2018年7月27日金曜日

日仏安全保障関係は新たな段階に―【私の論評】日本はフランスとの連携を強化し、対中国囲い込み戦略を強化すべき(゚д゚)!


岡崎研究所 

 7月13日(日本時間14日)、フランスを訪問中の河野太郎外務大臣は、フランスのフロランス・パルリ軍事大臣とともに、「日本国の自衛隊とフランス共和国の軍隊との間における物品又は役務の相互の提供に関する日本国政府とフランス共和国政府との間の協定」(略称:日・仏物品役務相互提供協定(日仏ACSA))に署名した。この協定は、日仏両国の国内手続きを経て、発効する。



 この日仏ACSAにより、自衛隊とフランス軍との間で、物品・役務の提供が円滑かつ迅速にできるようになる。具体的には、災害や共同訓練、国連PKO(平和維持活動)の際に、物資や食糧、燃料、弾薬等及びサービスを相互に融通できるようになる。この協定は、自衛隊とフランス軍との間の緊密な協力を促進し、国際社会の平和構築や安全保障に積極的に寄与するのに役立つものである。

参考:外務省「日・仏物品役務相互提供協定(日仏ACSA)の署名」平成30年7月14日
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_006238.html

 日本は、既に、米国、英国、豪州とACSAを締結している。今回、フランスと締結したことで、日仏間の安全保障関係がより緊密になるとともに、日米豪英仏が共に行う多国間の共同軍事演習等もより円滑にやりやすくなる。

 7月14日、フランスの革命記念日の軍事パレードに、日本国の代表として、陸上自衛隊が初めて参加して、共に行進をした。フランス全土や世界中から集まった人々が、フランス軍とともに、シャンゼリゼ大通りを行進する自衛隊員に声援と拍手をおくった。フランス政府及びフランス国民は、自衛隊の参加、フランスとの国際協力を積極的に評価した。

7月14日、フランスの革命記念日の軍事パレードに、日本国の
代表として、陸上自衛隊が初めて参加して、仏軍と共に行進

 今年は、日仏国交160周年の節目の年であり、文化的行事として、同日、パリ市内では、「ジャポニズム」の開会式も、河野外務大臣出席のもとに開催された。が、意外にも、フランスの一般の人々は、陸上自衛隊が革命記念日の軍事パレードに参加していることは知っていても、日仏交流160周年のことはそれ程知られていなかった。日仏交流の観点からも、フランス人が関心を持ち団結を示し熱くなる革命記念日の軍事パレードに、少人数でも日本の自衛隊が参加したことには、日本の存在を示すのに大きな意義があった。

 もう一つ、自衛隊のフランス訪問が重要だった理由は、今年が第一次世界大戦終結1918年から丁度100周年にあたる年だからだ。日本は、フランスとともに戦い、戦勝国の五大国の一員として、戦後処理や戦後の国際秩序の構築に務めた。革命記念日の前日等にパリの軍事学校内で開催された光のショーのタイトルは、「1918年、新世界」であり、フランスの歴史にとって、第一次世界大戦が重要であることは明らかだった。

 ACSAが日仏関係のみならず、多国間の安全保障協力にとっても重要だと上記したが、今年のフランス外交を振り返っても、その事は明白である。本年1月、マクロン大統領は、インドに国賓として招かれ、仏印共同声明では、仏印防衛協力の強化も謳われた。4月には、米国にもマクロン大統領は国賓として訪問した。さらに、5月、豪州にもマクロンは赴き、ターンブル首相との間で、インド太平洋地域の安全保障協力で仏豪両国が協力することを約束した。

 このようなフランス外交の流れは、日本外交の方向性と一致する。

 今年1月26日に東京で開催された日仏外務・防衛閣僚会合(「2+2」)を受けて、今回のACSA署名に至った。その間、2月には、フランスの軍艦が東京晴海に寄港し、海上自衛隊がホストした。このように、海上でも陸上でも日仏の軍事関係者が協力する時代に、今回のACSAは必要不可欠なものなのだろう。

【私の論評】日本はフランスとの連携を強化し、対中国囲い込み戦略を強化すべき(゚д゚)!

日仏ACSA締結を期に、日仏安全保障関係は新たな段階に入ったのは間違いありません。これは、フランス国内で、中国への幻想崩し、習政権警戒論が頭をもたげていることに無関係てはないでしょう。

以下に、中国共産党政権とフランスとの関係を簡単にたどっておきます。

フランスのドゴール政権は独自外交を掲げて1964年、対中国交を樹立しましたた。しかし、ミッテラン政権は天安門事件への対応を批判し、台湾に武器供与を決め、対中関係が悪化。

シャルル・ド・ゴール

2008年にはサルコジ仏大統領がチベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世と会談するなど曲折をたどりましたが、近年は原発建設などで両国関係は深まっていました。

中国の最高指導者となった鄧小平氏は1920年、16歳で勤労学生としてフランスに滞在し、中国共産党の欧州支部結成に参加。第一副首相だった75年にフランスを訪問し、共産党指導者として初めて西側を訪問しました。

鄧小平


フランスは長く米国に対抗する「独自外交」を志向したせいでしょうか、中国には好意的でした。国交樹立は1964年で、米国より15年も早いです。周恩来、鄧小平ら共産党指導者が若いころ、フランスに留学した縁もあるののでしょう。2年前、中国企業がドイツのロボット大手クーカを買収し、技術移転への警戒が広がった時もフランス国内反応は比較的鈍いものでした。

しかし今年の中国による憲法改正で、空気ががらりと変わりました。2月末、中国共産党が憲法改正案を発表すると、仏紙ルモンドはただちに「習皇帝の即位」という表題の社説を掲載。習氏は「あくなき個人権力の追求者」に成り下がったとこきおろしました。月刊誌キャピタル(電子版)も「習氏は政治自由化への期待を完全に裏切った」と断じ、権力の一極集中を進め、民主主義に逆行する習政権を批判しました。

習近平皇帝

ことさら厳しい批判は、習政権への失望の大きさを物語っています。欧州がトランプ米政権発足に戦々恐々としていた昨年1月、習氏が世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で行った演説は強い希望を抱かせました。習氏は「反グローバル化」や保護主義を批判し、「米国第一」を牽制しました。この時、ルモンド紙は習氏を「自由貿易の旗手」と手放しでたたえました。



欧州は歴史的経験から、中国は「いつか手を組める相手になる」と期待していたようです。米欧への対抗心を向きだしにするロシアとは違うと見ていたようです。

この「誤算」は、東西冷戦崩壊後の経験に由来します。欧州連合(EU)は旧ソ連圏の中・東欧を加盟国として迎え入れ、自由経済圏に組み込むことで安定化と民主化に成功しました。

ロシアではソ連消滅後の経済混乱でオリガルヒ(新興寡占資本家)が台頭し、プーチン大統領が「大国復活」を掲げて強権を握ったのですが、中国は天安門事件後、改革開放を突っ走り、集団指導体制を敷きました。外交でも、米欧に対抗意識をあらわにするロシアとは異なり、台湾やチベットなど特定問題以外は融和路線をとりました。

中国は世界貿易機関(WTO)に加盟し、世界第2の経済大国になりました。欧州は、中国にも中産階級が増えれば必然的に民主化圧力に抗えなくなると期待しました。英仏独は人権問題に踏み込まず、「北京詣で」を競いました。

この苦い経験を踏まえ、今年4月20日付け仏紙フィガロは中国への強い警戒感を打ち出しました。
中国は最初、西欧の援助が必要な途上国だという顔をした。次に、WTOルールを守る友好的な貿易大国の顔を見せた。西欧がそれを信じている間、ものすごい勢いで先端技術を横領した。習政権が示す次の顔。それは欧州に『一帯一路』で貿易覇権を広げ、徐々に植民地化することだ。
独裁に進む中露両国が連携を強めないよう、欧州はロシアとの関係改善を急ぐべきだと踏み込みました。

習近平の皇帝化を目指す前から、フランスの一部には警戒感がありました。

日本、フランス両政府は昨年1月に、パリで開かれた2+2(外務・防衛閣僚協議)で、南シナ海で軍事膨張をひた走る中国を「念頭」に、緊張を高める一方的な行動への強い反対を表明し、自制を求めましたが、わが国のみならず、フランス政府の「念頭」に浮かぶ中国の不気味な影は今後ますます膨らむことでしよう。

一昨年夏には、仏国防相がEU(欧州連合)加盟国に、「航行の自由」を確保すべく、南シナ海に海軍艦艇を定期的に派遣するよう呼び掛けたましたが、背景にはフランスの太平洋権益が中国に脅かされ始めた危機感も横たっています。

太平洋のフランス領

フランスは1100万平方キロに達する世界第2位のEEZ(排他的経済水域)を有する「海洋国家」ですが、海外領土が広大なEEZを稼いでいます。太平洋にも4カ所あり、50万人ものフランス国民が暮らしています。一部には軍事基地が置かれています。

ところが、中国は海洋鉱物・漁業資源を求め、仏海外領土周辺の南太平洋島嶼国家への札束外交攻勢だけでなく、「独立後」をにらみ太平洋に点在する仏海外領土へも手を突っ込んでいます。中国の影がヒタヒタと押し寄せる現実に、フランス軍は米軍や豪州軍、ニュージーランド軍に加え、自衛隊との軍事演練を加速・活発化させています。 

フランスの中国への姿勢は習近平が皇帝になることにより、明らかに変わりました。今はフランス全体に中国に対する強い警戒感があります。

こうした中国を警戒するフランスは、このブログにも掲載した「ぶったるみドイツ」とは違います。

つい最近もドイツは、中国との自由貿易を推進しようとし、李克強首相とメルケル首相が会談をしました。さらには、緊縮財政により主力戦闘機ユーロファイターが4機しか稼働しないという有様で、対中国貿易戦争をはじめたばかりのトランプ大統領に、防衛費を4%にしろと言われています。

これでは、「ぶったるみドイツ」といわれても致し方ないです。これに関しては、トランプは各国のNATO首脳に対して防衛費を増大するように提言したことと、日本とEUが中国は締結できないEPA(経済連携協定)を締結したということ、さらに米EU、車除く工業製品の関税撤廃目指すことで合意したため、かなりの牽制になったものとみられます。

EUとの貿易戦争を回避したことで、トランプ大統領は力を集中して対中国貿易戦争に専念することができるようになりました。その一方、欧州特にドイツと連携して米国との貿易戦争に優位に立とうとした中国の企みは完璧に失敗に終わりました。習近平は益々の窮地に陥ったことでしょう。

それにしても、「ぶったるみドイツ」はいつどこで綻びをみせるかわかったものではありません。日本は、フランスとの結びつけを強化することにより、ドイツを牽制しそうしてEUに対して協力するととも、対中国囲い込み戦略を強化していべきです。

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2018年7月26日木曜日

米EU、車除く工業製品の関税撤廃目指す-土壇場で貿易戦争回避―【私の論評】基軸通貨国米国が貿易赤字になりがちであることにトランプ大統領は気づいたか?一方習近平は益々の窮地に(゚д゚)!


