2022年1月4日火曜日

世界「10大リスク」1位は中国の「ゼロコロナ政策」失敗…各国の政情不安定化も―【私の論評】今年最大の地政学的リスクは、中国の対外関係ではなく国内問題(゚д゚)!

世界「10大リスク」1位は中国の「ゼロコロナ政策」失敗…各国の政情不安定化も

米政治リスクの調査会社ユーラシア・グループは3日、2022年の世界の「10大リスク」を発表した。1位に「No zero Covid」(ゼロコロナ政策の失敗)を挙げた。中国が新型コロナウイルスの変異型を完全に封じ込められず、経済の混乱が世界に広がる可能性を指摘した。


報告書は冒頭で、米中という2つの大国がそれぞれの内政事情から内向き志向を一段と強めると予測。戦争の可能性は低下する一方で、世界の課題対処への指導力や協調の欠如につながると指摘した。

国際政治学者のイアン・ブレマー氏が率いる同社は年頭に政治や経済に大きな影響を与えそうな事象を予測している。21年の首位にはバイデン米大統領を意味する「第46代」を選び、米国民の半数が大統領選の結果を非合法とみなす状況に警鐘を鳴らした。予測公表の2日後、トランプ前大統領の支持者らが選挙結果を覆そうと米連邦議会議事堂に乱入した。

22年のトップリスクには新型コロナとの戦いを挙げた。先進国はワクチン接種や治療薬の普及でパンデミック(感染大流行)の終わりが見えてくる一方、中国はそこに到達できないと予想する。中国政府は「ゼロコロナ」政策を志向するが、感染力の強い変異型に対して、効果の低い国産ワクチンでは太刀打ちできないとみる。ロックダウン(都市封鎖)によって経済の混乱が世界に広がりかねないと指摘する。

先進国はワクチンの追加接種(ブースター接種)を進めている。ブースター需要が世界的なワクチンの普及を妨げ、格差を生み出す。ユーラシア・グループは「発展途上国が最も大きな打撃を受け、現職の政治家が国民の怒りの矛先を向けられる」と指摘し、貧困国はさらなる負債を抱えると警告する。

2番目に大きいリスクとして挙げたのは、巨大ハイテク企業による経済・社会の支配(テクノポーラーの世界)だ。米国や欧州、中国の各政府は規制強化に動くが、ハイテク企業の投資を止めることはできないとみる。人工知能(AI)などテクノロジーの安全で倫理的な利用方法を巡って、企業と政府が合意できていないため、米中間、または米欧間の緊張を高めるおそれがあるという。

米議会の中間選挙後の混乱もリスクに入れた。11月の同選挙では野党・共和党による上下院の過半数奪還が「ほぼ確実視されている」と指摘する。与党・民主党は共和党系州知事が主導した投票制限法に批判の矛先を向ける一方、共和党は20年の大統領選で不正があったとの主張を強めると予想する。共和党がバイデン大統領の弾劾に動き、政治に対する国民の信頼が一段と低下する可能性にも言及した。

【私の論評】今年最大の地政学的リスクは、中国の対外関係ではなく国内問題(゚д゚)!

昨年暮れに、日本では、中国の台湾侵攻がまことしやかに囁かれていました。このブログでは、それはあり得ないことをいくつかのデータをもとに解説しました。

ユーラシア・グループの今年の予測でも、中国の台湾侵攻に関するリスクについては掲載されていません。地政学的危機の分析に定評のある、ユーラシア・グループも、それはあり得ないと分析しているのでしょう。

ユーラシア・グループによる昨年2021年の10大リスクは、以下のリンクからご覧いただけます。興味のある方は、是非ごらんになってください。


今年の最大のリスクは、UG(ユーラシア・グループの略、以下同じ)によれば、何と中国のゼロコロナ政策の失敗です。

確かに、UGは中国のゼロコロナ政策は20年には非常に大きな成功を収めたのですが、今は「はるかに感染力の強い変異株に対し、より広範囲のロックダウンと効果の限られるワクチンといった手段で闘う」状況にあると説明。

「オミクロン株に対する人々の抗体は実質的にゼロだ。ロックダウンを2年続けたことで、再開するリスクが一層大きくなった」と分析しました。コロナ対策の当初の成功とそれへの習近平国家主席の執着が「方向転換を不可能にしている」というのです。

ユーラシア・グループのイアン・ブレマー社長はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、「極めて容易に感染し得るが命を脅かすことがそれほどないウイルスと共生する力は、中国のゼロコロナ政策とは正反対に位置している。ゼロコロナ政策はこうしたウイルスに対して機能しないだろうが、中国はそれを堅持するだろう」と述べ、「これは主としてウイルスが招いている課題ではなく、中国政府が自国のやり方から抜け出せないという問題だ」と論じました。

中国のコロナ発生状況のグラフを以下に掲載します。

クリックすると拡大します

昨年から、かなり少ないです。今年1月1日の7日間の平均でも、204人です。中国の人口は、14臆人ですから、これは収束したようにもみえます。

私自身は、この統計自体は信用はしていません。以前GDPに関しても、このブログでは中国のそれは信用できないことをその根拠をもとに主張したことがあります。中国の経済統計は、「政治的メッーセージ(ブロパガンダ)」に過ぎない、断じました。

ですから、コロナ感染者数もプロパガンダに近いものなのだと思います。ただ、それは別にしても、習近平中国指導部は、「ゼロコロナ」であらねばならないと考えているのでしょう。

中国社会は、すべてを国家が決め、国民はそれに従います。国民の間には上から知らされた「とにかくウイルスは怖い」という観念が強く刻まれたままになっています。そうであるからこそ、ゼロコロナの政策を変えられないのです

ゼロコロナの維持は、中国の閉鎖性をさらに高める政策が継続されることで、中国国内の人々とその他世界の人々の意識との落差がいま以上に大きくなり、中国をめぐる国際環境はますます悪化することになります。

ありていにいえば、中国では国家が国民を信用していないのてで、国民にすべての情報を知らせ、国民の判断を尊重するという仕組みが機能していません。そのため政府は失敗が許されなません。権力者は常に全知全能、無謬の存在を演じ続ける以外にないのです。

自らの手段が功を奏したがために、それを国威発揚に利用してしまったがため、その後は他の選択肢が取り得なくなるというパターンは、今回のコロナ対策に限った話ではありません。「一党専制」という一見、強力な仕組みの最大の弱点はここにあります。

これが地政学的な危機をもたらすのは間違いないようです。中国各地でロックダウンが行われれば、昨年あったマスク騒動のようなことが、日本でもおこる可能性があります。それも、大規模に起こる可能性もあるでしょう。生活必需品で中国に頼っているようなものは、要注意です。

昨年までは、中国といえば、中国による外国への介入や干渉が大きな地政学的脅威だったのですが、今年は中国の国内問題がそうなりそうです。

コロナ対策といえば、日本も中国と同じ間違いを犯す可能性は十分にあります。「ゼロコロナ」に拘泥して、しかも病床を増やさないなどの状況が続けば、最近はオミクロン株の感染が増える傾向があり、感染者が増えた場合、しなくても良いというか、本来日本では死者がかなり少ないので、起こりようもない医療崩壊が起こる可能性もゼロとはいえません。

岸田首相

幸いなことに、岸田文雄首相は4日、三重県伊勢市での記者会見で、新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の対応について、「自治体の判断で、陽性者を全員入院、濃厚接触者を全員宿泊施設待機としている現在の取り組みを見直す」と述べています。

習近平政権よりは、柔軟な対応ができそうです。ただし、現状ではまだそうでもないですが、感染者が本格的に増えた場合、保健所が対応できない事態は起こりえます。それをなくす意味でも、コロナ感染症を現在の感染症分類の2類から5類に変えるべきです。

5類に分類を変えてしまえば、コロナ感染症もインフルエンザや普通の風邪と同じ扱いができるようになり、保健所がパンクすることも、病床が不足することもなくなります。

2番目、3番目の予測もありそうです。4番目はこれまた、中国の内政に関するものですが、習近平政権は、昨年は中国企業に対する規制を強化したばかりです。この傾向は今年も続くとみられます。これにより、中国経済停滞のリスクはますます強くなるでしょう。

5番目の、ロシアのウクライナ侵攻については、このブログでは、年末にその確率は低いと予測しました。その根拠は、ロシアはいまや一人あたりのGDPが韓国よりも大幅に劣ることと、兵站の大きな部分を鉄道に頼るという致命的な欠陥があることです。

ただ、ロシアはウクライナの侵攻をちらつかせ、米国に対して制裁を弱めることを期待してると私は睨んでおり、実際プーチンはバイデンとの電話会談をする機会を得ました。ウクライナ問題がなければ、このようなことはなかったかもしれません。

バイデンが煮えきらない態度をとったり、譲歩をしてしまえば、地政学的な危機を生み出すのは間違いないです。

ロシアがウクライナに侵攻するしないは別にしても、地政学的なリスクが高まるのは間違いないです。

前線のウクライナ軍を視察するゼレンスキー、ウクライナ大統領

6番目の、イランによる地政学的な危機も理解できるものです。

7番目の、「脱炭素政策とエネルギー政策」も納得できます。脱炭素政策の内容を知れば知るほど、脱炭素と安易に語るべきではないことが、誰にでも納得できると思います。

8番目の、アフガニスタンなどの力の空白も理解できます。アフガニスタン情勢に、中露などが中途半端に介入すれば、泥沼にはまるのは必定です。

9番目の「価値観の衝突に敗れる多国籍企業」にも納得です。米中の対立などにより、中国に進出したり拠点を置いている企業、米中双方からデカップリングされることになりかねません。

10番目のトルコについても、納得です。トルコ統計局が3日発表した2021年12月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比36%でした。単月では19年ぶりの高さで、前月の21%から跳ね上がりました。通貨リラ安による輸出増がけん引して国内総生産(GDP)は膨らむが、賃金上昇が物価高に追いつかず、市民生活は圧迫されています。

今年も、さまざまリスクがありますが、今年最大の地政学的リスクは、中国の国内問題になりそうです。当ブログでも、これに注目し、何か新しい動きがありましたらお伝えします。今年もよろしくお願いします。

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2022年1月3日月曜日

台湾煙酒がリトアニア産ラム酒2万本買い取り=中国の足止めで行き場失う―【私の論評】今後中国に接近するのは、独裁者とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを欲するような国ばかりになる(゚д゚)!

