2023年4月10日月曜日

中国の属国と化すロシア 「戦後」も依存は続くのか―【私の論評】西側諸国は、中露はかつての中ソ国境紛争のように互いに争う可能性もあることを念頭におくべき(゚д゚)!

中国の属国と化すロシア 「戦後」も依存は続くのか

岡崎研究所

 アレクサンドル・ガブエフ(米カーネギー国際平和財団ロシア・ユーラシアセンター所長)が、3月18日付の英エコノミスト誌に、「ロシアの中国依存はプーチン後も続く」と題する寄稿をし、ロシアの中国の属国化時代を予想している。
 習近平が3月20日に国賓としてロシアを訪問する。ロシアは両国間の対等性を示そうとするだろうが、広がる両国間の力の差は隠せないだろう。

 プーチンは、ウクライナ攻撃を米国支配への反乱、ロシアの完全な主権への跳躍にしようとしている。しかし現実は異なる。開戦後13カ月、ロシアは、経済的にも外交的にも中国にますます依存している。2022年、ロシアの輸出の30%、輸入の40%を中国が占めた。ロシアのドル・ユーロへのアクセスが西側制裁下にあるので、この貿易の大きな割合が中国元で決済されている。西側がロシアの天然資源への依存を低める中、この依存は今後も増大する。

 今のところ、中国はロシアへの経済梃子を強めることで満足しているが、今後中国は政治的譲歩をより多く求めるだろう。中国はロシアに機微な軍事技術を共有することを求めうるし、北極海や中央アジアでの中国の存在感は高まるだろう。

 ウクライナ戦争によって、中国は3つの理由で、ロシアの最も影響力のあるパートナーになっている。第1に、中国のロシア商品の購入増大はプーチンの戦時財政を満たしている。第2に、中国はロシアの兵器の部品や工業機械への半導体の代替不可能な源泉である。

 最後に、ロシアは、米国の世界的敵対者である中国を助けることがバイデン政権のウクライナ支援に復讐する最も良い方法であると考えている。これが機微な軍事技術の共有やその他中国の軍事力を助けることがもはやタブーではないように見える理由である。

 ロシアにとっての悲劇は、プーチンが政治から引退した後でさえ、中国の「大君主」に従属する巨大なユーラシア独裁制が生き残るという事である。数年後、西側はロシアに経済的に依存することをやめ、代わりに、中国はロシアの輸出の大半を受け入れ、ロシアの金融は中国の通貨である元に釘付けられよう。

 西側との結びつきを再建し、この中国の支配から這い出るためには、ロシアは戦争犯罪人についての責任追及、賠償、併合した領土の返還についてのウクライナの要求を満たさなければならない。これはプーチン後でも、ほぼあり得ないシナリオである。ロシアの中国への属国化が予見可能で、利益も多いように見える。

*    *    *

 このエコノミスト誌の論説は、カーネギー国際平和財団ロシア・ユーラシアセンターのガブエフ所長が書いたものであるが、ガブエフはロシアの事情に精通し、かつ中国のユーラシア政策にも詳しい人である。

 ガブエフは、ロシアが今後中国の属国になるだろうと予見している。ウクライナ戦争を受けての情勢の発展の中で、ロシアの中国属国化は、大いにありうる事態である。ガブエフは、プーチンが退場した後も、たとえロシアが民主化した場合にも、ロシアの中国属国化は続くと見ている。

 ガブエフが言うような情勢が出てくる蓋然性は大きいと考えられるが、そのような情勢は極めて望ましくないとも考えられる。特に、プーチン退場後に民主化した場合にも、ロシアは中国の属国であり続けるとのガブエフの判断には大きな疑問がある。

 情勢判断においては、希望的観測は排除すべきであるが、ウクライナ戦争後の情勢の進展によっては、ロシアの民主化や欧米諸国との関係改善の可能性もあると考えられる。その理由は、ウクライナ戦争は平和協定ではなく休戦協定でいつか終わるが、ウクライナが国家として生き残ることは休戦ラインがどこになるかにかかわらず、今の時点で明らかであると思われるからである。
繁栄する「兄弟」を見た時、ロシア人は何を思うか