トランプ大統領とユンケル欧州委員長

 トランプ米大統領と欧州連合(EU)の行政執行機関、欧州委員会のユンケル委員長は25日、今後、貿易を巡る協議を進めていく間は新たな関税を導入しないことで合意した。トランプ大統領が輸入自動車への関税導入の意向を示して高まっていた米EU間の緊張は緩和し、貿易戦争は土壇場で回避された。

 両首脳はこの日ホワイトハウスで会談し、EUが米国産液化天然ガス(LNG)と大豆の輸入を拡大するほか、双方が自動車を除く工業製品の関税を引き下げることで合意した。ユンケル委員長は会談後の共同記者会見で、交渉が続く間、米国とEUは「他の関税を留保」すると発言。また米鉄鋼・アルミニウム輸入関税と、それに対抗してEUが導入した報復関税を「しかるべき時に」再検討するとした。

 トランプ大統領は共同会見で、「非常に重要な記念すべき日となった」と発言。「われわれはたった今から交渉をスタートさせる。ただ、交渉がどこに向かうかは承知している」と語った。また、米とEUの通商関係が「新たな局面」に入ったと成果を誇った。

 米国とEUの貿易戦争が回避されるとの楽観的見方から、米株価と米国債利回りは上昇した。

工業製品の関税「ゼロ」へ

 トランプ大統領は、両首脳が工業製品の関税「ゼロ」に向けて取り組むことでも同意したと述べた。また、米国とEUは米鉄鋼・アルミ輸入関税およびEUの報復関税の「解決」と、世界貿易機関(WTO)改革も目指すとした。

 両首脳は3時間近くにわたった会談後、ホワイトハウスのローズガーデンで短く会見したが質疑応答は行わなかった。

 ユンケル委員長は共同会見後にワシントンでスピーチし、「われわれは交渉を続けている限り、他の関税を導入しないことで合意した。今日、この合意に達したことに満足している」と語った。

 ロブ・ポートマン米上院議員(共和、オハイオ州)は関税を巡る緊張を緩和させた米EU首脳を称賛。「農業だけでなく、米経済全般の懸念の一部解消に寄与するだろう。喜ばしいことだ」とした上で、「これは最初の一歩だ。われわれは詳細を詰める必要がある」と述べた。また、この数週間はEUやメキシコ、カナダ、中国との間に進展の兆候が見られず、前途に光明を見いだすのが難しかったと語った。

自動車が鍵

 しかし、米国とEUが自動車と自動車部品の貿易に関する立場の違いを克服できなければ、休戦は短期間に終わる可能性がある。トランプ大統領は5月、米国と中国との協議で合意の枠組みが示された数日後にこの枠組みを捨て去り、追加関税発動の方向に動いた経緯がある。

  米シンクタンク、大西洋評議会の世界ビジネス・経済プログラム担当アソシエートディレクター、マリー・カスペレック氏は電話インタビューで、「彼らは非常に前向きなことだとアピールしたが、私にとっては今回の発表は現在においてはそれほど大きなことではない。これは一種の準停戦だからだ」と発言。「鉄鋼・アルミ関税が続く限り、EUは高官級の交渉には応じないだろう」と指摘した。

 トランプ大統領はEUからの輸入車への米関税率が2.5%であるのに対し、EUが米国車に10%の輸入関税を課しているのは高過ぎるとし、またEUの対米貿易黒字1500億ドル(約16兆6200億円)についても批判している。

 25日の米EU首脳の合意は、米国の貿易相手が米産品の輸入を拡大すると提案することにより、トランプ政権をなだめ、貿易戦争を回避し得るということを示す心強い証拠となった。国際通貨基金(IMF)は貿易戦争が起これば、久しぶりに力強い伸びを示している世界経済の成長を阻害しかねないと警告している。

 米ゼネラル・モーターズ(GM)やトヨタ自動車など主要自動車メーカーが加盟する米国自動車工業会(AAM)は声明で、「今日の発表は、貿易障壁を解消するのに一段と効果的なアプローチが関税引き上げではなく、交渉であることを証明した」と歓迎の意を表明した。

【私の論評】基軸通貨国米国が貿易赤字になりがちであることにトランプ大統領は気づいたか?一方習近平は益々の窮地に(゚д゚)!

トランプ大統領は貿易赤字を問題としているようですが、このブログに過去何度か掲載してきたように、貿易赤字をあたかも家計の赤字のように捉えて、赤字そのものが問題であると捉えるのは完璧な間違いです。トランプ大統領をはじめ、米国の政治家はこのことをしっかり理解すべきでしょう。

そもそも、多くの国では、景気が良くなると貿易赤字が増えることが知られています。これは、景気が良いと他国からの輸入が増えるからです。貿易赤字そのものを問題とするのではなく、赤字の原因を個別でみて判断すべきであって、赤字そのものを問題にすべきではないのです。

それに米国は他国と違い、米ドルが基軸通貨国であるということ自体が、貿易赤字になりやすいことの原因の大きな一つになっています。

米国の財政赤字と経常収支赤字といういわゆる「双子の赤字」は、米国および国際経済上の懸案事項としてしばしば挙げられてきたものです。

トランプ政権に限らず、米国の過去の政権は経常収支赤字の解消のために財政赤字の縮小を目指すべきだとされたり、逆に主な貿易相手国(それこそ、日本など)に内需拡大政策を取らせて、貿易相手国の経常収支黒字を縮小させようと画策したりしていました。

しかし、ここで注意しなければならないのは、米国は基軸通貨国であり、国際貿易決済手段として、米国のみならず世界中にの国々に対して基軸通貨・ドルを供給する立場であるということです。

世界貿易があまりお大きくなかったうちはまだ良かったのでしょうが、現在のように貿易が拡大した場合、貿易国における各経済主体は決済手段としてのドルやドル建て資産をあるていど貯蓄することになります。

であれば、貿易額が大きくなればなるほど、各国は取引及び貯蓄手段としてのドルの供給が必須になってきます。

ドルおよびドル建て資産を世界の国々に供給するためには、米国が財政赤字および経常収支赤字になってしまうというのは当然の理屈です。

実際、アジア通貨危機、ロシア通貨危機(1997)、アルゼンチン通貨危機(2001)後において米国は、経常収支赤字すなわち世界へのドル・ドル建て資産供給の拡大を余儀なくされています。


もし米国が経常収支赤字に抵抗し、その縮小を本気で目指したら、世界貿易は崩壊を余儀なくされることになります。なぜなら世界貿易は、米国の基軸通貨供給に依存しているからです。

もし一時的に米国の経常収支改善と世界貿易堅調が見かけ上維持されていたように見えても、それは途上国等の借入過剰による不安定化を意味する可能性が高いです。アジア通貨危機やアルゼンチン通貨危機はその意味で、基軸通貨の過少供給に遠因があると考えることが出来ます。そのため、通貨危機から世界貿易を守るには基軸通貨の追加供給が必要なのです。

これは世界を一国と考え、基軸通貨を自国通貨と考えた場合でもまったく同じ議論が出来ます。自国通貨は、(中央銀行で紙幣や当座預金が”負債”として扱われていることからもわかるように)厳密には政府債務です。信用創造によって通貨を供給し、それ自体が貯蓄手段となる通常の政府債務も同質です。

民間債務も、信用創造によって通貨を供給し、同時に貯蓄手段となっています。こうした経済全体の債務(および債務としての通貨)は、経済全体の貯蓄欲求を満たし、それ以上の通貨が流通することを助けています。もし経済全体で債務不足になれば、通貨流通とそれによる財取引は滞ることになります。

このように考えると、基軸通貨国の米国は、財政金融的に見て、世界に対する中央銀行・財務省として機能していることがわかります。米国の財政赤字(ベースマネーの供給原資であり、信用創造によるマネーサプライ供給手段でもある)、および経常収支赤字は、世界貿易のために十分な赤字である必要があるというわけです。

こうした貯蓄手段としての貨幣供給は、世代重複モデル(貯蓄を行う現役世代と貯蓄の切り崩しを行う引退世代で形成される)においては、長期的に維持する必要があることが知られています。



これが現実的な想定なら、米国の累積経常収支赤字や累積財政赤字は、長期的にも清算される必要がないのです。むしろ維持されなければならないものなのです。

さて、ここで問題になるのは「世界がドルを基軸通貨として備蓄するインセンティブはどこにあるか」ということになります。

「各国で使われているから」というのももちろん理由にはある程度なるのですが、「そもそもなぜ各国が基軸通貨として使うことを決意したか」という根源を訪ねる必要があります。

ここで助けになるのは、ネオ・チャータリズム(ネオ・カルタリズム)[新貨幣国定主義]の考え方です。

ネオ・チャータリズムにおいては、納税を政府の財源調達手段ではなく、貨幣の最終需要を決定するための方策に過ぎないとしています。

というのは、なぜ日本国内の人々が日本円を求め、日本円で決済するのかという根源を辿ると、日本円によって納税することが求められているからであるというところに行きつくからです。実際、日本円が最初に普及したのも、日本円が納税手段として認められているという経緯があったからです。

もしこれが納税手段として使えないなら、日本円は偉人の絵を描いた少し変わった紙切れに過ぎず、交換価値も貯蔵価値も持ちえないでしょう。この意味で、政府の発行する通貨というのは「それを使って後に納税をして良い」という意味で、政府にとって(会計上の形式ではなく)本質的に負債としての意味を持つことになります。なぜなら、通貨によって政府が民間から財やサービスを買い入れる代わりに、その通貨による納税を認めるという貸借の関係が成り立っているからです。

ここでは、発行と納税のバランスが成立する必要性は必ずしも存在しないことに注意すべきです。むしろ政府にとって通貨の供給とは、取引を円滑にし貯蓄手段を与えるために行うことなのであり、回収する必要性はないどころか逆に十分に流通する必要があるからです。

