2021年10月13日水曜日

【日本の解き方】財務次官「バラマキ」寄稿の論理破綻 高橋洋一氏が一刀両断 会計学・金融工学に基づく事実 降水確率零%で台風に備えるくらい滑稽 ―【私の論評】「親ガチャ」より酷い日本の「財務省ガチャ」状況は一日も速く是正すべき(゚д゚)!

【日本の解き方】財務次官「バラマキ」寄稿の論理破綻 高橋洋一氏が一刀両断 会計学・金融工学に基づく事実 降水確率零%で台風に備えるくらい滑稽 

矢野康治

 岸田文雄首相は14日に衆院を解散する。19日公示、31日投開票の衆院選ではコロナ禍で落ち込んだ経済再生が争点となり、各党は公約で大規模な経済対策を打ち出している。こうした動きを真っ向から批判するのが財務省の矢野康治事務次官が月刊誌「文芸春秋」11月号に寄稿した「バラマキ批判」論文だ。高市早苗政調会長が不快感を示す一方、鈴木俊一財務相は容認するなど政府・与党内でも反応が分かれるが、矢野次官の「財政破綻論」は正しいのか。元財務官僚の高橋洋一氏が一刀両断した。

 矢野康治財務事務次官が、月刊誌「文芸春秋」11月号への寄稿で、「このままでは国家財政は破綻する」として、財政再建の重要性を訴えた。

 鈴木俊一財務相は8日の記者会見で「個人的な思いをつづったと書いてある。中身は問題だと思わない」と説明した。麻生太郎前財務相からは了解を得ているという。

 岸田文雄首相は10日のフジテレビ番組で、「いろんな議論はあっていいが、いったん方向が決まったら関係者はしっかりと協力してもらわなければならない」とクギを刺した。自民党の高市早苗政調会長は同日のNHK番組で「大変失礼な言い方だ」と不快感を示した。

 矢野氏は「単に事実関係を説明するだけでなく、知識と経験に基づき国家国民のため、社会正義のためにどうすべきか、政治家が最善の判断を下せるよう、自らの意見を述べてサポートしなければなりません」と書いている。

 意見を述べるのは自由だが、その前提が間違っていては話にならない。間違った前提から出てくる意見は、有害以外の何物でもない。

 まず会計学から問題を指摘する。矢野氏が財政危機の証拠としてデータで示すのは、「ワニの口」と称する一般会計収支の不均衡と債務残高の大きさだ。

 全ての政府関係予算が含まれている包括的な財務諸表は小泉純一郎政権以降、毎年公表されている。この財務諸表は、しっかりした会計基準でグループ決算が示されているが、矢野氏が寄稿で提示したデータは、会社の一部門の収支とバランスシート(貸借対照表)の右側の負債だけしかないようなものだ。

 ただし、財務省が公表している連結ベースの財務諸表については日銀が含まれていないという問題もある。日銀は金融政策では政府から独立しているが、会計的には連結対象なので、財務分析では連結すべきものだ。

 日銀を連結した場合、資産1500兆円、負債は国債1500兆円と銀行券500兆円となる。銀行券は無利子無償還なので、形式的には負債だが実質的な負債ではないので、日本の財政が危機ではないのは、会計の基本を知っていれば明らかだ。

 金融工学からも問題がある。直近の日本国債の5年CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は0・00188%なので、大学院レベルの金融工学知識を使えば、日本の5年以内の破綻確率は0%にも満たないことが分かる。これは、バランスシートからみた破綻の考察とも整合的だ。

 このような状況で日本財政が破綻する恐れがあるというのは、降水確率零%の予報のとき、今日は台風が来るので外出は控えろというのと同じくらい、筆者には滑稽に思える。

 以上は、本コラムの読者であればおなじみだが、会計学や金融工学に基づく事実で、ノーベル賞学者らとも同じ世界標準のものだ。

 世界の誰とも対等に議論できるように正しい学問の知識を持つことが重要だ。財政が破綻しているのではなく、無知から出てくる財政破綻論や緊縮論こそ、もう破綻している。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】「親ガチャ」より酷い日本の「財務省ガチャ」状況は一日も速く是正すべき(゚д゚)!


現内閣の基本方針を真っ向から否定する、矢野財務次官の檄文には驚きました。コロナ対策の各種給付金をバラまき合戦と断じ、国民はそれを望んでいないと勝手に決めつけ、マクロ経済学の基本を無視してひたすら家計の類推で論じています。国家財政を家計と同次元に見るこの論点には、驚きはしましたが、なにやら、あまりの低次元に矢野氏に対する哀れみすら感じました。

家計と、一国政府の財政は全く異なります。家計においては、できないことが政府にはできます。国債を発行したり、政府の一下部機関である、日銀は貨幣を発行することができます。これを同次元に述べるのは完璧な誤りです。

以下に日銀と政府連結のバランスシートをあげます。これは、高橋洋一氏が作成したものです。

上の高橋洋一氏の記事にもあるように、このバランスシートからみれば、銀行券が無利子無償還なので形式負債ですが実質負債でないので、日本の財政が危機でないのは、会計の基本を知っていれば明らかです。

矢野氏の議論は、財政は、国民の為にあることを無視する、稀に見る暴論です。

矢野次官の檄文には財界トップの支持者が多いですが、彼らも矢野氏と同じくマクロとミクロの違いを理解していません。これだけの財政赤字を出して初めて、現在の540兆円のGDPを維持しているのです。それは企業が巨額の貯蓄超過に陥っているからです。財政赤字を減らせば国民の所得は減ります。それが貯蓄と投資が常に等しくなるマクロ経済の基本です。

緊縮財政発言を経済同友会会長が正しいとして擁護しているというニュースが流れました。全く信じられないです。彼らは平成の30年間の景気後退を緊縮財政と日銀の金融引締のせいとは思っていないようです。一体何のせいだと思っているのでしょうか。

経済同友会桜田幹事

多くの政治家や官僚にとっては短期で個人の生活を考える限りにおいてはデフレはそう悪いものではないのかもしれません。物価が下がるほどには給料は下がらないからであり。実質ベースアップがあるようなものなのかもしれません。

また景気が悪いと一般の方からの頼まれ事も多くなり、権勢を振るう機会があり利権も生ずるのでしょう。彼らには、「公」の精神なるものはないでしょう。

国民経済が発展するのとともに、自分たちも発展していきたいなどという気持ちは彼らにはないのでしょう。そのためには、マクロ政策では、雇用こそ最も重要であるという考えもないのでしょう。本当に、クズです。

最近「親ガチャ」という言葉がはやっています。これは、親は選べず、人生は家庭環境次第で決まってしまう。こんな人生観をカプセル玩具の販売機に例えた「親ガチャ」という言葉です。若者を中心に賛同の声がある一方、「本人の努力が足りないから」と批判する声もあります。

「努力すれば何でもできる」というのは、明らかな間違いだと思います。そうして、国民は選挙で政治家を選ぶことはできまずか、財務省の役人を選ぶことはできません。

財政政策は、本来政府が目標を決めて、財務省の官僚は、それに従い専門家的な立場から様々な方法を選ぶというのが本筋です。ところが、現状では財務省の官僚が、あたかも大きな政治組織のように動き、財務政策の目標にまで大きな影響を及ぼしているというのが実態です。矢野氏の寄稿もその一環として行われたものです。

これは、国民からすれば日本は「財務省ガチャ」状態にあると言っても良いのではないでしょうか。無論デフレになっても、努力する人はいて、成功する人もいます。しかし、デフレは経済の病気であり、それも重大な病気です。どんな場合でも一刻もはやく是正すべきものです。デフレを景気の悪化などのようにみなすのは大きな間違いです。

これを放置しておけば、経済は悪化しますし、雇用もかなり悪化します。2012年あたりまでは、雇用は最悪でした。その後安倍政権が成立して、直後は積極財政、異次元の金融緩和政策がとられ、雇用は回復しました。

その後、安倍政権のときに結局、安倍総理自体は二度も増税を延期したのですが、結局財務省ガチャに抗えず二度も増税してしまったため、現状でも日本はデフレから完璧に脱却したとは言い難いです。ただ、最近はイールドカープコントロールにより緩和は手控え傾向ながらも日銀は緩和自体は続けているので、雇用は良い状況が続いてはいます。

さらに、日本では雇用調整助成金が功を奏して、コロナ禍において先進国では最も失業率が少小さいです。このこと自体は誇るべきことです。

しかし矢野氏の主張する通りの経済政策を実行すれば、また日本経済はデフレスパイラルに陥り、とんでもないことになるのは明らかです。雇用状況も従来のような酷い状況に戻ることになるでしょう。あの雇用の酷い状況を、また若者に味合わせるべきではありません。

デフレになっても、努力して成功する人もいますが、そういう人たちはまともな企業に就職できて、経済的にも技能的にもある程度基盤をつくることができた人でしょう。デフレが亢進すれば、就職もままならなくなり、スタートラインにすら立てなくなる人が大勢出ることになります。そういう人たちは、自分で自分の運命を切り開くこともできないのです。これは、「親ガチャ」よりも酷いかもしれません。

日本の「財務省ガチャ」状況は、一刻もはやく是正すべきです。岸田氏は一刻もはやく、矢野氏を更迭すべきです。



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2021年10月12日火曜日

米仏関係修復がAUKUSとインド・太平洋の安定に寄与する―【私の論評】日本こそが、米豪と仏の関係修復に積極的に動ける!安倍晋三氏を日仏関係担当特使に(゚д゚)!

米仏関係修復がAUKUSとインド・太平洋の安定に寄与する

岡崎研究所

 9月15日に米豪英3か国が発表した新たな安全保障連携(AUKUS)に対するフランスや EUの反発が今後の国際情勢にどう影響るのかが注目されるところである。

 9月23日付の仏Le Monde紙の社説は、9月22日のバイデン・マクロン電話会談により、とりあえず米仏間の関係修復の道筋ができたことは評価するが、今後の実行が大事であると論じている。



 フランスとEUが米国との同盟関係の現実について認識したことは確かであるが、これによりインド・太平洋戦略やNATOについて大きな影響が生ずるわけではなく、むしろ雨降って地固まる効果も期待できるのではないかとも思われる。他方、Le Mondeの社説は、仏豪関係はそうはいかないし、仏英関係もぎくしゃくすることを示唆している。

 そもそも豪州の潜水艦調達契約は、2015年に、当初は日本からの調達がほぼ確実であったのが、親日的なアボット首相の退陣等もあって、フランスに巻き返されたもので、その立役者が仏国防大臣で、現外務大臣のル・ドリアンであった。当時は、この契約の地政学的重要性よりも単に日仏独が競う大型商談として注目されていたもので、豪政府がフランスからの調達に決めたのも、国内の雇用や産業振興に最も有利であることが決め手であって、安全保障上の考慮からすれば日本製に決めるべきものであった。

 しかし、フランスの提案は、仏製原潜の原子炉部分をディーゼルに置き換えるという前例のない構想であり、コミットした現地での調達・生産比率も実際には満たせる見込みは無く、加えてコストが当初の予定から大幅に膨らみ、莫大な維持費もかかることが明らかとなった。

 計画の進捗も既に9カ月遅れ、更に納入時期が遅れれば豪州の現有潜水艦がすべて耐用年数を過ぎてしまうという状況であった。今年初め頃には、日本サイドでは、契約が破棄されて再び日本にチャンスが来るかもしれないとの期待も生まれていたほどである。

 この間、中国の海洋進出や豪中関係の悪化により、広大なEEZを保有する豪州としては12隻の原潜を有する中国に対抗する上で、AUKUSによる原潜の導入が不可欠の選択となっていた。豪州の対応は仏側に不満を伝えていただけという不器用なものではあったが、予めフランスと事前協議を行えば AUKUS 交渉も表沙汰となり、このタイミングで仏側の納得を得ることはできなかったであろう。

AUKUSはクアッドとともに必然的な選択

 いずれにせよ、契約破棄はフランスにとって寝耳に水の話ではないはずであるが、仏太平洋戦略の柱としての意味を持ち始めていたこの契約が反故にされ、メンツを重んずるフランス人にとって収まらないのは事実であろう。特にル・ドリアン外相が契約獲得の立役者であったこと、マクロンが大統領選挙を来年に控えていること、EUがそのインド・太平洋戦略を公表しその果たす役割を強調しようとした矢先であったことなどが、予想以上の反発を招いている背景にある。

 しかし、冷静に考えれば、AUKUSは豪州の安全保障にとり必然的な選択であり、フランスやEUがその役割を代替できる立場でもなく、米国との関係を決定的に悪化させるわけにもいかない現実を受け入れざるを得ない。従って、フランスの強い反発は、豪州からできる限りの違約金を要求し或いは、米国から信頼回復の対価としての何らかの譲歩を得ることを期待しているのだと見る向きもあろう。

 AUKUSも「クアッド」(日米豪印)も米国のインド・太平洋へのコミットを示すものとして歓迎されるものである。バイデンがフランスとの関係を修復し、NATOに関連するEU諸国への配慮を従来以上に行うのであればそれはそれで結構なことではないかと思う。仮にマクロンが大統領に来年再選されれば、メルケル無きEUにおいてその存在感を増すという意味でもマクロンとの関係を修復しておくことは米国にとり好ましいだろう。

 太平洋に海外領土を持つフランスは、インド・太平洋でのプレゼンスを維持する必要もあり、当面豪州との関係回復は難しいので、例えばインドや日本など他のパートナーとの連携の模索を行うか、いずれはAUKUSとの連携も必要となってくるであろう。

 日本としても、フランスやEUが中国の力による現状変更を認めないとの立場を共有している以上、関係国に対し早期の関係修復を強く期待しているといった関心を伝えておくことが望ましいだろう。

【私の論評】日本こそが、米豪と仏の関係修復に積極的に動ける!安倍晋三氏を日仏関係担当特使に(゚д゚)!

