2023年1月12日木曜日

米中対立の最前線たる南太平洋 日米豪仏の連携を―【私の論評】米中対立の最前線は、すでに台湾から南太平洋に移った(゚д゚)!

米中対立の最前線たる南太平洋 日米豪仏の連携を

岡崎研究所

日米豪などが参加する太平洋パートナシップ2022(PP22)で演説するソロモン副首相

 フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのラックマンが、12月5日付同紙に‘Australia, China and the judgment of the Solomons’と題する論説を書き、ソロモン諸島を巡る中国と米豪の争いを描写し、米豪が同国の第二次大戦不発弾処理を支援し好感を得るのも一案、と指摘している。要旨は以下の通りである。

 南太平洋のソロモン諸島は、今や中国と西側の戦略的競争がぶつかる場所で、4月のソロモン・中国安全保障合意署名は、米豪への警告となった。数十年にわたる急速な軍備拡大で中国海軍は米国海軍より多くの艦船を保有し、習近平主席の下、既に南シナ海に軍事基地を構築している。中・ソロモン合意は主に国内治安に関するものだが、米豪は中国が南太平洋に海軍基地を建設しようとしており、その最もありそうな場所がソロモンではないかと恐れている。

 ソロモン諸島は第二次世界大戦最激戦のガダルカナル戦の舞台だった。米軍が日本と闘ったのは今日ソロモン諸島が戦略的に重要と見られているのと同じ理由で、豪州、東アジアと米国西岸とのシーレーンに位置しているからだ。

 中国が太平洋の米軍事力に直接挑戦するとすれば、最もあり得る対象は台湾だ。米豪高官は、習近平下の中国が今後5年の内に台湾へ侵攻乃至封鎖を試みる可能性は相当あると見ている。豪州では、米中戦争が起これば豪州は巻き込まれるという想定が広く共有されている。南太平洋に中国基地があれば、豪州の戦略的計算は大いに複雑化する。

 最近の習・アルバニージー会談は6年ぶりで緊張を若干緩和したが、引き続き米豪は中国がインド太平洋の席巻を決意していると見ており、それを防ごうと決意している。それを最も明確に示すのが昨年の米英豪の安全保障枠組み「AUKUS」創設であり、その核心が豪州の原潜取得だ。中露はAUKUSを好戦的と批判したが、豪州は、力の均衡を維持し平和を護るためだと反論する。しかし、インド太平洋の隣国にそう主張するのはリスクがある。例えば、インドネシアのジョコウィ大統領は、同国は新冷戦の駒になるつもりはないと言っている。

 地域的影響力を巡る競争で中国は一定の優位にある。中国はインド太平洋のほとんどの国の最大の貿易相手だ。ソロモンのような貧困国では、中国の富は富裕層による援助の横取りも可能とする。今や米豪もソロモンへの影響力向上に努めている。米国は近々大使館を開設すると発表。豪州はソロモン警察に車両とライフル銃を提供した。一方、同警察の人員は中国で訓練を受けてきている。

 ソロモンは今の地政学に対応する一方、第二次世界大戦の遺産に悩まされている。未だ散乱する不発弾で命を失う人もいる。AUKUS加盟国はソロモンの好感を得るために、その処理に取り組むのも一案かもしれない。

*   *   *

 4月の中・ソロモン安全保障合意を受けた付け焼刃は否めないが、南太平洋島嶼国の戦略的重要性に鑑みれば、最近米国が関心を高めているのは結果として良いことだ。本来は豪州の責任範囲だが米豪連携は必要で重要だ。

 7月の(太平洋島嶼国と豪・ニュージーランドの)太平洋諸国フォーラム(PIF)には、2012年のクリントン国務長官以来久々の高官としてハリス副大統領がオンラインで参加し、キリバス、トンガ、ソロモン諸島への大使館開設を表明(ただ、ソロモン諸島の米国大使館は2003年に閉鎖されたものの再開で、これまでの米国の姿勢を象徴している)。

 さらに9月28日~29日に初の米・太平洋島嶼国サミットをワシントンで行い「太平洋パートナーシップ戦略」を発表した。今まで未承認だったクック諸島とニウエの国家承認を発表し、8億ドルを超える援助を表明したのは正しい第一歩だ。会議後の共同声明に紆余曲折の後ソロモン諸島も署名したのも、一つの成果だろう。

 一方、中国はそのずっと先を行っている。中国が太平洋島嶼国と「経済発展協力フォーラム」を始めたのは2006年に遡る。2013年の第2回会合では20億ドルの譲許的融資を約束。その後2019年にはキリバスとソロモン諸島が台湾と断交し、南太平洋島嶼国の台湾承認国はパラオ、マーシャル諸島、ナウル、ツバルの4カ国になった。

 もちろん中国の援助にはマイナスもある。2018年のパプア・ニューギニアでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)会合の際に、同国外務大臣事務所に中国外交官が乗り込み共同声明案修正を直談判したという高飛車な対応も記憶に新しい。これでは真の友好関係は長続きしないのであり、こちらから付け入る余地は十分ある。