 おそらく、生き残ったウクライナは、欧州連合(EU)に加盟することになるだろう。ウクライナは人権が尊重され、法の支配がある民主国家になり、その経済は奇跡的に回復する可能性さえある。EUで1人当たりの国民所得が最も低い国はブルガリアであるが、ウクライナの一人当たり国民所得は戦争前でブルガリアの半分であった。EU 諸国への出稼ぎだけでも経済の高度成長はできるだろう。

 ロシア人とウクライナ人はプーチンが言うような一つの民族ではないが、よく似た兄弟民族である。民主化し繫栄するウクライナを目の当たりにすれば、ロシア人が何故われわれは自由でもなく、貧しいままなのかと疑問を持っても不思議ではない。ここにロシアが民主化するきっかけがある。

 それに中国のジュニア・パートナーでいることに誇り高いロシア人が甘んじるとは考え難い。ロシアの歴史を巨視的にみると、欧化論者とスラブ主義者が政権交代してきたように見える。

 ガブエフの論は、そうなる蓋然性が高いとは思うが、ロシアの今後には別の発展もありうると考えて、政策展開を考えていく必要があるだろう。

【私の論評】西側諸国は、中露はかつての中ソ国境紛争のように互いに争う可能性もあることを念頭におくべき(゚д゚)!

これと似たようなことは、前から言われていました。このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国の属国へと陥りつつあるロシア―【私の論評】ロシアの中国に対する憤怒のマグマは蓄積される一方であり、いずれ、中国に向かって大きく噴出する(゚д゚)!
この記事は2019年8月22日のものです。まだコロナ禍が始まるまえであり、ロシアの脅威はいわれていたものの、ウクライナに本格的に侵攻するとは考えらていない時期のものです。

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。

同年(2018年)10月24日付の露経済紙「コメルサント」によると、ここ最近、中国系銀行がロシア側との取引を中止したり、口座開設を認めなかったりする事例が相次いでいるといいます。

国際的な対露制裁の対象外の企業や個人も例外ではないといい、同紙は「中国側はどの企業が制裁対象なのか精査していない。その結果、全てをブロックしている」と指摘しました。「この問題は今年6月の首脳会談以降、両国間で議論されてきたにもかかわらず、中国側は『是正する』というだけで、実際は何もしていない」と不満をあらわにしました。

同年同月26日付の露リベラル紙ノーバヤ・ガゼータも「中国はロシアの友人のように振る舞っているが、実際は自分の利益しか眼中にない」と批判。「中国の経済成長の鈍化が進めば、中国政府は国民の不満をそらし、自らの正当性を確保するため、攻撃的な外交政策に乗り出す可能性がある。例えばシベリアや極東地域の“占領”などだ」と警戒感を示しました。

実際、露極東地域には、隣接する中国東北部からの中国企業の進出や労働者の出稼ぎが相次いでいます。極東に住むロシア人の人口は今後、減少していくと予想されており、同紙の懸念は「いずれ極東地域は中国の支配下に置かれるのではないか」というロシア側の根強い不安があらわれたものといえます。

同年同月29日付の露有力紙「独立新聞」もこうした中国脅威論を取り上げました。同紙は「ユーラシア経済連合と一帯一路との連携に基づく計画は、実際には何一つ実現していない」と指摘し、「中国によるロシアへの直接投資は、カザフスタンへの投資よりさえも少ない」と指摘しました。

経済発展が著しいウズベキスタンやカザフスタンなどの中央アジア諸国について、ロシアは旧ソ連の元構成国として「裏庭」だとみなしています。しかし、一帯一路も中央アジアを不可欠な要素と位置付けています。

地政学的に重要な中央アジアでの影響力を確保するため、ロシアと中国は、この地域への投資や技術供与、軍事協力の表明合戦を繰り広げており、表向きの双方の友好姿勢とは裏腹に、現実は協調とはほど遠いのが実情です。

このように、中露の友好関係は一時的なみせかけに過ぎないものであり、米国による対中国冷戦が長く続き、中国の力が削がれた場合、中露対立が激化することは必至です。そうして、その状況はしばらくは変わらないでしょう。

現状は、国力特に経済の開きがあまりにも大きすぎるため、さらにロシアは人口密度の低い極東において直接中国と国境を直接接しているという特殊事情もあるため、ロシアが中国に従属しているように見えるだけです。

