2023年11月5日日曜日

日銀政策変更の「一人芝居」決定会合の内容、事前にメディアリークの疑い 物価上昇沈静化、長期金利さらなる弾力化も―【私の論評】高橋洋一氏がイールドカーブのゆがみ解消に異論(゚д゚)!

高橋洋一「日本の解き方」

まとめ
  • 日銀は長期金利の上限を柔軟化し、1%をめどとした。
  • 事前にメディアにリークされた疑いがあり、日銀は議案を提示すべきでなかった。
  • 今後は、長期金利の上昇を一定程度容認することになる。
  • 短期金利はゼロ金利政策でピン留めされているので、イールドカーブがゆがむ可能性がある。
  • 日銀は短期金利のピン留めを見直したいが、慎重にならざるを得ない。
  • 次の手は、さらなる長期金利の弾力化かもしれない。
  • 物価上昇率は今後、沈静化する方向で、金融政策変更の理由は乏しい。

日銀植田総裁

 日銀は10月30日、31日の金融政策決定会合で、長期金利の上限を「1%をめど」に柔軟化することを決めた。これは、7月に1%に厳格に抑えていた運用を変更したもので、長期金利の上昇を一定程度容認することになった。

 今回の決定は、事前にメディアにリークされていた疑いがある。事前リークが疑われる場合、日銀は議案を提示すべきでなかったが、予定通りに行われた。

 今後のスケジュールは、年内は12月、来年は1月となっており、日銀は年内にもう1回の金融政策決定会合を開くことになる。

 今回の決定により、長期金利は上昇するだろう。しかし、短期金利はゼロ金利政策でピン留めされているので上がらない。

 日銀としては短期のゼロ金利を見直したいが、変動住宅ローン金利に直接関係するので慎重にならざるを得ない。

 短期金利がそのままだと、イールドカーブがゆがむ。そうしたゆがみ是正という名目で、短期金利のピン留めであるゼロ金利を見直すというのが自然だろう。

 しかし、長短金利差が1%程度しかない中ではイールドカーブのゆがみは大したことがないので、次の手はさらなる長期金利の弾力化かもしれない。

 となると、今の政策である「10年物国債金利がゼロ%程度」が有名無実化するのではないか。となると「10年物国債金利が1%程度」など長期金利での政策変更はありえる。

 いずれにしても、物価上昇率は今後、沈静化する方向で、金融政策変更の理由は乏しい。にもかかわらず、日銀は一人芝居をしているようだ。

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】高橋洋一氏がイールドカーブのゆがみ解消に異論(゚д゚)!

まとめ
  • イールドカーブとは、国債の利回りを償還までの期間で表したグラフ。
  • イールドカーブがゆがむとは、短期債の利回りよりも長期債の利回りが低くなることを意味する。
  • イールドカーブのゆがみは、景気後退の懸念、金融緩和、インフレ率の予想などの要因で生じる。
  • 日銀は、10年物国債の利回りをゼロ%程度に抑える金融緩和政策を実施してきた。今回1%前後まで許容するとした。これを金融緩和をやめることを模索しているとも受け取れる。
  • 現状では、日銀は金融緩和政策を継続すべき。
イールドカーブとは、国債の利回りを償還までの期間で表したグラフです。通常、イールドカーブは右肩上がりの曲線を描き、短期債の利回りよりも長期債の利回りの方が高くなります。これは、長期債は短期債よりも元本が返ってくるまでの期間が長いため、投資家はより高い利回りを求めるからです。

investing.comより

イールドカーブがゆがむとは、短期債の利回りよりも長期債の利回りが低くなることを意味します。イールドカーブがゆがむ原因はいくつかありますが、主なものは以下のとおりです。
  • 景気後退の懸念:景気後退が予想されると、投資家はリスクを回避するために短期債に資金を移すため、短期債の利回りが上昇し、長期債の利回りが下がります。
  • 金融緩和:中央銀行が金融緩和を行うと、短期金利が低下します。これにより、イールドカーブが右肩下がりになり、ゆがみが生じます。
  • インフレ率の予想:インフレ率が上昇すると、投資家はインフレリスクをヘッジするために長期債に資金を移すため、長期債の利回りが上昇します。これにより、イールドカーブが右肩上がりになり、ゆがみが解消されます。
イールドカーブのゆがみは、経済や金融市場に様々な影響を及ぼします。例えば、イールドカーブがゆがむと、企業の資金調達コストが短期債と長期債で異なるため、企業の投資や雇用に影響を与える可能性があります。また、イールドカーブのゆがみは、金融市場の不安定化を招く可能性もあります。

