2022年10月26日水曜日

中国に戦闘機発注 ミャンマー弾圧強化―【私の論評】岸田政権は、まずはミャンマー軍事政権への姿勢を改めよ(゚д゚)!

中国に戦闘機発注 ミャンマー弾圧強化

航空ショーに登場したFTC2000G練習機兼戦闘機(2006年11月1 日、中国・広東省・珠海)

【まとめ】

・ミャンマー空軍は近代化と戦闘能力向上を目的としてFTC2000G練習機兼戦闘機を中国に発注。

・ミャンマーは国土の51%を反軍政勢力が支配下に置いているとの情報があるほど「苦戦」している。

・中国がミャンマー軍の軍備の増強や近代化に深く関わっていることで「内戦状態」は長期化して人権侵害が全土で深刻化。

ミャンマー空軍が中国に対して戦闘機を新たに発注したことが地元の独立系メディアの報道で明らかになった。ミャンマーでは2021年2月の軍によるクーデターでアウン・サン・スー・チーさん率いる民主政権が打倒し、ミン・アウン・フライン国軍司令官をトップとする軍事政権が政権を奪取して治安維持を担っている

しかし民主政権の復活を願う武装市民組織「国民防衛軍(PDF)」や少数民族武装勢力と軍との衝突が激化し、治安は極端に悪化して実質的な「内戦状態」にある。

こうした中、ミャンマー空軍は旧式となってきた中国製F7迎撃機やA5攻撃機などの近代化と戦闘能力向上を目的としてFTC2000G練習機兼戦闘機を中国に発注したという。

反軍政の立場から報道を続ける独立系メディア「イラワジ」は10月18日、情報筋などからの話としてFTC2000G練習機兼戦闘機を中国に発注したと伝えた。

FTC2000は中国の国有航空宇宙国防企業である「中国航空工業公司」の監督下で「貴州航空工業公司」が設計、製造した2量練習機兼戦闘機「JL-9」の輸出型機で1機約850万ドルとされている。「FTC2000」の改良型が「2000G」で2人乗り。2018年に初飛行に成功した軽戦闘攻撃機といわれている。

発注した時期や機数などは明らかではないが2020年に中国とカンボジアのメディアが東南アジアの国に対して中国が戦闘機を売却する計画があり、2020年1月に契約は調印され納入は2021年に開始され2年後には完了することを報じた。

その後のコロナ禍でこの計画が遅延していたものが再始動したとの見方がでているが、明確なことは軍政が秘密主義なため明らかではない。

もしそれが事実とすれば2003年に初飛行、その後量産態勢に入ったとされるFTC2000の発注・契約はスー・チーさんの民主政権時代のもので、遅れていた導入計画を軍政が改めて発注し直し、最新型の「2000G」を導入する計画となった可能性が高いとみられている。「イラワジ」は今年6月空軍パイロット8人、技術者8人、軍の将校2人がミャンマーと国境を接する雲南省昆明経由で中国に渡ったと報じており、空軍機発注との関連を示唆している。

FTC2000G」の導入後は北東部シャン州の空軍基地への配備が検討されているという。

■ 抵抗勢力への空爆、攻撃を激化

軍政はクーデターから1年半以上が経過してもPDFや少数民族武装勢力による抵抗が激しく、一部では国土の51%を反軍政勢力が支配下に置いているとの情報があるほど「苦戦」しているという現状がある

軍は地上部隊が抵抗勢力による待ち伏せ攻撃やドローンによる爆弾投下、爆弾爆発などで兵士の犠牲者が増えていることもあり、空軍の戦闘機などによる爆撃といった空からの攻撃で支配地域拡大を狙っている。

抵抗勢力側は戦闘用の航空戦力を保持していないため空軍の制空権は確保されているという。

10月23日夜8時半ごろ北部カチン州ハパカント近郊のギンシ村で地元少数民族武装勢力「カチン独立機構KIO)」の創立62周年を祝う記念音楽コンサート会場が軍政の空軍機3機による空爆を受けた。この攻撃でコンサートに集まった一般市民やKIOとその武装部門である「カチン独立軍(KIA)」の幹部ら約60人が死亡、約100人が負傷する事件が起きた。

投下された爆弾の1発はコンサートのステージ近くで爆発、近くにいたカチン族の著名歌手らが即死したという。SNS上などには爆撃でばらばらになった木造のステージとみられる建物や観客席の写真がアップされ、死亡した歌手らへの追悼の言葉が並んでいる。

KIOとKIAのスポークスマンであるナウ・ブー大佐は「軍は敵ではなく一般の住民を狙って攻撃した。これは邪悪な行為であり戦争犯罪である。国民の死を悼んでいる」と「イラワジ」に述べて軍の空爆を非難した。

■ 空軍力で戦況打開を企図か

ミャンマー空軍機によるこうした軍事拠点ではない集落などへの空爆は全土で行われており、無抵抗、無実、非武装の住民の犠牲が増えている

軍政は空軍力の近代化、増強で戦況の打開を図り全土での治安回復を狙っているのは間違いないとみられている。

ミャンマー軍政にとってロシアと並んで国際社会で数少ない後ろ盾である中国がミャンマー軍の軍備の増強や近代化に深く関わっていることで「内戦状態」は長期化し、教師などの斬首や女性へのレイプその後の殺害・遺体放棄、逃げ遅れた一般住民らを生きたままで焼殺するなどといった残忍な人権侵害が全土で深刻化している

こうしたミャンマーの現状に対する新体制となった習近平体制の中国による責任は重いと言わざるを得ないだろう。

【私の論評】岸田政権は、まずはミャンマー軍事政権への姿勢を改めよ(゚д゚)!

東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国のカンボジアは、ミャンマーでの暴力の激化に警鐘を鳴らし、自制と戦闘の即時停止を呼びかけました。

カンボジアは声明でミャンマー最大の刑務所への爆撃、カレン州での紛争、23日にカチン州で発生し少なくとも50人の死亡が報告されている空爆を例として指摘。

「犠牲者の増加、そしてミャンマーの一般の人々が耐えてきた計り知れない苦しみに深い悲しみを覚える」としました。

さらに、紛争は人道状況を悪化させるだけでなく、昨年ASEANと合意した和平「コンセンサス」実現に向けた努力も台無しにしていると批判しました。

暴力の最大限の自制と即時停止を強く求め、全ての当事者が対話を追求するよう求めました。


ミャンマーでは2021年2月1日のクーデターから現在まで混乱が続いています。ただ、どの程度の混乱なのかについては見定めることが難しいです。一部では破綻国家になる懸念すら示されています。果たしてミャンマーは破綻国家になってしまうのか。

当初は平和的だった国軍への抵抗運動が、弾圧を受けることでいかに「自衛のための戦い」(Self-Defensive War)という武力闘争を容認する運動に発展してしまいました。この抵抗勢力
の動きがミャンマーという国を破綻国家にするのでしょうか。

結論は2つあります。抵抗勢力の武力闘争が激しくなっていることは確かであるものの、国軍の実効支配を崩すことは難しく、紛争によって国家が破綻する可能性は極めて低いです。

もう一つは、国軍の実効支配が続くとしても、この国が政変前の状況に戻ることはなく、不安定な脆弱国家として継続することになりそうであることです。

ただ、政変 前の状態にこの国が戻ることもないです。危機国家の状態に陥る可能性を常に秘めた脆弱国家と して国軍の実効支配が続くことになりそうです。

ミン・アウン・フライン・ミャンマー国軍司令官

 危機に陥るきっかけは、民主化勢力の抵抗だけでなく、経済や外交面 でも生じ得ます。ミャンマーの2021年の経済成長率をマイナス18%であり、なかでも新型コロナウイルスと政情不安で工業とサービス業の落ち込みは20%を超 えています。

外国直接投資はすでに半減しています。ミャンマー・チャットの大幅 な下落や、外貨準備の不足、現金供給の制限など、金融面での不安も大きいです。 

しかし、経済が落ち込んでも国軍は自らの任務と自認する国家安全保障を優先し、その「脅 威」の殲滅を目指すため、国民生活を後回しにするでしょう。

国民生活どころか、紛争を逃れ た避難民(すでに20万人以上発生)に対する人道支援の受け入れすら国軍は消極的である。新 型コロナウイルスの感染対策で国境管理を各国が強化するなか、難民たちも国内にとどまる しかなくなるため、危機はより深刻でみえにくくなりました。 

国際社会の関与が不可欠の情勢ではあるのですが、クーデター以来明らかになったのは、国 際社会の無力です。唯一、わずかながら国軍から譲歩(「5つのコンセンサス」)を引き出せ ているようにみえたASEANの働きかけもいまや手詰まり状態です。

特使の任命 に手間取ったうえに、焦点であった特使とアウンサンスーチーとの面会を国軍が受け入れな かったため、昨年10月末のASEAN首脳会議へのミンアウンフライン将軍の出席を認めないこと が直前のASEAN外相会議で決定されました。

「コンセンサスによる意思決定」と「内政不干渉」 というASEANの基本原則に反する決定だと国軍は反発しています。こうした決定でミャンマ ー軍の行動が変えられないことはASEAN諸国も十分に知っているため、ミャンマー情勢よ りもASEANに対する信頼が低下することを懸念しての決定だとみらます。

こういうことからも再び 国軍との対話を前進させることは相当に困難だと思われます。 欧米の圧力外交には批判的な中国も、現在のミャンマーの情勢を楽観視している わけでありません。国境を接する中国にとっては、国軍を支えることで受ける国際的な非難 とミャンマーでの反中感情の高まりを懸念しつつ、同時に、国軍による実効支配が危機に陥 る事態は避けたいはずです。

日本もまた、自由主義圏の国として国軍の政治介入には批判 的ですが、ここでミャンマーを孤立させてしまえば、自国の国益が脅かされるばかりか、 ミャンマー市民の生活や人権にも深刻な被害が生じ、さらには、東南アジアの地政学的な要 衝であるミャンマーが中国の影響下に入るという地域安全保障上の懸念もあります。

