2018年12月27日木曜日

株急落は来年の様々なリスクの前兆、消費増税の余裕はない―【私の論評】財務省は本気で全国民から恨まれ、米国を敵にまわしてまでも増税できるほど肝が座っているのか?

株急落は来年の様々なリスクの前兆、消費増税の余裕はない


 25日の株価は大荒れだった。東京株式市場では日経平均株価が1000円超下落し、2017年9月15日以来1年3ヵ月ぶりに2万円の大台を割り込んだ。

 24日の米国ダウの653ドル(2.9%)の下落を受けたものだが、日経平均は1010円(5.0%)の下落であり、米国を上回る下げだった。

 米株価急落は世界的な景気減速や米中貿易戦争への懸念が市場を覆う中で、米連邦政府の一部閉鎖やマティス国務長官の辞任など、トランプ大統領の政権運営への不安が広がったのが背景だが、日本では株価だけでなく、来年はさまざまなリスクが予想される。
日経平均株価が2万円台割れ12月では69年ぶりの下落率

 12月に入って、米国ダウは3日の25,538.46ドルから24日の21,792.20ドルまで、3746.26ドル下がった。下落率は14.67%だ。

 月内の下落率は、大恐慌の1931年(17%)に迫る歴史的な下げ幅だ。

 日経平均株価の12月の下落幅も、3日の22,574.76円から25日の19,155.74まで3419.02円、下落率は15.14%とほぼパラレルに下落している。
 
 過去の日経平均でも、1949年5月から今年12月までの836ヵ月で、、今月1ヵ月の下落率15.14%は、21番目に悪い数字だ。12月に限ってみれば、1949年12月に19.55%下落して以来、69年ぶりに悪い数字だ。(図表1)


 836ヵ月の1月間の値動きのデータをみると、平均は0.69%、標準偏差は8.02だ。
来年はもう一回、大幅下落あれば、「リーマン級の事態」

 株価急落を受けて、菅義偉官房長官は25日午前の記者会見で、「経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は堅調だ」と述べ、来年10月の消費税率引き上げに向けて「経済運営に万全を期していきたい」としている。

 また、消費税増税については「リーマンショック級の事態が起きない限り、法律で定められた通り来年10月から引き上げる予定だ。引き上げる環境整備が政府の大きな課題だ」と述べた。

 たしかに、今の時点では「リーマンショック級の事態」とは言えないだろう。12月の株価の変動は、リーマンショック直後の2008年10月の36.99%、11月19.09%、2009年1月16.85%ほどではない。

 だが、来年にもう一回、大幅急落が来れば、リーマンショック級になるだろう。

 もう一回来るかどうかは、わからないが、その確率が以前に比べて高まったのは事実だ。

南海トラフと首都圏直下地震5年以内の発生確率は2割

 また来年のリスクは、経済変動に限らない。筆者が心配しているのは、自然災害である。

 これは、確率計算が可能だ。南海トラフ地震について、今後30年間での発生確率は70~80%というのが、政府の見解である。また、首都直下型地震についても、今後30年間が横浜市で78%となっている。

 今後30年間で8割程度の発生確率となると、今後5年に引き直せば、2割強の発生確率になる。

 そうなると、関西の南海トラフ地震か関東の首都直下型地震のいずれかが、今後5年以内に起こる確率は2割強になる。

 いずれかが起こるというのは、1から両地震が起こらない確率を引いて得られるが、両地震の起こらない確率は9割弱×9割弱で8割弱になるからだ。

 2割強というとどの程度の確率かと言えば、プロ野球で規定打席に達した選手のうち最下位レベルの打者の打率である。規定打席に達しているので、一応レギュラークラスの野手であるので、投手よりはもちろん高い。

 巨大地震が起こるリスクはかなりの“打率”と考えたほうがいい。

北朝鮮問題などで有事のリスクも

 このほかにも、日本には有事のリスクもある。これはなかなか定量的に表せないが、極東アジアは、これまでの歴史の中で紛争が比較的多い地域である。

 筆者は、米国プリンストン大留学で国際関係論を学んだ。指導教官は、民主平和論の大家であるマイケル・ドイル教授だった。

 ドイル教授は、民主的な国同士は戦争をしないというカント流の考え方を現代に復活させたが、筆者はドイル教授の意見を統計的に示した。

 つまり、(1)民主国同士、(2)民主国と非民主国、(3)非民主国同士はそれぞれ戦争確率が増加する傾向があるのだ。

 これを極東アジアに当てはめると、(2)のケースになるので、戦争確率は決して低くはない。もちろん、この戦争確率は、外交努力などによって下げられるので、その努力は必要だ。

 今年は、シンガポールで行われた米朝首脳会談での「非核化合意」で、極東アジアでの紛争確率は一応は低くなった。

 しかし、北朝鮮は核を依然として手放していない。アメリカも慎重派のマティス米国防長官の辞任が決まっている。今回の株価急落にトランプ大統領はいらついているようだ。

 戦争の確率を考えたくはないが、不満や閉塞状況を打開する手段として、軍事オプションの可能性が、少なくとも今後は高まるようにみえる。

 このように、来年は、経済、自然現象、安全保障のすべての分野でリスクが高まる状況ではないか。

財政破綻のリスクはない増税はやめるのが合理的

 そうした状況で消費増税をやっている余裕があるのか。

 本コラムでは、政府の財政について、負債だけではなく、資産も含めたバランスシートで考えなければいけないと、何度も書いてきた。筆者は20年以上もこのことを繰り返してきた。「統合政府論」というファイナンス論の基礎でもある。

 この考え方をもとに、大蔵省(現財務省)勤務時代に、単体のみならず連結ベース政府のバランスシートを作成した。それをみると、それほど国の財政状況は悪くないことが分かった。

 国の徴税権と日銀保有国債を政府の資産と考えれば、資産が負債を上回っていることも分かった。この財政の本質は、現在まで変わっていない。

 また資産といっても、一般に考えられている土地や建物などの有形固定資産は全資産の2割にも満たない程度だ。大半は売却容易な金融資産で、政府関係機関への出資・貸付金などだ。

 その当時、筆者は上司に対して、ファイナンス論によれば、政府のバランスシート(日本の財政)はそれほど悪くないことを伝え、もし借金を返済する必要があるのであれば、まずは資産を売却すればいいと言った。

 それに対し上司から、「それでは天下りができなくなってしまう。資産は温存し、増税で借金を返す理論武装をしろ」と言われた体験もいろいろなところで話してきた。

 ちなみに、日銀を含めた連結ベース、つまりいわゆる統合政府のバランスシートに着目するのは、その純資産額が政府の破綻確率に密接に関係するからだ。

 これもファイナンス論のイロハである。IMF(国際通貨基金)も、統合政府の純資産に着目して、日本では実質的に負債はないといっている。

 純資産額の対GDP比率は、その国のクレジット・デフォルト・スワップ・レートと大いに関連する。それは破綻確率に直結するからだが、日本の破綻確率は今後5年以内で1%にも満たない。

 この確率は、多くの人には認識できないほどの低さであり、日本の財政の破綻確率は、無視しても差しつかえないほどである。

 一方で、来年は上述したような経済や自然災害、安全保障のリスクが考えられるのだ。

 消費増税は、社会保障の安定財源確保や財政再建のためだと言うが、財政破綻の可能性を考えれば、経済、自然災害、安全保障のリスクのほうがはるかに大きいので、やめるのが合理的な判断だろう。

(嘉悦大学教授 高橋洋一)
【私の論評】財務省は本気で全国民から恨まれ、米国を敵にまわしてまでも増税できるほど肝が座っているのか?
ブログ冒頭の記事で、高橋洋一氏は、「消費増税は、社会保障の安定財源確保や財政再建のためだと言うが、財政破綻の可能性を考えれば、経済、自然災害、安全保障のリスクのほうがはるかに大きいので、やめるのが合理的な判断」と締めくくっていますが、全くそのとおりです。
しかし、増税をやめるべき理由は高橋洋一氏が述べる国内事情にとどまるものではありません。それは、トランプ政権による反対です。
これについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリストを以下に掲載します。
G20「各国の力関係の変化」と共同宣言の本当の読み方を教えよう―【私の論評】トランプが目の敵にしてる日本の消費税引き上げを安倍総理は本当に実行できるのか(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、トランプ大統領がなぜ消費税増税に反対するのかを説明した部分のみ以下に引用します。
日本では、輸出業者に消費税が還付される「消費税還付制度」があります。たとえば、自動車を1台生産する場合、部品をつくる会社は部品を売ったときの消費税を国に納め、その部品を買って組み立てて製品にした会社は、それを親会社に売るときに消費税を納めます。そうやって、いくつもの会社が払ってきた消費税が、最終的に製品を輸出する企業に還付される仕組みになっています。
本来なら、部品をつくる会社、それを組み立てる会社と、消費税を払うそれぞれの業者にも出されてしかるべきですが、最終的に輸出されるときには輸出業者は免税で、そこにまとめて還付されることになっています。 
この輸出業者に還付されるお金は、全国商工新聞によると約6兆円。つまり、消費税徴収額約19兆円のなかで、主に輸出業者に戻される還付金が約6兆円もあるということです。みんなから集めた消費税の約3割は、輸出企業に戻されているのです。 
これに対してトランプ大統領は、アメリカに輸出する日本の企業は政府から多額の補助金をもらっていると怒っていて、だからダンピングでクルマなどが売れるのだと考えているようです。消費税を「輸出を促すための不当な補助金」だと非難しているわけです。 
そもそも、米国には消費税がありません。州単位では「小売売上税」という消費税に似たような税金を徴収していますが、国としてはないのです。1960年代から何度も消費税導入の議論はされていますが、ことごとく却下されています。 
なぜ米国の議会が消費税導入を却下するのかといえば、彼らは消費税というのは不公平な税制だと思っているからです。アメリカには、儲かった企業がそのぶんの税金を払うのが正当で、設備投資にお金がかかるので儲けが出にくい中小企業やベンチャー企業からは税金を取らないという考え方があります。儲かっていない中小企業の経営を底支えし、ベンチャー企業を育てて、将来的に税金を払ってくれる金の卵にしていく。それが正しい企業育成だというのです。 
しかし、消費税は、儲かっていても儲かっていなくても誰もが支払わなくてはいけない性質の税金です。さらにいえば、儲かっているところほど相対的に安くなる逆進性を持っているので、アメリカでは不公平な税制だというのが議会や経済学者のコンセンサスになっています。

消費税の引き上げにおいては、国内での議論とは別に日本が無視することのできない「巨大な外圧」があるのです。

来年以降、『アメリカ・ファースト』(アメリカ第一主義)を掲げるトランプ政権との貿易交渉が本格的にスタートするこのタイミングで、日本が消費税10%引き上げへ向かえば、アメリカの強い反発を招くことは避けられないでしょう。

日本やヨーロッパなど、約140の国と地域で採用されている消費税(日本以外では付加価値税と呼ばれる)ですが、実はそこに連邦国家アメリカは含まれていません。

ただし、米国には商品の小売り段階でのみ消費者に課税する『小売売上税』という州税があります。しかしこれは、原材料の仕入れから、製造、流通、卸売り、小売りに至るまで、すべての商取引の段階で課税される『消費税』や『付加価値税』とは根本的に異なるものです。

以下に消費税と小売売上税(売上税)の違いを示すチャートを掲載します。



米国でも過去何度も消費税導入が議論されたことがありますが、そのたびに退けられてきました。その背景には、上での述べたように消費税や付加価値税を『不合理で不公正な税制』ととらえる米国の考え方があります。そのため、この税制に関して、米国は一貫して否定的なスタンスを取り続けてきたのです。

もちろん、消費税を採用している国から見れば、米国は『少数派』ということになりますが、多くの政策で独自路線を突き進み、公平な市場環境を訴えるトランプ政権が『こちらに歩調を合わせるべきだ』と言いだしても不思議はないです。

しかし、米国が消費税導入に否定的だとしても、彼らが他国の税制に「不公正だ」「非関税障壁だ」と不満を訴えているのはなぜなのでしょうか。

その最大の理由は、上でも述べたように日本も含めた消費税導入国が自国の輸出企業に対して行なっている「輸出還付制度」の存在です。米国はこれを「自由競争の原則を歪(ゆが)める制度」だとして問題視しているのです。