日銀は、10年物国債の利回りをゼロ%程度に抑える金融緩和政策を実施してきました。しかし、2023年10月の金融政策決定会合で、長期金利の上限を「1%をめど」に柔軟化することを決定しました。

この決定に対して、高橋洋一氏は、以下のように主張しています。
  • イールドカーブのゆがみを解消するには、1%程度では不十分で、さらなる長期金利の弾力化が必要
  • 現在の政策である「10年物国債金利がゼロ%程度」は、イールドカーブのゆがみを解消するためには不十分で、有名無実化される可能性がある

高橋洋一氏は、物価上昇率が今後、沈静化する方向にあるため、日銀が金融緩和政策を変更する必要は乏しいと指摘しています。

金融緩和政策は、物価上昇を促進する政策です。そのため、物価上昇率が沈静化すれば、金融緩和政策を変更する必要は乏しいです。そもそも、未だ需給ギャップが埋まっていない現在、金融緩和は継続すべきなのです。

直近の需給ギャップは、2023年4~6月期で内閣府が推計した+0.4%、日銀が推計したマイナス0.07%です。内閣府の推計では、2019年7~9月期以来、15四半期(3年9か月)ぶりにプラスに転じました。日銀の推計では、13四半期連続のマイナスとなりましたが、マイナス幅は1~3月期(マイナス0.41%)から縮小しているとされています。

需給ギャップとは、潜在GDPと実際のGDPの差を言います。高橋洋一氏は、内閣府の潜在GDP計算には、問題があり常時2%ぐらい低く見積もっているとしています。そのため、時折需給ギャップがプラス2%ぐらいまでの時があります。さらに今年(2023年)の最初にGDP改定があり、需要の方の計算を少し変えて1%くらい高い状況であり、現状ではGDPギャップの計算において3%ほどプラスになっているとしています。

結論をいうと、需給ギャップは回復せず、まだ3%くらいの水準にあるとしています。

「3%」と言うとあまり多くないようにも思えますが、GDP全体だと550兆円ぐらいです。 そのため、未だに15兆円~16兆円レベルのギャップ存在します。これを埋めないと失業率が下がらない。そうすると、賃金は持続的にずっと上がらないという状況になります。

需給ギャップの推移

経済対策を実施すれば、実際に一時的にある四半期がプラスに転じる局面もでてくるでしょう。しかし、これをもって金融緩和をやめてしまうというのは乱暴な論議です。失業率の変化などをみながら、緩和を続けても失業率が低下がみられないということがはっきりしてからでも遅くはありません。それ以前に緩和をやめると、需給ギャップは是正されないままになってしまいます。そうなると賃金も上がりません。

海外由来のエネルギー・資源価格が高止まりだった時には、金融緩和は継続しながら、政府は物価高対策を行うというのがまともな経済対策のあり方です。しかし、物価が沈静化すれば、金融政策を変える必要は全くないわけです。


それに、日銀が金融緩和政策を変更すると、家計や企業にマイナスの影響を与える可能性があります。例えば、日銀が長期金利をさらに引き上げた場合、変動金利型の住宅ローンなどの金利が上昇し、家計の負担が増加する可能性があります。また、企業の資金調達コストも上昇し、投資や雇用に悪影響を与える可能性があります。

物価が落ち着いてくことを考えれば、日銀は金融緩和策を継続すべきですし、今回のように日銀は長期金利の上限を柔軟化する必要もないわけです。

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