2023年1月21日土曜日

三浦瑠麗氏の夫が代表の投資&コンサル会社を東京地検特捜部が捜索 「私は夫の会社経営には関与しておらず、一切知り得ない」―【私の論評】三浦瑠璃氏の夫の背後には、巨悪が潜んでいるかもしれない(゚д゚)!

 三浦瑠麗氏の夫が代表の投資&コンサル会社を東京地検特捜部が捜索 「私は夫の会社経営には関与しておらず、一切知り得ない」

三浦夫妻 三浦瑠麗氏(左) 三浦清志氏(右)

 再生可能エネルギーに関する投資やコンサルタントを手がける東京都千代田区の会社の代表が詐欺容疑で告訴され、東京地検特捜部がこの会社を家宅捜索していたことが20日、関係者への取材で分かった。国際政治学者の三浦瑠麗氏の夫が同社の代表を務めている。

 関係者によると、捜索を受けたのは2014年7月に設立された「トライベイキャピタル」で、太陽光発電事業でトラブルを抱えていたとされる。同社を巡る訴訟の資料によると、東京都港区の投資会社側から19年6月に10億円の出資を受け、太陽光発電事業を共同で手がけたが、想定通りに進まなかったという。

 三浦氏は自身が代表のシンクタンク「山猫総合研究所」のホームページで「私としてはまったく夫の会社経営には関与しておらず、一切知り得ない」とのコメントを発表した。その上で「捜査に全面的に協力する所存です。夫を支えながら推移を見守りたい」としている。

【私の論評】三浦瑠璃氏の夫の背後には、巨悪が潜んでいるかもしれない(゚д゚)!

この出来事に関しては、かなり多くのメディアが報道しています。代表的なものは、以下の岩田温氏の動画です。客観的に論評されています、興味のある方は是非ご覧になって下さい。

既に、メディアが報道しているものに関しては、そちらをご覧になって下さい。

手短に知りたい人は、下のサイトをご覧になってください。ただし、信ぴょう性等は保証の限りではありませんが、網羅性はあります。

三浦瑠麗の疑惑をまとめたページ
このブログでは、現在までに報道されているものは掲載しません。それについては、他のメディアを参考になさってください。

一般に公開されている情報からでも三浦氏の行動には、疑問符がつくものがあります。たとえば、内閣官房主催の「成長戦略会議」にもそれが伺えます。

この要旨から一部を以下に引用します。

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成長戦略会議の開催要領すべてを斜め読みしてみたところ、 太陽光発電事業の規制緩和・推進の発言しているのはほぼすべてが三浦瑠麗氏でした。これでは、利益相反を疑われても仕方ないのではないでしょうか。

今後三浦氏がすぐに、様々な番組から降ろされれば、さほど問題はないと思いますが、あまり降ろされなかつた場合は、システムが出来上がっており、すでに太陽光パネル事業においても、日本固有の鉄のトライアングルが出来上がっている可能性があります。今後、どうなるか注目です。

鉄のトライアングルに関しては、以前このブログで説明したことがあります。その記事を以下に引用します。その記事のリンクを以下に掲載します。
【日本の解き方】菅首相1年間の大きな功績 懸案を次々処理した「仕事師内閣」、対韓国でも厳しい姿勢貫く―【私の論評】新政権は、雇用の維持、迅速な鉄の三角形対策ができる体制を整えれば、長期安定政権となる(゚д゚)!


この記事より以下に一部を引用します。
日本には様々なルールや規制があります。それに守られ、いわゆる“既得権益”を受けている人たちがいます。農業の分野で言えば、日本は零細農家を守るため、株式会社は農地を持つことができません。

当初は意味のある制度だったのでしょうが、農業が国際化されてきた今日日本は世界的にみても良い作物を作れるのですから、株式会社に農業にも参入してもらい、生産性を上げ、輸出もしたほうが良いはずです。

ところが“入ってはいけない”という人たち、そこに結びついた政治家たち=族議員、そして業界の既得権益を持った人をつなぐ役割を担っている官僚がいます。この三角形がスクラムを組み、新しいことをやろうとするときに妨害するのです。こうした三角形はどこの国にもありますが、日本の場合はそれを取り持つ官僚組織がかなり強い状態で維持されています。
それは、医療の世界にも厳然として存在します。医師会、族議員、厚生官僚による三角形(医療ムラ )は厳然として存在してるのです。これは、ある意味「加計問題」と本質は同じです。