 各国ともに難しいバランスのなかで、ミャンマーという脆弱国家に対処していかねばなら ないです。たとえ万が一であっても、この国が今後、危機から破綻国家状態になるというシナリ オは多くの関係者が望むものではないでしょう。必要とされているのは、現状の手詰まりを打 開する次の一手を構想することです。日本にもできることがあります。

たとえば、日本にとって最大の外交カードは、ミャンマーへのODA=政府開発援助です。支援額を公表していない中国を除いて、日本はミャンマーに対する最大の支援国で、2019年度だけでおよそ1900億円に上っています。

政府は、ODAの新規の供与を当面見送る方針ですが、継続案件も含めた全面的な停止など、より厳しい対応を求める声も出ています。

これに対し、政府は、「事態の推移や関係国の対応を注視しながら、どういった対応が効果的か、よく考えていきたい」としていました。

軍の変化を促すため、ODAカードを効果的に切ることが出来るのか、日本の外交の力が試されているといえます。

経済面での圧力の強化を求める声も強まっています。ミャンマーには、軍と関係する2つの大手複合企業があります。

傘下に不動産や建設、金融など幅広い業種を手掛ける100社以上の企業があり、その収益が軍の資金源になってきたと指摘されています。

米国は昨年この2社に、資産凍結などの制裁を科し、ブリンケン国務長官は、先週、各国の政府や企業に、軍の資金源を断つため、ミャンマーへの投資を見直すよう訴えました。

日本企業も無関係ではありません。大手ビールメーカーの「キリンホールディングス」は、制裁対象の企業と合弁でビール事業を行っています。クーデターのあと、キリンは提携を解消する方針を発表しました。

また、日本のODAで、ヤンゴンに建設されている橋の工事では、元請けの日本企業が制裁対象の企業に橋げたの製造を発注しています。

この元請け企業は、「制裁を受け、今後の対応を検討中だ」と話しています。

さらに、日本の官民ファンドやゼネコンが関わっているヤンゴンの商業施設の開発事業は、事業用地の賃料が国防省に支払われています。

軍の資金源になっているという批判に対し、官民ファンドは、「最終的な受益者は、軍ではなくミャンマー政府だと認識している」と話しています。

軍系企業の活動内容は公表されていない部分が多く、ミャンマーで事業を続ける進出企業は、ビジネスが本当に軍の利益になっていないか、細心の注意を払う必要があります。

経済制裁は、市民の生活にも大きな影響を与えるおそれがあります。それでも、常軌を逸したともいえる軍の弾圧を止めるには、制裁の強化しかないという声は、そのミャンマーの市民の間からも強まっています。

日本を含む国際社会には、こうした声をどう受け止め、どう対応するのか、判断が迫られています。

ただ、岸田政権においては、こういうことを検討する前にすべきことがあります。

日本政府は国際社会と一丸になるどころか、効果のない「独自路線」を取ってきました。成果が全く出ていないのにも関わらず軌道修正を頑なにしません。

また、岸田首相はミャンマーの「軍事政権」を「ミャンマー政府」と表現。こうした答弁自体が国軍にお墨付きを与えることになってしまうのです。

ミャンマー駐日大使 ソー・ハン氏

さらに、安倍元総理の国葬儀にミャンマーの駐日大使を招いたということについて、民主化運動を弾圧するような軍事政権に、お墨付きを与えるに等しいのではないでしょうか。

国会で岸田首相はミャンマー軍事政権の駐日大使を国葬儀に招いた件について、関係を断たないようにために必要だったとの旨の答弁をしました。民主主義をないがしろにして人権侵害をしている国を国葬儀に招かずとも、国交はあるわけですし、事務方レベルで調整できているので、参列者を増やすために手段を選ばなかっただけだと考えられます。

まずは、岸田政権は、ミャンマーの軍事政権に対する姿勢を改めことからはじめるべきです。

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2022年10月25日火曜日

英保守党内の分断深刻 総選挙へ結束課題 スナク新党首―【私の論評】新首相になっても安定しない英国の保守党内政局(゚д゚)!

 英保守党内の分断深刻 総選挙へ結束課題 スナク新党首



 辞任を表明したトラス英首相の後任として与党保守党の新党首に決まったスナク元財務相にとって、最大の使命は遅くとも2年余り先に行われる総選挙での勝利だ。

 そのためには自身の出馬表明でも触れた党の結束が必須だが、党首選の過程で明らかになったのは党内の深刻な分断だった。

 今回の党首選でジョンソン前首相を担ぐ動きがあったのも、カリスマ性があり前回総選挙で党を大勝に導いた「勝てる党首」に期待してのことだ。だが、スキャンダル辞任から間がない再登板の動きに、反ジョンソン派は激しく反発。ジョンソン氏は出馬断念に追い込まれた。

 ジョンソン氏は声明で「党が団結しなければ効果的な統治はできないため、それ(出馬)は正しいことではないとの結論に至った」と出馬断念の理由を説明した。だが、選挙戦を回避しても団結を実現するのは容易でない。

 そもそもジョンソン政権は、スナク氏の財務相辞任を機に一気に崩壊に追い込まれた。スナク氏をジョンソン氏退陣の引き金を引いた「戦犯」と見る議員には、スナク氏に対する反感が依然として根強い。ジョンソン氏が党首選でモーダント氏に連合を持ち掛けたともいわれる。

 トラス氏の辞任は、大型減税を柱とする経済対策が市場の混乱を招いたためだが、重要閣僚の辞任や下院採決での党上層部によるパワハラ疑惑など、党内の混乱が直接のきっかけだった。スナク氏が早期に党内融和を実現できなければ、支持率ではるか前を行く野党労働党の背中は遠のくばかりだ。 

【私の論評】新首相になっても安定しない英国の保守党内政局(゚д゚)!

このブログでは、トラス首相の辞任は、経済政策がどうのこうのということよりも、政治的な動きがトラス氏を追い込んだというのが正しい見方であると主張しました。また、トラス辞任劇の裏側も新首相が決まってから、しばらくすれば表に出てくるであろうことも主張しました。

上の記事は、まさにそれを示していると思います。これからも、英保守党内の内輪話が出てくると思います。8月に保守党の代表選があったとき、最後にトラス氏とリシ・スナク氏の2人が戦っていました。しかし、保守党内ではジョンソン前首相を含めると、誰が最も良いかと問われたら圧倒的にジョンソン氏に人気がありました。

ジョンソン氏は6月に保守党内での信任投票でも信任されましたし、さらには2019年12月の総選挙でも圧勝していました。

ボリス・ジョンソン氏

スナク氏の人気は元々は保守党内では低かったのです。なぜなら、スナク元財務大臣は、ジョンソン政権の下でいち早く閣僚を辞任し、その後の政権崩壊のきっかけをつくった裏切り者という印象が強まったことや、財務相として国民の生活が非常に苦しい状況で数十年ぶりの規模の増税案を提示したからです。

そもそもジョンソン氏を引き摺り下ろす必要がなかったのではないかという不満が強いのです。

一方で、ジョンソン氏は既に完全に信頼は失われていました。それなのに、まだ数ヵ月しか経っていない状況でもう1回ジョンソン氏が出てくるのはおかしいのではないかという意見が国民の間にも保守党の間にもあります。どちらが勝っても、かなりしこりが残る結果になるとみらていました。

保守党所属議員らの多くは恐らく、保守党には経済運営能力がないと判断されて2025年までに実施される総選挙で敗北するのを懸念し、スナク氏を党首に選んだのでしょう。

しかし党内右派はスナク氏の増税路線を好ましく思っていませんし、党内のリベラル寄りの勢力はスナク氏が英国の貿易活動の妨げになった欧州連合(EU)離脱を支持したことで不信感を持っています。

一方英国はEU からの安い労働力を絶たれることにより、生産性低迷という長期的課題と、エネルギー料金高騰に伴う生活費危機という大きな問題に直面しています。そうなるとスナク氏と市場の蜜月関係が一段落してしまえば、同氏は議会と国民の支持を確保し続けるのが難しくなるでしょう。

日本の物価は3%上昇ぐらいですが、英国経済は物価が9%ぐらいまで上がっていて日本よりもはるかに大変な生活苦が国民を襲っています。トラスの減税策は、決して完璧な間違いとまでは言えないと思います。

8月の消費者物価指数世界比較 クリックすると拡大します

スナク氏は財政を思いっきり締めると言われています。国民生活が物価高で疲弊しているなかで財政を締めた場合、国民が生活がどんどん苦しくなるなります。

財政を引き締めたとしても、海外由来のエネルギーや資源価格の高騰を直接抑えることにはつながらず、国民の不満は高まり、2年後の総選挙には勝てないという声が、保守党内で巻き起こり、そうなると、スナク氏も減税策を取らざるを得ない状況に追い込まれる可能性もあります。


英国物価推移 クリックすると拡大します

通貨安であることが、英国経済を助けていることは間違いありません。自国通貨安はしばしば「近隣窮乏化策」とも言われますが、逆にいえば自国経済は良くなることを意味しているからです。スナク氏がこれに気が付き通貨安を活用する方向に舵を切れば、今後英国経済も政局も安定するかもしれません。

しかし、そうはせずに、緊縮財政を続ければ国民生活はますます苦しくなります。すぐに減税策に走れば、スナク氏の経済政策は間違いだったことを認めることになります。いずれに転んでも、保守党内の政局が動けば、トラス氏のように辞任せざるを得ない状況に追い込まれるかもしれません。

日本でも、安倍総理がお亡くなりになってから財務真理教が様々な場面でせり出してきており、防衛増税や年金の支払期間の延長など、緊縮財政を実行しようとしています。日本でも、岸田政権が緊縮に動けば、英国のように党内政局が動き、不安定化の要因になります。

今後英国の政治は不安定化するのは間違いないようです。

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2022年10月24日月曜日

「32年ぶりの円安」が日本にとって大チャンスである理由…バブル期との決定的な違い―【私の論評】安倍元総理が亡くなってから、急にせり出してきた財務省に要注意(゚д゚)!

