2020年11月16日月曜日

中国、「戦争準備」本格化 制服組トップ、態勢転換に言及 台湾などの緊張にらむ―【私の論評】中国の「戦争準備」発言は国内向けの政治メッセージだが、弱みをみせてはならない(゚д゚)!

 中国、「戦争準備」本格化 制服組トップ、態勢転換に言及 台湾などの緊張にらむ



制服組トップの許其亮・中央軍事委員会副主席

 中国で先月下旬に開かれた重要会議を受け、中国軍が「戦争準備」の動きを強めている。

  制服組トップの許其亮・中央軍事委員会副主席は「能動的な戦争立案」に言及。習近平国家主席(中央軍事委員会主席)は、米国の新政権発足後も台湾や南シナ海をめぐる緊張が続くと予想し「戦って勝てる軍隊」の実現を目指しているもようだ。

  10月下旬に開かれた共産党の第19期中央委員会第5回総会(5中総会)は、軍創設100年を迎える2027年に合わせた「奮闘目標の実現」を掲げた。目標の具体的内容は明らかではないが、5中総会は「戦争に備えた訓練の全面的強化」を確認した。

  これに関連し、許氏は今月上旬に発行された5中総会の解説書で「受動的な戦争適応から能動的な戦争立案への(態勢)転換を加速する」と訴え、中国軍が積極的に戦争に関与していく方針を示唆した。

  国営新華社通信によると、陸海空軍などによる統合作戦の指揮、作戦行動などに関する軍の要綱が7日に施行された。要綱は軍の統合運用を重視する習氏の意向を反映したもので、新華社は「戦争準備の動きを強化する」と伝えた。党機関紙・人民日報系の環球時報英語版(電子版)は、今後の軍事演習では、敵国の空母による南シナ海や台湾海峡の航行阻止を想定し、海軍の潜水艦、空軍の偵察機や戦闘機、ロケット軍の対艦弾道ミサイルが動員されることになりそうだと報じた。 

 また、人工知能(AI)などの新技術を使い米軍に勝る兵器を開発するため、軍と民間企業が連携する「軍民融合」がさらに強化される見通しだ。5中総会で採択された基本方針には「軍民の結束強化」を明記。5中総会解説書は「国防工業と科学技術の管理で軍民が分離している状況が見られる」と指摘し、国家ぐるみの兵器開発体制の促進を求めた。 

中国は、米国が必ずや中国の発展を妨害すると考え、軍備増強を行ってきました。中国に対する攻撃を米国に思い止まらせるため、米国に対する抑止力を確立しようと戦略核兵器を増強し、米国の接近を阻むために、INF全廃条約によって米国が保有することができなかった戦域核兵器を開発し、海軍力を増強して海上優勢を拡大しようと行動してきました。

INF全廃条約の失効によって米国が中距離核兵器を保有すると、中距離核兵力における中国の優位は失われかねないです。そのため、中国は核戦略の見直しを迫られているとも言われ、戦略核兵器を含めて全てのレベルで米国と対等の抑止力の構築を求める可能性があります。

 中国にとって、米国の妨害を排除するのは当然のことであり、そのために東シナ海、台湾周辺海域、南シナ海における状況を変化させるのは正当なことなのです。一方の米国にとっては、中国の軍事行動が自らに対する挑戦と認識され、これを抑え込むことが正当化されます。異なる「正義」を掲げる両国間の衝突は避けられないようにも思えます。

しかし、米中両国は実際に軍事衝突する意図を持たず、あらゆる政治的手段を攻撃的に用いる「政治戦」を戦っています。政治的手段には、対象国周辺で軍事演習や哨戒を実施する等、軍事衝突に至らない軍事力の攻撃的使用も含まれます。実際に戦闘を起こさないのであるから、米中何れが優勢であるのかは各国の認識によります。

そして各国はその認識に基づいて行動します。中国は、空母機動部隊の行動拡大によって、第二列島線までの海域を中国海軍がコントロールしていると認識する可能性があります。また中国は、米国の軍事力が第一列島線まで及ばないと認識すれば、台湾に対する圧力も高めると考えられます。

西太平洋におけるパワーバランスは米中の相互作用によって決定されます。これまで同海域でプレゼンスを示してきた米海軍が、コロナ危機の影響で行動を停滞させると、中国海軍の行動が突出して目立つようになりました。

実際には中国海軍は、コロナ危機以前から、計画どおりに影響力の及ぶ地理的空間を拡大すべく、行動をエスカレートさせてきました。2008年11月に駆逐艦等4隻が沖縄本島と宮古島の間を抜けて太平洋に入って以降、中国艦隊は第一列島線を越えて活発に行動するようになり、2009年4月には呉勝利海軍司令員(当時)が海軍の遠洋訓練を常態化すると宣言しました。特に、2012年9月に中国初の空母「遼寧」を就役させてから、中国では自信を示す発言が増えています。

一方で、艦載戦闘機もその搭乗員も不足している中国空母の作戦能力は限定的です。国防費の伸び率も人民解放軍が計画どおりに軍備増強を進めるためには不足だと考えられるかもしれません。しかし、中国は目標を達成するまで、軍備増強を放棄することも行動のエスカレートを止めることもありません。

中国は3隻目の空母を建造中であり、艦載機も開発しています。また、搭乗員の不足を補うためもあって、AIを用いた自律型の偵察攻撃無人航空機(UAV)も積極的に開発しています。中国は、武器使用のための意思決定のループに人間の存在が必要だと考える欧米諸国とは異なる価値観を有しています。

軍民融合の号令の下、国防費には含まれない、民間企業のICT、AI、IoT技術開発も武器装備品開発に組込まれ、躊躇なく完全自律型兵器を配備していくと考えられます。

公表される中国の国防費の伸び率は政治的メッセージに過ぎない可能性もありますが、コロナ危機による中国経済の落ち込みを考えれば、人民解放軍が望むとおりの予算を得ることは難しいです。それでも中国は、計画どおりに軍備増強と行動拡大を進めていると示さなければならないです。

その結果、中国が軍事的にコントロールしていると認識する地理的空間においては、その認識を覆すために、米海軍はより大きな軍事的圧力をかけなければならなくなるでしょう。そうなれば、予期せぬ軍事衝突が発生する可能性も高くなります。
 
日本や米国にとって重要なことは、「力の空白」が生じたと中国が認識し、軍事行動をエスカレートさせるのを防止することです。米国と中国の差異は、信頼できる同盟国の有無です。米海軍が十分に行動できないのであれば、日本や豪州といった同盟国がその不足を補わなければならないです。対象国の認識を変えるには、行動を通して自らの意思を示すほかないのです。

【私の論評】中国の「戦争準備」発言は国内向けの政治メッセージだが、弱みをみせてはならない(゚д゚)!

中国が強硬な発言をするのは今に始まったことではありません。「武力行使は放棄しない。それは外部勢力の干渉(台湾有事の際の米軍=日米同盟の台湾支援を指す)と台湾独立分子に向けたものだ」と中国国家主席の習近平が放言し、世界の反感を買ったのは今年初めでしたが、それに先立つ昨年末、中国タカ派のスポークスマン的存在として有名な退役少々将官の羅援も、いつもながらの物騒、過激なコメントで物議を醸していました。

いわく、「中国は非対称戦で米国に反撃すればいい。我方の長所を用いて敵の短所を攻めるのだ。敵が怖がることを我方がやればいい。敵の弱い領域で我方は発展をすればいい。米国が最も恐れるのは人が死ぬこと。だから米国の空母を二隻沈めて一万人ほど死傷させればいい。それで米国は怖がるだろう」と。

羅援

羅援の他にも退役上校の戴旭など対外強硬、好戦的な発言で周辺国を脅し続ける「スポークスマン」は色々いますが(この二人は尖閣諸島問題に関し、東京空襲を訴える発言も)、今回の制服組トップの許其亮を含め、なぜ彼らはいつもそんなに勇ましいのでしょうか。本当に彼らが自信満々でいられるほど、人民解放軍は強いのでしょうか。

十年以上も前だが、当時の石原慎太郎東京都知事がワシントンでの講演で、「米国はイラクで米兵が二千人死ぬだけで大騒ぎするが、生命に対する価値観が全くない中国は憂いなしに戦争を始めることが出来る。戦渦が拡大すればするほど生命の価値にこだわる米国は勝てない」と話して話題になりました。こういう話も、羅援は参考にしているのかもしれないです。

たしかに中国では、政治的にも社会的にも、米国ほど人の生命は尊重されません。しかしそれを以って中国は勇敢(蛮勇か)で米国は臆病だとは断言できません。そもそも米軍が臆病な軍隊だと思う者は世界でどれだけいるでしょう。

それに米国は今でも戦争していて、犠牲者も出しています。最近アマゾン・プライムビデオで「Taking Chance 戦場の送り人」という映画をみました。これは、ある米軍の将官が、戦死者を家族の下に送り届ける使命を遂行する過程を淡々と描いたものです。以下にその予告編を掲載しておきます。



主演は、ケビン・ベーコンです。実話をもとにして描かれた映画です。派手さは、一切ないですが、戦争で犠牲になった兵士が、現地から家族の元に送られる様を遺体を届ける将官の目を通して描かれています。この役はケビン・ベーコンのはまり役だったと思います。かなり良い味をだしていました。

このようなことを日常的に経験している米国では、とても許其亮、羅援のような発言ができるような雰囲気ではありません。そのような発言をすれば、糾弾されるでしょう。

大東亜戦争中の日本軍の中には、米軍将兵は個人主義だから、自分達より臆病だとは感じていた人も多いようです。しかし当時の「リメンバー・パールハーバー」の合言葉に代表される米人の日本に対する復仇心、敵愾心はただごとでなく、最終的には忠烈無比の日本軍を降伏へと追いやっています。物量だけで勝ったのではなく、愛国心も旺盛だったのです。そして今や米軍は世界中が束になってかかっても倒せないほど強大になっています。

それに比べてあの頃の中国軍には、その愛国心が何より欠如していたと思います。

孫文が「砂を撒いたような民族」と称したように、中国人は伝統的に個人的利益しか念頭になく、愛国心、団結心に著しく欠けているようです。そのため国民党軍は日本軍には連戦連敗しました。いや敗れる以前に戦いを避けて逃げ回ったといったところかもしれません。そしてついには奥地に引き籠り、漁夫の利を得ようと米国が日本に勝つのをじっと待ったのです。