鍵となるフランスとの連携

 そのためには、同じ目線で相手の共感を得ることに加え、「こちら側」の陣容の拡充も必要ではないか。それはフランスとの一層の連携だ。仏領ポリネシアは南太平洋におけるフランスの拠点だ。

 元々PIFとその前身はフランスの核実験などに反対して結成されたという歴史的経緯はあるが、今や仏領ポリネシアは準メンバーであるし、フランスもパートナー国になっている。我々にはあまり余裕はないはずだ。先の米・島嶼国サミットにもオブザーバーで豪・ニュージーランドは参加する一方、フランスが参加していない点が気になる。

 しかし、島嶼国との関係についても昔から努力しているのは日本だ。日本が太平洋・島サミット(PALM)を始めたのは1997年で、中国より10年近く早い。同じ目線で「共感」を得るアプローチは日本のお家芸だ。上記の論説で取り上げられている不発弾処理についても、既に日本は、ソロモン国家警察爆発物処理部隊に対する支援を開始している。今後これを日米豪(または日米豪仏)のプロジェクトとして進めると言うことも一案だろう。ちなみにPALMには仏領ポリネシアも入っている。

【私の論評】米中対立の最前線は、すでに台湾から南太平洋に移った(゚д゚)!

なぜ、中国は南太平洋ソロモン諸島に接近を図るのでしょうか。そこには、大国間競争と台湾という中国なりの狙いがあるようです。

中国はソロモン諸島と安全保障協定を結んだのですが、何も中国が接近しているのはソロモン諸島だけではありません。オーストラリア・シドニーにあるシンクタンク「ローウィー研究所(Lowy Institute)」の調査によると、中国は 2006年からの10年間で、フィジーに3億6000 万ドル、バヌアツに2億4400万ドル、サモアに2億3000万ドル、トンガに1億7200万ドル、パプアニューギニアに6億3200万ドルなど南太平洋諸国に多額の経済支援を行うなど、南太平洋地域で徐々に強い存在感を示すようになっていきました。

その中でソロモン諸島では2021年11月、中国と関係を強化するソガバレ現政権に対する大規模な抗議デモによって現地の中国街などが被害に遭う事態が発生。以降も散発的に抗議デモが起きるなど、南太平洋各国で中国への警戒感があるのも事実です。

2021年11月25日/ソロモン諸島、首都ホニアラの抗議デモ

しかし、それでも中国の影響力は増大しており、経済主体から安全保障にまで踏み込んだものとなっています。経済的影響力を浸透させてから安全保障でも踏み入れるという形式は、ソロモン諸島だけでなく、今後は他の南太平洋諸国でもみられる可能性が十分にあることでしょう。

西太平洋で軍事的影響力を強化しようとする中国にとって、南太平洋は米国だけでなく、近年対立が深まるオーストラリアやニュージーランドをけん制する意味でも地理的に都合が良いです。

米国政府高官は昨年4月下旬、ソロモン諸島の首都ホニアラでソガバレ首相と会談し、安全保障協定に懸念を伝え、対抗措置も辞さない構えを示しました。南太平洋を裏庭と位置づけるオーストラリアのモリソン首相も同じく4月下旬、中国がソロモン諸島に海軍基地を建設する恐れがあり、そうなればオーストラリアや米国だけでなく、他の太平洋島嶼国が危機に直面することになると警告しました。

このように、中国側には大国間競争を意識して、米国やオーストラリアなどをけん制する政治的狙いがあることは間違いないです。最近、日本の閣僚も昨年5月、南太平洋のフィジーとパラオを訪問しましたが、米国やオーストラリア同様の懸念を抱いています。

中国が南太平洋に接近を図るのは、大国間競争以外にも狙いがあります。もう一つの大きな狙いは、台湾との外交関係断絶を促すことです。実は、南太平洋には台湾と外交関係を維持する国が集中しています。


現在、中国と国交があるのは、パプアニューギニア、バヌアツ、フィジー、サモア、ミクロネシア、クック諸島、トンガ、ニウエ、キリバス、そしてソロモン諸島の10カ国で、台湾と国交を持つのはマーシャル諸島、ツバル、パラオ、ナウルの4カ国ですが、2019年にキリバスとソロモン諸島が台湾との断交を発表し、中国と新たな国交を樹立するなど、南太平洋では“脱台湾”が進んでいます。これも中国が経済を武器に影響力を強めてきた証でしょう。

現在、台湾の蔡英文政権は中国を脅威として認識し、そのため欧米諸国との結束を強化しています。習政権は台湾の独立阻止には武力行使も辞さない構えですが、現実には、中国が台湾侵攻をすれば、台湾とだけ戦ったにしても、台湾を占拠するのはかなり難しいですし、甚大な被害を被るのは必定です。

まして、これに日米が加勢すると、対潜水艦戦争(ASW)に優れた日米によって、中国海軍は壊滅的な打撃を受けるのは必定です。

米ワシントンを拠点とするシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)は9日、中国が台湾に軍事侵攻した場合、その企ては「早期に失敗」する一方、台湾と米海軍にも多大な代償を強いることになるとの机上演習の結論を公表しました。

