2022年6月28日火曜日

ウクライナ戦争の「ロシア敗北」が対中戦略となる―【私の論評】「ウクライナGDPロシア凌駕計画」を実行すれば、極めて効果的な対中戦略になる(゚д゚)!

ウクライナ戦争の「ロシア敗北」が対中戦略となる

岡崎研究所

 6月9日付のワシントン・ポスト紙(WP)に、同紙コラムニストのファリード・ザカリアが、「最善の対中戦略? ロシアを敗北させろ」と題する論説を寄せ、ウクライナ戦争でのロシアの敗北が中国に与える影響を論じている。


 ザカリアは、論説の冒頭で、バイデン大統領の次の言葉を引用した。「もしロシアにその行動に重い対価を払わせないならば、それは他の侵略国に彼らも領土を取得し、他国を従属させられるとのメッセージを送るだろう。それは他の平和的民主国の生き残りを危険にさらす。そしてそれは規則に基づく国際秩序の終りを意味し、世界全体に破局的結果をもたらす侵略行為に扉を開く」。

 その上で、論説の最後の方で、今、最善の対中戦略はロシアをウクライナで敗北させることであるとした。それは、ロシアを強く支持した習近平にとって、同盟国ロシアが敗北することは、自らの痛手ともなるからである。逆に、プーチンが生き残れば、習近平も、西側諸国は規則に基づく国際秩序を十分に守れなくなっていると思い、攻撃に出る危険も増すと述べる。

 ザカリアの論説は、良く考えられた的を射た論説である。

 ロシアのウクライナ戦争を失敗に終わらせること、ロシアがこの戦争で弱い国になってしまうことを確保することは、今後の世界情勢がどういうように発展していくかを決めると思われる。

 中国は、米国を主敵と考え、対米関係で対抗的姿勢をとっており、ロシアのウクライナ戦争を非難していない。経済制裁によるロシアの苦境を和らげるように、欧州が輸入することをやめようとしている石油を買っている。

 中国は、ロシアへの武器供与はしていないようであるが、それ以外には総じてロシアと協力的関係を維持している。習近平が個人的にもプーチンを支持しているからであろう。

 ロシアの侵攻前、2月4日、北京五輪開会式の日に行われた習近平とプーチン会談で、プーチンがウクライナ侵攻計画を習近平に話したかどうかについては、断言できない。在ウクライナ・中国大使館は侵攻まで、首都から退避する措置を何らとらなかったからである。

求められる日本の不退転の姿勢

 今はウクライナでのロシアの敗北は、中国に大きな影響を与える。

 ザカリアがロシアのウクライナでの敗北を確実にすることが対中戦略上も決定的重要性を持つというのはその通りであろう。ロシアは衰退しているが、衰退する大国は危険でもあることを第一次世界大戦のオーストリア・ハンガリー帝国を例に指摘しているのもその通りだろう。

 日本は、南を中国、北はロシアと国境を接している。かつて安倍晋三政権時代、日本は、対中戦略において、ロシアと接近することも必要だとした。

 それは、冷戦時代に米国が対ソビエト戦略において中国と接近したのと似ている。しかし、ウクライナへのロシアの侵攻や北朝鮮のミサイル発射に対する中露の協力的姿勢を目の前にした今日、もはや、そのやり方は通用しないことがわかった。

 日本にとっては、より厳しい国際環境にあるが、自国の国防力を強化するとともに、日米同盟の緊密化、さらに価値観を共有する友好国と共に、より協力して行動することが必要だろう。

【私の論評】「ウクライナGDPロシア凌駕計画」を実行すれば、極めて効果的な対中戦略になる(゚д゚)!

ファリード・ザカリアが、「最善の対中戦略? ロシアを敗北させろ」 という主張には、賛成できる面もありますが、賛成できない面もあります。まずは、どの程度の敗北を想定しているのかはっきりしていない点があります。

無論私自信も、ロシアは敗北させるのは当然のこととは思っています。ただ、どこまで敗北させられるかは未知数の部分もあります。そもそも、ロシアはウクライナに攻め込んでいますが、ロシア自体はウクライナに攻め込まれているわけではありません。また、ウクライナが攻め込むつもりもないでしょう。


また、NATO諸国もロシアがNATO諸国のいずれかの国が侵攻されない限り、ロシアを直接攻撃したり、ロシア領に侵攻することはしないでしょう。

そうなると、ロシアが戦争に負けても、最悪ウクライナから引き上げるだけということになるでしょう。ロシアのモスクワを含む一部の地域にでもNATO等が侵攻していれば、それこそ、第一次世界大戦のドイツに対するような過酷な制裁を課することができるかもしれません。

しかし、ウクライナ戦争の戦後は、そのようなことはできません。ロシアを敗北させるには、限界があるということです。

であれば、敗北させたり、制裁を課したりするだけではなく、他の手立てを考えるべきだと思います。

それは、人口4400万人のウクライナの一人あたりのGDP(4,828ドル、ロシアは約1万ドル) を引き上げ、人口1億4千万人のロシアよりGDPを遥かに大きくすることです。現在ロシアのGDPは韓国を若干下回る程度です。

韓国の人口は、5178万ですから、一人あたりのGDPで韓国を多少上回ることで、ウクライナのGDPはロシアを上回ることになります。

そうして、その条件は揃いつつあると思います。まずは、戦争が終了した場合、西側諸国の支援のもとに復興がはじまります。ロシアは戦争に負けても、ウクライナに賠償金支払うつもりは全くないでしょうが、西側諸国が凍結したロシアの私産をすべてウクライナ復興にあてることになるでしょう。

あれだけ国土が痛めつけられたわけですから、これを復興するということになれば、それだけで経済活動はかなり盛んになるはずです。日本も第二次世界大戦では甚大な被害を受けましたが、凄まじい速度で復興しました。インフラが破壊されたということは、別の面からみると、効率が良く、費用対効果が高いインフラに取り替えることができるということです。

さらに、ウクライナはITなども進んでいますから、爆発的な成長が期待できます。軍需産業も存在しますから、軍需と民間の両方で経済を牽引することができるでしょう。

ただ、戦後復興が終了した後に、さらに経済を大きくしようとすれば、西欧諸国なみの民主化は避けて通れないでしょう。実際このブログで過去に紹介したように、経済発展と民主化は不可分です。その記事のリンクを以下に掲載します。
米中「新冷戦」が始まった…孤立した中国が「やがて没落する」と言える理由―【私の論評】中国政府の発表する昨年のGDP2.3%成長はファンタジー、絶対に信じてはならない(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
G20の状況をまとめると、高所得国はもともとG7諸国とオーストラリアであった。それに1万ドルの壁を破った韓国、サウジ。残りは中所得国で、1万ドルの壁に跳ね返されたアルゼンチン、ブラジル、メキシコ、ロシア、南アフリカ、トルコの6ヶ国、まだそれに至らないインドとインドネシア。それに1万ドルになったと思われる中国だ。

さらに、世界銀行のデータにより2000年以降20年間の一人当たりGDPの平均を算出し、上の民主主義指数を組み合わせてみると、面白い。中所得国の罠がきちんとデータにでている。
民主主義指数が6程度以下の国・地域は、一人当たりGDPは1万ドルにほとんど達しない。ただし、その例外が10ヶ国ある。その内訳は、カタール、UAEなどの産油国8ヶ国と、シンガポールと香港だ。

ここでシンガポールと香港の民主主義指数はそれぞれ、6.03と5.57だ。民主主義指数6というのは、メキシコなどと同じ程度で、民主主義国としてはギリギリだ。

もっとも、民主主義指数6を超えると、一人当たりGDPは民主主義度に応じて伸びる。一人当たりGDPが1万ドル超の国で、一人当たりGDPと民主主義指数の相関係数は0.71と高い。

さて、中国の一人当たりGDPはようやく1万ドル程度になったので、これからどうなるか。中国の民主主義指数は2.27なので、6にはほど遠く、今の程度のGDPを20年間も維持できる確率はかなり低い。
現状のロシアの一人あたりのGDPは、中国と同程度の1万ドル前後です。中国の人口は14億人で丁度ロシアの人口の十倍なので、国単位では中国のGDPはロシアの十倍になっていますが、両国とも、バルト三国や台湾よりも一人あたりのGDPは低いのです。

どうして民主化が経済発展に結びつくのかに関してはの論考は、ここで述べると長くなってしまうので、下の記事を参考にしてください。
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戦後復興後にウクライナが民主化に取り組み西側諸国のようになれば、 一人あたりのGDPがロシアをはるかに上回るのは、さほど難しいことではないでしょう。

それに、最近ウクライナが本格的に民主化する可能性が高まってきました。それは、ウクライナのEU加盟の可能性です。


ウクライナにとり欧州連合(EU)加盟は念願である一方、EU基準に程遠い制度や体質が改善されず実現は夢のまた夢でした。候補国として一歩を踏み出せた意義は大きいです。ロシアの侵略に対する欧米の「支援疲れ」も叫ばれる中、勇気づけられたことでしょう。

ロシアとの関係を断ち切りたいウクライナにとって、EU加盟で域内諸国との人、物、金の移動が自由になればメリットは大きいです。各国との通商がより活発になり、企業誘致やEUからの助成金も見込めます。外交上もロシアに対抗する後ろ盾ができ、国力の底上げにつながります。

ただ、今回の動きがロシアの侵略で大勢の命が失われた結果であることも忘れてはならないです。EU加盟には法の支配や人権など多くの項目でEU基準をクリアする必要があります。ウクライナは加盟に向けて国内法や規制を変更してきたが、それでも候補国になれていなかったのが実情です。

新興財閥(オリガルヒ)が政権と癒着する、裁判官や検察官の試験に賄賂で合格する、大学教授が授業の単位を金で売るなど、ウクライナは有数の汚職国家といわれてきました。

親露派政権が倒れてクリミア半島が占領された2014年以降、国家汚職対策局を設置するなど汚職排除に努めたましたが、いまだになくならないです。基準があいまいな汚職対策をEUがどう評価するかが、加盟に向けたポイントになります。

EU加盟は社会が変わるということです。汚職や腐敗体質が浸透しているウクライナは、急激な変化が生む負の側面も想定しておかなくてはならないです。

通常、加盟手続きには10年前後かかります。EUも1カ国を特別扱いするわけにいかず、他の候補国よりも先に加盟することはないです。道のりは長いですが、西側諸国の全面的支援もあります。焦らずに課題を着実に解決すれば加盟が早まる可能性もゼロではないです。

そうして、ウクライナがEU諸国並に民主化できれば、さらに経済発展する可能性が高いです。過去の汚職や腐敗にまみれてきた、ウクライナが社会を変えることは難しいかもしれませんが、それでも、民主化してロシアのGDPをはるかに凌駕することを目指すべきです。

そうして、日本のかつての池田内閣の「所得倍増計画」のように、「ウクライナGDPロシア凌駕計画」などと公言したうえで、実際にそれを達成すれば、より効果的でしょう。

また、ウクライナならそれも可能です。すでに一人あたりのGDPがロシアのそれを上回っているバルト三国の人口は、三国合わせても619万人です。これでは、バルト三国全体をあわせても、ロシアのGDPを上回るのは至難の技です。

台湾も一人あたりのGDPでは、中国を上回っていますが、台湾の人口は、2357万人であり、バルト三国などよりは大きいですが、台湾が中国のGDPを上回るのは到底不可能です。

ウクライナは戦争前のロシアのGDPを上回る可能性が十分あります。そうして、もしそうなったとすれば、これはとてつもないことになります。ウクライナは軍事にも力をいれるでしょうから、軍事費でも、経済的にもロシアを上回る大国が東ヨーロッパのロシアのすぐ隣にできあがることになります。