死ぬのを極度に恐れたといっても良いでしょう。それは当時の日本の将兵が戦地で抱いた共通認識でもありました。八路軍(共産軍)に至っては、日本軍と一度も戦ったことはありません。ひたすら国民党軍と日本軍から逃げ回っていたというのが実情です。

フィメールソルジャー 八路軍 衛生兵 1/6 アクションフィギュア


日本軍と、国民党軍が戦い国民党軍が弱ったとみると、八路軍は国民党軍と戦い、日本が戦争に負けて中国からひきあげると、国民党軍との戦いを本格化させ、最終的に戦いに勝って建国されたのが現在の中華人民共和国です。後に毛沢東は日本軍が国民党軍と戦ってくれたからこそ、我々は勝利を収めることができたと語っていたとされています。

それでは現代の解放軍はどうなのでしょうか。あのころに比べ、その民族性は変わったのでしょうか。

台湾の銘伝大学の林穎佑助教授によると、羅援らタカ派がよく見せる過激な発言は、必ずしも国際情勢に合わず、時には中国の利益にも反するものですが、ただその主要目的は国内宣伝にあるといいます。

政権の対外強硬姿勢を見せなければ、怒りを沸騰させる愛国ネットユーザーに対処できないというのです。そしてそうした怒りを、特に解放軍には向かわせたくないとの切実な思いも働いているようです。

なぜなら今の解放軍は「為人民服務」(人民のために奉仕する)の理念を忘れ、「為人民幣服務」(人民元稼ぎのため奉仕する)という腐敗堕落の状態にあるからです。それに、元々人民解放軍は他国にみられる普通の軍隊ではありません。

人民解放軍は中国共産党に属しており、人民のための軍隊ではないのです。しかも、日本でいえば商社のような存在で、様々なビジネスを実施しています。国民の間で「こんな軍隊で戦えるのか」との不信感が高まっており、それを払拭するのが狙いのようです。

つまり人民解放軍の体質も昔のままなのです。愛国心の欠落は変わっていないと見てよさそうです。かつての中国人も今日のタカ派と同様、大言壮語が大好きで、過剰な反日言動で日本人を「暴支膺懲」へと駆り出させたのですが、いざ戦いが始まれば三十六計逃げるに如かず状況に陥ってしまいました。現在の人民解放軍も国より自分の生命と財産が大切なら、やはり戦えないのではないでしょうか。

民衆にしてもやはり昔のままで「砂を撒いたような」ものでしょう。愛国教育が強化され、人々は外国への敵愾心を抱くことは学んでも、しかし国のために自ら戦いたいと願う者はどれだけいるのでしょうか。

一人っ子政策の下、子供は軟弱になりますます戦いに耐えられず、親も子供だけは戦地に送りたくない。もし戦争が始まれば、民衆の怒りは外敵より政権に向かって暴動が繰り返され、それだけで政権の危機となりかねないです。

「人が死ぬのを最も恐れる」のは米国ではなく中国なのです。これだけを考えても、中国タカ派の強硬発言に一々過敏に反応する必要はないことがわかります。

いやそれよりも、過剰な反応は禁物なのだと思います。

なぜなら向こうは、臆病ゆえに強さを誇示したがる民族です。相手が少しでもアタフタして弱さを見せると、後先考えずに突いてくる可能性が高いです。羅援も「敵が怖がることを我方がやればいい」と叫ぶのも、そうした臆病者心理の反映かもしれません。

かつて台湾の李登輝総統は「軟らかい土を深く掘る」と中国の民族性を説明しましたが、とにかく「軟らかさ」(弱さ)を見せないことが肝要です。

本日は、上のニュース以外にも驚くべきニュースが舞い込んでいます。

河野克俊前統合幕僚長は16日、東京都内で講演し、旧民主党の野田佳彦政権を念頭に、尖閣諸島(沖縄県石垣市)の周辺海域に中国海軍の艦艇が接近した場合は「海上自衛隊の護衛艦は『相手を刺激しないように見えないところにいろ』と(官邸に)いわれた」と明かしました。野田政権が平成24年9月に尖閣諸島を国有化した当時、日中の緊張関係が高まっており、中国側に配慮した措置とみられます。

中国軍の艦艇は通常、中国海警局の巡視船が尖閣周辺を航行する際、尖閣から約90キロ北東の北緯27度線の北側海域に展開します。これに対して、海自の護衛艦は不測の事態に備え、27度線の南側で中国軍艦艇を警戒監視しています。

河野氏は「安倍晋三政権では『何をやっているのか。とにかく見えるところまで出せ』といわれ、方針転換しました。今ではマンツーマンでついている」と語りました。自民党の長島昭久衆院議員のパーティーで明かしました。

これでは、中国側にわざわざ弱みをみせるようなものです。どうせ尖閣諸島付近の海域に行っても、日本は中国との紛争になることを恐れて軍艦を出してこないから、何をやっても自由だと解釈するに違いありません。だからこそ、最近でも中国の艦艇による傍若無人な行動が繰り返されるのです。

日本としても、守勢にまわっていだけではなく、中国側に一度底知れない恐怖を味あわせたほうが良いと思います。そうして、日本はそれを十分にできます。

たとえば、中国は日本の潜水艦を哨戒する能力がありませんから、潜水艦からいきなり何かを発射するようなデモンストレーションをして。中国艦艇をパニックに追い込むなどの手もあります。破壊を伴うものではなくても良いですから、中国が探知できない潜水艦がこの水域にもいて、中国の艦艇に標準をあわせていることを周知させるような内容のものが良いと思います。

ただし、中国海軍はそれを自覚しているからこそ、傍若無人な振る舞いをしても、尖閣を占領しようとしません。よって今でも、中国海軍は本来なら今年中に第二列島線を傘下に収めるはずなのに、尖閣諸島を含む第一列島線すら中国の傘下におさめていません。

なぜかといえば、尖閣を占領しても、中国側が探知できない日本の潜水艦が尖閣諸島を包囲してしまえば、中国側の艦艇や航空機はことごとく破壊されてしまい、補給ができずに、尖閣の上陸部隊がお手上げになってしまうのが見えているからです。日本の潜水艦隊の創設は間違いなく安全保障にも功を奏していると思います。

許其亮の今回の「戦争準備」発言も、国内向けの「政治メッセージ」と見たほうが良いでしょう。ただし、これに対して弱みをみせてはいけません。そうすれば、かつて尖閣で日本の護衛船を中国艦艇から見えない位置に後退させた後に中国軍の傍若無人な振る舞いを助長させたようなことが再び起こることになります。

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2020年11月15日日曜日

RCEP、91%関税撤廃 世界最大の自由貿易圏に―中韓と初の協定・15カ国署名―【私の論評】ASEAN諸国の取り込みを巡って、日中の静かな戦いが始まった(゚д゚)!

 RCEP、91%関税撤廃 世界最大の自由貿易圏に―中韓と初の協定・15カ国署名


 日本と中国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国など15カ国は15日、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉に合意、署名した。世界経済・貿易の3割を占める最大規模の自由貿易圏が誕生する。工業製品を中心に全体の関税撤廃率は91%に上る。日本はRCEPでアジアの広い地域に自由貿易を拡大し、経済成長の足掛かりとする考えだ。

 日本にとっては、中韓両国と初めて結ぶ経済連携協定(EPA)となる。貿易額で見ると、中国は最大、韓国は第3位の相手国。また、ASEAN各国には日本の自動車メーカーなどが多数進出しており、完成車や部品の関税がアジア広域で撤廃・削減されれば企業の国際展開に追い風となりそうだ。協定が発効すれば日本の貿易額に占めるEPA締結国の割合は8割弱となり、主要国で最高水準となる。

 RCEP15カ国の首脳は15日昼すぎからテレビ会議形式の会合を開き、日本からは菅義偉首相が参加。会合後に公表した共同首脳声明で「世界の貿易および投資ルールの理想的な枠組みへと向かう重要な一歩」とRCEPの意義を強調した。

 RCEPは、自動車をはじめ工業製品や農産品の関税撤廃、電子商取引、知的財産権の保護ルールといった幅広い分野にわたる。日本が「聖域」とするコメ、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖の農産品重要5項目は関税削減の対象から除外された。

【私の論評】ASEAN諸国の取り込みを巡って、日中の静かな戦いが始まった(゚д゚)!

上の記事は、JIJI.comのものですが、単にRCEPが合意されたことのみを伝えています。これが、中国や日本にとってどのような意味を持っているのか、何も報道していません。これは、時事に限らず、日本の殆どのメディアがそうです。

実はRCEPの同意は、日中のASEAN諸国の取り込みを巡っての、武器は使わないものの、本格的な戦いが始まったと言っても過言ではありません。

この戦いの趨勢いかんでは、ASEANは韓国とともに中国に取り込まれてしまうことになります。

RCEPは2012年に協議を始めましたが、その中でASEANの10カ国をどのように取り込むかは、日本にとっても中国にとっても大きな問題でした。菅首相が、初めての外遊先をベトナムとインドネシアにしたのは、ASEANのうち、日本に近い国を固める意図がありました。ちなみに菅首相の外遊の前、中国の王毅外相が、カンボジア、マレーシア、ラオス、シンガポールを訪問していました。

日本はASEAN諸国を取り込む際、韓国、オーストリア、ニュージーランド、インドにも声を掛け、民主主義の価値観を中心に据えました。一方、中国は、ASEAN諸国のほか韓国だけを取り込みました。

その結果、ASEANプラス6(日本、中国、韓国、オーストリア、ニュージーランド、インド)という今の形で、RCEPが形成されました。

RCEP加盟国


RCEPは成長著しいASEAN諸国を含んでいるので、日本や中国にとっても重要な経済圏です。しかも、世界最大の経済貿易圏となります。

ここで経済連携という場合、物品貿易、サービス貿易の自由化にとどまらず、投資の自由化や知的財産権の保護などが含まれます。

一方、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)では、それらに加えて国有企業改革や資本の自由化もあり、共産党一党独裁の中国は国家体制を変更せざるを得なくなるので、参加できません。参加するとすれば、現体制を崩す、すなわち中国共産党一党独裁体制を廃止しなければできません。


今回のRCEPは経済連携とはいうものの、物品貿易やサービス貿易の自由化(FTA)に限りなく近いものです。この意味で、体制変更が必要ないため中国も加入することができます。

インドはRCEP参加国のうち、1割のGDPと4割の人口を占めます。ただし、インドは、貿易赤字などの国内事情から、中国産品の国内流入を懸念したのため、スタート時点からの参加を見合わせます。

