2023年4月11日火曜日

台湾巡る仏大統領の発言、中国に配慮し過ぎ 欧米議員批判―【私の論評】岸田首相のG7広島サミットでの大きな役割の一つは、仏を日米豪のアジア太平洋戦略に巻き込むこと(゚д゚)!

 台湾巡る仏大統領の発言、中国に配慮し過ぎ 欧米議員批判

中国を訪問したマクロン仏大統領

 マクロン仏大統領は仏紙とのインタビューで、欧州は台湾を巡る対立を激化させることに関心がなく、米中両政府から独立した「第3の極」になるべきだと述べた。これを受けて、中国に配慮し過ぎた発言だとして欧米各国の議員から批判が出た。

 マクロン氏は先週訪中した際に仏紙レゼコーとポリティコとのインタビューに応じ「最悪の事態は、この(台湾を巡る)話題でわれわれ欧州が追随者となり、米国のリズムや中国の過剰反応に合わせなければならないと考えることだ」と述べた。

 ドイツ連邦議会外務委員会のレトゲン議員はツイッターに、マクロン氏は「中国訪問を習近平氏のPRクーデターと欧州の外交政策の惨状に変えることに成功した」と指摘。仏大統領は「欧州で一段と孤立している」と批判した。

 米上院のルビオ議員(共和党)もツイッター投稿動画で、もし欧州が「台湾を巡り米国と中国のどちら側にもつかないのであれば、われわれも(ウクライナに関して)どちらの味方もすべきでない」と指摘した。

【私の論評】岸田首相のG7広島サミットでの大きな役割の一つは、仏を日米豪のアジア太平洋戦略に巻き込むこと(゚д゚)!

昨年11月4日には、ドイツのショルツ首相が中国を訪れ、共産党のトップとして異例の3期目に入った習近平国家主席と会談しました。フランスのマクロン大統領と欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長が今月5日、中国を訪問しました。


米国が中国に経済の「デカップリング(分断)」を仕掛けているのとは対照的に、欧州は首脳が相次ぎ「中国詣で」をし、「デリスキング(リスク低減)」の姿勢で臨んでいるようです。その背後には、EUは中国からレアアースを98%輸入しているという事情が絡んでいるようです。

米国としては欧州とともに中国の体制に対抗していこうという思いがあるのですが、米国識者のなかには、もともと「ヨーロッパは無責任だ」という態度を取る人もいます。

たとえば、トランプ政権で官僚を務めたエルブリッジ・コルビー氏は、「欧州は台湾有事があっても支えないということがわかった。欧州は頼りにならない。台湾有事においては日本とオーストラリアだけが頼りだ」とツイートしていました。

日米豪としては、「台湾有事に関して国際的な協力が得られないかもしれない」ことがわかったという意味では、ショックな出来事です。ただ、フランスの伝統からすれば米国とは別の対立軸をつくって我々がリードしたい、という思惑があるのだろうと思います。

もともとフランスはNATOからやや距離を取っており、1966年にNATOを脱退して、2009年NATOに復帰した経緯があります。

最近では、オーストラリアがフランスから購入することになっていた原子力潜水艦の契約を反故にし、イギリスに鞍替えして、米国が主導する米英豪AUKUS(オーカス)結成により、未だに「アングロサクソン系ファイブアイズの塊」で動こうとすることに対するフランスの怒りがあります。

さらに、昨年12月米国訪問時にマクロンは、米国のインフレ抑制法や国内半導体業界支援法は<米国経済に非常に有利だが、欧州諸国との適切な協調はなかった>として「米国の公平な競争の欠如」を批判しています。

しかし、フランスはこの南太平洋に海外県、海外地域圏、海外共同体を擁し 、その総人口は165万人です。フランスの排他的経済水域の93%がインド洋と太平洋に位置します。加えて、インド太平洋地域諸国の在留フランス人は約15万人を数え、進出しているフランス企業の子会社は7,000社を超えるほか、8,300人のフランス軍が駐留しています。

マクロン大統領は2018年5月2日、ガーデン・アイランド海軍基地(オーストラリア、シドニー)で行った演説でフランスのインド太平洋戦略を概説し、法の支配およびあらゆる形態の覇権の拒否に基づく、包摂的な安定化アプローチの促進に意欲を示しました。さらに2019年10月23日にサン=ドニで行った「チューズ・ラ・レユニオン」サミットの閉会演説の中で、フランスのインド太平洋戦略では海外県・地域圏および海外自治体(DROM-COM)と、その地域統合に重点が置かれていることも強調しました。

フランス軍事省は2019年、インド太平洋におけるフランス防衛戦略を採択しました。この戦略は海外駐留部隊(海外領土・外国)の行動強化、大量破壊兵器等の拡散防止への積極的な貢献、地域機関とパートナーの強化への尽力、東南アジアのパートナーの戦略的自律性の強化、環境安全保障予測政策への貢献を目的とします。