その頃には、ロシアの経済は疲弊して、ウクライナのほうが存在感を増すことになるでしょう。そうして、ロシアのウクライナに対する影響力はほとんどなくなるでしょうしょう。実際、日本でも1960年代の高度経済成長の頃から、当時のソ連の影響は日本国内ではほとんどなくなりました。これを見る中国は、武力侵攻は割に合わないどころか、経済的にも軍事的にも疲弊しとんでもないことになることを思い知るでしょう。

それどころか、ロシアの国民は繁栄する一方のウクライナに比較して没落する一方のロシアの現状に不満を抱くようになるでしょう。ロシア人以外の民族で構成さているロシア連邦国内の共和国などでは独立運動が再燃するかもしれません。

実際、ウクライナが大国になれば、多くの国がウクライナと交易してともに従来より栄えるようになるでしょう。ロシアの経済の停滞を補う以上のことが期待できます。ウクライナがNATO入る入らないは別にして、安全保証ではロシアの前にウクライナが控えているという事実が安心感を与えることになるでしょう。

また、ウクライナ戦争中に西欧諸国から支援を受けたウクライナは、その期待に答えようとするでしょう。

もし大国になったウクライナがNATOに加盟すれば、ロシアはパニック状態になるでしょう。それは、中国も驚愕させることになるでしょう。

日本としては、戦災・震災の復興の経験を生かし、ウクライナに対して資金援助だけではなく、様々なノウハウを提供すべきでしょう。さらには、ロシアに侵攻される直前のウクライナは日本にも似た状況にあったことから、復興し経済成長したウクライナのあり方は、日本にとっても非常に参考になります。

日本は、自らも学ぶという姿勢でウクライナに支援すべきでしょう。

ただし、先程も述べたように、ウクライナが西洋諸国なみの民主化を実現しなければ、これは絵に描いた餅で終わることになります。

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2022年6月27日月曜日

東京・東北・北海道電力 あさって「電力需給ひっ迫準備情報」―【私の論評】GDPギャップを埋めない限り、電力等の物価上昇にみあった賃金上昇は見込めない(゚д゚)!

東京・東北・北海道電力 あさって「電力需給ひっ迫準備情報」


厳しい暑さの影響などで東京電力、東北電力、北海道電力はそれぞれの管内で29日、電力供給の余力を示す「予備率」が5%を下回る可能性があるとして、新たに設けた「電力需給ひっ迫準備情報」を初めて出しました。

各社は家庭や企業に対して、節電の準備を進めるよう求めています。

東京電力 29日 午後4時半から午後5時 最も需給厳しく

関東地方では29日も厳しい暑さが続き冷房の使用などで電力需要が増えることが見込まれています。

このため東京電力の管内では29日も電力供給の余力を示す「予備率」が5%を下回る可能性があるということです。

具体的には午後4時半から午後5時が最も需給が厳しくなるということです。

このため、東京電力は「電力需給ひっ迫準備情報」を出しました。

準備情報はことし5月に新たに設けられた制度で、これが初めての発表になります。

会社は、家庭や企業に対して、節電の準備を進めるよう求めています。

東北電力も初の「電力需給ひっ迫準備情報」 29日

全国的に厳しい暑さが続いていて冷房の使用などで電力需要が増えることが見込まれています。

東北電力によりますと、29日東北6県と新潟県で電力供給の余力を示す「予備率」が5%を下回る可能性があるということです。

このため、東北電力は「電力需給ひっ迫準備情報」を出しました。

東北電力の準備情報の発令も、これが初めてです。

東北電力によりますと、使用率のピークは夕方の時間帯とみられていて、あさって午後4時半から午後5時までの予備率は4.1%と、電力の安定供給に最低限必要とされる予備率3%をやや上回るだけの水準となっています。

東北電力は、家庭や企業に対して、節電の準備を進めるよう求めています。

ただ、猛暑によって熱中症の危険性が高まっているとして、冷房は適切に使用しながら、使わない部屋の電気や空調は切るなど、日常生活に支障がない範囲での節電を求めています。

北海道電力でも初の「電力需給ひっ迫準備情報」

電力需給がひっ迫している本州方面に融通する影響で、北海道電力の管内では29日、電力供給の余力を示す「予備率」が5%を下回る可能性があるとして、北海道電力ネットワークは新たに設けた「電力需給ひっ迫準備情報」を初めて出しました。

【私の論評】GDPギャップを埋めない限り、電力等の物価上昇にみあった賃金上昇は見込めない(゚д゚)!

エネルギーや食料価格の高騰が続くなか、政府は「物価・賃金・生活総合対策本部」の初会合を開き、岸田総理は農産品の価格上昇の抑制や実質的な電気代の負担軽減に向けた対策を行う方針を示しました。

小麦などの食品の原材料や肥料、飼料なども高騰しており、それに対しても対応策を出すとのことです。

個別価格の上昇への対応は、減税でやるか、補助金でやるかということになります。経済学の原理からいくと、見えやすくてわかりやすい減税で行うのが普通です。しかし、なぜか自民党は補助金で対応するということです。

電力ひっ迫や電気料金の高騰を緩和するために、一般家庭の節電に応じてポイントを付与する仕組みをつくるということですが、これは最初は冗談なのかとも思ったのですが、そうではないようです。


これでどのくらい節電できるのかと言うと、年間1000円~2000円の間、1500円程度です。これに対するポイントということは、それより小さいはずなので、「一体何なのか」という感じです。家庭での節電は1世帯で1ヵ月100円程度にしかならないです。これでは全く大した額ではありませんね。

節電効果が大きいのならわかりますが、大したことはありません。そのぐらいの節電でしたら、既存住宅を断熱改修した方が効果があると思います。補助金を付ければ簡単にできてしまうので、ますます不思議で仕方ありません。

「家庭の節電でポイント付与」ということをマスコミは報道しますが、これで「いくらなのか」という報道は、しません。普通に考えれば1年間1000~2000円ぐらいなので、1ヵ月100円程度のレベルです。

これでは、ポイントを付けてもたかが知れているのです。節電効果と同じポイントを付けたとしても、月に100円くらいのレベルなので、1日数円程度で何とかし
ようというのは、間違っているとしか言いようがありません。

企業向けには一定の割合で電力会社が買い取る仕組みの導入を検討するということですが、どこまでできるのか不透明です。

1000億円くらいにでもなれば大きな金額ですが、それでも予算としては小さいです。マスコミは、誰かに調べてもらって「予算規模はいくらですか?」と質問し、その額を報道するべきだと思います。先ほどの節電効果からすれば、それほど大きな予算を付けられるはずがないのです。

省エネ等、それこそ日本はオイルショックのときからやり続けていることでもありますし、断熱改修などをやらないとなると、できることは限られてきます。

断熱改修は各国で行われていて、政府も実施するとは言っているのですが、新築のものに対して実施ということです。しかし、既存のものに対してやらなければあまり意味はないです。

新築に対して、「断熱効果を高めることを義務付ける」という法律は、本国会でも通っています。



それもいいのですが、既存のものは補助金で対応すべきです。

法律のなかでは、既存のものについては「低利で融資する」と書かれています。

ポイントなどもどのくらいできるかということは、最終的には予算規模の問題です。

環境省は、すでに省エネ家電購入などでポイントを付与する事業を行っています。

現金で実施するようにして、そのまま減税するのが最も簡単でいいポイントてず。その方が直接お財布にお金が残ります。

ポイントと言われると規模感がよくわかりません。ポイントであれば、このような話はごまかせるからでしょうか? 

「この事業にいくら予算が付くのか」と、予算については必ず聞くべきです。この質問に答えられないようならおかしいです。マスコミの方にはそういうことを聞いたらいたいです。

今回、環境に配慮した行動に対しポイントを付与する事業には、26団体が参加するのだそうです。多くが参加すると、期限がいつなのかがわからないまま終わってしまうことが、ポイント関連ではよくあります。

結局使えないポイントも多いのではないでしょうか。現金は使わなくても残すことができますが、ポイントには期限があります。

物価高に関して、今回の参院選の争点だとするマスコミも多いです。各党、様々な対策を打ち出してはいますが、どんな処方箋が良いのかという話になります。

逆説的なのですが、現在の物価高は海外要因なので、それを誰が吸収するかという議論なのです。そのようなときには、最終需要を増やすという吸収の手段が最も好ましいのです。ある程度、物価は高くなりますが、「高くなっても補助金が入って懐が痛まない」というのが政策としては最も良いのです。しかし、上がったところでダメという議論になると、最終需要を増やすという政策がやりにくくなります。。

補助金などの対策をしないとなると、転嫁できない可能性が高くなって、のちのち大きく影響することになります。転嫁できないとなると、最終的に雇用に跳ね返ってしまいます。経済政策としてGDPギャップをまず埋めて、簡単に転嫁できるようにすべきです。転嫁はできるけれども、最終的には財政支出ですべて受けてしまうということが筋なのですが、いまの議論ではなかなかそこまではいかないです。

マクロ経済のGDPギャップを意識した政策ができていないと、最終需要者に転嫁できないとなると、輸入業者や企業等が吸収する形になりますが、風上から風下にかけて、どこかで吸収できなくなります。吸収できなくなると、そこで失業率が高まります。失業率は典型的な遅行指標なので、これは半年くらい先の話になるでしょう。

失業率が高いままでは賃金は上がらないです。米国などでは、内需が回っています。そのため雇用など悪化することもありません。それでも米国人は、ガソリン価格が上がっただけでも文句を言うのですが、日本はまだインフレになっていないという状態です。インフレになっている方が雇用が安定するから、まだいいのです。

インフレに対しては、かつてのオイルショックなどに対するイメージの問題だと思うのですが、「即座に対峙するべきだ」というような考え方があります。

数字で捉えると、現在の日本は全体の総合物価指標でせいぜい2%ぐらいです。米国などは8%ぐらいまでいっています。全然違います。日本は生鮮食品及びエネルギーを除く総合指数(コアコアCPI)で0.8%程度の上昇ということは、ほとんど上がっていないと言えます。

そのため、本来様々な政策を打つ余地はかなりあります。財政出動と金融緩和の両方でとにかくGDPギャップを埋めるべきなのです。そうすることで賃金が上がっていきます。賃金の議論をしているのですが、議論としては全然そこまでいきません。やっている手段が違いかますから、当分の間、賃金の話には波及しないという状況です。

ちなみに、GDPギャップはどの程度なのかというのを示したのが下表です。


内閣府は少し低めに見積もる傾向があると髙橋洋一氏などは指摘していますが、それにして27兆円くらいのギャップがあると内閣府が指摘しているわけですから、岸田政権はすくなくも27 兆円程度の補正予算を組み、経済対策を実行すべきなのです。しかし、今回の補正予算は、2兆7009億円のでした、これでは桁違いです。

企業に賃上げ要請を行うということも、最近ずっと続けてきましたが。これは前政権のときには、失業率を下げてから実施しています。失業率を下げると賃上げができます。

失業率がどのくらいになると、このぐらい賃上げができるということは計算できます。賃上げのためにはまずは、失業率を下げるべきなのです。現在の状況だと、最低賃金は1%も上がれば良いくらいです。失業率をもっと下げなければいけないです。現状では雇用調整助成金で抑えているので、見かけ上は失業率が低いのですが、それがなくなると失業率は高くなります。そう考えると最低賃金はあまり上がりません。

結局現在の物価高に見合った賃金の上昇は期待できないということです。

電力需要のひっぱくには原発の稼働などて対応するとともに、物価上昇には利下げなどの筋悪な対処ではなく、需給ギャップを早急に埋める対策が必要です。

岸田政権は参院選後には、これにすみやかに対処しなければ、半年後くらいから失業率が上昇しはじめ本格的に支持率が低迷することになります。失業率の上昇はさすがに、多くの国民も許容することはなく、これに対処しなければ、三年後の衆院選では自民党が負ける可能性もでてきます。

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2022年6月26日日曜日

<独自>中国人留学生のバイト給与の免税撤廃へ―【私の論評】岡山選挙区が今回の選挙の数少ない一つの見どころとなる理由(゚д゚)!

