2021年9月27日月曜日

【続・「脱炭素」は嘘だらけ】「脱炭素は世界の潮流」は大嘘 “有言不実行”が世界の標準 米はCO2ほとんど減らさず…中国、石炭火力発電所は日本の20倍保有―【私の論評】客観的なデータは「気候変動」のフェイクに踊るべきでないことを示している(゚д゚)!

【続・「脱炭素」は嘘だらけ】「脱炭素は世界の潮流」は大嘘 “有言不実行”が世界の標準 米はCO2ほとんど減らさず…中国、石炭火力発電所は日本の20倍保有

バイデン大統領

 日本の大新聞とテレビを見ていると、「『脱炭素』は世界の潮流」で、日本は大変遅れていることになっている。それで「脱炭素」政策を説く政治家がいる。

 いわく、「日本は太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入が遅れている」「ハイブリッド自動車は時代遅れで、もう世界は電気自動車だ」「海外はみんなCO2(二酸化炭素)を排出する火力発電など止めようとしているのに、日本だけが続けている」「金融界は環境金融へと動いている」「このままでは、だれも日本へ投資してくれない」「CO2を排出して製造した日本製品は世界で売れなくなる」…。

 よくもまあ、こんな大嘘を毎日毎日報道し続けるものだ。

 実態はどうかといえば、「脱炭素」は世界の潮流などではない。

 確かに、先進国は軒並み「2050年までにCO2をゼロにする」といっている。また、「30年までにCO2をおおむね半分にする」とも言っている。だが、言っているだけで、実態は全然違う。

 ジョー・バイデン米政権は「脱炭素」に熱心だが、これは米国の総意からは程遠い。国の半分を占める共和党は、そもそも「気候危機説など嘘だ」と知っていて、「脱炭素など無用だ」とする。ドナルド・トランプ前大統領だけが例外なのではない。

 それに米国は世界最大の産油国であり、産ガス国である。石炭埋蔵量も世界一で、日本の消費量に匹敵するぐらい大量に輸出している。ちなみに日本にも輸出している。エネルギーを有する州は多く、当然、その産業を守る。だから、環境税やCO2規制は議会を通らない。実は、米国はCO2をほとんど減らさない。

 中国は、日本の10倍のCO2を出しており、今後5年であと日本1つ分さらにCO2を増やすと5カ年計画にはっきり書いてある。石炭火力発電所についても日本の20倍も保有していて、毎年日本1つ分以上増やしている。

 のみならず、中国は経済圏構想「一帯一路」構想の下、世界中で石炭火力発電所の建設を手掛けている。合計すると、日本全体の石炭火力発電所よりも多い。「30年を過ぎたらCO2を減らす」とか、「60年にはCO2をゼロにする」などと言っているが、新型コロナでも人権でも嘘をつき続ける国を、どうして信用できるだろうか。

 環境運動家が大好きな欧州はどうか。

 電気自動車は高い補助金などの優遇措置で強引に導入されているけれど、まだまだ金持ちのおもちゃだ。ドイツは石炭はもとより、原子力も風力もバイオテクノロジーも、あらゆる技術を「環境に悪い」と言って否定した結果、今頃になってロシア頼みでガスパイプラインを引いている。あれCO2減らすじゃなかったの?

 「脱炭素」については、「有言不実行」が世界の標準だ。諸君、だまされて大損しない様、気を付けよう。

 ■杉山大志(すぎやま・たいし) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。1969年、北海道生まれ。東京大学理学部物理学科卒、同大学院物理工学修士。電力中央研究所、国際応用システム解析研究所などを経て現職。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、産業構造審議会、省エネルギー基準部会、NEDO技術委員等のメンバーを務める。産経新聞「正論」欄執筆メンバー。著書に『「脱炭素」は嘘だらけ』(産経新聞出版)、『地球温暖化のファクトフルネス』(アマゾン)など。

【私の論評】客観的なデータは「気候変動」のフェイクに踊るべきでないことを示している(゚д゚)!

地球温暖化のせいで台風などの災害が激甚化しており、地球は気候危機にある。破局を避けるには2050年にCO2(二酸化炭素)排出をゼロ、つまり『脱炭素』しなければならない」という言説が流布されています。

だが、この「気候危機説」はフェイクに過ぎないです。莫大な費用をかけて「脱炭素」をするほどの科学的根拠など、どこにもありません。

最近の例では、昨年はコロナ禍もあり多くの国々で多くの産業がストップしました。その結果CO2の排出がかなり削減されました。これについては、以前このブログに述べています。その記事のリンクを以下に掲載します。
水素エンジン車レース完走 世界初、量産に向けトヨタ―【私の論評】昨年は第二次世界大戦後、最もCO2排出量が減ったが夏は暑く、世界中で異常気象が発生していた(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部を引用します。
新型コロナウイルスの感染症COVID-19のパンデミックに対する世界的な取り組みにより、世界の2020年の年間の二酸化炭素(CO2)排出量は第2次世界大戦以来で最も減少したことが明らかになっています。研究結果は科学ジャーナル「Earth System Science Data」に昨年12月11日に掲載されました。

この研究によると、今年のCO2排出量は7%減少したとされています。最も大きく減少したのはフランスとイギリスで、感染の第2波に対応するための厳格な経済活動の停止が主な要因だそうです。 
世界の炭素収支を報告している「グローバル・カーボン・プロジェクト(GCP)」によると、今年の炭素排出量は24億トン減少したそうです。
一方で、2009年の世界的な景気後退の最中の減少量はわずか5億トン。第2次世界大戦末期の減少量は10億トン弱だったそうです。昨年と今年あたりには、温暖化に関しては、どのようなことがおこっていたのか、あるいはおこるのか、注目すべきかもしれません。とにかくCO2を減らすことが何やら、至上命題のようになっていますが、実際にCO2が減っているのですから、これが環境に良い影響を及ぼしたのか、あるいは悪い影響を及ぼしたのかを精査すべきと思います。

以下に、昨年の世界のGDPの推移を掲載します。1991年以来の落ち込みであり、しかも最も急激に落ちていることがわかります。


 気象庁は昨年に昨夏を「東日本は観測史上、最も暑い夏」と認定しています。最高気温が40度に達する観測点が続出し、西日本も記録的暑さに。熱中症とみられる症状での救急搬送、死亡者が相次ぎ、2020年夏の東京五輪・パラリンピック開催に影を落としたとしています。

2020年の世界と日本の平均気温が、観測が始まった19世紀末以降、最高となる見込みであることが今年1月の気象庁の調査で分かっています。気温上昇に伴い、各地で30年に一度の規模の高温や大雨などが頻発。国内も九州で豪雨災害が発生するなどしました。

これには、地球温暖化も寄与したとみられ、2020年は新型コロナウイルスだけでなく、気象も人類に牙を向いた年として記憶されそうだとしています。一方、今年はこうした傾向がやや緩和されるとの見方もあるそうです。

今年は皆さんもご存知のように、桜の開花がかなり早まりました、これも温暖化の影響といえるのでしょうか。ワクチン接種が進んだとはいえ、4月はまだコロナの流行は深刻で、CO2もどちらかといえば、通常の年よりは排出量が少なめだったと思います。
昨年はCO2排出量が7%減少していても、気温が上昇したり、異常気象が起こっているわけですから、あまりCO2など関係ないようにも見えます。
そのほか、「気象変動」がフェイクであるとするに足る統計もあります。これは公開されている統計で確認できます。

実は台風は増えても強くなってもいません。台風の発生数は年間25個程度で一定しています。台風に幾つか等級がある中で、「強い」以上に分類される台風の発生数は15個程度と横ばいで増加傾向はありません。

猛暑は都市熱や自然変動によるもので、温暖化のせいではありません。地球温暖化によって気温が上昇したといっても江戸時代と比べて0・8度に過ぎないのです。過去30年間当たりならば0・2度とわずかで、感じることすら不可能です。

豪雨は観測データでは増えていません。理論的には過去30年間に0・2度の気温上昇で雨量が増えた可能性はありますが、それでもせいぜい1%です。よって豪雨も温暖化のせいではありません。

観測データを見ると、そもそも災害の激甚化など起きていないことが分かります。ましてや、地球温暖化による災害の激甚化などは皆無であったことが分かります。過去においても、激甚災害があったことは、多くの人が知っていますし、記録をみれば誰でも確認できます。

温暖化によって大きな被害が出るという数値モデルによる予測はあります。ところが、これには問題が幾つもあります。モデルはろくに過去を再現することすらできないのです。

それにも関わらず、モデルを用いた被害予測が流布されていて、気候危機説の中核を成しているのです。

実際のところ、過去になされた不吉な予測は外れ続けてきました。

温暖化で海氷が減って絶滅すると騒がれたシロクマはむしろ増えています。人が射殺せず保護するようになったからです。

温暖化による海面上昇で沈没して無くなると言われたサンゴ礁の島々はむしろ拡大しています。サンゴは生き物なので海面が上昇してもそれに追随からです。

CO2の濃度は江戸時代に比べるとすでに1・5倍になりました。その間、地球の気温は0・8度上がりました。しかし、観測データで見れば何の災害も増えていません。

今後も感じることができないぐらい緩やかな温暖化は続くかもしれないです。しかし、破局が訪れる気配はありません。「気候変動」なるものは、どこにも存在しません。

では、なぜフェイクが蔓延したのでしょうか。政府機関、国際機関、御用学者、NGO、メディアが「不都合なデータ」を無視し、異論を封殺し、プロパガンダを繰り返し、利権を伸長した結果です。

国民は、気候危機説にとって「不都合なデータ」を隠蔽されて、「脱炭素」という、莫大な経済負担を伴う無謀な目標に駆り立てられています。このようなことが許されて良いはずはありません。

ジョー・バイデン米政権は「脱炭素」に熱心ですが、その背後には、小型原発の開発と、それを輸出することがあるのではないかと思います。さらに、それは中国の小型原発開発を牽制するという意味合いもあるようです。

「気象変動」に関しては、様々な利権、様々な政策、様々な人々や団体の思惑などが複雑に絡み合い、何が真実なのか単純には理解できない状況にあるということを私達は理解すべきです。

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2021年9月26日日曜日

台湾・最大野党次期党首に習近平氏から祝電 92年合意や「統一」言及―【私の論評】国民党が原点回帰し反中姿勢に戻れば、米国よりまともな二大政党制が、台湾に根付くかもしれない(゚д゚)!