台湾煙酒がリトアニア産ラム酒2万本買い取り=中国の足止めで行き場失う


台湾煙酒は3日、中国の港で足止めされて行き場を失っていたリトアニア産のラム酒約2万400本を買い取ったと発表した。台湾の消費者に対し、リトアニアへの応援を呼び掛けている。

リトアニアは台湾への代表機関設置を発表して以降、中国から圧力を受けている。昨年11月には、台湾の代表機関「駐リトアニア台湾代表処」が首都ビリニュスに設置され、業務を開始した。リトアニア側の代表機関は今年初頭に台湾に設置される見通し。

台湾煙酒によれば、昨年12月初旬、中国税関の電子通関手続きシステムの「原産地」リストからリトアニアが削除され、リトアニアから輸出した貨物が中国の港で足止めされた。中国は後にリトアニアをリストに再度加えたものの、すでに足止めされていた貨物は依然として受け入れが認められなかった。

同社は同18日、駐リトアニア代表や財政部(財務省)からの相談を受け、中国に輸出するはずだったリトアニアメーカーのラム酒が行き場を失っていることを知ると、関係先に連絡を取り、ラム酒を買い付けたという。

ラム酒は今月上旬に台湾に到着する予定。ラベルを新しく貼り替えた後で販売するとしている。

【私の論評】今後中国に接近するのは、独裁者とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを欲するような国ばかりになる(゚д゚)!


昨年は、中国が台湾に意地悪をして、台湾産パイナップルを輸入しませんでしたが、日本が買い付けました。日本の買付高は、従来の中国の買付高を上回ったそうです。

私も購入しました。美味しかったです。私は、それ以外にも、台湾産パイナップルケーキも購入しました。これも良かったです。また、機会があれば、購入したいです。

台湾のパイナップルケーキ

さて、人口約280万人のヨーロッパの小国バルト三国に一つリトアニアは、昨年は大国・中国相手に大立ち回りを演じて、世界の注目を集めました。かつてはちょうど30年前に消滅したソ連邦の構成国のひとつで、現在はEU加盟国です。日本との関係で言えば、第二次世界大戦中にこの地に赴任していた日本人外交官・杉原千畝氏がユダヤ人に発給した「命のビザ」が有名です。

昨年5月、リトアニア議会が中国の新疆ウイグル自治区での人権問題について「ジェノサイド(大量虐殺)である」と決議しました。さらに中国が中・東欧で進める経済構想圏から離脱しました。

昨年7月には台湾がリトアニアに事実上の大使館に相当する機関を設置することを発表、リトアニアも台湾に同様の機関を置くと発表しました。蔡英文総統が就任して以来、ここ5年間で台湾は中国の戦狼外交によって7ヵ国との外交関係を失っていました。

台湾がヨーロッパに代表機関を置くのは18年ぶりといいます。蔡総統の右腕である陳建仁・前副総統はリトアニアを訪問して「リトアニアは自由と民主主義の先駆者だ」と称賛しました。

中国は、この動きに反発を強めました。まずは駐リトアニア大使を召還し、中国にあるリトアニア大使館の名称を変更して外交上の「格下げ」にしました。

さらに12月21日のロイター電によれば、多国籍企業に対してリトアニアとの関係を絶たなければ中国市場から閉め出すと圧力を掛けました。

リトアニアがこれほど中国と対決姿勢をとるのは、中国がロシアと接近していることの警戒感があるとされています。両国とも強権主義の国であり、リトアニアはかつてソ連に併合された歴史もあります。そのため、30年前のソ連解体の過程でもっとも早く独立宣言をしたのはリトアニアでした。

リトアリアに限らす、中東欧諸国では中国に限らず、中国が政治・経済の両面において強い影響力を誇った時代は終わりつつあります。これについては、このブログでも掲載したことがあります。その記事の、リンクを以下に掲載します。
中東欧が台湾への接近を推し進める―【私の論評】中国が政治・経済の両面において強い影響力を誇った時代は、徐々に終わりを告げようとしている(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくもとして、以下に一部を引用します。
中国は人口が多いので、国全体ではGDPは世界第二位ですが、一人あたりということになると未だこの程度(1万ドル前後)なのです。このような国が、他国の国民を豊かにするノウハウがあるかといえば、はっきり言えば皆無でしょう。

そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。

ちなみに、日本、台湾、中国、リトアニアのGDPの推移のグラフを以下に掲載します。

一人あたりの名目GDPということでは、リトアニアも中国を上回っています。リトアニアも中国とあまり違いがない時代もありましたが、それはやはり冷戦の悪影響を受けたためでしょう。

台湾は、中国やリトアニアよりも高いです。これらの国々は日本をはじめ、中国よりは民主化がすすんでいます。民主化と経済発展には相関関係があります。民主化が進んでいる国のほうが、経済発展する可能性が高いです。それは、この引用記事に掲載した高橋洋一が作成したグラフでもわかります。

点の一つ一つが各国の一人あたりのGDPを示します

このグラフからもわかるように、民主化されていない発展途上国が、経済発展をしても、民主化しないと1万ドル前後で成長か止まってしまうのです。これを中進国の罠といいます。例外産油国などの特殊な例外をのぞいてはほとんどありません。

リトアニアとしては、最初は経済が発展しているようにみえる中国に期待したのでしょうが、実際蓋をあけてみると、失望することばかりだったのでしょう。

これは、当然といえば当然です。リトアニアは一人ひとりの国民を豊かにしたいと期待してたのでしょうが、中国にはそのようなノウハウは全くなく、世界をみまわしてみると、台湾という民主国があり、人口はリトアニアよりは、多いですが、中国(人口約14臆人)と比較すれば、小さな国です。

しかし、台湾のほうが一人あたりのGDPは高いです。そうであれば、リトアニアにとっては、台湾のほうがより参考になると考えたのでしょう。しかも、台湾は半導体などで、先端分野を切り開いている国です。何よりも、中国よりもはるかに民主的ということで、リトアニアは、台湾と親交を深めることに決めたのでしょう。

リトアニアや他の中東欧諸国等の行動をみていると、今後中国に接近する国は、非民主国であり、独裁者とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを欲するような国ばかりになるのではないかと思います。

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2022年1月2日日曜日

ロシアのコロナ死者、公式発表の2倍超…最多の米に次ぐ65万人とロイター報道―【私の論評】今年は、マスコミに煽られて人生を諦めるようなことがあってはならない(゚д゚)!

ロシアのコロナ死者、公式発表の2倍超…最多の米に次ぐ65万人とロイター報道

モスクワ市内で新年を祝う人たち(1日)

 ロイター通信は、ロシアの新型コロナウイルスによる死者数が約65万9000人に上り、米国の約82万人に次いで世界で2番目の多さになっていると報じた。国際的な集計に使われている露政府対策本部のデータで死者数は30万人超で、2倍以上の差があることになる。

 露政府は新型コロナによる死者を、ウイルスが死亡の「根本的な原因」だったと診断した場合のみ認定している。既往症の悪化などで死亡した関連死は含んでいない。これまでも「過少申告」を指摘されてきた。

 ロイター通信は昨年末、露統計局と独自の集計をベースに、2020年4月以降の新型コロナの死者数を算出。世界2位のブラジル(約62万人)を上回る数字となった。露有力紙RBCも昨年末、死者数が約63万人に達したと伝えている。

【私の論評】今年は、マスコミに煽られて人生を諦めるようなことがあってはならない(゚д゚)!