<独自>中国人留学生のバイト給与の免税撤廃へ


 日本でアルバイトをする中国人留学生に適用されている給与の免税措置の撤廃に向け、政府が日中租税条約の改正を検討していることが25日、分かった。給与の免税措置は留学生の交流促進を図る目的で導入されたが、滞在国で課税を受けるという近年の国際標準に合わせる。複数の政府関係者が明らかにした。

 日中租税条約は1983(昭和58)年に締結された。同条約の21条では、教育を受けるために日本に滞在する中国人留学生が生計や教育のために得る給与を免税扱いにしている。雇用先の企業を通じて必要な届け出をすれば、生活費や学費に充てるためのアルバイト代は源泉徴収の対象とならず、課税されない。

 免税措置は、中国に滞在する日本人留学生にも同様に適用される。ただ、日本で働く中国人留学生に比べ、中国でアルバイトを希望する日本人留学生は限られる。また、日本人留学生が中国で就労許可を受けるハードルも高いとされ、中国人留学生が免税を受けるケースの方が圧倒的に多いとみられる。

 13日の参院決算委員会では、自民党が「アンバランスが生じている」と指摘した。

 近年では留学生が受け取るアルバイト給与について、居住する滞在国で課税を受けることが国際標準となっている。このため政府は米国やシンガポール、マレーシアなどとの租税条約を改正する際に、免税規定を削除してきた。

 一方、中国以外でも韓国やフィリピン、インドネシアなど、免税規定が残る条約もある。政府関係者は「個別の国との接触状況は答えられない」としながらも「関係省庁で連携し、積極的に既存の条約の改正に取り組みたい」と語った。


【私の論評】思いがけず岡山選挙区が今回の選挙の数少ない一つの見どころとなるワケ(゚д゚)!

小野田紀美議員

「中国人留学生は学費のためのバイトには所得税がかからないが日本人学生はかかる」

13日の参議院決算委員会の中で、こう訴えたのは、自由民主党所属の小野田紀美議員。

小野田議員は、国費外国人留学生や留学生のあり方について質問していく中で

「中国人留学生と日本人学生に、ひどいかい離がある」と強く訴えました。

中国人留学生は学費を稼ぐためにアルバイトをしても所得税がかからないが、日本人学生はかかる。これは日中租税協定によるものだが、反対に日本人が中国へ行くと働くことができない。相互、ではないのも問題ではないか、というものです。

これに対し外務省は「租税制度改定の機会に、適切に見直したい」と答弁しました。

小野田議員は以前にも決算で、国費留学問題を取り上げています。平成29年度、外国人留学生に対する国費は180億円、令和4年度は184億円。一方、日本人学生に対しては、平成29年度70億円、令和4年度は1525億円。その点については現在、日本人学生に対する支援が大幅に拡充されています。

7月に行われる参院選挙で、小野田議員が立候補すり岡山選挙区(定数1)が注目されています。今年1月、自民党現職の小野田紀美議員(39)が、公明党の推薦を拒否する内容のツイッターを投稿。怒った公明党は5月26日、中央幹事会で彼女を推薦することをやめ、自主投票とすることを正式に決定しました。自公連立政権の下、前代未聞の出来事に、地元の自民党県連に激震が走りました。 

1月15日、公明党の山口那津男代表が地方組織幹部とのオンライン会議で、参院選の32の改選1人区を中心に自民党候補者への推薦見送りを検討していることを伝えました。自民党は埼玉、神奈川、愛知などの改選複数選挙区で、自民党候補と競合する公明党候補への推薦に難色を示したことが背景にあります。

すると、同日、それに反応するように小野田議員がツイッターにこう投稿したのです。

自公連立政権の下、両党は選挙でも協力関係にある。旧来の自民党票は減る一方で、今や無党派層が勝敗のカギを握ると言われる時代。そのため、多くの自民党国会議員は、公明党・創価学会票を当てにしている。公明党が推薦見送りを検討すると言った段階で、あっさり「それで結構です」と言い出すとは異例の反応です。

小野田議員といえば、二重国籍問題も話題になっていたことがあります。2017年5月18日のツイッターに

「昨年、皆様に大変ご心配をおかけいたしました私の国籍の件につきまして、あらためてご報告申し上げます」

として、

「以前フェイスブックに書かせて頂いた通り、義務である『日本国籍選択と米国籍放棄手続き』については立候補前の平成27年10月に終えておりましたが、努力義務である『外国の法においての国籍離脱』という手続きについては、当時進行中で終了しておりませんでした。大変時間がかかりましたが、この度、アメリカ合衆国から2017年5月2日付での『アメリカ国籍喪失証明書』が届きました」

と記し、原本の写真も添付しました。


二重国籍問題は、父親が台湾人、母親が日本人である民進党の蓮舫代表が2016年10月に日本と台湾の二重国籍状態にあることが分かり、その後、与野党ともに二重国籍状態となっている議員がいることが発覚、小野田氏もその一人でした。

小野田氏は「国政を担う身として、皆様にご不安とご心配をおかけしてしまいましたこと、心よりお詫び申し上げます」と投稿しましたが、ネットでは「小野田さんは潔い」「蓮舫氏はいつになったら国籍問題をはっきりさせるのか」といった投稿が相次ぎました。

小野田氏は2016年10月、自身の戸籍謄本の写真をフェイスブックに公開したが、蓮舫氏は現在に至るまで公開していません。戸籍謄本の写真は上記のようにプライベートにかかわる部分は塗りつぶしても良いわけです。肝心要の国籍の宣言日と名前くらいがわかるだけでも良いと思います。

昨日都内で熱弁する蓮舫氏(右)と辻元氏

ただし、これを偽造すれば明らかに犯罪になります。フェイスブックなどに掲載すれば、役所の目にも触れる機会があると思います。

このような開示もしない蓮舫氏には、開示できないわけがあるとしか思えません。

このような話題満載の小野田氏ですが、今回の参院選で岡山選挙区から立候補します。他には共産党新人の住寄聡美氏(39)、NHK党新人の水田真依子氏(40)、諸派新人の高野由里子氏(46)、無所属新人で立憲民主党と国民民主党推薦で元玉野市長の黒田晋氏(58)の4人が立候補します。

黒田氏は公明党にも推薦を求めたが、断られました。地元では、小野田議員と黒田氏の事実上の一騎打ちと言われています。

過去3回の参院岡山選挙区で、公明党の比例票は12万〜14万でした。ということは、これまで、小野田議員は10万票ほどの公明・学会票をもらっていたことになります。今回の推薦見送りで、どんな影響が出るでしょうか。

今度の参院選では、小野田議員は楽勝と見られていました。前回の参院選では、彼女は民進党の江田五月議員の後継で社民党や共産党が推薦した黒石健太郎氏に10万票以上の差をつけていたからです。ところが公明党の推薦がなくなれば、10万票ほどの公明票がそっくりなくなる可能性があります。厳しい選挙になることは間違いないです。

公明党からの推薦を拒否すれば、その分票が減るのは当然です。彼女なりの計算はあったのでしょうか。

とはいいながら、SNS上で多くの賛同を得ているのは事実です。はたして、どんな選挙結果になるのか。公明党の推薦を表立ってはっきり断った議員は過去におらず、誰も予想がつかないです。

これは、蓋を開けてみなければ誰もわかりません。もし小野田氏が勝てば、保守系の議員はたとえ公明党の比例票がなくても当選する可能性があることを証明することになります。

そうなると、自民党の保守系の議員は公明党の顔色をあまりうかがうことなく行動しやすくなります。

ただ、今回の勝敗は、小野田氏やその支援者の努力だけではどうにもならない部分が多いと思います。無党派層がどう動くかが鍵になると思います。

これは、今回の選挙の数少ない一つの見どころとなるでしょう。

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2022年6月25日土曜日

太平洋関与へ5カ国連携 日米豪などグループ設立―【私の論評】グループ結成は南太平洋の島嶼国に札束攻勢をかけ、駆け引きを強める中国を牽制するため(゚д゚)!

太平洋関与へ5カ国連携 日米豪などグループ設立

 米国、日本、オーストラリア、ニュージーランドと英国は24日、太平洋地域への関与強化に向けた協力枠組み「青い太平洋におけるパートナー(PBP)」を立ち上げた。米ホワイトハウスが発表した。太平洋の島嶼(とうしょ)国などを民主主義の5カ国が連携して支援。中国への対抗を念頭に、ルールに基づく自由で開かれた地域秩序を後押しする。

 5カ国はPBPを通じ、気候変動や海洋安全保障など地域各国が抱える課題の解決に協力し、外交的な関与を強化する。中国が南太平洋のソロモン諸島と協定を結ぶなど、海洋進出を強めており、地域諸国が過度に中国に傾斜するのを防ぐ狙いもある。

ホワイトハウス

 ホワイトハウスは声明で「太平洋地域の繁栄と強靭(きょうじん)性、安全を支え続ける」と表明し、5カ国の協力強化の重要性を強調した。

 米政府によると、5カ国の高官が23、24両日、米首都ワシントンで太平洋諸国の代表団と会合を開いた。会合にはフランス、欧州連合(EU)もオブザーバー参加した。会合を受けて24日に立ち上げたPBPについて「包摂的で非公式なメカニズム」と位置付けた。

 PBPは「地域主義や主権、透明性、説明責任」を重視するとした。会合では運輸や海洋保護、保健衛生、教育分野も議論した。

 米国の太平洋関与をめぐっては、国家安全保障会議(NSC)のキャンベル・インド太平洋調整官が23日の講演で、多国間で開放的な「太平洋の地域主義」を支えると表明していた。

 バイデン米大統領が5月下旬に訪日した際には、日米豪印4カ国の協力枠組み「クアッド」の首脳会合が開かれ、違法漁業を取り締まる新たな仕組みの発足で合意した。中国漁船による乱獲が一部で問題視されていた。

【私の論評】グループ結成は南太平洋の島嶼国に札束攻勢をかけ、駆け引きを強める中国を牽制するため(゚д゚)!