消費税は仕入れから小売りまで、すべての段階で課税されます。そして事業主は基本的に、最終的な売り上げにかかる消費税(購入者から預かった消費税)から、その前の段階の仕入れなどにかかる消費税を差し引いた額を税務署に申告することになります。ただし、インボイス制度未採用(*)の日本で正確に計算ができるのかという問題がまずあります。

仕入れから製造までを国内で行なう企業がその製品を海外に輸出する場合、消費税は実際に消費が発生する輸出相手国の税制に沿って課されることになります。

仕入れの段階でも日本の消費税を払っているので、このままでは輸出相手国と国内とで2度消費税が課されることになります。そうした『二重課税』が起きないよう、輸出製品については仕入れなどにかかる消費税が国から還付されることになっています。これが『輸出還付制度』です。

(*)日本の消費税は、ヨーロッパの付加価値税のように取引に関する個々の請求書、領収書ベースで消費税額を計算するインボイス制度を採用していません。


例えば、日本の自動車メーカーが国内から部品を調達していれば、そのメーカーは国内の下請け企業に「部品代+消費税」を支払っていると見なされ、そのクルマを輸出して海外で販売した場合は、国内で払った消費税分が全額還付されるのです。これは消費税制度のない米国に輸出する場合も例外ではありません。

米国はこの還付金を、政府が輸出企業に与える『実質的なリベート』だと見なしていて、強い不満を訴えています。消費税制度のある国からアメリカに輸出する企業は消費税免除により『輸出還付金』の形でリベートを受け取るのに対し、アメリカ国内の企業にそうした制度はなく、輸出先の相手国の消費税を課税されています。これが米国からすると『不公正だ』という主張です。

ではアメリカにとって日本の消費税引き上げはどんな意味を持つのでしょうか。

もちろん、こうした米国側の主張については、さまざまな異論もあると思います。しかし、あくまで米国側の立場で見れば、日本の消費税の8%から10%への引き上げは、『日本の輸出企業へのリベートの引き上げ』と『日本向けアメリカ輸出企業への実質的な課税強化』ととらえることになります。当然、米国が強く反発するのは避けられないでしょう。

米国は日本だけ目の敵にしているわけではありません。欧州の付加価値税や日本の消費税のような間接税については還付制度を認め、直接税では認めないWTO(世界貿易機関)のルール自体を変えるべきだと主張しているのです。

「日本自動車工業会」会長豊田章男氏

実は、そうしたアメリカ側の空気に最も敏感に反応しているのが、日本の自動車メーカーによる業界団体で、トヨタ社長の豊田章男氏が会長を務める「日本自動車工業会」(自工会)です。

これまで基本的に政府の「消費税引き上げ」という方針を支持してきた自工会が、今年9月20日に発表した「平成31年度税制改正に関する要望書」では増税反対という明確な表現は避けながらも、消費税10%への引き上げについて国内市場縮小への懸念を強く訴えています。

こうした自工会の消費税に対する姿勢の変化に、彼らの日米関係に対する「シビアな現状認識」が表れているようです。

韓国とのFTA(2国間貿易協定)の見直しに続いて、10月にはメキシコとカナダとのNAFTA(北米自由貿易協定)に代わる新たな協定(USMCA)の合意にこぎ着けたトランプ政権が、『次のターゲット』として日本を視野に入れるのは当然でしょう。

日本はこれから、自動車関税25%への引き上げをチラつかせるトランプ政権と、2国間貿易協定の交渉に臨みます。しかし、前述したように米国は日本の消費税に対して、強い不満や不信感を抱いています。

そんな状況で日本が消費税の引き上げを強行すれば、日米交渉のテーブルでは米国側が態度をさらに硬化させ、場合によっては自動車関税25%発動という、自工会にとって最悪のシナリオを招きかねません。

今年9月25日、国連総会出席のため訪米した安倍首相に同行した茂木敏充経済再生担当大臣がUSTR(アメリカ通商代表部)のライトハイザー代表と会談しましたが、このライトハイザー氏は消費税の『輸出還付制度』を一貫して不当なリベートだと訴え続けてきた人物として知られています。

安倍首相の訪米直前のタイミングで、自工会があえて『消費増税への懸念』を表明したのも、アメリカ側に配慮した自工会のメッセージではないかとみられます。

また、先ほど述べたUSMCAでは、アメリカへの関税が免除される製品に関して『部品の現地調達率』などの条件が大幅に強化されており、これまでメキシコでの現地生産でNAFTAの恩恵を受けていた日本企業にとって、かなり厳しい内容になっています。

日本の自動車メーカーにとってはトランプ大統領の言う『メキシコ国境の壁』がつくられたも同然で、今後アメリカ市場での拡大があまり期待できないことを考えれば、『消費税引き上げで国内市場まで縮小されてはたまらない』というのが自工会の本音ではないでしょうか。

もちろん、税制は日本の「内政問題」です。それに消費税を採用せず、輸出還付制度を不公正なリベートと見なす米国の考え方が必ずしも正しいとは限らないです。

しかし、世界には米国のように消費税に対して否定的な超大国もあるということです。そして、その米国の姿勢がさまざまな形で日米関係に大きな影響を与えかねないという現実があることは理解する必要があるでしょう。

日本の税制をめぐる大切な議論が、日米貿易交渉の「取引材料」に使われる可能性は大いにあるということだけは認識すべきでしょう。

消費増税は、社会保障の安定財源確保や財政再建のためだと言うが、財政破綻の可能性を考えれば、経済、自然災害、安全保障のリスク、さらには米国による自動車関税25%のほうがはるかに大きいので、やめるのが合理的な判断です。

ムニューシン米財務長官

ムニューシン米財務長官は10月13日、日本との新しい通商交渉で、為替介入をはじめとした競争的な通貨切り下げを防ぐ「為替条項」を要求する考えを示しました。インドネシア・バリ島で記者団に語りました。日本政府は通貨政策や金融政策を縛られるため受け入れがたく、日米交渉の新たな火種になる可能性が出てきました。

日米は9月、安倍晋三首相とトランプ米大統領の首脳会談で、農産物や工業製品の関税引き下げに向けた「日米物品貿易協定(TAG)」の交渉開始で合意しました。ムニューシン氏は今回、この交渉に絡み、「今後の貿易協定に(通貨安への誘導を禁止する)為替条項を盛り込むことが目標だ」と発言しました。

今後の交渉では、消費税がやり玉にあがる可能性はかなり大きいです。米国は自動車関税を皮切りに他の製品や、鉄鋼や部品などにも関税をかけてくる可能背もあります。さらに、「為替条項」まで強制されれでば、とんでもないことになります。このような危機を招く消費税増税は絶対にすべきではありません。

為替条項などは、経済学の常識で、「一国が為替操作のために、意図的に金融緩和策を採用しつづけると、今度はハイパーインフレに見舞われる。そのため、為替操作を続けることはできなくなる」という一般論で十分切り抜けられると思いますし日本は実際為替操作などしていません。しかし、消費税に関してはなかなか、合理的に説明するのは難しいです。米国も納得しないでしょう。

ふたたび増税すれば、個人消費が落ち込み、また日本はデフレにまいまどりとんでもないことになります。過去においては、デフレの原因などあまり明るみにされませんでしたが、今後は多くの識者がその原因を詳細にわたって解説することでしょう。そうして、その現況となった財務省は当然のことながら糾弾され、やがて全国民から恨まれることになります。

財務省は、本当に国民経済を破壊し国民から恨まれるだけではなく、さらに米国を敵にまわしてまで増税するつもりなのでしょうか?

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2018年12月26日水曜日

中国情報当局トップ“極秘来日”の真相 専門家「日本を取り込みたい中国側の意思のあらわれ」―【私の論評】中国≒盗人!そのような見方をさせるようにしたのは当の中国(゚д゚)!

中国情報当局トップ“極秘来日”の真相 専門家「日本を取り込みたい中国側の意思のあらわれ」

陳文清国家安全相

中国の情報機関トップ、陳文清国家安全相が今秋、極秘来日して公安調査庁や外務省の幹部らと接触していたと、読売新聞が23日朝刊で報じた。マイク・ペンス米副大統領が10月4日、「(中国に)断固として立ち向かう」などとワシントンのシンクタンクで演説し、米中新冷戦が顕在化した直後のタイミングだけに、中国側の意図が注目されている。

 同紙によると、陳氏は10月末から11月初旬の来日中、日本の情報当局幹部と面会し、2020年東京五輪と22年北京冬季五輪を見据えたテロ対策での連携や、情報当局間の交流強化を確認。北朝鮮情勢についても意見交換したという。

 国家安全省は、中国の情報機関で、諜報・防諜活動を主業務とする。米国のCIA(中央情報局)やFBI(連邦捜査局)、英国のMI6(秘密情報部)やMI5(情報局保安部)に相当するとされる。

 中国の通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の副会長兼最高財務責任者(CFO)が今月1日、米国の要請でカナダで逮捕された直後、中国でのカナダ人元外交官らの拘束を実行した当局といわれる。

 トップである陳氏は、習近平国家主席の側近の一人とされ、16年11月に、同省党組書記から国家安全相に起用された。

 日中間には現在、スパイ容疑などで邦人12人が中国当局に拘束されている問題がある。読売新聞は、陳氏の今回の行動を「極めて異例」と報じたが、一体何が目的なのか。

 元公安調査庁調査第二部長の菅沼光弘氏は「異例といえば異例だ」といい、こう続けた。

 「米中新冷戦が激化するなか、米国は、日本経由で中国への軍事・ハイテク技術が流れることを警戒している。陳氏の極秘来日は、中国がいかに日本を取り込みたいかという意思のあらわれといえる。中国としては、日本と接近して、有利な立場を取りたいということもあるだろう」

【私の論評】中国≒盗人!そのような見方をさせるようにしたのは当の中国(゚д゚)!

中国が世界を自分たちの都合でメチャクチャにしてきたことは、もうはっきりしすぎるくらいはっきりしています。

日本にとっても、尖閣の問題一つとっても、中国の行動はハチャメチャでした。このような国は全く信用できず、米国に経済冷戦を仕掛けられても当然としか言いようがないです。

このことは、現在の日本人なら、誰でも知っていることです。しかし、何年か前までは、多くの人がこのことを知らないどころか、中国幻想に酔っていました。

NHK「クローズアップ現代」国谷元キャスター

2009年の9月17日のNHK「クローズアップ現代」では当時の多くのマスコミがそうであったように、中国進出大キャンペーンを行なっていました。番組タイトルは「シリーズ アジア新戦略(2) “ボリュームゾーン”をねらえ」というものでした。

当時の国谷キャスターがはもはや欧米の市場は狙えないから中国に活路を見出せという事を語っていました。番組ではダイキンが中国市場に本格参入するために中国企業と合弁すると言うことを報道していましたが、代償としてインバーターの技術を提供すると報道されていました。

しかし、当時の私は中国企業は技術を手に入れたらダイキンを追い出して、新技術の新型クーラーを格安で売り出すだろうと思いました。このようにして中国は13億の巨大市場を餌にして世界の先進企業の技術を手に入れていました。当時中でも中国の経済発展にもっとも貢献しているのは米国のグローバル企業でした。

そのダイキンは現時点ではすでに中国から引き上げています。当然といえば、当然です。ダイキン工業は、チャイナリスクの回避を着々と実行しています。今年ダイキン工業は米国で製造する空調機の一部部品を中国から賄っているのですが、調達先の変更などを検討中です。日本のメーカーの多くがこのようなチャイナリスク回避を実行しつつあります。

米国イリノイ州 ロックフォードの町並み

さて、2009年当時の米国をふりかえってみます。米国のロックフォードは東京や大阪の下町にあるような機械工業部品の生産地でした。多くが数十人規模の中小企業であり自動車のエンジンを作る精密工作機械など高い技術力を持っていました。

そこに中国企業が三分の一の価格で部品の販売攻勢をかけてきて、一つまた一つと伝統ある金属加工会社が倒産して行ったのです。そして倒産した会社の機会や設計図や操作ノウハウを中国が買いあさっていきました。