こうして本来的に(日銀を含めた)政府財政は赤字になる必要があり、経済が拡大していくのに合わせて累積的に赤字を追加していく必要があるのです。そしてこれは、すでに説明したように、長期的にも償還される必要もありません。

さて、米国に対する明示的な納税システムが存在しない中では、基軸通貨ドルにとっての最終需要とは何なのでしょうか。

これは長らく世界最大であり、今でも世界最大級である米国の輸出(すなわち財の供給)に依存するのでしょう。

世界最大(級)の経済国による財の供給……これなくして、ドルの基軸通貨としての地位はあり得なかったでしょう。ただし、米国の経済はかなり大きく、輸出がGDPに占める割合はほんの数%にすぎません。いかに米国の経済そのものが大きいか改めて実感します。だからこそ、ドルが基軸通貨になれたともいえます。

しかし、逆に言えば、米国の世界に対する財供給が相対的に小さくなっていくなら、基軸通貨としてのドルの最終需要も不安定化していく可能性があります。

そうした中で、他の輸出大国(あるいは輸出地域)の通貨を国際取引通貨化していく「基軸通貨の『分権化』」が目指されているのだと理解すべきでしょう。

しかし、ドルの最終需要が不安定化していくからといって、拙速に財政赤字・経常収支赤字縮小を目指せば、世界貿易ひいては世界経済の致命的なクラッシュをもたらすことになります。

長期的に米国の経常収支赤字縮小が必要だとしても、基軸通貨の分権化に歩調を合わせる形で、漸進的に進めていく必要があるでしょう。

現在のところは、米国の経常収支が赤になるのは当然のこととし、その上で米国としては、赤字が妥当なものかどうかを分析するべきでしょう。

以上のようなことを考えると、米EU、車除く工業製品の関税撤廃目指すのは当然のことといえます。

トランプ大統領も米国が基軸通貨国であることを認識しはじめたのかもしれません。

ただし、中国への対応は据え置きです。これは、当然といえば当然です。そもそも、以前のこのブログに掲載したように、中国は他国と経済連携協定(EPA)を締結する事ができないような国です。

日本とEUとの経済連携協定(EPA)の署名を終えてトゥスク欧州理事会議長(右)と
握手を交わすユンケル欧州委員会委員長。中央は安倍晋三首相=17日午後、首相官邸

簡単にいうと、中国はEPAが締結できるような日本などの先進国などとは異なり、民主化も、政治と経済の分離も、法治国家化もなされていません。そのような中国は、他のそれらが整っている国々と貿易をすれば、そもそも最初から自由貿易にはなりません。

実際に中国は「自由貿易ルール違反のデパート」ともいえます。知的財産権侵害は商品や商標の海賊版、不法コピーからハイテクの盗用まで数えればきりがありません。おまけに、中国に進出する外国企業には技術移転を強要し、ハイテク製品の機密をこじ開けるようなことをしています。共産党が支配する政府組織、金融機関総ぐるみでWTOで禁じている補助金を国有企業などに配分し、半導体、情報技術(IT)などを開発しています。

トランプ大統領は、このような中国が、米国を頂点とする戦後秩序に真っ向から挑戦することを宣言したため、貿易戦争を挑んだのです。

EUとの貿易戦争を回避したことで、トランプ大統領は力を集中して対中国貿易戦争に専念することができるようになりました。その一方、欧州特にドイツと連携して米国との貿易戦争に優位に立とうとした中国の企みは完璧に失敗に終わりました。習近平は益々の窮地に陥ったことでしょう。

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2018年7月25日水曜日

米ロ会談が酷評でも支持率上昇のトランプ―【私の論評】日米マスコミの報道は鵜呑みにできない、特に総理と大統領関連の報道はそうだ(゚д゚)!

米ロ会談が酷評でも支持率上昇のトランプ

「命運が尽きた」と言われながらも支持層は盤石

ベルギーの首都ブリュッセルで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で、
北大西洋理事会の会合の会場に到着したドナルド・トランプ米大統領(2018年7月11日)

 西欧訪問やロシアのプーチン大統領との会談を終えた米国のドナルド・トランプ大統領が米国主要メディアから酷評を浴びている。政界でも民主党側はもちろん共和党の一部からも批判が起きた。

 だが、その一方で米国民一般のトランプ大統領支持は5割に近い水準を保ち、共和党支持者の間では一段と高くなっている。激しく糾弾されるトランプ大統領と、支持層を堅く保つトランプ大統領と、まるで2人の人物が存在するかのようだ。

根拠が薄弱な米国メディアのトランプ評

 欧州を訪問し、ロシアのプーチン大統領と会談したトランプ大統領の言動に対して、米国のメディアや民主党系識者たちからは以下のような非難がぶつけられた。

「トランプ大統領は西欧との同盟を破壊する」

「敵であるはずのロシアと手を結ぼうとする」

「トランプ氏は無知で衝動的であり、政策がない」

 トランプ批判の先頭に立つニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストの記事は、このような非難に満ちていた。その筆致はまるでトランプ大統領の命運が尽きたと断じているようでもあった。

 このようにトランプ大統領を切り捨てる論評は、そのほとんどがトランプ大統領のメディアとのやりとりや、トランプ氏自身のツイッターでの発信が根拠となっている。トランプ大統領が正式に発表した政策や決定を基にしているのではなく、記者が個人的な感想を述べるという次元の記事が多いのが実状だ。

 確かにトランプ氏の言動は既成の政治リーダーとは、まったく異なる。単純明快だが、粗雑である。ごく平均的な米国人たちが日ごろ口にするような言葉で、難しい国際問題や国内問題を平易に説明しようとする。そうした言葉遣いは、政治やメディアの世界のエリートとされる層をいらだたせ、怒らせ、反発させる。

 日本でのトランプ評も、米側のそんな傾向に依拠するところが多い。実際に、いまだに以下のようなトランプ評が見受けられる。

「トランプ氏は不動産業出身だから大統領職はまともには務まらない」

「大統領としての行政や統治も、みな損得のディールなのだ」

「トランプ氏の最近の言動はみな中間選挙目当てである」

 だが、こうしたトランプ評は根拠が薄弱であり、明らかに事実と異なる部分もある。まず「不動産業だから」という批判は、不動産業への差別意識だともいえる。かつて1981年に共和党のロナルド・レーガン大統領が登場したとき、民主党側の政治家やメディアは「しょせん彼は映画俳優だったから」と見下す言葉を浴びせた。映画俳優という職業への偏見だった。しかし、現実にはレーガン大統領は米国の政治史でも最高レベルの国民の人気を得る国家指導者として名を残した。

 トランプ大統領は政策や理念ではなく金銭上の損得だけを考えて「ディール」している、中間選挙で共和党の勝利を得るために目先の人気取りだけで動いている──といった批判も、裏付けとなる事実があるわけではない。

国民の支持を得ているトランプ大統領の政策

 米国メディアは、以上のようにトランプ大統領を徹底的に「浅薄、無知、無思慮、無政策、無思想な人物」として描き、「ドン・キホーテのように孤立して奇矯な人物」というレッテルを貼ろうとしている。

 だが現実のトランプ大統領は、決してそうではない。

 私は、2015年6月にトランプ氏が大統領選への立候補を宣言したときから大統領選キャンペーン中の彼の言動を追い、トランプ氏が大統領に就任してからも、その政策や演説を取材してきた。また、トランプ大統領の支持層にも接してきた。その体験を踏まえて彼を眺めると、どうしても異なるトランプ像がみえてくる。

 今、話題になっているトランプ大統領の欧州への防衛政策やロシアへの態度に焦点を当てて説明しよう。

 今回の欧州訪問で北大西洋条約機構(NATO)の首脳会談に出席したトランプ大統領は、NATOの欧州側加盟国に防衛費の増額を強く要求した。加盟各国は最低限、GDP(国内総生産)2%の防衛費支出をするという約束を守れ、という要求だった。

 トランプ氏のこの要求は、NATOを壊す動きだとして広く報道された。トランプ氏はきわめて衝動的であり、米欧同盟の破壊につながるという批判も多かった。

 しかし実際には、トランプ氏は「NATO諸国の防衛費負担の増大」を2016年4月の大統領候補として初の外交演説で第1の公約として挙げていた。当時から一貫して変わらない「公正な負担を」という政策なのだ。国民から広く支持を得ている政策であり、オバマ前政権もこの政策を推していた。

 また、トランプ大統領は「NATO体制の維持と強化」も政策として掲げてきた。昨年(2017年)末から今年初頭にかけてトランプ政権が発表した「国家安全保障戦略」や「国家防衛戦略」でも、大統領として明言している。米国が主体となって進めるNATOの維持や強化は、今回のNATO首脳会議での共同声明でも確認された。トランプ大統領はNATO堅持を主張した上で公正な負担を求めているのだ。

 ロシア政策にしても、トランプ大統領は前記の「国家安全保障戦略」や「国家防衛戦略」の中で、ロシアをはっきりと米国主導の国際秩序を侵食し、破壊することを企図する危険国家として位置づけてきた。トランプ大統領はプーチン大統領と握手はしても、ロシアのクリミア奪取を許してはいない。ロシアへの経済制裁もまったく緩めていないのだ。

 トランプ政権のロシアへの基本姿勢は、軍事力の強化によっても明らかだといえる。トランプ大統領は2017年9月の国連演説で「原則に基づく現実主義」という理念を掲げ、国家主権に基づく「力による平和」という政策を語った。それとともに、潜在敵であるロシアや中国の膨張を抑えるために、軍事力を大幅に強化し始めた。トランプ政権の2018年度の国防予算は、前年度から13%増加し、GDPの4%ほどに達している。

トランプ大統領はもう1人いる?