米国家安全保障会議(NSC)報道官は4月19日、NSCのキャンベル・インド太平洋調整官らが同月18日にホノルルで、日本やオーストラリア、ニュージーランド(NZ)の政府高官と会談し、中国が南太平洋の島国ソロモン諸島と締結した安全保障協定について、懸念を共有したと発表しました。

キャンベル・インド太平洋調整官

安保協定をめぐっては、ソロモンでの中国の軍事拠点構築につながるとして、米国や豪州、NZが警戒を強めていました。中国外務省の汪文斌・副報道局長は19日の記者会見で、協定に最近、署名したと発表した。ソロモン側は沈黙していましたが、ロイター通信によると、ソロモンのソガバレ首相も現地時間の20日、国会で追及され、両国外相が協定に調印していたと認めました。

これに先立ち、NSC報道担当官は19日、中国・ソロモン安保協定は「透明性に欠け、性格も不明だ」と懸念を表明しました。地域との協議もほとんどない状態で中国が協定締結を進めたと非難した上で、「この地域との強固な関係に対する米国の関与が変わることはない」と述べ、引き続きソロモンなどとの関係強化を図っていく考えを示しました。

その後中国は、南太平洋を中心にした10カ国との安全保障協定の締結を提案しましたが、反対意見が出て合意に至りませんでした。

ミクロネシアのデイヴィッド・パニュエロ大統領は、中国と南太平洋を中心にした10カ国との外相会議に先立ち、周辺国に書簡を送り、「協定案への反対」を表明していたといいます。

オーストラリアの公共放送ABCによると、中国の王毅国務委員兼外相は先月 30日、訪問先のフィジーで開いた外相会議で、安全保障や警察、貿易、データ通信で協力する新たな協定案を示しました。

習氏も「中国と太平洋島嶼(とうしょ)国の運命共同体を構築したい」という書簡を寄せていたのですが、一部の国の合意を得られず提案をいったん棚上げしました。

フィジーのジョサイア・ヴォレンゲ・バイニマラマ首相兼外相は会議後の記者会見で、「これまで通り、各国のコンセンサスを最優先する」と述べました。10カ国すべての賛同が得られていないことを示唆しました。


中国外務省の趙立堅報道官は30日、「各国はより多くの共通認識に達することを目指して努力することに同意した」と語りました。今後も協議を継続する意向を示したかたちですが、現実には簡単ではありません。

南太平洋の島嶼国をめぐっては、中国と西側諸国の駆け引きが続いています。

中国は4月にソロモン諸島と、安全保障協力に関する2国間の協定を締結しました。ソロモン政府が要請すれば中国が海軍艦艇を寄港させたり、軍の部隊や警察を派遣したりできる内容です。

これに対し、日本や米国、オーストラリアは「中国の軍事拠点化につながりかねない」と懸念しています。

バイデン氏は訪日中の先月23日、インド太平洋地域で台頭する中国に対抗する、新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の発足を宣言しました。フィジーはIPEFへの参加を明らかにしています。

こうしたなか、米国は台湾シフトを強化しています。

ダックワース上院議員が率いる訪問団が先月30日、台湾入りしましまた。蔡英文総統らと31日にも会談しインド太平洋地域の安全保障や経済貿易関係について、話し合いました。

米大使館のSNSによると、ダックワース氏は米陸軍のパイロットとして勤務中の2004年、ヘリの墜落で両脚を失った「イラク戦争の英雄」です。

ダックスワーク氏(左)の表敬訪問を受けた蔡英文相当(右)

米台接近に、中国は軍事的威嚇を仕掛けてきました。

台湾国防部は30日、中国軍の戦闘機「殲16」や早期警戒機「空警500」など軍用機計30機が同日、台湾南西部の防空識別圏(ADIZ)に進入したと発表しました。

南太平洋は、台湾有事の際に、米国とオーストラリアの海軍艦船が通過する重要な地域です。中国はこれを阻止するため、軍事拠点化を狙っていまます。

米国もIPEFで、太平洋島嶼国を自由主義圏の枠組みに入れ、軍事、経済両面でつなぎ留める考えです。今回の協定合意失敗は、中国にブレーキがかかったかたちで、習氏の焦りにつながるでしょう。

ダックワース議員は、アジアや軍事問題にも精通し、民主党内でも影響力もあります。バイデン政権と議会が一致しているという米国意思を示すもので、連動した動きです。中国は今後、島嶼国に札束攻勢をかけ、駆け引きは強まるでしょう。警戒を緩めるべきでないです。

だかこそ、今回米国、日本、オーストラリア、ニュージーランドと英国は太平洋地域への関与強化に向けた協力枠組み「青い太平洋におけるパートナー(PBP)」を立ち上げたのです。

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2022年6月24日金曜日

金融緩和への奇妙な反対論 マスコミではいまだ「日銀理論」の信奉者、デフレの責任回避の背景も―【私の論評】財政・金融政策は意見ではなく、原理原則を実体経済に適用することで実行されるべきもの(゚д゚)!

日本の解き方


 デフレ脱却のための金融緩和政策については、かつて日銀内にも否定する声が強くあった。ここにきて「円安の副作用」を批判する声もあるが、こうした反対論は筋が通っているのか。

 かつて日銀内には、いわゆる「日銀理論」があった。これは、1990年代前半の「岩田・翁論争」で明らかになったものだ。当時学者で後に日銀副総裁になった岩田規久男氏と、当時日銀官僚だった翁邦雄氏の間で行われた。

日銀

 岩田氏はマネーサプライ(通貨の供給量)の管理は可能としたのに対し、翁氏は「できない」と主張した。論争は、経済学者の植田和男氏が「短期では難しいが長期では可能」といい、一応収まった。

 2000年代に入ると、日銀はマネタリーベース(中央銀行が供給する通貨量)の量的緩和政策を採用し、リーマン・ショック以降は世界の中央銀行でも量的緩和政策を導入したので、基本的には岩田氏の主張の通りだった。

 日銀は白川方明(まさあき)総裁体制で量的緩和を否定していたが、黒田東彦(はるひこ)総裁体制になって再び量的緩和政策を実施することとなった。そもそも日銀理論は、金利は操作できるが量は操作できないというが、量と金利は裏腹という経済理論から見れば奇妙奇天烈なものだった。

 しかし、日銀理論は形をかえてしぶとく生き延びた。名目金利はゼロ以下にはならないと言い、それで量的緩和を「実施しても効果がない」と主張した。筆者らは、経済理論では「金利」は名目金利から予想インフレ率を引いた実質金利なのでゼロ制約はないとし、各国のデータから量的緩和で実質金利をマイナスにできると指摘した。

 すると、反対派は今度は急に効果があるとし「ハイパーインフレになる」と言い出した。石は普段は動かないが、動き出すと止まらないといういわゆる「岩石理論」だ。筆者らはこれに対し、ハイパーインフレの数量的な定義を持ちだし、実施されている量的緩和からはハイパーインフレが起こらないと再反論をした。

 量的緩和について、「効果がない」から「ハイパーインフレになる」とは、まったくお粗末だが、マスコミは相変わらず、日銀理論を信じている人が少なくないようだ。かつては日銀自身が日銀理論を唱えていたので、日銀に取材しなければ記事を書けない人たちにとっては、日銀理論を否定することは自己否定になるからだろう。

 日銀理論の背景にあるのが、日銀官僚の責任回避だった。量の管理はできないのだから、デフレも日銀の責任ではないというものだ。効果がないとか、効果が出すぎてハイパーインフレになるというのも責任回避の表れだ。量の管理ができないというのは、金融政策ができないというのに等しいが、そこまでして責任回避したいものかと思った。

 官僚制の欠陥は「無謬性(むびゅうせい=間違いを起こさないという考え方)」と「責任回避」であるが、かつての日銀はその典型だった。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】財政・金融政策は意見ではなく、原理原則を実体経済に適用することで実行されるべきもの(゚д゚)!

上の記事で髙橋氏が語っていることは、意見ではありません。事実というか、原理もしくは原則です。あるいは、そこから導かれた見解です。何やら、日銀官僚等が主張することと違うことをいうと、髙橋氏と日銀官僚の意見が異なり、その時々で金融政策は意見の対立によって決まるのではないかと思ってしまう人もいるかもしれません。

金融政策は「意見」ではなく、原理原則を実体経済に適用すべきものである

そのわかりやすい事例が、財政を巡る自民党内の組織です。岸田首相に近い財政健全化推進本部(本部長:額賀福志郎、最高顧問:麻生太郎)と、安倍元首相に近い財政政策検討本部(本部長:西田昌司、最高顧問:安倍晋三)があります。前者は財政再建路線、後者は積極財政路線であり、両者は基本的な方向が異なっています。自民党内で二つの本部があるのはかなり異様です。

このような派閥のバトルで財政が決まるというのですから、財政はその時々で、派閥の力が強いほう、すなわち派閥の意見によって決まると思われても仕方ないです。

本来財政も金融政策も、その時々の意見や、派閥力学の均衡で決めるべきものではありません。もっと簡単で誰にでも理解できる原理原則を実体経済に適用することによって現実的に決められるべきものです。そうして、財政政策検討本部に所属している議員らは、そのことは十分承知なのでしょうが、岸田総理がこのような体制にしてしまったので、現状では財政政策検討本部に属しているのでしょう。

一方、財政健全化推進本部に属している議員らは、自分たちの考えも、財政政策検討本部の議員らの考えも意見であり、自分たちの意見を通したいと考えているのでしょう。

財政政策は元来派閥の争いで決めるべきではない

原理原則とは誰もが単純に理解できるものでなければ、原理原則になり得ません。ただし、原理原則が成立するまでには、科学的検証はもとより、様々な経験や失敗があり、その上に原理原則が成立し、高校や大学の教科書などにも記載されているのです。

そうして、財政政策の原理原則も簡単です。景気が悪ければ、積極財政と金融緩和を、景気が良ければ、緊縮財政と金融引締をするというものです。

そうして、景気の状況を見分ける原理原則も簡単です。一番重要なのは、失業率です。たとえば、景気が悪い時には失業率があがります。そうなれば、積極財政や金融緩和を行います。それで失業率が下がり始めますが、ある時点になれば、積極財政や金融緩和をしても、物価は上がるものの、失業率は下がらなくなります。その時点になったことが、はっきりすれば、積極財政や金融緩和をやめれば良いのです。

反対に景気が過熱してはっきりとしたインフレ状況の場合は、緊縮財政、金融引締を行います。そうすると、物価が下がり始めます、しかしこれも継続していると、やかで物価は下がらず、失業率が上がっていく状況になります。そうなれば、緊縮財政、金融引締をやめます。

基本的には、政府の財政政策と日銀(日本の中央銀行)の金融政策の基本です。さらに、もう一つあげておきます。それはデフレへの対処です。日本人は平成年間のほんどとはデフレであったため、デフレと聴いてもさほど驚かなくなってしまいましたが、デフレは景気・不景気を繰り返す通常の経済循環から逸脱した状況です。デフレが異常であるというのは、疑う余地のない原理原則です。

これを是正するためには、大規模な積極財政、大規模な金融緩和をして一刻もはやくデフレ状況から抜け出すというのが、これまた原理原則です。

これが、財政政策、金融政策の原理・原則です。これ以外の原理・原則はありません。古今東西いずれの国でも、これを原理・原則としない国はありません。最近の日本などがその例外でしょう。

 ただ、EUなどでも、2010年前後には、景気が悪い時には、景気よりも財政再建すべきなどという論文が出され、それに従う国もありましたが、その論文そのものが間違いであることがわかりましたし、それを適用した国で財政政策が失敗したことが明らかになったたため、景気よりも財政再建を重視する国はすぐになくなりました。固執し続けているのは日本だけです。

以上のような原理原則は、高校の「経済社会」の教科書にも掲載されていることですし、マクロ経済のテキストでも原理・原則として扱われていることです。読めば誰にでも理解できます。

安倍総理が提唱した「アベノミックス」は原理原則に基づいたものであり、当たり前のことを言ったものです。これに対してかつてエコノミストの浜矩子氏は「アベノミックスには新しいものは何もない、アホノミックスだ」と述べました。原理原則といわれるものには、新しいものなどありません。すべて検証されつくして、疑う余地のないものだから、原理原則となっているのです。

浜矩子氏が何を言いたかったのか、理解に苦しみますが、「アベノミックスには新しいものは何もない」という発言自体は正しいです。「アベノミックス」を持ち出すまでもなく、日本では財政政策の原理原則が無視されていることが問題なのです。

