2023年4月21日金曜日

フォンデアライエンが語ったEUの中国リスク回避政策―【私の論評】中国が人権無視、貿易ルール無視、技術の剽窃等をやめない限り、日米欧の対抗策は継続される(゚д゚)!

フォンデアライエンが語ったEUの中国リスク回避政策

岡崎研究所

欧州委員会のフォンデアライエン委員長

 3月31日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)で、同紙グローバルチャイナ・エディターのジェイムズ・キングが、欧州連合(EU)のフォンデアライエン委員長の対中ディリスキング(リスク低減)政策が一層強硬になっていると、同氏の3月30日の講演について論評している。

 EU委員長のフォンデアライエンは、3月30日、ベルギーの首都ブリュッセルで、悪化する対中関係の現状について講演した。EUが欧州最大の貿易相手国である中国と同国の対ロシア枢軸に対する姿勢を強硬にしていることが明らかになった。

 2021年にEUは、新疆人権侵害容疑で中国官憲4人に対して制裁を発動したが、中国は4の欧州機関と10の個人に対抗措置を取った。

 フォンデアライエンは、講演冒頭に、中国のロシア支持とともに習近平個人に対する批判をした。彼女は「ウクライナに対する残虐で、不法な侵略に距離を置くどころか、習近平はプーチンとの『無限の』友情を維持した」と述べた。

 フォンデアライエンは、主としてハイテク分野について EUの対中関係をディリスキングすべきだと述べた。それは米国のデカップリング(分断)政策とはレトリック上は一線を画する。

 EUのディリスキング政策とは、機微な技術について軍事使用が断絶されない場合やそれが人権問題に関係する場合には、その貿易を規制することを意味する。またEU 委員会は、相手国の軍事力を向上させる可能性のある機微な技術につき欧州企業の対外投資を審査する制度の導入を検討してきた。

 彼女は、中国との包括投資協定(CAI、未批准で2021年に凍結)につき「再評価」せねばならないと述べた。この講演をEUの対中関係の大変曲点となるものだと見る者もいる。

*    *    *

 フォンデアライエンEU委員長は、3月30日、ブリュッセルで対中関係について講演した。

 EUが現実的な対中観を持つことは、歓迎される。10年遅すぎた感もする。2013年に中国がアジアインフラ投資銀行(AIIB)を提唱した頃、問題は既に明らかになりつつあったが、欧州は雪崩を打つように経済機会を求めて中国に向かった。日本は、中国について、欧州との対話を一層強化することが重要である。

 フォンデアライエンEU委員長の演説は、極めて厳しい。訪中(4月4~7日)に悪影響を与えるのではないかと思うほどだ。堰を切るように中国のウクライナにかかわるロシアとの連携や習近平の権力集中、中国の振る舞いなどを批判した。

 フォンデアライエンは、「中国の考えと行動」を問題視する。何とか中国の世界観と振る舞いをもう少し変えねばならない。必要なのは、まず中国の協調的な振る舞いと世界観である。しかし、それは共産党支配とイデオロギーに突き当たる。それでも世界は、競争と協力でうまく管理していかねばならない。

 問題は、国家権力と結びついた経済、西側から合法、非合法で入手する技術の軍事力転用、増大した軍事力による高圧外交などである。西側の善意を利用して発展してきた中国は、今や独善的な大国化の道を歩んでいる。

 EUの対中ディリスキング政策は、外交術としては巧妙だ。米国のデカップリング政策とは違うものだと中国に言い得る余地を残している。既に中国のEU大使は、講演は一貫性がないと言いつつも、この政策は評価している。
米国と日欧の分離を図る中国

 林外相が3月1~2日に訪中した。秦剛(外相)、李強(首相)、王毅(国務委員)と会談した。秦剛とは会食を含めて4時間会談した。異例な厚い対応のように見える。中国は辛抱強かったようにも見える。対話、関与は良いことだ。「それなりの『厚遇』」の理由につき、日本経済新聞の中沢克二編集委員は、中国経済の不振にあるとする。確かにそうだろう。

 しかし中国には、もうひとつ重要な意図があるのではないか。中国は、日欧を米国から引き離し、米国を孤立させる戦略に出ているのかもしれない。ドイツのショルツ首相、スペインのサンチェス首相、林外相の後、フランスのマクロン大統領とフォンンデアライエンも訪中した。しかしバイデン大統領が求めている会談はその後も動いていない。

 今、中国は日米欧の連携を最も厄介に思っている。3月2日、王毅は、林外相に「日本の一部の勢力が米国の誤った対中政策にわざと追随している」と述べた。日欧は、分断されないように対米関係を強固にすると共に、対中対話を進めていくべきだ。日欧の対中レバレッジは今増えているかもしれない。

【私の論評】中国が人権無視、貿易ルール無視、技術の剽窃等をやめない限り、日米欧の対抗策は継続される(゚д゚)!