仏米関係は、これまで単純であった試しは一度もありません。常に複雑なものでした。イギリス、ドイツ、イタリア、スペイン、また日本も、歴史上一度は、米国と戦争を戦った経験をがあります。

しかし、仏は米国と一度として戦争を行ったことはないです。にも拘わらず、仏は「反米主義」の最も激しい国とされます。仏米関係は、友情、ライバル心、連帯、嫌悪など複雑な感情が混じりあったものです。ド・ゴールが1966年に米国と対峙し、NATOの軍事機構から脱退して以来、仏は世界において反米国家のレッテルを貼られました。

フランスは北大西洋条約機構(NATO)結成(1948年)時の加盟国で本部もパリに置かれていたのですが、1958年大統領に就任したド=ゴールは、米英の核独占を批判し、対等な立場を確保しようとしてフランスの核実験を進めました。

ド・ゴール

米英がそれに対して批判的な態度を取ると、ド=ゴールはNATOの運営が米国主導であることに反発し、59年の地中海艦隊の撤収に始まり、次第にNATOと一線を画するようになりました。

ついにド=ゴールは1966年5月、NATOの軍事部門からの脱退を表明し、フランス軍すべてを撤退させ、フランス領土内のNATO基地すべてを解体しました。ただし、NATOの理事会、政治委員会、経済委員会、防空警戒管制システムなどには残りました。

ド=ゴールの意図は、NATOを政治同盟として位置づけ、共同行動については主体的に判断するという自主外交の姿勢を示すところにあったようです。

つまりド=ゴールはフランスのNATO脱退に踏み切ったが、北大西洋条約からは離脱しなかった。「政治的には同盟、軍事的には独立」という姿勢をとった、ということができる。

2009年3月、サルコジ大統領は、フランスを43年ぶりにNATO軍事機構に完全復帰させることを決定しました。この決定にNATO各国は歓迎の意志を表明したのですが、国内ではフランス外交の独自性が失われるのではないか、という反対論が根強かったのです。

サルコジ

事前の世論調査では賛成58%で反対38%を上回っており、現実にはボスニア、コソボ、アフガニスタンではフランス軍はNATOの軍事行動に参加しており、実態はNATO復帰の実態と変わりがありませんでした。

結局、国民議会では「政府信任」投票が行われ与党の賛成によって4月4日に正式に完全復帰しました。2009年のこの日はNATO創設60周年の記念日でした。フランスはNATOに復帰したのですが、肝心のアメリカが2017年にトランプ政権が登場、自国第一主義を掲げNATOから距離を置く姿勢を示しフランスのマクロン大統領はイライラを隠せませんでした。

マクロンは国立行政学院卒業のエリートとして財務省に入り、その後ロスチャイルド銀行に入って投資家として成功しました。その若さと行動力を期待され、オランド大統領のもとでヴァルス内閣の経済・産業・デジタル大臣に就任した。一時は社会党に属したが、それに縛られない規制緩和や財政拡大路線をとったので閣内でも批判されるようになり、独自の政党「前進!」を結成し、中道改革路線を明確にしました。

大統領就任後、党名を「共和国前進」に改称し、与党として総選挙でも勝利し、若さも相俟って人気も高まりました。

しかしマクロン政権の「改革路線」は既存の労働組合や貧困層からは強く反発されました。2018年11月からガソリン燃料税引き上げを図ったところ、トラック運転手による抗議活動から「黄色いベスト運動」といわれた激しいデモが起こり、一時は暴動に発展しました。

それに対してマクロンは柔軟な姿勢を見せ、燃料税引き上げを断念、広範な国民との対話を重ね、2019年4月には低所得者などへの所得税削減と年金の増額を約束しました。一時は退陣も近いかと思われたが、反マクロン運動はその後沈静化しました。

外交ではEU維持を掲げイギリスのEU離脱やトランプの「アメリカ第一」主義には抵抗する姿勢を明らかにし、トランプのイラン核合意離脱には強く反対しました。一方では移民制限や徴兵制の復活案など、保守派ウケする対策も打ち出しています。右派、EU懐疑派も依然として根強く、若い大統領がフランスの舵取りをどのように行うのか、注目されています。

マクロン大統領は昨年11月7日、米国メディアが大統領選挙でのジョー・バイデン氏の勝利確実を伝えるとすぐに、「米国民は自国の大統領を選出した。ジョー・バイデンとカマラ・ハリスよ、おめでとう。今日の課題を乗り越えていくためにわれわれがやるべきことはたくさんある。共にがんばろう」とツイートし、バイデン氏に祝意を表明しました。

フランスのメディア報道では、バイデン氏の勝利確実は主に好意的に伝えられていましたが、トランプ政権下で傷ついた米欧・米仏関係の修復には懐疑的な見方も多いです。ジャン=イブ・ル・ドリアン欧州・外務相は11月7日、国営テレビ局フランス2のインタビューで、この4年間の世界的な変化に応じた、米欧・米仏間の新たな関係構築の必要性を訴えました。ル・ドリアン外相は「欧州は米欧関係の補佐役ではない。欧州は米国との関係で主権を主張すべきだ」としました。

ル・ドリアン外相は11月5日、ラジオ局ヨーロッパ1のインタビューでも、「この4年間で変わったことは、欧州が安全保障、防衛、戦略的自治の面で主権を確立し、世界の強国としての自覚を持ち始めたことだ」と述べ、もはやトランプ政権以前の欧州ではないことを強調していました。

米国との通商関係でも、フランスは欧州主権を基盤にした関係構築を目指していくものとみられる。ブリュノ・ル・メール経済・財務・復興相は昨年11月4日、ラジオ・クラシックのインタビューで「もう長いこと、米国は欧州の友好的なパートナーではない。米国と欧州の関係は、米国による制裁措置が示すように対決型に移行した。米国にとっては、中国との関係が最優先だ。EUは米国と中国に対抗するため、経済、政治、技術上の主権を強化することを続けるべきだ。それは、われわれが2017年からマクロン大統領とともに主張してきたことだ」と述べました。

他方、11月8日付の「ル・フィガロ」紙などが報じたように、当地メディアでは、多国間主義を掲げるバイデン氏の大統領就任による、米国の国際場裏への復帰が、トランプ大統領に対抗して強まったEU加盟国間の結束を緩め、マクロン大統領が主張する欧州主権の実現を困難にする可能性がある、と指摘する声も出ていました。

マクロン

こうした状況にあった米仏関係でしたが、豪州の潜水艦調達契約ならびにAUKUSの設置が公表されたのです。フランスにとっては、まさに不意打ちでした。

しかし、この問題については「米仏対立」ばかりに目を奪われると本質を見失うかもしれません。見落としてはならないのは「核大国」米国の現状です。 米国は原子力発電所の国内での新設はもちろん、輸出もできない手詰まり状態に直面しています。

今回の原潜技術供与により、オーストラリア原潜向けに発電所用の小型原子炉を「輸出」できる展望が開け、手詰まり状態から脱出する道筋が見えてきました。それは原子力関連の技術維持にも役立ちます。

米国の国益にとって決定的な突破口であり、原子力産業と軍産複合体にとっては「光明」とも言えます。 原潜向けの小型原子炉は、発電所に使われる「加圧水型原子炉(PWR)」とほぼ同じもので技術的な差はありません。

米国は部品を現地に運んで組み立てる「小型モジュール炉(SMR)」を開発中で、オーストラリア南部アデレードで組み立てるとみられます。 ルドリアン仏外相が「予測もつかない決定はトランプと同じ」と非難したように、トランプ前大統領の同盟軽視路線を批判し、再構築を進める方針を強調してきたバイデン大統領も、結局は国益優先の内向き外交から脱していないということになります。

バイデン大統領が今回切った新たなカードを台湾は、大歓迎しています。 李喜明・元台湾軍参謀総長は英紙フィナンシャル・タイムズ(9月16日付)に、「原子力潜水艦によってオーストラリアは初めて戦略的な抑止力と攻撃能力を持つ」と述べ、潜水艦の展開先として「台湾に近い西太平洋の深海」をあげつつ、「トマホークミサイルが加わると、オーストラリアのこぶしは中国本土まで届く」と指摘しています。

中国にとってはまさに「脅威」です。 中国共産党は抗日戦争の際など大局のために敵と手を結ぶ「統一戦線」に長けているのですが、今度はバイデン大統領が中国の株を奪い、反中「統一戦線」を重層的に築こうとしているのです。

その文脈で言えば、インド太平洋戦略の核となる枠組みであるクアッドは、米国にとって引き続き重要な意味を持ちます。9月24日には首都ワシントンで初の対面首脳会議が開催されました。

ただし、友好国インドは伝統的に非同盟政策をとっており、経済安全保障や新型コロナ対策では協力できても、反中色の強い軍事的協力を進めるのはきわめて難しいです。 だからこそ、軍事協力が可能な安全保障枠組みとして、AKUSの創設が大きな意味を持ってくるのです。

2030年代初頭に仏製のディーゼル潜水艦12隻を配備できたとしても、通商関係を武器に攻めてくる中国の脅威を抑制できないという不安をオーストラリアは払拭できませんでした。「われわれの戦略的利益を満たすものではない」とモリソン首相は言い切りました。

今回のコロナ危機で、ウイルスの起源を明らかにしようとしない中国への不信はピークに達していました。インド太平洋の安全保障を考えると、米英豪の海洋民主主義3カ国の政治判断は絶対的に正しいです。

来年4月に仏大統領選を控えるマクロン大統領は右翼政党「国民連合」のマリーヌ・ルペン党首と世論調査で一進一退の攻防を繰り広げています。コロナ対策を巡る反ロックダウン(都市封鎖)、反ワクチン・ポピュリズムの台頭で足元が揺らいでいます。そこに雇用を生む潜水艦建造契約が一方的に白紙撤回されるかたちとなり、政治的に大きな打撃を受けました。

インド太平洋に重要な軍事拠点を持つフランスはこの地域に7千人の部隊を常駐させ、南シナ海にも原潜と支援艦を展開、フリゲート艦をベトナムに接岸させるなど、米国の「航行の自由」作戦を支援してきました。EUのインド太平洋戦略を牽引してきたという自負もある。米国に対す無念さがフランスにはあるでしょう。

欧州は地理的に中国から離れています。対中外交で「経済」と「人権」を天秤にかけることはあっても、米国やオーストラリアのように「経済」より「安全保障」を優先させる地政学上の必然性はありません。中国との経済関係が強いドイツがインド太平洋で対中強硬に転換するとは考えにくいです。だからこそイギリスなき後のEUでフランスは重要なのです。

台湾有事になれば日米安保に基づき必然的に巻き込まれる日本にとってAUKUSは対中抑止力を増強することになり、大きなプラスになります。日本はインド太平洋の要として日米豪印4カ国(クアッド)とAUKUSを結ぶとともに、米豪とフランスの関係修復に積極的に動くべきです。