新年早々なので、穏やかでありたいとは願ってはいるのですが、上の読売新聞の記事をみていると、私はイライラします。

なぜなら、実数だけを比較しているので、実体が全く見えてこないてのです。そもそも、米国、ロシア、ブラジルでは人口が違います。2020年の統計では、米国3.295億人、ロシアは1.441億人、ブラジルは2.126億人です。人口を無視して、実数だけあげられても、深刻度合いがどの程度なのか、比較などできません。

そこで、実体はどうなのか知りたいと思い、読売新聞社オンラインの提供する「主な国の新規感染・死亡者数」というサイトから100万人あたりの新規死亡者数のグラフをみてみました。

そのグラフが以下です。


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100万人あたりで、比較すると、ロシア政府が公表する数字であっても、ロシアが10月4日あたりから、ロシア、アメリカ、ブラジルでは一番死者が多いです。これをみただけでも、ロシアは一番数が多いということがわかります。さらに、ロイターによれば、本当はこの倍くらいは死者がいるということですから、これは米・ブラジルよりはかなり多いということになります。

ただし、100万人あたりで、数人とか、十数人という数自体は、さほど深刻でもないと思います。なぜ、上の記事ように大騒ぎするのか良くわかりません。無論、亡くなった方はお気の毒ですが、インフルエンザや他の病気で死亡する人の数のほうがもっと多いはずです。交通事故の死亡者のほうがはるかに多いです。最近の統計では、ロシアの道路では、毎日平均で約50人が死亡しているのです。

上のグラフに日本を付け加えると、以下のようになります。

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日本では、ゼロ近傍の日が続いています。そのような日本では、全国て初詣が行われおり、大勢の人が集まっています。

明治神宮

ロシアでは確かに、100万人あたりの死者は多いですが、それにしても一番上の写真は、モスクワ市内で新年を祝う人たちですが、ほとんど人がマスクをせず、屈託なく陽気に笑っています。この人達は、本当に人生を楽しんでいるように見えます。

冒頭の記事を書いた記者は、この写真をみても何も感じないのでしょうか。私は感染症に関して、感染者数や死者数の実数だけで報道しても本当の深刻さなどはわからないということは、昨年コロナ禍がはじまった頃から、主張してきました。

マスコミは、ロシアのコロナによる死者数を煽る一方で、ロシアのウクライナと侵攻も煽っています。本当にコロナで死者数が増えて、深刻な状態になっているのなら、ロシアはウクライナ侵攻どころではないはずです。こうした矛盾にも気づかないのでしょうか。

マスコミの姿勢は未だ変わらないようです。最近は、オミクロン株など感染力は強いものの、死者が少ないことから、やはり弱毒性であることは明らかになりつつあります。さらに、ワクチンだけではなく、治療薬も出回るようになってきました。コロナは普通の風邪やインフルエンザに近づきつつあるようです。

ほとんど死者が増えない日本では、他の国々から比較すれば、もはやコロナは収束したとみなして良いかもしれません。

それでも、特に冬期はコロナだけではなく、インフルエンザもありますから、マスクや手洗いなども励行し、三密も避けるようにはしつつも、私達もロシアの人たちのように人生を素直に楽しもうではありませんか。マスコミに煽られて、人生を諦めることや、歪んだ認識を持つことがあってはならないと思います。

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2022年1月1日土曜日

蔡総統、中国をけん制「情勢を見誤るべきでない」=元日の談話/台湾―【私の論評】現在の蔡英文政権に唯一心配な点は、過去の日本のように失われた20年を招いてしまう可能性(゚д゚)!

蔡総統、中国をけん制「情勢を見誤るべきでない」=元日の談話/台湾

新年の談話を発表する蔡総統

蔡英文(さいえいぶん)総統は1日、総統府で新年の談話を発表し、台湾と中国は地域の平和と安定を維持する責任を共同で背負うと強調。中国に対し「情勢を見誤るべきでない」とけん制した。

蔡氏は、今年は多くの課題に向き合わなければならないとした上で、台湾の国際参加▽経済発展パワーの維持▽社会安全システムの強化▽国家主権の防衛―を「堅実な政権運営」のための柱だと強調した。

国際参加については東南アジア諸国などとの関係を深化させるほか、自由貿易協定(FTA)締結に向けた米国との貿易投資枠組み協定(TIFA)協議、環太平洋経済連携協定(TPP)への加入などに注力する考えを示した。

経済面では、台湾産業の影響力と競争力を高めなくてはならないと指摘。インフレや住宅価格の高騰に対応し、実質所得の増加や生活水準の向上を図るとした。

また「香港の情勢を引き続き注視する」と表明。投票率がわずか3割にとどまった昨年12月の立法会選挙や多くのメディア関係者が逮捕されたことに触れ、香港の民主主義の発展と人権や言論の自由に対する懸念を示した。

蔡氏は民主主義と自由を追い求めることは犯罪ではないとし、台湾が香港を支持する立場は変わらないと語った。

中国との関係については、「圧力に屈せず、支持を得ても冒険はしない」とする台湾の立場を改めて説明。双方が努力して人民の生活に関心を払い、社会や国民感情を安定させてこそ、平和的な方法で問題に向き合い、解決策を見いだせると呼び掛けた。

【私の論評】現在の蔡英文政権に唯一心配な点は、過去の日本のように失われた20年を招いてしまう可能性(゚д゚)!

皆様、明けましておめでとうございます。昨年中はお世話になりました。今年もよろしくおねがいします。今年の当ブログは台湾の話題から始めようと思います。

蔡英文総統が、中国に対し「情勢を見誤るべきでない」とけん制したのには、それなりの背景があります。

「台湾有事」が切迫しているというシナリオがまことしやかに論じられ、中には尖閣諸島(中国名:釣魚島)奪取と同時に展開するとの主張すら出ています。「台湾有事論」の大半は中国の台湾「侵攻」を前提に組み立てられていますが、その主張が見落としているのは、中国軍の海上輸送力です。

これについては、昨年末も述べたばかりです。それを以下に要約すると以下のようになります。
中国が台湾を武力統一しようとする場合、最終的には上陸侵攻し、台湾軍を撃破して占領する必要があります。来援する米軍とも戦わなければならないです。

その場合、中国は100万人規模の陸上兵力を発進させる必要があります。なぜなら台湾軍の突出した対艦戦闘能力を前に、上陸部隊の半分ほどが海の藻くずとなる可能性があるからです。

100万人規模の陸上兵力を投入するためだけにでも5000万トンほどの海上輸送能力が必要となります。これは中国が持つ全船舶6000万トンに近い数字です。

中国側には台湾海峡上空で航空優勢(制空権)をとる能力がなく、1度に100万人規模の上陸部隊が必要な台湾への上陸侵攻作戦についても、輸送する船舶が決定的に不足しており、1度に1万人しか出せないのです。そしてなによりも、データ中継用の人工衛星などの軍事インフラが未整備のままなのです。
以上の理由のため中国が、台湾に数年以内に軍事力を用いて侵攻するとは考えられません。まずは海上輸送力を増強し、一度の100万人程度の陸上兵力を発進させる能力をつける必要があります。

ただし、軍事的以外の方法での台湾浸透というやりかたもあります。国際社会から台湾を孤立させ、中国に頼る以外の選択肢をなくすとか、台湾社会に工作員を深く浸透させて、中国側に寝返らせ、最終的に台湾を傘下におさめてしまうななどのやり方もあります。

ただし、そもそも「危機管理」や「安全保障」とは、「事を起こさないようにどう備えるか」、また、「もし起こった時にどうするか」を考え、事前に準備することです。そうして、事が起こったら即座に対応する事が常道です。

その観点から台湾はさらに軍事力を増強するとともに、軍事力以外での中国浸透にも備えていくべきであるのは言うまでもありません。これに対して、日本が台湾有事にどのように行動すべきかを備えるべきであることも言うまでもありません。

ただ、少なくとも当面の軍事的侵攻は確率的にかなり低いことから、蔡英文総統は「情勢を見誤るべきでない」とけん制することができたのでしょう。さらに、日本ではあまり報道されないものの、上記のような内容は、詳細に台湾でも多くの国民に共有されていると思います。

もし、軍事的脅威が身近に迫っていれば、蔡英文総統は、もっと穏やかな表現を選んだと考えられます。それに、今頃台湾から脱出する人も大勢いて、ニュースになっているはずです。日本にも帰化を望む人など、大勢が来ているはずです。

それに台湾在住邦人も有事に備えて、台湾から脱出し日本に帰ってきているはずです。そのようなニュースは台湾でも、日本でも報道されていません。

2020年に一国二制度が踏みにじられた香港からはかなりの人が脱出しました。昨年はパンデミックのまっただ中にあったにもかかわらず、台湾だけで1万800人余りの香港市民が居住許可を取得しました。この数は前年のほぼ2倍です。

今年1月末に英国が海外市民(BNO)旅券の受け付けを開始すると、2カ月間で3万4300件の申請がありました。議会に提出された公的な見積もりによると、通年では約12万件と、1990年代前半に香港から移住した年間人数の2倍になりました。これは年金の脱退や、多くの移住プログラムで必要とされる犯罪歴の照会申請増加などでも裏付けられています。

このような動きは台湾ではみられません。もし本当に中国の脅威が身近に迫っているというのなら、昨年あたりからそのような動きがみられるはずですが、そのようなことはありません。

さて、蔡英文総統の、「新年の談話」では、ほとんどの話が同意できるのですが、一つ気になることもあります。

それは、経済面では、特に国内で、インフレや住宅価格の高騰に対応し、実質所得の増加や生活水準の向上を図るとした点です。実際にインフレ率はどうなのか、以下に日本・米国・台湾のインフレ率の推移を示すグラフを掲載します。

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インフレ率に関しては、日台は米国と比較して低めです。米国は昨年は単月では、6%を超えたこともあります。台湾では、2021年の推計値では、1.6%です。これは、日本の-0.17%と比較すれば、まともですが、それでも高いとはいえません。失業率は、2021年の推計値は台湾は4%近いです。日本は、2%半ばです。

日本を筆頭に、韓国、台湾などの国々はなぜか、あまり金融緩和をしない傾向があります。それでも、日本では安倍内閣が成立した、2013年4月より金融緩和に踏切、その後はイールドカーブ・コントロールで控えめながらも、現在でも緩和を続けており、失業率は比較的低い状況を維持しています。それ以前は、金融引締を継続していました。

米国はもともと失業率が高いですが、それでも2021年の推計では、 5%台であり、若干高めの水準ではありますが、昨年末では4.2%(前月:4.6%、市場予想:4.5%)と前月から▲0.4%ポイント低下し、市場予想を上回る改善を示しました。(3%〜4%は米国では普通)