フランスのマクロン大統領は5日、中国を訪問しました。6日には欧州連合(EU)のフォン・デル・ライエン(上の記事では、フォンデアラインとしていますが、以降はより実際の発音と表記に近いフォン・デル・ライエンと表記します)欧州委員長とともに習近平(シーチンピン)国家主席と会談し、ロシアによるウクライナ侵攻の終結に向けて協力を求めました。

このブログにも掲載したように、マクロン氏は訪中した際に仏紙レゼコーとポリティコとのインタビューに応じ「最悪の事態は、この(台湾を巡る)話題でわれわれ欧州が追随者となり、米国のリズムや中国の過剰反応に合わせなければならないと考えることだ」と述べ、かなり批判を受けていました。


一方、フォン・デル・ライエン欧州委員長は習近平に対して厳しい態度で臨んだようです。

中国を訪問した欧州連合(EU)のフォン・デル・ライエン欧州委員長は6日、北京で習近平(シー・ジンピン)国家主席と会談し、台湾問題を巡り応酬しました。フォン・デル・ライエン氏は会談後に記者会見し「一方的な力による現状変更はすべきではない」と述べました。台湾に圧力を強める中国をけん制しました。

同氏は「台湾海峡の安定が何より重要だ。平和と現状維持が我々の明確な関心事だ」と語った。「緊張が生じた場合は対話を通じて解決するのが重要だ」とも話し、武力行使の可能性を放棄しない中国にクギを刺しました。

中国外務省の発表によると、習氏は会談で「台湾問題は中国の核心的利益の核心だ」と強調しました。台湾が中国の一部だという「一つの中国」原則に関し「言いがかりをつけるなら中国政府と中国人民は絶対に許さない」と言明しました。

「中国が台湾問題で妥協すると期待するのは妄想にすぎない。他人を傷つけようとした結果、自分自身を傷つけることになる」とも話しました。

フォン・デル・ライエン氏は会談で一つの中国政策について「EUは変更する意図はない」と説明しました。「中華人民共和国政府が中国全体を代表する唯一の合法的な政府として認め、台湾海峡が平和と安定を維持することを望む」と発言しました。

フォン・デル・ライエン氏は記者会見で習氏と人権問題に関しても話し合ったと明かしました。「中国の人権状況の悪化について深い懸念」を伝えました。記者会見では強制労働の問題などが指摘される新疆ウイグル自治区を「特に懸念する」と述べ「この問題に関して議論を続けるのが大事だ」と提起しました。

米国の中国とのデカップリング政策とEUのフォン・デル・ライエン委員長の中国リスク回避政策は、米国とEUがそれぞれ中国との関係に対してとった異なるアプローチです。両者には共通点がある一方で、顕著な相違点もあります。

焦点 :米国の脱中国政策は、国家安全保障、知的財産の盗難、不公正な貿易慣行に対する懸念から、中国との経済的相互依存を減らすことに主眼を置いています。重要な技術や市場への中国のアクセスを制限し、中国からの投資を制限し、中国へのサプライチェーンの依存度を下げることを目的としています。

一方、EU委員会のフォン・デル・ライエン委員長の「中国のリスク軽減」政策は、市場アクセス、投資審査、欧州の戦略的利益の保護といった問題を含め、経済・技術大国としての中国の台頭に伴うリスクの軽減に主眼を置いています。

範囲: 米国の中国からの切り離し政策は、より広範囲で、貿易、技術、金融、国家安全保障など、さまざまな分野を包含しています。中国の企業や個人を対象とした関税、輸出規制、投資制限、制裁などの措置が含まれます。

一方、EU委員会のフォン・デル・ライエン委員長の対中デリスク政策は、主に経済・貿易関連の問題に焦点を当て、関税や輸出規制といった措置は含まれていません。

アプローチ: 米国の中国とのデカップリング政策は、競争と封じ込めに重点を置き、中国に対してより対決的なアプローチをとっています。貿易紛争、技術輸出規制、中国企業を対象とした制裁など、一連の一方的な行動によって特徴づけられています。

一方、EU委員会のフォン・デル・ライエン委員長の「脱中国」政策は、より協力的なアプローチで、中国との関わりを模索しながら、対話、交渉、多国間メカニズムを通じて市場アクセス、投資審査、知的財産保護に関する懸念に対処しています。

協調: 米国の中国とのデカップリング政策は、米国政府主導によるところが大きく、他国や国際機関との連携は限定的です。

これに対し、EUのフォン・デル・ライエン委員長の対中デリスク政策は、欧州委員会がEU加盟国と協調して策定・実施しており、EUブロックとしてのより統一的なアプローチを反映しています。

目的: 米国のデカップリング政策とEUのフォン・デル・ライエン委員長の対中リスク政策は、ともに中国の台頭に伴うリスクを管理することを目的としていますが、その根本的な目的は異なっています。

米国のデカップリング政策は、主に米国の国家安全保障と経済的利益の保護に重点を置いておいますが、EUのフォン・デル・ライエン委員長の対中デリスク政策は、欧州の経済的利益を保護すること、中国との公平な競争環境を確保することを目的としています。