台湾・最大野党次期党首に習近平氏から祝電 92年合意や「統一」言及

習近平氏(右)と握手する朱立倫氏=2015年、北京

最大野党・国民党の新主席(党首)を決める選挙に当選した元職の朱立倫氏に26日、中国共産党の習近平総書記から祝電が送られた。習氏は「一つの中国」を前提にした「92年コンセンサス」と「台湾独立反対」に言及した上で、「国家の統一」を共に目指す考えを示した。朱氏はこれに対し、「共通点を追い求めながら、互いの違いを尊重しましょう」と呼び掛けた。

対中融和路線を打ち出してきた国民党。党勢の立て直しを目指し、92年コンセンサスの見直しに前向きな姿勢を示していた若手の江啓臣氏が昨年、党主席に選出されたが、慣例となっていた習氏からの祝電はなく、今回、党首に返り咲いた朱氏に祝電が寄せられるか注目された。

朱氏は習氏からの祝電に謝意を示し、与党・民進党が「反中」政策を取ったことで両岸(台湾と中国)の関係悪化を招いたと指摘。92年コンセンサスなどにのっとり、互いの違いを尊重しながら関係の深化を望む考えを示した。

民進党は報道資料で、民主主義国家の政党が独裁国家の指導者からの祝電を期待することはないとし、待ち遠しく思うのは国民党だけだと指摘。また、「統一」に言及した習氏に対し、台湾の主流の民意のために声を上げる勇気がないことは遺憾だとの考えを示した。

(劉冠廷、葉素萍/編集:楊千慧)

【私の論評】国民党が原点回帰し反中姿勢に戻れば、米国よりまともな二大政党制が、台湾に根付くかもしれない(゚д゚)!

昨年1月の総統選挙において、蔡英文総統は野党国民党候補(韓国瑜・高雄市長)に大差をつけて勝利しました。敗北した国民党は、総統選をめぐる過程やその後の経緯を見ても、内部分裂に近い様相を呈していました。

このような状況の中で、昨年3月7日行われた国民党内部の主席(党首)選において、それまで、台湾の政治の世界では、ほぼ無名に近かった江啓臣が選出されました。(江は馬英九政権下で行政院報道官を務めた。立法委員)。

江啓臣氏

台湾内部では、国民党は中国に接近しすぎているとの印象が強く、特に多くの若者たちの間でそのように受け止められているというのが昨年1月の総統選挙の結果が示すところでした。国民党としては、そのような台湾の世論に即応した形のなんらかの「改革」を迫られていました。江については、国民党の「改革派」であると見る向きもあり、勝利宣言のなかで「92年コンセンサス」を放棄することを示唆したとの指摘がありました。

もともと「92年コンセンサス」(「92共識」)という用語は、とくに国民党・馬英九政権下で、中台関係を律するものとして台湾側が使った曖昧な同床異夢を意味する用語です。「一つの中国、各自表述」と訳され、台湾にとっては「一つの中国」とは、「中華民国」を意味します。これに対し、中国のいう「一つの中国」の原則とは、中華人民共和国が唯一の合法政府であり、台湾はあくまでもその領土の不可分に一部にすぎない、ということを意味します。

馬英九総統は2015年5月7日、台湾海峡両岸関係は「92年コンセンサス」と合致してこそ発展すると重ねて強調

それまで約15年間にわたり、中国共産党総書記は、国民党党首が選出されるたびに祝電を発出していたのですが、当時、「92年コンセンサス」の放棄を示唆したとも受け取れる江の選出に当たり、中国共産党ははじめて祝電を出さなかったのです。

それに対し、江は声明を出し、自分としては「中国の意向を尊重する」と述べつつ、祝電が来なかったことは「台湾の国民党の改革に特段の影響を与えない」と述べました。その後、中国国務院台湾事務弁公室のスポークスマンは、江が「92年コンセンサス」を守り、台湾独立反対の立場を堅持することを望む旨の発言をしました。

中国から見ると民進党のみならず、国民党まで中国からさらに離れていくのではないかとの警戒感を強め、江に対し強硬な姿勢を示したのでしょう。中国としては、国民の目を少しでも他にそらせるために台湾に対してより強硬な方策を取ろうとする可能性があるので、今後とも要注意です。

中国共産党に中国大陸から追い出された国民党はなぜ、親中なのか、多くの人は理解に苦しむところだと思います。

戦後の国共内戦で毛沢東率いる中国共産党に敗れて1949年に台湾へ移った蒋介石は反共でした。当時の国民党は、中国共産党を匪賊扱いで「共匪」と呼んで、大陸反攻を国是とする反共政党でした。

大陸反攻を国是としたのも、台湾はあくまでも仮住まいでいずれ中国大陸を奪還し、正統政権として全土支配する意志があったからです。蒋経国総統時代になっても、中国共産党とは「接触しない、交渉しない、妥協しない」という「三不政策」が基本方針でした。

徹底した反共主義者であった蒋介石初代台湾総統

変化が生じ始めたのは80年代後半でした。台湾と大陸の通商・経済交流が徐々に拡大していきました。国民党と共産党のイデオロギーにおける本質的な相違を棚上げして経済的利益を先行させました。その結果、経済の中国依存が進み、中国大陸をなくして台湾は生きて行けない段階にまで至ったのです。

ただ問題は、「中国依存」の恩恵が広く全国民に行き渡らなかったことです。中国共産党政権の「統一戦線」は決して、相手国の一般国民を対象にしているわけではありません。政財界のいわゆるキーパーソンを味方につける手法が取られるため、結果的に一部の特権階層が利益を手にしただけで、全体的国益が軽視・無視されてきたのです。

今回国民党の新主席に選ばれた朱立倫氏は、習近平から祝電を受け、再び中国に融和的になるのでしょうか。しかし、世界中で「反中国共産党」の潮流が勢いを増した現在、その先に中国共産党政権の崩壊・交替があるかもしれないです。

そうなれば、蒋介石が夢見ていた「大陸反攻」が単なる夢ではなくなり、実現する可能性も出てきます。

無論蒋介石の夢がそのまま実現するということはないでしょうが、いざ大陸に民主主義の政体ができた時点で、国民党が民主主義国家運営のノウハウや豊富な党内人材を生かせば、与党としての貫禄を世界中に見せつけるという可能性もでてきます。

現在国民党が基本的な立場を「反中国共産党」に切り替えたところで、むしろ重荷を下ろしての原点回帰といえます。そうすれば、民進党との戦いを本格化させ、政権奪還に挑むこともできます。

晩年の李登輝元総統

このように見方を変えれば、国民党は、目先の利益よりも長期的利益に着目し、より大きなビジョンを掲げることができます。台湾民主主義の父である李登輝元総統は、「反攻大陸」のスローガンを下ろしたものの、台湾の民主化を推進した国民党の政治家であり、蒋介石を補佐していたことを思い起こすべきです。

そうして、蔡英文率いる民主進歩党も、紛れもなく、民主化の産物なのです。国民党がまともになれば、台湾にまともな二大政党制が根付くことになるかもしれません。そうなれば、米国の二大政党制よりまともなそれが、台湾に出来あがることになるかもしれません。

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2021年9月25日土曜日

クアッド首脳会合 対中連携で一定の成果 軍事のAUKUSと役割分担も―【私の論評】TPPに英国や台湾が加入すれば、申請しても加入できない中国の異質さがますます際立つ(゚д゚)!

対中連携で一定の成果 軍事のAUKUSと役割分担も


米ワシントンのホワイトハウスで24日に開かれた日米とオーストラリア、インドの4カ国(通称クアッド)による初の対面形式による首脳会合は、4カ国が中国の台頭をにらみ、自由や民主主義といった共通の価値観の下で「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた結束を確認した点で、所期の成果を上げることに成功したといえる。

会合後に発表された共同声明は、中国への名指しは避けたものの、4カ国が「威圧に屈せず、国際法に根差した、自由で開かれたルールに基づく秩序」に関与し、「法の支配」「航行と飛行の自由」「紛争の平和的解決」などを支持していくと訴えるなど、中国を明確に意識した内容となった。特に、中国が覇権的行動を活発化させている東・南シナ海をめぐっては国際法の順守を訴え、中国を強く牽制(けんせい)した。

一方、オーストラリアのモリソン首相は会合後、ホワイトハウスで記者団に対し、菅義偉首相とインドのモディ首相が会合の席上、米英豪による安全保障連携の枠組み「AUKUS(オーカス)」で合意された米英による豪原子力潜水艦の開発支援に支持を表明したことを明らかにした。

対中国をにらみ、クアッドが外交を含む非軍事分野を、オーカスが軍事分野をそれぞれ分担し、両者が相互補完する態勢が早くも確立されたといえる。

一方で、インド太平洋における諸懸案の対処に向けた「枢要かつ死活的に重要な協議形式」(米政権高官)と位置付けられるクアッドが取り組むべき課題は山積している。

中でも、かつてオバマ元大統領が中国に対抗する集団的な経済安全保障の枠組みとして提唱した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)について、バイデン政権は24日、「現状の内容では復帰できない」との立場を示した。

中国がTPPへの加入を目指す中、米国不在のTPPの維持と発展に力を尽くしてきた日本としては、米国の復帰を実現させることがクアッドの強化に向けた大いなる貢献になるだろう。

【私の論評】TPPに英国や台湾が加入すれば、申請しても加入できない中国の異質さがますます際立つ(゚д゚)!