CSISは「最も可能性の高い」シナリオとして、「中国による大規模な砲撃」にもかかわらず、台湾の地上部隊は敵の上陸拠点に展開する一方、米軍の潜水艦や爆撃機、戦闘機は日本の自衛隊に頻繁に補強されて、中国軍の水陸両用艦隊を迅速に無力化し、侵攻する中国軍は補給の増強や上陸に苦戦すると結論付けました。

机上演習は計24回に及び、米軍の退役将軍・海軍士官、元国防総省当局者らが参加しました。

CSISはその中で、日本の基地や米軍の水上艦を中国が攻撃したとしても「結論を変えることはできない」としつつも、「台湾が反撃し、降伏しないというのが大きな前提だ」と説明。「米軍の参戦前に台湾が降伏すれば、後の祭りだ」とし、「この防衛には多大な代償が伴う」と指摘しました。

さらにリポートでは、米国と日本は「何十もの艦船や何百もの航空機、何千もの兵士を失う」とともに、「そうした損失を被れば米国の世界的立場は多年にわたり打撃を受けるだろう」としています。

このリポートはまだ読んでいませんが、今までのCSISの中国による台湾侵攻シミレーションには、潜水艦という言葉が一言も出てこなかったのが、今回は潜水艦というワードが出ているようです。

従来のシミレーションでは、まるで米国は巨大攻撃型原潜を一隻も所有していなかのごとく、潜水艦が登場しませんでしたが、これに関しては多くの軍事専門家も批判しており、このブログでも何度かそれを批判しました。潜水艦を海戦に用いるのとそうでない場合、海戦能力に大きな違いがでてくるからです。

今回のシミレーションでは、潜水艦がどの程度使われたかなどはまだわかりませんが、いずれにせよ、米軍が大型攻撃型原潜を効果的に用いれば、中国海軍は崩壊します。無論中国がこれに対して報復し、日本の米軍や自衛隊基地を攻撃するとなれば、日米双方とも大きな被害を蒙りますが、それでも、中国は台湾に侵攻できないどころか、海軍艦艇のかなりの部分を失うことになります。

そのため中国としては、軍事的侵攻は避け、台湾が持つ他国との国交をどんどん消していくことで、台湾に外交をできなくさせる狙いがあるのでしょう。

そうすることによって、台湾を国際社会から孤立させ、あわよくば、台湾を飲み込んでしまうとする意図があると考えられます。中国はそれぞれの国に対し、中国と台湾の二重承認を許していません。まさに白か黒かのオセロゲームのようです。台湾を国際的に孤立させるため、中国は膨大な支援を通じて、台湾と断交し、自分たちと国交を結ぶように迫っているのです。

現在、台湾と外交関係を維持する国は世界でたった14か国です。うち4か国が太平洋の小さな島国です。最近ではソロモン諸島、それにキリバスが台湾から中国へスイッチしました。中国が国交を結んだ国々では中国主導でインフラ整備を進めています。

それは、対象国のためであるとともに、中国自身が共同利用しようという狙いもあるとみられます。台湾問題に行き詰まった中国は、今後も南太平洋でさまざまな活動を行い、活路を見出すつもりでしょう。このままの中国有利な情勢が続けば、断交ドミノ現象はいっそう勢いを増す恐れがあります。米豪日は、今後のマーシャル諸島、ツバル、パラオ、ナウルへ政治的なテコ入れを強化していくでしょう。

その意味では、米中対立の最前線は、台湾そのものではなく、すでに南太平洋に移っていると認識を改めるべきです。そうして、南太平洋でも軍事力の衝突というよりは、経済支援や、外交的な駆け引きが主であり、米国とその同盟国と、中国との間の戦いということになるでしょう。特に同盟国がほとんどない中国にとっては、南太平洋の島嶼国を味方につけることは重要です。国連の会議などでは、どのような小さな国でも、一票は一票です。

日本の対潜哨戒機P1

ただし、西側諸国に比較すると、現代海戦における海戦能力の要であるともいえる、ASWがかなり劣った中国海軍は、軍事に疎いマスコミなどは、これを過大評価しますが、海戦能力でははるかに及ばず、さほど脅威ではないのですが、まともな海軍力を持たない南太平洋の島嶼国などにとっては脅威であり、米国ならびにその同盟国などは、南太平洋でも軍事的にもある程度の存在感を高めていく必要はあるでしょう。

現代海戦においては、たとえば空母は大きなミサイル標的にすぎず、すぐに撃沈されてしまうのですが、それでも中国の空母が南太平洋の島嶼国の付近を航行すれば、かなり脅威であり、圧力になります。そのようなときに、西側諸国の空母等もすぐ対抗して航行できるような状況にあれば、あまり問題にはなりません。

そのためには、南太平洋にも領土を持つフランスやイギリスとも日米豪がさらに、関係を強めておくことも重要になります。

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