2023年11月9日木曜日

中国覇権が進む中、南太平洋へ重い腰を上げた米国―【私の論評】経済減速でリスクテイクを強める習近平、南太平洋への軍事進出の可能性(゚д゚)!

中国覇権が進む中、南太平洋へ重い腰を上げた米国

岡崎研究所

まとめ
  • 米政権は長らく南太平洋諸島国に無関心だったが、中国の南太平洋での活動が増加し、米国はこ最近の地域への関与を強化している。
  • 中国の南太平洋への経済投資や支援が増加しており、南太平洋諸国は中国との地域安全保障協定には消極的で、米国の関与を望んでいる。
  • 南太平洋諸国の主要な関心事は地球規模の気候変動への対処であり、米国の気候変動対策の支援が重要視されている。
  • 中国の海洋進出に対抗するため、日本は南太平洋への関与をさらに強化する必要がある。


 この記事は、中国との競争において、どの国や地域も無視できないとし、南太平洋諸国へのアメリカの関与が地域全体の安定にとって不可欠であることを強調しています。

 2023年10月17日のワシントン・ポストの社説によれば、米政権は長らく南太平洋諸島国に対して無関心だったが、中国の南太平洋での活動が増加し、その地域への米国の関与が強化されていると指摘している。米国は中国との競争において南太平洋諸国を無視すべきでない。

 米国はマーシャル諸島と軍事協定を締結し、クック諸島とニウエとの外交関係を確立した。また、ソロモン諸島とトンガに大使館を開設する計画も進行中だ。

 南太平洋諸島国への米国の関与が急増している背後には、中国の存在がある。中国はこの地域への経済投資を増加させ、新型コロナパンデミックの際にはワクチンや医療支援を提供した。ただし、南太平洋諸国は中国との地域安全保障協定には消極的で、米国の関与を望んでいるとされている。

 この地域の主要な関心事は、地球規模の気候変動への対処であり、海面上昇などの影響が既に現れている。米国のインフラ構築と気候変動対策の支援が評価されている。

 最終的に、この記事は、中国との競争において、米国や南米を含むどの国や地域も無視できないことを強調し、南太平洋諸国への米国の関与の重要性を強調している。

 南太平洋は、日本にとって重要な地域である。中国が影響力を拡大しようとしているため、日本は島国への関与を強化していく必要がある。

 日本統治時代の歴史的つながりは、島国と日本の信頼関係の基礎となっている。日本は、ODAや人的交流を通じて、島国との協力を継続していく必要がある。

 日本は、島国にODAを拡大し、気候変動対策やインフラ整備を支援している。また、島国との間で、議員派遣や青年交流などの人的交流を活発化させている。

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】経済減速でリスクテイクを強める習近平、南太平洋への軍事進出の可能性(゚д゚)!

まとめ
  • 中国の南太平洋への経済的投資は、近年伸びたものの、最近は減少している。
  • 習近平は、権力を維持するためには不安定な状況を意図的に作り出す人物であり、通常の民主国家の指導者像があてはまる人物ではない。
  • 習近平は、権力基盤を強化するため、軍や外交などの重要なポストを自分の側近で固めようとしている。
  • 中国経済の減速は、習近平のリスクテイクを抑制するのではなく促す可能性がある。
  • 習近平は、経済の低下を補う軍事力行使も辞さない可能性がある。

上の記事には、間違いとはっきりとはいえないものの、最近の状況を反映していない部分もあります。それは、「中国はこの地域への経済投資を増加させ」という部分です。

中国のこの地域の経済的投資に関して、以前このブログで以下のような内容を掲載したことがあります。
  • 中国の太平洋への援助は2008年から提供され、16年にピークに達したが、その後減少し、現在では地域全体の援助総額の9%に過ぎず、オーストラリアやアジア開発銀行に次ぐ第3位となっている。この減少の背後には、太平洋諸国が中国への負債を抱え、中国資金への関心を失ったことが影響しており、米国もこの問題を懸念している。
  • さらに、中国の海外援助の減少は太平洋地域に限らず、特に新型コロナ流行後には大規模なインフラ整備や融資計画が放棄されている。中国は「一帯一路」イニシアティブを推進したが、近年の太平洋への援助は大幅に減少しており、融資支出も減少している。
ただ、中国が南太平洋の国々に関与し始めたのは、1990年代後半からと言われています。それ以前は皆無に近かったことを考えると、現在でも比較的高いといえるかもしれませんが、直近では激減しています。

これは、最近の中国の経済の低迷も反映しているものと考えられます。現在の中国の経済状況を考えると、中国は他国に関与するのではなく、まずは自国内の問題を解決することに専念するべきであり、対外関係は支障が出ない程度の留めるべきです。そうして、多くの人が、中国もきっとそうするだろうと考えるでしょう。

無論、中国以外の国の指導者ならばそうするでしょう。しかし、中国は違うようです。たとえば、米国は、2001年に中国がWTOに加盟したことで、中国の経済が成長し、国民の生活水準が向上すると考えていました。そして、中国が豊かになれば、民主主義や人権などの価値観を共有する国に変わると信じていました。

しかし、中国はWTOに加盟して以降、経済成長を遂げましたが、政治体制や社会制度は大きく変わることはありませんでした。中国共産党は、依然として一党独裁体制を維持し、市場も開放しておらず、人権侵害や労働者の権利侵害などの問題が続いています。

そうして、習近平はこのような傾向をさらに助長し、以下のような失敗しています。

・経済政策の失敗

習近平は、中国の経済成長を加速させるために、一帯一路構想やAIなどの新興技術への投資を積極的に進めてきました。しかし、これらの政策は、多くの場合、効果が上がらず、むしろ経済的な混乱や社会問題を引き起こす結果となっています。