中国は、バイデン米政権が構築を進める重層的な「中国包囲網」に対抗する姿勢を強めています。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への加入申請で孤立感の払拭を狙うほか、米国との関係改善を目指して協調姿勢を見せるなど、包囲網の切り崩しへ相次いで布石を打っています。

中国外務省の趙立堅(ちょう・りつけん)報道官は24日の記者会見で、クアッドについて「閉鎖的、排他的、他国に照準を合わせた小派閥は時代の潮流に背く。目的を達することはない定めだ」と牽制しました。

中国外務省の趙立堅(ちょう・りつけん)報道官

「345中国包囲網」。香港出身の国際政治学者、林泉忠(りん・せんちゅう)氏は、米政権が主導する対中包囲網の枠組みを参加国数からこう評しています。米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」▽日米豪印の「クアッド」▽米英豪にカナダ、ニュージーランドを加えた5カ国で機密情報を共有する「ファイブ・アイズ」-です。それぞれ軍事、産業、情報など多方面に及ぶ協力枠組みだが、林氏は「機能と役割は異なる」と指摘しています。

これに対し、中国は16日にTPP加入を申請。米国が関与を強めるアジア太平洋地域で影響力を高め、中国経済のデカップリング(切り離し)に歯止めを掛ける狙いです。

王毅(おう・き)国務委員兼外相は同日、クアッド参加国のインドのジャイシャンカル外相と会談し、「二大新興経済国として互いに脅威になるべきでない」と呼びかけました。ロシアやイランなど米国と対立する国とも密接な関係を強調しました。

TPPに関しては、中国は現状のままでは加入できません。加入するには、様々なシステムを変えなければなりません。中国が共産主義や国家資本主義とも呼べるような現在の体制を完璧に捨てるというのなら加入できるでしょう。しかし、それは中国共産党の崩壊を意味します。

中国は、2001年にWTOに加盟後、加盟議定 書に定められた条項で要求されたように、 WTOの義務に従うために何百もの法律や規制 などを改正するとしていました。しかし、中国はその約束を反故にしたばかりか、WTO加盟国として の承認を、国際貿易の支配的プレーヤーにするために利用してきました。もし、仮にTPPに入れたとしても、TPPを同じように利用するだけです。

そのようなことは、目に見えているため、日本をはじめとする加盟国は中国を門前払いすることでしょう。

中国はオーストラリアとの間で通商摩擦をかかえている

しかも、中国はTPP参加国のオーストラリアとの間で通商摩擦を抱えています。また、空母「エリザベス・クイーン」を含む空母打撃群を日本に寄港させ、中国との対峙姿勢を顕にした、英国が、TPP加入のための手続きを実行中です。

米国は、TPPに参加しておらず、直接的に中国のTPP加入を批判はしていませんが、台湾のTPP加入を後押しする発言をしています。

米国務省のプライス報道官は24日の記者会見で、中国政府に続いて台湾がTPPへの加入を申請したことについて、「台湾の世界貿易機関(WTO)の責任あるメンバーとしての実績や、民主主義という価値観が考慮されることを期待する」と語りました。 

中国の覇権主義的な動きなどは強く批判しました。 

米国務省のプライス報道官

プライス氏は「米国はTPPに加入していないので、参加国の判断に任せる」とした上で、中国の申請について「市場に基づかない貿易慣行や、他国に対する経済的な威圧が考慮されるべきだ」と強調しました。 

英国や台湾は、いずれ加入することができるでしょう。TPPに英国や台湾が加入できて、中国が申請しても加入できないとなると、中国の異質性がさらに際立つになることになります。

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2021年9月24日金曜日

米英豪の安保枠組みが始動 日本は原潜に高いハードル…諜報機関や法整備が大前提 ―【私の論評】日本がインド太平洋の安全保障への貢献や、シーレーン防衛までを考えた場合、原潜は必須(゚д゚)!

米英豪の安保枠組みが始動 日本は原潜に高いハードル…諜報機関や法整備が大前提 
高橋洋一 日本の解き方

2015年11月5日東京湾に姿を現した米海軍の攻撃型原子力潜水艦「ノースカロライナ(SSN-777)」

 米国、英国、オーストラリアの3カ国が、安全保障の新たな枠組みを作ると発表した。オーストラリアの原子力潜水艦配備を支援する考えを示しているが、中国の海洋進出への対抗としてどれだけの力を持つのか。そして日本はどのような役割を果たすべきなのか。

 原潜を運用している国は、米英のほか、ロシア、フランス、中国の国連安全保障理事会常任理事国とインドの計6カ国だ。オーストラリアは7カ国目になるだろう。

 原潜は軍事秘密の塊であるが、原子力により長期間の連続潜航が可能なので、敵国から本国が攻撃を受けても無傷のまま反撃できる。そのため攻撃への抑止力としては現時点では抜きんでている。

 しかし、日本には、原子力と自衛隊へのアレルギーがあり、その両者の結節点とも言える原潜の導入について、海上自衛隊内部ではこれまで幾度も検討がなされてきたが、具体的な結論はいまだに出ていない。原潜を運用すれば攻撃されにくいのに、原潜そのものを拒否してしまうという不合理な対応に陥ってしまっていたわけだ。

 日本が原潜を持ち得ないというのは、日米豪印の「クアッド」の枠組み検討の際にも欠点として指摘されていた。つまり、日米豪印でインド太平洋の安全保障を考えても、原潜保有国は米印だけであり、インドは独自の軍事戦略をもっているので、米国とはなかなか相いれないだろうと思われていた。そこを日本が橋渡しする役割があったが、日本自身が原潜を保有していない以上、説得力がなくなるのだ。

 そこで米国は、英語圏で機密情報を共有するファイブアイズ(米、英、豪、カナダ、ニュージーランド)のうち、英国に加えてオーストラリアを原潜運営国に格上げしようとしているのだ。

 これにより、日米豪印のクアッドは、日本が原潜を運用するという意思表示をしなければ米豪が基軸になるだろう。もちろん、日本国民のアレルギーをなくすとともに、米国の了解がなければ実現しないという高いハードルがある。

 筆者はかねてより、核兵器などを共同管理する「核シェアリング」を主張してきた。一例は原潜の運用は米国に委ねつつ、意思決定に日本を絡ませるというものだ。その延長線上には、原潜のレンタルや退役した米原潜の購入などもある。

 いずれにしても、日本の諜報機関設置や、スパイ防止法などの制定が大前提だ。ファイブアイズに参画できないのは、日本には役に立つ諜報機関が事実上なく、ほしい情報が入らないためメリットがないばかりか、スパイ防止法がないので情報を与えると漏洩(ろうえい)するデメリットばかりだからだ。

 自民党総裁選やその後の衆院選において、これらの日本の安全保障上の諸問題をぜひとも争点にしてもらいたい。次の日本のリーダーの重要な試金石だと筆者は考える。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日本がインド太平洋の安全保障への貢献や、シーレーン防衛までを考えた場合、原潜は必須(゚д゚)!

現在、世界で使われている商業用原子炉はそのほとんどが大型軽水炉です。この炉型は大型かつベースロードで運用し、電力線網で広範囲に送電するという集中型電力システムで低コストを実現してきました。

しかし東京電力福島第一原子力発電所事故でリスクの高さを露呈し、安全対策の強化で建設コストが上昇、新設では太陽光風力発電に対して競争力を喪失しつつあります。今後は既存原発の運転期間を延長することでコスト上昇を抑えるしかありません。大型軽水炉は将来的には小型モジュラー炉にとって代わられるでしょう。


軽水炉の弱みは、冷却水の供給が何らかの理由で途絶えることで燃料のメルトダウンを招く点にあります。船舶用の動力として小型原発を使えば、万が一の場合、海中投棄でメルトダウンは防げます。燃料の補充が長期にわたって不要な点で潜水艦、砕氷船、発電バージなどで小型軽水炉は最適です。

現在の日本ではすっかり忘れ去られていますが、日本はかつて原子力船「むつ」を建造し、自前の舶用小型軽水炉を実証しましたが、放射線漏れを起こし、残念ながら建造路線は放棄されました。

日本で原潜の開発をするなら、まずは、むつの失敗を総括するところから始めなければならないでしょう。「むつ」の失敗は、「むつ」建造に関わった複数企業の設計インターフェースの悪さ、海外専門家から放射線漏れの可能性を指摘されながらも十分に検討しなかった建造体制の不備などが問題だったようです。

原子力船「むつ」

日本の場合、日本の領土と領海を守るためだけであれば、現在の通常型潜水艦でも十分であるといえます。しかし、日米豪印でインド太平洋の安全保障への貢献や、シーレーン防衛のためには原子力推進の潜水艦保有を検討すべきで。

ポストコロナの中国が南シナ海や東シナ海での軍事活動強化に走り、香港の一国二制度を否定したのは、狙いが台湾併合にあることは明らかです。今後米中関係がさらに悪化して行く中で、台湾有事も想定せざるを得ないです。長期間潜ったまま航行できる原潜が中国海軍の動きを抑えるのに役に立つ。

日本の持つディーゼルとリチウムイオン電池の潜水艦は静音性などに大変優れています。そのため、このブログで何度か掲載したように、現時点においては、日本の潜水艦だけでも、尖閣を含む日本の領土や領海を守ることは十分に可能です。

なぜなら、静寂性に優れ、対潜哨戒能力が低い中国には、これを発見することは困難ですし、逆に日本は対潜哨戒能力にすぐれ、中国の潜水艦を発見するのが容易だからです。

台湾有事においても、日本の潜水艦だけでも、これに対応できる可能性が高いです。静寂性の高い日本の潜水艦数隻で台湾を包囲してしまえば、中国海軍は台湾に近づけば、撃沈されてしまいます。

運良く、中国軍が台湾に上陸できたとしても、日本の潜水艦が台湾を包囲している限り、中国の補給船などは、台湾に近づくことができません。それでも、無理に近づこうとすれば、現地んされてしまいます。そうなれば、台湾に上陸した中国の舞台は、水・食料、武器・弾薬などの補給を絶たれお手上げになってしまいます。

日本だげでもこれだけできますが、米国の攻撃力に優れた攻撃型原潜と協同すれば、中国はお手上げです。日本の通常型潜水艦は、情報収集などにあたり、これを米軍の攻撃型原潜と共有すれば、米軍はより安全に正確に中国や中国の艦艇、潜水艦を攻撃できます。そうなると、中国海軍は最初から手も足もでないです。

ただ、日本がインド太平洋の安全保障への貢献や、シーレーン防衛までを考えた場合には、通常型潜水艦の速度や航続距離などがネックになります。最近、北朝鮮のミサイルを撃ち落とす新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」計画が放棄されました。