 だが、反トランプのメディアはそうした政策をほとんど取り上げない。その代わりにトランプ大統領の自由奔放な発言、放言、失言を引き出して、集中砲火を浴びせる。 

 それでも、米国一般のトランプ支持は揺らがない。大手世論調査機関で唯一、毎日、大統領支持率の調査を実施するラスムセン社の発表では、トランプ大統領への一般米国民の支持率は45%以上であり、ときには50%近くにもなる。この支持率はこの数カ月間、上昇傾向にある。

 さらにトランプ大統領への支持の特色は、本来の支持層の支持がきわめて堅固であり、しかも増加の動きをみせている点である。ごく最近でもその支持率は85%以上の高い水準にある。「命運が尽きた大統領」というイメージとはほど遠いといってよい。

 7月24日の報道でも、トランプ・プーチン会談の最中と直後の7月中旬に、ウォール・ストリート・ジャーナル紙とNBCテレビが共同で実施した全米世論調査では、トランプ大統領への支持率が前回の44%から45%に上昇したという。ネット・メディアの「ザ・ヒル」の同時期の世論調査では共和党支持層のトランプ大統領への支持率は88%という記録破りの数字を出したという。

 こうした諸点をみてくると、米側の反トランプメディアや日本側のいわゆる識者の多くが描くのとは異なる「もう1人のトランプ大統領」を、私はどうしても実感させられるのである。

【私の論評】日米マスコミの報道は鵜呑みにできない、特に総理と大統領関連の報道はそうだ(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事にもでている、米国の調査会社ラスムッセン社が毎日行っている世論調査で、今年2月27日にはトランプ大統領の業績を支持する者が50%となりこの内35%が「強く支持」していました。一方不支持率は48%で「強く不満を持つ」は39%でした。

トランプ大統領の支持率が50%になるのは昨年6月中旬以来のことです。その後30%台にまで転落していたのですが昨年暮れ以降上昇機運にありました。

この50%という支持率が高いのかどうかですが、オバマ前大統領の第一期目の同時期の支持率が43%であったのと比較すると、かなり良い数字だと考えざるを得ません。

その原因ですが、時期的に見るとトランプ大統領に大きな影響力を持っていた超保守派のスティーブ・バノン前主席戦略官が暴露本「炎と怒り」に、大統領の娘イバンカさんや娘婿クシュナー氏を批判する発言を引用されて、ホワイトハウスから完全に放逐されたことと重なります。

暴露本「炎と怒り」

その後トランプ大統領の口から「アメリカ・ファースト」という言葉も出なくなり、政策的にも移民に同情的だったり、今年3 月のフロリダの高校での銃乱射事件でも銃規制強化を提案したり柔軟な姿勢が見えるようになったことが支持を拡大した可能性が大きいです。

ただ、同時期に発表されたCNNの世論調査ではトランプ大統領への支持は35%で過去最低と並んだとされました。片やラスムッセン社がトランプ大統領は「評価されている」としたのに対して「最低水準」という結果はどうして生まれたのでしょうか。

トランプ大統領の支持率を伝えるCNNの画面

同じ疑問を米国でも持ったようで、ワシントンの保守系のニュースサイト「デイリー・コーラー」が分析を試みていました。

同サイトはまず回答者について調べた結果、CNNの場合「民主党支持者」33%「共和党支持者」23%「その他」44%となっていることに着目した。通常米国国民の内共和党を支持する者は37%とされているので、14%ほど民主党寄りの回答者が多かったのではないかと指摘しました。

次に、回答者の選び方もCNNが「18歳以上の成年男女」としたのに対してラスムッセンは「投票すると回答した有権者」だった。大統領選挙の投票率は通常50%前後なので、世論調査の対象としては「投票する」とした有権者の方が正確を期せるといいます。

さらに、CNNの調査は調査員が電話で尋ねる方法をとりますが、この場合回答者が調査員の意向をしんしゃくする場合があるのでラスムッセンのように録音メッセージで機械的に行う方が好ましく「CNNは調査のデータをねじ曲げ(skewing)た」と「デイリー・コーラー」は断じています。

CNNが「ねじ曲げた」かどうかはともかく、ラスムッセン社の世論調査は一昨年の大統領選の際にトランプ候補とクリントン候補の得票差をほぼ正確にとらえていたことで評価されており、いまトランプ大統領が上り調子であるという調査結果は素直に受け入れても良いと認識すべきと思います。

実際、ブログ冒頭の記事にも「大手世論調査機関で唯一、毎日、大統領支持率の調査を実施するラスムセン社の発表では、トランプ大統領への一般米国民の支持率は45%以上であり、ときには50%近くにもなっている」とあります。そうして、この支持率はこの数カ月間、上昇傾向にあります。

CNNといえば、昨年ドナルド・トランプ米大統領の上級顧問がロシア疑惑で連邦議会の調査を受けているという記事を米CNNが撤回し、CNNは26日、関わった記者3人の辞職を発表していました。

CNNを辞職したのは、記事を担当したトマス・フランク記者、調査報道部門編集者でピュリツァー賞受賞経験もあるエリック・リクトブラウ氏、調査報道部門の責任者のレックス・ハリス氏。

米国のCNNや他の報道機関の報道でも、トランプ大統領に関する報道は偏向しているとみるべきでしょう。やはり、ラスムッセン社の世論調査などを参照すべきです。

日米マスコミのトランプ報道は鵜呑みにできない

そもそも、このブログでも過去に何度か述べているように、米国のマスコミはリベラル派が牛耳っています。新聞はすべてが、リベラル派です。テレビ局では唯一フォックスTVだけが、保守派で他はリベラルです。

報道する時の視点はすべてリベラル派の視点からによるものです。米国のマスコミの報道だけを見ていると、それは米国の半分だけみていることになり、もう半分の保守派についてはスルーすることになります。

日本のメディアの安倍総理報道も鵜呑みにできない

それは、日本の安倍総理の報道も、産経新聞などを見ることなく、朝日新聞やテレビ報道を真に受けていれば、とんでもないことになると同じことです。

日米双方とも、マスコミの大部分は偏向しているとみなすべきです。そもそも、両方ともトランプ大統領の登場を予測できませんでした。そんなマスコミを単純に信じ込むことはできません。

【関連記事】

米ロ首脳会談 − 「ロシアからヒラリーに4億ドル寄付」プーチン大統領が発言―【私の論評】トランプ氏を馬鹿であると報道し続ける日米のマスコミは、自身が馬鹿であると気づいていない?

2018年7月24日火曜日

中国は入れない日欧EPA 中国に“取り込まれる”ドイツを牽制した安倍外交 ―【私の論評】「ぶったるみドイツ」に二連発パンチを喰らわした日米(゚д゚)!

中国は入れない日欧EPA 中国に“取り込まれる”ドイツを牽制した安倍外交 

高橋洋一 日本の解き方

記者会見を終え、トゥスク欧州理事会議長(右)と握手を交わす
ユンケル欧州委員会委員長。中央は安倍晋三首相=17日午後、首相官邸

 日本と欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の署名は、安倍晋三首相が西日本豪雨で訪欧できなかったため、欧州側が来日する形で行われた。日欧EPAは、早ければ来年3月までに発効する見通しだ。これによって何が変わるのか。

 マスコミがこの件を報道する際、分かりやすくするために物品の関税で説明することが多い。日本はEUからのワイン、チーズ、チョコレートなどに関税を課している。ワイン関税は即時撤廃となり、750ミリリットル入りのボトルで最大約94円安くなる。チーズはEU産に優遇枠を設けて、段階的に無税枠を拡大する。チョコレートは関税を段階的に引き下げて、将来は撤廃する-といったものだ。

 これは間違いではないが、EPAの一面に過ぎない。協定全体は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)のように大部である。外務省のウェブサイトに協定の原文が掲載されているが、本文だけで500ページ弱、これに附属書が加わり、全体で1200ページを超える。目次は、第1章総則、第2章物品貿易などあり、最終規定まで23章もある。

 第2章の物品貿易には、物品貿易に関し関税撤廃・削減のほか内国民待遇等の基本的なルール等が規定されている。関税の話はここに記載されている。

 具体的な中身は、附属書に書かれている。関税率表というものがあるが、興味があれば一見しておくといい。世の中のありとあらゆるものが全て記載され、その一つ一つに関税率が定められている。筆者は役人時代に関税率表を見て、そのボリュームに感動した覚えがある。今では、税関のサイトで誰でも見ることができるし、書籍としても販売されている。ちなみに本の関税率表は1200ページを超える分厚いものだ。

 いずれにしても、附属書の中に、関税率表がどのように変わるかが記載されている。マスコミがその中身を確認することはできないだろうから、役所に聞いて、その中の2、3品目を選んで報道しているわけだ。

 23章のうち1章だけ、しかも何千品目もある中から2、3品目では全体像の理解はできない。筆者は、今回の日欧EPA協定の中で、第8章サービス貿易、投資の自由化及び電子商取引、第13章国有企業、特別な権利または特権を付与された企業及び指定独占企業、第14章知的財産、第15章企業統治などに着目している。これらの規定は、資本主義国であれば当然のルールであるが、社会主義国では適用困難なものだ。

 EPAはこれらの規定を含む点で、自由貿易協定(FTA)と異なっている。逆にいえば、中国はFTAはできるが、EPAはできないのだ。

 安倍首相は「自由民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値をEUとともに力強く発展させ、世界の平和と繁栄に貢献する」と述べた。このEPAには中国は参加できず、中国主導の国際秩序ではないと宣言したようなものだ。中国に取り込まれるドイツを牽制し、EUを資本主義体制に戻している。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】「ぶったるみドイツ」に二連発パンチを喰らわした日米(゚д゚)!

経済連携協定(英: Economic Partnership Agreement、EPA)とは、自由貿易協定(FTA)の柱である関税撤廃や非関税障壁の引き下げなどの通商上の障壁の除去だけでなく、締約国間での経済取引の円滑化、経済制度の調和、および、サービス・投資・電子商取引などのさまざまな経済領域での連携強化・協力の促進などをも含めた条約です。

自由貿易協定(FTA)は、特定の国や地域の間で,物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目的とする協定です]。

一方、経済連携協定(EPA)は、貿易の自由化に加え、投資,人の移動,知的財産の保護や競争政策におけるルール作り、様々な分野での協力の要素等を含む、幅広い経済関係の強化を目的とする協定です。

日本ではEPAを軸に推進しており、GATT(関税および貿易に関する一般協定)およびGATS(サービスの貿易に関する一般協定)に基づくFTAによって自由化される物品やサービス貿易といった分野に加え、締結国と幅広い分野で連携し、締約国・地域との関係緊密化を目指すとしています。

近年世界で締結されているFTAの中には、日本のEPA同様関税撤廃・削減やサービス貿易の自由化にとどまりません。様々な新しい分野を含むものも見受けられるようになっているため、国によってはFTAとEPAを区別せずに包括的にFTAに区分することも少なくないです。

2018年6月時点で日本政府が外国または特定地域と締結した協定(発効ずみのもの)はすべてEPA(経済連携協定)となっています。2018年2月に署名した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)及び2018年3月に署名した環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)は、いずれも内容的にはEPAです。協定名は「パートナーシップ協定」となっています。

外務省によると、日本はFTAだけでなくEPAの締結を軸に求めています。理由として、関税撤廃だけでなく、投資やサービス面でも、幅広い効果が生まれることを期待していることによります。