アメリカ政府はこのような国防上も影響のある中小企業を保護する事もなく見捨てて、300万人もの雇用が失われていったのです。GMやクライスラーが新世代の自動車が作れなくなったのは、このような中小企業が倒産してなくなってしまったからであり、GMやクライスラーは中国の安い部品で自動車を作るようになりました。

ボーイング社も世界最大の航空機メーカーですが、安い部品は中国から輸入して組み立てていました。当時のGMやボーイング社のようなグローバル企業から見れば、国内で生産するよりも人件費がただのような中国で部品を作ったほうが合理的だったのです。中国は広い国土と膨大な人口を持つから自動車や航空機の巨大市場になる可能性がありました。事実中国は世界一の自動車大国になりました。

中国の自動車メーカーは400社もあるそうですが、自動車が国産化できるようになったのも早くから米国のメーカーの下請工場として部品を作ってきたからであり、米国のグローバル企業は日本やヨーロッパと対抗するには中国の安いコストで対抗する必要があったのです。だから米国は中国の人民元の切り下げにも協力しました。80年代は1ドル2元が90年代には1ドル8元にまで切り下げられました。これは、GMやボーイングにとってはその方が良かったからです。

米国政府は国家戦略として製造業は切り捨てて金融立国を目指していました。1997年のアジア金融危機は米国が仕掛けたものであり、米国資本は倒産したアジアの企業を買いあさったのです。韓国の主要銀行はすべて外資に買収されて米国の経済植民地になってしまいました。物作りは中国や韓国や台湾に任せて金融で稼ぐのが一番効率がいい良いはずでした。

しかし米国ではバブルが崩壊して金融立国戦略は破綻しました。そうして製造業はロックフォードの例を見るまでも無くほとんどの会社は倒産して熟練工もいなくなりました。新製品を作ろうと思っても国内では作る事が出来ないのです。製造工場がいったん無くなれば元に戻す事はなかなかできないです。工場は海外に自由に移転させられますが、人は移す事ができないです。失業した熟練工は時給7ドルのウォルマートの販売店員になるしかなかったのです。

この光景は当時日本で起きていた光景と同じであり、トヨタやキヤノンといったグローバル企業は工場を中国に移転して国内は空洞化してしまいました。当時は、経済的にはそれが合理的だったのでしょうが、中国は全くアンフェアな国です。

技術を手に入れたら格安で販売攻勢をかけてくるでしょう。NHKは当時アジアの巨大市場を手に入れるには技術を移転させていくしかないと言っていましたが、それはまさに米国と同じ道を行けと言うのと同じでした。

当時といえば、中国経済は10%前後の程度の伸びを続け、安くて豊富な労働力、そして何よりも13億人という圧倒的な市場規模。だからこそ、当時の日本企業は雪崩を打って中国に進出していました。中国政府が発行する「中国貿易外経統計年鑑」によれば、2012年には、約2万3000社の日本企業が中国に進出していました。

ところがです、当時から中国のことを知らずに企業経営をするのは、譬えるならば、マンホールのふたが開いている道を、新聞を読みながら歩いているようなものと警告されていました。

そもそも、中国には当時から世界中から一流企業が大挙して進出しており、世界一競争が激しい市場でした。地場の中国企業も酷い目に遭っていました。そこへ進出するのは、ベンチャー企業を創業するのと同じようなものでした。中国の国情をあまり知ろうとせず、中国人と付き合おうともせずに企業経営するのは、あまりにも危険でした。

実は、日本企業の中には、中国に進出して、破産に至るほどの深刻な目に遭った会社も少なくありませんでした。しかし、体面やその後のビジネスを気にして泣き寝入りしたケースが跡を絶たたなかたのです。

当時は、日銀も中国におもねるように、金融引き締めを繰り替えし、超円高状況を創出し、中国にとって都合の良いような状況ばかりをつくりだしていました。

この状況は、2013年4月から、日銀が従来のスタンスを変え、金融緩和に転じたため、ずいぶんと改善されました。従来の異常な超円高状況は改善され、現状は従来よりは円安傾向でまともな為替状況なっています。

この状況下、中国に進出した先にも出したダイキン工業のような企業が日本に生産拠点を戻しています。そうして、多くの企業がチャイナリスクを回避しようと日々努力しています。

盗人中国 パンダもともとはチベットのもの

中国の情報機関トップ、陳文清国家安全相が来日したとして日本国内での工作を強化したとしても、こうした企業や多くの人々の考えを変えることはできないでしょう。

そうして、日本人はこの中国の汚いやり口を終生忘れるべきではありません。中国≒盗人とみるべきなのです。そうして、これは一見ひどいことのようにも思えますが、そのような見方をさせるようにしたの当の中国であることを忘れるべきではありません。

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2018年12月25日火曜日

北朝鮮に強いシグナルを送った米国―【私の論評】ダメ押し米国!着実に奏功しつつある北制裁、中国への見せしめにも(゚д゚)!

北朝鮮に強いシグナルを送った米国

岡崎研究所

 米国財務省は、12月10日、北朝鮮の高官3名に対する制裁を発表した。そのプレス・リリースの主要点を紹介する。



・米国財務省の外国資産管理室(OFAC)は、北朝鮮で行われている深刻な人権侵害・弾圧に対して、3名の個人を指定した。この財務省の措置は、2016年の北朝鮮に対する制裁及び政策強化法(NKSPEA)に従って、本日、国務省が議会に提出した「北朝鮮の深刻な人権侵害・弾圧に関する報告書」に基づくものである。

・ムニューチン財務長官は述べた。「財務省が制裁対象とする北朝鮮高官は、北朝鮮による人権侵害を指揮した人達である。この制裁措置は、米国が行っている表現の自由の擁護や人権侵害への反対等の立場を示した行動である。米国は、一貫して、北朝鮮の人権侵害や表現の自由への弾圧に対して非難してきた。米政権は、引き続き、世界における人権侵害に対して行動を取って行く。」

・今回の措置は、北朝鮮が自国民に対して行っている扱いとともに、18か月前に亡くなった米国民、オットー・ワームビアさんに対する酷い扱いも想起したい。彼は、この12月12日で、24歳になるはずだった。彼の両親及び遺族たちは、いまも彼を追悼している。トランプ大統領は、2018年の一般教書演説で、米国は決意をもって、オットー・ワームビアさんに哀悼の意を捧げると、約束した。今回の措置は、この米国の決意の表れでもある。

・今回の指定は、大統領命令13687に基づくもので、北朝鮮政府と朝鮮労働党(WPK)等の幹部を対象にし、NKSPEAと適合する。今日指定された個人は、既に制裁対象となっていた組織、国家保衛省(MSS)、公安省(MPS)、WPKの組織・指導部(OGD)及び宣伝扇動部(PAD)に属す。

・国務省によると、今回指定された鄭敬沢(チョン・ギョンテク)は、MSSが行った人権侵害・弾圧を指導したと言われている。崔竜海(チェ・リョンヘ)は、OGDの部長であり、党、政府、軍を統括する「ナンバー2」と言われる。OGDは、党の強力な部署で、イデオロギーの監視を行ったり、党の政治的政策を実施したりする機関である。例えば、WPKの幹部が党の方針と異なることを述べてしまった際は、すぐに自己批判をさせる。崔竜海は、党中央員会の執行部の副委員長でもある。朴光浩(パク・グァンホ)は、WPK宣伝扇動部長で、表現の自由の弾圧を行なったり、イデオロギーの統制をしたりする責任者である、と国務省の報告書では述べられている。

左から 鄭敬沢,崔竜海、朴光浩

・米国は、深刻な人権侵害をした者に制裁を課し、その者たちが濫用をしないよう米国の金融システムを守る。2017年1月以来、米財務省は、500人以上の個人・団体を制裁対象として指定した。北朝鮮以外にも、シリア、南スーダン、コンゴ、ベネズエラ、イラン、ロシア等を対象にした。

・今回の制裁により、OFACによって指定された者の米国内の資産は凍結され、米国人と指定された者たちとの取引は禁止される。

参考:U.S. Department of the Treasury ‘Treasury Sanctions North Korean Officials and Entities in Response to the Regime’s Serious Human Rights Abuses and Censorship’ December 10, 2018

 12月10日、米国財務省は、北朝鮮の3人の高官に対しての金融制裁を発表した。

 今回の指定により、3人の在米資産は凍結され、米国人がこれらの者と取引を行うことが禁止される。実質よりも象徴的な意味合いの濃い措置であるが、北朝鮮に一層の圧力を掛けるものであり、北朝鮮に強いシグナルを送ったものと言える。

 12月10日の崔竜海等の制裁発表に続き、翌11日には、国務省が、北朝鮮では信教の自由が侵害されているとして、北朝鮮を今年も「宗教自由特別懸念国」に指定した。これは1998年に制定された「国際信教の自由法」に基づく指定であり、北朝鮮等10か国がそれに指定され、北朝鮮の指定は17年連続だという。

 北朝鮮の非核化を巡る米朝交渉が膠着し、南北関係も文在寅大統領が望むようには進展していない。文在寅が熱望する金正恩労働党書記長の年内ソウル訪問もほぼ不可能になったと青瓦台も今や観念したようだ。

 そんな最中に、米国は12月10日、11日と連続で人権侵害などを理由に対北朝鮮措置を出したことになる。

 また、米国政府は、11月末には北朝鮮に人道支援以外の支援をしないこと、国際金融機関による北朝鮮への融資に米国から出ている理事が反対するよう訓令する大統領決定を行った。これは、6月発表の今年の「人身売買報告書」で北朝鮮等を引き続き最悪国に指定したことを受けたものである。なお、昨年11月には、北朝鮮は、「テロ支援国家」に再指定された。

 北朝鮮はゆくゆく IMF、世銀、アジア銀行など国際金融機関に加盟し、融資を受けることを望んでいると言われ、韓国の文在寅政権はそれに好意的な姿勢を示している。しかし一連の米国の措置は、国際機関からの融資を難しくするものである。早速12月11日、北朝鮮労働新聞は米国による北朝鮮人権問題措置に対して、「米朝首脳会談の精神に反する極悪な敵対行為」だと反発している。

 トランプ大統領は基本的に人権には関心がないと言われている。シンガポールの米朝首脳会談でも人権問題は話されておらず、その点が批判されもした。なお、米国が今月開催しようとした北朝鮮の人権侵害を議論する国連安保理会合は、今年は断念せざるを得なくなったと報道されている。中国の他、中国の圧力でアフリカの理事国が反対したので、安保理で9か国の支持が確保できなかったと見られている。

【私の論評】ダメ押し米国!着実に奏功しつつある北制裁、中国への見せしめにも(゚д゚)!