敵国領内での基地攻撃の可否が議論されていますが、そもそも攻撃を受けた場合、通常型巡航ミサイルでの反撃は攻撃ではなく防御です。非核巡航ミサイルを装備した原潜による敵の核攻撃抑止も、米国の核の拡大抑止の補完として検討されるべきでしょう。

まずは1隻、米国から購入し技術移転、乗員の訓練などのための日米原子力安全保障協力が必要です。日本に核装備は不要で核兵器禁止条約にも加盟すべきですが、緊張の高まる北東アジアの状況を考えれば、むつ以来のタブーを破り原子力推進の潜水艦建造を検討する必要があるでしょう。

日本では、原子力や自衛隊に対するタブーがあるので、原潜の製造には高いハードルがあるのは事実ですが、モジュール型の小型原発の開発は進んでいます。日立製作所は米ゼネラル・エレクトリック(GE)との合弁会社、日立GEニュークリア・エナジーで出力30万キロワットの小型原子炉を開発中。北米で、2030年ごろに実用化したい考えです。

このモジュール型の小型原発は、無論原潜用にも転用は比較的容易です。量産化された場合、これが原潜に転用されるということは十分に考えられます。

日本の場合、工作技術は世界のトップクラスですし、昔から様々な製品の小型化には定評があります。その日本が、本気で原潜開発に取り組めば、比較的短期間で国産の原潜を製造できるようなるかもしれません。

まずはそのためにも、1隻米国から原潜を購入し技術移転すべきです。そうして、乗員の訓練などのための日米原子力安全保障協力が必要です。日本に核装備は不要で核兵器禁止条約にも加盟すべきと思いますが、緊張の高まる北東アジアの状況を考えれば、むつ以来のタブーを破り原子力推進の潜水艦建造を検討する必要があると思います。

そうなると、日本は、静寂性に優れた通常型潜水艦と、攻撃力と航続距離に優れた原潜の両方を運用できるようになるでしょう。

米国と英国は、原潜を製造した段階で、通常型潜水艦の建造をやめています。そのため、米英には通常型潜水艦の建造技術はありません。フランスやロシアでは現在でも通常型潜水艦を建造しています。ドイツも製造しています。

ロシアの通常型攻撃潜水艦「クラスナダール」

やはり、通常型潜水艦は静寂性に優れるということで、この利点は捨てがたいところがあるようです。米国は、自国では通常型潜水艦を製造できないので、フランスから1隻、乗組員ごと通常型潜水艦を借り受けています。

日本が原潜開発ができるようになれば、静寂性の優れた通常型潜水艦と併用して、世界一の潜水艦隊をつくることができるかもしれません。

たとえば、通常型潜水艦が静寂性を発揮して情報収集や攻撃型原潜の守備にあたり、その情報に基づき攻撃型原潜が、敵基地や監視衛星の地上施設を攻撃をするというような運用の仕方も考えられるのではないかと思います。

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2021年9月23日木曜日

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米英豪3カ国がフランスを「裏切った」本当の理由。対中包囲網に小型原子炉輸出という国益


2021年6月、フランス・パリで会談したマクロン仏首相(左)とオーストラリアのモリソン首相。「裏切り」の展開はこのとき想像されていなかった模様だ。

米政府は9月15日、アメリカ・イギリス・オーストラリアによる新たな安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」創設を発表。同時にオーストラリアに原子力潜水艦の建造技術を供与することを明らかにした。 

オーストラリアはフランスと締結したディーゼル潜水艦開発契約の破棄を通告。対するフランス政府は、駐米・駐豪大使を召還する強い報復に出た。

バイデン米大統領が同盟国であるフランスを犠牲にしてまで、この決定に踏み切った理由は何か。対中包囲網の質と量の強化に加え、小型原子炉の輸出という、「一石二鳥」の狙いが透けて見える。

フランスを除外して「秘密交渉」

メディア各社の報道によると、オーカス創設計画の検討が始まったのは2021年3月。原潜保有を希望するオーストラリア海軍が、建造技術の供与についてイギリス海軍トップに打診した。

  ジョンソン英首相は6月、主要7カ国(G7)首脳会議にオーストラリアのモリソン首相を招待し、バイデン大統領をまじえた米英豪3カ国による秘密首脳会談で計画の詳細を詰めたという。

3カ国はフランスを通じて情報が漏れるのを警戒し、マクロン仏大統領を除外した。

オーストラリアが2016年にフランス政府系造船会社ナバル・グループと結んだディーゼル潜水艦12隻の開発契約(650億ドル=約7兆1500億円)破棄をフランスに通告したのは、オーカス創設発表のわずかに数時間前だった。

フランスのルドリアン外相は「同盟国間であってはならないこと」と非難し、「乱暴で予測もつかない決定はトランプ(前米大統領)と同じ」とバイデン大統領を批判。駐米・駐豪大使の召還を発表した。

バイデン大統領が約7.2兆円ものフランス国益を犠牲にして、米英豪3カ国の安全保障協力を優先した狙いは何だろう。

バイデン大統領はその目的について「21世紀の脅威に対処する能力を最新に向上させる」と、まず中国に対抗する姿勢を鮮明にし、続いて「アメリカの欧州における同盟国をインド・太平洋での協力に転換する第一歩」とも述べ、イギリスと協力する意義をつけ加えた。

具体的な協力内容としては、原子力潜水艦の建造技術をオーストラリアに提供して原潜8隻を建造するとともに、長距離巡航ミサイル「トマホーク」を供与するとしている。

オーカス創設発表翌日の9月16日には、首都ワシントンで米豪外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開き、オーストラリアに駐留する米空軍の兵力規模を拡張することで合意。中国をにらんだ米豪協力を強化していくスタンスを明らかにした。

イギリスを戦列に加え、さらにオーストラリアが西太平洋と南シナ海を舞台に原潜と軍用機で中国ににらみを利かせる「新たなステージ」ができ上がることになる。

オーストラリア原潜「参戦」の意味合い

米国防総省の報告書などによると、中国が保有する潜水艦は原潜10隻を含め計56隻。2020年代末には65~70隻に増える。

 一方、米海軍の就役中の潜水艦はすべて原潜で計68隻。このうち太平洋に展開している原潜は計10隻と、数では中国と互角。今後、協力枠組みに従ってオーストラリアが原潜を8隻保有すれば、数字上では米豪の兵力が勝る計算になる。

 ただし、原潜の「就役時期」という問題が残る。

アメリカとイギリスは今後1年半でオーストラリアへの原潜導入計画を立案し、その間にアメリカのバージニア級攻撃原潜あるいはイギリスのアスチュート級原潜のどちらかを導入するかを決定する。

しかし、それだと就役は早くても2035年以降になる。中国もその間に原潜建造を加速するので、隻数で勝る展開は望めない。

ダットン豪国防相はその点について、米英両国からの「リースや購入も検討している」と述べ、建造以外の方法で原潜就役を前倒しする可能性にも言及している。

一方、中国側の視点に立つと、オーストラリア原潜が「参戦」する意味はもっと鮮明で、以下の3点にまとめられる。

原潜は核攻撃のツールであり、オーストラリアへの核拡散につながるおそれがある。

中国海軍は、米海軍と日本の海上自衛隊への対応に加え、オーストラリア原潜に対応する必要が生まれ、兵力の分散を強いられる。

日米豪印4カ国首脳会合(Quad、クアッド)と併せて、アメリカが対中「統一戦線」を強化することになる。

※オーストラリアへの核拡散……現在原潜を保有するのは米英仏中ロにインドを加えた計6カ国。すべて核保有国で、原潜には核弾頭付き潜水艦発射弾頭ミサイル(SLBM)を搭載する。モリソン豪首相は核武装を否定しているが、中国側は疑念を捨てていない。

アメリカはアフガニスタン撤退後、「対中競争に傾注する」と強調してきたが、その実行のためにバイデン大統領が切ったカードの中身こそが、今回のオーカス創設だった。

「台湾有事」に絡めて日本政府がより主体的な台湾関与政策を強化していることに、中国は神経を尖らせている。 

今回の原潜技術供与についても、台湾や南シナ海など地域安全保障問題でアメリカが自ら前面に出るやり方を変え、日本やオーストラリアなど同盟国に委ねる方針に転じるのではとの見方が、中国側では出ている。

 自衛隊の南西諸島シフトに加え、オーストラリア原潜がアメリカの原潜に代わって南シナ海を潜航する可能性もあるとみる。

原潜向け「小型原子炉」輸出こそアメリカの国益

バイデン大統領による今回の「荒療治」は、対米自立志向の強いフランスを軽視する一方で、アメリカ・イギリス・オーストラリア・カナダ・ニュージーランドというアングロサクソン系5カ国による機密情報共有枠組み「ファイブアイズ」を重視する、同盟関係の「組み換え」とみる分析もある。

しかし、この問題については「米仏対立」ばかりに目を奪われると本質を見失う。見落としてはならないのは「核大国」アメリカの現状だ。

アメリカは原子力発電所の国内での新設はもちろん、輸出もできないデッドロックに直面している。

今回の技術供与により、オーストラリア原潜向けに発電所用の小型原子炉を「輸出」できる展望が開け、デッドロックから脱出する道筋が見えてきた。それは原子力関連の技術維持にも役立つ。 

アメリカの国益にとって決定的なブレイクスルーであり、原子力産業と軍産複合体にとっては「光明」とも言える。

 原潜向けの小型原子炉は、発電所に使われる「加圧水型原子炉(PWR)」とほぼ同じもので技術的な差はない。アメリカは部品を現地に運んで組み立てる「小型モジュール炉(SMR)」を開発中で、オーストラリア南部アデレードで組み立てるとみられる。

 ルドリアン仏外相が「予測もつかない決定はトランプと同じ」と非難したように、トランプ前大統領の同盟軽視路線を批判し、再構築を進める方針を強調してきたバイデン大統領も、結局は国益優先の内向き外交から脱していないということになる。

「クアッド」と「オーカス」の関係性

最後に、バイデン大統領が今回切った新たなカードを大歓迎する台湾の視点を紹介しておきたい。

 李喜明・元台湾軍参謀総長は英紙フィナンシャル・タイムズ(9月16日付)に、「原子力潜水艦によってオーストラリアは初めて戦略的な抑止力と攻撃能力を持つ」と述べ、潜水艦の展開先として「台湾に近い西太平洋の深海」をあげつつ、「トマホークミサイルが加わると、オーストラリアのこぶしは中国本土まで届く」と指摘している。 

中国にとってはまさに「脅威」だ。 

中国共産党は抗日戦争の際など大局のために敵と手を結ぶ「統一戦線」に長けているが、今度はバイデン大統領が中国の株を奪い、反中「統一戦線」を重層的に築こうとしているわけだ。

 その文脈で言えば、インド太平洋戦略の核となる枠組みである前出のクアッドは、アメリカにとって引き続き重要な意味を持つ。9月24日には首都ワシントンで初の対面首脳会議も開かれる。 

ただし、友好国インドは伝統的に非同盟政策をとっており、経済安全保障や新型コロナ対策では協力できても、反中色の強い軍事的協力を進めるのはきわめて難しい。

だからこそ、軍事協力が可能な安全保障枠組みとして、オーカスの創設が大きな意味を持ってくる。

 (文・岡田充) 岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

【私の論評】背後には小型原発の開発競争がある(゚д゚)!