「32年ぶりの円安」が日本にとって大チャンスである理由…バブル期との決定的な違い

メディアの印象操作に欺されるな

 為替が1ドル150円近辺と、1990年以来の水準と報じられ、大騒ぎになっている。地上波の大阪朝日放送『正義のミカタ』で、筆者もこれを解説した。

 そもそも、円安はGDPプラス要因だ。古今東西、自国通貨安は「近隣窮乏化政策」(Beggar thy neighbour)として知られている。

 通貨安は輸出主導の国内エクセレントカンパニーに有利で、輸入主導の平均的な企業に不利となる。全体としてはプラスになるので、輸出依存度などに関わらずどのような国でも自国通貨安はGDPプラス要因になる。

 もしこの国際経済常識を覆すなら、世紀の大発見だ。

 このため、海外から文句が来ることはあっても、国内から円安を止めることは国益に反する。本コラムで書いてきたように、これは国際機関での経済分析からも知られている。ちなみにOECD(経済協力開発機構)の経済モデルでは、10%の円安であれば1~3年以内にGDPは0.4~1.2%増加する。


 それを裏付けるように、最近の企業業績は好調である。直近の法人企業統計でも、過去最高収益になっている。これで、法人税、所得税も伸びるだろう。

 しかしマスコミ報道は、こうしたマクロ経済ではなく、交易条件の悪化などごく一部の現象のみを取り上げて「円安が悪い」という印象操作をしている。

 円安がGDPプラスになるということだけで、経済全体の事情は示されている。そこで経済学的な議論はおしまいだ。しかしテレビ番組では、一般の人にもわかってもらう必要がある。筆者が番組スタッフに「円安で起こる悪いニュースと良いニュースを探してくれ」と頼んだところ、次のような資料になった。


 円安の結果で、一世帯あたりの年間負担8.6万円と経常収益28.3兆円という数字が並んでいる。

 日本の世帯数は5400万なので、家計全体の負担は4.6兆円になる。一方、企業収益は28.3兆円で、前年比17.6%増なので5兆円プラスで家計全体の負担を相殺できる。
 
 バブル期は酷いインフレではなかった

 実際の番組では話はこの通りでないが「まだ政府の儲けがあるので、日本経済全体では大丈夫」と言った。儲けているカネで、困っている人への対策に回せばいいのだ。それは政治の問題でもある。

 そもそも、今回の円安は32年ぶりだという。32年前というと1990年バブル絶頂・崩壊時だ。その当時のマクロ経済指標はどうだったのか。名目GDP成長率7.6%、実質GDP成長率4.9%、失業率2.1%、CPI上昇率3.1%だ。文句のつけようもない数字だ。バブル期というと酷いインフレと思い込んでいる人もいるが、そうでない。

 テレビ番組でも、MCの東野さんから「32年前はウキウキしていたが、今は違うではないか」との質問があった。これはまともな質問なので、「バブル時に取られた政策が間違いで、今になっている」と答えた。バブル潰しのための金融引き締めだった。

 頭の体操だが、その当時に今のインフレ目標2%があったらどうなのか。

 昨今の欧米の例をみても、4%くらいまでは金融引き締めをしないのが通例なので、金融引き締めをしてはいけないことになる。

 当時、マスコミは日銀の三重野総裁を「平成の鬼平」ともてはやして、金融引き締め(金利引き上げ)を後押しし、日銀も従ったが、それは間違いだった。筆者の見解では、日銀はこの間違いを「正しい」といい続け、間違いが繰り返され、失われた平成不況の元凶になった。

むしろ円高・デフレがまずかった

 それを示すのが、次の図だ。カネの伸びと名目経済成長はかなり関係している。


 バブルの前、日本のカネの伸びはそこそこで経済成長も良かった。しかし、マスコミはバブルを悪いモノとしていた。


 そしてメディアの論調に押されて、バブル潰しのために金融引き締めをして、それが正しいと思い込んだ日銀は金融引き締めを継続した。その結果、日本のカネの伸びは世界最低級となり、成長も世界最低級になってしまった。

 ちなみに、カネの伸びが低いとモノの量は相対的に多くなり、その結果、モノの価値が下がり、デフレになりがちだ。バブル潰しの結果、金融引き締めを継続したのが、デフレの原因である。

 アベノミクスは、それを是正するものだった。カネの伸びは世界最低級からは脱出したが、まだ十分とはいえない。

 また、日本のカネの伸びは、他国のカネの伸びに比べて低い傾向になるので、結果として円の他国通貨に対する相対量が少なくなり、円高に振れがちだ。なので、バブル以降、デフレと円高が一緒だったのは、カネの伸びが少なかったことが原因だ。

 GDPをドル換算して日本のGDPランキングが下がったといい、円安を悪いものとして煽る論調があるが、円払いの給与のほとんどの日本人には無意味なことだ。むしろこれまでの円高・デフレで成長が阻害された結果を表していると見たほうがいい。

 もっとも、1990年と今との違いに対外純資産がある。1990年末は44兆円だが、2022年6月末(一次推計)は449兆円。円安メリットは大きくなっている。その中でも最大のメリットを享受しているのは外国為替資金特別会計(外為特会)で外貨資産を保有する日本政府だ。
 
  どんどん為替介入を

 筆者からみれば、外為特会は霞が関埋蔵金の一つであり、かつて小泉政権の時に、財源捻出した経験がある。その当時は政府内で調整が行われたが、岸田政権で埋蔵金を指摘するようなスタッフはいないので、国会で議論されたのだろう。いずれにしてもできないという理由は分からない。

 国民民主党の玉木雄一郎代表が10月6日の衆院代表質問で、外為特会の含み益が37兆円あることを指摘し、円安メリットを生かすのなら、その含み益を経済対策の財源に充ててはどうかと提案した。

 これに対し岸田首相は「財源確保のために外貨を円貨に替えるのは実質的にドル売り・円買いの為替介入そのもの」などと述べ、否定的だった。

 18日の衆議院予算委員会では、鈴木俊一財務相も、外貨資産の評価益を経済対策の財源とする提案について「その時々で変動する外国為替評価損益を裏付けとして財源を捻出することは適当でない」と語った。

 一方、円安に対し、鈴木財務相は「円安を食い止めるための為替介入も辞さない」と繰り返して主張している。

 財源とするのは否定するが、介入は行うとの発言であるが、この二つの発言は矛盾している。

 というのは、含み益を実現益とするためには、外為特会で保有しているドル債を売却するわけだが、その売却行為自体が為替介入そのものだからだ。実現益は出したくないが、為替介入するという発言を同一本人が言うとは理解できないし、マスコミや国会はこのような矛盾点を指摘しなければいけない。

 為替介入は1回あたり大きくとも数兆円程度の規模だ。1日の為替取引は大きい。国際決済銀行の2019年のデータでは、1日の平均取引量は6.6兆ドル(1ドル140円とすれば約1000兆円)である。ドル・円の取引はシェア13%なので130兆円程度だ。これでは、当局が介入しても、量的には雀の涙であり、1~2日の間、介入効果はあるように見えてもすぐになくなる。

 であれば、どんどん為替介入すればいい。そのたびに為替評価益は実現益に変わる。その実現益を財源対策にすればいいだけだ。

 含み益を実現益にするためには、ドル債の売却は金融機関相手でなく政府内の特会会計間取引でもいい。その場合、為替介入は事後的にわかるがその時にはわからない。国際的な為替操作を気にするのであれば、この手法でもいい。

 いずれにしても、外貨債を持っている日本人にとって円安メリットは現実のものだ。最近の円安によるGDP増加要因で、日本経済は1~2%程度の「成長ゲタ」を履いており、他の先進国より有利になっている。1990年の失敗を繰り返さず、この好機を逃してはいけない。

 以上の記述を含めバブル崩壊をはさんだ戦後経済史に興味のある方は、筆者の『戦後経済史は嘘ばかり 日本の未来を読み解く正しい視点』(PHP新書)をご一読いただきたい。

髙橋 洋一(経済学者)

【私の論評】安倍元総理が亡くなってから、急にせり出してきた財務省に要注意(゚д゚)

「1990年以来、32年ぶり」とよく言われますが、1990年の経済状況はどうだったかと言うと、名目経済成長率が大体8%ぐらいで、実質経済成長率が5%でした。失業率が2%台で、インフレ率が3%台でした。このどこが悪いことなのでしょうか。32年前に戻れるなら、それは日本経済にとって良いことです。


多くの人が、これを「悪い」と思っているようですが、かなり良い状態です。上の記事にもでてきた、近隣窮乏化は、普通は他の国から苦情が出るのが普通ですが、現状ではそのようなことがないので、非常に良い状況です。 

このようなことは、初めてかもしれません。 それどころか、バイデン大統領はドル高容認発言をしています。 IMFの世界経済見通しでも、来年(2023年)の日本は先進国のなかでも高い成長率が予測されています。日本経済は、円安によって下駄を履かせてもらっている状況です。これは様々な産業の日本回帰への絶好のチャンスです。

超円高のときには、日本で部品を組み立てて、海外に輸出するよりも、中国や韓国で組み立てて、そこから輸出したほうがはるかにコストを低減できるという状況でした。中国や韓国がぬるま湯に浸かっていたような状況の一方、日本企業は手足を縛られたような状態でした。様々な産業が日本国外に出ていきました。

今度は、円安で「サプライチェーンを中国や韓国から奪う」という時代に入ることになります。

サプライチェーンの見直しは、まさに経済安全保障の議論のなかでずっと言われていたことですが、ここまでの為替水準になると、いろいろな産業をの国内回帰させることができますし、、実際にそのような企業も増えつつあります 。

経済安全保障推進法などは、高市早苗氏の活躍も実際に法律になっていますが、この考え方も「中国からサプライチェーンを奪う」というところまでにはなっていません。現実が追い越してしまったので、法改正はもちろんのこと、追い付かなければいけません。

 すでに、現実に「サプライチェーンを奪う」という時代になっているのです。あの法律は、「なるべく中国に日本のサプライチェーンを獲られないようにしましょう。この法律は、「サプライチェーンの中軸は中国なので、なるべく防ぐべき」という考え方の法律に留まっています。 