米国の北朝鮮制裁は、実はかなり効いています。昨年から北朝鮮制裁は厳しさを増していました。米国による北制裁の徹底ぶりは、昨年から続いていました。

昨年10月1日、北朝鮮製武器の不正取引事件の奇妙な顚末が、米紙ワシントン・ポスト電子版の報道で明らかになりました。

事件が起きたのは一昨年8月でした。米当局からの情報に基づいて、エジプトの税関当局が同国沖でカンボジア船籍の貨物船を拿捕。北朝鮮を出発地とするこの船からは、携行式ロケット弾約3万発(推定価格2300万ドル相当)が見つかりました。

その買い手は、実はエジプト軍の代理人であるエジプト企業でした。同国が米国から巨額の支援を受けていることを考えると、驚きの事実でした。

トランプ米政権は昨年8月、エジプトへの経済・軍事支援を3億ドル削減・留保すると決めました。エジプト国内での人権侵害を懸念してのことだとされましたが、複数の米当局者によれば、決断の契機はこの武器輸入事件でした。

支援削減は、アメリカが北朝鮮問題を最重要視する現状を浮き彫りにしました。トランプ政権の目的はエジプトを罰すると同時に、同盟国であっても北朝鮮と武器取引をすればどうなるか、見せしめにすることでした。

この出来事からは対北朝鮮制裁の実態も浮かび上がりました。すなわち、国連による制裁と米国による制裁の在り方です。

北朝鮮が初めて核実験を行った06年、国連安保理は最初の制裁決議を採択。北朝鮮からミサイルや関連物資を調達することが禁じられました。北朝鮮が2回目の核実験を実施した09年には、北朝鮮による武器の輸出入が全面的に禁止されました。

国連加盟国は対北朝鮮武器禁輸措置を遵守すべきであり、北朝鮮から武器を輸入したエジプトは違反を犯したことになります。ただし、強制的に制裁を執行する権限を持たない国連が、北朝鮮の不法な武器取引に歯止めをかけるのは不可能です。

国連の専門家の推定によると、北朝鮮の武器取引額は年間1億ドル近く。韓国の朝鮮日報はその3倍の数字を挙げていました。

国際的制裁を補完するため、アメリカは強制力がある独自の制裁を行ったのです。手段の1つが、自国民を対象に敵国やテロ組織との取引などを禁じる1次制裁と、経済制裁を主とする非米国人対象の2次制裁です。

米国は、北朝鮮に関して幅広い1次制裁を実施。北朝鮮とのあらゆる「物資、サービス、技術」の取引を禁じ、財務長官は米国法の下で制裁遵守を求める権限を有します。

エジプトによる北朝鮮製武器の輸入は、アメリカで昨年成立した北朝鮮制裁強化法に抵
触。国益を理由に国務長官が見合わせを要請しない限り、大統領は同法に従い当該国への支援を留保しなければならないのです。

北朝鮮制裁強化法は大統領に、武器取引を手助けした人物を特定する権限も付与しています。財務長官は広範囲の2次制裁と併せ、武器取引の当事者(この場合はエジプト政府関係者)に対して、米金融システムへのアクセスを遮断することができます。

北朝鮮の武器密輸を阻止し、取引を手助けする国を規制すべく、国連と米政府は複数の措置を講じています。エジプトについて米国は可能な手段を全て行使していないですが、その必要はないでしょう。問題の貨物船が拿捕されて以来、エジプトは協力姿勢に転じています。

一連の出来事は、アメリカの支援対象国に米政府の法施行の徹底ぶりを印象付け、北朝鮮と取引する国に再考を迫ることになりました。そう、制裁はきちんと機能していたし、今でも機能しているのです。

昨年決議された北朝鮮への国連制裁決議

さて、この制裁が継続している現在、当の北朝鮮経済はどうなっているのでしょう。

2018年の北朝鮮の経済は、その構造的脆弱性が国連安保理及び米国の制裁と重なり、一層深刻な状況を余儀なくされました。最近北朝鮮を訪問した在日朝鮮人は、「北朝鮮はいま第2の苦難の行軍」に入ったと異口同音に語っています。

アジアプレスも7月、北朝鮮内部協力者からの報告をもとに、「ついに一部農村で飢餓発生、“絶糧世帯”増加で慌てる当局」との報道を行いました。“絶糧世帯”とはお金も食べ物もまったくなくなった家庭のことです。

中国の統計によると、北朝鮮からの1~10月の輸入額は前年同期と比べて89%も激減しました。米朝首脳会談直後は「もうすぐ制裁は解除され貿易や合弁事業が活性化する」との期待を膨らましていた北朝鮮の経済関係幹部たちはいま意気消沈しています。

「金正恩経済」をけん引してきた「市場」は、輸出入の減少で活気を失っています。需要の低迷でガソリン価格は一時下落しましたが、このところの供給不足で再び上昇に転じ始めています。内部からの情報によると、平壌市内のガソリン価格は、一時ℓ当1.5ドル(約185円)まで下落していましたが、11月上旬にはℓ当1.9ドル(約234円)まで上昇しました。

食糧危機も深刻化しています。北朝鮮では7月に入って一部地域では気温が40度を超すなど記録的猛暑が続き、コメやトウモロコシといった農作物に大きな被害が出ました。特に一般大衆の主食であるトウモロコシは、発育が悪く収穫量が前年比10%も減少しました。

韓国の農村振興庁は12月18日、北朝鮮の今年の穀物生産量が455万トンと昨年よりも3.4%減少したと発表ましたが、これで2年連続の減少となりました。国連食糧農業機関(FAO)は、食糧不足量が約64万トンに達すると推算しており、ほとんどの北朝鮮の家庭が食糧不足に陥ると診断しました。

板門店から開城に行く途中の農村

自由アジア放送によると、北朝鮮は9月に人民保安省(日本の警察庁に相当)名義の布告を出し、協同農場はもちろん一般の道路に設置された検問所などでも食料の持ち出しに対する取り締まりを強化しているといいます。布告では「農場の田畑に侵入し窃盗を行った者には法律で厳正に対処するのはもちろん、悪質な場合は死刑に処する」と警告しているといいます。

自由アジア放送の咸鏡北道消息筋は12月10日、「国営農場が一年間農作業を総括(決算)したが、農場員個人への分配があまりにも少なかった」とし「今年も軍用米をはじめとする国家計画分をあまりにも多く徴収したために農民に分けて与える食料が足りなくて農場ごとに頭を悩ませている」と伝えました。国連食糧農業機関(FAO)が公表した報告書によると、コメの価格は8月から月にかけて17%ほど上昇したとのことです。

そうしたことから、9月初めに黄海南道載寧の合同農場では、現場の責任者が自殺したといいます。当局は食料生産の40%を軍に供給するよう命じましたが、この責任者は命令に不満を抱いて自殺したようです(朝鮮日報日本語版 2018/10/01)。

こうした農村での悲惨な状況が伝えられる一方で、都市では一時暴騰したアパート価格(所有権ではなく使用権)が暴落し始めています。そればかりか、金正恩委員長が自慢した黎明通りなどの新しいアパート群もいま雨漏りに悩まされ防水作業に必死だといいます。そのために中国にブルーシートの注文が殺到しています。金正恩委員長の「制裁は効いていない」とする「見せるための政策」はボロを出し始めたようです。

黎明通り

韓国銀行(中央銀行)が7月20日に発表した推定統計によると、北朝鮮の2017年実質国内総生産(GDP)は、干ばつや経済制裁の影響で前年比3.5%も減少したとされ、20年ぶりの低水準となったとしていますが、2018年度の落ち込みはそれ以上になると予想されています。

北朝鮮はいま対外宣伝サイトで「自力更生が徹底している北朝鮮への制裁は無駄だ」と強調し、「時間は米国の愚かさを悟らせるだろう」と主張していますが、実態を覆い隠し経済危機を住民の犠牲で乗り切ろうとする思惑の表れと見られます。

金正恩委員長は今年4月の朝鮮労働党中央委員会で、核兵器が完成したので経済に集中すると宣言し、昨年に比べ経済部門の視察を59.2%も増やしたしましたが、その結果は見るも無残な状態です。このまま「非核化」に乗り出さず米国とのこう着状態が続けば、2019年の北朝鮮経済は一層深刻な事態となるに違いないです。




米国務省のスティーブン・ビーガン(Stephen Biegun)北朝鮮担当特別代表は19日、韓国・仁川(じんせん)国際空港で記者団に対し、北朝鮮に対する人道支援に関する米国の政策を緩和する方針を述べました。

具体的には、北朝鮮に対する人道目的の支援を確実に北朝鮮民衆に行き届けるための取り組みを現地で実施できるようにするために、米国人の北朝鮮渡航禁止措置を見直すこととし、さらには来月初頭に複数の米民間支援団体とニューヨークで協議すると表明しました。

北朝鮮の核放棄が遅々として進まず、それどころか、むしろ今年6月12日の米朝首脳会談の成果が後退、あるいは実質無効になりつつあることなどから、この米国による北朝鮮に対する人道支援方針を見直しに関して、深読みする人もいるようです。

しかし、現在の北朝鮮の実情を知れば、これは今後本当に人道支援が必要になるほど、北朝鮮が疲弊することが予め予想できるため、それに対する備えであると考えられます。

特に、「北朝鮮民衆に行き届けるための取り組みを現地で実施できるようにするために、米国人の北朝鮮渡航禁止措置を見直す」という具体的なメッセージもあります。

米国としては、まずは「北朝鮮の高官3名に対する制裁」という明確な強いシグナルを北朝鮮に対して発信して、その後人道支援に関する声明を発表したということです。

この強いシグナルとは無論、核廃棄などをしなければ、ますます制裁は強くなるだけであるとの最後通牒に近いものだと思います。

実際米国は、北への制裁をさらに強化し、北朝鮮の経済を破壊するでしょう。それに対して、北が米国の人道支援を受け入れざるをえなくなったとき、本格的な米国の北への交渉がはじまることでしょう。

そうして、トランプ大統領としては、経済冷戦継続中の中国への見せしめとする腹でしょう。米国が軍事的手段によらずに北を屈服させてみれば、中国に対してもかなりの脅威になることでしょう。

ただし、金王朝がたとえ国民の多くが飢えたとしても、なお人道支援を受け入れない場合には、最後の手段として米国軍事力行使ということもあり得る ます。その意味で、北朝鮮の高官3名に対する今回の制裁は、米国による最後通牒でもあると受け止めるべきと思います。

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2018年12月24日月曜日

【政界徒然草】いまさら「辺野古反対」で政府批判する不実な人たち―【私の論評】結局民主党政権時代の負の遺産に振り回されているだけ(゚д゚)!

【政界徒然草】いまさら「辺野古反対」で政府批判する不実な人たち

沖縄県名護市辺野古の沿岸部に投入される埋め立て用の土地

 政府は14日、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾=ぎのわん=市)の移設先である名護市辺野古沿岸部の埋め立てに着手した。移設反対を掲げる玉城デニー知事(59)は計画への賛否を問う県民投票などを通じ、政府に抗戦を続ける構えをみせている。国政でも主要野党の議員が政府を批判するが、驚くのは旧民主党政権下で辺野古移設を容認した面々も平然と沖縄県に歩調を合わせていることだ。

「辺野古回帰」の過去忘れ

 「長い目で見れば日米安保にも悪い影響を与えかねない状況だと強く危惧している。沖縄の民意を意図的に逆なでしているとしか思えない。到底容認されるものではない」

 立憲民主党の枝野幸男代表(54)は15日の記者会見で、埋め立て開始をこう批判した。福山哲郎幹事長(56)も14日、「安倍晋三政権には沖縄への情もなく、法の支配や直近の民意に対する謙虚さのかけらもなく、民主国家にはほど遠い状況だ」と断じた。

立憲民主党 福山(左)   枝野(右)

 立憲民主党は「辺野古反対」を政策の重要な柱と位置づけているようだ。旧民主党出身の衆院議員らを立民会派に受け入れる際にも、辺野古反対への賛同を条件としている。

 基本政策の一致を求めるのは当然だ。ただし、問題は旧民主党政権の中枢を担った有力議員が、いまさら移設計画への反対を堂々と主張する資格があるのかということだ。

 普天間の移設先について「最低でも県外。できれば国外」といった無責任な約束で沖縄県民の感情を振り回した鳩山由紀夫政権で、枝野氏は閣僚を務めた。福山氏は外務副大臣。本人らも一応認めているが、責任の一端は免れない。

鳩山内閣が辺野古移転を閣議決定したことを伝える朝日新聞の紙面

 続く菅直人政権で枝野氏は官房長官・沖縄北方担当相として途中入閣し、福山氏は官房副長官だった。まさに政府中枢にあって、両氏は「内閣としての(辺野古移設の)方針はしっかり進める」と記者会見などで繰り返し表明していた。

 民主党が下野した後、平成26年11月の沖縄県知事選では仲井真弘多知事(当時)による辺野古埋め立て承認への評価が争点となった。この際、民主党県連代表だった喜納昌吉氏が承認撤回を掲げて出馬したが、これを「県民を混乱させ、党の信用を失墜させた」などとして除名処分の手続きを取り仕切ったのは当時の枝野幹事長だった。

具体策ないまま変節?