日台と米国とでは、明らかに政策の違いがあります。米国は一時高いインフレ率を許容し、中央銀行が量的緩和を拡大し、さらに政府もこれに呼応して積極財政を実施しました。これは、「高圧経済」といっても良い政策です。

「高圧経済論」とは潜在成長率を超える経済成長や完全雇用を下回る失業率といった経済の過熱状態を暫く容認することで、格差問題の改善も含めて量・質ともに雇用の本格改善を目指すというものです。

米国はこの高圧経済政策はコロナ禍に見舞われた後のトランプ政権時代から、さらにバイデン政権でも継続されました。バイデンはインフラ投資法案を成立させ、さらに大型予算「ビルド・バック・ベター(よりよき再建)」を組もうとしましたが、議会に阻止されてしまいました。ただ、今年はまたこれに取り組むことでしょう。

日本や米国との対比からみると、台湾は失業率が3%台もしくはそれ以下になるまでは、金融緩和の余地が十分にあると思います。このあたりは、まともな台湾経済の専門家の意見を聞きたいものです。ただ、余地はあるとはいえると思います。

蔡英文総統の発言には気になるところがあります。それは、「インフレや住宅価格の高騰に対応し、実質所得の増加や生活水準の向上を図る」としている点です。

インフレは一般物価でみるものであり、住宅価格は個別物価であり、一般物価と個別物価を同一次元でみるべきではありません。インフレ・デフレの問題はあくまで一般物価をものさしにしなければなりません。実際現在の台湾のインフレ率は高いとはいえません。

日本では、一般物価をみないで、○○の物価が上がった、□□の物価が上がった、△△の物価も上がったなどと大騒ぎして、挙げ句の果に「スタグフレーションになる」と騒ぐ、マスコミや識者までいます。愚かとしか言いようがありません。

日本では、どちらかというと、デフレ気味ですか、住宅価格は人手不足で上がり続けています。住宅価格が高騰すると、家を購入することを諦めた人は、それを他の消費に振り向けるける傾向がみられようになります。そうなると、他の物価が上がりやすい傾向になります。

個別の物価だけ注目しても全体は見えてきません。だから、住宅価格だけで物価の全体の動向をみるのではなく、一般物価でみるべきなのです。台湾が現在の状況で金融引締などすると、景気が落ち込むことになるでしょう。

日本では、1990年代のバブル時代に日銀が土地・株価が高騰していることを理由に金融引締に転じてしまいました。そもそも、土地・株価は一般物価とは別ものです。しかも、その当時の一般物価をみてみると、決してバブルではなく、適正範囲内に収まっていました。

日銀があの時期に必要のない金融引締に転じたため、その後バブルは崩壊し、失われた20年という、日本はデフレから抜け出せない時代が続いたのです。日本国内では、なぜかあまり、そのことがあま理解されていませんが、台湾ではどうなのかと心配になってしまいます。

台湾にも、このような日本の過去の間違いを繰り返してほしくありません。韓国では、近年金融緩和をせずに、機械的に最低賃金だけをあげ、雇用が激減するという、考えられないような致命的なミスをし、その余波はまだ続いています。

台湾は、今後しばらくは、「高圧経済」を目指すべきです。その上で、失業率が下がらない状態が続けば、高圧経済をやめれば良いのです。それが、実質所得の増加や生活水準の向上を図る最大の近道です。今の段階で、金利を上げるとか、量的緩和をやめるとか、金融引締に転じるというようなことはすべきではありません。

経済が悪化すれば、国民の不満が鬱積しそれこそ中国に浸透されやすくなります。国民党が勢いを盛り返すことにもなりかねません。国内の経済の安定も安全保証上重要なのです。蔡英文政権で唯一懸念することといえば、このことです。もちろん、これは私が老婆心から言っているだけで、これが外れている可能性は高いかもしれません。

ただ、やはり蔡英文政権には、正しい経済政策をとって欲しいです。そうして、経済政策では煮えきらない、日本の岸田政権に手本を見せてほしいものです。そうして、日台首脳会談が開催されることにでもなれば、その手本について、人の話を聞く耳を持つ岸田総理に話していただきたいものです。無論、対中国政策についても然りです。

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2021年12月31日金曜日

バイデン氏正念場 ウクライナ侵攻許せば台湾は…―【私の論評】来年中国の台湾侵攻はなし、ロシアのウクライナ侵攻もその確率は低い(゚д゚)!

バイデン氏正念場 ウクライナ侵攻許せば台湾は…

12月30日、米デラウェア州の自宅で、ロシアのプーチン大統領と電話会談するバイデン米大統

 外交努力による緊張緩和か、重い代償を払う制裁か。12月30日の米露首脳会談で、バイデン米大統領はプーチン露大統領に〝二者択一〟を迫った。中国が威圧を強める台湾海峡と二正面の抑止作戦を強いられた超大国の苦悩は、2022年の不穏な世界の幕開けを印象付けた。

 「バイデン氏は2つの方向をプーチン氏に明示した」と米政府高官は語る。

 ウクライナ情勢の緊張緩和に導く外交の道筋。もうひとつは、ウクライナに軍を進めることでプーチン氏自らが選択する「深刻な代償と結果」を伴う制裁だ。いずれも「この先のロシアの行動次第」と高官は語るが、バイデン氏にも賭けであるのは間違いない。

 制裁は国際金融決済システムからロシアを締め出すもので、石油・天然ガス輸出に頼る露経済への打撃は甚大だ。「両国関係を完全な決裂に導く」と露側が反発したのは制裁を脅威と受け止めた証左とする見方も米側にはある。

 だが、現実にウクライナ侵攻を抑止できなければ、プーチン氏との神経戦は敗北に等しい。

 もうひとつの〝最前線〟で、中国の習近平政権はロシアの後を追うように、サイバー攻撃や世論工作などを駆使した〝ハイブリッド戦争〟と軍事侵攻の二段構えで台湾統一の機会を狙っている。ウクライナ情勢をめぐり1月に持ち越された米露高官協議の行方は、2月の北京冬季五輪以降の中国の出方にも影響を与える。昨年のアフガニスタンの混乱で傷ついたままの米国の威信が、決定的に試されるときが近づいている。

【私の論評】来年中国の台湾侵攻はなし、ロシアのウクライナ侵攻もその確率は低い(゚д゚)!

このブログでは、何度か述べてきたように、中国が台湾に武力進行するおそれはないでしょう。その理由の一つは、冷戦中にソ連が北海道に侵攻するなどと言われていましたが、それはありえないかったのと同じ理由です。

自衛隊は冷戦時代、音威子府(おといねっぷ)がソ連軍との決戦場になると思い定めていた

ソ連が崩壊してから今年で30年です。ソ連軍の戦略は以下のようものでした。
・戦略核兵器により、アメリカ、イギリスなどと対峙し、
・ソ連軍は、ワルシャワ条約機構軍を頼みとして、NATOと対峙する。
・太平洋と大西洋では、潜水艦隊が、アメリカの空母を狙い、アメリカの対潜部隊を、ソ連の対艦ミサイルが狙うというものでした。
そんな中、極東地域では、ソ連軍の、日本侵攻も噂されていました。というより、マスコミが煽りまくっていました。

さてソ連が北海道に侵攻するとなると、揚陸艦艇が必要になります。

当時のソ連海軍において、揚陸艦は、約90隻、192000トンでした。海上自衛隊の6隻、約10000トンの輸送艦で、陸自1個師団の半数の輸送能力しかないですから、これをもとに掲載んしてみるとどう見ても当時のソ連では、10万人の輸送能力しかなかったのです。

しかも、それが海軍の全力であるから、極東地域は、4万人が限度だったことでしょう。また、陸自の場合は、部隊の移動だけが輸送艦定数の計算対象で、その後の補給は別です。

しかしながら、敵地に侵攻する部隊は、補給線の確保は、必須課題です。そうして、敵前上陸に際しては、激しい抵抗線があります。

ミサイル艇や対艦ミサイル、空対艦ミサイルによる、反撃により、2割程度の犠牲は覚悟せねばなるないでしょう。また、冷戦時代から日本は米国の依頼もあって、オホーツク海において、対潜哨戒活動を行い、日米の潜水艦はソ連の潜水艦などの情報をつかみ、この封じ込めに成功していました。

そうなると、ソ連が日本に侵攻ということになれば、ソ連の艦艇は日米の攻撃を受けて、2割の程度の犠牲どころか、半分以上が撃沈されるおそれもありました。

ただ、当時のソ連軍には、空挺師団があり、戦車をも空挺できる事は考慮する必要が有るかもしれませんが、それでも海上輸送と比較すれば、さほど多くの兵員を送れるわけではありません。

空挺師団の役割は、後続の陸上部隊が到着することを前提として、ピンポイントで、橋頭堡を構築することなどが主任務です。後続部隊が来なければ、限られた戦力では持ちこたえられません。

当時一部でいわれた、カーフェリー揚陸艦論ですが、カーフェリーは、甲板強度を確保してあれば、戦車などの重量物の運搬は可能です。しかしながら、敵前揚陸は、本船から直接揚陸させる事が必要で、一般船舶のような船首では、上陸地点への進出は「座礁」であり、とても、貨物を戦力投入しうる物ではありません。