エマニュエル・マクロン・フランス共和国大統領は、安倍晋三日本国内閣総理大臣の招待 により、2019年6月26日から27日にかけて日本を公式訪問しました。 この機会に、両国は、自由、民主主義、法の支配、人権の尊重、ルールに基づく国際秩序 といった共通の価値を強固に共有していることを改めて確認し、「特別なパートナーシップ」 に新たなダイナミズムを与える決意を表明し合意文書が作成されました。

それは「『特別なパートナーシップ』の下で両国間に新たな地平を開く日仏協力のロードマップ(2019~2023年)」と呼ばれるものです。これは、今後5年間の日仏関係の指針をまとめたもので、全7頁、35項目あります。

詳細は、ここで述べると長くなってしまうので、これを知りたい方は以下にリンクを掲載しますので、是非ご覧になってください。
「特別なパートナーシップ」の下で両国間に新たな地平を開く日仏協力のロードマップ(2019-2023年)
このような5年後まで見据えた2国間のロード・マップを作成できる国家関係は、なかなかないでしょう。美食や匠の文化を有し、長い交流の歴史があり、地方の多様性豊かな国同士で、日仏両国は数々の価値を共有しています。今後の日仏関係の強化は期待できますし。日本こそが、米豪とフランスの関係修復に積極的に動くことができるはずです。 

これは、私の独り言ですが、これを積極的に進めることができるのは、安倍晋三氏ではないかと思います。岸田氏にも、茂木外務大臣にも荷が重すぎるのではないかと思います。

平成31年4月22日(現地時間)、安倍総理は、フランス共和国のパリを訪問マクロン氏と会談

米国バイデン政権では、ジョン・ケリー氏が、気候変動問題担当特使を担っています。日本でも、安倍晋三氏を日仏関係担当特使に任命して、日仏関係の強化ならびに、米豪とフランスの関係修復を推進していただくようにしてはいかがでしょうか。

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2021年10月11日月曜日

「拉致被害者は生きていない」と立民・生方氏 家族会など抗議―【私の論評】吐き気を催す最低・最悪の発言、生方は議員辞職せよ(゚д゚)!

「拉致被害者は生きていない」と立民・生方氏 家族会など抗議

生方幸夫

立憲民主党の生方幸夫衆院議員(比例代表南関東ブロック)が、9月に千葉県松戸市で行った会合で、北朝鮮による日本人拉致問題について「日本から連れ去られた被害者というのはもう生きている人はいない」などと発言したとして、拉致被害者家族会と支援組織「救う会」は11日、発言の取り消しと謝罪を求める抗議声明を出した。声明では「すべての拉致被害者の救出のため心血を注いできた被害者家族、支援者、被害者自身の生命に対する重大な侮辱であり冒涜(ぼうとく)だ」と非難した。


救う会などによると、生方氏は9月23日、松戸市での会合で拉致問題について見解を問われ、横田めぐみさん(57)=拉致当時(13)=について「横田さんが生きているとは誰も思っていない。自民党の議員も」とした上で、「拉致問題、拉致被害者は今、現在はいないと捉えられる、政治家は皆そう思っているということ」などと発言した。

 また平成16年に北朝鮮が提出し、日本側が別人と鑑定しためぐみさんの偽の遺骨について「遺骨からDNAを鑑定して、それが横田さんであるのかないのかというような技術力はなかった」とした。

 死亡の根拠について問われると、「客観的情勢から考えて生きていたら(北朝鮮は横田さんを)帰す。帰さない理由はない」と説明。「生きているのだったら何かに使いたい。1回も使ったことがないですから、残念ながら亡くなってしまっているから使いようがない」などと主張した。

 一方、14年の日朝首脳会談で北朝鮮が拉致を認めて謝罪し、帰国した5人の被害者について、北朝鮮に一度返すとした約束を日本側が守らなかったとし、「首脳同士で話をして決めたことも守らないなら、それはだめなのではないか」と述べた。

 「拉致した当人は北朝鮮政府なのだから、責任を取らなきゃいけない」とする一方、「自分の意志で入ったが、もう自分の意志では出られなくなったという人を含めて行方不明者、拉致被害者というように言っている」と指摘。「日本国内から連れ去られた被害者は、生存者はいないのだと思う」と重ねて主張した。

 これに対し、家族会などによる抗議声明では「生方議員は人の命に関わる重大な人権問題について、日本政府の基本的立場を否定して、北朝鮮の主張に賛同している」と批判。生方氏が所属する立憲民主党に対し、「生方議員発言を党としてどう考えるのか、ぜひお聞かせ願いたい」としている。

 北朝鮮は14年9月の日朝首脳会談で拉致を認めて謝罪し、5人を帰国させた。だが、ほかの被害者については8人が「死亡」、4人が「未入境」と主張した。

 16年の日朝実務者協議ではめぐみさん本人のものだとする「遺骨」を提出したが、持ち帰った日本側は約1カ月かけてDNA型鑑定を進め、別人の骨であることを確認した。北朝鮮側は遺骨について「火葬した」と説明したが、通常の火葬よりも高温の1200度で焼かれていたことが判明。DNA型の検出を困難にしようとした可能性が指摘されている。

 政府は拉致被害者の「死亡」を裏付けるものが存在しないとして、北朝鮮に誠実な対応を求めてきた。岸田文雄政権も拉致被害者全員の早期帰国を最重要課題に掲げている。

【私の論評】吐き気を催す最低・最悪の発言、生方は議員辞職せよ(゚д゚)!

生方幸夫氏は東京都豊島区出身で、学歴は東京都立志村高等学校から、早稲田大学第一文学部に進学して、卒業しています。

大学卒業後は読売新聞社編集局入社(~75年)

75年に読売新聞を退社し、フリージャーナリストとして世界各国を取材します。

経済評論家として約50冊の著作を出版。

年間約30回の講演活動・テレビ・ラジオのキャスター・コメンテーターを勤めるなどしました。

1996年に千葉県第6区選挙区より衆議院選挙に初出馬。

当選回数:衆議院6回となっています。

「怒る気力もない」。立憲民主党の生方幸夫(うぶかた・ゆきお)衆院議員(比例代表南関東ブロック)が、北朝鮮による日本人拉致被害者について「生きている人はいない」などと発言していたことが明らかになった11日、横田めぐみさん(57)=拉致当時(13)=の母、早紀江さん(85)は、落胆をあらわにしました。

横田早紀江さん(手前)と拓也さん =2日午後4時41分、川崎市

早紀江さんは「長い年月、皆が拉致被害者を心配して活動してきているのに、こんな日本人がいることに驚いた」と嘆息。「私たちは拉致被害者が生きていると信じている」と改めて再会への決意を語りました。

田口八重子さん(66)=同(22)=の兄で、家族会代表の飯塚繁雄さん(83)は「謝って済む問題ではない」と声を荒らげました。「まるで拉致被害者が亡くなっていたほうがいいというような発言だった。日本の各党の議員も、一緒に戦っていこうという意識でやっているのに、ぶち壊した」。田口さんの長男、飯塚耕一郎さん(44)も「怒りを禁じ得ない。拉致被害者の命を侮辱、冒涜(ぼうとく)しているとしか思えない」と語気を強めました。

広島県呉市への旅行先で弟たちと一緒におさまる写真。このころめぐみさんはよくつま先立ちでバレエの練習をしていた=1974年、横田滋さん撮影

日本維新の会の馬場伸幸幹事長は11日の党会合で、立憲民主党の生方幸夫(うぶかた・ゆきお)の「生きている人はいない」などと発言したことについて「言語道断だ。国会議員という立場の人間が、確証もないことを堂々と一般の方がいる中で発言することに怒りを覚えている」と批判しました。

 その上で「改めて立憲民主党という政党は、日本には要らないと申し上げておきたい」と訴えました。 また、馬場氏は衆院拉致問題特別委員会の開催実績が乏しいことを念頭に「国会には拉致特という特別委員会もあるが、全く機能していない。本当に子を思う親の心、きょうだいを思う人間的な心が国会議員の中にもあれば、真剣に次の国会からは拉致の問題に取り組んでいく(べきだ)」との考えを示しました。

生方氏は以下のようツイートをしています。



立憲民主党の枝野幸男代表は11日、党所属の生方幸夫衆院議員の発言問題を受け、「大変間違った発言。私も大変驚愕(きょうがく)し、激怒している」と述べ、拉致被害者や被害者家族、関係者に「党を代表し深くおわび申し上げる」と謝罪しましたた。

国会内で記者団に語りました。

生方氏には関係者に謝罪して回るよう指示するとともに、枝野氏が拉致被害者救出の支援組織「救う会」の西岡力会長に、同党の渡辺周衆院議員が横田めぐみさん(57)=拉致当時(13)=の家族に、それぞれ電話で謝罪したと明らかにしました。

「拉致被害者が生存していると信じ、一日も早いすべての拉致被害者の帰国に向けて全力で取り組んでまいる方針に何ら変わりはない」とも述べました。

立民は同日、生方氏を厳重注意しました。厳しい処分や次期衆院選の公認見送りの可能性については、枝野氏は「まず、関係者に党としても本人としてもおわびをすることが一番大事だ」と述べるにとどめました。

立憲民主党も「党の考え方と全く相容れず、拉致被害者とご家族などを深く傷つけるもの」として生方氏を厳重注意処分としましたとしていますが、どのような処分をしたかにまでは触れていません。

生方の発言は、吐き気を催すほどの最低・最悪のものといえます。現在まで出ている発言の根拠は、「客観的情勢から考えて生きていたら帰す。帰さない理由はない」だけです。こんな薄弱な根拠で、このような発言をする神経が信じられません。それに、この方自分も子供や孫がいると思うのですが、自分の孫等が拉致被害にあったらどう思うのか、そのような共感力も欠如しているようです。

警察庁の最新データによると、平成26年から30年の間に、日本全体の年間行方不明者数は81,111人から87,962人に増えています。毎年8万人以上の人が行方不明になっているのです。


この中には、無論死亡されたかたもいるかもしれません。しかし、そうではない人も大勢いるのも事実でしょう。これを長期間にわたって帰ってこない人は、全員死亡と片付けることはできません。しかし、生方氏の発言はこれと同じようなものです。

これが立憲民主党の公式見解ではないのでしょうが、生方は、比例選出議員なのですから党ももっと詳細な説明を早急に行うべきです。https://yutakarlson.blogspot.com/2021/09/blog-post_29.html

多くの政治家は、拉致被害者の救出に向けて真剣に取り組んでいます。これから総選挙というときに、このような発言はないと思います。立憲民主党は、総選挙でまともに戦いたいなら、生方氏の党籍を剥奪するくらいのことはすべきです。そうして、生方氏には、議員辞職をおすすめします。このような議員は日本にいりません。

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2021年10月10日日曜日

金融所得課税、当面見直さず 「すぐやる」は誤解―岸田首相―【私の論評】今重要なのは、パイ(お金)を増やし、なるべく多くの人にパイを速く行き渡らせるようにすること(゚д゚)!

金融所得課税、当面見直さず 「すぐやる」は誤解―岸田首相

岸田首相

 岸田文雄首相は10日のフジテレビ番組で、金融所得課税の強化について「当面は触ることは考えていない」と明らかにした。賃金を引き上げる企業への優遇税制の拡充などに触れ、「成長なくして分配はない。金融所得課税を考える前にやることはいっぱいある」と指摘した。

 首相は自民党総裁選で、金融所得課税の強化を掲げた。投資家心理を冷え込ませ、株価下落の一因になったとの指摘もある。首相は番組で「すぐやるのではないかという誤解が広がっている。しっかり解消しないと関係者に余計な不安を与えてしまう」と釈明した。

 この後、党本部で記者団の取材に応じ、分配政策に関し「順番を考えた場合、まずは賃上げ税制、さらには下請け対策、そして看護、介護、保育といった公的価格の見直しから始めるべきだ」と説明。金融所得課税見直しは「選択肢を並べたうちの一つだった」と語った。

 一方、首相は番組で、個人への給付金に関しては「去年、時間がかかり混乱した。あの反省の下に、プッシュ型で迅速に支給するにはどういった形がいいのか、与党と詰めた上で、具体的な形を判断したい」と述べた。首相が子育て世帯などを対象とした給付金を打ち出したのに対し、公明党は18歳以下を対象とした一律10万円相当の給付を訴えており、調整が課題となる。

 雇用の流動性を高める規制緩和については「まずはどんな働き方をしても安心できるセーフティーネットを整備するところから始める。その先に労働市場の規制緩和、柔軟化を考えていく」と述べた。「ある程度、同時並行的に進めていく」とも語った。


【私の論評】今重要なのは、パイ(お金)を増やし、なるべく多くの人にパイを速く行き渡らせるようにすること(゚д゚)!