その場合、インドの離脱は参加国の中で、中国の存在感が相対的に増すことを意味するので、インドが将来的に参加しやすい道を残す必要があります。そこで、インドがほぼ無条件で即時加入できると規定した特別文書を採択しました。

 東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定に署名する梶山弘志経済産業相(右)。
 左は菅義偉首相=15日午後、首相官邸


米国も、トランプ政権で結んだ日米貿易協定があるので、直ちにではないですが、いずれの政権になっても、いずれTPPへの加盟という流れも考えられます。実際トランプ大統領もTPPへの復帰の可能性を表明したことがあます。その場合、RCEPをTPPタイプの経済連携に持っていく方が日本の国益になるでしょう。

一方、中国はRCEPを現状で維持しつつ、ASEAN諸国の取り込みを図るとみられます。

RCEPがスタート後、どちらの方向に向かうのか、次のステージが気になるところです。ただ、日本もインドもRCEP参加しないとなると、ASEAN諸国はすぐにでも、中国に取り込まれることになります。そうして、中国、ASEAN諸国、韓国の強力な経済圏ができあがることになります。これらの国々でますます中国の覇権が強まることになります。

これは、日本としても避けたいので、敢えてRCEPに参加し、中韓に対抗しASEAN諸国を日本のルール(自由主義圏で通用するルール)で取り込み、いずれは米国もASEAN諸国もTPPに取り込む方向に持っていくべきです。

中国としては、RCEPに日本が入ることでより大きな貿易協定となりますし、歓迎なのですが、その日本がRCEPをよりTPPに近づけようとと目論んでおり、頭の痛いところです。これは、ASEAN諸国の取り込みをめぐる武器を使わない日中の静かな戦争のはじまりです。

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2020年11月14日土曜日

社民党、ついに国会議員1人に 14日に臨時党大会 立民に合流容認で岐路―【私の論評】政治もメディアも、まずは現実的にならなければ生きていけない(゚д゚)!

 社民党、ついに国会議員1人に 14日に臨時党大会 立民に合流容認で岐路

 
 臨時党大会で立憲民主党合流希望者の離党を容認する議案を賛成多数で可決し、頑張ろう
 三唱をする社民党の福島瑞穂党首(中央)ら=14日午後、東京都千代田区


 社民党は14日、東京都内で臨時党大会を開き、希望する国会議員や地方組織が立憲民主党へ合流することを認める議案を諮る。福島瑞穂党首を除く国会議員が離党し、党は事実上分裂する見通しだ。「55年体制」の一翼を担った社会党の流れをくむ社民党は、大きな岐路に立たされる。

 「これまでの意見集約を踏まえ、一定の社民党の党内民意を踏まえた議案になったと考えている。なんとか臨時党大会で円満に決着して可決されるように、ギリギリまで全力を挙げる」

 社民党の吉田忠智幹事長は12日の記者会見で、臨時党大会への思いをこう語った。

 議案は、社民党の存続と立民への合流を「いずれも理解し合う」ことを諮るものだ。可決されれば、党所属の4人の国会議員のうち、社民党に残るのは福島氏のみとみられている。福島氏は11日の記者会見で「元気に新生社民党をたくさんの人と目指していきたい」と語った。

 社民党は昨年12月、旧立憲民主党の枝野幸男代表からの呼びかけを踏まえ、合流に向けた議論を始めた。ただ、地方組織を中心に反発が強かったため、今年2月の党大会での判断は見送り、今秋に改めて結論を出すことにしていた。

 当初、吉田氏は臨時党大会に向け解党による立民への合流の是非を問う議案を起草する意向だった。だが、社民党の機関紙「社会新報」によれば、10月9日の全国幹事長会議で「党の解体は断固反対。臨時党大会はやるべきではない」「日米同盟が基軸という政党と一緒にできない」といった反対論が続出。数の上では、賛成論を上回った。

【私の論評】政治もメディアも、まずは現実的にならなければ生きていけない(゚д゚)!

社民党は本日、立憲民主党が呼び掛けた合流への対応を話し合う臨時党大会を東京都内で開き、合流希望者の離党を容認する議案を賛成多数で可決しました。福島瑞穂党首は残留する考えを示しており、社民党の分裂は確実となりました。週明けにも行う立憲との党首会談で結果を伝えた後、両党は円滑な移籍に向けた調整を進めます。


朝日新聞もいずれ社民党と同じような運命をたどるのではないでしょうか。社民党がそうであるように、「観念的」です。例えば、日本の安保・防衛を論ずる際も、国際政治、東アジアの現状から出発するのではなく、憲法9条の規定をまず持ち出。憲法が国を守ってくれるはずもないのだが、彼らは前文のこの規定を持ち出します。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。
彼らはこれを信じて疑わない「空想的平和主義者」、あるいは「空想的社会主義者」のようです。現実感、リアリティが欠落しています。

政治の世界で「左」、「右」という言葉が意味を持たなくなってから久しいです。現実には随分前から、「左」と「右」との対峙ではなく、「夢想家」と「現実主義者」との対決という対立軸に変わっていたのです。

歴代の政権の良し悪しはまた別の話として「夢想家」よりは「現実主義者」のほうがましです。ただ、いっとき「夢想家」が優勢となり、「民主党政権」というルーピーな政党ができあがりましたが、一時の徒花にすぎないことがすぐに明らかになりました。

「夢想家」と「現実主義者」のどちらを、国民が選ぶかといえば、「夢想家」よりは「現実主義者」を選ぶのが当然です。夢想ではない現実社会に生きている国民の多くが、夢想家を拒否するのは当たり前です。

この「夢想家」と「現実主義」との対立軸ができあがったときこそが、戦後日本が、やっと辿り着いた「歴史の転換点」だったのです。

では、何が歴史の転換点だったのでしょうか。それは、文字通りの“55年体制の終焉”です。周知のように、日本では、1955(昭和30)年に左右の政党がそれぞれ合同し、「自由民主党」と「日本社会党」が誕生しました。以後、長く「左右のイデオロギー対立」の時代が続きました。

その「55年体制」は、90年代半ばに日本社会党が消滅し、自民党も単独での政権維持が不可能になって“終焉”し、今では過去のものとなっています。国際的にも1989年の「ベルリンの壁」崩壊で、世界史的な左右の闘いの決着もつきました。

しかし、その考え方を基礎とした対立が、いまだに支配的な業界が「1つ」だけあります。それが、マスコミ・ジャーナリズムの世界です。古色蒼然としたこの左右の対立に縛られているのが、マスコミです。

マスコミは、さまざまな業界の中で、最も「傲慢」で、最も「遅れて」おり、最も「旧態依然」としている世界です。文字通りの守旧派がマスコミです。なぜかといえば、それは、マスコミに入ってくる人間の資質に負うところが大きいかもしれません。マスコミを志向するのは、いろいろな面で問題意識の高い学生たちではあります。だからこそ、ジャーナリストになりたいのです。

しかし、そういう学生は、得てして「理想論」に走り、現実を見ない傾向があります。また、そういう学生を教育する大学でも「現実論」ではなく「理想論」を教えるため、この傾向を助長しています。ほかの業界では、社会に放り出されれば「現実」を突きつけられ、あちこちで壁に当たりながら「常識」や、理想だけでは語れない「物の見方」を獲得していきます。

ところが、マスコミは違います。たとえ学生の頃の現実を無視した「夢想論」を振りかざしていても、唯一許される業界といえます。学生が、学生のまま“年寄り”になることができるのが、マスコミ・ジャーナリズムの世界なのです。

その代表的なメディアが、朝日新聞です。ひたすら理想論をぶちあげ、現実に目を向けず、うわべだけの正義を振りかざしていれば良いのです。上から下まで「夢想家」ばかりで、体力や思考力には差異があるのですが、頭の中身は理想論ばかの思考が停止した年寄の集団に成り果てたのです。

彼らは、ひたすら現実ではなく、理想や、うわべだけの正義に走ってきました。つまり「偽善」に支配されたのです。日本人のすべてが平和を志向しているにも関わらず、自分たちだけが平和主義者だと誤信し、日本に愛着を持ち、誇りを持とうとする人を「右翼」と規定し、「右傾化反対」という現実離れした論陣を張り続けてきたのです。

その朝日新聞が、信奉してやまないのが中国でした。ひたすら中国の言い分と利益のために紙面を使ってきた朝日新聞の中には、自分たちが書いてきたことが、実は「中国人民のため」ではなく、「中国共産党独裁政権のため」だったことに気づき始めたものもいるようです。世界が懸念する「中国の膨張主義」の尖兵となっていたのが、実は「自分たち朝日新聞ではなかったのか」と。

それでも空想家の最後の逃げ場がマスコミで、その代表が朝日なのです。これは55体制の残滓で、消滅寸前の社民党のようです。“年齢に関係なく頭が年老いた記者”、大いなる皮肉です。彼らは過去には高給と恵まれた労働条件の下で、資本主義的な豊かな生活を享受し、生涯保証されて、社会主義や革命を語り合ってきました。滑稽な風刺画のようです。

この滑稽な有様を最近経済評論家の上念司氏が、「世田谷自然左翼」と呼び揶揄しています。そうして、この傾向は米国にも存在していて、これを上念氏は「ビバリーヒルズ青春左翼」と呼んで揶揄しています。これは、無論米国の人気テレビ番組の「ビバリーヒルズ青春白書」をもじって揶揄したものです。

米国で1990年から2000年まで放送された「ビバリーヒルズ青春白書」

しかし、日本でも世界で左右対立の時代はとっくに終わっています。お互いを「右翼だ」「左翼め」と罵っている時代でありません。今は、現実を見つめるか、空想に浸っているか、の時いずれかになりました。つまり、左右対立ではなく、日本はやっと「現実主義」と「空想主義」の対立軸の時代を迎えたので。「歴史の転換点」という所以です。

それは、ネット上で闘わされている議論を見ても明らかです。古色蒼然とした「左翼」と「右翼」の対立ではなく、ニューメディアの登場・発展によって、時代は、とっくに新たな時代迎えていたのです。ただし、最近のSNSはこの流れに棹さす行動にでているようですが、現在は個人間でもメールや動画を配信できる時代です。そこまで規制すれば、SNSは全体主義のツールに成り果てることになります。この流れは止められません。

その最後の残滓の象徴が日本の政治の世界では「社民党」だったのですが、その社民党も福島瑞穂氏だけが残る、政党ともいえない組織になりました。立憲民主党に移る人たちは、以上の文脈からいえば、社民党よりはより現実主義的な政党に移ったのです。

しかし、立憲民主党もとても現実的とはいえず、次の選挙でも党勢を伸ばすことはできないでしょう。

これからは、より現実的な政治が有権者に支持されていくことでしょう。自民党内でも、より現実的な派閥が勢力を拡大していくことでしょう。空想論を強要してきた、労働組合やマスコミなども力を失いつつあります。そもそも、組織率が下降し、購読者が減っています。

今後は政治やメディアも一般の民間企業のように、まずはイデオロギー以前にリアリストでなければ政治の世界もマスコミの世界でも生き残れなくなるでしょう。民間企業はまずは、経済的な基盤をつくらないと存続できません。そのことが、否応なく彼らを現実主義者にしています。それが、政治やメディア世界にも及びつつあるのです。どんな綺麗事を言ったにしても、会社を存続できなければ全く意味がありません。

豊かだった過去の米国では、理想論だけでも何とかやってこれました。この理想論が世界各地で様々な問題を生み出してきたこともありました。しかし、これからはその米国でさえ、理想論・空想論では国を統治できなくなりつつあり、全体主義国家の中国の台頭で安全保障も「現実的」に対処しないと、ままならなくなりつつありまます。今は米国や日本だけではなく世界的な大転換期であるといえると思います。

カマラ・ハリスは理想主義者?