ただ、既に接岸揚陸中の艦艇に、ポンツーン(浮橋架設用の船)などを介して接舷するのであれば、不可能ではありません。但し、この作戦は、橋頭堡確保以降の後詰めであり、交戦中にその様な事をしていれば、直ちに敵に攻撃されることになります。

さて、このようにして、上陸を達成しうる部隊は、およそ5万人です。対する陸自は、北海道、北部方面隊と4個師団をあわせて、4万人。また、有事には、本土から1個師団が北方機動するので、更に増強が可能でした。

但し、この場合は、十分な準備期間が必要で、約2週間前に、察知している事が必要でしょうが、無論ソ連が北海道侵攻を目指すような大戦争を行うということになれば、それは、事前に必ず日本や米国に知られることになります。当時から監視衛星や、偵察機がありましたから、大きな動きはすぐに日米に察知されます。

当時のソ連軍が北海道に侵攻となると、日米が十分に準備を整えているところに侵攻することになります。第二次大戦中のような奇襲は不可能です。

地上軍の攻撃には、「攻者3倍の法側」と言うものがあります。これは、2対1で、完全相殺し、残る1で占領維持するということを意味します、

5万の攻撃部隊と、4万の守備隊。この辺でお分かり頂けると思いますが、国土の損害や、犠牲を別にしても、攻撃に踏み切るだけの兵力投入が、ソ連軍には出来なかったのです。

と言う図式から、北海道侵攻の脅威は、幻に過ぎなかったのです。そのようなことは当時からわかっていましたが、無論それでも当時は北海道にソ連の脅威にそなえて陸自、海自、空自ともに駐屯していました。これは、無論正規の軍隊が攻めてこれないにしても、決死覚悟のゲリラ部隊などが侵入してきた場合に備えるという意味合いもありました。

これと同じようなことが、現在の中国による台湾侵攻にもいえます。このあたりは、以前もこのブログに掲載したことがあるので、その記事のリンクを以下に掲載します。
中国軍改革で「統合作戦」態勢整う 防衛研報告―【私の論評】台湾に侵攻できない中国軍に、統合作戦は遂行できない(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部を引用します。
中国が台湾を武力統一しようとする場合、最終的には上陸侵攻し、台湾軍を撃破して占領する必要があります。来援する米軍とも戦わなければならないです。

その場合、中国は100万人規模の陸上兵力を発進させる必要があります。なぜなら台湾軍の突出した対艦戦闘能力を前に、上陸部隊の半分ほどが海の藻くずとなる可能性があるからです。

それに、昨日も述べたように、日米の潜水艦隊が台湾に加勢すると、上陸部隊のさらに半分が海の藻屑となります。これでは、台湾に到達する前に、全部隊が撃破されることになります。

日米が加勢しないとしても、100万人規模の陸上兵力を投入するためだけにでも5000万トンほどの海上輸送能力が必要となります。これは中国が持つ全船舶6000万トンに近い数字です。

台湾有事を気楽に語っている軍事評論家も忘れているようですが、旧ソ連軍の1個自動車化狙撃師団(定員1万3000人、車両3000両、戦車200両)と1週間分の弾薬、燃料、食料を船積みする場合、30万~50万トンの船腹量が必要だとされています。
旧ソ連軍の演習
船舶輸送は重量トンではなく容積トンで計算するからです。それをもとに概算すると、どんなに詰め込んでも、3000万トンの船舶が必要になります。

この海上輸送の計算式は、世界に共通するもので、中国も例外ではありません。むろん、来援する米軍機を加えると、中国側には上陸作戦に不可欠な台湾海峡上空の航空優勢を確保する能力もありません。

それだけではありません。軍事力が近代化するほど、それを支える軍事インフラが不可欠です、中国側にはデータ中継用の衛星や偵察衛星が決定的に不足しています。
中国側には台湾海峡上空で航空優勢(制空権)をとる能力がなく、1度に100万人規模の上陸部隊が必要な台湾への上陸侵攻作戦についても、輸送する船舶が決定的に不足しており、1度に1万人しか出せないのです。そしてなによりも、データ中継用の人工衛星などの軍事インフラが未整備のままなのです。

こうした現実があることと、さらに米軍の強力な攻撃型原潜が台湾を包囲してしまえば、対潜戦闘能力(ASW)が劣る中国には、この包囲を突破できなくなります。仮に突破して、陸上部隊を上陸させたにしても、補給船や、航空機が攻撃型原潜に破壊され、補給ができなくなり、陸上部隊はお手上げになってしまいます。

このようなことを考えると、中国が台湾に侵攻することはないでしょう。侵攻すれば、侵攻部隊は大被害を受けて、しりぞかざるを得なくなり、人民解放軍の能力がどの程度のものなのか、世界中に知られてしまい、習近平は物笑いの種になり、当地の正当性を失うだけです。 

一方、現在のロシアにも、兵站に問題があり、ウクライナに侵攻するのは、かなり難しいです。現在も、それに将来もロシア人の多いウクライナのいくつかの州に侵攻できるだけです。ウクライナに侵攻して、ウクライナを併合するようなことはできません。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

ロシア軍、1万人以上撤収 南部のウクライナ国境―【私の論評】一人あたりGDPで韓国を大幅に下回り、兵站を鉄道に頼る現ロシアがウクライナを屈服させ、従わせるのは至難の業(゚д゚)!
7日、ウクライナ東部ドネツク州で、親ロシア派武装勢力との境界線付近を歩くウクライナ軍兵士


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、結局一人あたりGDPでは、韓国を大幅に下回る現在のロシアでは、そもそもウクライナ全土を併合するような大戦争はできません。それに、ロシア軍の兵站は鉄道に頼っているため、鉄道網が破壊されると、補給ができなくなるという致命的な欠陥があります。

それに、現在のロシアは、インフレの加速したため、中銀は金融引き締めの度合いを強めているほか、感染再拡大による影響も顕在化するなど、足下では幅広く企業マインドが下押しされるなど景気の悪化が懸念されています。

ロシアはワクチン開発国ながら国民の間に疑念がくすぶるなかでワクチン接種が進んでいません。プーチン大統領は国民にワクチン接種を呼び掛けるほか、事実上の接種義務化などの動きもみられますが、政府の旗振りにも国民は踊らされることはありませんでした。総選挙で与党は政権基盤を維持出来ましたが、国民の間には着実に政府に対する不満のマグマは溜まっているのは間違いないです。

この状況で、ウクライナに攻め込んでも、さらに経済が悪化するだけですし、クリミアのときのように国民からの支持が大きく伸びるということもないでしょう。私としては、プーチンは、米国の厳しい制裁を逃れたいので、その取引材料として、ウクライナを利用しているのではないかと思います。

実際プーチンは、バイデンと電話会談する機会を得ることができました。ウクライナ問題がなけば、このようなことはなかったでしょう。

以上中国の台湾への侵攻は、来年もないでしょう。現状に大きな変化がない限り、来年以降もないでしょう。

ロシアによるウクライナ侵攻もかなり確率が低いと思います。ただ、状況が悪化した場合、来年はドネツク州への侵攻はあるかもしれませんが、年明けすぐということはないでしょう。ただ、確率は低いです。

来年は、平和な年になっていただきたいものです。皆様本年中は、お世話になりました。良いお年をお迎えくださいませ。

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2021年12月30日木曜日

【独自】海自潜水艦に1000キロ射程ミサイル…敵基地攻撃能力の具体化で検討―【私の論評】日本の潜水艦隊は、長射程巡航ミサイルを搭載し、さらに戦略的要素を強めることになる(゚д゚)!

【独自】海自潜水艦に1000キロ射程ミサイル…敵基地攻撃能力の具体化で検討


 政府は、海上自衛隊の潜水艦に、地上の目標も攻撃可能な国産の長射程巡航ミサイルを搭載する方向で検討に入った。ミサイルは海中発射型とし、自衛目的で敵のミサイル発射基地などを破壊する「敵基地攻撃能力」を具体化する装備に位置づけられる見込みだ。

 複数の政府関係者が明らかにした。相手に発見されにくい潜水艦からの反撃能力を備えることで、日本への攻撃を思いとどまらせる抑止力の強化につなげる狙いがある。配備は2020年代後半以降の見通しだ。

 岸田首相は22年末に改定する安全保障政策の基本指針「国家安全保障戦略」に、「敵基地攻撃能力」の保有について明記することを目指している。保有に踏み切る場合、潜水艦発射型ミサイルは有力な反撃手段の一つとなる。

 搭載を検討しているのは、陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」を基に新たに開発する長射程巡航ミサイル「スタンド・オフ・ミサイル」。射程は約1000キロ・メートルに及び、敵艦艇などに相手のミサイル射程圏外から反撃することを想定する。将来的には敵基地攻撃への活用も可能とみられている。

 スタンド・オフ・ミサイルは現在、航空機や水上艦からの発射を前提にしている。防衛省は22年度予算案に開発費393億円を盛り込んだ。

 潜水艦に搭載する場合、浮上せずに発射できるよう、垂直発射装置(VLS)を潜水艦に増設する方式や、既存の魚雷発射管から発射する方式などが検討されている。自衛隊は、スタンド・オフ・ミサイルより射程は短いが、魚雷発射管から発射する対艦ミサイルは既に保有している。

 中国は日本を射程に収める弾道ミサイルを多数保有するほか、近年、日本周辺海域や南・東シナ海で空母を含む艦隊の活動を活発化させ、軍事的挑発を強めている。北朝鮮も核・ミサイル開発を進めている。

 日本を侵略しようとする国にとっては、先制攻撃で自衛隊の航空機や水上艦隊に大打撃を与えても、どこに潜むか分からない潜水艦から反撃される可能性が残るのであれば、日本を攻撃しにくくなる。

 自衛隊の潜水艦は現在21隻体制で、航続性能や敵に気付かれずに潜航する静粛性などに優れ、世界最高水準の技術を誇る。

 政府はこの潜水艦の能力を生かし、弾道ミサイルによる攻撃や、艦隊などによる日本の島嶼(とうしょ)部への侵略を防ぎたい考えだ。

【私の論評】日本の潜水艦隊は、長射程巡航ミサイルを搭載し、さらに戦略的要素を強めることになる(゚д゚)!