 そんな枝野氏らが「辺野古反対」に豹変(ひょうへん)したのは今年8月29日、党沖縄県連の設立時だ。枝野氏は那覇市で会見し「このまま基地建設を続行する状況ではないという判断に至った」と明言し、過去との整合性は「立憲民主党は新しい政党だ」と開き直った。

 会見で枝野氏は「安倍政権になってから沖縄の理解を得る努力も進んでいない」とも主張したが、事実はどうか。

 旧民主党政権は辺野古移設へ回帰した後も沖縄の信頼を取り戻すことはできず、普天間移設や、それと事実上セットになった他の米軍基地・施設の返還はまったく進まなかった。

 沖縄との関係を修復し、慎重に手順を踏んで仲井真氏による埋め立て承認を導いたのは現政権だ。移設計画の前進に伴い、米海兵隊北部訓練場(東村、国頭村)の半分以上にあたる約4千ヘクタールの返還など沖縄の基地負担軽減も進んだ。政権担当時の自分たちの無策を棚に上げて政権批判ができるのは、どういう神経だろう。

 枝野氏は官房長官時代の23年2月14日の記者会見で、沖縄の米海兵隊の抑止力に関して「高い機動性や即応性を持った海兵隊が沖縄にいることが抑止力につながっている」との認識を示していた。

 ところが現在では「海兵隊の役割がこの5年で大きく変化した」とし、米国との交渉次第で辺野古の工事を止めつつ普天間返還が可能になると説く。変化したのは海兵隊の抑止力ではなく、枝野氏ではないだろうか。いずれにせよ、具体案がなければ鳩山氏と同等以下の無責任だ。

国民民主党の玉木雄一郎代表

 立憲民主党だけではない。国民民主党の玉木雄一郎代表(49)は、辺野古埋め立ての着手を「民意を踏みにじるもので、強い憤りを感じる」と述べた。旧民主党政権の失政に一定の責任を負う人たちの不実な言動に、強い憤りを感じる国民も多いだろう。

【私の論評】結局民主党政権時代の負の遺産に振り回されているだけ(゚д゚)!

タレントのローラさんやりゅうちぇるあたりの年代だと、上記のような経緯を全く知らない人もいるのではないかと思います。このあたりしっかりと振り返っておく必要があると思います。

米軍のキャンプ・シュワブ基地(辺野古)の敷地内に滑走路を建設して「世界一危険な基地」と呼ばれる普天間基地から飛行場を移転する「辺野古移転」は、米軍の制約条件の下で普天間基地周辺の安全を確保できる唯一の方策であり、沖縄県・日本政府・米国の長年にわたる議論によってギリギリ構築されたコンセンサスであると言えます。

この方策に反対することは、移転を更に遅らせ、普天間基地周辺におけるハザード発生のリスクを高めることになります。また、返還されることになっている普天間基地の土地を運用できなくなり、経済活動における機会損失が発生することになります。
根強い反対がありながらも、2006年には名護市が移設案に合意しました。しかし、2009年の政権交代選挙で、民主党・鳩山氏が「県外移設」を訴えます。ところが鳩山政権は代替案を見つけることができず、辺野古案に戻りました。そんな迷走の中で沖縄の「民意」は再び反対へと転じ、問題が長期化しています。
1997年12月に行われた名護市の住民投票では、代替施設の受け入れ反対票が過半数をしめましたが、比嘉市長(当時)は辞任と引き換えに基地の受け入れを表明しました。

その後、名護市長選挙、沖縄県知事選挙では、条件をつけながらも受け入れを容認するスタンスの候補が当選し、辺野古への移設計画は少しずつ前進していきました。

建設場所について合意形成に時間を要しましたが、2006年、当初案を修正した「V字滑走路案」で名護市も合意。5月には、日米両政府は米軍再編ロードマップを発表し、2014年を目標に、普天間基地を名護市辺野古に移設することで正式に合意しました。

この年の11月に行われた沖縄県知事選挙では、計画を容認する立場の仲井真氏が当選しています。

事態を急変させたのは、2009年の政権交代選挙でした。民主党の鳩山代表(当時)が「最低でも県外」と発言したのです。
当時の民主党マニフェストには盛り込まれていませんでしたが、選挙活動の中で代表が述べたことにより事実上の公約となり、鳩山政権は県外移設を模索します。

そのような中、2010年1月の名護市長選挙では、県外移設を主張する稲嶺進氏が当選。1996年に辺野古が移設先として浮上して以来、市長選挙では3回連続で容認派が当選してきましたが、初めて移設反対派の候補が当選しました。

しかし、5月に発表された日米共同声明では、辺野古移設案に回帰。辺野古以外に「腹案がある」と発言していた鳩山氏でしたが、結局、代替案を見つけることができなかったのです。

沖縄の世論は県外移設への期待が高まっており、当初、辺野古移設を容認していた仲井真知事も、11月の知事選挙では「県外移設」主張に転じ、再選を果たします。

国政レベルでは迷走を経て辺野古移設案に戻りましたが、沖縄県および名護市では、主張の立場が移設反対へと変わってしまったのです。

海上に進入経路がある辺野古に飛行場を移転すれば、基地周辺住民の安全性が確保され、沖縄の全体の基地面積も縮小することになります。この2点が実現することは沖縄県民の強い要望であり、辺野古移転は一定の合理性を持っている方策と言えます。

ところが、マスメディアの世論調査によれば、沖縄では辺野古移転反対の意見が多数認められます。勿論、一定の合理性を持った方策であっても、それ以上の反対理由があれば移転を反対するのは合理的です。それでは、その反対理由とは一体どのようものなのでしょうか?

実はそれが今よくわかっていないのです。

極めて不可解なことに、地元有力紙の沖縄タイムス・琉球新報、全国紙の朝日新聞・毎日新聞、テレビ放送のテレビ朝日・TBSといった移転反対の論調を持つメディアは、沖縄県に反対者が多いことについては頻繁に報じますが、反対の具体的理由については思わせぶりだけでけっして明示しません。

また、世論調査においても、なぜか反対者に移転反対の具体的理由を聞きません。さらに、[辺野古基金][沖縄平和運動センター]といった反対運動を行っている団体も反対の具体的理由を明示していません。彼らが掲げている唯一の反対理由らしきものは「みんなが反対しているから民主主義のために反対している」ということだけなのです。

辺野古移転の反対派が反対理由を述べない理由として考えられるのが、その理由を述べると、いとも簡単に論破されてしまうことです。例えば、玉木デニー沖縄県知事は反対の具体的理由を明示している数少ない一人ですが、その内容は次の通りです。

玉木デニー沖縄県知事候補(現・同知事)
基地反対について、私が一番訴えたいことは辺野古の新しい基地の建設、そしてそのための埋め立て工事は断念するべきだ、ということです。この6~7割の県民の思いは揺るぎません。このように訴えている理由は、戦後73年経ってもいまだに、日本の0.6%の面積しかない沖縄県に日本の70%あまりの米軍基地が集中させられているためです[記事]

この主張は明らかに不合理です。既存の基地であるキャンプシュワブへの移転によって基地の面積は減少するからです。また、キャンプシュワブ内に建設される辺野古の滑走路は新基地ではなく、新たに接収される土地もありません。さらに「日本の70%あまりの米軍基地」という統計値は正確でなく「日本の70%あまりの米軍専用基地」です。

ちなみに、自衛隊が一部供用する「米軍一時使用施設」を含めた「米軍施設」という観点では、沖縄のシェアは20%程度であり、自衛隊の専用基地も含めた「米軍+自衛隊施設」という観点では、沖縄のシェアは15%程度ということになります[記事]。「日本の70%あまりの米軍基地」というのは、いわゆる (半分真実 half-truth)と呼ばれるレトリックに過ぎません。

一方最近、芸能人のローラ氏が環境破壊を根拠して辺野古移転に反対する[署名]を集めました。
美しい沖縄の埋め立てをみんなの声が集まれば止めることができるかもしれないの。名前とアドレスを登録するだけでできちゃうから、ホワイトハウスにこの声を届けよう。芸能以外のことが、すっごくやりたくて。[記事]

ローラのインスタより

合理です。ローラ氏のいう「美しい沖縄」ではこれまでも多くの地点で埋め立て工事が行われてきましたし、今後も10か所以上の地点で大規模な新規埋め立ての計画があります。

環境を問題視して埋め立てに反対するのであれば、むしろジュゴンの出現頻度が高い沖縄本島西岸に位置する現在進行中の那覇空港の増設工事に反対した方が効果的です。

「芸能以外のことをやりたい」という自己実現目的で目立つネタにとびつくというのはどうかと思います。ちなみに、辺野古の滑走路の場合には、建設予定地が当初案から移動したため、ジュゴンの餌場とされる辺野古周辺の豊かな海草藻場がそのまま保存されることになりました。

具体的理由がないのにも拘わらず、沖縄の大衆が自らの要望と矛盾しない辺野古移転に反対する理由として唯一考えられるのが、繰り返されるマスメディアの扇情報道の結果として大衆の内面に生じていると推察される【ルサンチマン ressentiment】の影響です。

ルサンチマンとは、元々ニーチェのキリスト教批判における中心概念で、「恨み」や「妬み」を意味します。『道徳の系譜』(1887年)において、ニーチェは、キリスト教の起源をユダヤ人のローマ人に対するルサンチマンに求め、キリスト教の本質はルサンチマンから生まれたゆがんだ価値評価にあるとしました。

被支配階級であるユダヤ人は、支配階級であるローマ人の力強さ、能動的に生を楽しむこと、自己肯定的であることに対して恨みや妬みを抱き、このルサンチマンから、強い者は「悪い」、強くない私は「善い」、という屈折した価値評価を作り出しました。

この価値の転換はさらに屈折の度合いを深め、「貧しき者こそ幸いなり」ということばに代表されるような、弱いこと、欲望を否定すること、現実の生を楽しまないことこそ「善い」とする価値評価が生まれ、最終的にキリスト教の原罪の考え方、禁欲主義、現世否定主義につながっていった、とニーチェは考えました。

ルサンチマンを利用したマスメディアによる扇動の極みが、2018年12月15日の朝日新聞社説です。
朝日新聞社説「辺野古に土砂投入 民意も海に埋めるのか」 
安倍政権が沖縄・辺野古の海への土砂投入を始めた。(中略)「辺野古ノー」の民意がはっきり示された県知事選から2カ月余。沖縄の過重な基地負担を減らす名目の下、新規に基地を建設するという理不尽を、政権は力ずくで推進している。「いつまで沖縄なんですか。どれだけ沖縄なんですか」先月の安倍首相との会談で玉城デニー知事が発した叫びが、あらためて胸に響く。
■まやかしの法の支配
政府の振る舞いはこの1年を見るだけでも異様だった。(中略)政権は聞く耳をもたなかった。中国や北朝鮮を念頭に、日ごろ「民主主義」や「法の支配」の重要性を説く安倍首相だが、国内でやっていることとのギャップは目を覆うばかりだ。
■思考停止の果てに
その首相をはじめ政権幹部が繰り返し口にするのが「沖縄の皆さんの心に寄り添う」と「辺野古が唯一の解決策」だ。本当にそうなのか。辺野古への移設方針は99年に閣議決定された。しかし基地の固定化を防ぐために県側が求めた「15年の使用期限」などの条件は、その後ほごにされた。そしていま、戦後間もなく米軍が行った「銃剣とブルドーザー」による基地建設とみまごう光景が繰り広げられる。(中略)既成事実を積み重ねて、県民に「抵抗してもむだ」とあきらめを植えつけ、全国の有権者にも「辺野古問題は終わった」と思わせたい。そんな政権の思惑が、土砂の向こうに透けて見える。
■「わがこと」と考える
何より憂うべきは、自らに異を唱える人たちには徹底して冷たく当たり、力で抑え込む一方で、意に沿う人々には経済振興の予算を大盤振る舞いするなどして、ムチとアメの使い分けを躊躇しない手法である。その結果、沖縄には深い分断が刻み込まれてしまった。国がこうと決めたら、地方に有無を言わせない。8月に亡くなった翁長雄志前知事は、こうした政権の姿勢に強い危機感を抱いていた。沖縄のアイデンティティーを前面に押し出すだけでなく、「日本の民主主義と地方自治が問われている」と繰り返し語り、辺野古問題は全国の問題なのだと訴えた。(中略)そんな国であっていいのか。苦難の歴史を背負う沖縄から、いま日本に住む一人ひとりに突きつけられている問いである。