フランスにとって、インド太平洋の概念は重みを増し、フランスは自由で開かれた包摂的なインド太平洋地域を維持するという目標のもと、とりわけインド、オーストラリア、日本、さらにASEANをはじめとする主要なパートナーと共通のビジョンを共有しています。EUもこの概念を採用し、独自の戦略を備えるべく作業を進めています。

日米豪などのインド太平洋戦略に関して、必ずフランスは関与すると考えられます。これについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
フランス国防費、3割以上増額へ…中国念頭に南太平洋の海軍力も強化―【私の論評】米中の争いは台湾から南太平洋に移り、フランスもこれに参戦(゚д゚)!
1月20日、仏南西部の空軍基地でドローンを見学するマクロン仏大統領(手前左)

これは1月22日の記事です。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の元記事から引用します。
 フランスのマクロン大統領は20日、仏南西部モン・ド・マルサンの空軍基地で演説し、2024~30年の7年間で計4000億ユーロ(約55兆5000億円)を国防費に充てる方針を示した。19~25年の2950億ユーロ(約41兆円)と比べて、3割以上の増額となる。

 マクロン氏は演説で国防費増額の背景について、ロシアによるウクライナ侵略などを挙げ、「危機に見合ったものとなる。軍を変革する」と述べた。

 情報収集活動予算を6割増額するほか、核抑止力の強化や無人機(ドローン)の開発促進などに充てる。中国の海洋進出を念頭に、領土がある南太平洋の海軍力も強化する。
この軍事費増大の背景には何があるのか、この記事【私の論評】から引用します。
中国の台湾侵攻は、現実にはかなり難しいです。実際、最近米国でシミレーションシした結果では、中国は台湾に侵攻できないという結果になっています。中国の報復によって、日本と日本にある米軍基地などは甚大な被害を受けますが、それでも中国は台湾に侵攻できないという結果になっています。そうして、無論中国海軍も壊滅的な打撃を受けることになります。

であれば、中国としては、台湾侵攻はいずれ実施するということで、まずは南太平洋の島嶼国をなるべく味方に引き入れるという現実的な路線を歩もうとするでしょう。これによって台湾と断交する国をなるべく増やし、台湾を世界で孤立させるとともに、これら島嶼国のいずれかに、中国海軍基地を建設するなどして、この地域での覇権を拡大しようとするでしょう。

南太平洋の島嶼国といっても、ニューカレドニアは仏領であり続けることを選びましたし、そもそも一人あたりのGDPは34,942ドルであり仏本国を若干下回る程度です。ただ、南太平洋の島嶼国のほとんどは一万ドルを下回る貧困国です。

現代的な軍隊を持った、台湾や日本、韓国、NATO加盟国などの領海近くを中国の空母が通ったにしても、それに対する対艦ミサイル、魚雷など対抗手段は十分にあるので、これを警戒はするものの、大きな脅威とはなりませんが、南太平洋の島嶼国は、貧乏で小さな国が多く、これは大きな脅威になります。

そのときに、日米豪などだけでもこれに対処はできるでしょうが、これに南太平洋に海軍基地を持つフランスもこれに対処できれば、それこそ百人力になります。

これを日米豪はもとより、世界の多くの国々が歓迎しました。ところが、 今回のマクロン大統領の中国は訪問はそれと矛盾する行為と言わざるを得ません。

マクロンは、対中国政策を一体どうするつもりなのか、この矛盾をどう解消するつもりなのか、国際会議の場でフランスは詰められていくのではないでしょうか。 

岸田首相は今年に入ってから矢継ぎ早に外交で成果をあげています。特に、G7で岸田さんがマクロンの煮えきらない姿勢に対して何を言うか気になります。 ぜひ徹底的に詰めていただきたいものです。

今年5月に広島で開催されるG7サミットには、ゼレンスキー大統領を招待しましたが、オンラインで参加することになったことが話題になっています。これは、春から戦闘が激化すると予見して、訪日を断ったと考えられます。

フランスは先にも述べたように、NATOからやや距離を取っていたこともあり、米国とは異なる独自路線を取りたがる傾向があります。しかし、対中国ということでは、フランスも南太平洋に領土を持っており、中国への脅威ということでは、日米豪と利害が一致しています。フランスは日米豪と協同したほうが単独で中国に対峙するより遥かに有利です。

広島G7で米国のバイデン大統領が、フランスのマクロン大統領に直接これに関したことを言えば、話がかえって拗れる可能性が高いです。ここは、議長国の岸田総理の出番だと思います。

かつてのインド太平洋戦略においては、安倍元総理はこれを構想するととも提言し、米国と多くの国々を仲介しました。当時安倍総理がいなければ、米国が「インド太平洋戦略」を採用したり、同地域の多くの国々を巻き込んだりすることはできなかったかもしれません。

閣議を前に言葉を交わす安倍晋三首相(左)と岸田文雄外相(肩書はいずれも当時)=首相官邸で2017年5月12日午前8時32分

岸田首相は、こうした安倍氏のような役割を担って、G7広島サミットでフランスが、インド太平洋戦略で貢献するように促していただきたいものです。それが、ドイツや他のEU諸国に対しても、これを巻き込むことにつながります。

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