このニュースを、ロシアのメディア「スプートニク」は、素早く報道しています。
日本政府、海自潜水艦に国産の長距離巡航ミサイルを搭載する方向で検討=読売新聞

やはり、このニュースはロシアも相当気になるということなのでしょう。無論中国も気にしていることでしょう。北朝鮮も気にしているでしょう。

上の記事でも「自衛隊の潜水艦は現在21隻体制で、航続性能や敵に気付かれずに潜航する静粛性などに優れ、世界最高水準の技術を誇る」と記載されてますが、これはこのブログでも過去に何度か掲載してきたように事実です。

航続性能については、軍事秘密なのではっきりしたことは公表されていませんが、最新鋭潜水艦では最長で2週間をはるかに超える潜水が可能とされています。

特に静寂性(ステルス性)については、最新型のリチウムイオンバッテリーを駆動力に用いる潜水艦では、ほとんど無音に近いです。ただ、古い型の潜水艦でも日本の現役の潜水艦はすべて静寂性にはかなり優れています。これを中露海軍が探知するのは難しいです。

さらに、日本の自衛隊の潜水艦探知能力は、米国とならんでトップクラスであり、中露をはるかにしのぎます。

その日本の潜水艦が、米国の攻撃型原潜に劣るのは、航続性能や攻撃力ですが、その攻撃力が「スタンド・オフ・ミサイル」を装備したとなると、これは米国の攻撃型原潜に近い性能を有することになります。

新型巡航ミサイルの原型となる地対艦誘導弾システム:12式地対艦誘導弾(12SSM)

日本は、米中露のように、戦略原潜のような戦略兵器は持っていませんが、日本の潜水艦が「スタンド・オフ・ミサイル」を装備すれば、今までも戦略的だったのですが、より戦略兵器に近づくことになります。

日本では、三菱重工が地上、戦闘機、艦艇のいずれからも発射できる射程距離1000キロを(1000〜1500km)超える巡航ミサイルを開発中で。開発費は約1000億円で、地上配備型は2025年、艦艇搭載型は2026年、戦闘機搭載型は2028年までに配備を完了する計画だとされています。

そうして、今回はさらに、潜水艦に、地上の目標も攻撃可能な国産の長射程巡航ミサイルを搭載することを検討し始めたのですから、中露・北朝鮮なども心穏やかではないでしょう。

ちなみに1000キロとはどの程度の距離なのか、以下に地図を掲載します。


この地図をご覧になれば、わかるように1000キロだと、東京から打っても、北朝鮮には届きませんが、日本の潜水艦は北や中国には探知できないので、潜水艦で近づいて発射すれば、日本の領海内からでも、北京や平壌に届きます。

いまのところ、目立った反論などはありませんが、この計画が進行するにつれて、中露・北朝鮮の反発が強まることになることでしょう。どの程度の反発を示すのか今から楽しみです。反発が激しければ、激しいほど日本の戦略を恐れているということなると思います。

そうして、これは無論、日本にとっては良いことだと思います。運用の仕方によっては、東アジアの軍事バランスに大きな影響を与えることになるでしょう。無論、日本にとって良い方向にです。

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2021年12月29日水曜日

潜水艦建造、予算巡り与野党攻防 装備品、来年引き渡しピークへ/台湾―【私の論評】台湾は潜水艦で台湾を包囲して、中国の侵攻を長期にわたって防ぐことに(゚д゚)!

潜水艦建造、予算巡り与野党攻防 装備品、来年引き渡しピークへ/台湾

台湾初の国産潜水艦(試作艦)の模型

 潜水艦の自主建造の予算を巡り、立法院(国会)で与野党が攻防を繰り広げている。予算執行の凍結を訴える野党・国民党に対し、軍は来年、装備品の引き渡しがピークを迎えると説明し理解を求めている。

 外交および国防委員会は29日、来年度の国防部(国防省)の予算を審議。国民党は進捗(しんちょく)の遅れなどから急いで予算を通す必要はないとして、30億台湾元(約125億円)の凍結を求め、民進党の立法委員(国会議員)と応酬した。

 海軍の蒋正国・参謀長は、装備品107項目の調達のめどは全て立っているとし、来年はこれらの装備品が順次、台湾に到着する重要な1年になると指摘。建造や支払いもピークを迎えるとし、予算の執行が凍結されれば、国際社会や海外企業の台湾に対する信頼に影響が出るとの見解を示した。

【私の論評】台湾は潜水艦で台湾を包囲して、中国の侵攻を長期にわたって防ぐことに(゚д゚)!

海軍司令部は先月16日、台湾で初となる国産潜水艦の主要ブロックの完成を記念した式典を南部・高雄市で開催しました。2025年の試作艦引き渡しを目指しています。

蔡英文(さいえいぶん)総統は、軍艦や軍用機などの国産化を推進しており、先月21日には自主開発、製造した新型高等練習機「勇鷹」が初飛行に成功しています。

国産潜水艦は昨年11月から建造が進められていました。式典は、船体の主要ブロックの耐圧殻とセイルの結合が完了したことを受けて行われたもので、今後耐圧試験を経て問題がなければ、潜望鏡や通信用アンテナなどの設備を設置します。

式典には海軍司令の劉志斌上将(大将)や台湾国際造船の鄭文隆董事長(会長)らが出席した。劉氏は建造チームに対し、蔡総統と国民の期待と支援に応えるために、協調性と協力の精神を保ち、計画通りに初の潜水艦建造を進めるよう激励しました。

海軍司令の劉志斌上将(大将)

台湾国防部(国防省)は4月2日夜、台湾による潜水艦の新規建造計画を欧州の複数の主要国が支援していると発表しました。建造支援が米国からだけでないことを認めるのは異例です。

米政府は2018年、この近代化計画に米メーカーが参加するのを承認。台湾が主要部品を確保するのを助ける動きと見なされていました。ただ、関与する米企業名は明らかになっていません。

欧州諸国は全般に、中国の不興を買うのを懸念して台湾への武器売却承認には後ろ向きでした。ただ、台湾は18年、英領ジブラルタルに拠点を置く企業と新潜水艦の設計について協議していることを明らかにしていました。

現在台湾で活動できる台湾の潜水艦4隻のうち、2隻はオランダが1980年代に建造したが、同国はその後、さらなる潜水艦の売却を拒んできました。

フランスもこれまでに台湾にフリゲート艦と戦闘機を売却。台湾は昨年、艦船のミサイル妨害システム最新化のため、フランスから機器購入の意向があると表明している。

台湾国際造船(CSBC)は昨年、新潜水艦8隻の建造を開始。25年に最初の引き渡しを目指すとしていました。

一方、2019年の台湾報道を引用して北朝鮮が台湾の潜水艦支援へ協議していたとの米メディア報道について、国防部は2日これを否定しました。

台湾は、新型潜水艦によって、台湾の台潜水艦攻撃能力(ASW)を強化することを目指しています。これは、ASWが劣っている中国に対して、コストパフォーマンに優れた戦略といえます。潜水艦の建造にも多額の資金が必要となりますが、大型空母ほどではありません。

昔からの諺にあるとおり、艦艇には二種類しかありません。まずは、水上に浮く空母、戦艦、強襲揚陸艦などの艦艇です。もう一つが潜水艦です。水上の艦艇はいずれミサイルや、魚雷で撃沈されます。しかし、潜水艦はそうではありません。

そのため、現代では潜水艦こそが、海戦での決定打になるのです。だから、本当の海軍力とは、潜水艦とそれをサポートする能力なのです。

そうして、潜水艦の静寂性や攻撃能力などの能力の差異が、決定的な戦力の優劣につながります。第二次世界大戦中でもそのような傾向がありましたが、当時は水中から発射できる誘導弾(ミサイル)や、誘導魚雷などはありませんでしたし、艦艇や潜水艦を発見する電子機器などが発達していなかったため、潜水艦が海戦の主役になることはありませんでした。

第二次世界大戦中のドイツの潜水艦「Uボート」

当時は、空母打撃群が花形でした。しかし、第二次世界大戦後は、対艦・対空誘導弾(ミサイル)が実用化され、誘導魚雷も開発されたため、潜水艦が海戦の主役となりました。もはや空母打撃群は、時代遅れなのです。

台湾の潜水艦の能力がどの程度になるのかは、軍事秘密ですので、表にはでてきませんが、当然のことながら、日本の最新鋭潜水艦のようにステルス性(静寂性)に優れた、中国海軍には発見するのが難しい潜水艦の建造を目指していると思います。

ASWの強化には対潜哨戒機なども欠かせません。これに関しては、台湾はすでに導入しています。

台湾ではすでに2017年12月1日に米国から購入した哨戒機P3C12機の部隊編成が完了し1日、台湾南部・屏東県の空軍基地で式典が行われた。増強が進む中国海軍の潜水艦に対応するほか、中国が人工島の造成を進める南シナ海での哨戒任務にも当たるとされました。

それまでの対潜哨戒機S2Tは艦載型で航続距離が短い上、導入は50年前の1967年で老朽化が進んでいました。P3Cは2001年の米ブッシュ(子)政権下で売却が承認されましたが、1機目の納入は2013年まで遅れました。台湾の国防部(国防省に相当)は、P3Cは約12時間の連続飛行が可能で、対潜哨戒能力が大幅に向上するとしていました。

式典では蔡英文総統が訓示し、「P3Cの全機納入で、軍の戦力はさらに強化される」と述べました。台湾では13年以降、哨戒機は海軍ではなく空軍が運用しています。

台湾の対潜哨戒機P3C

台湾が潜水艦を自主開発することにより、P3C12機の運用ともあいまって、飛躍的にASWが高まります。これは、ASWが弱い中国にとっては、頭が痛いことでしょう。

米国の専門家は、台湾が潜水艦の開発に成功すれば、今後数十年にわたって中国の侵攻を止めらるだろうと論評しています。それについては、以前このブログにも掲載したことがあります。以下にその記事のリンクを掲載します。

台湾が建造開始の潜水艦隊、中国の侵攻を数十年阻止できる可能性―【私の論評】中国の侵攻を数十年阻止できる国が台湾の直ぐ傍にある!それは我が国日本(゚д゚)!