この社説では、辺野古移転の反対理由という問題の論点を一切語らずに、まるで共産主義国の[プロパガンダ映画]のようにひたすら政府を悪魔化してルサンチマンを煽りに煽っています。文章を読む限り、日本政府は日本を支配しようとする悪の結社であるかのようです。

この朝日新聞の造ったストーリーにおける最も大きな論理破綻は、政府が「自分たちのため」に何としてでも辺野古移転を行いたいと考えているかのような思い込みです。日本政府も米国も、沖縄県民が普天間基地を残してもよいと考えるのであれば、辺野古移転を実施する必要はありません。

また、普天間基地を残すのもダメで辺野古移転を実施するのもダメというのであれば日米安保条約を解消するしか解決方法はありません。この場合、防衛費は現在の5兆円から20兆円に膨れ上がり、日本は重税に苦しむ軍事大国となるはずです。

勿論、この場合には日本国民が安保条約解消を許容するわけはなく、憲法改正してでも辺野古移転を進めるものと考えられます。この程度の自明なバックワード・インダクションもできずに、誰のためにもならない無責任な扇動社説を書いているプロパガンダ新聞社は淘汰された方がよいと考えます。

マスメディアが政権チェックというミッションを遥かに超えて、束となって政治運動を先導している現状は、1930年代から朝日新聞と東京日日新聞(毎日新聞の前身)が国民を扇動して日本を無謀な戦争に巻き込んだ事例とよく類似しています。マスメディアに対する監視は、沖縄県民を含めて、いま日本に住む一人ひとりに突きつけられている問いに他なりません。

不良グループに挑発されて無意味なチキンレースに興じることで損するのは自分であると同時に周辺の人をも不幸にすることを大衆はよく認識すべきであると考えます。「理由なき反抗」はムダの極みです。結局民主党政権時代の負の遺産に沖縄の人々も、政府も振り回されているだけです。

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2018年12月23日日曜日

米軍シリア撤退の本当の理由「トランプ、エルドアンの裏取引」―【私の論評】トランプ大統領は新たなアサド政権への拮抗勢力を見出した(゚д゚)!




 トランプ大統領による米軍のシリア撤退発表は、米政府高官らも驚く突然の決定だった。その背景には、シリアをめぐって「大統領とエルドアン・トルコ大統領の思惑の一致」(ベイルート筋)という“裏取引”が浮かび上がってくる。マティス国防長官はトランプ氏に撤退を思いとどまらせようと最後の説得を試みたが失敗、抗議の辞任に踏み切った。長官の辞任は来年2月の予定。

反対押し切り独断で決定
 撤退の発表は唐突にツイッターで行うというまさに「トランプ流」だった。トランプ大統領は12月19日のツイッターで「イスラム国(IS)に歴史的な勝利を収めた。いまこそ米国の若者たちを帰国させる時だ」と宣言。この発表は米政府だけではなく、シリアに関与してきた中東各国やロシア、イラン、そして米国と組んでISを壊滅させた有志連合諸国を驚がくさせた。

 とりわけ、米国の求めに応じてIS壊滅に多くの血を流してきたシリアのクルド人の衝撃は大きかった。クルド人は将来のクルド人国家の実現を米国が後押ししてくれるという期待があるからこそ、IS攻撃の地上戦の主力を担った。それだけに「裏切られ、梯子を外された」(同)との怒りは強い。

 シリアについては、トランプ大統領は選挙公約で、IS壊滅後、早急に米部隊を撤退させると主張し、今年4月にも盛んに撤退論を繰り返した。しかし、マティス国防長官ら政権内の安全保障チームが強く反対、9月になって大統領はIS壊滅後も敵性国イランの影響力拡大を阻止するため、小規模の部隊をシリア領内に残すことに同意し、シリア政策を変更した。

 事実、大統領の信頼が厚いボルトン補佐官(国家安全保障担当)は当時、「イランの部隊が展開している限り、われわれが撤収することはない」と言明していたし、米政府のマクガーク有志連合代表もつい先週、ISを物理的に壊滅させても、われわれはこの地域の安定が維持されるまで留まる」と述べていた。

 政策が変わったのは大統領がツイッターで撤退を公表した前日の18日だ。ワシントン・ポスト紙などによると、この日、ホワイトハウスでごく少人数の秘密会議が開催された。出席者はトランプ大統領、ポンペオ国務長官、マティス国防長官、ボルトン大統領補佐官らだった。

 この席で大統領がシリアから部隊を撤退させたい意向を表明。これに対し、出席者のほとんどはIS掃討作戦がまだ完全には終わっていないこと、イランやロシアの影響力拡大を食い止める必要があること、米部隊が撤退すれば、混乱が生まれかねないことなどを主張して反対した。だが、大統領は反対論を強引に押し切った。

 シリアの米部隊は公式には503人だが、実際には4000人弱の規模と見られている。ほとんどが特殊部隊で、クルド人に訓練や武器援助し、ユーフラテス川の北東部に駐留。クルド人とともに、シリア全土の3分の1を支配下に置いている。トランプ大統領は30日以内に撤退するよう指示した、という。

取引の中身

 撤退の決定は1国の指導者を除いて事前に伝えられることはなかった。その指導者とはトルコのエルドアン大統領である。両首脳はサウジアラビアの反体制派ジャーナリスト、カショギ氏殺害事件について先の20カ国・地域(G20)首脳会合の場で話し合い、続いて12月14日に電話会談した。

 トランプ大統領が撤退の決定をする要因となったのがこの電話会談だったようだ。エルドアン大統領はこの直前、テロリストと見なすシリアのクルド人勢力の脅威を取り除くため、数日中にシリアに侵攻すると恫喝、事実、シリアとの国境に軍や戦車を集結させ、巻き込まれないよう米軍に警告していた。

 同紙によると、エルドアン大統領はこの電話会談で、シリアのクルド人はテロリスト集団であること、ISはすでに掃討されているのに、米軍が駐留する必要性はないこと、有事の際には北大西洋条約機構(NATO)の同盟国であるトルコが対処するので心配ないことなどを伝えたという。

 また、特筆すべきはトルコが1年以上も求め続けてきたパトリオット迎撃ミサイルの売却について、トランプ政権が撤退の決定と同時期に承認し、議会に通告した点だ。政権内部では、エルドアン氏がロシアから最新の迎撃ミサイル・システムを購入するなどしたため、パトリオットの売却に反対論が噴出していた。しかし、トランプ大統領は今回、エルドアン氏の要求をのんだことになる。

 いずれにせよ、大統領はエルドアン氏の説得に応じて撤退に傾いたことが濃厚だ。大統領にしてみれば、選挙公約であるシリアからの軍撤退を実現し、仮にトルコが侵攻しても、米兵が巻き添えを食うことはなくなる。カショギ氏殺害事件についても、撤退を条件に「トルコがサウジの責任追及をやめる」約束を取り付けた可能性すらある。

 トランプ大統領は現在、ロシアゲートや不倫もみ消し事件、大統領就任式準備委員会の不正など様々な疑惑追及にさらされている。しかも民主党が下院の多数派を握ったことで、弾劾の可能性が現実味を帯びてきている。このため、シリアからの軍撤退を発表することで、こうした厳しい追及を逸らす意図もあるかもしれない。

 エルドアン大統領にとってみれば、米軍の撤退で目の上のコブが消え、シリアに侵攻し、最大の懸案だったクルド人の勢力拡大に歯止めを掛けることが可能になる。トランプ大統領が米国に居住している政敵のイスラム指導者ギュレン師を強制送還してくれる、という期待もあるだろう。カショギ氏殺害事件の追及をやめても十分お釣りがくる計算だ。

「私には辞任の権利がある」

 撤退には一貫して反対してきたマティス国防長官は20日、大統領を翻意させようとホワイトハウスに赴き、最後の説得を試みたが、大統領は耳を貸さなかった。長官は提出した辞表で「大統領には考え方の近い国防長官を持つ権利があり、私には辞任の権利がある」と述べた。

 マティス長官は同盟国との国際協調を重視し、大統領の“暴走”にブレーキを掛けてきた。だが、長官の辞任により、政権内に大統領に直言できる人物はいなくなり、大統領の米国第一主義に基づく行動が加速することになるだろう。

 マティス氏は大統領から請われて国防長官に就いた。大統領は当初、長官をあだ名の「マッド・ドッグ」(勇者)と呼んで称賛、大のお気に入りだった。だが、大統領の戦略なき衝動行動を諫めているうちに遠ざけられ始め、ここ数カ月は話もできないような関係になっていた。

 とりわけ長官が次の統合参謀本部議長にゴールドフィン空軍参謀長を推挙したのに、大統領がこれを無視、ミリー陸軍参謀長を選んだのは長官への当てつけだった。北朝鮮との交渉でも、長官は外され、長官が大統領に見切りをつけるのは時間の問題と見られていた。

 トランプ大統領は将軍好きといわれ、就任当初からマティス長官のほか、フリン補佐官(辞任)、マクマスター補佐官(同)、ケリー国土安全保障長官(当時、後に首席補佐官)ら将軍を重用した。しかし、ケリー氏は年内で更迭されることが確定し、残るのはマティス将軍だけとなっていた。

【私の論評】トランプ大統領は新たなアサド政権への拮抗勢力を見出した(゚д゚)!

トルコ紙ヒュリエト(電子版)は21日、トランプ米大統領がシリアからの米軍部隊撤収を決断したのは、14日に行われたエルドアン・トルコ大統領との電話会談の最中だったと報じました。
エルドアン・トルコ大統領

それによると、トランプ氏は電話の中で、「われわれが撤収したら、(トルコが)過激派組織『イスラム国』(IS)の残存勢力を一掃できるのか」と質問。エルドアン氏は、IS掃討でトルコがテロ組織とみなすクルド人勢力に頼る必要はないと強調し、「われわれがやる」と答えました。

この直後、トランプ氏は電話会談が続く中で、ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)に撤収に向けた準備に取りかかるよう指示したといいます。

トルコのアナトリア通信はこれより先、14日の電話会談について、両首脳がシリア情勢をめぐり調整を行うことで合意したと伝えていました。トルコのチャブシオール外相は21日、撤収を歓迎すると述べた。

以上のことは、多くの人々に驚天動地の出来事であったかもしれません。しかし、米国の戦略家ルトワック氏の米国のあるべきシリア戦略について知っていればそのようなことはなかったかもしれません。

これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。
アメリカの2度目のシリア攻撃は大規模になる―【私の論評】今後の攻撃はアサド政権を弱体化させ、反政府勢力と拮抗させる程度のものに(゚д゚)!
シリアの首都ダマスカス。アサド大統領のポスターの前で警備に当たるロシア軍とシリア軍兵士。
米軍が大規模な攻撃を仕掛ければ、ロシアとぶつかる危険がある

 ルトワックが2013年にシリアに関する記事をニュヨークタイムズに寄稿をしています。その中に戦略が掲載されています。その記事のリンクを以下に掲載します。
In Syria, America Loses if Either Side Wins