金融所得課税の見直しに関しては、岸田首相のみならず、総裁選のさなかに高市氏も言及していました。

これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
野党の地味な「大問題」…自民党総裁選「三候補」誰になっても、あまり変わらないワケ―【私の論評】経済対策では、高市氏も欠点があるが、岸田氏は駄目、河野氏は破滅的!来年・再来年も考えるなら高市氏か(゚д゚)!
高市早苗氏

一方、9日の記者会見では言及しなかったのですが、大企業の現金保有に対する1〜2%課税(1~2兆円の増収)、炭素税の導入、金融所得税30%への増税、を行う考えが一部メディアで報じられています。これらの新たな増税政策と、プライマリーバランス健全化凍結の整合性は曖昧といわざるをえません。

拡張的な財政政策を徹底するならば、米国のトランプ前政権が行った減税政策が手段の一つですが、それは全く高市氏の念頭にはないとみられます。増税と歳出拡大を同時並行で行えば、マクロ安定化政策としての財政政策の効果は大きく低下します。
企業の現金保有への課税が、設備投資や賃金に企業が支出を促すと考えているのかもしれないですが、課税強化で企業行動を締め付ける対応が妥当であるようには思えないです。脱デフレを実現することによって企業経営者が抱いているデフレ期待を完全に払拭することが、企業の支出性向を高める確実な方法です。

新たな増税を行いながら、2%インフレと経済正常化を後押しする財政政策が実現できるのかは、甚だ疑問です。仮に、産業政策によって権益者に対して政府歳出を行うために増税することが政治目的になっているのであれば、「拡張的な財政政策」というのは看板倒れの政策になるリスクがあります。
総裁選のときには高市さんの経済政策と岸田氏の政策にも金融所得課税の増額が、入っていました。これは、財務省主導で行われたものでしょう。

政府は2022年度の税制改正で、株式の配当や譲渡にかかる金融所得課税の見直しを議論する見通しです。これは、当然のことながら、財務省主導と考えられます。 

金融所得が多い富裕層は、年間所得が1億円を超えると所得税の負担率が下がります。格差是正を掲げる岸田文雄首相は、この「1億円の壁」を打破する考えのようですが、税率を引き上げれば株価に悪影響を及ぼす懸念があります。 

給与所得課税の税率は、所得税と個人住民税を合わせて最大55%で、所得が多いほど高い累進制となっています。一方、金融所得への課税は一律20%。この結果、年間所得1億円を境に、所得に占める金融所得の割合が高くなるほど所得税の負担率が下がる構造となっています。

財務省によると、19年の所得税負担率は、所得額が5000万円超~1億円の層でピークの27.9%。この先は比率が徐々に低下し、50億円超~100億円では16.1%まで下がります。 

税制の見直しでは、金融所得に対する一律の税率引き上げや、金融所得に応じた引き上げなどが想定されます。財務省は、少額投資非課税制度(NISA)があるため、見直しによる個人投資家への影響は小さいと見ているようです。 

ただ、一律の引き上げになった場合、所得が少ない若年層などには打撃となり、株式投資を控える可能性があります。政府が進める「貯蓄から投資」の動きにも逆行します。また、そもそも「日本は米国ほど富裕層が多くない」(財務省幹部)ため、課税強化による税収の増加は限定的だとの声もあります。

最近の株価下落に関しては、岸田首相が金融所得課税の見直しに言及したことが影響している側面もありそうです。鈴木俊一財務相は5日の記者会見で、課税の見直しについて「高額所得者が守られ過ぎているという意見と、投資が抑制されるという両面の意見がある」と述べ、与党の議論を注視する考えを示しました。

いずれにしても、いますぐというのは、あまり拙速です。拙速に増税すれば、あるいは増税の素振りをみせれば、次の選挙で自民党が不利になる可能性も大きいです。そう考えた、岸田首相が火消しに走ったのも当然といえば、当然です。

矢野康治事務次官(58)

財務省といえば、財務省事務方トップの矢野康治事務次官(58)が、以下のような与太記事を書いています。
「このままでは国家財政は破綻する」矢野康治財務事務次官が“バラマキ政策”を徹底批判

あまりにバカバカしい記事なので、内容は解説しませんが、興味のある方は読んでみてください。 このような意見を言う前にまずは会計、金融工学の知識がないとどうしようもありません。この記事は、結局日本政府のBSを読めない、破綻確率を計算できないという財務官僚の無能を晒しただけです。

この方、なぜ日本が長い間デフレだったのか、全然理解していないです。結局、長い間政府財務省主導で、緊縮財政に走り、日銀は金融引締に走ったために、日本は長期間デフレに至ったのです。

政府は積極財政をすれば、短期的にはデフレを克服できる可能性もありますが、それでも日銀が金融緩和をしなければ、限界があります。

なぜなら、お金の全体量は変わらないので、いくら政府が積極財政をしても限界があります。これは、パイ(お金)を思い浮かべればわかると思います。多くの人がパイを必要としているときに、バイを増やさなければ、多くの人にバイが行き渡らないのは当然のことです。


日本では、このパイを増やすこともせず、残り少ないパイを多くの人に行き渡らせる努力もしないで、ひたすらパイを温存し続けた結果、多くの人にバイが行き渡らなくなったのです。これが、日本のデフレの原因です。

特に、現状では、コロナで随分と経済が痛めつけられたのは事実で、いかにお金を多くの人に行き渡らせるかが重要です。現状では、「お金のバラマキ」が最も重要な政策です。「お金のバラマキ」をしないなどという政策は、下の下の下の政策です。

ただし、同じ「お金のバラマキ」でも、効率の良い方法、効率の悪い方法があるのは事実です。だから、なるべく効率の良い「お金のバラマキ」をせよというのなら理解できますが、「お金のバラマキ」そのものをするなというのは全く理解できないです。愚かなだけではなく危険な発言です。

財政論からみれば単なる馬鹿な発言ですが、政治的にみれば大きな悪影響がある可能性もあります、自民は総選挙前にこんな放言を許していて良いのでしょうか。総裁選は、内輪の選挙ですから、誰が総理になってもさほど影響はないかもしれませんが、総選挙で負けたらどうするでしょうか。

そうして、先のバイの話のところでも出てきたように、パイそのものが増えなければ、多くの人にパイがいきわたらなくなります。政府が積極財政をするだけでも、パイに限界があるのです。

ですから、政府が経済成長を促すとともに、日銀はお金を増やす、すなわち量的金融緩和をすべきなのです。結局現状では、コロナによる悪影響などで、有効需要が足りていないのです。この有効需要を作るために、政府は財政出動をすべきで、そのためには国債発行し、同時にお金の量自体を増やすために中央銀行が国債購入するのです。

これが、このブログでも何度か紹介した政府日銀の連合軍です。今回のようなコロナ禍で経済が落ち込んだときや、大きな自然災害で経済が落ち込んだときには、世界標準の対策です。そうして、この政策は雇用を促進したり、維持したりするにも最も効果的です。

歴代政権では安倍・菅のみがこれを理解していたようで。これへの批判が金融緩和するとハイパーインフレになるという批判ですが、当然のことながら、現在までに緩和しても、一度もハイパーインフレになったことはありません。

国民もこれを理解しつつあり、さすがに増税に安直に賛成するひとはあまりいなくなりました。そのため、何でも増税が正しいという考えの財務省は、消費税増税はしばらくできないかもしれないと考え始めたのでしょう。

だから、事務次官が週刊誌に与太記事を書いてみたり、金融所得課税の強化を検討したりしているのでしょう。

国民としては、政府日銀の連合軍の本質を理解している、あるいは理解できそうな候補者を選挙で選ぶしかありません。理解した人となると、あまりにも数が少ないので、理解できそうな候補者も含めて考えざるをえないです。

そうなると当然ほんのごく一部の例外を除いて野党の候補者は選べません。後は、今回の総裁選で、実質的にキャスティングボードを担うことになったとみられる安倍氏が、岸田総理大臣などが不良財務官僚や不良日銀官僚などに踊らされて、間違った政策を選択しないように、是正していただくことを祈るばかりです。

高市早苗 前総務相 自民党総裁選挙 立候補に意欲―【私の論評】総裁候補になると見られる人で「インフレ率2%を達成するまでは財政出動を優先する」と発言したのは高市氏だけ(゚д゚)!

衆院選、初の任期満了後に…臨時国会10月4日召集を閣議決定―【私の論評】誰が総裁になっても、当面緊縮路線には振れない、今後の政局だが・・・(゚д゚)!

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2021年10月9日土曜日

損傷の米海軍潜水艦、世界有数の難易度の水中環境で活動 専門家が指摘―【私の論評】米軍は、世界最大級のシーウルフ級が南シナ海に潜んでいることを中国に公表し本気度をみせつけた(゚д゚)!

損傷の米海軍潜水艦、世界有数の難易度の水中環境で活動 専門家が指摘

南シナ海で水中の物体に衝突した米原潜。難易度の高い水中環境で活動中だったという

香港(CNN) 米海軍の原子力潜水艦「コネティカット」が先週末、南シナ海で物体に衝突した事故をめぐり、専門家からは、同艦は世界でも特に難易度の高い水中環境で活動していたとの指摘が出ている。艦の上方は大量の雑音で埋め尽くされ、海底地形も絶えず変化している海域だという。

米国防当局者は7日、コネティカットの事故について詳しい情報は示さず、南シナ海で潜航中に物体に衝突し、多数の乗組員が負傷したと述べるにとどめた。

海軍によると、負傷の程度はいずれも軽かった。コネティカットは8日、自力で米領グアムの海軍基地にたどり着いたという。

海軍報道官はCNNに対し、潜水艦の前部が損傷したと述べ、「完全な調査と分析」を行う方針を明らかにした。

コネティカットは米海軍が保有する3隻のシーウルフ級潜水艦のひとつ。1998年に就役した同艦は排水量9300トン、全長約107メートルを誇り、原子炉1基を動力とする。乗組員は海軍要員140人。

コネティカットの船体は最新のバージニア級攻撃型潜水艦よりも巨大で、米国の他の攻撃型潜水艦に比べ多くの兵器を搭載できる。米海軍の説明文書によると、この中には魚雷最大50発とトマホーク巡航ミサイルも含まれる。

艦齢は20年を超えるが、就役中にシステムの更新が施されており、技術的にも高度な艦とされる。

海軍はコネティカットについて「極めて静粛かつ高速であり、高度なセンサーを搭載している」と述べている。

それでは、どのようにして南シナ海でコネティカットに問題が発生したのか。

海軍はコネティカットが何に衝突したのか明らかにしていないが、専門家からは、南シナ海の環境は同艦の高度なセンサーにとっても難易度が高いとの声が上がっている。

英ロンドン大キングスカレッジのアレッシオ・パタラーノ教授は、「雑音の多い環境ではソナーで捉えきれないほど小さな物体だった可能性もある」との見方を示す。

米海洋大気庁(NOAA)によると、海軍の艦船は水中で周囲の物体を探知するのに「パッシブソナー」を使う。「アクティブソナー」が発信音を送り、反響音が戻ってくるまでの時間を記録するのに対し、「パッシブソナー」は自らに向かってくる音だけを探知する。

これにより潜水艦は静粛性を保って敵から身を隠すことできるが、その反面、他の装置や複数のパッシブソナーを頼りに、進路上にある物体の場所を三角測量で割り出す必要が出てくる。

南シナ海は世界で最も混雑した海上交通路や漁場の一つとなっているため、水上の船が発するあらゆる種類の雑音の影響で、その下の潜水艦に危険をもたらしかねない物体が覆い隠される場合もあるという。

「事故が起きた場所によっては、一種のノイズ干渉(通常は上方の船舶から来る)がセンサーやセンサーの操作に影響を与えた可能性もある」(パタラーノ氏)

しかも、南シナ海の潜水艦にとって問題になりうるのは船舶だけではない。そう語るのは米海軍の元大佐で、米太平洋軍統合情報センターの作戦責任者を務めたこともあるカール・シュスター氏だ。

シュスター氏は「この海域は音響環境が非常に悪い」と述べ、水の性質そのものが問題を引き起こす可能性にも言及した。

また、潜水艦の下にある何かが問題を引き起こした可能性もある。

「あの海域の環境や海底は、ゆっくりとだが確実に変化している」とシュスター氏は指摘。「絶えず海底地形の地図を作っておく必要がある海域だ。地図に記載されていない海底の山に衝突することもありうる」と語っている。

この地域で潜水艦がらみの事故が起きるのは今年2度目。4月にはインドネシアの潜水艦がバリ海峡で沈没し、乗組員53人全員が亡くなった。

インドネシア当局は「自然や環境面の要因」によって事故が起きたとしつつも、これ以外の詳細は明らかにしていない。

【私の論評】米軍は、世界最大級のシーウルフ級が南シナ海に潜んでいることを中国に公表し本気度をみせつけた(゚д゚)!