無論原理原則だけでは、実際の財政政策、金融緩和政策を行うのは難しいです。財政政策というと、一昔前の政治家、ひょっとすると今でも「公共工事」をすることだと考える政治家も多かったようですが、そのような単純なものではありません。その他にも、減税や給付金制度などもあります。

本来財政政策の目標など政府が定めて、その目標を達成するために財務省が専門家的立場から手段や期間などを選び、実行するというのが、財政政策の原理・原則ですが、日本ではなぜか財務省の財務官僚が政治組織のようにふるまい、財政政策の目標設定も関与し、とにかく隙きあらば緊縮財政、増税をしようとするのですから、異常です。

日銀も同じことです。日本国の金融政策の目標は政府が定めて、その目標を実現するために、日銀が自由にその方法選んで実行するのが、国際標準の中央銀行の独立性というものです。日本ではこの中央銀行の独立性が間違って認識されているようで、白川総裁までは、上の記事にもあるように、奇妙奇天烈、摩訶不思議な理論で、とくにかく金融引締ばかりを繰り返しました。

財務官僚と、日銀官僚の誤謬によって、日本は平成年間のほとんどの期間が深刻なデフレに見舞われました。

世の中で原理・原則といわれるものを無視すれば、とんでもないことになります。実際日本は、財政・金融政策の原理原則が無視されて、30年以上もデフレが続き、賃金も上がらないというとんでもない状況に見舞われました。


経営学の大家ドラッカー氏は、マネジメントに関する原理原則を語り、それに関する著作を多く残しました。

マネジメントを一言で言い表すならば「人と社会のお役に立つこと」です。ドラッカーはマネジメントの原理原則は「成果を中心に置くということ」としました。マネジメントの原理原則とは、人に指示命令することでもなく、人を支配することでもなく、人を操作することでもなく、「責任が中心に据える」ものなのです。

ドラッカー氏はこれ以外にも様々なマネジメント上の原理・原則を語っています。企業などで、日々起こる事柄のほとんどはこの原理原則を適用できます。適用できないもはごくわずかです。

私は、この原理原則を知って以来、会社のことであまり悩むことはなくなりました。そのようなことよりも、この原理原則をどのように現実問題に適用するかに集中するようになりました。

テレビや新聞などで様々な問題などが日々報道されますが、この原理原則を知っているのとそうでないのとでは随分違うと思います。無論原理原則は、ノウハウなどではないので、すぐに実践できるということはありませんが、ほぼすべての問題に考える緒を与えてくれます。

ドラッカーの人生の原理・原則

この原理原則を知らずに、長時間悩んだりしている人をみると非常に気の毒に感じます。ただ、残念なことに、米国の経営学会ではドラッカーはほとんど忘れられているそうです。現在の経営学の主流は因果関係に力点を置くものがほとんどであり、それが原因で忘れ去られたようです。

しかし、ドラッカーのマネジメント上の原理原則は、原理原則であるがゆえに今でも十分に役立つと思います。考え方や意見などは変わるものですが、原理原則はよほどのことがないと変わりようがないからです。そうして、米国の社会の分断はドラッカー流の見方が忘れ去られことも大きな原因の一つではないかと思います。

多くの人が原理原則に基づいたドラッカー流の見方ができれば、米国ではあのような深刻な根深い分断は起こらないと思います。

日本でも、特に財政・金融政策には原理原則に立ち返り、まともな政策ができるようにすべきです。

そのためには、原理原則をわきまえた有力な人に議員になってもらわなければなりません。参院選では個人を選ぶこともできます。これを活用して、原理原則をわきまえた人に一票を投じるべきと思います。

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2022年6月23日木曜日

すでに米国にも勝る?中国海軍の大躍進―【私の論評】中国海軍は、日米海軍に勝てない!主戦場は経済とテクノロジーの領域(゚д゚)!

すでに米国にも勝る?中国海軍の大躍進

岡崎研究所

 6月7日付のウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)が、「中国海軍の大躍進:カンボジアでの基地は北京の世界的軍事野望の最新のしるしである」との社説を掲載し、警鐘を鳴らしている。


 このWSJの社説は、時宜を得た問題提起をしているいい社説である。中国海軍が大躍進しているというのはその通りである。東シナ海、南シナ海での中国海軍の活動に加え、世界的に中国海軍が基地のネットワークを作ろうとしている。大西洋に接する西アフリカにまで軍事基地を作ろうとしている。

 WSJの社説が特に警笛を鳴らすのは、米中の海軍力の戦略バランスが、中国に優位に働いている点と、中国が世界的に基地のネットワークを秘密裡に、段階的に構築している点である。前者については、中国が現在の355隻から2030年までに460隻に増強する計画があるのに対して、米海軍は、現在の297隻から27年には280隻にまで減少すると言われている。日本がそれを補填する海軍力を増強できるかは、今後の動きに関わってくる。

 中国の海のネットワーク化は、着実に進んでいる。まずは主要な港湾を、スリランカやギリシャ、イタリア等でおさえ、中東のアラブ首長国連邦(UAE)等とも関係を深め、さらにはアフリカのジブチやケニア、モーリタニアにまで及んでいる。

 最近では、ソロモン諸島と安全保障協定を結び、その他の南太平洋の島嶼諸国とも同様の協定を締結しようとしている。中国は、最初は、民間経済やインフラ整備から各国に介入し、次第に警察の治安部隊、軍事的関与にまで触手を伸ばす。

 中国が何を目的としているかについては、政治的影響力の強化、軍事的影響力の強化、及び制裁を課された場合の資源確保などであろう。中国のこの動きには十分注意していく必要がある。太平洋諸国については、日本も、豪州や米国と協力して、中国に対抗していく必要があろう。

日本にも求められる海軍力の増強

 タイ湾の海域については、カンボジアでの基地建設について関心国と意見交換をしていく必要もある。タイやベトナムがカンボジアでの中国海軍基地を歓迎しないことはほぼ明らかであり、実りのある話し合いになる可能性がある。

 タイ湾からインドに向かう海域については、ミャンマーがあり、中国が進出してくる可能性が高い。中国は、既にミャンマーの軍事政権に対しては、相当の武器供与をしている。日本は、自由で開かれたインド・太平洋構想の推進の観点から、インドともこの問題で協力の余地がないか、考えたらよい。

 この問題については、外交面でやれることも案外あるのではないかと思われるが、より大きい問題は、海軍力の増強である。米海軍が相対的に力を落とす中、日本の海軍力も強化すべきであろう。日本の防衛予算は増額が必須であるが、それをどこに振り向けていくかについて、このWSJ社説の問題提起を考慮すべきであろう。

【私の論評】中国海軍は、日米海軍に勝てない、主戦場は経済とテクノロジーの領域(゚д゚)!

上のような記事を読むと、またかという感じがします。

2020年9月に米国防総省は「中国の軍事力についての年次報告書」を公開し、中国の海軍力はアメリカを凌駕し、「世界最大の海軍を保有している」と発表しています。

また米海軍大学校やランド研究所などのシミュレーションでも、中国が台湾に侵攻した場合、中国海軍が勝つという結果が出たことが、ニュースとして報じられました。

それ以来、米海軍が中国軍に負けるという記事がマスコミ等でいくつも掲載されるようになりました。上の記事もこのような背景から掲載されたものと考えられます。

しかし、ここで考えなくてはならないのは、国防総省等がなぜこうした発表を行うのかということです。

彼らがやっている戦力分析やシミュレーションの目的はただひとつ、連邦議会に対してもっと艦船を購入してくれるように説得することにあるのです。


国防総省のいう「世界一の海軍」とは艦船の数などを指しているのです。しかし、実際には2020年おいても、上の表の通り、米軍の艦艇数は、中国のそれを上回っています。ただ国防省は、米軍は艦艇を世界中に振り向けなければならないのに対して、中国はインド太平洋地域にだけ配置すれば良く、そうすると中国のほうが米国を上回るというのです。

しかも、中国の艦艇製造速度は早く、いずれ全体の艦艇数でも中国が米国を上回るとしています。ただし、最近は中国の艦艇製造数もひところよりはかなり減りましたし、米国はトランプが大統領の時代に艦艇数を増やすことを決めました。

しかし、もうすでに何十年も前から、海軍力の意味は変わってきています。昔から、「艦艇には2種類しかない、水上艦艇と潜水艦である。水上艦艇はそれが空母であれ、何であれ、ミサイルや魚雷などの標的に過ぎない。しかし潜水艦は違う。現代の本当の海軍の戦力は潜水艦である」と言われています。

実際、1982年のフォークランド紛争において、イギリスは1隻の原潜を南大西洋で潜航させていたのですが、このたった1隻によってアルゼンチン海軍は敗北しました。原潜からの魚雷が、アルゼンチン海軍最大の軍艦「へネラル・ベルグラノ」を沈めたのです。

ところが米国防省などがシミュレーションを行うときは、原潜を考慮に入れることはありません。これを入れてしまうと、ゲームそのものの目的を潰してしまうことになるからです。原潜だけでなく、総合的な海軍力でいえば、米国が圧倒的であることは疑いがないです。

特にその中でも、米海軍はASW(対潜水艦戦闘力)が中国海軍をはるかに凌駕しており、その中でも対潜哨戒力は、中国を圧倒しています。さらに、米軍の攻撃型原潜は、いまや水中の武器庫と化しており、巡航ミサイル、対空ミサイル、対艦ミサイル、魚雷などありとあらゆる武装を格納しています。

たとえば、攻撃型原潜オハイオは比較的大型の艦体や動力ゆえに、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載できます。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。

その中国海軍と米海軍が戦えば、米軍が圧倒するのは疑いがないです。よって、台湾有事においては、米海軍攻撃型原潜で台湾を包囲すれば、それで解決できます。大型のものを3隻派遣して、交代制で24時間常時台湾近海に1隻を潜ませ、中国海軍が台湾に侵攻しようとすれば、魚雷、ミサイルですべての艦艇、多くの航空機を撃沈することができます。

それどころか、巡航ミサイルで中国のレーダー基地、監視衛生の地上施設なども叩くことができます。

それでも仮に、中国軍が陸上部隊を台湾に上陸させることができたにしても、攻撃型原潜で陸上部隊への補給を絶てば、陸上部隊はお手上げになります。

中国海軍が多くの艦艇を持ち、さらに世界中に基地のネットワークを作ろうと、いざ米海軍と海戦ということになれば、米軍は圧倒的に勝利しかつほとんど被害を被ることはないでしょう。一方中国海軍は壊滅的な打撃を受けることになります。

ただ、このようなストーリーでは面白みもないですし、米海軍も艦艇の予算を得ることもしにくくなります。だからこそ、攻撃型原潜抜きで戦えは、艦艇数の多い中国海軍に、米海軍はまけてしまうというストーリーで耳目を惹きつけ、さらにドローンの脅威などで味付けすれば、多くの人々の耳目を惹きつけ予算を獲得しやすくなります。

ドローンであろうと、偵察衛星であろうと、水中に潜む潜水艦を発見できなければ無意味です。潜水艦への攻撃は潜水艦が発見できてはじめて可能になります。その能力が日米は中露をはるかに凌駕しているのです。これにより、日米と中露が海戦を行えば、中露にはまったく勝ち目がありません。中露は日本の海上自衛隊と単独と戦っても勝ち目はないでしょう。

現在の技術では監視衛生で水中の潜水艦は発見できないし、中露のドローンも対潜哨戒力は低い

米国防省の報告書や、さらにこれらを根拠とするマスコミ報道を真に受ける必要はありませんが、ただそうはいっても米国防総省としては、中国海軍への対抗措置として新たな試みに挑戦し続けるべきです。新たに攻撃型原潜を増やすとか、水上艦艇でも必要なものを増やすとか、メンテナンスのための工廠を増やすなど、現実的な予算の要求をすべきと思います。