以下に、日本が締結したEPAの一覧を掲載します。
日本・シンガポール新時代経済連携協定:2002年11月30日発効(改正議定書2007年9月2日発効) 
日本・メキシコ経済連携協定:2005年4月1日発効(改正議定書2012年4月1日発効) 
日本・マレーシア経済連携協定:2006年7月13日発効 
日本・チリ経済連携協定:2007年9月3日発効 
日本・タイ経済連携協定:2007年11月1日発効 
日本・インドネシア経済連携協定:2008年7月1日発効 
日本・ブルネイ経済連携協定:2008年7月31日発効 
日本・ASEAN包括的経済連携協定:2008年12月1日より順次発効し、2010年7月1日に最後のフィリピンについて発効し、すべての署名国について発効となった。ただし、インドネシアについては、国内の実施のための手続きが遅れ、インドネシアの財務大臣規定が2018年2月15日に公布され、2018年3月1日より施行されたことにより、2018年3月1日より、協定の運用が開始され、日本とインドネシアとの間ではAJCEP協定に基づく特恵関税率が適用されることになった。 
日本・フィリピン経済連携協定:2008年12月11日発効 
日本・スイス経済連携協定:2009年9月1日発効 
日本・ベトナム経済連携協定:2009年10月1日発効 
日本・インド経済連携協定:2011年8月1日発効
日本・ペルー経済連携協定:2012年3月1日発効 
日本・オーストラリア経済連携協定:2015年1月15日発効 
日本・モンゴル経済連携協定:2016年6月7日発効 
環太平洋パートナーシップ協定(TPP):2016年2月4日署名[8]、日本は2017年1月20日締結。未発効。 
環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP、TPP11):2018年3月8日署名、日本は2018年7月6日締結。未発効。 
日本・EU経済連携協定:2018年7月17日署名。未発効。
TPPも、EPA(経済連携協定)に含まれます。日本が最後に署名した「日本・EU経済連携協定」の効果についてまとめた表を以下に掲載します。

クリックすると拡大します

ブログ冒頭の高橋洋一氏の記事に、EPAには中国は参加できないと掲載されていますが、これはなぜでしょうか。それは、EPAには貿易の自由化に加え、投資、人の移動、知的財産の保護や競争政策におけるルール作り、様々な分野での協力の要素等を含むからです。

中国においては、そもそも民主化、政治と経済の分離、法治国家がなされていません。


わかりやすい事例をだすと、たとえば戸籍です。すべての中国人の戸籍は、農村戸籍(農業戸籍)と都市戸籍(非農業戸籍)に分けられています。農村戸籍が約6割、都市戸籍が約4割で、1950年代後半に、都市住民の食糧供給を安定させ、社会保障を充実させるために導入さました。

以来、中国では農村から都市への移動は厳しく制限されていて、日本人のように自分の意思で勝手に引っ越ししたりはできないです。ちなみに都市で働く農民工、いわゆる出稼ぎ労働者がいるではないか、と思われるでしょうが、彼らは農村戸籍のまま都市で働くので、都市では都市住民と同じ社会保障は受けられません。これでは、民主的とはいえず、EPAには入れないのは当然です。

株価が急落したため落ち込む中国の個人投資家
株価が急落すると政府が介入して株式取引を中止することもある
さらに、中国は国家資本主義ともいわれるように、政治と経済が不可分に結びついており、先進国にみられるような、政府による経済の規制という範疇など超えて、政府が経済に直接関与することができます。実際中国の株式市場で株価が下落したときに、政府が介入して株式を売買できないようにしたこともあります。

中国にも司法組織なるものが存在するが、
その組織は中国共産党の下に位置している

中国は30年にわたる「改革開放」政策により、著しい経済発展を成し遂げました。ところが、依然として法治国家ではなく「人治国家」であるとの批判が多いです。それに対して中国政府はこれまでの30年間の法整備を理由に、「法制建設」が著しく進んでいると主張しています。

確かに30年前に比べると、中国の「法制」(法律の制定)は進んでおり、現在は憲法、民法、刑法などの基本法制に加え、物権法、担保法、独占禁止法などの専門法制も制定されています。それによって、人々が日常生活の中で依拠することのできる法的根拠ができてはいます。

その一方で、それを効率的に施行するための施行細則は大幅に遅れています。何よりも、行政、立法、司法の三権分立が導入されていないため、法の執行が不十分と言わざるを得ないです。中国では、裁判所は全国人民代表会議の下に位置づけられている。つまり、共産党の指導の下にあるわけです。 

このような中国は、とても日米をはじめとする先進国と、まともな自由貿易などできません。検討するまでもなく、最初から経済連携協定(EPA)など締結できないのです。

しかし、このような国中国と貿易を推進しようとする愚かな国がありました。それがドイツです。

ドイツはEU随一の経済大国ですが、EU設立・加盟後は単独での自由貿易協定は締結せず、EUとして通商協定の交渉や締結を行っていました。

そのドイツのメルケル首相と同国を訪問した中国の李克強首相が今月の9日、会談を開き、200億ユーロ(235億1000万ドル)規模の取引で合意したのです。ただし、これは、FTAではありません。

ただ、この会談の席上で、李克強は「自由貿易」という言葉をしきりに使っていました。しかし、これは、噴飯ものでしょう。元々中国は上記で掲載したように、まともに自由貿易などできるような状態ではありません。

民主的でもなく、政治と経済が分離されてもおらず、法治国家ですらない中国が、他国と普通に貿易したとしても、これらを守っている国と貿易をすれば、不平等条約にならざるを得ません。

ドイツが中国と貿易を続ければ、最初は儲けることができるかもしれませんが、いずれ中国から富を収奪される結果となります。

これについては、すでにこのブログでもとりあげました。その記事のリンクを以下に掲載します。
なぜ日本は米国から国防費増額を強要されないのか F-35を買わないドイツと、気前よく買う日本の違い―【私の論評】国防を蔑ろにする「ぶったるみドイツ」に活を入れているトランプ大統領(゚д゚)!
メルケルと李克強
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、ドイツは緊縮財政で主力戦闘機であるユーロファイターが4機しか稼働しない状態にあり、さらに中国とは貿易を推進しようとしてまいます。

以下にこの記事の結論部分だけを引用します。
いくら中国から地理的に離れているとはいえ、ドイツも含まれる戦後秩序を崩し世界の半分を支配しようとする中国に経済的に接近するとともに、緊縮財政で戦闘機の運用もままならないという、独立国家の根幹の安全保障を蔑ろにするドイツは、まさにぶったるみ状態にあります。ドイツの長い歴史の中でも、これほど国防が蔑ろにされた時期はなかったでしょう。 
このような状況のドイツにトランプ大統領は活をいれているのです。ドイツにはこのぶったるみ状態からはやく目覚めてほしいものです。そうでないと、中国に良いように利用されるだけです。

そうして、ドイツを含めたEUも、保護主義中国に対して結束すべき時であることを強く認識すべきです。
しかも、これはあまりにタイミングが悪すぎます、トランプ政権の米国が中国に対して貿易戦争を開始したときとほぼ同時にメルケルは李克強と会談し、貿易を推進させることを公表しているのです。

この状況はトランプ大統領からみれば、まさにドイツは「ぶったるみ」状態にあると写ったことでしょう。だから先日のNATO総会でも「NATO諸国が国防費の目標最低値として設定しているGDP比2%はアメリカの半分であり、アメリカ並みに4%に引き上げるべきである」とトランプ大統領は主張したのです。

安倍政権はドイツの「ぶったるみ状況」とは対照的です。そもそ、日本の安倍総理ははやい段階から「安全保障のダイヤモンド」により、中国を封じ込めようと提唱しています。その日本がEUとEPAを結ぶことにより、これに入れない中国に対して、先進国の結束ぶりを誇示することができました。

ドイツの企業も、EUもドイツも、EPAすら締結していない中国と貿易をすることに危険性に目覚めることになったと思います。ドイツ企業が中国に肩入れすれば、知的財産権も蔑ろにされ、中国に取り込まれる可能性が大です。

一方、EUとEPAを締結している日本となら、そのあたりは厳格に守られることになります。

これから、ドイツ国内でも企業によって明暗が別れることになると思います。目先の利益に目がくらみ中国に過度に肩入れした企業は衰退し、そうではない企業は繁栄の道を歩むことになるでしょう。

さらに、ドイツを見習い中国に肩入れをしようとしている他のEU諸国にとっても、かなりの牽制になったことでしょう。

米国は、本格的に中国に貿易戦争を挑んでいます。そうして、トランプ政権は、中国が現在の体制を変えるか、あるいは米国を頂点とする、戦後秩序に対抗心むき出しの中国を経済的に疲弊させ、二度と戦後秩序に対抗できないくらいに弱体化するまで、戦争を続けます。まさに、天下分け目の大戦に突入したのです。

そうして、この戦争は中国には全く勝ち目はありません。中国は、現在の体制を変えて、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を進めるとすれば、現状の共産党独裁体制を崩さざるを得ません。しかし、それはなかなかできそうにもありません。

それができないとすれば、米国から経済が完璧に弱体化するまで、貿易戦争や、金融制裁で経済戦争を挑まれ、最終的にはこれに敗北し、図体が大きいだけの、凡庸なアジアの独裁国家に成り果てることになります。

そのような中国に肩入れしようとする「ぶったるみドイツ」にまさに日米は、二連発でパンチを喰らわしたといえそうです。

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2018年7月23日月曜日

日銀で飛び交う「消費の低下はネット通販のせい」というトンデモ論―【私の論評】物価目標未達成の理由は単純!まだまだ量的緩和が不十分なだけ(゚д゚)!

