機器や電子部品の大部分をグレードアップする必要がある」などと指摘しました。

ロシアの宇宙開発は、技術力でも、資金力でも、もはや欧米や中国にかなわないのです。その存在感はどんどん薄くなっていました。であれば恫喝で世界を攪乱し、自らの存在感をアピールし、重要な国だと思わせようと、ロシアのロケットで打ち上げる予定だった欧州の衛星を事実上拒否したり、ロシアも含めて15カ国が参加する国際宇宙ステーション(ISS)での任務放棄やISS落下をほのめかしたり、ロシアは宇宙の国際交渉で、事あるごとにこういう「正攻法」ではないやり方をしてきました。

しかし、このやり方が成功するには、「ロシアがいなくなると、宇宙開発が止まってしまう」という状況でなければなりませんが、もうそのようなことはないのです。

モスクワの全ロシア博覧センターに展示されているロケット「ボストーク」

ロシアの宇宙開発の力が落ちたのは、1991年のソ連崩壊後です。予算が激減し、新たな技術開発ができず、技術者や技術が海外へ流出しました。

米国は安全保障上の懸念から、米欧日などの西側諸国で進めていた宇宙ステーションに、ロシアを参加させ流出を抑えようとしました。ロシアもそれを受け入れました。

ところが、ロシア国内に残った技術者の士気は薄れ、質も劣化していきました。2000年代のロシアで、ロケットや衛星の単純なミスや技術不備による失敗が続いたのも、そうしたことが影響したと見られています

そんな中、思わぬ「敵失」がロシアの窮地を救いました。2003年に米スペースシャトルの空中分解事故が起き、乗っていた宇宙飛行士全員が亡くなってしまいました。米国は11年にシャトルを退役させることになりました。

シャトルがなくなると、ISSへ人を運ぶ手段はロシアのロケットと宇宙船だけです。ロシアの影響力は俄然大きくなります。米国の足元を見透かして、飛行士をISSまで運ぶ「座席料金」を引き上げるなど、やりたい放題でした。

ところが、2020年に再び状況が変わりました。米スペースX社が宇宙船で人を宇宙へ運ぶことに成功し、米国は独自の輸送手段を獲得しました。ロシアのロケットと宇宙船も引き続き使われてはいますが、以後、宇宙でのロシアの力は再び弱まっていきます。

プーチン大統領は、ロシアの宇宙開発がここまで弱体化したのは、国が崩壊しばらばらになったためだと考えているかもしれません。

現在のロシアの宇宙施設やロケットは、旧ソ連圏の国々や欧州などとの微妙な力関係の上に成り立っています。バイコヌール宇宙基地は、カザフスタンにあり、ロシアはカザフスタンに借料を払わねばならないのです。

ロシアのロケットは、ウクライナ製の部品やシステムなどの外国技術に依存したり、他国との合弁事業だったりするなど、ロシアだけでは自由にできない状況が長く続いてきました。

ロシア製部品への切り替えなどの対策を講じてきましたが、旧ソ連圏をロシア中心でまとめ直そうとしているプーチン大統領にとって、ロシアの技術だけの純国産ロケットを作り、ロシアが自由に使える宇宙基地から打ち上げることが悲願になっていました。

このため、新ロケット「アンガラ」の開発や、新たな宇宙基地の建設を進めたのですが、どちらもまだ本格的な活用までは至っていません。新基地建設をめぐっては大規模汚職が問題になるなど、負の側面も目立ちました。

このままいけば、ロシアの宇宙開発は国際社会から締め出される可能性がある。昨年3月17日に欧州宇宙機関(ESA)が、ロシアと共同で今年打ち上げる予定だった火星探査機の計画を中断すると発表したように、すでにその兆しが見えていました。

国際社会から締め出さされた時、ロシアは中国との連携を深めるでしょう。

今、米国が主導して国際協力で月面に有人基地を造る「アルテミス」計画が進められています。しかし、ロシアはこれに参加せず、中国と月面基地の建設で協力する政府間合意を交わしており、この計画を進めています。一方、中国は独自の宇宙ステーションを完成させています。ここにロシアが加わることも考えられます。

世界の宇宙開発は二極に分断される恐れがある。双方が目指す月までは、広い宇宙空間が広がる。国際ルールや規範を顧みない中国とロシアがこの広大な宇宙空間でどのようにふるまうか、リスクが高まっているともいえます。

ただ、宇宙開発に必須ともいわれる最新型の半導体ですが、中露とも米国の制裁によって、輸入も製造もできない状態になっています。

このような状況で、中国は最新型の半導体は製造できず、輸入もできず、中国は少し前の技術によって、宇宙開発をせざるを得なくなりました。それでもある程度のことはできるかもしれません。

ただ、最新型の半導体の輸入も、製造もできないロシアには難しいでしょう。ただ、一縷の望みは、中国から最新型ではない半導体を入手できる可能性です。

しかし、これも困難になりそうです。これについては、以前このブログでも述べたばかりです。その記事のリンクを以下に掲載します。
「同盟しない、対抗しない、第3国をターゲットとしない」、習近平政権、ロシア見切りへ外交方針大転換―【私の論評】習近平がロシアを見限ったのは、米国の半導体規制が原因か(゚д゚)!