混迷を深める、米国の大統領選挙も背景にもこうした大転換があると思います。ポリティカル・コレクトネス等を声高に叫んだとしても、綺麗事だけで人々が幸せになれるわけではありません。それを無くしてしてしまえとまではいいませんが、まずはその前に現実的に対処できる政策がなければ、それを打ち出す政権がなければ、安全保証でも経済政策でも失敗し人々が自ら幸せになるための努力を削いでしまうことになるのです。そのことに多くの人々が気づきつつあるのです。

現実的に対処できる政策がなければ、それを打ち出す政権がなければ、安全保証でも経済政策でも失敗し人々が自ら幸せになるための努力を削いでしまうことになるのです。そのことに多くの人々が気づきつつあるのです。

政治の世界でも、ジャーナリズムでも現実主義を前提として、ものごとを考え、是々非々で様々なことに対処していかなければならないのです。

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2020年11月13日金曜日

中国「軍民融合」で新領域の軍事力強化か 防衛省分析―【私の論評】中露は中進国の罠からは抜け出せないが、機微な技術の剽窃は遮断すべき(゚д゚)!

 中国「軍民融合」で新領域の軍事力強化か 防衛省分析

防衛省の防衛研究所は中国の軍事動向に関することしの報告書をまとめ、軍と民間企業の協力を促進する「軍民融合」を通じて重要な技術の国産化を急速に進め、サイバーや宇宙など新たな領域での軍事力の強化を図っていると分析しています。


ことしの報告書では、アメリカ軍に対する軍事的な劣勢を覆す鍵は科学技術を核心とする軍事力の強化だと中国が認識していると分析したうえで、先端技術を利用した中国の軍事動向に焦点を当てています。

この中で、中国は軍と民間企業の協力を促進する「軍民融合」を国家戦略に掲げ、民間の技術力を軍事力に反映させるため、軍需産業に参入しやすくなるよう規制を簡略化したり、中国共産党が統一的に指導する専門の組織を設置したりしていると指摘しています。

そのうえで、次世代情報技術やロボットなど、戦略的に重要と位置づける分野の技術について国産化を急速に進め、サイバーや宇宙といった新たな領域での軍事力の強化を図っていると分析しています。

その一方で欧米では、さまざまな手段を用いて国外から技術や人材を獲得しようとする中国の動きに懸念が広がっているとしています。

また、日本の周辺では小型の無人機を飛行させるなどして、安全保障環境に新たな事態を生じさせていると指摘しています。

【私の論評】中露は中進国の罠からは抜け出せないが、機微な技術の剽窃は遮断すべき(゚д゚)!

何年も前から、中国の軍民融合の脅威が確実に押し寄せていました。「軍民融合」により、中国が先進国の科学技術を剽窃していることは、私自身はすでに誰もが知っている普遍的な事実であると思っていたので、最初目にしたときこのニュースは私には衝撃でした。

中国が技術を日本から剽窃しているということを今更ながら、リポートされるという事実に驚いたのです。ただ実際にこのレポートを実際に読んでみると「軍民融合」の最近の状況をレポートしています。このレポートは以下から入手できます。

http://www.nids.mod.go.jp/publication/chinareport/index.html

中国は「製造強国」を目指して、2015年5月に「中国製造2025」計画を発表しました。そこに明記されているいくつかの戦略の中で、最も警戒すべきは「軍民融合戦略」でした。中国はそれ以前からも技術を剽窃していたのはわかったのですが、この時に中国は自らそうしていることをはっきり認めたのです。すなわち、軍事・民間の融合を促進して、製造業の水準を引き上げる戦略です。そして、そのターゲットとして次世代IT、ロボット、新材料、バイオ医薬など、10の重点分野を掲げています。

露骨に、軍事力強化のために、海外の先端技術を導入した民生技術を活用することをうたっていたのです。

当時から炭素繊維や工作機械、パワー半導体など、民生技術でも機微な技術は広範に軍事分野に活用されており、「軍民両用(デュアル・ユース)」の重要性が世界的に高まっていました。例えば、炭素繊維は、ウラン濃縮用の高性能遠心分離機やミサイルの構造材料に不可欠です。そういう中で、中国の場合、海外の先端技術に狙いを定めていたのですから特に警戒すべきだったのです。

海外の先端技術を狙った中国の手段が、対外投資と貿易でした。ターゲットとなる日本や欧米先進国は、まさに守りを固めるのに躍起になっていました。

当時から、資金力に任せた中国企業による外国企業の買収が急増していました。世界のM&A(合併・買収)における中国の存在感は年々大きくなってきていました。その結果、日本や欧米各国は軍事上の観点で、機微な技術が中国に流出することを懸念しなければいけない事態になっていたのです。

そこで、このような事態を安全保障上の脅威と捉えて、各国は相次いで投資規制を強化する動きになっていました。地理的に離れていることから、これまで中国に対する安全保障上の懸念には無頓着だったドイツなど欧州各国でさえそうでした。英国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)では早々に中国に接近したものの、原発へ中国資本が投資したこともあって、懸念が高まり規制強化に動きました。

2016年5月に中国の美的集団がドイツの産業用ロボット・メーカーであるKUKAを買収して実質子会社化するとの発表は、世界に衝撃を与えました。KUKAは世界4大産業用ロボットメーカーの1社でした。

当然、KUKAは欧米各国で軍需向けにもロボットを提供していました。美的集団の傘下に入ってからは、中国での生産能力を4倍に拡大する計画で、中国は一挙にロボット大国になることを目指していました。

そのほかにも、米国の半導体メーカーの買収やドイツの半導体製造装置メーカーの買収など、何とか阻止できた案件もいくつかあったのですが、KUKAのケースで各国の警戒度は一気に高まったのです。その後も、中国による海外企業の買いあさりはとどまることはありませんでした。欧米の工作機械の多数のブランドが中国資本の傘下に次々入ったのです。

日本も機微な技術の流出を阻止しようと、当時、改正外為法が施行されました。それまで無防備だった日本も安全保障上の危機感から、国の安全を損なう恐れが大きい技術分野を規制対象になるように拡大したのです

今後も、中国の攻勢はますます増大すると予想され、先進各国における先端技術を巡るせめぎ合いは一層激しくなるでしょう。

もっと厄介なのは貿易です。先日もこのブログでも掲載したように、中国は輸出管理法を制定したため、先進各国は危機感を抱いています。この法律は12月から施行されます。

輸出管理の歴史を振り返ると、かつての冷戦期に共産圏への技術流出を規制する対共産圏輸出統制委員会(COCOM=ココム)から始まっています。その後、通常兵器関連だけでなく、核、ミサイルなど大量破壊兵器関連の国際的な枠組み(国際輸出管理レジーム)も整備されました。

これらの国際的レジームは、先進国が保有する高度な製品、技術が北朝鮮、イランなどの懸念国に渡ると、国際的な脅威になることから、これを未然に防止しようするものです。当然、メンバーは先進国を中心とした有志連合で、各国で輸出管理を実施してきました。

しかしメンバー国以外であっても、経済発展著しいアジアの国々でも技術進歩の結果、高度な製品を生産できるようになってきました。そうすると、これらの国々も規制に協力しなければ規制の実効性が確保できないことになりました。中国はまさにその代表格です。

中国が世界の安全保障に協力すること自体は歓迎されるべきことかもしれません。輸出管理法という法制度を整備することは大国としての責任とも言えます。

問題はその法制度がどう運用されるかです。運用次第で軍民融合戦略の手段にもなり得るのです。

現に、法案の目的には、「平和と安全」という安全保障の輸出管理本来の目的以外に、「産業の競争力」「技術の発展」といった産業政策的な要素も規定されています。

最も懸念されるのは、中国から輸出しようとすると、中国当局から輸出審査において企業秘密にあたる技術情報の提出を要求されることです。

例えば、日本からキーコンポーネントを中国に輸出して、これを中国で組み込んだ製品を第三国に輸出するケースを考えてみます。

中国での輸出審査の際に製品が機微かどうか判定するのに必要だとして、組み込んだ日本製キーコンポーネントの技術情報を要求されます。その結果、関連する中国企業にその技術情報が流出します。

日本等の先進国は11月中に、中国で開発している技術と技術者を日本に戻す必要があります。 12月1日の輸出管理法の施行により、技術者が日本に帰ってこられなくなる可能性が高いです。 もう、日本をはじめとする先進国の企業は、中国では研究開発はできません。それに、中国で研究開発を実行しても無意味になるかもしれません。

なぜなら、このブログでも最近述べたように、中国はすでに中進国の罠にはまりつつあるからです。中進国の罠とは、開発経済学における考え方です。定義に揺らぎはあるものの、新興国(途上国)の経済成長が進み、1人当たり所得が1万ドル(年収100万円程度)に達したあたりから、成長が鈍化・低迷することをいいます。それが、中国との今後の付き合い方に参考になると思います。当該記事のリンクを以下に掲載します。
中国・習政権が直面する課題 香港とコロナで「戦略ミス」、経済目標も達成困難な状況 ―【私の論評】中国は今のままだと「中進国の罠」から逃れられず停滞し続ける(゚д゚)!
習近平
経済的な自由を確保するためには、「民主化」、「経済と政治の分離」、「法治国家化」が不可欠です。これがなければ、経済的な自由は確保できません。