今回事故のあった潜水艦は、上にもある通り、シーウルフ級原子力潜水艦であり、米海軍の攻撃型原子力潜水艦です。潜水艦一隻というと、大した軍事力ではないと思われるかもしれませんが、シーウルフ級は世界最大級の巨大潜水艦であり、その攻撃力は空母に匹敵すると言っても過言ではありません。

メンテナンス中のシーウルフ級攻撃型原潜 巨大さがよくわかる

あらゆる分野で仮想敵であるソ連海軍の原子力潜水艦を凌駕する超高性能艦として設計されましたが、冷戦終結による必要性の低下や高額な建造費などによって当初29隻だった建造数は大幅に縮小され、結局同型艦2隻・準同型艦1隻の計3隻で建造は終了しました。

米海軍最後の冷戦型攻撃原潜となった本級は、静粛性、氷海行動力、弾量を重視し、「聖域」内への積極的攻勢すら可能な、あらゆる面でソ連原潜を凌駕する超高性能艦とするべく設計されました。

ロサンゼルス級と比較してみると、減少した運用深度を取り戻すべく高張力鋼HY-110を採用し、氷海行動力も当初から盛り込まれた点で対照を成しますが、一方で水上艦用原子炉から発展したS6W型を搭載する点は引き継がれています。

また、イギリス海軍での運用実績に学んで、ポンプジェット・プロパルサーを制式としては初めて装備し、キャヴィテーションを起こさずに20ktで航走可能になりました。魚雷発射管室内の弾庫の容量も根本的に見直され、冷戦後期から米原潜が悩まされてきた搭載兵器量の問題はついに解決されました。

米国には、オハイオ級の攻撃型原潜もありますが、この潜水艦はとにかく巨大です。この潜水艦は特殊部隊シールズを乗せることができるだけでなく、巡航ミサイルのトマホークを1隻で最大154発、水中から連射することができます。軍事機密なのか、詳細は発表されていなのですが、シーウルフ級はこれを上回るのは確かです。

2017年のシリアの攻撃の時に駆逐艦2隻で発射したトマホークの数が59発ですからその規模がとんでもないことがわかります。

1997年から就役するアメリカ海軍有する世界最強の攻撃型原子力潜水艦シーウルフ級

南シナ海において、シーウルフ型攻撃原潜が、緒戦で攻撃に出れば、中国軍は手も足も出ないです。同時に中国側としては、いくらミサイル戦力や海軍力、宇宙サイバー戦能力を充実させても、米海軍の虎の子のシーウルフ型原子力潜水艦を発見し攻撃するASW(対潜水艦戦闘能力)が欠如している現状ではいかんともし難いです。

上の記事では、"海軍はコネティカットについて「極めて静粛かつ高速であり、高度なセンサーを搭載している」と述べている"としていますが、このブログで掲載してきたように、原潜は構造上どうしても騒音が出るため、静寂性には難点があるのですが、それでもシーウルフ型は原潜としては、静寂性か高く、対潜哨戒能力の低い中国がこれを発見するのはかなり難しいです。

一方中国の原潜や通常型潜水艦は、現状でも静寂性は劣ります。さらに、攻撃力も米攻撃型原潜に比較すれば、かなり低いです。特にシーウルフ型とは比較の対象にもなりません。

深海に留まり続け、中国の動きを偵察し、人工島と本土を結ぶ補給線を脅かす米巨大攻撃型潜水艦の存在は中国にとっては、脅威そのものです。もし南シナ海で、米海軍と軍事衝突という事態になれば、米巨大攻撃型潜水艦が、緒戦で中国軍の艦艇、ミサイル基地、空軍基地、監視衛星の地上施設などを破壊し尽くした後に、空母打撃群の波状攻撃にあえば、勝ち目は全くありません。そこに、強襲揚陸艦で米海兵隊員が多数乗り込んできた場合どうなるでしょうか。

そこまでしなくても、複数の米潜水艦が南シナ海を包囲して、中国艦艇や航空機を近づけないようにすれば、南シナ海の中国軍基地には水・食糧・燃料その他を補充できなくなってお手上げになります。


中国軍側からみると、何の前触れもなくある日突然、多くの艦艇、潜水艦、環礁上の基地が、どこから攻撃されたかもわからないうちに、撃沈、撃破され、無力の状態になったところに、さらに空母打撃群によるミサイル、航空機の波状攻撃を受けることになります。

これは、中国にとって悪夢です。中国としては、オハイオ級の攻撃型原潜等が南シナ海に潜んでいることは予期していたかもしれません。しかし、米海軍の世界一の巨大潜水艦が潜んでいることまでは、予期していなかったかもしれません。

以上のことから、私は今回の潜水艦事故は事実だったのでしょうが、それを理由に米海軍は南シナ海にシーウルフ級を潜航させている事実を中国に知らしめて、米軍の本気度を示したものとと推察しています。中国海軍は、対潜哨戒能力が低いので、シーウルフ級が南シナ海に潜航している事実を今回始めて知ったのではないかと思います。

もともと潜水艦の行動は、公表しないのが普通であり、潜水艦が沈没して多数が死亡した場合などの例外を除いて、公表しないか、公表しても場所や潜水艦の種別や負傷者や被害の程度などまでは、公表しないのが普通です。

それを今回の事故では、潜水艦の種別、具体的な潜水艦名、負傷者数のほか、さらにご丁寧に、7日の事故の後に、コネティカットが8日、自力で米領グアムの海軍基地にたどり着いたことまで公表しています。

これでは、いかに対潜哨戒能力が低く、シーウルフ級の行動を探知できない中国海軍であっても、海図とコンパスがあれば、大体どの海域で事故にあったのか、類推できます。

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2021年10月8日金曜日

習近平への「個人崇拝」という統治の危険なレシピ―【私の論評】習近平がやろうとしているのは、自ら属する宗族を中国の支配階層にすること(゚д゚)!

習近平への「個人崇拝」という統治の危険なレシピ

岡崎研究所

 9月1日から始まった中国の新学期では、新たに小学校から大学まで、6歳児以上の生徒、学生に、「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」と題する教科書が配布された。個人名の付いた教育書が何億の民に配布されるのは、毛沢東時代以来だという。また、大人に対するスマホ・アプリによる「習近平思想」教育は、既に始まっている。


 次に、個人崇拝の対象となる人の政策は無謬であるとみなされる傾向がある。それを変えることはむつかしく、政策的な硬直性が出てくる。スターリンの死後、3年後の20回党大会でフルシチョフはスターリン批判演説をして、スターリン政策からの転換を図ったが、それに至る道筋は簡単ではなかった。外交面でフルシチョフは対西側との平和共存路線を打ち出したが、ベリアの逮捕、モロトフの追放などが必要であった。個人崇拝時代からの転換は容易ではない。

見当たらない習近平思想の本質

 中国が今後今までのように経済が成長し、ますます台頭してくるとは見ていない。人口は高齢化するし、経済政策はテク企業などの成長部門を「共同富裕」政策で押さえつける可能性が高いとみている。いまの勢いで成功されてはかなわないので、習近平がイデオロギー重視に向かうことは別に嫌うべきことでもないと考えている。

 なお、共産党と独裁、個人崇拝は親和性がある。レーニン主義は前衛としての共産党の組織論であるが、トロツキーは人民が中央委員会に、中央委員会は政治局に、政治局は書記局に、そして最後は書記長にとって代わられる、それで独裁になると警告していた。スターリンの権力確立過程はそういうものであった。

 なお、習近平思想というが、習近平は中華民族の復興、強国中国などのスローガンを掲げているが、思想というようなものは見当たらない。

【私の論評】習近平がやろうとしているのは、自ら属する宗族を中国の支配階層にすること(゚д゚)!

習近平への「個人崇拝」という統治の危険を一言でいってしまえば、中国の北朝鮮化といことができるでしょう。

北朝鮮の「個人崇拝」の本質は、金王朝の存続です。金日成、金正日、金正恩が「個人崇拝」により目指したのは、これです。彼らにとって、一番重要なのは「金王朝」の存続です。

習近平もこれを目指しているようですが、習近平の目指しているのは、北朝鮮の金王朝の存続とも似ていますが、少し違うところもあります。金王朝は第二次世界大戦後につくられたものですし金家とそれに連なる者たちというと人数もある程度限られますが、習近平の王朝の本質は、金王朝などよりもはるかに長い歴史を持ち1家系に連なる親戚関係等よりもはるかに規模の大きい「宗族」です。

中国には、今でも全国各地に宗廟(そうびょう)が存在します。宗廟とは、中国において、氏族が先祖に対する祭祀を行う廟のことです。中国の歴代王朝においては、廟号が宗廟での祭祀の際に使われます。日本では、台湾の台中にある林氏宗廟や、世界遺産に登録されている朝鮮王朝(李氏朝鮮)の李氏宗廟が有名です。

中国三大宮殿建築のひとつ、孔廟・大成殿。孔子没後まもなく魯の哀公が孔子の住居を廟に改修したのがはじまり

宗族(そうぞく)とは、中国の父系の同族集団。同祖、同姓であり、祭祀を共通にし、同姓不婚の氏族外婚制をたてまえとするものです。同じく血縁でも母系は入らず、女系は排除されます。

したがっていわゆる親族のうちの一つであっても、親族そのものではありません。文献では前2世紀頃あるいは3世紀頃からみえます。同族を統率する1人の族長の支配下におかれ、族内の重要問題は、同族分派の各首長 (房長) らによる長老会議または族人による同族会議が召集され、協議決定されました。

宗族は往々集団をなして同族集落を構成し、その傾向は華中、華南に強く、1村をあげて同族であることも少くありませんでした。その場合、閉鎖的で排他性が強く、利害の衝突から集落相互間に争いを引起すこともありました。また同族結合の物的基礎として、共同の祖先を祀る宗祠設立のほか、義荘、祭田の設置、族譜 (宗譜) の編集なども行われました。

中国人にとって、今でも一族の利益、一族の繁栄はすべてであり、至高の価値なのです。それを守るためにはどんな悪事でも平気で働 くし、それを邪魔する者なら誰でも平気で殺してしまうのです。一族にとっては天下国家も公的権力もすべてが利用すべき道具であり、 社会と人民は所詮、一族の繁栄のために収奪の対象でしかないのです。

だから「究極のエゴイズム」を追い求め、一族の誰かが権力を握れば、それに群がり、もし失脚すれば、一族全員がその道連れ となって破滅するのです。

習近平も、正に宗族の論理によって突き動かされ、一族だけの利権を追 求し、一族だけが繁栄を究めているのです。

中国共産党は『宗族』を殲滅したのではなく、むしろ宗族の行動原理は生き残った上で、党の中国共産党政権自身を支配しているのです。中国における宗族制度の原理の生命力はそれほど堅忍不抜なものであり、宗族は永遠不滅なのです。

中国人は、現代日本人の感性や規範、道徳、しきたりとまったく異なる伝統を今でも保持しているのです。

いわゆる黒社会も、この宗族とは無縁ではないです。習近平の宗族は運良く、共産党を支配することができましたが、そうではない宗族で、これに反対したり、反対者とみなされる宗族が、黒社会を形成しているのです。