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に翻訳を掲載します。
どちらが勝ってもアメリカはシリアで敗北する
2013年 8月24日 byエドワード・ルトワック
先週の水曜日のニュースでは、シリアの首都ダマスカスの郊外で化学兵器が使われたことが報じられた。人権活動家によれば、これによって数百人の民間人が殺害されたということであり、エジプトの危機のほうが悪化しているにもかかわらず、シリアの内戦がアメリカ政府の関心を引きはじめた。 
しかしオバマ政権はシリアの内戦に介入してはならない。なぜならこの内戦では、そのどちらの側が勝ったとしてもアメリカにとっては望ましくない結果を引き起こすことになるからだ。 
現時点では、アメリカの権益にダメージを与えない唯一の選択肢は「長期的な行き詰まり状態」である。 
実際のところ、もしシリアのアサド政権が反政府活動を完全に制圧して国の支配権を取り戻して秩序を回復してしまえば、これは大災害になる。 
カギを握るのは、イランからの資金や武器、そして兵員たちやヘズボラの兵士たちであり、アサド氏の勝利はイランのシーア派とヘズボラの権力と威光を劇的に認めさせることになり、レバノンとの近さのおかげで、スンニ派のアラブ諸国やイスラエルにとって直接的な脅威となる。 
ところが反政府勢力側の勝利も、アメリカやヨーロッパ・中東の多くの同盟国たちにとっても極めて危険である。その理由は、原理主義グループたち(そのうちの幾つかはアルカイダだと指摘されている)が、シリアにおける最も強力な兵力になるからだ。 
もしこれらの反政府勢力が勝利するようなことになれば、彼らがアメリカに対して敵対的な政府をつくることになるのはほぼ確実だ。さらにいえば、イスラエルはその北側の国境の向こうのシリアにおいてジハード主義者たちが勝利したとなれば、平穏でいられるわけがない。 
反政府運動が二年前に始まった時点では、このような状況になるとは思えなかった。当時はシリア国内全体が、アサド政権の独裁状態を終わらせようとしていたように見えたからだ。 
その頃は穏健派がアサド政権にとって代わることも現実としてありえる感じであった。なぜならそのような考え方をもつ人々が国の大半を占めていたからだ。 
また戦闘がここまで長引くことも考えられなかった。長い国境線を接している隣国で、はるかに巨大な国で強力な陸軍を持つトルコが、その力を使って介入してくることも考えられたからだ。実際に2011年の半ばにシリアで内戦がはじまると、トルコのエルドアン首相はすぐにその内戦を終結させるようシリアに要求している。 
ところがアサド政権の報道官はそれに屈する代わりにエルドアン首相をバカにする発言を行い、軍はトルコの戦闘機を撃ち落とすという行動をとったのだ。さらにそれまでにトルコ領内に繰り返し砲撃を行っており、トルコとの国境では車に爆弾をしかけて爆破させている。 
ところが驚くべきことに、トルコ側からは何も復讐はなかった。その理由は、トルコ領内に大規模な少数派民族(ブログ管理人注:クルド人のこと)がいて火種をかかえており、彼らは政府を信用していないだけでなく、トルコ軍も信用していないからだ。 
そういうわけで、トルコは権力を行使するどころか、むしろ機能停止状態であり、エルドアン首相はシリア内戦をすぐそばで眺める、単なる傍観者にしかなれていないのだ。 
結果として、アメリカはトルコが支援した反政府勢力にたいして武器やインテリジェンス、それにアドバイスを行うことができず、シリアは無政府的な暴力による混乱に陥ることになったのだ。 
内戦は小さな軍閥やあらゆる種類の危険な原理主義者によって闘われている。たとえばタリバン式のサラフィー派の狂信主義者は、熱心なスンニ派まで殺害しているのだが、これは彼らがスンニ派の異質なやり方をマネすることができなかったからだ。 
スンニ派の原理主義者たちは無実のアラウィー派やキリスト教徒を殺しているのだが、その理由は単に彼らの宗教が違うからだ。そしてイラクをはじめとする世界中からのジハード主義者たちは、シリアをアメリカやヨーロッパにたいするグローバルなジハード運動の拠点にすることを宣伝している。 
このような悪化する状況を踏まえると、どちらかの勢力が決定的な結果を出すことも、アメリカにとっては許容できないことになる。イランが支援したアサド政権の復活は、中東においてイランの権力と立場を上げることになるし、原理主義者が支配している反政府勢力の勝利は、アルカイダのテロの波を新たに発生させることになるのだ。 
よって、アメリカにとって望ましいと思える結末は「勝負のつかない引き分け」である。 
アサドの軍隊を拘束し、イランとヘズボラの同盟をアルカイダと共闘している原理主義の戦闘員たちとの戦争に引きこませておくことによって、ワシントン政府は四つの敵を互いに戦争をしている状態におくことなり、アメリカやアメリカの同盟国たちへ攻撃を行うことを防げるのだ。 
これが現在の最適なオプションなのだが、これは不運であると同時に、悲劇でもある。しかしこれを選択することは、シリアの人々にとって残酷な仕打ちになるというわけではない。なぜならそれらの多くが全く同じ状態に直面しているからだ。 
非スンニ派のシリア人は、もし反政府勢力が勝てば社会的な排除か虐殺に直面することになるし、非原理主義のスンニ派の多数派の人々は、もしアサド政府側が勝てば新たな政治的抑圧に直面するのだ。そして反政府勢力が勝てば、穏健なスンニ派は原理主義的な支配者たちによって政治的に排除され、国内には激しい禁止条項が次々と制定されることになる。 
アメリカは「行き詰まり状態」を維持することを目標とすべきだ。そしてこれを達成する唯一の方法は、アサド側の軍隊が勝ちそうになったら反政府勢力に武器を渡し、もし反政府勢力側が勝利しそうになったら武器の供給を止めるということだ。 
この戦略は、実はこれまでのオバマ政権が採用してきた政策である。オバマ大統領の慎重な姿勢を「皮肉な消極的態度だ」として非難している人々は、その対案を示すべきであろう。アメリカが全力で介入して、アサド政権をとそれに対抗している原理主義者たちをどちらも倒すということだろうか? 
こうなるとアメリカはシリアを占領することになるが、現在アメリカ国内でこのような費用のかかる中東での軍事的な冒険を支持する人はほとんどいないだろう。 
どちらか一方にとって決定的な動きをすることは、アメリカを危険にさらすことになる。現段階では「行き詰まり状態」が唯一残された実行可能な選択肢なのだ。
その後ご存知のように、ISが勃興して、シリア・イラクの大部分を制圧したのですが、 現在はこの勢力はほとんど一掃されました。そうして、現状はこのルトワックの記事の頃に戻ったような状態です。

ルトワックの提唱する戦略は、アサドの軍隊をクルド人勢力などの反政府勢力と戦わせておいて、アサド側の軍隊が勝ちそうになったら反政府勢力に武器を渡し、もし反政府勢力側が勝利しそうになったら武器の供給を止めるという「行き詰まり状況」を維持するということです。

ただし、ここにきて状況が変わってきました。エルドアン首相はシリア内戦をすぐそばで眺める、単なる傍観者であることをやめて、権力を行使するとトランプ大統領に表明したわけです。

トルコ軍の特殊部隊

エルドアン首相は、トランプ氏に対して、ISの残存勢力を掃討し、アサド政権と対峙することを表明したのです。トランプ大統領としては、この状況であれは、米国としては、この地域に関してはNATOの同盟国でもあるトルコに任せるべきと判断したのでしょう。

シリアに対してはトルコに対峙させ、米国はこれを支援するようにし、トルコが劣勢になれば、米国が軍事的、資金的に支援すれば良いと考えたのでしょう。パトリオット迎撃ミサイルの売却はその意図の現れです。トランプ大統領は、クルド人勢力に変わる、シリアへの拮抗勢力としてのトルコに期待したのでしょう。

しかし、これはトルコという新しいプレイヤーが登場したというだけで、本質的にはルトワックの戦略と変わりはないのかもしれません。米国はトルコがすぐにアサド政権を打倒できるとは考えていないでしょうが、当面「行き詰まり状態」を維持できることになります。

これで、米国としてはシリアに拘泥されることがなくなり、対中戦略に集中できると考えたのでしょう。それに、トランプ氏のIS壊滅後、早急に米部隊を撤退させる選挙公約も果たせることになります。

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2018年12月22日土曜日

攻撃予告!? 韓国海軍、海自哨戒機にレーダー照射 「米軍なら即座に撃沈」 日韓関係さらに冷え込み―【私の論評】今回の照射は韓国海軍の練度不足にあるかもしれない?

攻撃予告!? 韓国海軍、海自哨戒機にレーダー照射 「米軍なら即座に撃沈」 日韓関係さらに冷え込み



韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊のP1哨戒機に対して行った火器管制用レーダーは「攻撃予告」ともいえる危険な行為だ。韓国側は「海自の哨戒機を追跡する目的でレーダーを使った事実はない」などと釈明するが、照射された側が先に攻撃したとしても、国際法上は何ら問題が生じないほどの事案だ。折しも日韓関係は、いわゆる徴用工訴訟の問題などで最悪の状況にあるが、さらなる冷え込みは避けられそうにない。

「攻撃直前の行為だ」

岩屋毅防衛相は21日夜のBSフジ番組で、レーダー照射に危機感を示した。

火器管制用レーダーは「FCレーダー」とも呼ばれ、ミサイルや火砲を発射する際、目標の距離や針路、速力、高度などを正確に捕捉し自動追尾する「ロックオン」に用いる。発射ボタンを押せば攻撃可能な状態だ。防衛省幹部は「米軍なら敵対行為とみなし即座に撃沈させてもおかしくない」と語る。

複数の韓国メディアは韓国国防省関係者の話として「レーダー使用は遭難した北朝鮮船舶捜索のためで、海自の哨戒機を狙ったわけではない」と報じた。しかし、海自幹部は「意図しなければ起こりえない事態だ」と怒りをにじませる。

日韓関係を考えると、レーダー照射は最悪のタイミングで起きたといえる。


徴用工訴訟では、韓国最高裁の確定判決で賠償命令を受けた新日鉄住金に対し、原告代理人が24日までに回答を得られなければ、年内に韓国の資産の差し押さえ手続きに入る考えを示す。防衛関係でも、自衛艦旗「旭日旗」の掲揚自粛問題や、韓国軍による竹島(島根県隠岐の島町)周辺での訓練など、韓国側の不適切な行為が続いている。

外務省幹部は「韓国の意図は分からないが、日韓関係が悪化して喜ぶのは中国や北朝鮮だ」と嘆く。(産経新聞 石鍋圭、原川貴郎)

【私の論評】今回の照射の原因は韓国海軍の練度不足にあるかもしれない?

韓国艦艇が海自対戦哨戒機に火器管制レーダーを照射したことに関して、擁護する意見もあります。典型的なのは、田母神氏によるツイートです。以下のその内容を掲載します。
もう一つの事例は、以下のものです。
韓国側に損あっても得なし?レーダー照射で偶発的事故はありうるか

関 賢太郎(航空軍事評論家)

海自P-1哨戒機にレーダー照射した韓国海軍の駆逐艦「広開土大王(クワンゲト・デワン)」
 詳細は、この記事をご覧いただくものとし、まずは概要を掲載します。

20日、韓国の駆逐艦が自衛隊の哨戒機に対して火器管制用レーダーを照射しました。韓国政府や韓国海軍において、哨戒機を照準する意図はなかったのではと筆者はいいます。なぜなら、韓国側には何のメリットもなく、謝罪が必要な外交上の「失点」であるためとしています。

以下に一部を引用します。
 平時においては、レーダー照射されただけでいきなり反撃を加えることは、まずありません。これは日本だけではなく、アメリカやそのほかの国でも同様です。しかしながら極めて緊張度の高い戦時ならば、反撃もありえる危険な行為です。中国の事例はともかくとして、なぜ韓国海軍はあえてこのような行動に出たのでしょうか。 
 発生の翌21日に韓国側は、自国駆逐艦が船舶の位置を確認するためにレーダー照射した結果、偶然にもP-1に照射されてしまったという見解を発表していますが、火器管制レーダーはミサイル誘導のため、極めて細いビームとして発信されます。それが飛行中のP-1にぶつかる可能性はほぼゼロに等しいといえ、説得力に欠けます。 
 ただ駆逐艦は、対空索敵用レーダーで探知した標的に対して自動的にレーダー照射を行う能力を持っているものがあり、「広開土大王」においてもたまたま対空索敵用レーダーがP-1を探知してしまったため、それに連動して偶発的にレーダー照射をしてしまった可能性は十分に考えられます。 
 よって現在のところ、理由については不明です。 
本当に偶発的事故かもしれない理由とは?
 今回の韓国海軍駆逐艦の行動について、あくまで筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)の推測ですが、韓国政府や韓国海軍において、P-1を照準する意図は無かったのではないでしょうか。前記の通り火器管制レーダー照射は非常に危険な行為であり、国際問題となり得る行為です。韓国側には何のメリットも無いどころか、謝罪さえ必要となる外交上の「失点」を、あえて進んで行う合理的理由が無いのです。おそらくは何らかの「事故」だったのではないでしょうか。
 確かに、両者の主張するように偶発である可能性は高いです。しかしながら、この偶発を引き起こしてしまったことに対する、韓国側の説明は不十分です。