逆にこれが保証されれば、何が起こるかといえば、経済的な中間層が多数輩出することになります。この中間層が、自由に社会・経済的活動を行い、社会に様々なイノベーションが起こることになります。

イノベーションというと、民間企業が新製品やサービスを生み出すことのみを考えがちですが、無論それだけではありません。様々な分野にイノベーションがあり、技術的イノベーションも含めてすべては社会を変革するものです。社会に変革をもたらさないイノベーションは失敗であり、イノベーションとは呼べません。改良・改善、もしくは単なる発明品や、珍奇な思考の集まりにすぎません。

             イノベーションの主体は企業だけではなく、社会のあらゆる組織によるもの
   ドラッカー氏は企業を例にとっただけのこと

そうしてこの真の意味でのイノベーションが富を生み出し、さらに多数の中間層を輩出し、これらがまた自由に社会経済活動をすることにより、イノベーションを起こすという好循環ができることになります。

この好循環を最初に獲得したのが、西欧であり、その後日本などの国々も獲得し、「中進国の罠」から抜け出たのです。そうしなければ、経済力をつけることとができず、それは国力や軍事力が他国、特に最初にそれを成し遂げた英国に比較して弱くなることを意味しました。

中国は 「民主化」、「経済と政治の分離」、「法治国家化」をすることはないでしょう。なぜなら、それを実施してしまえば、中国共産党が統治の正当性を失い、少なくと共産党の一党独裁はできなくなるからです。

その中国が、社会を変革しようとしなければ、どうなるのかはもうすでに目に見えています。それは、ロシアのようになるということです。

このロシア、第二次世界大戦中直後の東ドイツから大量の技術者などを連れてきて様々な研究開発を行わせ、その後は現在の中国のように世界中から科学技術を剽窃して、一時はGDPは世界第二位になり、軍事技術も、軍事力、宇宙開発でも米国に並んでトップクラスになりました。

ところが、現在の中国のように一握りのノーメンクラトゥーラと呼ばれる富裕層は生まれたものの、多数の中間層が形成されることはなく、したがって社会のあらゆるところでイノベーションが起こるということはなく、やがて経済が停滞し結局ソ連は崩壊しました。

その後のロシアは、GDPは日本国内でいえば、東京都、国でいえば韓国なみです。ただし、現在のロシアは旧ソ連の核兵器の大部分と、軍事技術を継承しているので、侮ることはできませんが、それにしても、現在のロシアのできることは、経済的にも軍事的にも限定さたものになりました。

中国もいずれロシアのようになるでしょう。無論、中国とロシアは様々な点で異なっているので、すべてロシアのようになるとはいえないかもしれませんが、しかしGDPはロシアのように1万ドルを若干超えたくらいで、停滞することになるでしょう。

そうなると、現在のロシアのように軍事的にも経済的にもあまり大きな影響力を行使できなくなるでしょう。できたとしても、周辺の軍事的にも経済的にも弱い国々の一部を併合するくらいでしょう。

中国も現在のロシアのような存在になるでしょう、ただし個人あたりのGDPが1万ドル(年間100万円)といっても、14億人もの人口がいますから、現在のロシアよりは、存在感を示すことができるかもしれません。

  ただし、10年から遅くても20年後には、中国も現在のロシアのように「魅力的市場ではない」と誰の目にも映るようになるでしょう。一帯一路もかつて帝国主義的だった、西欧が似たようなことを実施して、結局失敗しています。多数の植民地を得れば、儲けられると思い込むのは幻想だったことははっきりしました。

中国が一帯一路で貧乏国の港を接収したとしても、その港で儲かることなど考えられません。なぜなら、元々儲からない国の港を接収しても、メンテナンスの費用がかかるだけであり、ほとんど収益などないからです。

もっといえば、中国が南シナ海の環礁をうめたてて軍事基地をつくっても、何の益にもなりません。それを維持するための補給や、海水に侵食され続ける陸地をメンテナンスするのに膨大な費用がかかるだけです。中国にとっては象徴的な意味しかありません。

中国はこのような壮大な無駄を繰り返しつつ、徐々に経済的に衰えていくことになるでしょう。米国による制裁はそれを若干速めるだけです。

ただ、そうはいっても中露はこれからも危険な存在であることには変わりありません。やはり、機微な技術が剽窃されることは遮断すべきです。

ただし、中露が「民主化」、「政治と経済の分離」、「法治国家化」をすれば、「中進国の罠」から這い出て、急速に経済発展することになります。先進国は、過去にはそれを期待したのでしょうが、見事に裏切られ続けました。

習近平やプーチンがリーダーでいる限りでは、そのようなことにはなりそうもありません。見極めはそんなに難しいことではないです。まだまだ中露で本格的にビジネスをしたり、中露向けに技術開発等をするような時期ではありません。

結論を言うと、中国がこれからも経済発展を続け、米国等の先進国を脅かし続けるということはないということです。ただ、それにしても危険なことには変わりなく、機微な技術が剽窃されることは遮断すべきということです。

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2020年11月12日木曜日

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 盛り上がらない与野党論戦 学術会議問題に冷める国民、経済政策など議論すべき 

高橋洋一 日本の解き方




 臨時国会の与野党の論戦は、日本学術会議の任命拒否問題に集中しているが、これまでに問題点は浮上しているのか。ほかに議論すべきことはないのか。

 はっきり言って、国会は盛り上がっていない。国民も冷めている。学術会議の話題は一時、ワイドショーでも取り上げられたが、国民の関心は高くない。

 この問題はやればやるほど、学者が世間からかけ離れていることが明らかになるばかりだ。

 筆者は、あるテレビ番組で、菅義偉首相の人事介入は、大学の教職員への人事介入になるという大学教授の意見を聞いて、ビックリした。

 かつて国立大学の教職員は国家公務員であり、政府の任命権が問題となっていた。しかし、2004年に国立大学は独立行政法人化されて、教職員は国家公務員でなくなったので、基本的に政府の任命権はない。この程度の基本知識なしでコメントする学者を一般人は冷ややかに見ているだろう。

 議論が盛り上がらない理由は、任命を拒否された学者側にあると筆者は考える。憲法や法律を専門とする学者もおり、法律違反を叫ぶが、一向に訴訟する気配はない。法律違反で文句があるならば、訴訟に訴え出るのが法律家だろう。それなのに、政府を非難するばかりで、行動を伴っていない。法廷闘争、敗北拒否の構え トランプ氏、郵便投票「不正の温床」―大統領選出に影響―【私の論評】トランプもバイデンも大統領にならないというシナリオすらあり得る今後の米大統領選(゚д゚)!【日本の解き方】菅政権のマクロ経済政策は「第3次補正予算」が当面のポイント 内閣官房参与の仕事と決意―【私の論評】人事の魔術師、菅総理の素顔が見えてきた(゚д゚)!【湯浅 博】日本学術会議だけではない―頭脳流出に手を貸すお人好し―【私の論評】悪魔の手助けをする、周回遅れの愚か者たち(゚д゚)!

2020年11月11日水曜日

終わらない戦い、トランプ陣営が起こした訴訟の中身―【私の論評】トランプ氏の懸念をただの「負け惜しみ」と受け取る人は、米国の表だけみて、裏をみない人(゚д゚)!

 終わらない戦い、トランプ陣営が起こした訴訟の中身

過剰に登録された有権者、大量の死亡者も投票?

大統領選で不正が行われたと主張するトランプ氏の顧問弁護士ルディ・ジュリアーニ氏(2020年11月7日)

(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

 米国大統領選挙がついに終幕を迎えた。長く険しい戦いだった。私自身の長年の現地取材では、大統領選というのはマラソンとボクシングを組み合わせたような苛酷な闘争だと感じることがよくあった。候補者たちが長い距離を走りながら、互いに殴り合い、傷つけ合うからだ。

 2020年の大統領選の戦いは、とくに熾烈だった。異常なほどと言ってもよい。新型コロナウイルスの大感染が米国全土を襲うという、かつてない環境下の選挙だったことに加え、ドナルド・トランプという型破りの現職大統領への民主党側の敵意に満ちた攻撃は尋常ではなかった。対抗するトランプ大統領も、自らがコロナウイルスに感染しながらも激しい反撃に出るという、これまた異様な展開だった。

無視できないトランプ陣営の抗議の動き

 さてその選挙の投票から1週間が過ぎた11月10日現在、開票結果は公式には確定していない。

 米国の主要メディアはバイデン氏の勝利を報じ、バイデン氏自身も全米に向けて勝利宣言の声明を出した。これまでの総得票数、各州の選挙人の獲得数のいずれもバイデン氏がトランプ大統領を上回っているのだから、「バイデン勝利」と報じられるのは自然の流れと言える。

 しかし、なおトランプ大統領は敗北を認めていない。選挙の投票や開票には大規模な不正があったとして一連の訴訟を起こした。同大統領を支持してきた共和党としても、上院の重鎮のミッチ・マコーネル議員やリンゼイ・グラハム議員らが徹底抗戦を呼びかけている。

 このトランプ陣営の動きは無視できない。いかにバイデン勝利と広く報じられても、厳密には公式の得票確定はまだである。選挙に不正の疑惑があれば、その疑惑を正当な手続きによって晴らす必要がある。それは民主主義の原則に照らし合わせれば不可欠な作業であり、疑惑が晴らされてこそ初めて結果が確定する。

 ではトランプ陣営の抗議の訴えはどんな内容であり、どれほどの信憑性があるのだろうか。
大量の死亡者が有権者に?