中国の黒社会

中国は昔から、そうして現在も宗族が中心となって、社会を構築してきました。こうした中国の本質にからみると、共産主義も、資本主義も、政府も、憲法も法律もいや国そのものですらどうでも良いことなのです。それらは、宗族が栄えるための道具にしか過ぎない魔です。一番重要なのは、自らから属する宗族なのです。

これは、華僑社会にもみられることです。中国から出て外国に行っても、宗族中心の社会を形成し、宗廟をつくるのが中国人なのです。

宗族は、共産主義になっても生き残りました。毛沢東は、宗族を潰すべく、荒っぽい農村改革に乗り出しましたが、それでは社会が機能しなくなるので、結局「人民公社」が宗族に取って代わっただけでした。

圏子(チェンズ)」と呼ばれる利益共有集団が構成され一族や内輪の繁栄のみが大事という伝統は脈々と続きます。習主席の腐敗キャンペーンも実は宗族同士の権力争い(械闘)に他ならないのです。つまり、宗族の原理が共産党政権を支配したのです。

今でも中国社会に息づく圏子

宗族のために生き、宗族のために働き、宗族のために死ぬのです。これが中国社会の本質であり、だからこそ、中国は現在先進国では当然とされている、国民国家とは程遠い組織であり、先進国では当たり前の、民主化、政治と経済の分離、法治国家化もできないのです。

そのため、先進国とは永遠に理解し合えることはないのです。台湾や「一国二制度」下の香港のように、宗族が互助組織のようなものとなり、実質的に政治と無関係になったような、国等とも理解しあえることもないのです。これを実現するためには、まずは宗族を廃止して、近代的な国民国家を設置しなければならないのです。しかし、そのようなことはできそうもありません。

習近平が目指しているのは、「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」などとは、全く関係なく、そのようなものは単なる道具にすぎず、習近平の属する「宗族」が、中国の支配階層なることです。

冷戦時代、2大強国として米国と並び立っているように見えたソ連邦は、実は異常に軍事と宇宙開発に費用をつぎ込んだ経済的にはボロボロの張り子の虎だということが、崩壊した後明らかになりました。

共産主義中国の鄧小平は、そのソ連の姿に自国の未来と恐怖を感じ、宗族間の争いに勝つことではなく強力に「改革・解放」を押し進めました。そのおかげで、中国は経済的に繁栄しソ連邦のような崩壊から逃れることができたのですが、習近平は「香港1国2制度破棄」し、毛沢東時代に戻る道を選びました。さらに、自らの宗族が中国の支配層になる道を選んだようです。

こうなると、習近平氏(中国共産党)には2つの道しか残されていません。

1) 毛沢東時代の「北朝鮮のような」貧しい鎖国をする国になる。ただし、習近平の属する宗族が、北朝鮮の「金王朝」が北朝鮮を支配しているように、中国の支配階層になる
2)従来のように国内で宗族間抗争を続けながら、国外では「人類の敵」として世界中の先進国から攻撃を受け滅亡する。

中国が、ここ数十年驚異的な発展を遂げることができたのは「改革開放」という資本主義・自由主義的政策を宗族社会の枠の中であっても採用したからです。そして、その宗族社会の中のささやかな自由の象徴が香港でした。そうして、「香港」でも台湾のように宗族は互助組織のような存在となり、政治的には力を持ちませんでした。

言ってみれば、宗族同士の権力闘争とは無縁の「改革・開放政策」が、中国大陸の中での「1国2制度」であったともいえるかもしれません。香港の1国2制度を破壊すれば、当然中国大陸の1国2制度である「改革開放」も死を迎えます。

「改革開放」が存在しない中国大陸は、宗族争いが激化し、習近平が宗族間の争いに勝利して、自らが属する宗族が中国の支配階階層となれば、北朝鮮と何ら変わりがないです。ただし、宗族の倫理からみれば、習近平のこの行動は正義なのです。

習近平氏の運が良ければ、北朝鮮のように貧しい国で宗族を支配階層とする王朝を築けるでしょうが、毛沢東時代と違って「自由と豊かさを知った」他宗族の中国人民を押さえつけるのは至難の技でしょう。

かなりの確率で、習近平政権は崩壊せざるを得ないでしょう。

日本人と中国人の顔は似ていますが、思考はまるで違います。外交でもビジネスでも、それを理解した上で対応しないと痛い目を見続けることになります。それは、宗族のような組織を過去に捨て去った西洋社会も同じことです。

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2021年10月7日木曜日

岸田首相に望む「アベノミクス」の徹底 緊縮財政に走らず、適切な分配政策で補完を―【私の論評】バブル当時の景気の良さを実現できるだけの潜在能力が日本経済にはある!それを令和日本で実現する鍵は「雇用」(゚д゚)!

岸田首相に望む「アベノミクス」の徹底 緊縮財政に走らず、適切な分配政策で補完を 
経済快説

経済政策が注目される岸田首相

 自民党総裁選で選出された岸田文雄氏が首相に就任した。同党の派閥と個々の議員の利害を考えると予想できる結果だったが、世論調査では支持率が高かった河野太郎氏に大差をつけた。

 河野氏は同僚である議員票が意外なまでに少なかった。日頃の「付き合い」や「面倒見」が悪かったのだろう。この結果を見て「社内の飲み会くらいは出た方がいいのかな」と思うサラリーマンがいるかもしれない。社内での出世がどれほど大切かは人によるだろうが、「社内の付き合いが悪い人は社長になれない」とは言えそうだ。

 岸田首相に望みたい政策は、読者にも数多くあるのではないか。しかし、今回は一つに絞る。岸田氏は、アベノミクスを分かりやすく継承・強化することを望みたい。

 今回の総裁選で岸田氏は、2%のインフレ目標を維持し、消費税を向こう10年間は上げない方針を述べた。いずれも、いわゆるアベノミクスを継承するものだ。しかし、昨年、菅義偉氏が選出された総裁選に挑んだ際の岸田氏はむしろアベノミクスの修正を唱えていた。

 アベノミクスの内容をどう定義するかが問題だが、(1)インフレ率2%を目指し、そのために(2)金融緩和政策を維持し、(3)金融緩和の後押しとして拡張的な財政政策を行い、こうした環境の下に、(4)規制緩和などの成長戦略を投入する経済政策だ。具体的には(2)(3)(4)の実施なのだが、特に(1)の条件が満たされるまで(2)(3)の施策を継続することが重要だ。

 今回の岸田氏の総裁選出に当たっては安倍晋三元首相の影響下にある自民党最大派閥の細田派の影響が大きかった。党役員や組閣にも同派への配慮が見られるので、安心していいのかもしれない。

 当面、財政を拡張することが金融緩和を後押しする構造になっているので、緊縮財政に傾かないことが重要だ。「財政再建の旗は降ろさない」といった無意味な念仏を唱えて増税を招かないことがまずは大切だ。

 やや長期的には2023年3月に予定されている日銀の正副総裁人事を、インフレ目標達成までの金融緩和政策の継続が確実視できるメンバーで行ってほしい。今や日銀の人事は、将来の金融政策を示唆する重要な「フォワード・ガイダンス」であり、重要な金融政策だ。

 岸田氏は、今回の総裁選で「分配政策」の重要性を訴えた。アベノミクスは分配政策を欠いた政策パッケージだったので、分配面の施策でこれを補完する方向性は適切だ。決して緊縮財政に走らずに、有効な再分配政策を実施してほしい。 (経済評論家・山崎元)

【私の論評】バブル当時の景気の良さを実現できるだけの潜在能力が日本経済にはある!それを令和日本で実現する鍵は「雇用」(゚д゚)!

岸田氏の主張する分配政策は、左翼政権がよく実施する政策なので、立憲民主党をはじめとする野党は岸田政権に対抗するのは難しいでしょう。立憲民主党が埋没せずに自己主張をするためには、さらに左よりになる必要があるのかもしません。そのせいでしょうか、最近の立民は共産党に接近しています。

なお、この分配政策はお隣韓国では、最低賃金をあげるという政策を実行しようとしましたが、金融緩和をせずに単純に最低賃金をあげてしまったので、雇用が激減して大失敗しました。

なぜ、このような失敗をするかというと、経済の中で一番重要なのは、雇用であることを認識していないからです。

この点に関しては、文在寅氏、枝野氏そうして、麻生氏、岸田総理も理解していないようです。

今回の総裁選で岸田氏は、2%のインフレ目標を維持すると語りました。そもそも、この考えが間違いです。インフレ目標の意味は他のところにあります。それは、雇用と密接に結びついています。

一方、麻生太郎氏は、4日の退任にあわせ、記者会見を開き、アベノミクスでデフレ脱却宣言を出せなかった理由について「(2014~15年の)原油価格の下落が大きかった」と説明し、当時、日銀の黒田東彦総裁に2%の物価安定目標の引き下げを打診したことを明らかにしました。

これも、大きな間違いです。物価目標とは、2%に達するためのものではなく、平たくというと金融緩和を加速すれば、インフレ傾向となり、雇用は改善されるのですが、ある時点をすぎると、雇用が伸びずにインフレだけが進んでいくことになります。そうならないようにするための、上限が2%ということです。

麻生氏も「雇用」こそが最も重要であるという認識が欠けているため、このような間違いを犯しているのだと思います。

これに関して、高橋洋一氏がYouTubeの動画でわかりやすく解説しています。その動画を以下に掲載します。


この動画をみると日銀は、「物価の安定」だけでなく、FRBのように「雇用の最大化」も目的とすべきということがよくわかります。高市さんは、全く正しいです。

バブルの問題は投機目的で不動産や一部の金融商品の価格が異常に上ったというだけで、マクロで見れば、一般物価はあがっておらず、理想的な経済状態だったのです。ということは、インフレを起こさず、バブル当時の景気の良さを実現できるだけの潜在能力が日本経済にはあることになります。

高橋洋一氏が、マクロ経済政策を解説する場合には、高橋氏が作られた以下のグラフを思い浮かべていただきたいと思います。このグラフは過去にこのブログでも何度か掲載しましたが、以下に再掲します。


このグラフについて、説明します。これは、元々は経験則から作成されたものですが、これはいずれの国の経済にも当てはまります。いずれの国もこのような形になります。まずは、インフレ率と失業率は逆相関になります。無論、NAIRUやインフレ目標はそれぞれの国によって違います。ただ、これらの値が違ったとしても、いずれの国でも上のグラフ通りの動きをします。

日銀はインフレ目標を2%としていますが、幅がある国も多いです。多くは目標プラスマイナス1%です。インフレ目標国は、このレンジに7割程度収まるのが通例です。

インフレ目標の数値自体は、失業率の下限であるNAIRU(インフレを加速しない失業率:ブログ管理人注:構造的失業率とも言われる。現状では2.5%程度と見積もられている)に対応するものとして設定されています。

インフレ目標の下限を設定するのはデフレを放置しないためです。そして上限は金融緩和で失業率を下げたいのですが、やりすぎて必要以上にインフレ率を高くしないように設定します。

マクロ政策のうち、財政政策は公的部門の有効需要へ直接働きかけるので即効性があるものの、持続性には欠けること、他方、金融政策は民間部門の有効需要へ実質金利を通じて働きかけるので、波及範囲は広いのですが、効果は即効的ではありませんが持続的であることを理解していれば、マクロ政策のほとんどは理解できます。

マクロ経済政策について重要なのは、このグラフが頭に入っていることが必要だと思いますが、雇用が他の何にも増して重要だという事実です。

雇用が悪ければ、他の指標が良くてもマクロ経済政策は失敗といえます。民主党政権のときのように、実質賃金が良くても、雇用が悪ければ落第です。実質賃金が多少低くても、雇用が良いほうが、マクロ経済政策としては良いです。

雇用が確保されていれば、他の指標が悪くても、いずれ改善していく可能性はありますが、雇用が悪くて他の指標が良くても、いずれ他の指標も悪くなります。

これは、常識的に考えてみても、わかります。実質賃金がかなり高くても、失業者が大勢いる社会は不安定です。GDPが伸びていても、輸出が伸びていても、失業率が高ければ、社会は安定しません。失業がより少ないほうが、より安定した社会になります。

そうして、雇用がよくなり続ければ、人手不足となり、企業は人を採用するために、賃金を上げざるを得なくなります。それでも、人手不足で、従来は労働力となっていなかった、就職を諦めていた人、女性・高齢者・身体障害者の人々も労働力とみなされるようになります。ブラック企業は存在の基盤を失います。