上の記事、網羅的に情報が盛り込まれていて、事情通の人などにはかなり良い記事になっていると思います。ただ、多くの人に理解してもらうためには、若干情報を付け足す必要があります。

まずは、豪州がフランスから潜水艦を受注するようになった経緯から説明します。

もともと豪州は老朽化した通常動力型のコリンズ級潜水艦の代替艦として通常動力型潜水艦の新規建造を決め、2016年にフランス企業のDCNS(現ナバル・グループ)と契約しました。受注総額は500億豪ドル(約4兆円)に上り、豪州にとって史上最高額の軍事プロジェクトとなりました。 

コリンズ型潜水艦の内部

このとき日本政府は安倍晋三政権下で武器輸出を禁じた「武器輸出三原則」を見直し、「防衛装備移転三原則」という名称で武器輸出を解禁したこともあって、フランス、潜水艦大国のドイツとともに受注競争に参加しました。 

豪州の求めていた代替艦が海上自衛隊の「そうりゅう」型潜水艦に最も近かったことから採用が有力視され、製造元の三菱重工業、川崎重工業が売り込みを図ったのですが、親日家とされたアボット首相の退陣や企業側の本気度などが問われ、フランスに破れました。 

フランスが計画した豪州の次期潜水艦は、フランス海軍最新鋭のバラクーダ級原潜を通常動力型に変更。アタック級潜水艦と命名され、2030年代から50年までに合計12隻が納入される予定でした。

ところが、問題が続出しました。 

まずは費用面です。豪州会計検査院によると、500億豪ドル(約4兆億円)と見込まれた受注額は、2019年に800億豪ドル(約6兆4000億円)に急上昇し、昨年7月には897億豪ドル(約7兆2000億円)に更新されました。 

維持費を含めると2080年までに1450億豪ドル(約11兆6000億円)の負担が必要になると見積もられました。この金額は、豪州の国防費の3倍以上にもなります。 

さらに建造開始が遅れ、このままではコリンズ級がすべて退役し、潜水艦が1隻もない状況になるという問題が浮上。フランスが受注した要因のひとつである現地生産による地元雇用も進んでいません。結局、三重苦に見舞われ、今年1月には豪州メディアが「政府がフランスとの契約キャンセルを検討している」と報道しました。 

上の記事にもあるように今回、豪州が米国の技術供与による原潜建造を決めたことでフランスとの契約は破棄されます。

ロイター通信によると、ルドリアン仏外相はラジオ番組に出演し、「これは一方的で、予測不能なひどい決定だ。トランプ前米大統領のやり方を思わせる。信義に反するもので非常に腹立たしい」と語ったという。 

ルドリアン仏外相

価格を急上昇させたうえ、受注時の条件をあやふやにしておきながら、何を今更という感がなくもないですが、フランスにとって今世紀最大のもうけ話が消えたのだから怒るのも無理はないかもしれません。 

豪州は新造が予定されたアタック級潜水艦の戦闘システムや魚雷などの武器類について米国製とすることを決めていました。受注を狙っていたのは世界最大の米軍需産業ロッキード・マーチンや米大手のレイセオンです。

米政府は潜水艦に搭載する最新鋭の戦闘システムがフランスの潜水艦に搭載されることに懸念を抱いていたとされ、今回の原潜技術の供与につながった可能性があります。潜水艦の本体ごと米国が受注すれば、秘密漏洩の不安は消えるからです。

そうして、もう一つ付け加えるべきは、中国とフランスが原子力に関して協力関係にあるということもあります。特に、フランスと中国広核集団との関係には、注目すべきです。

広核集団の最初の原子力発電所はフランス国有企業フラマトムが設計と建設を行ったものです。その後広核集団はフランスの原発を基礎とした改良型の加圧水型炉として中国国産のCPR-1000を開発しました。CPR-1000は完全に中国が設計から建設までを行える形式で、中国で建設される原発の多数がこの形式であり、電力革新の主導方法と考えられています。

2007年2月、広核集団はアレバ欧州加圧水型炉を導入した台山原子力発電所の建設に合意し、咸寧原子力発電所にはウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニーAP1000を利用しました。これらの建設発表によって広核集団は第3世代+の原子炉(フラマトム社性欧州加圧水型炉 EPR)を建設する初の企業となりました。

この世界初のEPRとして、中国で運転を開始した台山原子力発電所1号機(PWR、175万kW)で今年の6月に小規模の燃料破損が生じたことについて、フランス電力(EDF)は7月22日、「同機が仏国で稼働中の原子炉であったら運転を停止していた」との見解を表明しています。

これは、大問題です。仙山原子力の燃料破損については、ここでは述べると長くなってしまうので、興味のある方は、他のメディアの記事などにあたってください。

こうした、中仏の原子力による協力関係は米国にとっても、安全保障上においても、事業上においても無視できなかったのでしょう。

特に、現在世界中の国々が次世代の小型原発の開発にしのぎを削っています。日米は無論のこと、中露仏も開発中です。

小型原発は、モジュール化されており、製造のほとんどを工場で行い、それを現地に運んで据え付けるという方式がとれるので、建造の期間が現在の巨大な原子炉よりもかなり短くてもすむという利点があります。さらに小型であることから、冷却に既存の巨大原子炉より、はるかにしやすいという利点もあり安全であるという利点があります。

さて、小型原発とはどのくらいの大きさかと言うと、以下の写真をご覧ください。

ニュースケール社が設計したSMRの上部約3分の1の実物大模型=米オレゴン州コーバリス

従来の原発よりかなり小さいです。これによる発電は従来の原発とはかなりイメージが異なります。従来だと、北海道全域などかなり広い地域に電力を供給することを想定していましたが、小型原発は、市町村単位やもっと小さな単位に電力を供給します。

そのため、中国が小型原発の開発に成功すれば、これを船に積んで、南シナ海に運び、洋上で原子力発電をして、南シナ海の中国の軍事基地などに電力を供給することも考えられます。実際に過去に中国はそのような計画を発表しています。

さらに、中国は一帯一路に関連する諸国等に、小型原発を輸出するということも考えられます。これに成功すれば、中国にとっては、外貨を稼ぐための稼ぎ頭になる可能性もあります。

これにフランスが積極的に協力することがないように、釘をさすという意味あいも、今回の「AUKUS(オーカス)」創設を発表と、同時にオーストラリアに原子力潜水艦の建造技術を供与することの背後にあると思われます。

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2021年9月22日水曜日

衆院選、初の任期満了後に…臨時国会10月4日召集を閣議決定―【私の論評】誰が総裁になっても、当面緊縮路線には振れない、今後の政局だが・・・(゚д゚)!

衆院選、初の任期満了後に…臨時国会10月4日召集を閣議決定

 政府は21日、菅首相の後継を選出する臨時国会を10月4日に召集することを閣議決定した。これで衆院選は衆院議員の任期満了日(10月21日)以降になる見通しとなった。現行憲法下では初めてとなる。

国会議事堂

 4日の召集日に衆参両院で首相指名選挙を行い、同日中に新内閣が発足する。臨時国会の会期や日程は新首相の下で決定される。

 9月29日投開票の自民党総裁選に立候補した河野太郎行政・規制改革相、岸田文雄・前政調会長、高市早苗・前総務相、野田聖子幹事長代行の4氏は、首相に選ばれた場合、臨時国会で所信表明演説と各党の代表質問を行う考えを示している。

 代表質問後の10月中旬に衆院を解散すれば、準備期間を考慮すると、投開票は11月以降が確実だ。

 新首相は衆院選後、新型コロナウイルス対策を盛り込んだ2021年度補正予算案を国会に提出するとみられる。補正予算の早期成立のため、衆院選の日程は、選挙準備が間に合うとされる10月26日公示―11月7日投開票が軸となりそうだ。

 公職選挙法に基づき、投開票日は11月28日まで遅らせることもできる。

 衆院解散を伴わない場合、公選法は任期満了選挙の投開票日を「国会閉会翌日から24日~30日後」と定めている。

【私の論評】誰が総裁になっても、当面緊縮路線には振れない、今後の政局だが・・・(゚д゚)!