 11月8日、大統領の主任弁護士であるルディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長が記者会見でトランプ陣営の公式の立場を説明した。

 会見の場所はペンシルベニア州のピッツバーグ市だった。トランプ陣営からすると、不正な投票や開票が行われた疑いが同州で最も濃く、同州の選挙人20という規模からしても、その結果の修正は選挙全体の結果を変えるだけの重みを有するという。

 ジュリアーニ氏の報告を主体とするトランプ陣営の不正追及の主張は、以下のような骨子である。

・保守系の全米規模の人権主張団体「ジュディシャル・ウォッチ」は選挙時の調査で、ミシガン州、ニューメキシコ州、コロラド州など計29州の352郡で、国政調査での有権年齢住民数よりも有権登録者数が約180万人も多いことを確認した。その過剰分は不正な登録の疑いがある。

・ネバダ州ラスベガス地区の郵便投票の署名確認は約60万票のうち20万票が機械だけで行われたが、機械での検査は全体で40%ほどの確度しかないことが立証された。また共和党系組織は、ネバダ州からすでに州外に移転した有権者約9000人の州内での「投票」を確認した。

・アリゾナ州では、民主党系の選挙管理者たちが投票者の投票記入に特定のペンを使うことを指示したのは「記入された字が不明瞭となり、管理者が民主党側に有利に解釈できるようになる」として、共和党系団体が訴訟を起こした。同時に、同州内の開票所の多くで共和党側の立会人が開票作業への接近を阻まれたことにも、抗議の訴訟がなされた。

・保守系の市民団体「公共利益法律財団」は、ペンシルベニア州での有権者資格の調査により、少なくとも約2万1000人がすでに死亡したにもかかわらず登録有権者となっていたことを発見し、訴訟を起こした。

・ペンシルベニア州では、投票日を過ぎた後に到着した郵便投票を本人投票分と混ぜて開票作業をしていた州当局に対して、共和党側の訴えにより連邦最高裁のサムエル・アリト判事が票の混合を停止する命令を出した。票の混合は、郵便投票の無資格票が有資格とみなされる比率を高めることになるという。

・ペンシルベニア州の郵便局員数人が、投函の期日遅れの郵便投票を消印の不当操作などにより有効にみせかけることを上司から指示されていた。その大多数がバイデン票だったとみられる。そのなかの一部の郵便局員が共和党側の調査に応じて証言し、訴訟につながった。

 以上のような動きのなかで、トランプ陣営はとくに全米29州で合計180万と目される「幽霊有権者」の状況を掴み、同時に、選挙結果全体をなお左右しかねないペンシルベニア州での調査に焦点を絞るという。

 ジュリアーニ氏らは、バイデン氏が4万6000票のリードを保ったままなお最終確定できないペンシルベニア州での不正の追及に力を入れることを表明した。トランプ陣営は、ほかにジョージア州、アリゾナ州、ウィスコンシン州など僅差の州での投票、開票の正当性も綿密に調査するとしている。

 果たしてトランプ陣営のこうした選挙結果への抗議がどこまで実を結ぶのか。見通しはまったく不透明であるが、トランプ陣営の活動はまだ当分の間続くということだ。

【私の論評】トランプ氏の懸念をただの「負け惜しみ」と受け取る人は米国の表だけみて、裏をみない人(゚д゚)!

郵便投票については当初からトランプ氏は、不正の温床となると述べていました。米国大統領選挙の郵便投票については米国のルールなので米国が決めることですが、日本においては郵便投票は一般的には認められていません。様々な理由で、投票所にどうしても足を運べない方にのみ、厳格なルールの下に認められているだけです。そして投票日必着は当然のことです。投票日後の到着は認めていません。



日本においては、トランプが指摘する懸念と同じようなことを理由に、米国のような郵便投票を導入していません。そういう日本の選挙制度を甘受している日本人が、トランプの主張に知性がないと言うのは滑稽と言わざるを得ません。日本でも「コロナが蔓延しているから」の流で、一般的郵便投票制度を導入しようとしたら、トランプが指摘したのと同じ理由で多くの国民の反対が予想され、導入できないでしょう。

さらに、日本では総理大臣の一存で、米国では大統領の一存で郵便投票を導入したり、やめさせたりすることはできません。それを決められるのは米国においては、州ごとに異なっており、州知事や州議会、もしくは投票などによって決めることであり、大統領は直接これに介入できません。

だから、トランプ大統領の「郵便投票不正の可能性の指摘」に関しては、一定の合理性があります。

さらに、米国では日本よりは、郵便投票などに間違いが起こりやすい土壌があります。誤解を恐れないでいえば、米国という国は政府や、民間企業もおよそすべての組織が、人口比でいうと1%程度のごく一部の選びぬかれたエリートで動いていると言っても過言ではありません。

日本のように、昔なら小学校、いまなら中学校を卒業して、大企業の役員以上になることは日本でも最近ではあまりなくなりましたが、それでも全くないということではないですが、米国では皆無です。

そうして、社会もそのようになっています。米国では大学を卒業しても学歴のある人とはみなされません。大学院を卒業して、はじめて学歴のある人ということになります。大学院を卒業した人は文系なら、最初から本部の経営部門に配置されます、理系なら企業の研究・開発部門に配置されます。日本のように高卒の人が努力に努力を重ねて、経営陣の中にはいるとか、研究開発部門に入るということは米国の大企業においてはないです。

日本の東大、京大、早稲田、慶応などの有名大学にあたる米国のハーバード大学、スタンフォード大学等を卒業しても、学歴があるとはみなされません。大学院を卒業していないと学歴とはみなされないのです。そういう意味では日本は高学歴社会ではなく、卒業する大学による格差がある大学格差社会といえると思います。高卒・大卒と大学院卒とでは、最初から異なる人生を歩むのが普通です。エリートになりたいなら、大学院は必須です。そうでないと、エリート候補にもなれないのです。

誤解を避けるために言っておきますが、私はこれが良いとか悪いとかの価値判断をここでするつもりはありません。実体を語っているだけです。

この1%が努力するから、米国はまともに動くと言っても過言ではないのです。米国の一般社員教育用のテキストを読むと驚かされることが度々あります。その一項目でわざわざ「Quick responseをせよ」とあったのを読んだことがあります。

米国の一般社員用マニュアル

そこで教育担当者に「何でこんな当然の事まで教えるのか」問うと「米国の事務員たちは日本の者たちとは違う。言われないことはしないのだから、こういう基本的で常識的なことまで教えておく必要があるのだ」と答えました。経験上その必要性は十分に理解できました。

そもそも、米国は日本のように社会も同質ではないので、日本では「こんなことまでマニュアルに書く必要などないだろうとか、そんなこと誰でもわかるだろう、ここまで優しい言葉書く必要はないだろう」などということはないのです。

たとえば、日本ではどこからの店でアイスクリームを買おうと考えたとき、アイスクリームを販売しているところで、「日本語が通じるかどうか」などと心配することはありません。たとえ外国人が販売していたとしても、日本語で買い物はできます。ところが、米国では場所によっては、それを心配しなければならないときもあります。

職場でも、普通の内容ならすぐに通じても、複雑なことだと、文化や習慣が違う人が大勢いるので、きちんと言葉を定義して、しつこいくらい詳しく話をしないと伝わらないこともしばしばあります。日本のように忖度とか、KYなどということは滅多にありません。

忖度するのが当然とか、KYな人間は愚かなどという日本国内での常識は通用しません。勝手に忖度する人間や、KYを馬鹿にする人間は、逆に馬鹿者扱いされるのがおちです。

では、すべての人がそうで、何でもフランクに話を直截的にするかというと、そうとは限りません。本当の一部のエリートは、日本でいえば腹芸に近いこともします。ここで、腹芸とは、会話中に言葉にされない相手の本意を汲み取ること。また、言葉にはっきり出すことなく、それでも言いたいことを伝える事という意味もあります。

無論エリートも誰に対しても腹芸をするというのではなくて、それを通じる人たちにだけしているようです。それ以外はフランクに直截に、平易に話すように心がけているようです。ただ、これをもってすべての米国人が、どんな時もなんでもフランクに直截に心で思っていることを正直に話すと思い込むのは間違いです。学校や職場の公の場で、勉強や仕事に関わることには、誤解を避けるためにそうしているということです。

米国大統領選挙の開票作業

以上のようなことを言うのは、米国の選挙開票に携わっていた人たちを見れば、その仕事ぶりを懸念する材料は幾らでもあるのではないか思ったからです。現に、各テレビ局で引用されている例に「2000年のフロリダ州での数え直しをしたら得票差が狭まった」という事実があります。

我が国のでいえば、それこそ選挙管理委員会にかかる事例は十分あったと思います。私が言いたいのは、あの投票の集計の仕事場に集まっていたのは、上記の議論に言う99%の人たちではなかったかということです。QRコードの基礎から教えておく必要があるような者たちも大勢いたのではないかということです。

米国という国を内側で経験されたことがない人たちには、我が国の実情から考えて「そんなことがあり得るか」と、私の言い分などを信じてもらえないかもしれません。しかし、およそあらゆる種類の人たちが集まって形成されているのが米国なのです。実際オバマ大統領は不法移民でも英語の試験に合格すれば市民権を与えたということもあり、近年米国ではこの問題がますます顕著になったと思います。

それは、失業率をみてもわかります。最近の日本の失業率はコロナ前には2%台になっていましたが、これは平成の不況期などを除けば過去の失業率はこの程度でした。しかし、米国はコロナ直前は3%台でしたし、過去には4%くらいは当たり前です。景気が悪くなると6%台になることもあります。これは、いくらマニュアルなどを整備してフランクに平易に話をしても、雇用対象にならない人たちが、日本よりも多く存在するということです。

1994年7月にUSTRのヒルズ大使が「アメリカが対日輸出を拡大しようと思えば、労働者階層の識字率の向上と、初等教育の充実の必要がある」と認めていました。日本のトヨタ自動車などでは、現場で働く人たちのTQCが大きな力となっています。

日本では、現場で働く人達の創意工夫が生かされることが多いです。米国ではなかなか考えられないことです。あの開票作業に、当然のことながら99%の人々が多く配置されていたでしょう。様々な間違いの中には、不正に関するものもないとは言い切れません。特にそれまで実施したことない、郵便投票に間違いが生じないとはいえません。99%の中には、簡単に詐欺にかかってしまう人たちもいないとは言い切れません。トランプ大統領のクレームを故無しとは出来ないのではないでしょうか。

トランプ氏の懸念をただの「負け惜しみ」と受け取る人は、米国の実体をあまりに知らなすぎると思いますし、米国の表だけみて、裏をみない人だと思います。

日本の国内だけみていて、日本が世界の中で標準的な国と思いこむのは明らかな間違いです。日本のように言語でも、人種的にも、生活習慣的、文化的にも似通った国は世界でも珍しいです。

こんなことをいうとたとえば、「アイヌ民族」はどうなんだなどというへそ曲がりの人もでてきそうですが、民族とはその独自の生活様式な文化、言語を持っています。現在日本でアイヌといわれる人たちは、日本語をしゃべり、日本の学校に通い、日本人の文化圏で過ごしており、アイヌの血筋が入った日本人といえるでしょう。アイヌ民族の伝統を守って生活している人はいません。これと、米国の人種の問題とを同次元であるように語る人たちは、それこそ米国の実体を知らなすぎると思います。

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2020年11月10日火曜日

中国・習政権が直面する課題 香港とコロナで「戦略ミス」、経済目標も達成困難な状況 ―【私の論評】中国は今のままだと「中進国の罠」から逃れられず停滞し続ける(゚д゚)!