日銀で飛び交う「消費の低下はネット通販のせい」というトンデモ論
もっと別のことを話した方が…

ドクターZ



そもそも的が外れている
「ネット通販の拡大が消費を押し下げている」

このような主旨の議論を繰り広げているのは、ほかならぬ日本銀行である。

日銀は6月18日、ネット通販の拡大が消費者物価(除く生鮮食品、エネルギー)の伸び率を0・1~0・2ポイント程度押し下げるとする試算結果を発表。ネットで過熱する価格競争が実店舗の売り上げにも影響を与えていることを指摘した。

「2%」のインフレ目標達成時期を未定としたものの、依然として物価上昇は日銀の金融政策の大きな柱だ。だが、消費者がより便利で安いものを求めるのは当然のことでもある。

このギャップを日銀はどう認識しているのか。

前提として、金融緩和政策に求められるのは「雇用の確保」である。2018年5月の完全失業率は、前月比0・3ポイント低下の2・2%で'92年10月以来の低い水準だ。

有効求人倍率も44年ぶりに1・6倍となり、正社員に限った求人倍率も1・1倍と過去最高を更新した。この点において、安倍政権における金融緩和政策は一定の結果を出しているといえる。

ただ、ここで考えておきたいのは、アベノミクスで設定されたインフレ目標とは、雇用回復のために金融緩和をやりすぎて過剰な物価上昇を避けるためにあるわけで、物価が上がらないのであれば特にこだわる必要はないことだ。

それなのに、日銀が物価を遮二無二上げようとしているのは理解に苦しむところだ。

黒田東彦総裁は、ネット通販に目くじらを立てている場合ではない。というのも、技術革新とともに、安価で大量生産が可能になっているものが世の中には溢れているわけで、市場の動向としては当然のことなのである。

むしろ、国が傾くほどの急激なインフレを心配せずに、安心して金融緩和策を続けられる絶好の環境だといえる。

東京・日本橋にある日銀本店のなかには金融記者クラブがあり、全国紙や通信社、NHKなどの経済部に属するエリート記者が多数常駐する。

この記者クラブは、他省庁のクラブ以上に日銀と距離が近いといわれるが、そんな経済記者の批判の対象は、相変わらずインフレ目標の未達についてである。ほんとうに骨のある記者ならば、日銀に対してどんどん雇用の話題を振ったらどうだろうか。

日銀にしても、国民に対して物価の上昇がうんぬんと一辺倒に語り続けるよりも、いまの雇用状況がどのように変化しているかの議論をもっとすべきである。

ちなみに、海外の中央銀行では、物価もさることながら、雇用を確保することは同等かそれ以上に重要なので、雇用に関する議論をもっと活発に行っている。

物価が上がらないと頭を抱える日銀だが、じつは金融緩和の程度を緩め、「ステルス出口戦略」を採っているとみる向きが多い。当の日銀が金融緩和に本腰を入れていないのであれば、物価が上がらないのは当然のことである。

つまるところ、ネット通販が突如として俎上に載せられたのは、このステルス出口戦略をカモフラージュするためではないかとみてとれる。

実際、日銀の幹部たちは、失業率が下がっていく一方で物価が上がらないことを内心喜んでいるのだろう。

【私の論評】物価目標未達成の理由は単純!まだまだ量的緩和が不十分なだけ(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事で、問題となっている、日銀の6月18日のレビューは下のリンクからご覧いただくことができます
インターネット通販の拡大が物価に与える影響
日銀の黒田総裁は、6 月の決定会合後の記者会見で「日本の物価がなぜ上がらないのか、次回の会合と展望リポートで議論する」と述べました。上記のレビューはこれに呼応するように出されています。

日銀はこれまで、大規模な金融緩和によるマクロの需給ギャップ改善によって、物価上昇率はいずれ目標の2%に達すると主張してきました。

しかし、これが5年経っても実現していません。

日銀黒田総裁

黒田総裁は会見の席上、物価が上がりにくくなっている要因として、個人的な意見として以下の4点を挙げていました。

<原因その1>
1つは労働市場の「スラック(需給の緩み)」。失業者以外にも余剰労働力があり、一般に言われるほど労働市場の需給はタイトではない可能性を指摘しました。
<原因その2>
2つに、グローバリゼーションで、新興国などとの競争が厳しくなったため、としています。
<原因その3>
3つに、技術革新効果を挙げています。今や日本ではネット通販を利用して世界の財サービスを安く手に入れられるようになった、としています。
<原因その4>
そして4つに、日本の賃金硬直性です。つまり、景気が悪い時に賃金を下げられないので、良い時に上げない、というものです。

このほか、最近の生産性上昇についても議論がなされると見られます。

これらは日銀の分析・議論に任せるとして、ここでは「需給」についてチェックしてみたいと思います。

つまり、日銀は「需給ギャップが改善している」としていますが、経済の現場では異なることが起きている可能性もあります。

第1は、黒田総裁も指摘していた労働市場の需給です。失業率が2.5%だとか、有効求人倍率が1.59倍といった数字が独り歩きして、人手不足が喧伝され、政府の「骨太」案でも外国人労働力の受け入れを大幅に緩和する方針です。

しかし、その割に賃金が上がらず、労働者の懐は楽になりません。賃金の硬直性もありますが、労働市場の需給も数字ほどタイトではないように見えます。

日本では失業保険を申請するためにハローワークに通う「有効求職者」と、完全失業者の数がほぼ一致しています。つまり、ハローワークに失業保険申請している人を「失業者」としていますが、失業保険申請している人以外にも仕事を求めている人は少なくありません。

米国では、失業者が失業保険受給者の3倍近くいます。つまり、日本でも失業保険受給者以外の失業者を調べれば、失業率は今の2.5%から2~3倍に高まる可能性があります。

これは失業率の調査方法に問題があるためで、仕事をしたい人がこの統計からかなり漏れている可能性があります。

ここではその制約から逃れるために、別の数字を見てみます。それは「労働参加率」です。これは、15歳以上の人に占める就業者と失業者の合計の割合です。


昨年の日本の労働参加率は60.5%で、10年前の60.4%とほとんど変わっていません。そしてやはり人手不足が指摘される米国の労働参加率が63%弱です。

つまり、日本には「非労働力人口」が15歳以上人口の約4割もいることになります。定義上は「働く意欲を見せていない人」となりますが、実際は働きたくて仕事を実際に探していながら、当局に把握されていない人が少なくありません。

日本は高齢者が多く、働く意思のない老人が多いと見られがちですが、高齢者でも仕事があれば働きたいという人は少なくありません。

日本で生産年齢人口が減っているのに、就業者がずっと増え続けているのは、当局が労働力と把握していない高齢者が仕事についているため、という面も大きくなっています。

因みに、失業者を除いた就業率(15歳以上人口に占める就業者の割合)は今年4月では60.1%ですが、このうち15歳から64歳で76.7%、65歳以上で24.7%となっています。

定年を過ぎた65歳以上の就業率が目立って上昇しています。また、55歳から64歳の層も75%で、定年を65歳に延長すれば確保できる労働力も多いことを示しています。

トラック運転手など、特定の業種・労働タイプによっては、確かに人手不足はあるようです。しかしマクロではまだ「スラック(ゆるみ、たるみ)」が少なくなく、それが賃金上昇を抑えている面があります。

特に高齢者をうまく取り込めば、人手不足はかなり埋まると見られます。外国人労働力の受け入れもよいのですが、そのコストを考えると、その前にできることがありそうです。

ここまで、日銀の言う需給ギャップの改善と、経済の現場では、異なることが起きているのではないか?という考えで「労働市場の需給」をチェックしてきました。

そして、「消費市場の需給」についても同じことが言えます。

日本全体では、需要面から見たGDPが潜在GDP(供給力から見た上限のGDP)を上回り、インフレ・ギャップが発生し、これがインフレにつながるはずだ、と考えられています。

しかし、消費者物価を決める消費市場では、家計の所得が増えないため、ここでの需要が供給を下回っている可能性があります。

需要全体で見れば供給を上回る計算としても、所得面で労働分配率が低下し、需要が企業の下に溜まり、家計にはあまり分配されていません(給料が上がりません)。そのため消費市場では、需要不足になっています。

企業部門では需要超過となるところを、企業は設備投資を増やしているものの、内部留保にため込んでいるため、実現しない所得もあります。

つまり、日銀が言う「需給ギャップ」が示すほど、需給はタイトではありません。少なくとも消費市場では需要不足となっている可能性があります。

しかし現在の日本では、未だその需給が労働市場で正しく把握されていない面と、労働分配率の低下によって需要が企業側に偏在しているため、消費市場では需給が緩和されていて、値上げに踏み切れない状況にあると考えられます。

つまり、企業が賃金を抑えられていることが、消費財の値上げを困難にしている面があります。

一般的に、物価は需給で決まるとされています。

しかし日本では、その需給が労働市場で正しく把握されていない面と、労働分配率の低下によって需要が企業側に偏在しているため、消費市場では需給が緩和されていて、値上げに踏み切れない状況にあると考えられます。

つまり、賃金が未だに抑えていることが、消費財の値上げを困難にしている面があるといえそうです。

従来、日銀は日本の構造的失業率は3%であるとしてきました。しかし、私は過去の推移、特にデフレになる前の失業率から2%半ばそうして高橋洋一氏による試算でも2%半ばとしていました。

ところが、このブログでも掲載したように、本年5月の失業率は2.2%となり、2.5%を下回るものとなりました。


これは、日本の完全失業率(失業率の下限)は2.5%よりも低いことを示唆しています。ひよっとすると2.2%よりもさらに低いのかもしれません。

もしそうだとすれば、そもそも現在までの金融緩和策、その中でも量的拡大はスケールが違っていた可能性があります。そもそも、量的拡大が中途半端だという可能性があります。

だとすれば、物価目標2%が達成できないのは当然といえば当然です。だからこそ、賃金は若干あがりつつはあるものの、本調子であがっていく様子がみられないとう可能性があります。

雇用の側面からみると、やはり経営者も就労者も、あまりに長い間デフレであったというか、40歳台以下の管理者や就労者などデフレの時代しか知らないため、金融緩和によって若干人手不足になった経験など生まれて始めてであるため、現状を極端な人手不足と思い込んでいるのかもしれません。

上で述べたように、まだまだ、定年を65歳に延長すれば確保できる労働力があるにもかかわらず、十分に活用していないのでしょう。女性の労働力もまだ十分活用はされていないのでしょう。

人手不足を乗り切る方法は、単純に外国人労働者に頼る以外にも、他にもいくらでもあるはずです。

日銀としては、やはり物価目標2%を達成するまでは、さらに量的緩和を拡大していく必要があるのだと思います。

やはり、物価の上昇速度をにらみながら、さらなる量的緩和を目指すべきです。物価上昇速度を睨んでいれば、景気が加熱しすぎて、ハイパーインフレになることは防ぐことができます。

物価があがらないことを「ネット通販」のせいにしているようでは、話になりまません。再度インパクトのある緩和を実施してほしいものです。

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2018年7月22日日曜日

米ロ首脳会談 − 「ロシアからヒラリーに4億ドル寄付」プーチン大統領が発言―【私の論評】トランプ氏を馬鹿であると報道し続ける日米のマスコミは、自身が馬鹿であると気づいていない?