1年以上も前から、コロナ病床は、かなり増床すべきことはわかっていました。そうして、昨年の補正予算でも、それに関する予算は潤沢につけられていたにもかかわらず、この医療ムラの猛反撃にあい、現在に至るまで大きく増床されることはありませんでした。感染症対策分科会も、こうした医療ムラの圧力に対抗できなかったのか、結局対策といえば、病床の増床ではなく、人流抑制ばかりを提言していました。
尾身会長
そのため、コロナ感染者数が増えるたびに、野党・マスコミは、医療ムラを批判するのではなく、菅政権を批判しました。尾身会長は、マスコミに利用された形になったといえます。これは、間違いなく菅政権を追い詰めていきました。特に、マスコミは感染者数が増えるたびに、不安を煽り、様々な印象操作で菅政権を追い詰めました。

特に日本では、まだまだマスコミの報道を信じる人が多いので、強力な医療ムラを崩壊させるには、仕事人内閣の菅内閣ですら、時間と労力がかかることは無視して、菅内閣を責め立てました。野党もその尻馬にのり、菅内閣を糾弾しました。
さて、この鉄のトライアングルについては、colabo問題の本質もそうなのではないかという記事を掲載したことがあります。

ただ、本質的には同じかもしれませんが、鉄のトライアングルも業界によって、様々なパリエーションがあり一つとして同じものはないのだと思いますし、さらに時間とともに変化し、アメーバのように様々な団体や個人とついたり離れたりしているのだと思います。

国会議員、関係省庁、業界団体のいずれかが強いとか、絡み合い方が、どれ一つとして同じものは無いのだと思います。

だから、同じ鉄のトライアングルという共通点がありながらも、この事実を解明したり、違法性を追求したりするにしても、自ずとやり方は変わってくるのだと思います。

今回は、東京地検特捜部が「トライベイキャピタル」を家宅捜査をしたというのですから、これはこの会社の単独の犯罪だけではなく、政治家や官僚が絡んでいる可能性もあります。三浦瑠璃氏の夫の背後には、巨悪が潜んでいるかもしれません。

特捜部は「特別捜査部」の略称です。検察庁の中の1つの部署ですが、全国で東京、大阪、名古屋の3つの地方検察庁にしか設置されていません。

東京地検特捜部は、この3つの中の1つということになります。


東京地検は霞が関の法務省の隣にありますが、東京地検特捜部は霞が関ではななく、千代田区九段の合同庁舎内にあります。

1947年に、戦時中の供出物資や軍需物資を政治家が隠匿した事件を捜査する隠退蔵事件捜査部として結成された歴史があります。現在は、部長・40人程度の検事・副検事・検察事務官で構成されています。

東京地検特捜部は、汚職事件、脱税事件・経済事件などを担当します。

公正取引委員会・証券取引等監視委員会・国税局などが法令に基づき告発をした事件に関しても独自の捜査を行います。

具体的には、贈収賄事件、企業の粉飾決算事件や大型詐欺、業務上横領、不正競争防止法違反、インサイダー取引、独占禁止法違反、投資詐欺などの被害が甚大で世間に大きな影響を与える事件を担当しています。

今後の展開がどうなっていくか、注目です。


ネットで大騒ぎ「Colabo問題」めぐる税金の不適切な使われ方 国は〝弱者ビジネス〟助長させる「困難女性支援法」を見直せ―【私の論評】Colabo問題の本質は、日本の経済・支援政策のほとんどが減税ではなく、補助金で実行されること(゚д゚)!


2023年1月20日金曜日

中国で1000万人超失業の報道…ゼロコロナが残した医療崩壊、財政難、大失業―【私の論評】中国の現状の失業率の高さは、ゼロコロナ政策以前からある構造的問題が原因(゚д゚)!