政府関係者によると、P1は最初の照射を受け、回避のため現場空域を一時離脱しました。その後、状況を確認するため旋回して戻ったところ、2度目の照射を受けたそうです。P1は韓国艦に意図を問い合わせたのですが、応答はなかったそうです。照射は数分間に及んだとみられます。

韓国側は火器管制レーダーの使用について「哨戒機の追跡が目的ではなく、遭難した北朝鮮船捜索のため」などとしていますが、海自幹部は「意図しなければ起こりえない事案だ」と指摘しました。

防衛省によりますと、レーダー照射は20日午後3時ごろ、日本の排他的経済水域(EEZ)内で発生しました。韓国駆逐艦は対艦、対空ミサイルを搭載していました。岩屋毅防衛相が21日夜の緊急記者会見で公表し「極めて危険な行為」と批判しました。

この問題で、防衛省は22日、韓国側の「哨戒機を追跡する目的でレーダーを運用した事実はない」との説明に反論し、「非常に危険」と非難する文書を発表しました。

文書は「海自哨戒機が収集したデータについて慎重かつ詳細な分析を行い、火器管制レーダーによるものと判断した」と強調しました。

一部韓国紙が、韓国軍関係者の話として、北朝鮮の遭難漁船を捜索するためにレーダーを稼働させたと報じていることに関連し「火器管制レーダーは、攻撃実施前に攻撃目標の精密な方位・距離を測定するために使用するもので、広範囲の捜索に適するものではなく、遭難船舶を捜索するためには水上捜索レーダーを使用することが適当だ」と主張しました。

確かにこの韓国側の説明は不十分です。北朝鮮の遭難漁船が空中を飛行するというならまだしも、そのようなことはありえず、この説明はとても承服できるものではありません。

ちなみに、P-1は、海上をパトロールし船舶や潜水艦を探知する能力に優れた「哨戒機」で、機首上部の「コブ」の内部にESM(電子戦支援装置)と呼ばれる電波逆探知装置を備えており、相手のレーダー電波を受信・解析する能力があります。それによってレーダー照射された事実を知りえたものと推測されます。

P-1に設置されている、ESMであるHLR-109B、これは敵が発するレーダー電波などの電磁輻射をとらえて、脅威警報を発する装置です。ESMにはデータが蓄積されており、当然ながら、海自もその他の当時情報を蓄積しているでしょうから、それらのデータを分析した上で、日本政府は韓国に対して抗議したものと思います。海自はさらに分析を続ければ、さらに新しい事実がでてくるかもしれないです。



私自身は、意外ともっと簡単な理由かもしれないと思います。たとえば、韓国海軍の練度不足で、韓国艦艇はP-1にレーダー照射をしたことすら感知しておらず、当然政府にはそのような連絡もなく、日本政府からいきなり抗議されて慌てふためいたというのが、事実なのかもしれないです。でなければ、現場に近いところですぐに対応してはやめに、この不祥事を回避できたかもしれません。

韓国海軍の練度不足は以前から知られています。

何しろ"国運を賭けて"導入したイージス艦など、「潜水艦を発見するソナーが漂流ゴミで、あえなく使用不能になりました。これにより、イージス艦の天敵・潜水艦に対して、無防備であることが判明しました。

また、敵機と敵巡航ミサイルを撃ち落とす対空ミサイルSM2の実射訓練では、4発中2発が発射直前に爆発したり、目標物の反対方向に飛んでいったりと、大失態を演じています。

さらに、韓国海軍がその威容を誇らしげに語り、わざわざ「独島(竹島の韓国名)」と命名した揚陸艦も悲劇に見舞れています。

独島

2012年9月に艦で火災が発生。海水をかけて消火したところ、塩害で2つの発電機が故障し、航行不能に陥りました。ただ、『独島』は4つ発電機があります。残る2つを動かせば航行はできるはずなのですが、実はその2つも4月に乗務員の操作ミスで浸水し、壊れていたのです。

それにしても、韓国政府は未だに謝罪まではいかなくても、「遺憾の意」くらいは公表してしかるべき思うのですが、それすらもないというのは理解しがたいところです。

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2018年12月21日金曜日

トランプ氏が“マティス斬り” 軍事シフト加速か 識者「中国の挑発に『やられたらやり返す!』も…」―【私の論評】辞任の直接の原因はシリア対応、日本にも無関係ではない(゚д゚)!


ついにマティス氏(左)も辞任へ。トランプ政権はどちらへ進むのか

ドナルド・トランプ米大統領は20日(米国時間)、ジェームズ・マティス国防長官が来年2月末に退任するとツイッターで明らかにした。「狂犬」の異名を持つマティス氏だが、実は国際協調派で、暴走傾向のあるトランプ政権に、外交・安全保障上の安定感を与えてきた。トランプ氏が今後、中国や北朝鮮に対する軍事シフトを加速させる恐れもありそうだ。

 《マティス将軍は、同盟国やほかの国々に対し、軍事的義務を負担させるという面で、大いに私を助けてくれた。新任の国防長官は間もなく指名することになるだろう。私はジムの献身に深く感謝している!》

 トランプ氏は、マティス氏について、ツイッターでこう褒めたたえた。だが、2人の関係は悪化が伝えられていた。

 トランプ氏が19日に決断したシリアからの米軍撤収をめぐっても、「マティス氏が反対していた」と報じられた。マティス氏は20日、トランプ氏に宛てた辞表に、「あなたには、自身の考えに沿った国防長官を任命できる権利がある」と書き記した。抗議の辞任の可能性もある。


 トランプ政権では、これまで、マティス氏に加え、すでに辞任したハーバート・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、年末に退任するジョン・ケリー大統領首席補佐官の「将軍3人組」が幹部として影響力を発揮してきた。

 マティス氏が2月末に去ることで、トランプ政権の性質はどう変わるのか。

 米国政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「下院の多数派を民主党が握っているため、後任には議会対策ができる人間や、次期大統領選を見据えて政治的動きのできる人間をあてるのではないか。北朝鮮に対する先制攻撃を唱えていたジョン・ボルトン大統領補佐官の影響力が高まることが予想され、北朝鮮に対する抑止力が増すことになるだろう」と話す。

 評論家で軍事ジャーナリストの潮匡人氏は「例えば、南シナ海で中国による挑発的行動があったとき、これまで『重し』となっていたマティス氏の不在というリスクがあるだろう。トランプ氏が感情的に『やられたらやり返す!』的な対応を取る事態が起こり得るのではないか。その矛先は、北朝鮮やロシアを含めて、どこに向かうかは分からない」と語った。
【私の論評】辞任の直接の原因はシリア対応、日本にも無関係ではない(゚д゚)!
マティス国防長官


マティス氏の辞任の直接のきっかけは、トランプ氏が19日に決断したシリアからの米軍撤収にあるようです。
マティス氏は20日公表したトランプ氏あての辞表で、「大統領は自身の考えに沿った国防長官を任命する権利があり、私が辞任するのが適切だと判断した」と述べ、トランプ氏との国防政策をめぐる見解の相違を理由とした自発的な辞任だと強調しました。

マティス氏はまた、「米国は他国との共同防衛に全ての力を傾注しなくてはならない。(イスラム教スンニ派過激組織)『イスラム国』(IS)支配の象徴の撲滅に向けた74カ国の連合が証左だ」とし、シリアで米軍が果たした役割の重要性を指摘しました。

米政権高官がロイター通信などに明らかにしたところでは、マティス氏は20日、ホワイトハウスを訪れトランプ氏に辞任の意思を直接伝えました。マティス氏はシリアから米軍を撤収させないようトランプ氏を説得しようとしましたが、同氏は聞き入れなかったといいます。

トランプ氏は20日、ツイッターでシリア駐留米軍(約2600人規模)の撤収に関し「兵士の命を守り、何十億ドルも節約できる。なぜシリアやロシア、イラン、地元勢力のために『イスラム国』を殺害しなくてはならないのか」と主張。また、米メディアは同日、トランプ氏がアフガン駐留米軍(約1万4千人規模)のほぼ半数を撤収させることを本格的に検討していると報じていました。

サンダース大統領報道官は19日に声明を発表し、「アメリカは過激派組織ISIL(アイシル)を打倒した」として、シリア駐留アメリカ軍の撤収を開始したと表明しました。
米国国防総省のホワイト報道官も19日、アメリカ軍の部隊をシリアから帰還させる作業に着手したことを発表しています。

サンダース大統領報道官

これはかなり大きなニュースです。ただし、ISILは確かに打倒されたのかもしれませんが、シリア情勢はますます悪くなって来ています。このなかで、どうしてトランプ政権が2,000人以上の大隊を撤収するのでしょうか。

これを世界がどのように受け止めたのかということになると、トランプ政権はやはりアメリカファーストなのだということなのかもしれません。トランプ氏としては、米国の貴重な戦力を中東のような、トランプ大統領から見るとそれほど決定的な国益が掛かっていない地域には置いておく必要がないということです。

確かに大きな流れでそういうことかもしれませんが、しかし日本や東アジアを含め多くの国々が、米国はこの時期に海外から兵を引くのは無責任ではないかということになってしまいます。

朝鮮半島には在韓米軍がいて、大きな寄りどころになっていますが、ここからも兵を引くのかもしれないです。現にトランプ大統領の選挙戦を通じて、そのことをほのめかしています。一言で言うと、世界はトランプ大統領のダンケルク撤退作戦を恐れていることになります。

ダンケルクから撤退するイギリス軍

ちなみにこれは、第二次世界大戦の西部戦線における戦闘の一つで、ドイツ軍のフランス侵攻の1940年5月24日から6月4日の間に起こった戦闘です。追い詰められた英仏軍は、この戦闘でドイツ軍の攻勢を防ぎながら、輸送船の他に小型艇、駆逐艦、民間船などすべてを動員して、イギリス本国(グレートブリテン島)に向けて40万人の将兵を脱出させる作戦(ダイナモ作戦)を実行し成功しました。

米国が今の時期にそのようなことをすればどうなるでしょうか。先程、シリア情勢については、楽観できないと述べました。シリアのアサド大統領は化学兵器を自国民に使ったかもしれないと言われていますが、そのアサド政権の背後に誰がいるのかと言うと、強権的なロシアのプーチン政権です。

これだけならまだしも、ロシアのプーチン政権と手を結んでいるのが、核開発の疑惑がある隣国のイランです。イランはシーア派の大国です。

このロシアとイランは、シリア情勢で手を結んでいます。よく「テヘラン・モスクワ枢軸」と言われます。いま中露も接近していますから、これに加えて「テヘラン・モスクワ・北京枢軸」というものがうっすらと見えてすらいます。北朝鮮の影すらあります。このような状況のなかで、明らかにシリアでのプーチン大統領とイランの勢力が強まってしまいます。

ロシアとイランとは、トランプ政権は激しく対立しています。にもかかわらず、米軍がイラクから撤退すれば、発言力が無くなってしまうというようなことが起こり得ます。アメリカファースト、トランプ政権のダンケルク撤退作戦が世界の政局に大きくインパクトを与えるのは、誰が考えてもわかります。

ダンケルク撤退の当時は、陸上の大国だったドイツがどんどん台頭して来るなかで、海洋国家英国が海の外へ引くという作戦だでした。同じように、現在陸上の軍事大国(経済大国ではない)であるロシアがアサド政権と組んで、日米英などの海洋国家と2つに分かれつつあるということなのかもしれません。

現在のように米中、米露の衝突と言われる中で、イラクから米国が実力部隊を退くのが良いのかどうかは判断に苦しむところです。日本では「戦争が起こらなければ良い」と言う論調が大きい思います。

米国では、その世論がさらに強いので、トランプ大統領は、撤兵を単純良いことだと思ってしまったのかもしれません。しかしその結果はやがて日本をはじめとする他国にも押し寄せて来る可能性は否定できません。世界はこれを心配していると思います。

マティス氏は、これをなんとかトランプ大統領に理解してもらおうと思ったのでしょうが、それは叶わなかったのです。

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