表向きの口実は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、トルコが、米国との核共有という考え方で、核兵器を配備していることと同じだとしている。NATOの核共有と同様に、ロシアやベラルーシが加入する核拡散防止条約(NPT)にも反しないとしている。
1994年のブダペスト覚書では、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンがNPTに加盟したことで、米国、英国、ロシアがこの3カ国の安全を保障するとした。その結果、3カ国の核兵器はロシアに移転した。
ところが、ロシアはこれを踏みにじってウクライナに侵攻し、核で脅した。それでも足りずに、今後はベラルーシに核を戻して(形式的には核はロシアのもの)、ロシアとベラルーシの両国でウクライナを脅すというおぞましい光景になっている。
NPTに反しないというロシアの言い分は怪しい。NATOの核共有では保有国の軍の管理が必須だが、ベラルーシがどこまで管理できるのか疑問だ。
それだけではない。ロシアを訪問した中国の習近平国家主席とプーチン大統領は21日、モスクワで首脳会談終了後、共同声明を発表した。その中の第7項に、すべての核保有国は「核兵器を自国領土の外に配備すべきではないし、外国に配備された核兵器は撤収しなければならない」とある。
1年前、プーチン大統領は、北京冬季五輪の開会式に出席したが、五輪直後にウクライナ侵攻をした。これで中国のメンツは傷つけられたはずだが、またしても中露共同声明後、わずか1週間でそれをほごとするようなことをプーチン大統領は行った。はたして中国はどのような対応をするのだろうか。
ここは冷静に考えてみよう。ロシアによるベラルーシへの戦術核配備といっても、配備しなくても、ロシアは自国内から発射できるので、戦力バランスを大きく変更するものではない。
ロシアはウクライナに手を焼いているようなので、ベラルーシを使って恫喝(どうかつ)しているように見える。ベラルーシとしても、ロシアの手下のままでは居心地がいいはずはない。欧州連合(EU)のボレル外交安全保障上級代表は、配備されればベラルーシに新たな制裁を科す可能性に言及した。この方向は正しい選択だ。
さらに、中国に対して、メンツを失ったままでいいのかという圧力をかけるべきだ。例えば、中露首脳会談で提示された「和平」は「ニセの和平」であることが、岸田文雄首相のウクライナ訪問で世界に明らかになったので、日本としてもその点をついて「ホンモノの和平」であるロシアの即時撤退をさらに強力に主張するのがいい。中露共同声明を1週間でほごにするプーチン大統領が評価するような「和平」ではダメだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)
中国政府は、林外務大臣が来月1日から2日間の日程で中国を訪問すると正式に発表しました。
中国外務省は31日、「秦剛外相の招きに応じて日本の林外務大臣が来月1日から2日の日程で中国を訪問する」と発表しました。
秦剛外相との会談については、「両国の関係に加え、ともに関心を持つ国際問題や地域問題について深く意見交換する」と説明しました。
また、外相会談とは別に林大臣が「中国の指導者」と面会することも明らかにしていて、外交トップの王毅氏などと会う可能性があります。
ただ、この報道はかなり誤解を招きやすいです。そもそも、泰剛氏は日本でいうところの外相ではありません。外相といえば、日本では閣僚であり、外交トップです。
泰剛氏は、第12代外交部長ではありますが、中国において外交部長はそもそも幹部ではありません。日本でいえば、外務省の部長といっても良いほどの位置づけです。
中国で幹部といえば、中国共産党中央政治局常務委員会の7人のメンバーです。王毅氏も現在外交トップではありますが、この7人のメンバーには入っていません。現状では、序列24位です。