経済安全保障推進法は。 現実にあわせてさらに、前に進まなければなりません。現実にあわせて自ら法改正をすべきです。

安倍元総理は、総理大臣時代に日本戻ってくる企業に補助金を出しました。現在国会で審議されてる対策も、この補助金はあります。今後は、そのような企業がもっと増えるはずです。実際、戻りたいという人も多いです。

かつてアジア通貨危機のときに、「カントリーリスク」ということがずいぶん言われました。最近はやや死語のようになっていますが、中国はカントリーリスクの塊です。そのようなところにサプライチェーンを依存したくないという思いは、日本だけではありません。

 カントリーリスクは日本貿易保険(NEXI)が発表しています。A~Hまでカテゴリーがあって、ロシアはHぐらいなのですが、中国はCです。全くあり得ないことです。 日本政府は中国に対して甘すぎます。 

中国に技術を盗まれてしまうリスクもありますし、罰金のようなものを科せられたり、人が拘束されるなど、様々なことがあり得ます。 

中国のカントリーリスクは、アジア通貨危機のときに言われた諸国よりも根深いですし、いまの中国共産党大会を見ていても、改善される見通しがないどころか悪化しています。 

現在の中国は、ますます習近平に対する個人崇拝の道に進んでしまい、誰も何も言えなくなっています。そのようななかで、経済だけがうまく資本主義で回るはず等ありません。

中国の経済政策は、独裁の手助けをさせようとしているだけです。本来の「自由意志によって経済を司る」という考え方がまったくないので、巨大なカントリーリスクです。何があってもおかしくありません。

アジアで本当に資本主義国として自立できる可能性があるのは、日本しかありません。円が安くなったと言っても日本のGDPは世界3位なのですから、発想の逆転が必要です。 

為替について、日本ではマスコミなどを筆頭に、「円高のときにネガティブに考えるし、円安のときもネガティブに考えます」本当に不思議です。GDPが減ってしまうので、円高のネガティブは理解できるところがありますが、円安でネガティブになるべきではないです。

最近の、企業の実績を見ても、「税収は70兆円までいくのではないか」と言われています。法人企業統計でも、企業の収益は過去最高です。

ただ、「なぜ円安になるとGDPが伸びるのか」という説明はほとんどされません。 簡単に言ってしまえば、円安では輸出関連が有利になって、輸入関連が不利になります。

世界の檜舞台で競争するので、輸出関連企業には優良企業が多いです。優良企業の業績に、他の円高によるデメリットを平均的に与えたにしても、総合的にプラスになるということで日本全体のGDP は伸びるのです。

よって、いずれの国においても実は自国通貨安の方がGDPは伸びるのです。これは輸出依存度に関係ない世界であり、世界貿易の常識です。もしこの常識を破るような理論がでてきたとすれば、その理論でノーベル経済学賞を獲れると思います。

日本人が日本で、普通に生活していると、円安になった場合、特に輸入しているものの物価が高くなってしまうので、デメリットになります。そこは政策でカバーできます。 

国全体が経済がプラスになります。大事なことは、「国のなかで誰が最もプラスになったのか」を探すことです。そうなると、日本国政府が最もプラスです。日本国政府は約180兆円の外債投資をしているので、含み益だけで40兆円ほどあります。

上の記事にもあるとおり、小泉政権のときに、高橋洋一氏はこれを埋蔵金と呼びましたが、今回もまた同じことを言っているだけです。 小泉政権のときにあった埋蔵金は、60兆円ほどでしたか。それに外為特会も入っていたので、財源として捻出しました。

当時はそこまで円安ではなかったので、さほどではありませんでしたが、今回の円高は当時よりも規模が大きいです。いまでも40兆円ほどあります。現在円高で最も儲けているのは誰かといえば、それは日本国政府です。

為替特会の財源化等も含めて、当然、消費減税も考えるべきです。岸田総理は消費税は、「社会保障の財源」と主張していますが、これはこのブログても過去に主張してきたように、明らかに間違いです。社会保障は保険であり、消費税をこれにあてるなどという考えは、根本から間違えています。

円安を活用するためには、消費税減税も含めて、いままで財務省が否定してきた政策を取らなければなりません。そうしなければ岸田政権は反転攻勢はできないです。 高橋)心強いですね。 

岸田総理にそれができるかどうか。岸田総理は、安倍元総理が亡くなってから、より財務省に近くなっているともいわれています。ただ、岸田総理が財務省に寄って行ったというよりは、財務省が「グッ」と身を乗り出してきた感じが明らかにあります。

安倍元総理が亡くなってから、急にせり出してきました。 防衛予算の話でいくと、法人税や所得税など、税金を上げる、いわゆる防衛増税すり替わってしまっているのは、まさにそういうところです。


ただ、この防衛増税は、自民党の保守派の怒りに油を注いでしまったようです。先程も述べたように、政府は円高で潤っており、これを防衛費にあてるとともに、他の施策も実施すべきです。

以前もこのブログで述べたように、財務省で出世するにはできるだけ、多くの緊縮・増税をするかが決め手になります。これこそ、「財務真理教」です。

彼らは国益よりも省益、自分の出世と天下りが大事なのです。財務省入省後に厳しい洗脳が始まります。円安で政府が儲かった分を防衛費に廻すなどのことはせずに、防衛増税をしてその結果日本が再び失われた30年に見舞わて、国民が苦しもうが、全く頓着しないのですから、異様なカルト集団といわざるをえないです。

日本では、統一教会が問題視されていますが、一番問題なのはカルトの財務真理教です。このようなカルトになぜ、大勢の政治家が恭順するのか、理解できません。

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2022年10月23日日曜日

安保、資源で「準同盟」強化 中国を警戒、重なる思惑 日豪―【私の論評】2015年の安倍政権による安全保障法制の整備がなければ、豪州をはじめとする他国の関係はかなり希薄なものになっていた(゚д゚)!

安保、資源で「準同盟」強化 中国を警戒、重なる思惑 日豪

コアラを抱いて記念撮影するオーストラリアのアルバニージー首相(左)と岸田首相=パースで2022年10月22日

 日本とオーストラリアが安全保障協力を深化させる新たな宣言を打ち出したのは、インド太平洋地域で軍事力を背景に影響力を増す中国に対抗するためだ。 【写真】談笑しながら会談へ向かうオーストラリアのアルバニージー首相と岸田文雄首相  約15年前に締結した共同宣言に中国の脅威を念頭に置いた文言はなく、今回の「改定」で現実の安保環境を踏まえた内容にリニューアルした。「準同盟国」と位置付ける豪州との連携強化で「増大するリスク」(新宣言)に備える。  両首脳が新宣言に署名した22日はくしくも中国共産党大会の閉幕日と重なった。岸田文雄首相は共同記者発表で「安全保障、防衛協力をさらに深化させる充実した内容だ」と意義を強調。アルバニージー首相も「この画期的な宣言が地域に強力なシグナルを発信する」と息の合ったところを見せた。  日豪は07年3月に当時の安倍晋三首相とハワード首相が安保共同宣言に署名し、徐々に関係を進めてきた。ただ、豪州は中国との自由貿易協定(FTA)が15年に発効するなど、中国との貿易関係も重視してきた。

豪ハワード首相(左) と安保共同宣言に署名する安倍首相(右 ) 
 豪中関係は、
新型コロナウイルスの発生源を巡り、豪州が20年に独立した調査を求めたことに中国が反発して冷え込んだ。今年4月には、安保上の「要衝」である南太平洋のソロモン諸島と中国が安保協定を締結するなど、豪州にとって中国が懸念材料となっている。  一方、日豪は21年、海上自衛隊の護衛艦が豪軍艦艇を警護する「武器等防護」を実施。自衛隊が米軍以外を警護するのは初めてだった。22年には日豪の部隊が互いの国を訪問する際の法的地位などを定めた「円滑化協定」で合意した。外務省幹部は「唯一の同盟国・米国を除けば、豪州は日本にとって特別な地位にある」と指摘する。  豪州側も米国、インドを加えた日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」などを軸に、中国の覇権主義的な動きを押しとどめたい考えだ。  ◇会談場所はLNG輸出拠点  日豪首脳が会談場所に選んだ豪州西部パースは液化天然ガス(LNG)や鉄鉱石の輸出拠点として知られる。豪州は日本が輸入するLNGの約4割、鉄鉱石の6割を供給する一大資源国だ。  今回の訪豪は、ロシアのウクライナ侵攻に起因する原材料価格上昇への対策も重要テーマだった。岸田首相は共同記者発表で「協力をさらに進展させることで一致した」と資源・エネルギーの安定供給確保をアピールした。 

【私の論評】2015年の安倍政権による安全保障法制の整備がなければ、豪州をはじめとする他国との関係はかなり希薄なものに(゚д゚)!