詳細は、この記事をごらんいただくものとして、この記事では台湾が8隻の優れた潜水艦を持つことができれば、中国の侵攻を数十年阻止できる可能性を指摘しました。元記事よりも、私の記事では根拠を明確にして説明しました。

ただ、この記事では、潜水艦8隻で最終的にどのような戦略をとるのかについては説明しませんでした。以下にこれを説明しようと思います。

台湾は、常時2〜3隻の潜水艦で台湾周辺を包囲する計画なのだと思います。ASWに劣る中国海軍は、多くの艦艇をもっていたのしても、潜水艦のステル性が低いのと、対潜哨戒能力が劣るため、台湾の海域に潜水艦が潜んでいれば、台湾に兵を送ることはできません。

送ろうとすれば、台湾の潜水艦に撃沈されてしまいます。その前に、台湾近海の中国の潜水艦は、台湾の潜水艦に撃沈されることになるでしょう。

それでも、中国が台湾に無理やり兵を送り込んだにしても、今度は補給船や航空機が台湾の潜水艦に破壊されることになります。それでは、中国軍は武器・弾薬、食料・水が補給できずにお手上げになってしまいます。

私は、台湾はこのようなシナリオを描いていると思います。常時2〜3隻で台湾を包囲するためには、交替艦としして2〜3隻は必要になります。さらに、故障や訓練のなどのことも考えて予備に2隻は必要となります。だから、最低でも8隻必要なのでしょう。

このような戦略をとられると、中国は台湾に今後少なくとも数十年は手出しかできなくなるでしょう。

ただ、こうした戦略すでに、米国の攻撃型原潜が実施していると思います。米攻撃型原潜は、台湾近海にすでに潜んで中国海軍の動きに睨みを利かしていることでしょう。日本もステルス性に優れた潜水艦により情報収集などに当たっているでしょう。何しろ、潜水艦の行動などは、各国とも表に出さないのが普通です。日本も例外ではありません。

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2021年12月28日火曜日

ソロモン諸島、中国が治安支援 警察関係者受け入れ―【私の論評】一人ひとりの国民が豊かになるために、ソロモン諸島は、民主的な道を歩むべき(゚д゚)!

ソロモン諸島、中国が治安支援 警察関係者受け入れ

ソロモン諸島の海岸

 南太平洋の島嶼国ソロモン諸島は28日までに治安維持能力の向上のために中国から警察関係者の受け入れを決めた。国内ではソガバレ首相が2019年に台湾と断交し中国と国交を樹立したことなどに不満が高まり、今年11月に暴動が発生していた。今回の決定はソガバレ氏の親中姿勢が変わっていないことを裏付けており、反発の高まりが予想されている。

 ソロモン諸島政府は23日の声明で、「将来の騒乱への対応能力を強化することが急務だ」と述べ、中国から警察関係者6人の派遣を受けると発表した。警察官の訓練などを担当するという。ヘルメットや警棒など装備の提供も受ける。

 ソロモン諸島の首都ホニアラでは11月、ソガバレ氏の退陣を求める反政府デモが暴徒化し、中華街で略奪や放火が相次ぎました。

 デモ参加者の多くは、ホニアラがあるガダルカナル島と長年対立するマライタ島出身者だった。マライタ島は親台湾派住民が多く、ソガバレ氏が中国と国交を結んだことに反発が強まっている。地元マライタ州政府は中央政府の親中的な政策に反発し、中国企業の島内での活動を禁止する措置を取っている。

 また、ソガバレ政権はデモ隊を沈静化させるために近隣国オーストラリアに支援を要請し、兵士や警察官約100人の派遣を受けていた。中国がソロモン諸島の警察力向上を支援することに対し、豪州が警戒を強めそうだ。

(シンガポール支局 森浩)

【私の論評】一人ひとりの国民が豊かになるために、ソロモン諸島は、民主的な道を歩むべき(゚д゚)!

太平洋島嶼地域の戦略上の重要性は一層増大しています。恐らく中国はこうした重要性を十分認識の上、これらの国々との関係強化に努めているのでしょう。いずれ中国が南シナ海でやっているような軍事化を太平洋の中心で行うような事態になることも考えられます。

太平洋にはグアム、ホノルル、クワゼリンなど米軍の戦略的施設があり、太平洋は米国が圧倒的な存在感を確立している地域です。更に今後の宇宙戦争を有利にするためにも太平洋の空間確保や施設設置は重要と中国が考えているとしても不思議ではありません。中国による本格的な太平洋進出は、米国のインド太平洋戦略を大きく複雑化させる。

12月9~10日に開催された、米国主催の「民主主義サミット」にはフィジー、キリバス、マーシャル諸島、ミクロネシア、ナウル、パラオ、パプアニューギニア、サモア、ソロモン諸島、トンガ、ツバル、バヌアツ等の島嶼国が招請されたことが注目されました。そこに米国の国防上の強い危機感が表れているようです。


日米豪欧州などが改めて太平洋島嶼国、太平洋水域の重要性を認識、確認することが重要です。なおインド洋では米中がセイシェルに注目していると言われています。地政学の舞台は益々大陸から大洋の開かれた地域に拡大しています。

ソロモン諸島では、反政府抗議行動が暴動に転じ、4人の犠牲者が出たことを受けて、オーストラリアは治安維持を支援するため警察・兵士を派遣するに至りました。

前週、3日にわたって続いた暴動では、抗議参加者による建物への放火や店舗での略奪が見られた。目撃者は、抗議者の怒りの矛先は高失業率や住宅難といった問題に向けられていたと話しています。

だがこの暴動に先立ち、ソロモン諸島で最も人口の多いマライタ州では、ソガバレ首相の率いる現政権が2019年に台湾と断交して中国を公式に承認したことに対する住民の抗議行動がありました。

ソガバレ首相

中国との外交関係樹立という決定は、マライタ州とソロモン諸島政府との緊張を招くだけでは終わらなかったのです。人口65万人のソロモン諸島は、大国間の地政学的な対立に巻き込まれてしまったのです。

中国と台湾はここ数十年、南太平洋を巡るライバル関係にあります。この地域の島しょ国の中には、一方から他方へと関係を乗り換える動きもあり、中台双方が影響力を高めるために援助やインフラの提供を競い合っているという指摘も表面化しています。

台湾と公式の外交関係を維持している国は15カ国。台湾と断交し、中国に乗り換えた最も最近の2例が、2019年9月のソロモン諸島とキリバスです。

ところがソロモン諸島マライタ州のダニエル・スイダニ州首相は、州内から中国企業を追放し、米国からの開発援助を受け入れたのです。

スイダニ州首相は5月に治療を受けるために台北を訪問し、ソロモン諸島の中央政府および駐ホニアラ中国大使館から抗議を受ける事態となりました。

担当医師らは、スイダニ州首相には脳腫瘍の疑いがあり、外国の病院での治療を推奨していたと話しています。州首相の帰国は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の関連で数回にわたり延期されいましたが、10月にはマライタ州に戻っています。

首相のソガバレは中国寄り、マライタ州のスイダニは親台湾で両者はパーソナリティーでも競争しているという状況にあります。

ソロモン諸島の首都ホニアラの中国系住民が多い地区で起きた火災(先月25日、交流サイトの動画から)


ただ、中台問題だけが暴動の要因ではなく、そこには経済的な問題もあります。フィナンシャル・タイムズ紙のキャサリン・ヒル中華圏特派員は12月1日付けの同紙解説記事‘Economic woes, not China, are at the heart of Solomon Islands riots’において、暴動の原因は、中国問題よりも経済にあると主張しています。

豪州ローウィ研究所のジョナサン・プライクも同様の分析を述べ、地政学、経済、島嶼人種間の格差の3要因を指摘の上、「地政学が火花になったが、真の原因は外交よりも深いものだ」、「人口の3分の2を占める30歳未満の多くが経済機会を見つけられないでいる」、「地域間の経済格差が島嶼間にある人種対立に油を注ぐことになっている」と中台の競争が最大の要因ではないと述べています(11月26日付ローウィ研究所サイト)。