この7人の誰かと林外務大臣が会談できれば、中国は林氏を重要視しているとみても差し支えないと考えられますが、秦剛氏との会談だけであれば、全く重要視されていないとみて良いでしょう。
王毅氏と会談できても、中国は林氏を重要視はしていないとみて良いです。
中国共産党が重要視をしていない林氏が、幹部でもない秦剛氏、王毅氏に対して「ホンモノの和平」を主張してみたところで、それはほとんど意味を持ちません。
林芳正外相は秦剛国務委員と会談し、東・南シナ海での中国の軍事的覇権拡大への懸念を伝えるとともに、中国当局に拘束された大手製薬会社「アステラス製薬」の中国現地法人幹部の早期解放を求める方針のようです。日本政府は、外相の訪中直前、先端半導体分野の23品目について、輸出規制強化策を公表しました。中国の「名指し」は避けましたが、これは明らかに米国と事実上歩調を合わせた対中牽制です。「中国とは多くの課題や懸案がある。主張すべきは主張し、建設的かつ安定的な日中関係構築に向け、突っ込んだ意見交換をする」
林氏は3月31日の記者会見で、こう語りました。
秦氏とは2日に会談する予定で、中国外交担当トップ(日本閣僚クラスではない)の王毅共産党政治局員との会談も調整しています。3月に就任した李強首相に、日本の閣僚として初めて面会するかも焦点です。
中国で拘束されたアステラス製薬幹部の早期解放を要求するほか、ロシアのウクライナ侵攻をめぐって責任ある行動を求める。沖縄県・尖閣諸島を含む、東シナ海情勢も議論する見通しです。
「政界屈指の親中派」とされる林氏だけに、中国が仕掛ける「罠」を警戒する声があるなか、経産省は3月31日、「半導体装置の輸出管理強化」を発表しました。
岸田文雄首相は27日午前の参院本会議で林芳正外相の訪中について「中国側から改めて招待があったところであり、引き続き具体的な時期を調整する」と述べました。日中関係については「主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めつつ、諸懸案を含めて対話をしっかりと重ねる」とした上で「共通の課題は協力する、建設的で安定的な関係を構築する」と強調しました。
岸田首相は、習近平訪露中のキーウ電撃訪問でも「ホンモノの和平」を主張しましたが、「ホンモノの和平」であるロシアの即時撤退をさらに強力に主張するでしょう。そうして、その晴れ舞台は広島G7サミットになることでしょう。
G7サミット・広島開催、中露に忠告する絶好の場所 日清戦争の「軍事拠点」「臨時首都」岸田首相、スピーチすれば歴史に残る!?―【私の論評】岸田首相は、令和の後白河法皇になるか(゚д゚)!
林氏と岸田氏同じ出身派閥(宏池会)であり、岸田氏は総理大臣になってからも、この派閥を抜けていません。岸田氏も林氏も宏池会の中では、有力な政治家であり、岸田氏としては、林氏を入閣させて、側においておくことで、派閥内での勢力拡大を抑止しているものとみられます。これも、一つの「策士」ぶりの発露なのだと思います。
これは、林氏への「位打ち」といえると思います。最近岸田首相は、この位打ちさらなる策士ぶりを発揮しています。それは、林外務大臣に対する位打ちともみられるやり方です。
位打ちとは、昔から日本で用いられてきた手法で、時の権力者が、敵対する新興勢力を自滅させるために、その人物にふさわしくない位階を次々と与えることによって、人格的な平衡感覚を失わせ、自滅させていく手法です。
岸田首相は、林外務大臣がG20に出席しないことを決めたときには、本来尻を叩いてでも無理にでもいかせるべきだったと思われるのですが、意図的にそうはしなかったのでしょう。これによって、林外相の評判は、自民党内外で地に落ちました。もし、岸田首相が何をさておいても行くべきだと諭していれば、林外務大臣はG20に出席したと思われます。
岸田首相は、この直後に習近平が訪露中に、キーウを電撃訪問しました。一方林外務大臣はこのときに、クック諸島を訪問していました。この一連の出来事で、中露首脳会談は霞んだとともに、国内では林外務大臣の外交も霞んでしまいました。