日本も米国並にASW(対潜水艦戦闘力)が強く、特に対潜哨戒能力は米軍とならび世界トップクラスです。これは、冷戦中に米国の要請によって、オホーツク海のロシア原潜の行動を監視することによって得た能力です。

日本の場合は、米国のように攻撃力の強い、攻撃型原潜はありませんが、ステルス性に優れた通常型潜水艦があります。この潜水艦も米国の攻撃型原潜には及ばないものの、通常型としては十分な攻撃力があります。現在22体制で運用されており、日本は専守防衛はできます。

中国海軍が日本に侵入しようとして、陸上部隊を送ってきた場合などは、これらを撃沈できますし、たとえ陸上部隊が上陸したとしても、潜水艦隊で包囲して補給を絶てば、陸上部隊はお手上げになります。そのため、中露や北などが、日本に上陸しようとしても、なかなかできません。よって、日本は独立を維持することはできます。

マスコミで喧伝されてはいますが、中国にとっては台湾や尖閣諸島に武力で侵攻して、略奪するようなことは、簡単なことではないのです。

ただ、日本でもなぜか米国のように、日本防衛といういうと、水上艦艇、航空機、陸上兵力による防衛ばかりが議論され、潜水艦はでてきません。日本も潜水艦なしで、中国と対峙するとなると、かなり分が悪いです。これは、日米というか、いずれの国でも、昔から潜水艦の行動は隠密にされるのが普通だからかもしれません。

日米ともに、自国のASWの能力や、潜水艦隊の実力を国民に正しく啓蒙すべきでしょう。特に日本では、中国の軍事力の拡大の脅威を盲目的に信じて、中国には到底勝てないと思い込む人も多く、「中国に頭を下げるべき」とか「攻め込まれたら、戦え戦え正義のために戦えだけではだめだ」などという言葉を真に受ける人もいるようです。これでは、いたずらに中国のプロパガンダに加担することになってしまいかねません。

尖閣危機、台湾危機を一方的に煽る人もいますが、一方的に煽るのではかえって中国のプロパガンダに加担することにもなりかねません。なぜなら、それによって尖閣も台湾もすぐに簡単に中国によって侵略されしまうと信じ込む人が増えるからです。

実際、台湾も尖閣もいつ中国に奪取されてもおかしくないと考える人は多いです。しかし、あれだけ何回も長期間わたって尖閣や台湾を脅しているのはどうしてでしょうか。中国が台湾や尖閣を奪取できるだけの軍事力があるなら遠の昔に奪取しているはずです。

それどころか、中国海軍のロードマップでは、2020年には、第二列島線まで、確保する予定だったはずですが、現状では第一列島線すら確保はできていません。なぜできないのでしょうか。

かといって、日本の海自の海軍力はアジア最強であって、中国など全く脅威ではないと主張するのも問題です。バランスが重要だと思います。

そうして、最近のこのブログで述べたように、日本の潜水艦隊の運用は専守防衛にかなり傾いており、ロシアがウクライナにしたように中国が日本の国土にミサイルなどを直接打ち込めば、国土は破壊され、多くの国民の生命や財産が失われる可能性は否定できません。独立が維持できても、国土が破壊されてしまえば、悲惨なことになります。できることなら、こうしたことも防ぐべきです。

これを防ぐためには、先日もこのブログに掲載したように、日本も攻撃型原潜を持つことも検討すべきです。ある程度大型で、巡航ミサイルなども多数搭載できる攻撃型原潜があれば、敵基地攻撃もできます。

さらに、日本がタイやカンボジアなどを含む、アジア太平洋地域全体の安全保障に関与したり、日本のシーレーン全体の安全保障も関与するというのなら、攻撃型原潜の保有も必須となるでしょう。なぜなら、これらも日本の安全保障のテリトリーに加えるというのなら、長時間潜水でき、かつ大量の兵器を格納できる原潜が必要になるからです。

それとともに、日本はいたずらに中国の軍事的脅威だけに注目することなく、地政学的戦いにも注力すべきです。

米国と中国の真の戦場は、経済とテクノロジーの領域にあります。なぜなら、軍事的には中国はいまだ米国に対抗できる力がなく、外交戦略においては、中国に対峙しているのは、米国一国ではなく、すでにより広範な反中国同盟だからです。

さらに、米国も中国を武力で追い詰めれば、中国の核兵器の使用を誘発し、中国が核を使えば米国もそれに報復することになり、エスカレートして終末戦争になることは避けたいと考えているからです。

地経学的な戦いとは、兵士によって他国を侵略する代わりに、投資を通じて相手国の産業を征服するというものです。経済を武器として使用するやり方は、過去においてもしばしば行われてきました。

「中国製造2025」の段階を示すダイアグラム

ところが中国が特殊なのはそれを公式に宣言していることです。その典型が「中国製造2025」です。これは単なる産業育成ではなく、たとえばAIの分野に国家が莫大な投資を行うことで、他国の企業を打倒すること、そして、それによって中国政府の影響力を強めることが真の狙いなのです。

その意味で、中国は国営企業、民間企業を問わず、「地経学的戦争における国家の尖兵(せんぺい)」なのです。たとえば過去に英国がアジアを侵略する際の東インド会社のような存在なのです。

トランプ政権になって、米国がそうした行為を厳しく咎め、制裁を行うようになったのも、それを正しく「地経学的戦争」だと認識したからであり、だからこそ政権が交代しても、対中政策は変わらなかったのです。

現状では台湾にすら武力侵攻は難しい中国です。中国としては、軍事力ではない他の分野で日本に対抗しようとするのは、当然です。そうした日本が中国と対峙するのは米国と同じく「地政学的戦争」になるのは明らかです。

日本では、岸田文雄政権が看板政策に掲げる経済安全保障推進法が先月11日の参院本会議で可決、成立しました。半導体など戦略的に重要性が増す物資で供給網を強化し、基幹インフラの防護に取り組む体制を整える。2023年から段階的に施行します。

どの程度実効的な措置がとれるのかが課題です。

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2022年6月22日水曜日

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「原潜保有」提起 国民・玉木代表、中露北の脅威にディーゼル型潜水艦では不十分 「相当なコストが…必要か疑問」世良氏が指摘

国民・玉木代表

 日本周辺で、中国やロシア、北朝鮮の軍事活動が活発化して安全保障上の脅威が高まるなか、国民民主党の玉木雄一郎代表が「原子力潜水艦保有の検討」を提起した。日本を標的とする潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)搭載の原潜に対応するには、自衛隊のディーゼル型潜水艦では不十分だと主張している。日本が原潜を保有する実現性はあるのか。

 「原子力潜水艦を保有するなど、適度な抑止力を働かせていくことを具体的に検討すべきだ」「(日本が)攻撃を受ける可能性があるのは、発射地点が分からないSLBMだ」

 玉木氏は14日、国会内で取材に応じ、こう指摘した。原潜保有は安全保障リスクに対処するうえで有効だという。

 日本の抑止力強化では、米国の核兵器を共同運用する「核共有」も議論されるが、玉木氏は「抑止力を強めることに貢献しない」と否定した。ロシアのウクライナ侵攻でドローン攻撃が多用されている現状を挙げ、長射程ミサイルに限定せず、抑止力と反撃力を強化する手段を議論すべきだと主張した。

 原潜保有については、昨年9月の自民党総裁選でも4候補が激論を交わした。

 高市早苗政調会長は「国際環境や最悪のリスクなどを考えると、長距離に対応はできるものはあっていい」と前向きな見解を示し、河野太郎広報本部長も「日本が持つのは非常に大事」と、コストなども含めて検討を進めるべきと強調した。

 一方、岸田文雄首相は「原子力技術は大事だが、日本の安全保障の体制を考えた場合、どこまで必要なのか」と疑問を呈し、野田聖子こども政策担当相も「非核三原則を堅持する国だということを明確にしたい」と述べていた。

 日本の原潜保有を、識者をどう分析するか。

 軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「日本の防衛戦略から考えれば、必ずしも原潜保有が必要かは疑問だ。原潜は高速で長距離を長期間、潜水航行できる。一方、日本の通常動力潜水艦は静粛性で勝る。日本は有事では海峡などで静かに敵潜水艦を待ち受けて迎撃する戦略で、長距離航行の能力はさほど必要ない。原潜保有には相当なコストもかかる。原潜に対抗するには原潜という発想は疑問がある」と指摘した。

【私の論評】日本の最新鋭潜水艦と原潜は別物、用途で使い分けるべき(゚д゚)!

日本の通常型潜水艦の強みはなんといっても静寂性(ステルス性)です。この静寂性は世界一であり、ほとんど無音と言っても良いくらいです。この静寂性という強みがあるため、上の記事では世良光弘氏が、日本の原潜保有に疑問を呈しているのだと思います。

進水式直前の「はくげい」

防衛省は2021年10月14日(木)、川崎重工神戸工場(神戸市中央区)において、新規建造された潜水艦の命名式および進水式を実施しました。「はくげい」と命名されたこの艦は、たいげい型潜水艦の2番艦にあたります。

「はくげい」は全長84.0m、幅9.1m、深さ10.4m、基準排水量3000t、乗員は約70名、主機関はディーゼル電気推進で、軸出力は6000馬力です。起工は2019年1月25日で、今後、艤装や各種試験を実施したのち、2023年3月に引き渡しの予定です。

たいげい型潜水艦は、ディーゼル推進の通常動力型潜水艦としては世界最大級であり、なおかつ建造時から女性自衛官の勤務を想定して相応の設備を有しているのが特徴です。

防衛省・海上自衛隊の説明によると、従来のそうりゅう型潜水艦と比べて探知能力が大幅に向上しているほか、静粛性も増しているとのこと。外観形状はそうりゅう型とほぼ変わらないものの、主機関にはディーゼルエンジンとリチウムイオン電池を組み合わせたディーゼル電気推進が採用されています。

なお、「はくげい」は漢字では「白鯨」と書き、白いマッコウクジラを意味するとのこと。この名称を海上自衛隊で用いるのは初めてです。

米アナリストや元哨戒機乗員によると、かつて最高の静粛性を誇った米原潜が、今は一番雑音がうるさい」そうです。2月12日、オホーツク海においてロシア海軍艦艇が、アメリカ海軍最新型バージニア級原潜を探知し、米海軍当局もそれを認めたことからも、この発言は裏付けらています。

深海を航行する潜水艦を探知するには、潜水艦が発する雑音を探知するしかないです。

最近オホーツク海に配備されたロシア海軍原潜の、弾道ミサイル搭載ボレイ級、巡航ミサイル搭載ヤ―セン級原潜は、アメリカ原潜ロサンゼルス級よりも静粛だと言われています。

ロシアはかなりの予算をかけることで潜水艦の高度な研究が可能になり、原子炉、蒸気タービン、モーター、プロペラに接続する動力伝達などの静粛性を高めました。

中国原潜も多額の予算と米国でのスパイ戦の成果などで、凄まじい速度で進化し静粛性が高まっているとされてます。

潜水艦を推進させるスクリューや船体の建造には、多くのデジタル技術が使用されます。

そこまで静かになった中露潜水艦を発見するには、海自の最新鋭潜水艦「たいげい」型レベルのソナーが必要になります。

海中の潜水艦が発する音には、原子炉、蒸気エンジン、スクリューなどの作動音があり、それが海中を伝播します。「たいげい」型の最新ソナー「ZQQ-8」高性能ソナーシステムは、艦首アレイのコンフォーマル化でこれまでの球形ソナー以上に正確性が向上します。