22日に署名された日豪共同宣言の第6項

「我々は、日豪の主権及び地域の安全保障上の利益に影響を及ぼし得る緊急事態に関して、相互に協議し、対応措置を検討する」(日本外務省による和文)

岸田文雄首相とオーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相が22日に署名した新し「安全保障協力に関する日豪共同宣言」の第6項に盛り込まれた文言です。

共同宣言は拘束力を伴う国際条約ではありません。このため、他国から武力攻撃を受けた際、互いに防衛義務を負う軍事同盟とは異なります。それでも、共同宣言の一文は、有事の際に日豪が共同作戦を行う可能性に道を開いたものとして関心を集めています。

日豪が戦火を交えた第2次世界大戦の終結から77年。安倍晋三元首相とジョン・ハワード元首相が2007年に締結した最初の安保共同宣言から15年を経て、安保協力を強化してきた両国関係は非公式に「準同盟」とも称されます。今回の新しい共同宣言は、中国の海洋進出やロシアによるウクライナ侵攻など激変する安全保障環境に合わせ、日豪の防衛協力をさらに一段と格上げした格好です。

 1942年日本軍に爆撃された豪州ダーウィン

アルバニージー首相は第6項の文言について「日豪の戦略的連携の強いシグナルを送るものだ」と述べた上で、「緊急事態の相互協議への取り組みは、地域の安全と安定を支える自然な一歩となる。地域の安全保障に対して、両国は互いに責任を共有する」と指摘しました。

同日付の豪州公共放送ABC(電子版)は、「画期的な安保防衛協力の共同宣言に署名」との見出しで伝え、「安保協力の水準を著しく引き上げるものだ」と評しました。

民間シンクタンク「オーストラリア国際問題研究所」(AIIA)の代表で東アジアの国際問題に詳しいブライス・ウェイクフィールド博士はABCに対し、第6項の文言は日米や豪米の同盟関係のように明確な義務を約束するものではないものの、「相互防衛の担保に向け前進した」と解説しました。

「日本にとって(共同宣言は)安全保障上の新しい道筋となる。日本は過去に日米同盟に強く依存してきたが、現在はオーストラリアのような主要パートナーとの間で安保のネットワーク化に傾斜している」(ウェイクフィールド博士)

2014年7月1日、安倍政権は「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」を閣議決定しました。2015年(平成27年)5月14日、国家安全保障会議及び閣議において、平和安全法制関連2法案を決定し翌日、衆議院及び参議院に提出しました。

この時には、皆さんもご存知のように、国会議事堂前で大規模な反対デモが行われました。しかし、 平和安全法制関連2法案は可決され、成立しました。これを当時のマスコミや野党は、「強行採決」として反発しました。当時は、この安保法制整備がなされた途端に戦争が起こるとか、徴兵制が復活になるなどのデマが飛び交いました。

しかし、そのようなことは未だに起こっていません。むしろ、この時期に安保法制の整備がなされなければ、戦争の確立は高まっていた可能性のほうが大きいです。


2015年安保法制改正に反対する国会前のデモ

しかし、これがなければ、現在の日本とオーストラリアの関係は現在よりは、はるかに希薄なものになっていたでしょう。上の記事にもある通り、日豪は21年、海上自衛隊の護衛艦が豪軍艦艇を警護する「武器等防護」を実施しましたが、これも当然なかったでしょう。

安保法制の改正など、政権の維持だけを考えた場合、実施しないほうが良いに決まっていますが、それでも当時の安倍総理はこれを実行しました。このことがなければ、当然のことながら、今日のオーストラリアと日本との関係等もなかったものと思います。無論、現在同盟国や準同盟国などの他の国々との関係も、現在よりはるかに希薄なものになっていたでしょう。

それを考えると、安倍元総理の決断はまさに時宜を得たものでした。それだけではなく、安倍政権下において、日銀は金融緩和に転じ、雇用状況は過去にないほど良くなりました。だからこそ、多くの人は安倍元総理を支持し、安倍政権は憲政史上に残る最長の政権になったのです。国会前で大騒ぎのデモの参加者も単なるノイジー・マイノリティーであることがはっきりしました。

岸田総理には、安倍元総理のように一時政権支持率を下げても、国民国家のために、実施すべきことはするという決断力があるのでしょうか。岸田総理にも安倍元総理のような政治家としての矜持をみせてほしいものです。

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2022年10月22日土曜日

習氏、3期目へ権威確立 李首相は最高指導部退く 中国共産党大会が閉幕―【私の論評】習近平の独裁体制構築までには、まだ一波乱ある(゚д゚)!

習氏、3期目へ権威確立 李首相は最高指導部退く 中国共産党大会が閉幕

22日、中国・北京で開かれた共産党大会の閉幕式に出席した習近平総書記(国家主席)

 中国共産党の第20回党大会は22日、北京の人民大会堂で、習近平総書記(国家主席)の権威を確立する文言を盛り込んだ党規約改正案を採択して閉幕した。

  今後5年の指導部を構成する中央委員に習氏を含む205人を選出。これにより、習氏の3期目入りが確実となった。李克強首相は同委員から外れ、最高指導部を退くことが決まった。次期最高指導部は、23日の第20期中央委員会第1回総会(1中総会)で発足する。

  李氏は、来年3月に任期切れで首相を退任した後も別のポストで最高指導部にとどまるという観測が出ていた。完全引退せず、名誉職などに就く可能性は残っている。

 党規約改正案の説明では、習氏の地位と思想に忠誠を誓うスローガン「二つの確立」について、「党が新時代に収めた重要な政治的成果」と強調。全党がその決定的意義を把握しなければならないと指摘しており、新たな党規約に盛り込まれるという見方が強い。また、党規約に「『台湾独立』に断固反対し、食い止める」と明記することも決まった。 

 党規約全文は後日、公表される。かつて建国の父、毛沢東に使われた呼称「領袖(りょうしゅう)」を習氏に適用したり、習氏の思想を「毛沢東思想」に並ぶ形で「習近平思想」に格上げしたりする案は見送られたもようだ。個人崇拝につながるという批判が強く、習氏が譲歩したことも考えられる。 

【私の論評】習近平の独裁体制構築までには、まだ一波乱ある(゚д゚)!

中国の党大会を、日本のマスコミなどは日本の国会のようなものと報道したりしていますが、それは全く違います。中国の党大会は、民主的であるかのようにみせかけていますが、ほとんどの内容が中国共産党の中で、派閥争いの結果決まっていることを公表しているにすぎません。


そのため、中国共産党にとっては、ただのイベントのようなもので、政治的にはほとんど意味を持ちません。このようなイベントをしなくても、中国の政治は中国共産党が派閥争いの結果決めたとおりに動くだけです。しかし、あたかも民主的に決めているかのように装うために、わざわざ少数民族まで集めて党大会を開催するのです。

実際、中央委員名簿も発表されますが、それは中国共産党が決めたものを発表するだけで、選挙によって選ばれているわけではありません。そういう意味では、中国にはに日本をはじめとする民主国家における政治家など一人も存在しません。すべてが官僚だともいえます。日本でも官僚は選挙で選ばれるのではなく、人事によって定められます。

では、なぜこれに多くの報道機関が注目するかといえば、本来派閥争いで決まったこと、特ににその機微に触れるようなことなど、表には出てきませんが、党大会で発表されたことによってその片鱗を知ることができ、中国の数年以内の将来をある程度予見できるからです。

今回の党大会では、党最高指導部の政治局常務委員(現行7人)のうち 李克強リークォーチャン 首相以外にも、 栗戦書リージャンシュー 全人代常務委員長、 汪洋ワンヤン 人民政治協商会議主席、 韓正ハンジョン 筆頭副首相の4人の名前が中央委員名簿になく、退任が明らかになりました。李克強が名簿から姿を消したことにより、李克強は失脚したとみるのが妥当です。

「68歳定年」が適用された場合、中央委員を退くとみられていた 王毅ワンイー 国務委員兼外相(今月69歳)は中央委員として留任しました。

23日にも開かれる党の重要会議・第20期中央委員会第1回総会(1中総会)で、総書記を含む最高指導部の政治局常務委員(現行7人)の顔ぶれが正式に決まり、3期目政権が始動する。

今回の退会では、理由は謎ですが、胡錦濤氏が退席させられる以下のシーンもあり、これ中国共産党大会の象徴的な場面になるかもしれないです。


以下に22日の党大会の主な出来事やポイントをまとめました。

胡錦濤氏が退席:閉幕式の途中、習近平(シーチンピン)総書記(国家主席)の前任者、胡錦濤(フーチンタオ)氏が男性2人によって会場から連れ出される予想外の一幕があった。退席の状況は不明だが、胡氏は不本意なように見えました。胡氏は近年、公の場で体調不良の様子を見せることが増えていました。

新たな中央委員会:党大会では党の主要指導機関である中央委員会の新たな顔ぶれが発表された。名簿に記載された205人のうち、女性は11人のみでした。全体に占める割合は約5%にとどまりました。

李克強氏が退任へ:新中央委員会の名簿には習氏に次ぐ序列2位の李克強(リーコーチアン)首相の名前がありませんでした。これは李氏が党の役職から退くことを意味します。専門家の間では、これにより権力のバランスが習氏優位に大きく傾く可能性があるとの声があります。

党規約改定:党大会では党規約の改定が承認され、「闘争」や「闘争精神」など習氏の支持する表現が複数盛り込まれました。中国の指導者は対外的な課題や脅威とみなす事象に言及する際、しばしばこうした表現を使います。富の再分配や大企業の引き締め強化を掲げる習氏の国家キャンペーンを反映して、「共同富裕」の表現も加わりました。

台湾への言及:党規約の文言を「台湾独立に断固として反対し、抑え込む」とする改定も行われました。中国共産党は台湾を実行支配したことは一度もないものの、自国の領土だと主張しています。

新たな称号なし:習氏に新たな称号などは付与されず、既に規約に明記されている習氏の政治思想にさらなる重要性が与えられることもありませんでした。専門家の間では党大会に先立ち、このどちらかが行われ、習氏の権力固めが一層進むとの見方も出ていました。

指導部の顔ぶれ:中央委員会は23日に初会合を開き、政治局員25人やさらに少人数の政治局常務委員を指名する。政治局常務委員会は中国の最高意思決定機関。習氏は党トップとして3期目入りを果たし、終身統治に道を付けるとみられている。

毛沢東に使われた呼称「領袖(りょうしゅう)」を習氏に適用したり、習氏の思想を「毛沢東思想」に並ぶ形で「習近平思想」に格上げしたりする案は見送られたということで、習近平の権力掌握は未だ完璧とはいえない状況のようです。ただ、それに向けて大きな一歩を進めたのは明らかなようです。

「習近平思想」の書籍は日本語版も出ているが、党規約にその言葉は掲載されていない

以前このブロクでも述べたように、党規約の中の習近平の思想が「習近平思想」と書かれるようになれば、そうして習近平が現役のうちにそうなれば、習近平の独裁体制が成立したとみなせるでしょうが、まだそうはなっていません。

習近平の独裁体制が確立できるかどうか、それまでにはまだ一波乱ありそうです。また、習近平が権力を握るにしても、握れないにしても、中国経済は以前このブログでも述べたように、国際金融のトリレンマと、米国による半導体の〝対中禁輸〟という2つの構造要因でこれから、従来のように伸びることありません。それどころか、かなり落ち込むことになります。

中国経済が誰の目からみても、かなり落ち込み続けることが明らかになる前までに、習近平が独裁体制を整えなければ、それは不可能になるでしょう。期限は来年中でしょう。

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2022年10月21日金曜日

トラス英首相が辞任を表明―【私の論評】今回の首相辞任は実は経済政策はあまり関係なし、純粋に政治的な動き、日本でもあるかも(゚д゚)!