米ロ首脳会談 − 「ロシアからヒラリーに4億ドル寄付」プーチン大統領が発言

大紀元日本

フィンランドのヘルシンキで16日に開かれた米ロ首脳会談。会談後の共同会見

フィンランドのヘルシンキで16日に開かれた米ロ首脳会談後の共同会見で、プーチン大統領は、米国出身のビジネスマンがロシアで稼いだ資金の一部を、ヒラリー・クリントン側に寄付していたと発言した。

プーチン大統領は、記者団が2016年米大統領選のロシア介入疑惑について質問したところ、米検察が疑わしいと思っている人物の捜査を、ロシアに要請できると述べた。「ロシアの検察庁と捜査当局の代表は、捜査結果を米国に提出する」と付け加えた。

さらに踏み込んで、情報共有のため、選挙介入疑惑を調査するロバート・モラー特別検察官を含む米国の代表者が取り調べに参加できるようにするとした。

プーチン大統領の例える「疑わしい人物」とは、首脳会談前、米検察が大統領選介入の疑いで起訴した12人のロシア情報当局者を指すとみられる。

しかし、プーチン大統領は、疑わしい人物の「よく知られた一例」として、大手投資企業エルミタージュ・キャピタル創業者でCEOのビル・ブラウダー氏を名指しした。ロシアの裁判で、ブラウダー氏は脱税の罪で有罪判決が下っている。

ブラウダー氏はロシアで1996年にエルミタージュ社を創業し、一時は外資系企業でロシア国内トップの資産を保有した。2005年、ロシア国家安全機密に違反したとして、ブラウダー氏は入国を禁じられた。

プーチン大統領は会見で、「ブラウダー氏のパートナーは違法にロシアで50億ドルを稼ぎ、米国に送金した。しかし、ロシアにも米国にも税金を払っていない。彼らは4億ドルをヒラリー・クリントン氏の選挙活動資金として渡した」と述べた。

国際マグニツキー法を成立させた事案に絡むビジネスマン
米国出身で現在は英国籍のブラウダー氏は、プーチン大統領批判を繰り返してきた。このたびの名指し批判に対しても、英タイム誌に17日掲載の文書で反論している。ヒラリー氏への献金について「非常にばかげている、妄想だ」と強く否定した。

またブラウダー氏は、米ロ会談では、米検察が起訴したロシア情報当局者12人と、自分を交換することを求めているとの推察を示した。「しかし、私はすでに英国籍だ。もしプーチン大統領は私をとらえたいならば、テリーザ・メイ首相に言えばいい」と書いた。

19日、ホワイトハウスはトランプ大統領の話として、12人のロシア情報当局者に対するロシアからの取り調べは許可しないと述べた。

英国在住のブラウダー氏は、ロシアにおける脱税で2009年に裁判で懲役9年を言い渡された。同氏のかつての弁護士セルゲイ・マグニツキー氏も同様に脱税で起訴された。マグニツキー弁護士は留置所内で心不全のため死亡した。

マグニツキー弁護士は、ロシア当局内の2.3億ドルの巨額横領事件を指摘していた。弁護士の急死をロシア当局の口封じだと疑う米オバマ政権は、ロシア当局者に対して制裁を科す法案「国際マグニツキー法」を2012年、可決させた。

しかし、ロシアの国営メディア・スプートニク2017年8月によると、米諜報当局の高官は、ブラウダー氏の虚構に基づいて法案が可決したと認識していると報じた。報道によると、謎のハッカー集団が米国務省情報調査局のロシア担当責任者ロバート・オットー氏のメールをハッキングしたところ、オットー氏は、マグニツキー弁護士が告発した横領事件には、明白な証拠がないとつづっていたという。

【私の論評】トランプ氏を馬鹿であると報道し続ける日米のマスコミは、自身が馬鹿であると気づいていない?

このニュースそのうち、国内のメディアが報道すると思っていたのですが、とうとうどこも報道しなかったので取り上げることにしました。プーチン大統領が、米国出身のビジネスマンがロシアで稼いだ資金の一部を、ヒラリー・クリントン側に寄付していたと発言したということ自体は事実です。

この発言は、ブログ冒頭の記事にもあるように、2016年の米大統領選に介入した疑いで米連邦大陪審がロシア連邦軍参謀本部情報局(GRU)の情報部員12人を起訴したことについての質問に対し、プーチン大統領が答えた中で触れたものでした。

ブラウダー氏はロシアでの成功の裏話を暴露する本を出版するなどロシアの不正を告発して、プーチン大統領の怒りを買ったと言われ、同氏の顧問弁護士が逮捕されて獄中死する事件も起きました。

プーチン大統領が米国のロシア疑惑に反論する上でブラウダー氏を引き合いに出したのは、同氏のプーチン政権に対する批判をかわすことと、ロシア情報部員を訴追した米国の情報部員の公平性に疑念を抱かせる狙いがあったと考えられます。

大手投資企業エルミタージュ・キャピタル創業者でCEOのビル・ブラウダー氏

プーチン大統領は、この問題が記者会見で問われることを予想して反論を準備していたのでしょうが、それ以上に「ヒラリーへロシアから4億ドルの寄付」それも「米情報部員が民主党に橋渡し」という爆弾発言に思えました。

ところがである。この爆弾発言は、未だに米国のマスコミには全く扱われていません。米マスコミは、「フェイク(偽)・ニュース」とボツにしたつもりなのかもしれませんが、それにしても、いやしくもロシアの首脳の発言です。

この発言を無視して、今回の首脳会談のトランプ大統領を「ロシアにすり寄った」と批判するだけの米国の大半のマスコミは、はたして報道の公平性を貫いているか首をかしげざるを得ないです。

日本の大手マスコミも米国のマスコミに右にならえで、この件については報道しません。ドナルド・トランプ大統領の「ロシア・ゲート問題」は、すでに実体がないことが明らかになったこともあまり報道されていません。

米国では、昨年からヒラリー・クリントン氏の疑惑が持ち上がっていました。この件も、日本ではほとんど報道されていません。

ヒラリー・クリントン

オバマ政権でヒラリー・クリントン氏が国務長官だった当時、カナダの「ウラニウム・ワン」という企業を、ロシア政府の原子力機関「ロサトム」が買収しました。「ウラニウム・ワン」は、米国のウラン鉱脈の5分の1を保有しており、買収には米国政府の許可が必要でした。

ヒラリー氏はこの買収を積極的に推進し、「ウラニウム・ワン」はロシア政府の傘下企業となった。さすがに共和党保守派は当時、「この売却が米国の国家安全保障を大きく毀損(きそん)する」とオバマ政権を批判したが、企業買収は完了してしまいました。

米国の世界戦略における最大のライバルであるロシアにウラン鉱脈を売り渡すことは、誰が考えても米国の安全保障を損なう。ロシアのプーチン大統領は、世界のウラン・マーケットで独占的な地位を確立するために、この買収を行ったのです。

この件に絡んで、「クリントン財団」は何と、「ウラニウム・ワン」買収の関係者から総額1億4500万ドル(約165億2850万円)にも及ぶ献金を受け取っていました。同財団は慈善団体ですが、事実上のクリントン・ファミリーの“財布同様の存在”です。

しかも、「ウラニウム・ワン」の売却交渉が行われている最中(=ヒラリー国務長官時代)、ビル・クリントン元大統領は、ロシアの政府系投資銀行に招かれて講演を行い、1回の講演で50万ドル(約5700万円)もの謝礼を受け取りました。これは通常の彼の講演謝礼の2倍の金額です。

ビル・クリントン元大統領
また、ロシア政府系のウラン企業のトップは実名を明かさず、クリントン財団に総額235万ドル(約2億6700万円)の献金をしていました。

これらは、「反トランプ派」の代表的メディアであるニューヨーク・タイムズも、事実関係を認めています。

クリントン夫妻の「ロシア・ゲート問題」は今後、さらに追及されて、米民主党やリベラル系メディアに壊滅的打撃を与え、ヒラリー氏が逮捕される可能性もささやかれていました。

今回は、さらにプーチン大統領から、「ロシアからヒラリーに4億ドル寄付」という爆弾発言があったわけです。

以上事実から、日本のマスコミも報道の公平性を貫いているとはいえません。以前もこのブログに掲載したように、米国においてはマスコミのほぼ90%程度をリベラルが牛耳っています。そのため、10%の保守が何かを報道したとしても、その声はかき消されてきました。

ただし、実際には保守系のトランプ氏が大統領になったことからもわかるように、少なくとも米国の人口の半分は保守系の人々によって占められているはずです。しかし、現実にはこれらの人々の声のほとんどがかき消されてきたわけです。

トランプ氏が大統領になって以来、これは少しは改善される傾向にはありますが、まだまだです。日本のマスコミは、このような事情を斟酌して報道すべきですが、そうではなく、こと米国情勢に関しては、米国のマスコミの報道を垂れ流すばかりです。

日米のマスコミには、トランプは馬鹿だという報道を繰り返し行なってきたので、今更馬鹿は馬鹿であり続けるように報道するしかなくなってしまったのかもしれません。しかし、そのような報道をするマスコミ自身が馬鹿であることを気づいていないようです。

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2018年7月21日土曜日

【日本の解き方】リーマン危機前の日銀「議事録」 引き締めが必要との姿勢強調、金融機関重視で国民生活軽視―【私の論評】物価目標2%を達成前に量的緩和をやめれば、旧白川日銀のように中国を利し米国からの反発は必至(゚д゚)!