例えば、一帯一路構想は、中国の企業が海外のインフラ整備事業に参入することによって、中国の経済的影響力を拡大することを目的とした政策です。しかし、実際には、多くのプロジェクトが赤字に陥り、中国の経済を圧迫する結果となっています。

また、AIなどの新興技術への投資も、中国の経済成長に貢献するどころか、むしろ新たな格差や失業問題を引き起こす結果となっています。
中国のAI  AI生成画像
・外交政策の失敗
習近平は、中国の国際的地位を向上させるために、積極的な外交政策を展開してきました。しかし、これらの政策は、多くの場合、中国の孤立を招く結果となっています。

例えば、習近平は、香港や新疆ウイグル自治区などの人権問題に対する国際的な批判を無視し、強硬な姿勢を貫いています。また、台湾海峡問題や南シナ海問題などの領土問題をめぐって、周辺諸国と対立を深めています。
・内政政策の失敗
習近平は、中国の政治的安定を維持するために、強権的な政治体制を強化してきました。しかし、これらの政策は、中国の民主化の遅れや、人権の抑圧を招く結果となっています。

例えば、習近平は、共産党の権威を強化するために、政治的な反対派を弾圧しています。また、言論や表現の自由を制限し、国民の監視を強化しています。
これらの事柄を踏まえると、習近平が必ずしも優れた政治家ではない可能性は十分に考えられます。したがって先進国にみられる普通の政治家なら、絶対しないようなことを習近平ならするということは十分に考えられれます。

経済的にかなり苦しくなれば、先進国に見られる普通の政治家なら、南太平洋の島嶼国に対する関与をやめるか、低減するかして、経済を立て直し、その後にまた南太平洋への強化を開始するというように、その時々で優先順位をつけて行動すると思います。

しかし、中国の指導者、その中でも特に習近平は、そうは考えないかもしれません。経済的に苦しくなっても、南太平洋への関与は継続したい、しかし経済力をフルには使えない、であれば、軍事力を使えば良いと単純に考えるかもしれません。

もちろん軍事力といっても、最初から軍事力を行使するという意味ではありません。あくまで段階があります。すぐに、軍事力を行使ということはないでしょう。最初は、艦艇等を派遣したり、近辺で軍事演習をしたり、島嶼国に軍事基地を設置するなどのことから始めるでしょう。

普通のまともな政治家なら軍事力を使うことは、富をすぐに生み出す事はありえず、経済をさらに苦しくするだけであることを認識し、やはり国内経済の立て直しを優先するでしょう。

しかし、そもそも習近平はこのような範疇に収まるような人物ではありません。

習近平

習近平は、権力を握ってから11年間で、政治局員6人、中央委員会委員35人、将軍60人、試算によれば党員約350万人を追放しました。この反腐敗キャンペーンは、習近平の権力基盤を強化し、中国共産党の統制を強める目的で行われてきました。

元米国国家安全保障副顧問で、中国の専門家であり、対中国強硬政策の主要提唱者として知られている、ポッティンジャー氏は、この反腐敗キャンペーンについて、「激動は習近平施政の特徴で不具合ではない」と述べています。これは、習近平は、権力を維持するためには、不安定な状況を恐れないということを示しています。

また、ポッティンジャー氏は、最新の国防部長や外交部長、ロケット軍司令官などの異動について、「党を不安定な状況に置き、自分の優越性を高めようとする積極的仕掛けの一環ではないか」と主張しています。この異動は、習近平が権力基盤をさらに強化するために、軍や外交などの重要なポストを自分の側近で固めようとしていることを示しています。

さらに、ボッティンジャー氏は、「中国経済が減速していることで、習近平は、逆にリスクを冒しても、中国の国際的な地位を高めようとするかもしれない。中国は、現在米国を弱いと見ており、台湾に軍事的圧力を強めることで、米国を牽制しようとしている」との主旨のことを述べています。

そうして、このことは台湾だけではなく、南太平洋のような世界中の軍事・政治的に重要な拠点で起こりえる可能性があります。

南太平洋に進出した中国 AI生成画像

習近平はかつてないほど権力を強化し、目標達成のためには武力行使も辞さない可能性もあります。中国経済は減速しており、習近平は国民の目をそらし、権力の掌握を維持するためにリスクを冒す可能性が高まっています。

中国の外交政策はますます自己主張を強めており、南太平洋をはじめとする軍事的・政治的に重要な地域で目標を達成するために軍事力を行使する可能性もあります。 習近平と中国の行動を注意深く監視することが重要です。もし中国が攻撃的な行動に出た場合、国際社会は対応する準備を整えておかなければならないです。

習近平は期せずして、自らの権力基盤をさらに強化するためだけに「最後の一撃」を企図するかもしれません。しかし、それが実行されてしまえば、現中国の体制は崩れるかもしれませんが、最後の一撃を食らった地域は、とんでもないことになるわけで、ウクライナ、ガザだけでも昏迷を極めているのに、さらに世界は新たな懸念を抱えてしまうことになります。

米議会下院で中国特別委員会委員長のギャラガー氏は、米中の戦略的競争において長期的には米国が有利だが、10年の短期では危険な状態にあると述べています。今後10年後からは、米国が圧倒的に有利なるのは目に見えていますが、ここ10年以内は非常に危険だというのです。

この危機を回避するため日米と同盟国は、さらに結束を深め、外交・軍事的な努力を継続し、発展させるべきです。

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