30日、モスクワで、中国の習国家主席(左)とオンライン形式で会談するプーチン露大統領

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事と関連付けて述べると、中国は米国の制裁をかなり恐れているようです。

現状では、中国では米国の制裁により、軍事転用などもできる最新型の半導体は、製造も輸入もできない状況になっていますが、一世代前のものであれば、製造も輸入もできます。これに対して、ロシアは半導体そのものが、輸入も製造もできない状況です。

中国の場合は、通信でいえば、G5関連の半導体は、製造も輸入もできませんが、G4であれば、できるようです。開発がすすみ、米国でG6が主流になれば、G5は輸入も製造もできるようになるかもしれません。

ただし、中国がロシアとの関係を強めていけば、米国の制裁はさらに厳しくなり、中国もロシアのように半導体そのものが輸入も製造もできなくなるかもしれません。

そうなれば、中国も宇宙開発どころではありません。こういうこともあり、習近平政権は、ロシアを見限ったとみられます。

そうであれば、ロシアが宇宙で覇権を握るなどのことは不可能です。「宇宙での戦い」で優位性を発揮することもないでしょう。

上の記事では、最後に「朝日新聞」の記事らしく、以下のようなことが述べられています。

自民党関係者の一人は「これからは、陸海空だけでなく、宇宙もサイバーも電磁波も一体化しないと戦争には勝てない。宇宙はそのカギになる場所だ」と指摘した上で、こう危機感をあらわにした。「もう、米国の51番目の州にならない限り、この国を守れない」

この自民党関係者の一人の方とは、誰かは知りませんが、この人、もしくは朝日新聞は重要なことを忘れているようです。

それは、監視衛星からは、水中の潜水艦を発見できないという事実です。現代の監視衛星は、宇宙から陸上の戦車などを仔細に監視することはできますし、水上に浮かんでいる艦艇を監視することはできますが、水中に潜っている潜水艦を監視することはできません。

現代海戦においては、水上艦艇は監視衛星や、比較的近いところからならレーダーで監視することができます。しかし、水中に潜る潜水艦はこれでは発見できません。

よって、水上艦艇は巨大空母であろうが、イージス艦であろうが、ミサイルの標的に過ぎませんが、潜水艦はそうではありません。

だからこそ、対潜哨戒能力や潜水艦の能力、敵潜水艦を攻撃する力、これらを総称する対潜水艦戦(ASW:Anti Submarine Wafare)が重要であり、ASWのが強いほうが、海戦を制するのです。

現在の海戦はASWが強いほうが勝つのです。そうして、日米は世界のなかでASWではトップクラスであると言われています。無論、日本は中露のASW能力をはるかに凌いでいます。

海を四方に囲まれた、海洋国日本がASWに力をいれるのは当然のことですし、いままでは予算が少なかった自衛隊が、ASWを世界トップクラスにすることに努力を傾注し、宇宙分野は後回しにしたということは、必然的な流れであり、正しい判断だったいえます。

ただ、日本もこれからは、宇宙の分野にも力をいれていくべきでしょう。日本には、それができる技術力は十分にあります。私は、これからでも力をいれていけば、やがて日本はASWだけではなく、宇宙分野でも米国に並ぶ存在になれると思います。

今後、半導体も満足に入手できないロシアは、陸上の戦いでも、宇宙でもASWでも、さらに劣勢になっていくことでしょう。残るのは、核兵器や化学兵器くらいのものです。ただし、これらを使えば、ロシアに未来はなくなります。

GDPでは、すでにインドを下回り、韓国をも若干下回る規模になったロシア、軍事でも没落は目に見えています。プーチンはそろそろ大国幻想を捨てざるを得なくなるでしょう。

【関連記事】

〝宇宙大国〟崩壊の危機 ロシア、ISS計画から離脱 独自のステーション建設優先「西側の制裁が相当効いている…本格的な衰退見えてきた」識者―【私の論評】ソ連崩壊時のように現在のロシア連邦は、宇宙開発どころではなくなった(゚д゚)!


「同盟しない、対抗しない、第3国をターゲットとしない」、習近平政権、ロシア見切りへ外交方針大転換―【私の論評】習近平がロシアを見限ったのは、米国の半導体規制が原因か(゚д゚)!

ロシア、トルコに冬服注文断られる 「クレムリン現政権の失敗」―【私の論評】当初の戦争目的を果たせないプーチンは海外に逃避し、ガールフレンドと平穏な余生を送るべき(゚д゚)!

0 件のコメント:

「血を流す場合もある」国民に説得を 岸田首相「グローバル・パートナー」の責任 集団的自衛権のフルスペック行使、憲法改正が必要―【私の論評】憲法改正をすべき決断の時が迫ってきた!日本国民は覚悟をもってこれに臨め

八木秀次「突破する日本」 ■ 「血を流す場合もある」国民に説得を 岸田首相「グローバル・パートナー」の責任 集団的自衛権のフルスペック行使、憲法改正が必要 ■ 八木秀次 まとめ 岸田首相は米国訪問後、日米関係を「かつてなく強固な信頼関係に基づくグローバル・パートナー」と位置づけ、...