しかし、プーチンは強いロシアを目指しており、文在寅のように自ら中国に従属しようなどという考えは毛頭ありません。

その実、ロシアの中国に対する憤怒のマグマは蓄積される一方です。これはいずれ、中国に向かって大きく噴出します。

その時こそが、日本の北方領土交渉を有利に進められる絶好のタイミングなのです。また、米国が最終的に中国を追い詰めるタイミングでもあるのです。

このように、中露がパートナーの域を超えて、本格的に同盟関係になることは考えにくいです。それは、コロナ禍を経て、ロシアがウクライナに侵攻した現在でも変わりは、ありません。

なぜ、そのようなことを言えるのとかといえば、最近習近平がロシアを訪問しましたが、その後のロシアの態度をみていればわかります。

ロシアを訪問した中国の習近平国家主席とプーチン大統領は先月21日、モスクワで首脳会談終了後、共同声明を発表しました。その中の第7項に、すべての核保有国は「核兵器を自国領土の外に配備すべきではないし、外国に配備された核兵器は撤収しなければならない」とありました。

2022年2月4日、北京冬季五輪の開会式に出席したロシアのプーチン大統領。居眠りしたとされる。

1年前、プーチン大統領は、北京冬季五輪の開会式に出席しましたが、五輪直後にウクライナ侵攻をしました。これで中国の習近平の面子は大きく傷つけられたはずですか、またしても中露共同声明後、わずか1週間でそれをほごにするようなベラルーシ核配備をプーチン大統領はは宣言しました。これで、習近平はまたしても面子を潰されました。

ベラルーシは、ロシアの隣国であり、これでロシアから核を発射しようがベラルーシから発射しようがあまり変わりありません。

これは、ロシアはウクライナに手を焼いているので、ベラルーシを使ってウクライナや、これを支援する西側諸国などを恫喝しているように見えます。

ただ、これだけ面子を傷つけられても、習近平としては、プーチンを責めたり、ロシアを制裁するようなことは、なかなかできません。


なぜでしょうか。ロシアは国際法を破って独立国を侵略した無法者です。中国が普通の法治国家であればロシアを非難していたでしょう。しかしプーチン氏が負ければロシアは民主化する可能性があります。中国にとってそうなっては困るので、プーチン氏にしっかりネジを締めに行ったといいうのが本当のところでしょう。

そうして、それに対するプーチンの答えは、習近平の思惑を見透かした上で、先程示したように、「ベラルーシへの核配備」宣言でした。

プーチンとしては、習近平などにネジを巻かれるつもりもないし、自らが失脚などした場合、ロシアが民主化され、窮地に追い込まれるのは、習近平の方だと、釘を刺したのでしょう。

こうした、両国の関係をみていると、とても同盟関係に入ることなど考えられません。同盟関係に入るということは、ロシア側からすれば、自ら中国の属国になるようなものです。プーチンや習近平のような独裁者は、自国が他国を属国にしてきたという歴史から、属国になることが何を意味するのか十分理解していると考えられます。

プーチンは、それは断じて避けるつもりなのでしょう。しかしながら、ロシアが民主化されれば、窮地にいたるのは中国であり、それを避けるためには、過去のロシアに対する支援を継続するようにと釘を刺したのです。

ただ、この試みが成功するかどうかは、わかりません。何しろ、プーチンは、ウクライナに対して、侵攻するとみせかけ、ゼレンスキー政権をウクライナから追い出し、ウクライナにロシアの傀儡政権もしくは、新ロシア政権をつくり、ウクライナを西側諸国に対するロシアの盾もしくは、緩衝地帯にしようと目論んだつもりなのですが、その目論見は現状では大失敗をし、全く意味をなしていません。

プーチンは、対中国政策でも、失敗する可能性があります。ただ、我々西側諸国としては、中露を同盟国のように考えるのではなく、場合によっては、かつての中ソ国境紛争のように互いに争う可能性もあることを念頭においておくべきです。

特に、中国が経済的に相対的に衰え、ロシアと拮抗するようなことにでもなれば、その可能性は高くなるとみるべきでしょう。

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