さらに、その他に2カ所ある側面アレイの開口拡大により、艦側面の探知能力が向上、曳航アレイの指向性も向上しています。この計4か所の異なるソナーの探知情報を自動統合化することで、探知能力は凄まじく強力になっています。

なので、「たいげい」は新型ソナーの性能を試すために、実際に中露の新鋭潜水艦を待ち伏せしプロペラ音などを収音する活動を行うでしょう。

また、潜水艦の装備としてまず潜望鏡を思い浮かべる人も多いでしょう。潜水艦がソナーで水上航行中の敵艦を発見すると、そこから潜望鏡の出番となります。

ソナーで敵艦を発見した場合、その艦艇は本当に敵なのか、艦番号や艦影を目視して確認しないと攻撃に移れません。その時に潜望鏡を海面に出して敵艦を目視します。しかし、その潜望鏡が敵水上艦から発見される可能性があるので、出来る限り短時間で目視確認をしないといけません。

そうなると、潜望鏡の光学レンズで敵艦を見ている艦長の目だけが頼りとなってしまいます。

そのため、「おやしお型」までは潜望鏡にフィルムカメラ装着して撮影し、艦内で現像して写真に焼いて確認をしていましたが、それでは時間がかかり過ぎです。今はビデオカメラで撮影可能になり、デジタル画像ですぐに確認できるようになりました。

「たいげい」の新しい潜望鏡は外観から見た感じでは、カラー、高感度モノクロ、赤外線の撮像、レーザー測距、ESM装置が備わっているようです。

さらに、「たいげい」型にはリチウムイオン電池が搭載されています。防衛省は「たいげい」型を『リチウムイオン電池を新たに搭載することにより、従来型潜水艦に比べ水中の持続力や速力性能などを大幅に向上した潜水艦』と発表してます。リチウムイオン電池は鉛蓄電池と比べ蓄える電気容量が数倍多く、充電時間が短いからです。

従来の潜水艦は頻繁に浮上してディーゼル機関を回し充電していた。浮上航行中の潜水艦は一番脆弱です。その点、リチウムイオン電池なら数日から数週間は潜水可能といわれ、さらに充電時間が短く、浮上航行充電時間が短くてすみます。

ロシア海軍のヤーセン型原子力潜水艦

中露の原子力潜水艦は、原子力潜水艦の構造上どうしてもある程度は騒音が出るため、日米はこれを発見しやすいです。一方日本の「たいげい」のような最新鋭潜水艦の場合は、ほとんど無音に近いです。これを発見するのは相当難しいです。

この「静寂性」を活用して、日本の潜水艦は中露に発見されることなく、偵察や情報収集活動ができます。また、海戦になった場合は、日本の潜水艦は敵に発見されることなく、多くの官邸を撃沈できるでしょう。

ただ、日本の潜水艦にも欠点はあります。それは、原潜は理論上は無限に航行できますし、駆動力も大きく、水中の武器庫といわれるくらい、多数の多様な兵器を搭載できます。通常型潜水艦の場合は、そうはいきません。

オハイオ潜水艦は今はもう核ミサイルを搭載していないですが、米海軍のすべての潜水艦と同様、原子力を動力とします。現在の呼称は「巡航ミサイル搭載原子力潜水艦(SSGN)」で、原子炉によってタービン2基に蒸気を送り、その力でプロペラを回すことで推進します。

米海軍によると、その航続距離は「無制限」。連続潜航能力の唯一の制約となるのは、乗組員の食料を補給する必要性のみです。

オハイオは比較的大型の艦体や動力ゆえに、トマホーク巡航ミサイルを154基も搭載できます。これは米誘導ミサイル駆逐艦の1.5倍以上、米海軍の最新鋭攻撃型潜水艦の4倍近いです。

         トマホークミサイルが2018年の試験で米海軍の潜水艦から発射される様子。
         オハイオ級巡航ミサイル潜水艦はトマホーク154基を搭載できる

トマホーク1基では、爆発力の高い弾頭を最大1000ポンド(約450キロ)搭載可能です。SSGNなら多くの火力を迅速に運搬できます。154基のトマホークは甚大な打撃を正確に与えることができる。いかなる米国の敵もその脅威を無視できません。

日本の最新鋭潜水艦は、ステル性に優れているため、日本近海に潜み敵が日本を攻撃しようと企てた場合、その状況を偵察したり、あるいは艦艇を攻撃することができます。いわゆる専守防衛にはうってつけです。そもそも、日本近海には日本の潜水艦が無音で潜んでいるので、日本を攻撃しようとした場合これらに阻まれることになります。

一方、日本の潜水艦は武装には限りがあり、米国の攻撃型原潜のように水中の武器庫と呼ばるほどの大きな攻撃力はないですし、原潜ほど長時間の単独航行もできません。

日本の潜水艦は海洋上の重要水路、さらには中国や北朝鮮の海軍基地や港の外側に長期間にわたって居続けることができます。また、関心を寄せている他の場所でも何週間も海上交通を監視することができます。議論の中心となるべきは、海自がより広範囲の地域をカバーするためにさらに多くの攻撃型原潜を持つべきかどうかでしょう。

日本の潜水艦と攻撃型原潜などの原潜は別物と考えたほうが良いでしょう。それぞれの利点をいかしつつ、日本の防衛にあたらせるというのがベストでしょう。

日本が原潜を持つとすれば、当面は核を搭載した戦略型の潜水艦ではなく、戦術型の攻撃型原潜になるでしょう。

攻撃型原潜に米国と同様にトマホークなどを多数搭載できれば、戦略型原潜に近いことができます。いわゆる敵基地攻撃ができますし、たとえば、日本が核で攻撃されて、壊滅状態になったとしても、攻撃型原潜は水中に潜み、敵に攻撃を加えることができます。

日本が専守防衛だけではなくインド太平洋の安全保障への貢献や、シーレーン防衛までを考えた場合は、攻撃型原潜が必要になります。

日本にはすでに優れた通常型の22隻の潜水艦があります。これらによっても、専守防衛的な防衛などは十分にできます。海戦においては、中露に十分対応できます。中露を艦艇や潜水艦の日本の海域への侵入を防ぐことができます。

日本は、これらの国々の侵攻を阻止し、日本国の独立を維持することができます。ただし、専守防防衛だけでは、ウクライナのようになってしまいます。

日本の国土に多数のミサイルを打ち込まれれば、国土は破壊され、多くの国民の人命、財産が失われます。それを防ぐためにも、攻撃型原潜も必要になる場合もあり得ます。

日本が攻撃型原潜を持つかどうかの判断は、日本の潜水艦と原潜は別物であるという観点は外せないです。

日本が攻撃型原潜を持つか否かの議論は、専守防衛に傾いた日本の海軍力の是正つながる可能性もあると思います。

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2022年6月21日火曜日

「円安・物価高」のデタラメ報道 GDPギャップにも言及せず 「国際経済常識」に外れた滑稽さ―【私の論評】自民党内最大派閥の領袖安倍氏に表立って反抗できない大企業のサラリーマン社長のような岸田総理は、積極財政に舵を切る(゚д゚)!

日本の解き方


金融政策の本質を理解していない鈴木財務大臣の発言

 為替の円安をめぐっては、「輸入価格の上昇で家計や中小企業の負担が大きい」と強調する報道が目立つ。また、「米国が利上げしているのに、日銀は金融緩和を継続している」と批判したり、「以前に比べると円安メリットは限定的」といった報道や分析もみられる。

 こうした論調には、経済全体をとらえるマクロ経済の視点がないものが多い。家計の負担が大きい、中小企業が大変というが、その一方、史上最高の収益を得ている大企業も多い。

 米国は利上げしているので、円安是正のため日本も利上げすべきだというのも、マクロ経済の基本ができていない議論だ。金融政策にはインフレ目標がある。それはインフレ率(と表裏一体の失業率)のコントロールを目標とするもので、為替水準を目標とするものではない。

 米国においてインフレ率が高くなっているのは、バイデン政権発足直後の大型財政出動によりGDPギャップ(総需要と総供給の差)が解消されたことによるものだ。

 しかし、日本では依然大きなGDPギャップ(デフレギャップ)が残っている。そのため、エネルギー価格などは上昇しているが、物価の基調を示すエネルギー・生鮮食品を除く消費者物価指数は4月時点で対前年同月比0・8%上昇に過ぎない。ほとんどのマスコミの報道で、このGDPギャップについて言及されない。


 また、日本の報道はエネルギー価格の上昇と円安を混同しているものばかりだ。米国はドル高なのに高いインフレで、日本は円安なのにそれほどインフレでない。エネルギー価格は国際要因なので共通だが、為替は国内物価への影響が少ないのだ。実際、消費者物価指数で、円安が押し上げ効果を持つとされる輸入競合品のウエートは25%程度しかない。

 「円安メリットは限定的」との意見にも根拠がない。円高時に海外拠点に移行したからというが、輸出は減っても海外投資収益が増えているはずだ。円安で国内総生産(GDP)が減少するといった議論もあるというが、内閣府などの国内機関や経済協力開発機構(OECD)などの国際機関の経済モデルと真逆な結論だ。

 自国通貨安は、自国経済にはプラスだが隣国はマイナスという意味で、古今東西「近隣窮乏化」として知られている。通貨安は輸出主導の国内エクセレントカンパニーに有利で、輸入主導の平均的な企業には不利だが全体としてプラスになるので、どんな国でも自国通貨安はGDPのプラス要因になる。

 もし国際経済常識を覆すなら世紀の大発見だ。いずれにしても、最近まで「通貨安戦争」とあおっていたマスコミが手のひら返しするのは滑稽だ。日本にとって、エネルギー価格の上昇はGDPのマイナス要因だが、円安はプラス要因だ。両者を峻別することが必要だ。

 国際通貨基金(IMF)などの国際機関で、世界経済見通しが発表されているが、日本経済の落ち込みは軽微だ。それは円安になっているからだ。円安を不幸中の幸いとして、円安是正よりGDPプラスの効果を生かすべきだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】自民党内最大派閥の領袖安倍氏に表立って反抗できない大企業のサラリーマン社長のような岸田総理は、積極財政に舵を切る(゚д゚)!