このような違いはあるものの、米国とEUはともに中国の経済慣行、知的財産権保護、市場アクセス問題に対する懸念を共有し、それらに対処するための措置を講じています。しかし、それぞれの優先順位、利益、地政学的な考慮に基づいて、アプローチや戦略は異なっています。

中国における人権問題について、経済とはあまり関係ないと考える人もいるようですが、私はそうではないと考えています。中国における人権問題と経済との相関を示唆する証拠がいくつかあります、それを以下に掲載します。

労働者の権利: 中国は、劣悪な労働環境、低賃金、長時間労働、結社の自由の欠如、労働組合の制限など、その労働権慣行に対する批判に直面しています。こうした労働権の問題は、労働不安やストライキ、生産の中断につながり、中国で活動する企業の安定性や生産性に影響を及ぼす可能性があるため、経済にも影響を及ぼします。

中国内で、ウィグル人などを強制労働させ、しかも先進国から技術を剽窃してできた低価格でできた製品などを中国が他国に輸出することになれば、労働者の権利を守る国においては、価格競争が不利になり、本来労働者が得られる賃金が得られなくなるばかりか、解雇されることもあり得ます。

知的財産権(IPR): 知的財産権の保護は、経済成長の不可欠な原動力である技術革新と技術移転にとって極めて重要です。中国は、強制的な技術移転、知的財産の盗難、偽造などの問題を含め、知的財産権に関する法律の施行が緩いという批判を受けています。このことは、外国投資の抑止、技術移転の妨げ、イノベーションの阻害につながり、長期的には中国経済のみならず世界経済に悪影響を及ぼす可能性があります。

ビジネス環境: 中国のビジネス環境は、汚職、透明性の欠如、一貫性のない法律の施行などの問題を含み、中国で活動する外国企業によって懸念事項として挙げられています。これらの問題は不確実性を生み、リスクを増大させ、事業運営に影響を与え、中国への外国投資や経済成長に影響を与える可能性があります。

世界的な評価: 言論・報道・集会の自由の制限、少数民族や宗教の迫害、市民権・政治権の侵害などの問題を含む中国の人権記録は、中国のグローバルな評価に影響を与える可能性があります。中国の人権慣行に対する否定的な認識は、風評リスク、ボイコット、制裁、および貿易、投資、観光の減少などの経済的反響につながり、中国経済に経済的影響を与える可能性があります。

国際関係: 人権に関する懸念は、中国の他国との外交関係にも影響を与える可能性があります。一部の国や国際機関は、人権問題を中国との二国間関係の要因として取り上げ、人権問題に基づいて制裁や貿易制限などの行動をとっています。こうした外交的緊張は、中国と他国との貿易、投資、経済協力に影響を及ぼし、経済的な影響を与える可能性があります。

全体として、人権問題と経済との関係は直接的ではないかもしれないですが、人権問題が労働権、知的財産権、ビジネス環境、世界的評価、国際関係など様々な形で世界経済に影響を与えることを示唆する証拠が存在します。人権問題に対処することは、経済成長、投資、国際協力のための良好な環境づくりに貢献することができます。

上の記事では、中国は日欧を米国から引き離し、米国を孤立させる戦略に出ているのかもしれないとありますが、米国と日欧には中国に対して譲れない点があります。
  • 不公正な貿易慣行、知的財産の窃盗、市場アクセスの障壁など、中国の経済慣行に対する懸念
  • 中国の技術進歩、技術移転、知的財産保護に対する懸念
  • 人権に関する懸念
  • 南シナ海における中国の主張的な行動、サイバー諜報活動、軍事的近代化に関する懸念など、戦略的・安全保障的な脅威
などです。

これらの懸念が解消されない限り、いくら中国が米国と日欧を離反させようと画策したとしてもできないでしょう。もはや現状では、いくつかの国に対して、中国が工作活動を執拗に行ってきたことが、明るみででており、これは多かれ少なかれすべての先進国においてなされていると喝破され効力を失いつつあります。

日本でも、岸田総理の習近平がロシアを訪問中の、キーフ電撃訪問以来、親・媚中派の大物議員たちの影響力は減少しつつあります。

両者は、対話、首脳会談、協議、多国間関与を通じて、中国に関連する懸念に対処するための調整と協力を続けていくことでしょう。

共通の課題がある限り、これに対処し、共通の基盤を見出すために、さまざまな形で多国間フォーラムや外交チャンネルを通じて中国に関与し続けるでしょう。


日米蘭は、先端半導体の台中輸出規制を発動しました。特にこの中で、半導体製造装置に関しては、日米蘭をあわせると世界で、95%ものシェアを占めています。日米蘭は、技術者も引きあげさせています。これで、中国では先端半導体の製造はできなくなりました。

中国が人権問題を解決しない、貿易ルールを守らない、技術の剽窃をやめない限り、このような多国間による試みがさまざまな形でこれからも継続されるでしょう。

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