現在は総裁選の真っ最中だが・・・・

上の記事にもあるように、政府は菅総理大臣に代わる、新しい総理大臣の指名選挙を行う臨時国会について、10月4日に召集することを閣議決定しました。これにより、次の衆議院選挙は衆院議員が任期満了する10月21日以降に行われる見通しになりました。

総務省によると、衆議院議員の任期満了日以降に衆議院選挙が行われれば、戦後初めてのケースになります。

ただし、自民党総裁選の日程が出たころに、このスケジュールは言われていました。

これは予想通りなのですが、このように明示されますと、今後どのようなスケジュールなのか大体わかります。十中八九10月4日に国会召集になります。その前週である9月29日の水曜日に総裁選の投開票が終わり。木曜・金曜には、いろいろな組閣の話のニュースが山ほど出て来ることになるでしょう。

10月4日になるとそれが紙面に出て、そのあと組閣になるのでしょう。国会は10月4日に招集され、所信表明演説等を行い、の月曜日からその週いっぱい開催されることになるでしょう。

所信表明演説をするとと、それに対して各党の代表質問という形になります。それが8日くらいに終わることになるでしょう。10月4日という国会召集日から逆算すると、衆議院選は、10月26日公示、11月7日投開票というスケジュールになるでしょう。

例えば8日に解散してしまうとすると、いろいろな規定があるのですが、こういう流れだと30日以内に国会というか、衆議院になるのです。予定としては11月7日の投開票。これが赤口の日です。12日以上、公示まで期間を取らないといけないのです。そうすると10月26日公示というスケジュールが簡単に出て来ます。

10月26日は大安なので、大安に公示することになるでしょう。それで11月7日の赤口のときに総選挙・投開票というのが普通のスケジュールになるでしょう。

別の角度から、総選挙・投開票の11月7日から逆算してみてもこのようなスケジュールになるざるをえません。スケジュールは1つ決まると芋づる式にみんな決まってしまいます。9月29日に総裁選の投開票をすると決まったときに、ほとんどスケジュールは決まっていたのだと思います。そうすると、その前の9月30日に「緊急事態宣言の解除」ということになるでしょう。。

11月7日の投開票前くらいには、ワクチン接種希望者はほぼ全員が打ち終わっていることでしょう。感染者数は、少し上がるかもしれませんが、いまより悪くはないでしょう。

公職選挙法の規定で、「国会閉会の日から24日以降、30日以内に選挙をしなくてはいけない」ということが決まっていて、ある程度、公示までに時間差を付けなければならないということも考えると、8日には締めなくてはいけないです。そうすると26日に公示になると。首班指名の国会のなかで、少し取り沙汰されていた「補正予算」関する審議は、日程的に難しいでしょう。

そうなると、総選挙が終わったあとに、すぐ国会を開くので、そのときに審議することになるでしょう。

新総理が、所信表明を仮にするとすれば、そのときにある程度の規模の補正予算案を出したあとで、その後にに解散総選挙ということになりますから、多くの人が様々な経済対策に言及することになります。それがあとで補正予算に反映されることになるでしょう。

緊縮命の財務省的には、嫌でしょうが、この状況では増税も含めて緊縮キャンペーンはかなりやりにくいです。。先に補正予算をある程度決めておいた方が、枠が決まります。たた、選挙になるとどのように膨らむかわからないところがあるのも事実です。


誰が新総裁になっても緊縮的な経済政策話は当面出にくいです。補正予算が何もない等ということにはならないでしょう。


何らかの形で補正予算の編成をしなければならなくなるでしょう。補正は30兆円規模だと言う人も何人かいますし、これに引きずられる形で、誰が総裁になったとしても、補正予算を組むでしょう。

補正予算に関しては、与野党各党からさまざまな政策も出て来ています。公明党は18歳以下のお子さん1人当たり、10万円の給付を柱とする政策が出されています。18歳以下の人口は少ないですから、予算的には大きくなることはないので、それはもうすでに織り込み済みでしょう。

さらに手厚く広くするかが、政策議論の論点にになるのでしょう。「減税しない」ということは現時点でもはっきりしているので、そうなると、消費が落ちているので、さらなる給付金政策が論点になるでしょう。

2020年に実施した、所得制限なしの1人当たり10万円の一律給付も俎上に上る可能性もあります。

これからの自民党総裁選と、次の衆議院選挙の期間で、決まってくることになるでしょう。

他方、立憲民主党は21日、安倍前政権の経済政策「アベノミクス」について「格差や貧困の問題の改善にはつながらなかった。日本経済が混迷から抜け出せない最大の要因だ」とする検証結果をまとめました。枝野幸男代表はこれを受け、「時限的な消費税5%への減税」を次期衆院選の目玉政策に掲げる考えを改めて述べました。

あいかわらずマクロ政策を理解していない枝野氏

立憲民主党の「アベノミクス」総括は問題外ですが、これがなぜ問題外なのか考えてみます。まずは、マクロ政策で一番重要なのは雇用確保ということです。他の経済指標が悪かったとしても、雇用が良ければ、マクロ政策は成功したとみなして良いです。逆に他の指標がどんなに良くても、雇用が悪ければ失敗です。

そういう観点からみると、安倍総理は、歴代政権で最も雇用をつくりました。そのあとコロナ感染症があったことから、割り引いて考える必要があるでしょうが、マクロ政策から見れば、失業率を考えると、コロナ禍でも日本は先進国に比べて低いので、最もいいか、2番目という成績になります。

日本の失業率はコロナ前の2020年2月に2・4%でしたが、その後上昇し、10月に3・1%とピークになり、21年7月は2・8%まで低下しました。米国は20年2月に3・5%でしたが、4月に14・8%とピークで、21年7月は5・4%。EUは20年3月が6・3%でしたが、8月に7・7%、21年7月は6・9%となりました。

それぞれ、コロナ前とコロナ後のピークの差は日本が0・7ポイント、米国が11・3ポイント、EUが1・4ポイントでした。コロナ前と直近の差は日本が0・4ポイント、米国が1・9ポイント、EUは0・6ポイントです。

これらの数字から、コロナ禍による失業率の上昇を最も抑えたのが日本であることがわかります。その理由は、日本では雇用保険の中に雇用調整助成金があるからです。この制度は、労働者の失業防止のために事業主に給付するものです。類似制度は世界ではそれほど多くないが、似た制度があるドイツも、ピーク時の失業率上昇は0・7ポイントと他国と比べて抑えられています。

コロナ失業を防いだ雇用調整助成金

厚生労働省は16日、2021年版の労働経済白書を公表しまた。新型コロナウイルス感染拡大により雇用が悪影響を受けたとする一方、雇用調整助成金(雇調金)などの効果により、完全失業率は2・6ポイント程度抑制されたとの推計を示ました。雇調金がなかった場合、失業率は5・5%に上昇した可能性があるとしています。

このように、雇用調整助成金は確実に効果を上げたのですが、一方では財源が逼迫しているので、保険料をあげようなどとの議論もされています。しかし、それでは何のための保険なのかということにもなりかねません。総裁選、衆院選と選挙が続く時期に、政府は当然このようなことはできないでしょう。それに、こういうことのためにも、補正予算を組むべきです。

とこが、立憲民主党は雇用には目もくれずすぐに、「実質賃金がー」という、本筋ではない議論をしてアベノミクスを矮小化してしまいます。

雇用が伸び始めるときには、非正規雇用から伸び始めるので、当初は実質賃金が下がるのは当然のことです。これは、アベノミクスの初期にも言われていたことです。

実質賃金が、少し下がっても、それよりは雇用の方がはるかに重要なのです。雇用が伸びるということは、いままで給料をもらっていない人ももらえるようになったというとです。マクロ経済政策では、それがいちばん重要なのです。

平均値よりは雇用の絶対量の方が重要ですから、失業率は雇用量で見るのが通常なのです。でも野党の人は、そうすると「安倍さんが歴代政権トップ」と言わざるを得なくなりますから、それは言えないでしょう。

また雇用を改善するには、政府が積極財政をするのは当然ですが、日銀は金融緩和策を取らなければなりません。これなしに、政府が積極財政をしただけでは、効果はありません。しかし、日銀が金融緩和をすれば、雇用は確実に善くなります。

経済回復しても、日銀がゆるやかな緩和を継続すれば、やがて実質賃金もあがります。そうでなければ、賃金は上がりません。それは、日本の賃金が20〜30年前から上がっていないことでも、実証されています。

日銀が金融緩和をして、雇用が改善する当初は、実質賃金は下がります。雇用が改善し、景気が回復した後でも、ゆるやかな緩和を続ければ、実質賃金も緩やかに上昇します。緩和で実質賃金が下がるのは一時的なことなのです。日本の賃金が上がらないのは、日銀の金融政策が元凶です。

そのことも、理解されるようになって欲しいものです。特に、新総裁、新しく総理になる方には、それを理解していただきたいものです。私は、総理が誰になったとしても、ここ1、2年は、緊縮に踏み切ったり、日銀が金融引締に転じることはないと思います。

ただ、2年後、3年後を考えた場合には、やはりマクロ政策、その中でも雇用政策を理解した人に総理になっていただきたいと思います。

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2021年9月21日火曜日

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緊急事態宣言 全面解除視野に検討 28日に決定へ

菅総理

政府は、9月末に期限を迎える19の都道府県への緊急事態宣言について、全面的な解除も視野に、検討に入った。
菅首相が今後、関係閣僚や専門家の意見をふまえて、28日に最終決定する方向。 複数の政府関係者によると、新型コロナウイルスの新規感染者数が全国的に減少傾向にあることから、東京など19の都道府県に出している宣言を、9月30日の期限で解除する検討に入った。

 政府高官は、解除に際して、「宣言を完全に解除する案」と、「宣言を解除し、まん延防止措置に移行する案」があり得るとしている。

 また、「18日からの3連休で、どの程度、人出が増えたのかも見る必要がある」と述べていて、解除の判断を慎重に行う考えも示している。

加藤官房長官「(広島と岡山が)6月20日に解除された時には、まん延防止等重点措置は導入されなかったという経緯もある。

まん延防止等重点措置をもう1回はさんだケース、ケース・バイ・ケースと思う」 政府は、菅首相がアメリカ訪問から帰国する26日以降に最終判断する方針で、28日に対策本部を開いて正式決定し、その後、菅首相が記者会見を行う方向で調整を進めている。

【私の論評】あらゆる統計が、緊急事態宣言を解除すべきことを示している(゚д゚)!