IMF2021年10月13日の資料によれば、ソロモン諸島の一人あたりのGDPは、2,281ドル(世界140位)、中国は10,511ドル(世界84位))、台湾は28,358ドルです。これだと、ソロモン諸島そのものが貧困であるのは確かです。この貧困が対立の根本的要因になっていることは十分に考えられます。

中国は、国全体では、GDPは世界第二といわれていますが、個人ベースではこの程度です。そのため、以前このブログで中東欧諸国と中国の関係に関して述べたように、中国が、他国の国民を豊かにするノウハウがあるかといえば、はっきり言えば皆無なのです。

そもそも、中国が「一帯一路」で投資するのを中東欧諸国が歓迎していたのは、多くの国民がそれにより豊かになることを望んでいたからでしょう。

一方中国には、そのようなノウハウは最初からなく、共産党幹部とそれに追随する一部の富裕層だけが儲かるノウハウを持っているだけです。中共はそれで自分たちが成功してきたので、中東欧の幹部たちもそれを提供してやれば、良いと考えたのでしょうが、それがそもそも大誤算です。中東欧諸国が失望するのも、最初から時間の問題だったと思います。

ただ、中国は独裁者やそれに追随する一部の富裕層が儲けるノウハウを持っているのは確かであり、ソロモン諸島の為政者が、独裁者となり自分とこれに追随する富裕層が大儲けするという道を選ぶ可能性はあります。

ただ、一人ひとりの国民が豊かになる道を選びたいなら、やはり民主的な国家を目指すべきです。その場合は、急速に民主化をすすめた台湾が参考になります。このブログにも何回か掲載したように、先進国が豊かになったのは、民主化をすすめたからです。民主化をすすめなかった国は、たとえ経済発展しても、10000万ドル前後あたりで頭打ちになります。これは、中進国の罠と呼ばれています。

結局のところ、為政者の考え一つで大きく変わりますが、忘れてはならないのは、ソロモン諸島では大陸中国で行われていない選挙制度があり、有権者が将来を決めることができるということです。

米国や日本、台湾、それに太平洋に領土を持つフランスやイギリスなど、当然のことながら、ソロモン諸島が中国の覇権の及ぶところにはなってもらいたくないでしょうから、やはりソロモン諸島の住民に対して啓蒙活動や、一人ひとりの住民が豊かになり、自らの力で持続的に繁栄できるように支援をすべきでしょう。そのための、ノウハウなら中国にはありませんが、先進国ならあります。

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2021年12月27日月曜日

ロシア軍、1万人以上撤収 南部のウクライナ国境―【私の論評】一人あたりGDPで韓国を大幅に下回り、兵站を鉄道に頼る現ロシアがウクライナを屈服させ、従わせるのは至難の業(゚д゚)!

ロシア軍、1万人以上撤収 南部のウクライナ国境


 インタファクス通信は26日までに、ロシアの南部軍管区に属する1万人以上の部隊がクリミア半島などでの展開を終えて駐留する基地に撤収を始めたと伝えた。

  南部軍管区はウクライナに近いロシア南部の各州を管轄。欧米は衛星写真などを基に、ロシアがウクライナ国境付近に約9万人の部隊を集結させ、年明けにもウクライナに侵攻する可能性があると主張してきた。今回の撤収が欧米とロシアの間の軍事的緊張の緩和につながるかは不明。

  同軍管区は25日、インタファクスに対し、計1万人を超す部隊が1カ月の訓練を終えて撤収中だと明らかにした。

【私の論評】一人あたりGDPで韓国を大幅に下回り、兵站を鉄道に頼る現ロシアがウクライナを屈服させ、従わせるのは至難の業(゚д゚)!

このブログでは、以前ロシアがウクライナに侵攻するにしても、最大でいくつかの州であろうことを予測したことがあります。その根拠として、現状のロシアのGDPは韓国以下であり、しかも韓国よりも一人あたりではさらに低いので、とても大規模な戦争を遂行できるだけの力はありません。

ロシアは面積こそ世界一ですが、人口は約1億4000万で日本をわずかに上回る程度。経済規模は日本の3分の1以下、米国の10分の1以下で、世界で12位。G7各国はもちろん、韓国をも下回るのです。

一人あたりのGDPでは、韓国31,638ドル、ロシアは10,115ドルです。ちなみに日本は40,089ドルです。(2020年)

そうして、ロシア陸軍の兵站は、鉄道にかなり依存しているので、国境付近ではある程度のパフォーマンスを発揮できるものの、ウクライナの奥にまで侵攻はできないということも根拠にあげました。

これらを考慮すれば、ロシアがウクライナに深くまで侵攻して、ウクライナ全土を傘下におさめることなどできません。

現状でも、ロシアがウクライナに再度侵攻するにしても、できるのはせいぜいいくつかの州だけであり、それも軍事力だけで攻め落とすのは不可能であり、ウクライナでも、ロシア人が多く住む州で、ロシア人を味方につけてハイブリッド戦に持ちこみ、それでようやっといくつかのロシア人の多い州を併合できるということになると予測しました。

7日、ウクライナ東部ドネツク州で、親ロシア派武装勢力との境界線付近を歩くウクライナ軍兵士

そうして、この予測は現在だけではなく、将来にもあてはまります。ロシアの経済が今後すぐに上向くことはないでしょうし、さらに兵站の大きな部分を鉄道に頼っている状況が変わらいなかぎり、この状況は変わりません。

この状況は、当然のことながら、米国やNATO諸国に見透かされているでしょう。米国、NATOは環視衛星などで、ロシアの鉄道輸送を監視しており、南部のウクライナ国境の南部軍管区がどの程度の戦争ができるのか、詳細まで熟知していることでしょう。

このようなことを言うと、ロシアの軍事技術が高いし、核兵器があるから、ウクライナに簡単に侵攻できる、などと言う人いるかもしれません。

確かに、ロシアは軍事技術は未だに高く、核兵器も有しており、軍事的に侮れるような国ではありません。ただ、ロシアがウクライナに侵攻するのは、ウクライナを破壊するためではありません。破壊するだけなら、ロシアは存分に力を発揮できるでしょう。

ただし、ロシアにとっては、ウクライナの一部でも、占拠し、さらに統治する必要があるのです。そうなると話が違ってきます。長期にわたって、軍隊を駐留させる必要があります。そのためには、兵站は欠かせません。兵站に不安があるようでは、占拠し統治するのは不可能です。

ロシアの兵站の特徴については、「のりものニュース」に興味深い記事が掲載されていました。そのタイトルとリンクを以下に掲載します。

その差は鉄道の線路幅にあり? ウクライナとポーランド ロシアの脅威度が段違いなワケ

燃料が無くては、戦車は動けない。タンクローリーから給油されるT-72戦車。タンクローリーも鉄道で前線まで移動してくることが多い(画像:ロシア国防省)。

 この記事では、ウクライナとポーランドとでは、ロシアの脅威度が段違いであり、その根拠はウクライナはロシアと同じ広軌の線路を用いて、ポーランドはそうではないからとしていますが、確かに、平時ではそうかもしれませんが、戦時ではこれがウクライナにとって格段に不利だとはいえないでしょう。

ウクライナ軍は、国境内にロシア軍が入れば、自ら線路を破壊するでしょう。線路など、手榴弾でも破壊できます。

さらに、米軍やNATO軍は、先にもあげたように、ロシアの鉄道やウクライナの鉄道を監視していますから、ロシア軍がウクライナ侵攻をはじめれば、当然ウクライナの鉄道などを航空機かミサイルで破壊することでしょう。そうなると、ロシア軍には戦車の燃料や弾薬、水・食料などの物資が届かず、お手上げになってしまいます。

今回の1万人以上のロシア軍の撤退は、以上のようなことが影響しているものと思います。今回ロシアがウクライナ領内に入り込んだ場合、米軍やNATOに鉄道網を破壊する口実を与えてしまうことになります。

ロシアがウクライナ攻勢すれば、米軍、NATOはウクライナ領内だけではなく、ロシア領内の鉄道を破壊するかもしれません。無論、米軍、NATOの情報筋は、ウクライナの鉄道や、ロシアの鉄道のどの部分を破壊すれば、最も効果があるかを熟知していることでしょう。

一度、米軍やNATO軍が、ウクライナや、場合によってはロシア領内の鉄道網の破壊に踏み切れば、その後も何度も繰り返されるという危機もありえます。

バイデン米大統領(左)とプーチン露大統領(右)

それに、米国のジョー・バイデン大統領は7日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とビデオ会談し、ロシアがウクライナの国境周辺で軍備を増強させていることについて深い懸念を表明しました。そして、ウクライナへ侵攻すれば「強力な経済的およびその他の措置」を講じると述べました。

ジョー・バイデン米国大統領は4月15日、米国大統領選挙への介入や米国企業へのサイバー攻撃などを理由に、ロシアへの制裁を強化する大統領令に署名しました。同令を受けて財務省は、米国金融機関にロシア中央銀行などとの取引の一部を禁止するとともに、合計で25の企業・機関、21の個人を特別指定国民(SDN)に指定しました。国務省も、在米のロシア外交官10人の国外退去を決定した。バイデン政権は、状況次第で制裁内容を拡大するとしていました。

もし、ロシアがウクライナに侵攻すれば、米国の追加制裁が発動されるのは必定でしょう。そうなると、ロシア経済はますます疲弊することになります。

さらに、ロシアがウクライナの一部でも新たな占拠すれば、ウクライナがNATOに与する格好の根拠を与えることになります。ロシアとしては、それだけは絶対避けたいのでしょうが、現在のロシアにはウクライナに対して、十分な経済支援などできません。

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