トラス英首相が辞任を表明

つい一日前辞任を否定していたトラス首相

英国のトラス首相は20日、与党保守党の党首を辞任すると表明した。党首選を行い、後任を決めた後、首相を辞任する。金融市場の混乱を招いた大型減税策を撤回したものの、党内からは辞任圧力が高まっていた。トラス氏はジョンソン前首相の後任として9月6日に就任したばかりだった。

【私の論評】今回の首相辞任は実は経済政策はあまり関係なし、純粋に政治的な動き、日本でもあるかも(゚д゚)!

経済失策をめぐり批判の集中砲火を浴びるイギリスのトラス首相は10月17日夜、政策上の「過ち」を認めて謝罪する一方、首相として引き続き職務を果たすと宣言しました。

市場の混乱を招いたとされる政府の大型減税案は、首相が責任を取らせ更迭したクワーテング前財務大臣の後任であるハント財務大臣によって、ほぼすべて撤回されました。

ハント財務大臣

トラス政権が発足から約1ヵ月ですが、窮地に陥り、崩壊してしまいました。

その裏で再登板を狙うジョンソン前首相が動いていたようです。

ジョンソン氏自身は、辞めるつもりはないのに辞めました。そのときから、次の首相が「仮の首相」になるように動いていた形跡もあります。

それに嵌められて、トラス首相は経済通というわけではないので急に富裕層優遇の税制を実施したというような陰謀論までは言いませんが、「あり得るな」という感じはします。

ジョンソン前首相は、少なくとも経済の話は嫌いではありません。人脈も非常に広いので、「こうしたらこのようなことになる」と読んでいた節もなくはないです。保守党のなかでも首相擁護論はほとんど出ていません。

トラスさんに人望がないからだと言われたら、その通りなのかも知れませんが、保守党内の底を流れるものとして、ジョンソン氏の議論ががあります。その根回しは間違いなく実施されていたと考えられます。


それがアングロサクソン流のやり方です。トラス氏は、もともとジョンソン政権を最後まで支えた人という、その忠臣ぶりがありましたが、ジョンソン氏は、そのようなことは全然気にしていないようです。

それがアングロサクソン流といえるかもしれません。だからこそ、英国にはチャーチルのような人物は出てきたともいえます。あれだけ嫌われていても、戦争の危機になれば急に首相として登場し、終戦直前にになって用済みになったら首相選で落選しました。

これが英国なのです。だから生き延びてきたのです。

イギリスの現状をみて「日本も減税などしたらインフレになってしまうのだ」という意見も多く見られます。

特に、財務省はそう言いたいでしょう。おそらく、財政制度等審議会でその話をするでしょう。英国経済で言うと、EUから離脱してしまったあとに、安い労働力が入らなくなってしまったため、供給力が落ち気味になってしまったことも事実です。さらに、ウクライナ戦争で、エネルギー・資源価格が高騰しています。だから、元々インフレになりやすい状況になったのです。そこに今回のようなことがあったので、インフレになってしまったことは間違いありません。

ただ、積極財政をするにしても、減税や様々な支援策によって、エネルギー・資源価格の高騰を和らげるという政策は、決して悪い政策とはいえません。いかにも保守らしい政策ともいえます。にも関わらず、今回の辞任劇になってしまったのは、やはり政治的動きが強かったとみるべきです。

そのため、私はこれからエネルギー・資源価格がさらに高騰すれば、英国はトラス首相と同じような政策をとらざるをえなくなる可能性も十分あると思います。

そうして、インフレになってしまえば、金利高、債券安、株安になるのは当たり前です。これを日本のマスコミ等はトリプル安などと騒ぎたてていますが、実はさほどのことではありません。

現在の英国の通貨安は米国との関係があります。米国が強烈に金融引き締めをしているので、英国も日本と同じように通貨安になったのです。そうして、この通貨安は日本にとっては良いことですが、英国にとっても悪いことではありません。通貨安は近隣国窮乏化ともいわれるように、経済を伸ばすことが知られています。そのため、インフレの英国にとっては、通貨安で救われている部分はあります。

この通貨安によって、トラス首相の経済対策は、功を奏したかもしれない可能性はあります。

この通貨安でも、トラス首相は、いろいろ仕掛けられた面もあると思います。日本のように通貨安を悪い事のように吹聴することもできます。今回の辞任劇は、政治的な要素が大きいと思います。

現状では、英国は確かに金利高、債券安、株安とはなっていますが、英国の破綻確率は変わっていません。

そういう意味では、マーケットもこのような売り仕掛けが政治的であることはわかっているので、提灯がたくさんくっついて、トラス卸しが実行されたのでしょう。財政懸念がどうのというほど、実はデータ的にはそうなっていません。

破綻確率を示すクレジット・デフォルト・スワップは、少し高くなりましたが、さほどではなく、何か動きがあれば変化する程度です。それに、すぐ戻りました。破綻するという話がまことしやかに出ているわけではないのですが、マーケットへの噂などでやられたのではないでしょうか。

中長期的には、エリザベス女王2世という社会の重石を失って、かつてスキャンダルがあった国王になり、政治にもおかしな動きがありました。

スコットランドはEUに戻りたいので、分離論がまた出てきます。もし英国が分裂したら、世界の破綻要因です。

ただ、トラス氏が日本のマスコミが語るポピュリスト的経済政策で、英国経済を極度に落としたとか、落とすだろうという見方は正しいとはいえないです。高橋洋一もこの点について、少し前の動画で語っています。その動画を以下に掲載します。


経済政策がどうのこうのということよりも、政治的な動きがトラス氏を追い込んだというのが正しい見方でしょう。それにジョンソン氏だけが、政治的な動きをしたわけではないことも事実でしょう。おそらく、複数の筋が動いていたことでしょう。

今後、英国経済が極端に落ち込むこともなく、政局だけが動いているという形になるでしょう。そうして、トラス辞任劇の裏側も新首相が決まってから、しばらくすれば表に出てくることでしょう。

トラス首相は日本にとっても良い首相になるはずでしたが、今後首相が変わったにしても、日英の関係はこれからも強化されていくことでしょう。

日英はユーラシア大陸の両端に位置しているシーパワーであり、その安全のためにユーラシアのランドパワーを牽制(けんせい)する宿命を負っています。

ユーラシア大陸の両端に位置する海洋国家、英国と日本

日本は中国の海洋進出を警戒していますし、英国はロシアの覇権を抑え込んできました。英国はロシア、日本は中国と別々の脅威に対峙(たいじ)しているようにも見えますが、日本と英国は、ユーラシアというひとかたまりのランドパワーを相手にしているのであって、本質的には同じ脅威に対峙しているのです。

その両国が、TPPとクアッド+英国で、協力しあうのは、まさに理にかなっているといえます。さらには、ファイブアイスとの関係を強化していくこともそうだと思います。

今回のトラス首相の辞任劇は、純粋に英国内の政治的な動きであり、それが日英関係に悪影響を及ぼすことはないとみられます。

そうして、日本でももう少しすると、同じような動きがあるかもしれません。

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2022年10月20日木曜日

岸田政権に「防衛増税」の懸念 有識者会議も「国民負担」の議論、財務省の息のかかった人多く意見は増税一色 民主党の〝愚策〟が再現されるのか―【私の論評】異様なカルト集団 「財務真理教」に与する岸田政権は短期で終わらせるべき(゚д゚)!

日本の解き方

 防衛費の増額をめぐり、財源論や、海上保安庁の予算を含めて計上するといった議論が出ている。「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の第1回会合の議事要旨が公表されたが、防衛力の強化を適切かつスピード感をもって進めることができるのか。

 16日放送されたフジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」で、「日本はどれほどの反撃能力を持つべきか」との問いに対し、「強力な反撃能力が必要」が87%、「必要最小限でいい」が10%、「保持すべきでない」が3%だった。視聴者投票なので一定のバイアスはあるが、大きな差がついた。


 同日放送のNHK「日曜討論」では、「反撃能力」保有の是非をめぐり各党が激論した。自民党と日本維新の会は、持つべきだという立ち位置が明確だった。立憲民主党、国民民主党、公明党は、総じてやや専守防衛という範囲内で行うべきだとしており、共産党とれいわ新選組は否定的だった。

 こうした世論を反映し、有識者会議の議論も、防衛力を高めるという点で意見は一致しているようだ。ただし、有識者会議のメンバーをみて、財務省の息のかかった人が多いと思ったが、案の定だった。防衛力について「NATO(北大西洋条約機構)基準を参考」など、国内総生産(GDP)比2%目標との関係で、数字のかさ上げにつながるNATO基準が当然のように扱われていた。

 NATO基準は、海上保安庁予算や軍事関連の研究開発予算を防衛省予算と合わせて防衛費とするものだ。ただし、厳密なNATO基準では、海保に相当する湾岸警備隊が軍隊の組織下で活動できることが必要だが、日本では海保は国土交通省の機関であり、そうなっていない。

 NATO基準というなら、海保を自衛隊傘下の組織とする法改正が必要だ。そうでなければ、NATO基準なら国防関連費から外れるというべきだ。

 さらに財源となると、有識者会議は一致して増税志向で、財務省のまさに思うつぼだ。「現在の世代の負担が必要」「財源を安易に国債に頼るのではなく、国民全体で負担する」「自分の国は自分で守るのだから、国民負担」「恒久的な財源」などと、有識者の意見は増税一色だった。

 そのロジックは、国防だから国民負担というもので、11年前の東日本大震災後の「復興増税」をほうふつさせる。あの当時、復興増税が財務省主導で行われたが、震災時の増税は古今東西前例のない愚策だった。

 防衛の便益は将来世代にも及ぶので、国債も選択肢としてあり得るのに、財務省は増税ありきだ。

 NATO基準で海保予算を合算したいなら、海保の船の財源は国債であるので、増税だけをいうのは、財務省のご都合主義と言わざるを得ない。復興増税と同じで「特別会計」や「つなぎ国債」と言い出したら要注意だ。

 今は外国為替資金特別会計(外為特会)などで埋蔵金もある。当面は埋蔵金でしのぎ、その後、成長軌道に乗せ対応するという戦略もあるが、財務省は増税一本やりだ。

 復興増税は財務省の言いなりだった民主党政権で行われたが、防衛増税はどうなるのか。岸田文雄政権も民主党政権と同じなのではないか。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)

【私の論評】異様なカルト集団 「財務真理教」に与する岸田政権は短期で終わらせるべき(゚д゚)!