【日本の解き方】リーマン危機前の日銀「議事録」 引き締めが必要との姿勢強調、金融機関重視で国民生活軽視

日銀元総裁 白川氏

 日銀の2008年1~6月の議事録が公開された。リーマン・ショック直前の日銀内でどのような議論が行われていたのか。危機への備えは適切だったのだろうか。

 この時期、日銀人事は混乱していた。08年3月19日には福井俊彦総裁の任期が終了したが、ねじれ国会の与野党の対立により、総裁が約3週間不在になる異例の事態もあった。

 4月上旬には、副総裁に就いたばかりの白川方明(まさあき)氏を総裁に昇格させる案が国会に提示され、4月30日の決定会合から総裁不在は解消された。

 そして、白川氏は6月会合で「たぶん、危機、最悪期は去ったのだろうと思う」と発言した。これは、大手の金融機関が突然破綻するという意味での「最悪」であり、白川氏が金融機関ばかりを見ていたことを示している。

 筆者は、白川氏が同年9月のリーマン危機を想定していなかったことを問題とするつもりはない。あのような数十年に1度のことを予想するのは難しいからだ。

 かつてアラン・グリーンスパン元米連邦準備制度理事会(FRB)議長も「バブルは崩壊して初めてわかる」という名言を残している。

 重要なのは事前の予想ではなく、事後の対応だったが、白川日銀はそれに失敗し、リーマン・ショック後大規模な金融緩和を怠った。その萌芽(ほうが)も1~6月の議事録に見られる。

 この間、FRBは1月に緊急利下げを行ったが、日銀は政策金利を据え置いた。1月の会合で当時の福井総裁は「物価安定のもとでの成長軌道をたどるのであれば、金利水準を徐々に引き上げていく方向にある」と、金融引き締めが必要との立場だった。

 このスタンスは白川日銀にも引き継がれ、4月下旬の会合で須田美矢子委員は「持続的な成長軌道をたどる蓋然性が高い場合は利上げという考えに変わりがない」としている。このほかにも、資源高に伴うインフレ懸念から利上げを検討すべきだとの声すら出ていた。

 白川日銀は、金融引き締めが必要との予断があったために、その真逆の大規模な金融緩和に思い至らなかったのだろう。

 また、白川日銀は金融機関を重視していた。白川氏が、金融機関を見て、「最悪を過ぎた」と発言したとの議事録は既に紹介したが、リーマン・ショック後、日本の金融機関がそれほど打撃を受けていないことが分かると、リーマン・ショックを過小評価したことにつながっている。これは当時の与謝野馨経済財政担当相が「蜂に刺された程度」と述べたことからもうかがえる。与謝野氏は白川日銀の執行部との距離感が近かったので、この発言は日銀の状況を表している。

リーマンショックを「蜂に刺された程度」と述べた与謝野馨経済財政担当相(当時)

 楽観論を戒める場合でも、「金融機関のサドン・デスが重なるとかなり大きなことになるので、十分注意しないといけない」(西村清彦副総裁)というように、金融機関が対象であり、円高などの国民生活への影響は顧みられなかった。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】物価目標2%を達成前に量的緩和をやめれば、旧白川日銀のように中国を利し米国からの反発は必至(゚д゚)!

この当時の日銀の明らかな失策については、過去のこのブログにも何度となく掲載してきました。

それらを簡単に以下にまとめます。

97年には、日銀法が改正され、98年間より、日銀はデフレの中での金融引き締め政府を実施し、日本はこの年から、完璧にデフレに陥りました。この年から、自殺者が前の年まで、2万人台だったものが、3万人台に膨れ上がりました。

バブル期に判断ミスをした日銀の金融政策は、その後もずっと間違い続きとなり、第一次安部内閣のときには、もう少しで、日本経済がデフレから脱却できそうだったにもかかわらず、バブルの最中に金融引き締め転じ、日本をデフレ・スパイラルの泥沼に再びひきずり下ろし、その後第一次安部内閣は、崩壊しました。

過去ほとんど金融緩和をしなかった日銀

リーマンショックのときには、日本を除く欧米先進国などすべてが、大規模な金融緩和を行ったにもかかわらず、日銀はほとんど実施せず、その結果、ショックの震源地であるアメリカや、直接の影響をかなりこうむったEU諸国などが、すぱやく立ち直ったにもかかわらず、本来ほとんど影響のなかった日本が、大きな影響をこうむり一人負けの状況でした。こうした意味では、日本におけるリーマンショックは実は、日銀の不手際によるものであって、日銀ショックと呼んでも差し支えないものでした。

実際リーマンショック震源地の米国よりも、2008、2009年の実質落ち込みは激しいものでした。それは以下の表をご覧いただければご理解いただけるものと思います。



その後も日銀の不手際は続きます。なにやら、おかしげな基金を設置して、短期の国債(短期の国債を買い取っても現金を現金に替えているようなもので、ほとんど金融緩和の効果はない)などを買取るようなことをして、いかにも金融緩和をやっているようにみせかけつつ、実質的に金融引き締めを続けていた日銀は、東日本大震災が発生したときでさえ、基本的には金融引き締めを実施し、緩和はしませんでした。


そのためにどういうことになったかといえば、震災などの大規模な自然災害が発生すれば、救援活動や復興活動で、当然のこととして円の需要が高まります。にもかかわらず、日銀は、金融引き締めをしたままので、その結果として、当然円の需要はますます高まり、かなりの円高となりました。

どの国でもまとも国であれば大規模な自然災害が発生すると、多少通貨高になるのが普通ではあります。確かに、東日本大震災の前の年にあった、オーストラリアの水害のときも、オーストラリアドルが高くはなりました。しかし、日本の場合は、高くなりすぎただけでなく、長期間続きました。やはり、日銀歩が金融引き締めばかりに実施して、円を市場に投下しなかったためです。

この馬鹿な日銀による、金融政策の失敗続きは、2014年の4月に黒田体制となってから、異次元の包括的金融緩和が実施されて以来、終止符が打たれたわけです。

それにしても、日銀はなぜこのようなデフレ円高誘導をしてきたのか疑問が残ります。白川総裁を始め、その前の福井俊彦総裁、さらにその前の速水優総裁はとにかく頑なにお札を刷りませんでした。

デフレ脱却議連が当時の民主党政権に抵抗して『白川、お札刷れ!』と言っても、そのたびに中国人民銀行の周小川(しゅうそうせん)総裁が『お札するなよ』と命令をしてくるので、実行しなかったのでしょうか。

周小川は2013当時『日本の金融緩和は許せない』などと語っていました。なぜあんなことを言えたのかと、冷静に考えれば、周は白川の上司だったと考えれば納得がいきます。無論白川氏が本当に周の部下だったのかどうかはわかりませんが、白川氏が総裁だったこの日銀が実行していることをみれば、そういわれても無理はないです。

現在も中国自民銀行のトップである周小川

日本銀行は日本の銀行ではなかった、というこかもしれません。当時日銀が金融緩和をしなかったため、中国はかなり緩和をしても、インフレになる心配がない状況になりました。

デフレ円高によってほぼ固定相場制のごとく元安が約束されますから、中国は元安で貿易黒字が続きました。その当時は、日本に工場があると、同じものを製造しても中国で製造するよりも高くなるので売れなくなりました。

そのため、産業が空洞化しました。それを一気に逆転する方法が安部総理の『日銀をとるのは天王山』だったわけです。日銀が中国の手先だとわかった以上は、戦うしかないわけです。ただし、戦うとはいっても無論武力で戦うわけではありません。

金融というのは非常に重要で、日銀を動かすことができれば、これは中国に対しては、核武装に匹敵するくらいの威力があります。だから安倍総理は日銀にこだわったのです。日銀を手中にすれば、中国を『滅ぼす』ことは容易なのです。
15年間デフレで安倍さんが日銀に金融緩和しろといった途端に、景気が回復軌道に入りました。東京から10大都市に向けて順々に派遣やフリーターの時給が上がり始めました。

誰がデフレ不況の元凶だったかは明らかです。安倍総理が前の日銀総裁の白川方明に『お札刷れ!』と言ったら、なぜか、あくまでなぜかですが、尖閣諸島に戦闘機とか軍艦が押し寄せてきました。しかし、いまや中国バブルは崩壊寸前です。

日銀が文字通り日本の銀行になったことで中国は別の手を打ってくる可能性もあります。中国が打つ手は三つあります。一つはチャイナ系ヘッジファンドが株価の操作を試みることです。アベノミクスそのものをひっくり返そうとすることです。

いまも疑わしき状況があって、円安要因しかない局面でなぜか円高株安に触れています。何かきな臭いところがあります。

もう一つは、尖閣抱きつき作戦です。中国の得意技にプロパガンダがあります。特に歴史問題を持ち出すのが大得意。だから尖閣でさんざん日本を挑発して、日本が殴ったら、『ああ、日本に殴られた。昔と同じようにいじめられた』みたいなことを世界中にプロパガンダして、『歴史問題、頑張るアルヨ』とばかりに、バカなアメリカ人を騙して、他人の力を使って日本を制裁させるといシナリオです。

三つ目の作戦としては、安倍晋三の暗殺です。これは本気でやりかねません。中国の理想的なシナリオ、これは中国に限らず、日本を滅ぼしたい勢力の理想は、今年秋の総裁選で安倍総理が、『自民党は盤石政権』だと言ったあとに安倍さんがなくなることです。

なぜなら、安倍さんがいなくなれば、自民党の政治家は、残念ながら一部を除いて能力が低いです。いかようにでもなるからです。これは本当に困ります。チャイナ系ヘッジファンドの株価操作、尖閣抱きつき作戦、三つ目はちょっと特殊な話ですけど、これらに対して打つ手はいくらでもあります。結論からいうと、安倍さんが生きているかぎり大丈夫です。

そうして、この3つの作戦は、オバマ政権のときにはかなりやりやすかったのですが、トランプ政権になってからがらりと風向きが変わりました。そもそも、オバマ政権のときには、「戦略的忍耐」としてオバマは中国のすることを実質的に見逃してきました。

ところがトランプ大統領は大統領選挙のときから、中国と対峙することを公約としていました。安倍総理は安倍政権成立の直前の2012年12月に、海外のサイトに「安全保障のダイヤモンド」という論文を寄稿して、対中国封じ込め戦略を提唱していました。

そのためこの二人が最初から馬が合うのは当然といえば当然でした。そうして、日米は対中国封じ込めで強力し合うようになりました。

そうして、現在ではトランプ政権は対中国貿易戦争を開始し、本格的に中国を潰しにかかっています。この戦争は、中国が国内市場を開放したり、元を完璧に変動相場制に移行するだけですむことはありません。

トランプ政権としては、現在のところはっきりと中国には言っていませんが、究極的には民主化、政治と経済の分離、法治国家化をせまるものと思います。しかし、これを中国が実行すれば、おのずと中国の現状の体制は崩壊するというか、させることになります。

それは、中国としてはできないと判断することでしょう。であれば、米国としては中国が二度と米国を頂点とする戦後の国際秩序を維持するため、中国がこれに対抗することができないように、経済的にかなり弱体させることを目的とするでしょう。実際、米国はこれを目的として今後、貿易戦争、金融制裁をエスカレートさせていくことでしょう。

このような状況のときに、日本が金融緩和を中途半端にやめてしまえば、白川日銀のときにのように中国を利するだけであり、米国の対中国は貿易戦争の勢いを削ぐことになり、米国からかなり反発されることになるでしょう。

とにかく、日本は物価目標2%を達成するまで、デフレから完全脱却するために、量的緩和を継続し、間違っても中国を利することのないようにすべきです。

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