中国・習政権が直面する課題 香港とコロナで「戦略ミス」、経済目標も達成困難な状況 

高橋洋一 日本の解き方

習近平

 中国の習近平国家主席が、「2035年までに経済規模または1人当たりの収入を倍増させることは可能だ」と述べたと伝えられている。

 19年時点で、中国の1人当たり国内総生産(GDP)はほぼ1万ドルだ。本コラムで再三紹介してきたが、どこの国でもこれまでの経験則では、1人当たりGDPには「1万ドルの壁」がある。

 成長すると、経済的な自由を求めるようになってくるのが世界の常であるとともに、1万ドルを超えて成長しようとするなら、経済的な自由が必要である。というわけで、1万ドルの壁を越えるには、経済的な自由を確保するために、政治的な自由、つまり民主主義が必要というのが、これまでの経験則だ。

 筆者は、この点は中国も例外ではないと思っている。しかし、中国は今の共産党体制である限り、政治的に一党独裁を守らなければならず、政治的な自由には限界がある。これまでは1万ドルに達していなかったので経済成長が可能で、その矛盾を解消できた。しかし、現状では1万ドルにさしかかっている。

 それを乗り越えるには、民主化が必要というのが経験則だが、昨今の香港問題をみれば分かるように、中国は民主化しないまま1万ドルの壁を越えようとしている。

 その手法の一つは、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を通じた「一帯一路」構想で、国内ではなく国外での経済活動に活路を求めようとした。だが、これまでのところ、パキスタンの地下鉄建設などで既に失敗だったと国際社会から評価されている。

 もう一つの「中国製造2025」は、国内向けの産業政策である。中国の製造業の49年までの発展計画を3段階で表し、その第1段階として、25年までに世界の製造強国入りすることを目指している。

「中国製造」の発展の三段階


 しかし、ある程度の工業化がないと、1万ドルの壁を突破するのは難しいというのが、これまでの発展理論であるが、ここでも中国は今その壁にぶち当たっている。さらに米国が知的財産権の保護で中国を攻めており、以前のようにやりたい放題という状況ではなくなっているので、ここでも中国は苦しくなっている。この点については、誰が米国の次期大統領になっても変わらないだろう。

 「一帯一路」や「中国製造2025」の行き詰まりは、かつて本コラムでも指摘したが、それに追い打ちをかけているのが、香港と新型コロナウイルスの問題だ。コロナで世界経済が落ち込むのは中国にとっても打撃だが、それ以上に、「香港国家安全維持法」の施行を受けて民主主義国との価値観の違いが鮮明になった。

 長期的には経済面でも中国と付き合うのが困難だと感じる人が多くなったのではないか。しかも、コロナでは情報隠蔽もあった。

 過去の歴史を振り返っても、独裁者は広い視野を持っていないことが多い。

 中国では、習氏自らの長期政権による戦略ミスが自国を苦しめている。冒頭の経済目標も達成するのは難しいのではないか。 (内閣官房参与・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】中国は今のままだと「中進国の罠」から逃れられず停滞し続ける(゚д゚)!

上の記事で高橋洋一氏は"19年時点で、中国の1人当たり国内総生産(GDP)はほぼ1万ドルだ。本コラムで再三紹介してきたが、どこの国でもこれまでの経験則では、1人当たりGDPには「1万ドルの壁」がある"と語っています。

この「1万ドルの壁」とは、中進国の罠といわれるものです。中進国の罠とは、開発経済学における考え方です。定義に揺らぎはあるものの、新興国(途上国)の経済成長が進み、1人当たり所得が1万ドル(年収100万円程度)に達したあたりから、成長が鈍化・低迷することをいいます。

実質経済成長率と一人当たりGDPの推移(60年代以降):1万ドル前後で中所得国の罠に陥る国も

中国経済が中進国の罠を回避するには、個人の消費を増やさなければならないです。中国政府の本音は、リーマンショック後、一定期間の成長を投資によって支え、その間に個人消費の厚みを増すことでした。

ところが、リーマンマンショック後、中国の個人消費の伸び率の趨勢は低下しいています。リーマンショック後、中国GDPに占める個人消費の割合は30%台半ばから後半で推移しています。

昨年の個人消費の推移を見ても、固定資産投資の伸び率鈍化から景気が減速するにつれ、個人消費の伸び率鈍化が鮮明化しました。これは、投資効率の低下が、家計の可処分所得の減少や、その懸念上昇につながっていることを示しています。

現在、中国政府は個人消費を増やすために、自動車購入の補助金や減税の実施を重視しています。短期的に、消費刺激の効果が表れ、個人消費が上向くことはあるでしょう。ただ、長期的にその効果が続くとは考えにくいです。

なぜなら、中国政府は国営企業の成長力を高めることを目指しているからです。市場原理に基づく効率的な資源配分よりも、中国では共産党政権の権能に基づいた経済運営が進んでいます。それは、国有企業に富が集中し、民間部門との経済格差の拡大につながる恐れがあります。それは、民間企業のイノベーション力を抑圧・低下させることにもなりかねないです。

歴史を振り返ると、権力に基づいた資源配分が持続的な成長を実現することは難しいです。習近平国家主席の権力基盤の強化が重視される中、中国が1人当たりGDPを増やし、多くの国民が豊かさを実感できる環境を目指すことは、そう簡単なことではありません。

中国経済は成長の限界に直面している。投資効率の低下、個人消費の伸び悩みに加え、輸出を増加させることも難しいです。米中貿易戦争の影響に加え、効率性が低下する中で投資が累積され、中国の生産能力は過剰です。裏返せば、世界経済全体で需要が低迷しています。さらに、そこに最近のコロナ禍が追い打ちをかけています。

現在の中国が経済発展をして、中進国の罠から抜け出すためには、高橋洋一氏が上の記事で主張しているように、経済的な自由が必要です。

経済的な自由を確保するためには、「民主化」、「経済と政治の分離」、「法治国家化」が不可欠です。これがなければ、経済的な自由は確保できません。

逆にこれが保証されれば、何が起こるかといえば、経済的な中間層が多数輩出することになります。この中間層が、自由に社会・経済的活動を行い、社会に様々なイノベーションが起こることになります。

イノベーションというと、民間企業が新製品やサービスを生み出すことのみを考えがちですが、無論それだけではありません。様々な分野にイノベーションがあり、技術的イノベーションも含めてすべては社会を変革するものです。社会に変革をもたらさないイノベーションは失敗であり、イノベーションとは呼べません。改良・改善、もしくは単なる発明品や、珍奇な思考の集まりにすぎません。

   イノベーションの主体は企業だけではなく、社会のあらゆる組織によるもの
   ドラッカー氏は企業を例にとっただけのこと

そうしてこの真の意味でのイノベーションが富を生み出し、さらに多数の中間層を輩出し、これらがまた自由に社会経済活動をすることにより、イノベーションを起こすという好循環ができることになります。

この好循環を最初に獲得したのが、西欧であり、その後日本などの国々も獲得し、「中進国の罠」から抜け出たのです。そうしなければ、経済力をつけることとができず、それは国力や軍事力が他国、特に最初にそれを成し遂げた英国に比較して弱くなることを意味しました。

しかし、こうしたことは口でいうことは簡単ですが、実際に行うことはかなり難しいです。だから多くの中進国は「中進国の罠」にはまり込んで抜け出せないのです。日本は明治維新によってそれを成し遂げ、急速に経済を拡大しました。日本は、明治維新でこれをやり遂げることができなかったとすれば、西欧列強の植民地になっていたでしょう。

では、現在の中国にそのようなことができるかといえば、かなり難しいです。中国は「民主化」、「政治と経済の分離」、「法治国家化」するというプロセスを抜いたまま、これを成し遂げようとしています。

要するに、政府が掛け声をかけて、それだけではなく、頭の良い科学技術者等や思想家等に投資をしたり、先進国か科学技術や思想を剽窃して実行しようとしています。しかし、投資や剽窃をしただけで様々なイノベーションが起こることはありません。

先にも述べたように、星の数ほどの中間層が輩出して、社会の様々な分野で不合理や非効率を改めようとか、社会変革につながる様々なことをしようと切磋琢磨して努力できる自由のある社会に、様々な分野で星の数程のイノベーションが生まれるのです。

中国共産党が、自分たちが考えて、良かれと思って様々な分野に投資をしたり、あるいは他国の科学技術を剽窃したとしても、多数の中間層が自由に社会経済活動をしている社会にはかないません。

ある特定の技術や制度の革新にいくつか大成功したとしても、社会のあらゆる分野で革新が進まなければ、社会の非効率・非合理は改善・改革されず温存され、社会は停滞したままで、結局経済は発展しません。

これは、先進国と呼ばれる国々はすべて通ってきた道です。中国のみが、それを無視して、政府が計画して、大枚を叩けば、うまくいくということにはなりません。

多くの先進国は、その事実を歴史と経験から学んでいるため、完璧とはいえないまでも、中国と比較すれば、これを成し遂げています。だから、先進国は、かつて自分たちがたどってきたように、中国もいずれそのような道をたどると考えていたようですが、そうはなりませんでした。

先進国の誤算した原因は、中国の人口を計算に入れていなかったことだと思います。先進国の全部が中国よりはかなり人口が少ないです。先進国で最大は米国ですら人口は億人です。英国は、6665万人です。中国は14億人です。

これだけ人口が多いと、近代化のプロセスが遅れても、人口が少ない国よりは軍事力や経済力を古い体制を維持したまま伸ばすことができます。まさに、これまでの中国がそうでした。

しかし、中国の1人当たり国内総生産(GDP)はほぼ1万ドルに達した現在は、それも限界にきました。中国共産党もこれから経済力を伸ばし国力を強めるためには、体制を徐々にでも変換しなければ、中進国の罠から逃れられないと気付きつつあると思います。

しかし、中国共産党はそれを実行できません。なぜなら、以上で述べてきたこと、特に「民主化」、「政治と経済の分離」、「法治国家化」をしてしまえば、自分たちが統治の正当性を失い崩壊するからです。

国や社会のことを第一に考えれば、中国共産党一党独裁体制を崩してでも、新たな体制を築くべきと考えるのが当然だと思うのですが、中国共産党はそうは考えないようです。あくまで、現在の体制を継続しようと考えているようです。であれば、中国は他の「中進国」と同じように、永遠に「中進国の罠」から抜け出られないことになります。

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2020年11月9日月曜日

中国は米大統領選の混乱をついて台湾に侵攻するのか―【私の論評】中国は台湾に侵攻できない(゚д゚)!