政府が6月31日に公表した経済財政運営の基本指針「骨太の方針」の原案には、子育て支援、防衛力強化、脱炭素投資など長期的な歳出拡大につながる項目が並んでいました。一方で、政策継続に不可欠な安定財源の確保については軒並み議論を先送り。岸田文雄首相も参院選を控え、国民や企業の負担増に口をつぐんていました。

口をつぐむ岸田総理

財源のあいまいさは成長戦略にも及んでいました。脱炭素社会の実現に向け、原案は10年間に官民で150兆円超の投資を実現するとし、そのための政府資金を「将来の財源の裏付けを持った『GX経済移行債』により先行して調達する」としました。

「GX経済移行債(仮称)」としては、将来の償還財源を明確にして発行する「つなぎ国債」としての発行が議論されているとされ、そうであれば、政府債務残高を中長期的に一段と悪化させることは回避できますが、これは財源確保の手段を事実上先送りするものであり、償還財源が十分に確保できずに将来にわたって国民の負担となり、実質増税となってしまいます。

首相は必要な政府資金の額を20兆円規模と表明していました。ただ、GX移行債の償還財源などの詳細は夏以降に首相官邸に設置する「GX実行会議」で議論するとしており、参院選後に先送りされた形でした。

この頃から、増税を懸念する人たちも多かったのですが、この頃には安倍元総理もご存命で、岸田総理に対して睨みをきかしていたので、まだ安心感がありました。

安倍元総理が亡くなられてから、しばらくたってから状況は変わりました。まるでタガが外れたように岸田政権内で、増税論議がなされています。

自民党税制調査会は11日に「インナー」と呼ばれる幹部の非公式会合を開き、2023年度税制改正に向けた議論を始めました。会長は岸田派の宮沢洋一氏が続投することに決定しました。

宮沢洋一会長は17日、共同通信などのインタビューに応じ、年末の検討課題となる防衛費増額の財源について、歳出削減で賄えない場合は増税が選択肢になるとの認識を示しました。税目は「所得税、法人税を含め白紙で検討する」と述べました。2023年度税制改正で、株式投資などを対象とする金融所得課税の強化を議論する意向も表明しました。

自民党税制調査会宮沢洋一会長

防衛費については今後5年で国内総生産(GDP)比2%以上に倍増させる議論があり、単純計算で11兆円に迫る予算が必要になる。政府内では赤字国債の発行で当面つないで、法人税やたばこ税を念頭に将来的な増税で財源を確保する案が浮上しています。

赤字国債の発行で当面つなぐとは、つなぎ国債のことを意味すると思われるのですが、つなぎ国債は3年の償還が必須で、実質増税と同じです。これとともに、「防衛費を上げるために消費税を12%にする」などという観測も出てきているようです。

増税で防衛費を賄うということなれば、日本経済はまた低迷して、防衛費が増大したにしても、日本の国力は落ち、いざ有事というときに戦費を賄うこともできず、まさに本末転倒と言わざるを得ないような状況に追い込まれるのは間違いありません。

宮沢洋一氏は、自民党税制調査会に再選されたためか、意気揚々と意気軒昂に、増税・緊縮の権化が前面に出てきました。この見解は防衛増税への布石ということでしょう。社会保障を人質に増税を迫るという姑息な手法ですが、宮沢氏は、単にお金のプール論、金本位制脳に囚われているだけです。上の記事で高橋洋一氏が語っているように、社会保障を現状維持したまま防衛費増は可能です。

安倍・菅政権のときには、安倍政権のときには2回の消費税増税をしましたが、その他の増税は抑制気味でした。三党合意のためさすがの安倍総理も防げなかった、消費税2回の増税に成功で満足すれば良いものを、とにかく増税で各省庁や外郭団体、民間企業への差配の強化で財務省の権力を増大すること、こそが、省益と考える財務省の増税や緊縮への欲望は未だ旺盛です。

その彼らの目的は、財務省を引退後天下り先で、超ウルトラリッチな生活を満喫することだけです。官僚としての矜持も何もありません。日本経済が良くなろうが、悪くなろうが、国民のことなど全く関心がありません。


以上の表で、複数の企業に天下りしていますが、これは天下りした後に別の会社に移っていることを示しています。他社に移るときには、無論高額な退職金も得ることができます。

岸田政権下で実施済みと、これから実施される可能性のある緊縮財政を以下に列挙します。
75歳以上医療費1割→2割
たばこ税増税
雇用保険料0.2%→0.6%引き上げ
防衛増税
炭素税導入
高額医療負担政府はゼロへ
長期脱炭素電源オークション、費用は国民
東西の電源融通増強、一部国民負担という方向
相続税、贈与税の見直し、中間層からの徴収強化
金融所得課税
実質増税と同じ「つなぎ国債」

本当に驚くばかりです。現在のような状況なら、普通なら減税、積極財政をするのが当たり前です。しかし、財務省に逆らえないとみられる、岸田政権はこれだけの増税・緊縮を一部は実行し、さらに俎上に載せているのです。

これを全部実施されてしまうと、日本はまた確実に「失われた30年」に突入することになります。岸田政権が長期政権になれば、これらを全部実現する可能性は十分にあります。

この状況について、高橋洋一氏は動画で以下のように述べています。


この動画簡単にまとめると、防衛増税には党内の保守派が難色をみせるのは当然であり、いずれ自民党内の政局になる可能性がでてきたということです。

このブログでも、何度か岸田政権が財務省との関係性と、派閥の力学だけで動けば、短期政権で終わると主張してきましたが、岸田政権はまさにその通りの動きをしています。

一連の増税・緊縮財政の動きは、まさに財務省との関係性で動いていることを示しています。

内閣改造では、正式の公表の前にほとんどの人事が漏れており、これは昭和時代によくあったことで、人事のほとんどが派閥との話し合いの中で行われたことを示しています。これは、まさら、派閥の力学で動いているということです。

さらに、悪いことに内閣改造は露骨に安倍派外しをしたということがわかる内容であり、これは、派閥第4位の弱小派閥がこれを行ったということで、安倍派以外の主流派派閥からも反発をかったのは間違いありません。

これでは、党内政局で、岸田政権は長期政権にはなりえないことがはっきりしたものと思います。

特に、防衛増税では自民党内の保守派は無論のこと、それ以外の保守派からかなりの反発を買ったのは間違いないです。

野田政権による消費税増税の動きに賛成の意思を示して、保守派内でも物議を醸していた、あの櫻井よしこさんですら、防衛増税にははやばやと反対の意見を公表しています。保守派にとっては、防衛増税は寝耳に水であり、とうてい受け入れられないです。

財務省で出世するにはできるだけ、多くの緊縮・増税をするかが決め手になります。これこそ、「財務真理教」です。彼らは国益よりも省益、自分の出世と天下りが大事なのです。財務省入省後に厳しい洗脳が始まります。円安で政府が儲かった分を防衛費に廻すなどのことはせずに、防衛増税をしてその結果日本が再び失われた30年に見舞わて、国民が苦しもうが、全く頓着しないのですから、異様なカルト集団といわざるをえないです。

岸田政権は、長期政権にしてしまえば、自民党はもとより、日本国そのものを毀損することが明白になりました。日本国、日本国民のために短期で終わらせるべきです。

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2022年10月19日水曜日

北朝鮮が法令で定めた核兵器使用で高まる戦争の可能性―【私の論評】実は北も多いに脅威に感じている中国に対処することこそ、日米韓が協力していくべき理由(゚д゚)!

北朝鮮が法令で定めた核兵器使用で高まる戦争の可能性

岡崎研究所

 9月22日付の英Economist 誌が「金正恩が彼の核兵器への権限を委譲することを考えている。この政策は抑止力を強化するが、事故のリスクを高める」と論じている。

 尹錫悦韓国現大統領は、繰り返し自国の「kill chain」計画(攻撃が差し迫ったと考えられたら、北朝鮮のミサイル施設とその指導部を先制打撃するシステム)について言及した。

 金正恩は9月8日の演説で「核兵器が地上にある限り、かつ帝国主義が残る限り、決して核を手放さない」と述べた。彼は北朝鮮がいつ核を使うかを明らかにする法令を公布した。核兵器は指導部と核司令部が「危険に晒された」ときに、「自動的かつ即時に」発射されうることになった。

 この動きは北朝鮮の抑止力が相当成熟したことを示す。以前は金が核を使う唯一の権威であった。新法は金が核兵器に関する唯一の指揮を持つとするが、彼がその権限を委譲する可能性を開いている。法令は、金の命や彼の政権を支えている兵器へのいかなる攻撃も核戦争になり得るとした。

 核のボタンに指を置いている人は、兵器が常に必要な時に使えると同時に、適切な許可なしには決して使われないことを欲するが、核についての権限移譲は、無許可使用と事故による使用のリスクを高めることになる。

 金王朝は70年間続き、軍がクーデターをできないようにしてきた。部下に核コードを引き渡すと、彼らに金正恩を不安にする力を与えることになりかねない。核攻撃を始める権限を前もって与えることは技術的、人間的エラーの可能性を増やす。間違った攻撃探知システムからの情報に基づいて司令官が攻撃を命じることはありうる。