麻生太郎財務相は21日の記者会見で、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会など専門家の主導でこれまで導入してきた行動制限について、「外で飯を食うな、人に会うな等々、制限をいつまでされるおつもりなのか。その根拠は何なのか。本当にそれが必要で効果があったのか。私にはなんとなく、ちょっと違うんじゃないかという感じはする」と苦言を呈しました。

麻生財務相

また、人流増加が感染増加につながると専門家が警告していたにも関わらず、最近は人出が増えているのに新規感染者はピーク時から大幅な減少傾向となっていることについて、「われわれ素人からみて、あの話はまったく噓だったって話になるんですかね。よく分からないね俺は」と指摘。

その上で、「もう少し、プロといわれる方々が正確な情報を出していただけることを期待している」と述べ、コロナ対策に関する情報発信の仕方を改めるよう提案しました。麻生氏の語っていることは、全く正しいと思います。コロナ観戦情報に関して、マスコミだけではなく、客観的な一次情報等にあたった人は誰でもこのような考えをするのではないかと思います。

ただし、政府分科会の上に対策閣僚会議があり、麻生大臣はそのメンバーだったので、政府の意思決定の時に言うべきだったと思います。

さて、緊急事態はどうすべきなのかといえば、私自身は全面解除すべきと思います。それは、言葉で説明するよりも以下のグラフをご覧いただければ、一目瞭然と思います。


これだけだと、比較の対象がないので、以下に英国との比較を掲載します。


百万人あたりのコロナ感染者数、死者数とも英国のほうが日本よりはるかに多いですが、ある程度の制限はあるものの、日本のように自粛要請にもとづく実質的な行動制限等は行われていません。

その英国のボリス・ジョンソン首相は5日の記者会見で、イングランドの新型コロナウイルス対策が今月19日に最終段階に入り、マスク着用や他人との距離確保のルールは廃止されるとの見通しを示しています。

イングランドで16カ月間にわたって実施と解除が繰り返されてきた日常生活の制限措置が、終了することになります。個人宅での集まりを6人までとする決まりや、在宅勤務のガイダンスも撤廃されます。

最終段階「第4ステップ」を予定どおり19日に開始するかは、12日に最新データを基に検討して決めます。

ジョンソン氏が明らかにした新たな段階には、以下の内容が含まれています。
  • 結婚式や葬式の参加者数制限をなくす
  • バーやレストランのテーブル席での接客に関するルールや、会場での受け付け手続きの義務付けを廃止する
  • 介護施設の訪問者数制限をなくす(指名された訪問者について)
  • 地方自治体による規制強制の権限をなくす
  • 大規模イベントの認可が法的には不要になる
ナイトクラブは、パンデミックが始まって以来初めて営業を再開できます。バーも再び酒類を提供できるようになります。

ジョンソン氏は、ワクチン接種や新型ウイルス検査の陰性証明の提示は法的に義務づけないが、店側が客に求めることはできるとしました。

学校のバブル(関係者だけでつくる安全圏)や旅行、自主隔離に関しても近く見直される予定。ギャヴィン・ウィリアムソン教育相が6日に詳しく説明するといいます。

ジョンソン氏はマスクについて、着用が法的義務ではなくなった後も、自分は混雑した場所では「礼儀として」着け続けるつもりだと述べました。

また、イングランドで法的制限の大部分を終了させられるのは、ワクチン接種が進んだことで、新型ウイルス感染が死亡につながりにくくなったからだと説明しました。

ただ、1日あたりの感染者は今月中に5万人に上ると予測されていると警告。「悲しいことだが、(新型ウイルス感染症の)COVID-19で今後も死者は増えるという事態と、私たちは折り合いをつけなければならない」と話しました。

日本の場合は、英国よりは、感染者数も死者数も少ないですから、折り合いをつけるという消極的な考えではなく、感染者数が増えても、重症者、死者を増やさない強靭な社会を構築するほうに舵を切るべきです。

デルタ株を心配する人も多いですが、これについても、デルタ株は感染力は強いものの、弱毒性のようです。これについては、大阪市が独自の調査を行っています。

デルタ株が広がった第5波で若年感染者は大幅に増えたものの、重症化リスクはほとんど変わらず、極めて低い水準であることが、大阪府の年代別重症例の集計結果(9月6日判明分まで)でわかっています。その結果をまとめたのが下の表です。


東京も感染者数そのものが、減少しました。以下の表を御覧ください。


あらゆる統計が、緊急事態宣言を解除すべきことを示しています。

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2021年9月20日月曜日

米露関係の焦点となるウクライナ―【私の論評】NATOと直接対峙できないプーチンは、ウクライナに対して呼びかけをして機会を探りはじめた(゚д゚)!

米露関係の焦点となるウクライナ

岡崎研究所

 ウクライナのゼレンスキーは大統領当選後、ホワイトハウスで米大統領と会談することを求めてきたが、これが9月1日にようやく実現した。会談は2時間行われたという。

 ウクライナ側は、バイデン大統領はロシアに迎合しウクライナを軽視しているのではないかとの懸念を抱いて来た。6月に行われた米ロ首脳会談は、米政権は2014年のロシアのウクライナのドンバスへの侵攻を軽く扱っているとのウクライナの批判や懸念を招いた。7月にバイデンがメルケルと取り引きを行い、ノルドストリーム2パイプラインへの反対を取り下げた決定も同様である。


 バイデンは今回の会談で、米国の「ウクライナの主権擁護への強固な約束とロシアの〝侵略〟への反対」を打ち出し、ウクライナを安心させようとした。バイデンは、ウクライナに対する6000万ドルの安全保障支援パッケージを発表し、ペンタゴンは黒海での安全保障、サイバー安全保障、情報共有についての協力を推し進める「戦略的防衛枠組み」に署名した。

 ゼレンスキーは、訪米前に米国がウクライナのNATO加盟についてイエスかノーかの回答をバイデンより得たいとメディアに述べていたが、NATO加盟問題について米国より明確な回答は無かった模様である。ウクライナのNATO加盟は米国が単独で決められる問題ではなく、今や30か国になったNATO同盟国の全会一致で決められるべき問題であるので、ゼレンスキーの要求は過剰な要求であったように思われる。

 ホワイトハウスのサキ報道官は記者会見で「米国はウクライナのNATO加盟願望を支持しているが、そのためにウクライナにはしなければならない行動がある、ウクライナはそれが何であるかを知っている。その行動とは法の支配の前進努力、防衛産業の近代化、経済成長の拡大である」と指摘し、「(加盟希望国が)加盟国の義務を履行できるようになり、欧州大西洋地域の安全に貢献できる時のためにNATO参加の扉を開いたままにしておくことを支持している」と述べた。

 NATO加盟問題については、進展はなかったが、上述の通り、ウクライナに対する武器供与については6000万ドルの安全保障支援パッケージが合意されたこと、バイデンからウクライナの主権と領土一体性を守る米のコミットメントは「鉄の装甲のように固い」との発言を引き出したことは、ウクライナ側にとり歓迎できることであったと思われる。

行動指針を示したとも言えるプーチンの論文

 米中対立では台湾が今後焦点になるが、欧州における米ロ関係では、今後ウクライナが焦点になる可能性が最も高いと思われる。 

 本年7月21日にプーチンは自ら「ロシア人とウクライナ人の歴史的統一について」という論文を発表している。要するに、ロシア人とウクライナ人は同じ民族であるとする主張である。これをプロパガンダと片づける人も多いが、プーチンの今後の政策、行動方針を示したものと言う人もある。後者のごとくみなして、警戒していく事が正解ではないかと考えられる。

 今年の4月、ロシアはクリミアや東部ウクライナの国境近くに10万以上の兵力を演習と称して展開、ウクライナに威圧を加えた。バイデンがプーチンとの首脳会談を持ち掛けたのはこの緊張の緩和をも狙ったものであった。ロシアはこの兵力は撤収させたが、ウクライナ側はいつでもロシアは兵力展開ができる状況が続いているとしている。ウクライナ問題はかなり大きな影響を世界情勢に与える問題であり、注視する必要がある。

【私の論評】NATOと直接対峙できないプーチンは、ウクライナに対して呼びかけをして機会を探りはじめた(゚д゚)!

上の記事で、プーチンが論文を書いたことが示されています。プーチン大統領は元々節目節目で「論文」を発表する人です。もちろんそれは学術的な意味での論文ではないですが、プーチン氏の政見がうかがえるという意味で興味深くはあります。

その先駆けとなったのが、まだ首相だった1999年12月30日に発表した「千年紀の狭間におけるロシア」という論文でした。


その翌日、エリツィン大統領が電撃的に辞任し、プーチン氏は大統領代行に就任して、名実ともにロシアの最高権力者となりました。


プーチン氏


2012年3月の大統領選挙前には「論文攻勢」を仕掛けたこともありました。2012年に入ると、プーチン首相(当時)は実質的に自らの選挙綱領に相当する一連の論文を新聞紙上で次々と発表しました。週1本のペースで発表された論文は計7本に上りました。


このように、何か事を起そうという時にまず「論文」を発表して、自らのビジョンを示して見せるというのがプーチン流なのです。


そうして、2021年7月12日付の大統領の署名による「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」というタイトルの論文がクレムリンのHPに掲載されました。

ちなみに、ウクライナ国民の感情に配慮したのか、ロシア語に加え、ウクライナ語のテキストも添えられています。

以下に、論文の主要点を掲載します。
近年、ロシアとウクライナの間に出現した壁を、私は大きな共通の不幸、悲劇として認識している。それは、様々な時期に我々自身が犯した過ちの結果ではある。

しかし、我々の統一性を常に損ねようとしてきた勢力が意図的にもたらした結果でもあった。

今日のウクライナは、完全にソ連時代の産物である。ウクライナは多分に、「歴史的なロシア」を損なう形で形成された。「歴史的なロシア」は、ソビエト政権の下で、実質的に簒奪されたのである。

ウクライナ人が独立した民族だという概念を強化する上で決定的な役割を果たしたのは、ソ連当局だった。

まさにソ連の民族政策によって、大ロシア人、小ロシア人、白ロシア人からなる三位一体のロシア民族に代わり、ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人という3つの個別のスラヴ民族が、国家レベルで固定化されたのである。

ソ連が崩壊した時、新生ロシアは新たな地政学的現実を受け入れた。それのみならず、ウクライナが独立国としてやっていけるよう、困難な1990年代にも、2000年以降も、ウクライナに巨額の支援を行ってきた。

1991~2013年に、天然ガスの値引きだけでも、ウクライナの国庫は820億ドル以上を節約できた。ウクライナ当局は、今日でもロシアから年間15億ドルのガス・トランジット収入を得ることに汲々(きゅうきゅう)としている。