鈴木財務大臣は4月15日閣議後の会見で、円安の進行を巡り、輸入品の高騰などを踏まえて「悪い円安ということが言えるのではないか」と述べました。

「円安が進んで輸入品等が高騰をしている。そうした原材料を価格に十分転嫁できないとか、買う方でも、賃金が伸びを大きく上回るような、それを補うような所に伸びていないという環境。そういうことについては、悪い円安ということが言えるのではないかと思っております」

財務大臣ですらこのような発言をするのですから、マスコミや野党が誤った発言をするのも無理はないのかもしれません。

ただ、心配なのは政治がどう動いていくかということです。

野党第1党の立憲民主党は、物価上昇を奇貨として岸田文雄政権批判を強め、日銀にインフレ対策(金融引き締め)を要求しています。他方、物価高対応という面では岸田政権の財政出動(財政拡大)は不十分だとしています。まさに「金融引き締め」と「財政拡大」を同時に求めるという、相矛盾した支離滅裂な批判です。

党首討論会に臨む(左から)立憲民主党の泉健太代表、自民党総裁の岸田文雄首相、公明党の山口那津男代表=21日午後、東京都千代田区

しかし、米国同様にインフレ対策が参院選の争点化するなか、日銀が利上げなどの金融引締に走れば、景気は腰折れし、株価は暴落することになるでしょう。

ただ、岸田政権としては、財政対応が不十分であるという野党の批判によって、政府・自民党はさらなる財政支出の「大義」を得たことになるともいえます。

参院選後に積極財政・金融緩和の両方を実施できるという環境が整ったともいえます。これを岸田氏がどうとらえるかはわかりませんが、いずれにせよ岸田首相が再度の財政刺激策にかじを切る可能性が高まってきました。

岸田政権にはそのようなことはできないし、できるとすれば増税だと思う人も多いようです。しかし、総理が全ての政策を決めると思っている人が多いようですが、確かに安倍総理時代には、安倍氏が自民党内の3分の2を押さえており強い総理であり、官邸主導の政治を行うことができましたが、岸田さんは第五派閥で、大企業に例えるといわばサラリーマン社長のような存在です。安倍政権と岸田政権においては、同じ自民党政権とはいっても全く体制が違うのです。

安倍元総理は、今や自民党内最大派閥の領袖ですし、麻生、安倍、茂木の主要三派が手を組んでいるので、岸田さんは逆らえないです。逆に党が政策を決定しており、総理時代よりも安倍氏は自由に動けます。

そのことを考えると、今後岸田総理が何を言おうと、基本的には政府日銀連合軍方式で、政府が国債を大量発行し、日銀がそれを買い取るという形で、大型の景気対策を実施したり、防衛費を増大したりすることでしょう。

16日仙台市内で講演する安倍総理

自民党の安倍晋三元首相は17日、「日本銀行が行う金融緩和政策は当然続けないといけない。米国のように金融を引き締めれば景気がガンと悪くなる。日銀の黒田東彦(はるひこ)総裁がやっていることは間違いない」と強調し、大規模な金融緩和の継続を訴えました。仙台市内で講演しました。

安倍氏は昨今の物価高について、ウクライナ情勢などに起因するとの認識を示し、「日本が本来目指す物価高とは違う。景気が良くなって、需要が増え、モノの値段が上がって、給料が上がる中で、値段が上がっていく状況ではない」と説明。その上で「(秋に予定される)臨時国会を迎えた時には思い切った財政政策、金融政策をやっていくべき。金利が低い状況では、財政政策は基本的に大きな効果を上げていく」と語りました。

自民が参院選公約で国内総生産(GDP)比2%以上を念頭に防衛費を増やす方針を明記したことについては「国家意志を示している」と強調。中国がこの30年で軍事費を約40倍に増強したことに言及し、「軍事バランスを、よりバランスの取れた状況に変えていくことが大切だ。ウクライナはロシアと軍事バランスがとれていなかった」と指摘しました。

自衛隊の厳しい運用状況を巡り「機関銃の弾からミサイル防衛のミサイルまで圧倒的に足りない。飛行機の部品を確保するために、なんとか使える飛行機をバラバラにして、他の戦闘機の部品にしていく、いわゆる『共食い』をやっています。こんなことは止めないといけない」と内実を明かしながら、防衛予算を増額すべき理由を説明しました。

防衛費をGDP比で考える理由については「それぞれの国の経済力、実力に見合った防衛努力をしていこうということだ。攻められたとき、努力していない国のため、手を差し伸べる国は世界中どこにもない」と述べました。

これだけ、自民党内最大派閥の領袖安倍氏が語っているわけですから、大企業のサラリーマン社長のような岸田総理が、これまた大企業の財務部長のような財務省のいうことだけを聴いて安倍氏に逆らうようなことはとてもできないでしょう。

そうなれば、安倍派等からそっぽを向かれて、まともな国会運営もできなくなってしまうでしょう。これは、財務省からそっぽを向かれるよりも大変なことです。

秋に予定される臨時国会において、岸田総理は財務省の必死の抵抗にあってもなお、大型補正予算案を出さざるを得なくなるでしょう。

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2022年6月20日月曜日

トランプの対中関税で続くインフレ圧力―【私の論評】内需超大国米国こそTPPに加入しメリットを享受すべき(゚д゚)!

トランプの対中関税で続くインフレ圧力

岡崎研究所

 米国では、8%を超えるインフレを受けて、政権内外で、トランプが2018年に導入した対中制裁関税(3000億ドル超の産品に掛けている)を引き下げるよう求める声が高まっているようだ。ワシントン・ポスト紙の5月30日付け社説‘It’s time for Biden to lift Trump’s China tariffs’は、米国内のインフレ抑圧のためにバイデンはトランプの対中制裁関税を撤廃する時だ、と主張する。正論だ。


 トランプの関税は、米中貿易関係を改善したというよりも、米国の消費者、生産者双方にコストを掛けることになった。競争力のない一部の米企業とその労働者は保護から利益を得たかもしれないが、経済的に理屈に合わない政策であったことは最初から分かっていた。それが4年も続いている。

 バイデンもトランプ関税を批判してきたが、それをそのままにしてきた。それではトランプと同じ政策になる。制裁関税の撤廃は中国と取引し、もっと早く撤廃すべきだった。ピーターソン国際経済問題研究所の試算によれば、対中制裁関税の撤廃はインフレを直ちに0.3%下げ、潜在的には向こう1年で1%以上インフレを下げる効果があるという。

 しかし、撤廃の議論はなかなか動いていない。米通商代表部(USTR)は5月3日、対中制裁関税を見直す作業を始めると発表した。イエレン財務長官などがインフレ抑圧のために当該関税撤廃を求めている。

 それでも、政権内部の意見は割れている。タイ通商代表、ビルサック農務長官、国家安全保障会議(NSC)のサリバン等は撤廃に反対、他方イエレン、ライモンド商務長官などは産業界、消費者の利益を考え、撤廃に賛成の主張をしていると言われる。

中間選挙でも争点となる可能性

 バイデンは、5月31日付けのウォール・ストリート・ジャーナルへの寄稿‘My Plan for Fighting Inflation’でも関税撤廃には触れていない。撤廃すれば中間選挙でトランプ勢力に攻撃材料を与えることになることを恐れているのだろう。秋の中間選挙に向けて、経済は大きなイシューになる様相が強まっている。

 バイデン政権は難しい立場に追い込まれている。バイデンは政権の経済閣僚等のインフレ対策に不満を募らせているという。

 上記ワシントン・ポスト社説は、「中国は未だ公正な貿易をしていない。主要産業への補助金等中国政府の反競争的政策は、知財保護になっておらず、更に悪いことに外国企業の市場参入を難しくしている。中国を変化させる最善の方法は、米の対中依存を下げるために他の国々との貿易連携を強化することだ」と指摘したうえで、環太平洋経済連携協定(TPP)を高く評価、先般バイデンが発表したIPEFは内容が乏しくTPP加盟の代替にはならないと言う。

 こんなに多くのところで支持されているTPPにつきバイデンが動こうとしないのは、理屈が分からない。もっと果敢に動くことが望まれる。

【私の論評】内需超大国米国こそTPPに加入しメリットを享受すべき(゚д゚)!

米国は東南アジア諸国連合(ASEAN)との特別首脳会議を通じ、アジアとの経済関係を強化するため近く発表する「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」を説明して引き込みを狙っていました。しかし米国が自国の市場開放に消極的なため魅力が薄いと判断する国も多く、10カ国のうちIPEFに当初から加入するのはシンガポールとフィリピンのみの見通しでした。共同声明もIPEFに言及しませんでした。


米国は、日本など11カ国による環太平洋連携協定(TPP)から脱退し、代わりにインド太平洋地域で経済的な関係を強める枠組みとしてIPEFを提唱。今回の首脳会議に合わせて訪米した各国の閣僚らに、米通商代表部(USTR)のタイ代表と商務省のレモンド長官が説明しました。

IPEF以前もこのブログで述べたように、「貿易」「供給網」「インフラ、脱炭素」「税、反汚職」の四本柱ですが、ルール整備が主体とみられ、経済連携協定で一般的な関税の引き下げは想定していません。米国が自国の産業や雇用の保護を優先して市場開放に消極的なためで、各国にとっては米国への輸出を増やすという実利は薄いです。

アジア地域ではTPPや、日中韓など15カ国による地域的な包括的経済連携(RCEP)が既に発効しており、9割以上の品目の関税撤廃で合意済みです。各国にとっては輸入が増えて国内産業が厳しい競争にさらされるリスクがある一方、海外に輸出を増やすチャンスもあります。

このため、ASEAN各国には、IPEFへの期待よりもRCEPなどの活用を優先する動きが広がっています。

米国はバイデン大統領の訪日に合わせてIPEFを公表しましたが、既に貿易活発化や幅広い取引ルールを定めた協定がある中、米国主導の枠組みがどこまで割り込めるかは未知数です。


世の中にはいろいろな芸人がいるが、中でもTPP芸人という興味深いカテゴリーがあります。かつて、民主党政権時代に「TPPは亡国の協定」とか、「国民皆保険がなくなる」とか、「日本の農業が壊滅する!」とか、面白いことを言って拍手喝さいを受けた芸人たちです。

安倍政権が誕生し、2013年にTPPへの参加を表明すると、この芸人たちは「表明した瞬間にすべてはアメリカの思い通り決まっている!」などと言っていました。この時はファンたちと大いに盛り上がったものですが、それも今となってはなつかしい楽しい思い出です。残念ながら一発芸人の命は短いです。TPP芸人バブルは完全に弾けてしまいました。

もちろん、日本の国益を守るためにTPPについて警戒すべき点があったことは事実だ。ISD条項やラチェット条項が本来とは違う意味でつかわれたりしたらこれは一大事です。

ISD条項とは事後的な法律の変更などにより、対外投資が水泡に帰した場合、その賠償を請求できる権利を明記した条です。1989年に日本は支那と投資協定を結んだのですが、そこにもISD条項は入っています。支那のように法律をコロコロ変える国と取引する場合は必須の条項です。

米国にもこの種の芸人たちは存在するのでしょうか。本当に困ったものです。関税撤廃や削減をを軸とした自由貿易協定への米国内での強いアレルギーがあるのは間違いないようですが、それにしても、関税の撤廃・削減はマイナス面だけではなく、米国も域内でそのような恩恵を得られるということを米国TPP 芸人たちは忘れているのでしょうか。

そうして、もう一ついえることは、米国の産業が貿易で成り立っているわけではないことを、米国のTPP芸人たちは理解していないのかもしれません。

輸出はGDPを押し上げ、輸入は逆にGDPを押し下げる要素であるが、それぞれ、日本では実質GDP全体のうち、輸出が約17%、輸入が約15%を占めています。

米国は、この比率はさらに低いです。この意味するところは、日米ともに輸出や輸入がGDPに占める割合は他国から比較すれば、かなり低く、両国とも内需大国なのです。世の中では、貿易が強い国が、良い国であるような認識がありますが、それは逆の側面からみると、外国の景気に左右されやすいということです。内需大国の日米はそうではないのです。


内需大国は、外需大国よりは、貿易によって影響を受ける度合いは低いです。カリフォルニア州の経済は、世界の国と比較しても第5位に相当する大きな規模です。 2017年時点での州内総生産額(GDP) は約2兆7460億ドルであり、アメリカ合衆国のGDPの13%に相当します。ウクライナのGDPは四国と同じくらいです。東京と韓国も同じくらいです。

米国は日本よりもさらに内需大国です。このような国が、たとえ貿易で関税を撤廃したり、削減したりしても、さぼと大きな影響を受けることはありません。もし受けるようなことがあれば、何らかの保護政策をしつつ、転換をはかるようなことは十分にできます。であれば、なぜ米国が TPPに加入しないのか、理解に苦しみます。

加入したほうが、米国にとってメリットが大きいですし、米国は、早急にTPP に復帰して、中国との「地政学的戦い」に本格的に挑むべきです。

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