 このようなリスクは韓国と米国に注意深く行動する動機を与えるかもしれない。金が新兵器を開発するのを止めるものはほとんどない。金政権には脅しや制裁は効かない。

 尹大統領の非核化への「実質的進展」と引き換えに北朝鮮経済への協力をするとの提案は全くの軽蔑で迎えられた。金の妹は尹を「ナイーブな子供」と呼んだ。

 核の脅威は金政権の存続を助けている。しかし彼の許可なしに核兵器が発射されれば、彼は究極的な敗者になろう。米国と韓国は核使用は彼の政権の破滅になると明言してきた。

* * * * * *

 北朝鮮の最高人民会議は9月8日、核兵器の使用の原則や条件を盛り込んだ法令を採択した。この法令は11項目からなる。

 金正恩国務委員長が核兵器に関するすべての決定権を持つとしつつ、「指揮統制システムが敵の攻撃の危機に瀕した場合、自動的かつ即時に敵への核攻撃を断行する」としている。具体的には「核兵器や大量殺りく兵器による攻撃のほか、国家指導部と核兵器の指揮機関、国の重要戦略対象に対する攻撃が、行われたり差し迫ったりしたと判断した場合、核兵器を先制攻撃に利用する」としている。

 この法令が金正恩から部下に核兵器に関する権限を委譲するものかどうかは明確ではないが、「自動的かつ即時に敵への核攻撃を断行する」ためには、このエコノミスト誌の解説記事が指摘するように核兵器に関する権限の委譲が必要なように思われる。そしてそれは人間的、技術的エラーによる核戦争の開始の可能性も高めるだろう。

日本を取り巻く国際戦略環境は悪化するばかり

 金正恩は「核兵器政策の法制化により、(北朝鮮の)核保有国としての地位が不可逆的になった」と演説で述べた。松野博一官房長官は「北朝鮮の完全な非核化に向け、日米や日米韓で緊密に連携していく」と述べたが、完全な非核化は当面達成できない目標であると思われる。願望の表明は政策にはならないことを踏まえ、対北朝鮮政策を今一度日米韓3カ国でレビューする必要があるのではないか。

 特に北朝鮮の首脳を標的にする「kill chain」計画を声高に話すことにはあまりメリットがないと思われる。核兵器の使用については、米国は permissive action link というものを開発してきた。これは要するに大統領が特定の暗号を特定の器具に入力しないと米国の核兵器は起爆しないというものである。

 北朝鮮も類似の技術を開発し、持っていると思うが、その詳細は分からない。今度の法令についても、慎重に対応すべきであり、より詳細かつ正確な情報を日本として確保、分析し、対処の方針、政策を立てる必要がある。

 最近、特に本年(2022年)の北朝鮮のミサイル発射の頻度と、その性能向上の現実に鑑みると、核保有国としての北朝鮮の動向は、相当危険な方向にあり、日本を取り巻く国際戦略環境は、悪化するばかりであり、改善していない。日本政府の対北朝鮮政策の方針は、「核、ミサイル、拉致」問題の包括的解決であるが、北朝鮮からのミサイル発射の状況を見るだけでも、包括的解決が遠のいているように感じられる。

 日本政府が凍結させたイージス・アショアの代替案を、日本政府から米国に提案することも含め、日本自ら日米同盟を強化し、独自の防衛を強化する具体策を実行して行かなければ、現在の国際戦略状況が改善することは難しいだろう。

【私の論評】実は北も多いに脅威に感じている中国に対処することこそ、日米韓が協力していくべき理由(゚д゚)!

北朝鮮のミサイル発射をマスコミなどは挑発と言っていますが、北は安全保障のために核ミサイルの戦力化を図っていると見るのが正しいです。日米韓が北の核廃絶に努力したとしてもそれは不可能です。北の核武装を前提に我が国も安全保障を考えるべきです。北の核廃絶が出来るとは米も考えておらず、さらにはそれが良いこととも思っていないでしょう。

このブログでは、何度か掲載してきたように、朝鮮半島に北朝鮮とその核があるということ自体が、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいる面があることは否めません。

金正恩は、明らかに中国を嫌っています。それは、中国に近いとされる血を分けた金正男を 2017年に暗殺、これまた中国に近いとされた叔父の張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長を2013年に処刑しています。

金正恩が中国を嫌うのは、北朝鮮の実体は、金王朝であり、金正恩の使命は、金王朝を守り抜くことであり、中国に浸透されれば、王朝の存続が危うくなるからです。

金正恩は、中国の朝鮮半島への浸透を防ぐためにも、核ミサイルの戦力化を図っているのです。

それは、米国も理解していることでしょう。米国にとっては、朝鮮戦争の休戦ラインの現状維持をすることが、朝鮮半島情勢においては最も重要なことです。これは、中国もロシアも変わらないです。

中国にとっては、北が核を放棄することは、好ましいことであり、そうなればすぐに北に浸透し、韓国にも浸透を開始し、ある程度の年月をかけても、いずれ朝鮮半島全体を中国の朝鮮人民による自治区にするか、完全に中国に取り込み朝鮮省にする腹でしょう。

下に、中国外務省から流出したとされる極東の地図をあげておきます。この地図、どうやら偽物のようですが、それにしても、日本を中国領にすることは、米軍も駐留しておりかなり難しいと考えられますが、朝鮮半島が中国の領土となることはあり得ると思います。

無論、それに対して米国はこれに徹底的に抵抗するでしょうが、朝鮮半島全体が中国に浸透されるということは多いにあり得ると思います。北朝鮮はこれを脅威と捉えていることは間違いないでしょう。

であれば、米国にとっても、ロシアにとっても、現状維持のためにも、北に核ミサイルがあることを許容せざるをえないというのが、基本的な立ち位置でしょう。ただ、北がさらに核ミサイルの開発をすすめて、米国やロシアの脅威になることは避けたいでしょう。

最近では、ロシアはウクライナ侵略で、朝鮮半島どころではないというのが正直なところでしょう。米国としても、ウクライナの対応にかなりの労力を割かざるを得ません。そのため北朝鮮は、特に中国の脅威に対して対抗しなければならなかったと考えられます。

北としては、こうしたこともあり、朝鮮半島での軍事バランスが崩れることを恐れて、米中に向けても、一連のミサイル発射実験をしたという側面は否めないと思います。中国に対しては、現在の情勢を利用して、朝鮮半島に浸透することを牽制するためと、米国に対して、半島から目を離さないようにさせるという意味合いもあったでしょう。

北朝鮮にとって日本の位置は丁度ミサイルの実験場のようなものです。本当にグアム方面に撃って米国を激怒させれば、自国が崩壊するので、東にしか撃てないです。日本では、報道されないだけで、北朝鮮はロシアなどに向けておびただしい数のミサイルを撃っています。東方向への発射はかわいいくらいの数です。ただ、中国に対しても黄海などに控えめにときたま打っています。

何しろ、北朝鮮は中国と国境を接しています。ロシアとも国境を接していますが、国境線は長くありませんし、中国にはすぐ近くに、大部隊が存在します。これになだれ込まれれば、北にはなすすべもありません。

台湾も中国の脅威にさらされているといいながら、台湾は島嶼国であり海に囲まれていまます。北にとって中国の脅威は、台湾などよりもより切実で、切羽詰まっているところがあります。

国境を接していることから、中国の陸上部隊は、すぐに北に侵攻できます。ウクライナに国境を接しているロシアのようです。だからこそ、北としては現在核ミサイルを打って、中国に対する牽制を行う必要があったとみられます。日本では、こうした視点はほとんど語られません。米国でも語っていたのは、ルトワック氏くらいなものです。

そうして、北の安全保証の仕上げが、北朝鮮がいつ核を使うかを明らかにする法令を公布したことと、これから実行されるとみられる核実験であると見られます。これにより、金正恩はたとえ自分が暗殺されても、報復する構えであることを表明したともいえます。

それまでもそうだったのですが、ウクライナ戦争後、北朝鮮は完全に孤立している状態です。戦力的には、ミサイル以外の通常兵器は、第2次世界大戦末期のものですから、米中と戦えば5日で完敗するでしょう。

それをわかっているので、日米韓中露の演習に大反発するのです。米国のミサイルを備えた『B-2』戦略爆撃機が北朝鮮の付近を飛ぶだけでもかなり脅威を感じているはずです。この爆撃機に搭載されているミサイルは、北朝鮮のどこにでも届くからです。空母打撃群による演習もにもかなり神経を尖らせていることでしょう。

それは、中国の演習なども同じことです。台湾向けの演習であっても、すぐ近くの北朝鮮は気がきでないというのが実状でしょう。

米国の研究グループ「38ノース」は、9月下旬に北朝鮮北東部の核実験上で、クレーンを搭載したとみられるトラックの近くで高さ約11m、幅約1mの白い物体を確認したとして、7回目の核実験の準備を進めている可能性を指摘しています。 

北朝鮮は、次に小型化に関する実験をするだろうという見方は、6回目が終わった時点で強く指摘されていました。今年に入っての多様なミサイル、それらに小型化された核弾頭を積める可能性というものを示すための実験になるでしょう。

小型化に成功すれば、“火星12の性能と合わさった時にどうなるかわかるだろう”ということを振りかざしてくる可能性があるので、非常に注目していかなければならないです。

一方、核を保有しているのは北朝鮮だけではありません。日本政府は「北朝鮮のミサイル防衛」と言いますが、いい加減、ごまかすのはやめたほうがい良いでしょう。


中国軍は北朝鮮軍の数倍数十倍の対日攻撃用弾道ミサイルや長距離巡航ミサイルを取りそろえ、日本全土を焦土と化す態勢を整えているのです。

本当の脅威は中国の核ミサイルです。そこがすっぽり抜けて「北朝鮮は~」と言っているのは滑稽としか言いようがありません。米国は、北朝鮮も最大の脅威を感じている中国を見ているからこそ、日米同盟、米韓同盟の強化、日米韓も含めての安全保障協力を進めています。

北朝鮮のミサイル発射実験を注視していく必要はありますが、北も脅威を感じる中国に対する対処こそ日米韓が協力していくべき理由であることを忘れるべきではありません。

そうして、日本が中国の脅威に対抗するためには、もはや抑止力の強化しなかないことを認識すべきです。

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