新総裁はこのあたりのことを理解していないようですが、安倍氏、高市氏などが理解しています。岸田氏が雇用を無視したり、雇用を悪化させるような政策をとりそうなときは、これを正していただきたいです。

マスコミもこれを理解しておらず、雇用というと日銀ではなく、厚生労働省に聞きに行くと動画で高橋洋一氏が、揶揄していましたが、マスコミに限らず、このように考える人が日本にはまだまだ多くいます。

民主党政権だったころに、あるハローワークの女性職員が、「課長が、私は雇用というものがよくわからない」と発言していたのを聞いて驚いたというような発言をネットでしていたのを覚えています。世間においては、このような見方をするのかもしれませんが、これは大きな間違いです。

ハローワークは雇用の創出はできない、職の仲介はできても、職そのものを増やすことはできない

この課長さんは、正直なのだと思います。厚生労働省の下部機関である、ハローワークの課長さんは、地元の雇用状況に関しては理解しているべきですが、雇用を創出することに関わることはできません。それができるのは、日銀です。

日銀が、2%インフレ率をあげると、他は何もしなくても日本なら数百万人分の雇用が他は何もせずともたちどころに生まれます。ただ、雇用が生まれただけでは、雇用のミスマッチが起こることもあります。これを是正するのが、厚生労働省であり、ハローワークなのです。無論これをやりすぎれば、先の述べたように、雇用は伸びず、インフレ率だけが上がるという結果を招くことになります。

厚生労働省は雇用に関してできることといえば、雇用統計をとりまとめることと、雇用のミスマッチを抑制できるくらいで、雇用そのものを主管しているわけではありません。雇用を主管しているのは本来日銀です。それが、世界の常識です。

しかし、これを周りの人に話したりすると、目を丸くして信じられないというような顔つきをする人が多いです。「金融と雇用」は関係ないと考える人が多いようですが、多いに関係あるるのです。それが世界の常識であり、それが常識になっていない日本は非常識です。

このことは、日本では総理大臣や元財務大臣でも知らないようですし、マスコミもほとんど理解していないようです。与野党の政治家も理解している人は少ないです。

このような有様では、いくら安倍元総理や高市早苗氏がこれを理解していて、総理がマクロ政策を間違いそうになってもそれを正すのは難しいかもしれません。

しかし、私達にもできることはあります。一人でも多くの人が、これを理解してマクロ経済政策に関する正しい世論を形成することです。そうして、それはさほど難しいことではありません。とにかく経済においては何をさておいても、「雇用」が何もよりも重要だという世論を形成すれば良いのです。これに、真っ向から意義を唱える人はあまりいないでしょう。

そうして、バブル崩壊から数十年という長い年月、高橋洋一をはじめとする、まともなエコノミストが、努力してきたおかげて、数十年前とは随分状況が変わっています。雇用の重要性への認識は、従来からみればかなり高まっています。

先程も述べたように、バブル当時の景気の良さを実現できるだけの潜在能力が日本経済にはあるのです。私達は、コロナによる経済悪化から回復だけではなく、あの当時の経済の水準にまで景気が良くなるまで、景気が良くなっても賃金が上がるまで「雇用が重要だ」と言い続けるべきなのです。その後も、「雇用が重要だ」と言い続けて、多くの政治家やマスコミの認識を変えてしまうべきなのです。そうなれば、日本経済も良くなります。雇用こそ、あらゆる経済局面において、最も重視されなければならなのです。

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2021年10月6日水曜日

ラテンアメリカの動向で注視すべき中国の存在―【私の論評】日本も本格的に、対中国制裁に踏み切れる機運が高まってきた(゚д゚)!

ラテンアメリカの動向で注視すべき中国の存在

岡崎研究所

 9月18日、ラテンアメリカ・カリブ共同体(CELAC)の第6回首脳会合がメキシコシティーで開催された。CELACは、元々、ベネズエラのユーゴ・チャベスが主導して、キューバを排除している米州機構(OAS)に対抗して、米国とカナダを排除したラテンアメリカとカリブの共同体として2011年に結成されたものであった。ラテンアメリカ諸国間の分裂により17年の第5回首脳会議以来4年振りの首脳会議であった。


 この間、対ベネズエラ制裁やボリビア大統領選挙などについて、米国がOASを政治的圧力の手段として用いることや、米国寄りのアルマグロ事務局長に対する左派側の反発もあり、議長国であるロペス・オブラドール(メキシコ大統領)としては、4年振りの首脳会議において、OASの在り方の見直し、将来的には、CELACがその役割を代替していくといった方向性を打ち出すことを構想していた。

 キューバは、米国による経済封鎖解除を要求する機会として利用すべく、ディアスカネル大統領がメキシコ独立記念日の賓客として16日からメキシコに乗り込み、また、出席が予定されていなかったベネズエラのマドゥロー大統領もCELACが米国の対ベネズエラ制裁解除を決議することを期待してが急遽参加するというサプライズもあった。

 しかし、OASに関する問題を正式議題とすることにコロンビアが強硬に反対するなど諸国間の意見対立があり、恐らくは米国に対する配慮もあり、ロペス・オブラドールも当初の構想を断念し、最終宣言では、内政不干渉などが国際法の原則として抽象的に強調されただけでOASの見直しには言及は無く、CELACの活動拡充・強化の方針が確認されたにとどまった。

 米国のキューバに対する制裁措置の撤廃に関する特別宣言は採択されたが、同趣旨の決議は国連総会決議でも採択されており、ベネズエラに対する米国の制裁撤廃の特別宣言は話題とはならなかった。

 むしろ注目されたのは、議場における首脳間の辛辣な応酬であり、ラテンアメリカ諸国間の分断を改めて印象付けた。一つは、ウルグアイ及びパラグアイの首脳が、キューバ、ベネズエラ、ニカラグアにおける非民主主義的状況を批判したのに対しこれらの国が強く反発したこと、また、もう一つは、意外なことにニカラグアがアルゼンチンが内政干渉したとして強く非難し、同国が次回議長国に就任することに唯一反対したという事態である。これは、ニカラグアのオルテガ政権が逮捕、投獄した野党指導者の解放を求める国連人権高等弁務官(バチュレ前チリ大統領)の報告書をアルゼンチンが支持したことが理由のようである。

 したがって、左派諸国を中心にCELACが結束して米国に対抗し、あるいは、米国に圧力をかけるどころではなかったわけである。また、メキシコには、米国との特別な関係があり、原油を武器にカリブ諸国などを取り込んだかつてのベネズエラのような資金力がある訳でもなく、左派ラテンアメリカ諸国の盟主として米国と正面から対立することは元々無理なのだと言えよう。

習近平がビデオメッセージで参加

 ラテンアメリカ諸国の左派政権の動向の懸念を指摘するとすれば、むしろ、チリ、コロンビア、ブラジルに左派政権ができることであるように思われる。CELAC発足時との大きな違いは中国の存在である。

 中国は、2015年に中国・CELAC閣僚会議を北京で開催し、今回のサミットでも習近平のビデオメッセージで参加した。中国はその資金力を背景にCELACを対ラテンアメリカ外交の1つのツールとして位置付けている。特にブラジルにルーラ政権が復活しCELACに復帰するようなこととなれば、雰囲気はかなり変わってくる可能性もあろう。

【私の論評】日本も対中国制裁で中国の世界中の国々への浸透を阻止すべき(゚д゚)!

「今、米国と世界は、中国の共産主義に立ち向かわなければ、南米を失うだろう」

中国共産党政府は、ここ数十年南米で密かにプレゼンスを高めてきている。

フジモリ政権で外務大臣を務めたフランシスコ・トゥデラ氏は、スティーブン・バノンのポッド・キャストの人気番組「ウォー・ルーム」で語りました。

スティーブン・バノン氏

以下に抜粋を掲載します。
決選投票で、ケイコ・フジモリ氏にごく僅差で勝利した急進左派政党「自由ペルー党」のペドロ・カスティージョ候補は、7月28日に大統領就任を宣言した。フジモリ氏は、「いくつかの重要な選挙区で不正があった」と証言に基づいて抗議をしたが、最終的に選挙結果を受け入れた。
これに対してアルベルト・フジモリ元大統領の外務大臣を務めたフランシスコ・トゥデラ氏はバノンのインタビューで、以下のように語った。
「もし、今米国と世界が立ち上がらなければ中国共産党が南米を占拠するだろう。」

米国の南北大陸の中国共産党によるマルクス主義化は、南米をステップとして準備されてきた。
現在のペルー憲法は、自由経済を認める民主と自由主義を認めている。
しかし、この新政権は、カスティージョ氏は否定しているが、共産党政権だ。同党の書記長は、「我々はマルクス、レーニン、毛沢東主義者だ」と認めている。
この社会主義者政権は、自由主義憲法を社会主義憲法へと改変を狙っている。そのために、議員の半数だけは選挙で選出され、残りの半数は自分たちの指名した議員にして、有効な選挙が行われない制度を確定させようとしている。 
ペルーで、ついに完全な全体主義の政権が誕生した。 
彼らは全ては「人民のため」という名目で、全ての彼らの政策を正当化しようとしている。 
彼らのやり方は、多くの経済的混乱を作り出し、争いを人々の間に起こし、人々を分断し、自らが権力に永久にとどまれるような制度に法律を変えている。 
彼らは、民主主義という名前を一応は語るが、たった一つの目的は、憲法の改変と議会を使っての一党独裁政治だ。 
なぜこのようなことが起きたのか? 最大の罪はメディアにある。 メディアがこれらの事実を「報道しない」ことを続けてきたからだ。 
「ペルーの天然資源の63%は中国に買収された」ペルーは天然資源の豊かな国だ。
しかし、数十年前から、中共政府は天然資源鉱山を密かに買い占めていった。中共政府は最初は「経済支援」のようなフリをして入ってくる。中国商業銀行など既に170社の中国企業が進出している。 
中国資本は、ペルーの63%の天然資源を既に買収した。特に銅(世界最大の埋蔵量と言われる)と鉄を中心にして、既に大半が中国に買収されている。 
彼らは、その次には港を押さえにかかった。最初の商業用港を押さえた。 
リマからも近い1マイルの幅を持つ大きな港だ。ここはペルー発展の鍵となると中国政府は語って貸借を進めた。
フランシスコ・トゥデラ氏

 不正選挙はどのように起きたかとの質問に対して、フランシスコ・トゥデラ氏は次のように答えています。

中国政府は、最初文化面から侵入する。それも20年間かけて、大学や高校などの学校の教科書の歴史や事実を意図的に変えてきた。共産主義ドクトリンを時間をかけて広めてきた。
そして、社会主義の影響下にあるマスコミは、自由を求める国民を貶め攻撃し、まるで愛国者を恥ずかしい存在であるかのような報道を続けた。メディアは、ペドロ・カスティーヨの対抗馬であったケイコ・フジモリを徹底的に攻撃した。
現在、南米では米国か中国政府か、どちらが大きな影響力を持っているのか、との質問には、以下のように答えています。
「既に中国が米国より遥かに大きな影響力を持っているのが現実だ。」と答えた。

 しかし、なぜ米国はこの事実を知らないのか?