もともと、林外務大臣は保守派議員からは親中派として嫌われていましたが、一連の出来事で、他の議員からも外務大臣としての能力も本格的に疑問視されるようになったと思います。
今回の林大臣中国訪問は、もし本人が辞退すれば、岸田首相もそれを追認したと思います。この時期にそのような判断ができれば、外務大臣として位負けしていなかったという評価もされたかもしれません。
しかし、あくまで親中派の林外務大臣は、中国を訪問することを決定し、岸田首相はそれを追認したのでしょう。
まさに、ここが林芳正氏に対する岸田首相の位打ちが、功を奏する所以ともいえます。現状では、林氏が中国を訪問したとしても、成果があげられる見込みはほとんどありません。
それどころか、中国の方から無理難題を押し付けられ、マイナスになることも十分予想されます。
一方、岸田首相は林外務大臣が、中国を訪問しても、成果はプラスマイナス0もしくは、若干のマイナスになるだろうと見込んでいると思います。
たとえ若干のマイナスになったとしても、G7広島サミットで、それは十分に取り返せると見込んでいるのだと思います。
中国に対して、ここぞとばかり、G7の国々も巻き込んで、メンツを失ったままでいいのかという圧力をかけ「ホンモノの和平」であるロシアの即時撤退をさらに強力に主張するに違いありません。
これで、岸田首相は林芳正氏への位打ちの最終ステージに一気に近づき、これによって、林氏の総理大臣の芽は積まれてしまうことでしょう。一方、岸田首相はG7における外交で、支持率をあげ、さらに国際的な評価も高めることに成功するでしょう。
場合よっては、この勢いに乗って、解散総選挙をするかもしれません。そうなったとして、林氏への位打ちについては、選挙後の組閣でどうなったか見えてくるでしょう。
そもそも、入閣しなければ、林氏は宏池会の中でも、力を失ったとみるべきです。外務大臣ではないものの、何らかの形で入閣すれば、外務大臣としてはその能力が疑われることになっても、まだ宏池会の中での勢力は衰えていないとみるべきでしょう。そうして、岸田首相の林氏への位打ちは継続されるとみるべきでしょう。
以上からもおわかりいただけると思いますが、岸田氏は一般に思われている以上に、策士の面があります。物腰の柔らかさなどから、「お公家様」とも揶揄されていた岸田氏ですが、後白河法皇のように、武力のなかった公家には公家の戦い方がありました。岸田氏には、岸田氏なりの戦い方があるのです。そうして、極端なことや法に触れることがなければ、政治においてはどのような戦い方も許容されるべきと思います。
岸田氏が、財務省が岸田政権の安定長期化に障害になると気がつけば、林芳正氏に対する位打ちのような、誰も思いつかないような妙策で緊縮財政や増税に走る財務省の力を削ぐ挙にでるかもしれません。
しかし林芳正氏への位打ちを兼ねた岸田首相の一連の外交は、それだけが主目的ではなかったものの、安倍元首相の逝去にともないう日本の外交の停滞のおそれを見事に払拭させてくれました。これは、日本にとって良いことです。
同じく、もし岸田総理が自らの政権の安定長期化を目指すために、財務省の力を削ぐ挙にでれば、それも日本にとって良いことです。
ただ、一つ忘れてはならないのは、権謀術数だけで、他のことを顧みなければ足元をすくわれ場合もあるということです。
とくに、国民経済は重要です。経済その中で特に雇用が悪くなれば、国民の不満は一気に高まります。第一次安倍政権以降、民主党政権も含めてすべての政権短期政権になったのは、まともな経済対策が打てずに、雇用や経済が悪くなったからです、それを正した、特に雇用を劇的に改善した、第二次安倍政権が第一次、第二次通算で、憲政史上最長の政権になったことを忘れるべきではありません。
それを忘れれば、岸田首相も足元をすくわれることになるでしょう。
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