ロシアとの正常な経済関係が維持されれば、ウクライナはその経済効果で年間数百億ドルを期待できたはずなのだが。

ウクライナとロシアは、数十年、数百年と、単一の経済システムとして発展してきた。30年前の協力関係の深さはEU諸国が羨むほどのものだった。

両国は、自然かつ補完的な経済パートナーである。緊密な関係は、お互いの競争力を強化し、両国の潜在能力を数倍にも発揮することを可能とする。

ウクライナには、大きな経済的ポテンシャルがあった。ソ連から遺産を継承したウクライナの指導者たちは「ウクライナの経済はヨーロッパでトップレベルになり、国民は最も高い生活水準を享受できるようになる」と約束した。

ところが、かつてウクライナとソ連全体が誇りとしたハイテク巨大企業は、今日では休眠している。過去10年間で機械産業の生産は42%減少した。過去30年間で発電量がほぼ半減していることからも、工業の衰退と経済全体の劣化の程がうかがえる。

IMFによると、2019年のウクライナの一人当たりGDPは4,000ドルを下回っており、ウクライナは欧州最貧国となっている。こうした状況に責任があるのはウクライナ国民ではなく、権力者である。

ウクライナは欧米によって危険な地政学的ゲームに引き込まれていった。その目的はウクライナをヨーロッパとロシアを隔てる障壁にし、またロシアに対する橋頭堡にすることだった。

ウクライナには、ロシアとの提携を支持する人々が数百万人もいるが、彼らは自分たちの立場を守る法的な機会を実質的に奪われている。彼らは脅迫され、地下に追いやられている。 ロシアはウクライナとの対話に前向きで、複雑な問題を議論する用意がある。

私は、ウクライナの真の主権はロシアとのパートナーシップによってのみ可能であると確信している。ともにあれば、これまでも、そしてこれからも、何倍も強く、成功するはずだ。結局、我々は一つの民族なのだから。
ロシア大統領府公式サイト
論文の中でプーチン氏は、ロシア人とは異なるウクライナ人の民族的独自性を否定するようなことを述べています。プーチン氏は以前もそのような主張を唱えていました。

さらに、ロシア人という包括的な民族があり、大ロシア人、小ロシア人、白ロシア人の三つはその支族であったという定式は、ロシアにおける伝統的な民族観を踏襲したものに過ぎません。

2010年に行われた意識調査によると、ロシア人とウクライナ人が単一の民族だと認識しているのは、ロシア側では47.1%、ウクライナ側では48.3%だったといいます。

そのため、今回プーチン氏がロシア人とウクライナ人がもともとは民族的に同一と述べたからと言って、特別新奇な問題発言というわけではありません。

ロシアの人口は200近くの異なる民族で構成されており、その中には200万~300万人のウクライナ人も含まれています。ウクライナ人とベラルーシ人は、ロシアの他の少数民族よりも文化的にロシア人に近いです。

ロシア人はウクライナの人口の17%を占めており、ロシアの文化はウクライナの文化の一部であることを意味しています。

とはいえ、いくつかの違いはありますが、それは対照的と言うよりかは連続的なものです。ウクライナ東部と南部に住むウクライナ人はロシア人とほとんど区別がつかないのに対し、ウクライナ西部のウクライナ人は文化的にはかなり違っています。

最も明白な違いは言語です。ウクライナ人のほぼ全員がロシア語を話しますが、家庭でロシア語を使うのは半数にすぎず、ロシア語を母国語としているのは30~50%にすぎません。ウクライナの西部地域では、ウクライナ語が主流です。

もう一つの違いは宗教です。ロシア人のほぼすべての民族はロシア正教の信奉者であり、特にウクライナの東部や南部のウクライナ人の大多数も同様です。しかし、ウクライナ西部ではカトリックの信者が多く、プロテスタント/福音主義者の数はロシアよりも多いです。

政治的には、強権国家を支持するロシア人よりも、無政府主義的な態度をとるウクライナ人の方が多いのではないでしょうか。また、現時点では、ウクライナ人はロシア人よりも西欧に対して好意的な態度を取っています。

しかし、ウクライナでも時代とともに独自の民族理念が浸透し、2014年の政変以降はそれがさらに強まっています。

ウクライナ領クリミアを一方的に併合し、東ウクライナ・ドンバス地方に戦乱をもたらした張本人のプーチン氏が、ロシア人とウクライナ人は同一民族というようなことを述べれば、多くのウクライナ国民が不快に感じるのは必至です。

そもそも、プーチン氏はなぜこのタイミングで、確実に物議をかもすであろう論文を発表したのでしょうか。

ロシアの専門家による分析の中で、には確かにプーチンは今回ロシア人とウクライナ人の民族的一体性を強調してみせたのですが、だからと言ってそれを根拠にプーチン政権がウクライナに対し、新たに侵略的な政策を発動することは考えにくいという指摘がありました。

今年に入ってから、ロシアが対ウクライナ国境に兵力を集結させるなどして、ドンバス情勢が緊迫化した経緯がありました。

ウクライナのドンバスの位置 色が濃い部分

しかし、強硬姿勢が思うような効果を挙げなかったため、プーチン政権としては対ウクライナおよびドンバス政策を仕切り直そうとしており、その一環としてプーチン氏は「論文」という形でロシアの立場を改めて明確化しておくことにしたのでしょう。

今回のプーチン論文をウクライナ国民がどのように受け止めているかを調べた世論調査の類は、まだ発表されていないようです。

そのため、ウクライナ国民の反応については推測するしかないのですが、今のところプーチン論文がウクライナ国民の意識を大きく変えることはないのではないようです。ウクライナの人々は、プーチン体制のロシアに対する態度を、すでに固めているからです。

ウクライナ国民の多数派は、2014年にプーチン政権が行ったクリミア併合・ドンバス介入という仕打ちを許していません。今さら、プーチン氏がロシア人とウクライナ人の民族的一体性をアピールしたところで、「なるほど、ではロシアをパートナーに選ぼう」ということにはならないでしょう。

もちろん、プーチン論文はロシア国民の琴線には触れるところがあり、プーチン政権が対ウクライナ政策を国内向けに正当化するという意味はあるでしょう。

ちなみに、プーチン論文へのコメントを求められたゼレンスキー・ウクライナ大統領は、ロシアの我が国に対する態度は真に兄弟的なものとは言えず、むしろ「カインとアベルの関係を思わせる」と指摘しました。

カインとアベルは、旧約聖書に登場するアダムとイヴの息子たちのことであり、兄がカイン、弟がアベルである。旧約聖書によれば、カインがアベルを殺してしまい、これが人類初の殺人で、さらにそのことについてカインが白を切ろうとしたことが、人類初の嘘であったとされています。

ゼレンスキー・ウクライナ大統領

ロシアは面積こそ世界一ですが、人口は約1億4000万で日本をわずかに上回る程度です。経済規模は日本の3分の1以下、米国の10分の1以下で、世界で12位。G7各国はもちろん、韓国をも下回ります。そんな国がなぜ大統領選への介入疑惑で米国をゆさぶり、中東や朝鮮半島情勢で発言権を確保できるのでしょうか。

まずは、ロシアは旧ソ連の核や軍事技術を直接継承した国であるということです。GDPが低下したからといって、この点は侮れないところがあります。さらに、それだげてはありません。

力の源泉をたどっていくと、やはり石油と天然ガスです。

この10年ほど、ロシアが戦略的に進めてきたのがアジア・太平洋方面への輸出の拡大です。日本も石油・天然ガスともに1割近くを依存。欧米からの制裁が、「東方シフト」をさらに後押ししています。


北極方面からロシアの地図を眺めると、旧ソ連時代に建設された欧州方面へのパイプラインに加えて、中国や太平洋に向けて、両腕を広げるようにパイプラインの建設が進んでいることがわかります。


欧州の命綱を握っているという自信が、国際的に孤立しても強気の姿勢を崩さない理由のひとつでしょう。さらに、どこにでも運べるLNGの生産能力を高めていくことがロシアの戦略です。


ところが、石油・天然ガスは、ロシアのアキレス腱でもあります。1991年のソ連崩壊は、85年から86年にかけて起きた原油価格の急落が引き金を引いたと指摘されています。エリツィン政権時代も安値が続き、98年には債務不履行(デフォルト)に追い込まれました。


それが、2000年のプーチン政権の誕生と機を同じくして価格は上昇に転じ、ロシアは瞬く間に債務国から債権国に。ところが、その後もリーマン・ショックなどによる原油価格下落のたびに、ロシア経済は大きく揺らぎました。


米国発のシェールガス革命は、天然ガスでのロシアの独占的な立場を脅かしています。頼みの「東方シフト」の先行きも不透明です。輸出先として期待する中国は中央アジア諸国からも輸入しており、ロシアの資源を安く買おうと揺さぶりをかけます。石油とガスは、ロシアにとって諸刃の剣になっています。


軍事技術は別にして、その他は、石油・ガスだけが、一次産品のロシアの原動力であることから、これから急激に発展する可能性は全くありません。


ロシアは、米国を除いたNATOさえ対峙できないでしょう。たとえば、ウクライナを巡ってロシアがNATOと戦争にでもなった場合、初戦においては、最新の軍事技術を用いたり、石油天然ガスをとめるなどで、大きな成果をおさめるかもしれません。


しかし、その後戦争が長引けば、NATO諸国は同盟国の力も借りることができるのて、反転攻勢にでるでしょう。


ロシアは、元々GDPが低迷していることと、他国からの援助もなく、兵站を維持できなくなるでしょう。食料・弾薬などが尽きて、お手上げになります。そうなれば、多くの兵士は自国内に敗走するしかなくなります。そうして、兵站にすぐれたNATO加盟国は追撃戦に入り、ロシア国内にまで入り込むことになるでしょう。


これが、現在のロシアの実力です。ロシアはもはや超大国ではないどころか、EUなどと比較すれば、貧しい国なのです。そのようなことはわかりきったことなので、プーチンとしては、NATO諸国と事を構えることはできないので、ウクライナに対して呼びかけをして、機会を探るという戦略に出たのでしょう。


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