それは、米国のメディアが「真実を報道しない」からだ。 
既に、アルゼンチン、ボリビア(リチウムが豊富なことで既に中共政府が浸透している)も同様に中国共産主義の侵入が激しい。 
ペドロ・カスティーヨはファアで公正な選挙で勝利していない。ペルー人の選挙後の統計で、75%は不正があったと統計で出ている。
私はこのトゥデラ氏の発言を聞いて、この共産主義者の進める原理は、新マルクス主義フランクフルト学派が教科書通りの侵略方法であると思いました。「教育機関」「メディア」「社会」に侵入するという基本を忠実に南米と米国でも行っていると感じました。

そうして、このペルーで過去起きていたことは、米国でも同様のことが起きており、昨年の大統領選挙、今年バイデン 政権が誕生してから次々と発表される社会主義政策と、社会主義者が民主党の枢要を担うところに既視感を感じました。

この老練なペルー外交官は、自らの国で起きたことが現在米国でも起きており、もし今立ち上がらなければ、その結果は破滅的な結果を招くだろうと警告しています。

1980年代中南米で、世界最大の埋蔵量を持つ石油資源を背景に最も豊かだったベネズエラは、共産主義マデューロ政権によって、現在ハイパーインフレから国民の90数%が最貧の状態まで追い込まれています。

1980年代、大勢の共産国キューバからベネズエラに亡命してきたキューバ人が共産主義の脅威をベネズエラ人に語ったのですが、ベネズエラ人はそれを信じませんでした。そんなことは自分たちの国で起こるわけはないと信じていたのです。

現在、ベネズエラは、水、食糧、薬という最低必要な生活必需品がほぼ入らないところまで追い込まれています。

しかし、これは米国や中南米だけの問題ではありません。同じことが日本でも既に起きています。

本日は、ZAKZAKに以下のような記事が掲載されていました。
日本の弱体化狙い「沖縄などで独立運動をあおっている」 仏軍事研究所「中国の影響力」報告書

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、一部を引用します。 

 IRSEMは仏国防省傘下の研究機関。報告書は「中国の影響力作戦」と題して、9月に発表された。約650ページあり、在外華人を使った共産党の宣伝工作、国際機関への浸透、インターネットの情報操作などの事例を分析している。
 沖縄への関与は、中国にとって「日本や在日米軍を妨害する」意味を持つと指摘。沖縄の一部住民には日本政府への複雑な気持ちが残り、米軍基地への反発も強いため、中国にとって利用しやすい環境にあるとした。中国が独立派を招いて学術交流を促したり、中国人が米軍基地近辺で不動産投資を進めるなどの動きがあると列記した。
 中国は独立派と同様に、「憲法9条改正への反対運動」「米軍基地への抗議運動」を支援しており、その背景には日本の防衛力拡大を阻止しようという狙いがあるとも指摘した。

このようなことは、すでに日本国内でも随分前から多くの人によって指摘されていたことですが、 フランスの軍事研究所という、日本とは直接利害関係のない機関が、このような報告書を公表したということで、改めて示された形です。

フランシスコ・トゥデラ氏は、「自らの国で起きたことが現在米国でも起きており、もし今立ち上がらなければ、その結果は破滅的な結果を招くだろう」と警告しています。

少し前の米国、特に民主党オバマ政権では、このようなことが進行しつつあったのは確かです。それを止めようとして登場したのがトランプ大統領です。トランプ氏は、昨年の大統領選挙では敗北しましたが、米国議会においては、共和党も民主党も中国に対抗する勢力があり、これが対中国制裁法案を議会に提出し、次々と成立しています。

これからもこの動きを止めることはできないでしょう。日本では、親中派の二階幹事長が自民党内で、大きな権力を持ち、つい最近の6月には、中国当局による新疆ウイグル自治区などでの人権弾圧を非難する国会決議案が通常国会で採択されなかったということが起こりました。これは、無論二階氏による妨害工作によるものです。

自民党の幹事長は、自民党に配布される政党助成金を配分する権限を持ち、これを傘にきて党内で強力な権力を誇示することができます。

親中派の二階幹事長は、3Aと呼ばれる、反中派の安倍・麻生・甘利氏との対決しなければならなくなりました。ただ、総裁選挙の前までは、互いを意識しながらも、穏やかな対立に終始していました。

それは、何といっても総裁選の後に控える衆院選を意識したからでしょう。あの時点で、両者の争いが表面化してしまえば、衆院選に悪影響を与えるのは必至でした。

しかし、総裁選に菅総理が出馬しないことを表明した後には、状況が全く異なることになりました。総裁選を通じて、両者の争いが先鋭化したのです。総裁選は、3Aが協力した岸田氏が勝利しました。

そうして、二階氏と3A対立も、3A側の勝利に終わり、二階派は現在退潮ムードにあります。岸田新政権においては、閣僚は、環境大臣と、経済安全保障担当大臣の2名のみです。そうして、何といっても、党内人事では、甘利氏が幹事長になったことが、3Aの大勝利を雄弁に物語っています。小石河連合は、安倍元総理の努力により、結局自民党内の多くの議員によって拒絶されました。

そうして、この対立は角福戦争のような大きな抗争になることなく終焉しました。これで、数の力の意味を知る自民党は最終的にはまとまり、衆院選を戦える状態になったと思います。自民党はこれで、次の衆院選で、少なくとも過半数を維持できる可能性が高まってきました。

岸田政権においては、安倍元総理が、これからもキャスティングボーダーとなり、様々なことに挑戦できます。安倍元総理は、総理だった時代より、より多くのことを成就できる機運が高まってきました。

これからは、日本でも欧米並に、甘利幹事長のもと自民党が中心となり、対中制裁法案が次々と提出され、議決される体制が整うでしょう。

これで、日本でも中国と、共産主義に対抗する、体制が整うことになるでしょう。

このブログでも何度か指摘したように、中国は軍事力を増強しつつあり、艦艇数などでは米国を上回るようにまでになりましたが、それでも、質的には劣っています。特に、日米に比較すると対潜戦闘力はかなり劣っているため、海戦では日米にまともに対峙することはできません。海戦においては、日本単独とでも、戦えば負けます。対峙して、軍事行動を起こせば、中国海軍は壊滅します。

軍事力では日米にかなわない中国は、今後ますます世界中の国々に対して浸透工作を強めていくでしょう。それに対抗するすべは日本でも整いつつあります。

日米およびその同盟国は、今こそ立ち上がり、中国の浸透工作をラテンアメリカも含む世界中で阻止すべきです。

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2021年10月5日火曜日

「悠然」から「策士」へ 岸田首相、不意打ち総選挙の“奇襲作戦” 「甘利氏が軍師として支え…人事も絶妙な配置」と識者―【私の論評】岸田総理面目躍如!総裁選で二階幹事長はずし、小石河連合潰し、選挙前倒しで小池「ファーストの会」潰し実現(゚д゚)!

「悠然」から「策士」へ 岸田首相、不意打ち総選挙の“奇襲作戦” 「甘利氏が軍師として支え…人事も絶妙な配置」と識者

記者会見を終えて降壇する岸田首相(左)と、官房長官や官房副長官ら=4日夜、首相官邸

 岸田文雄首相が、奇襲作戦に出た。次期衆院選の日程を、当初の想定より早めて、「19日公示-31日投開票」に一気に前倒したのだ。「衆院議員の空白」「新型コロナの現状」を理由に挙げたが、新政権発足直後の勢いのまま選挙戦に突入した方が有利と判断した面もありそうだ。岸田氏は従来、悠然とした雰囲気だったが、先の総裁選以降、「二階俊博幹事長外し」や「河野太郎氏潰し」などでも、策士の一面を見せつけている。

 「衆院議員の空白を、できるだけ短くしなければいけないのは当然だ」「国民に判断をいただくのだから、コロナの現状も念頭に置いた」

 岸田氏は4日の就任会見で、衆院選の日程について、こう語った。衆院議員の任期は21日までであり、大きく減ったコロナの新規感染者数を見ると、確かに一理ある。

 ただ、政権発足直後は「ご祝儀相場」という支持率上昇が期待できる。一方、コロナの感染者が増えれば、支持率は下落しかねない。野党が選挙準備を終えていないのを狙った動きともいえる。

 岸田氏は党内で「お公家集団」と呼ばれる宏池会(岸田派)を率いて、「永田町で一番、人柄が良い」(ベテラン秘書)と言われてきた。

 ところが、8月末の総裁選出馬会見で、党役員の任期を「1期1年、3期まで」という党改革案を打ち出し、イメージを変えた。5年以上、党の人事とカネを握ってきた「二階幹事長の交代」を求めたもので、菅義偉首相も同調せざるを得なくなり、菅首相退陣につながった。

 総裁選でも、河野氏が「年金制度改革」を打ち出したところ、岸田氏は「消費税が何%上がるのか、はっきり答えてほしい」と迫った。河野氏は「大増税批判」を受けて、白紙撤回を余儀なくされた。最後は岸田氏に大敗し、党広報本部長という格落ちポストに追い込まれた。

 政治評論家の伊藤達美氏は「岸田氏は昨年秋の総裁選で敗退後、『もう後はない』と一念発起した。甘利明氏が軍師として支え、中堅・若手が知恵を出してきた。岸田氏自身も大きく変わった。人事も絶妙な配置で、したたかだった」と語っている。

【私の論評】岸田総理面目躍如!総裁選で二階幹事長はずし、小石河連合潰し、選挙前倒しで小池「ファーストの会」潰し実現(゚д゚)!

上の記事では、触れられていませんが、第100代の総理大臣による、岸田政権は超短期政権になります。現在の岸田政権は、次の衆院選が終了するまでの間だけに、成立する政権です。

次の選挙では、よほどのことがない限り自公が勝利し、岸田氏が総理大臣になるでしょうが、そうなっても101代総理大臣になり、甘利幹事長などの党内人事は変わることはないでしょうが、新たに組閣することになります。

そのため、現在の岸田内閣を評価することはできません。本当の評価は、次の選挙後の評価ということになります。これに関しては、高橋洋一氏が理解しやすく動画で解説しています。その動画を以下に掲載します。


ただし、選挙後も党内人事はそのままでしょう。この人事は先日も述べたようにように、3Aの一画である、甘利氏を幹事長に据えたということは評価できると思います。

そうして、上の記事にも高橋洋一の動画にもありませんでしたが、今回の不意打ち総選挙でもっとも割をくった人のことが掲載されていないので、ここに掲載しようと思います。

それは、現在の東京都知事の小池百合子氏です。

小池百合子東京都知事

小池都知事が特別顧問を務める都民ファーストの会(都ファ)が立ち上げた国政新党「ファーストの会」。3日、結党会見を開いたばかりなのに、岸田新首相の“奇策”によって前途多難のスタートを強いられています。

次期衆院選は既定路線の「10月26日公示、11月7日投開票」を念頭に、誰もが準備を進めていたでしょう。しかし、岸田首相はいきなり選挙日程を丸1週間前倒しました。公示日、投開票日ともに仏滅です。さらには、上の高橋洋一氏の動画にもあるように、岸田総理がG20に参加しないということもあり、誰もが「まさか」と思ったことでしょう。

その割をおそらく最も食ったのは、小池知事の顔がチラつくファーストの会でしょう。なにしろ、今月3日、地域政党「都民ファーストの会」は、国政新党として「ファーストの会」を設立すると発表したばかりです。ただし、特別顧問を務める小池百合子都知事は次期衆院選に出馬しないとのことでした。

結党と同時に都ファ公式サイトで始めた候補者公募の締め切りを今月17日に設定したのですが、たった2日後に衆院選が公示され、選挙戦に突入するハメになるのです。

これでは、ただでさえ、準備不足の上、選挙前倒しでこの選挙日程は「ファーストの会」は絶望的です。公募で新人候補を選んでも、ポスターの印刷さえ間に合わないでしょう。とても“台風の目”にはなり得ません。

結党会見で代表の荒木千陽都議

結党会見で代表の荒木千陽都議は「東京の25選挙区はすべて(候補を)立てたい」と豪語しました。その願望をかなえるには荒木都議以下、都ファ都議の大半を擁立するしかないでしょう。

そんなことをすれば党内でも「執行部は節操がない」と国政進出に疑問の声が上がる中、都政は大混乱。小池知事の政治生命すら危うくなるでしょう。

もともと特別顧問を務める小池百合子都知事は次期衆院選に出馬しないと、表明していましたが、小池氏のことですから、当然マスコミなどで、風が大きく吹けば出馬したかもしれません。出馬しないまでも、出馬する日まで、選挙応援やその後に続く様々な活動でマスコミの話題をさらい、大きな風を維持しようとしたのでしょうが、その目論見は潰えたといえます。

どうやら小池知事の出る幕ないでしょう。新党騒動はほぼ1日で終焉しそうです。荒木都議は「選挙目当てに『左旋回』を強めていく野党に強い危機感を持って立ち上がった」と語っていました。

ただ、これでは右から左まで守備範囲の広い、自民党には太刀打ちできないでしょう。「ファーストの会」ならでの、コンセプトを打ち出すべきでした。「ファーストの会」は、一人も当選しないかもしれません。

これから、小池知事が国政に打って出て、台風の目になることはないかもしれません。

岸田総理は、この短期間で総裁選で、二階幹事長はずし、小石河連合潰しを、そうして今回の選挙前倒しで、実質的な「ファーストの会」潰しを実現してしまったのです。まさに、面目躍如です。

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