 中国は米大統領選の混乱をついて台湾に侵攻するのか

岡崎研究所

 英フィナンシャル・タイムズ紙のコメンテーター、ギデオン・ラックマンが、10月19日付の同紙に「気が散った米国は台湾にとり危険である。ワシントンでの政治的混乱は北京に機会の窓を開くかもしれない」と題する論説を寄せ、米中衝突の危険性を指摘している。


 最近、中国の軍用機は、より頻繁に台湾と中国との中間線を越え、台湾の領空を侵犯し、台湾側はスクランブル発進をかけている。11月3日の米国大統領選挙後の混乱の時期を狙って、北京が台湾に何かしかけてこないとも限らない。

 台湾への中国の侵攻は、長年、米国により抑えられてきた。米国は、台湾関係法により、台湾に武器を売り、米国が台湾防衛のために戦う可能性をオープンにしてきた。1996年、中国が台湾周辺海域にミサイルを発射した時には、米国は地域に空母を送り、警告した。その時以来、中国は大規模軍拡を行ってきた。

 現在の危機の背景には、習近平が2012年に指導者になった後の北京の台湾政策の急進化がある。習近平は、台湾に対する言辞を強めるとともに、中国は百万以上のウイグル人を収容所に入れ、香港の民主化運動を粉砕し、南シナ海で軍事基地を作り、ヒマラヤでインド兵を殺した。

 台湾への中国の全面攻撃は巨大なリスクである。台湾海峡を越え、兵力を台湾に上陸させる試みは多くの死傷者を出す。よって、北京は、より小規模な軍事、経済、心理的介入で、台湾人の士気と自治を侵食することを狙うことがもっとありうる。

 このラックマンの論説は頭の体操としてはよく書けているものである。台湾問題は、日本の安全保障に極めて重要なので、紹介すべきであると思い、取り上げた。

 台湾が米中覇権競争の中で一番発火しやすい問題であり、日本の安全の脅威になる可能性が一番高い問題であると考えている。北朝鮮の核の脅威などより、もっと心配すべき問題であり、我々は台湾問題に大きな注意を払っていくべきであると考えている。

 ラックマンの言う米中衝突の危険はもちろんゼロではないだろうが、その可能性はそれほど大きくないとも考えられる。それは、台湾に中国が武力侵攻しても、米国が介入に躊躇する事態は想像しがたく、米国の出方を中国が読み間違う怖れは小さいと考えられるからである。

 現在の中国の国家主席である習近平は、鄧小平とは考え方が外交姿勢に関して違うように思えるが、孫子の兵法、すなわち戦わずして勝つことを最善の策とみなしており、台湾人の士気を崩すなど、サラミ戦術をとってくる可能性が高い。ラックマンも同じ考えであるように思える。

 日本としては、台湾の民主主義を助け、台湾ナショナリズムがしっかりと台湾に根を下ろすことを、これまで同様に支援していくということだろう。中国が両岸関係の平和的解決という日米の要請を無視した場合には、日本もそれなりの覚悟をして対応するということだろう。

【私の論評】中国は台湾に侵攻できない(゚д゚)!

台湾に中国が武力侵攻した場合、米国が何の躊躇もなくすぐにこれに介入することになるでしょう。

そうして、米軍としてはすでに台湾、尖閣諸島では中国軍を迎え撃つ準備を、南シナ海では中国の軍事基地を攻撃する準備を整えているでしょう。

そうして、その準備とは、これらの海域に多数の米軍の原潜艦隊を配置し終わっているということです。

東シナ海や、南シナ海、台湾海峡などに、米軍が原潜を定期的に派遣しているのは、間違いないでしょう。水中の「航行の自由作戦」は、ずっと前から定期的に行われ、中国海軍の動向は、すでに米軍によってしっかりと把握されていることでしょう。通常潜水艦の行動は、いずれの国も表には出さないのですが、米軍はすでに5月下旬に潜水艦の行動に関して公表しています。

この潜水艦群の動きは太平洋艦隊司令部のあるハワイ州ホノルルの新聞が同司令部からの非公式な通告を受けて今年5月下旬に報道されました。米海軍は通常は潜水艦の動向を具体的には明らかにしていません。とこが、この時は太平洋艦隊所属の潜水艦の少なくとも7隻が西太平洋に出動中であることが同司令部から明らかにされました。

その任務は「自由で開かれたインド太平洋」構想に沿っての「有事対応作戦」とされています。この構想の主眼は中国のインド太平洋での軍事膨張を抑えることだとされるため、今回の潜水艦出動も中国が覇権を目指す南シナ海や東シナ海での展開が主目的とみられます。

私自身は、米国はコロナに関係なく、原潜を南シナ海や東シナ海に常時派遣しているのでしょうが、今回はコロナ感染により、米軍の力が弱っていると中国にみられ、この地域で中国の行動を活発化することが予想され、それを抑止すためあえて公表したものとみています。米軍は潜水艦のみでも、中国軍を抑止ができるとみているということです。

そうして、この公表は米軍としては、普段から定期的に西太平洋に派遣している潜水艦隊に加えて、さらに7隻程度派遣しているということを示唆しているのだと思います。

そうすると、この地域におそらく少なくとも14隻、あるいはもっと多く20隻あまりもの米軍原潜艦隊が潜んでいるとみて間違いないと思います。

米国ではコロナ禍は今でも続いていますから、この体制は今も崩していないでしょう。潜水艦というと、その破壊力はあまり知られていませんが、現代の米軍の原潜の破壊力は相当なものです。

かつてトランプ大統領が、朝鮮有事を懸念して空母とともに、原潜を派遣したときに、自慢げに「米軍の原潜は空母に匹敵する破壊力を持つ、水中の空母のようなものだ」と語っていたことがあります。

米空母ロナルド・レーガン(CVN-76)

空母と原潜の破壊力を単純に比較することはできないですが、現在の米軍の原潜の破壊力はたしかに空母に匹敵します。原潜のなかには、魚雷はもちろん、各種のミサイル、戦術核や戦略核を搭載するものもあります。しかも、それが海中深くに潜んでいて、なかなか発見しにくいのです。

ただし、原潜は構造上どうしてもある程度騒音がでるので、発見しやすいです。ただし、中国の対潜哨戒能力はかなり低いですが、米軍は世界一ですので、潜水艦隊の運用では米軍のほうが、中国軍より圧倒的に優れています。

深海に潜んで動かなければ、中国が発見するのはかなり困難です。米軍要所要所に原潜を配置しておき、中国軍が不穏な動きを見せれば、水中からミサイルを発射して、攻撃するという戦法をとれば、米軍は圧倒的に有利です。

この原潜が潜むだけではなく動き回れば、中国軍もこれを発見できるチャンスもありますが、米軍のほうが哨戒能力に優れていますから、動き回る前に中国の対潜哨戒機、哨戒艦艇、潜水艦等を破壊してしまえば、中国側が米潜水艦を発見できなくなります。

これに対して、中国の原潜はかなりの騒音を出すので、米軍はこれをすぐに発見できます。そうなると、中国が台湾を奪取しようとして、航空機や艦艇を派遣すれば、これらはことごとく撃墜、撃沈されてしまうことになります。

仮に、中国軍が台湾に上陸して、橋頭堡を築いたにしても、それを維持することはできません。米潜水艦隊が台湾を包囲すれば、中国軍は補給ができずお手上げになるからです。

さらに、西太平洋には中国にとって別の手強い伏兵がいます。それは、日本の潜水艦隊です。日本も今年の3月に最新鋭艦「たいげい」が進水しましたが、これを加えると日本が保有する潜水艦は22隻となりました。

今年進水した「たいげい」

日本の潜水艦は、このブログにも掲載したように、原潜ではない通常型のものですが静寂性は世界一です。その静寂性を利用すれば、あらゆる海域で中国に発見されず哨戒活動等にあたることができます。無論、これによって得られた情報は米軍と共有することができます。

これでは、中国に勝ち目は全くありません。そのため、中国は台湾に侵攻しても、意味がありません。中国ができるのは、せいぜい台湾海峡等で大規模な軍事演習をして台湾を脅すことくらいでしょう。そのことを理解しているからこそ、中国は三戦に力をいれているのでしょう。

それでも敢えて中国が台湾に侵攻した場合、ますば米国潜水艦隊によりほとんどの中国の艦艇、航空機が破壊されることになります。無論上陸用舟艇なども破壊され、上陸部隊は殲滅されるかもしれません。

それでも、中国軍が無理やり上陸した場合は、米軍は場合によっては、中国本土のミサイル基地等も潜水艦によって破壊するでしょう。そうして、中国の脅威を取り除いた後に、さらに台湾を包囲して、補給を断ち弱らせた後に空母打撃群を派遣して中国陸上部隊を攻撃してさらに弱らせ、最終的に強襲揚陸艦等で米軍を台湾に上陸させ、上陸した中国軍部隊を武装解除して無力化することになるでしょう。

今年4月11日、上海にある造船所の桟橋に係留艤装中だった中国海軍初の
大型強襲揚陸艦「075型」1番艦から出火、未だに中国は公表していない

よく軍事評論家の中にも、空母を派遣しても中国の超音速ミサイルに攻撃されて、米国は負けるなどとする人もいますが、こういう人たちに限って、なぜか潜水艦隊のことをいいません。

今年の5月に、太平洋艦隊所属の潜水艦の少なくとも7隻が西太平洋派遣されたことをもって、米軍は有事の時には、特に海洋での有事の時には最初に潜水艦隊を用いる戦術に変えたと認識すべきです。私自身は、ずっと前から変えていると思います。海洋で、わざわざ初戦で空母打撃群を派遣して、敵に格好の的を提供する必要性などありません。

ただ、手の内をわざわざバラす必要もないので、黙っていただけだと思います。ただ、コロナ禍に中国につけこまれることを防ぐため、わざわさ公表したということです。この公表の裏には、以上で述べたことを、それとなく中国に伝える目的もあったと思います。

そうして、それは日本も同じことでしょう。だからこそ、潜水艦22隻体制をはやばやと築いたのでしょう。

中国は台湾に侵攻しません。いや、できません。尖閣にも侵攻できません。南シナ海は何十年にもわたって、サラミ戦術で確保できたのですが、もはやその戦術も通用しません。

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