中国で1000万人超失業の報道…ゼロコロナが残した医療崩壊、財政難、大失業

2019年の上海。中国は果たしてコロナ前に戻れるのか

 中国のゼロコロナ政策の終了は、巨大化したゼロコロナ産業の消失を意味する。この政策で、中国全土で新たな産業や新たな雇用をもたらしたが、180度の転換で中国の国民経済は大混乱だ。感染拡大とロックダウンのダメージはもとより、ゼロコロナ政策による“失われた3年”、そして突如もたらされた失業と空手形・・・、そのインパクトはあまりにも大きい。(ジャーナリスト 姫田小夏)

● 「ゼロコロナ産業」の終了で1000万人超が失業

 中国でゼロコロナ政策が解除されたのは12月7日のことだった。その後、わずか数日のうちに、上海では感染が拡大し、外出も外食もしない高齢の李さん(仮名)までをも直撃した。「まさか自分が陽性者になるとは……」と突然の政策転換にうろたえる李さんだが、中国には今、二つの声が存在すると明かしてくれた。

 「中国では『ゼロコロナ政策をやめてよかった』と政策転換を支持する声は大きいですが、『ゼロコロナ政策をただちに復活させよ』という要求もあるのです」――という。

 新型コロナウイルスで命を落とした人もいれば、後遺症に悩む人もいる。基礎疾患を持つ人々にとって“ロックダウン”は安全性の担保だったのかもしれない。その一方で、ゼロコロナ政策の復活を希望する声が示すのは、“ゼロコロナ産業”に生活を依存する人々が少なくなかったという側面だ。

 中国では、この3年でゼロコロナ産業が一大産業に成長した。これを象徴するのが、1月7日に重慶市の工場で起こった抗議活動だ。コロナの抗原検査キット工場で、数万人の従業員が警察と衝突し、激しい抗議活動が行われたという。複数のメディアは原因について、「ゼロコロナ政策の転換により、注文が入らなくなった工場側が1万人以上をリストラしようとしたため」と報じている。

 住民の恨みを買いながら“大活躍”した白い防護服の防疫要員たちも、今では無用の人材になってしまった。この突然の失業に面食らった防疫要員たちが、各地で抗議の声を上げている。表向きは「ボランティア」とされている彼らには手当が出たが、未払い問題が顕在化しているためだ。

 10兆元(約200兆円)規模ともいわれる中国のゼロコロナ産業だが、米ラジオフリーアジアは「ゼロコロナ産業の終了で1000万人超が失業する」と伝えている。

● ついに「広州市の財政が底をついた」?

 ゼロコロナ政策からウィズコロナ政策へ――という大転換は、確かに中国の若者の抗議活動が後押しした部分もあった。しかし、「この3年間で中国政府は金を使い果たしている。ゼロコロナ政策も3年が限度だった」(中国東北部の地方政府関係者)とするコメントからも、もはや資金も底をつき、続けるに続けられなくなった窮状がうかがえる。

 そもそも、ゼロコロナ政策を維持するには、巨額の資金が必要だった。検査場の設営費用やPCR検査キットはもちろん、そこに配置する防疫要員や防疫服、隔離専門病棟の建設と患者に与える無料の弁当、ロックダウン中に各家庭に無償で配る食料品や薬の数々……。これだけでも相当な費用がつぎ込まれている。

 中国では「広州市の財政が底をついた」という“うわさ”がある。コロナ禍の地方財政について「すべてが借用書、すべてが赤字」だと告白する広州市珠海区の公務員の発言をベースに書かれた文章が、インターネット上で出回っているのだ。仮に中国経済の成長のエンジンである広東省広州市がこうした状況であれば、他の地方政府の財政事情はもっと悲惨だと推測できよう。

 昨年12月、米ブルームバーグは、「2022年1~11月における中国の財政赤字は7兆7500億元(約155兆円)と、前年同期の2倍余りに拡大し2020年を超える水準に膨らんだ」とし、中国財政部のデータに基づく算出を公表した。要因として、大規模な新型コロナウイルス対策と長引く住宅市場の低迷を挙げている。

 コロナ対策のための財政支出の一部については、「48時間ごとのPCR検査を人口の7割に対して行った場合、年間の費用は2.5兆元(約50兆円)になる」とする米ゴールドマンサックスの試算もある。

● 医療基盤が崩壊、多くの病院が倒産した

 ゼロコロナ政策は、中国の医療機関の数を減らすという災いも生んだ。中国病院協会は「コロナ禍で2000を超える私立病院が倒産した」と公表したのである。

 中国では、限られた数の公立病院を補うために私立病院の役割が期待されているのだが、2019年末時点では黒字だった私立病院の業績も、2020年以降のコロナ禍で支出が急増し、大幅な赤字に転落した。こうしたことを背景に、中国では医療従事者の賃金未払いを訴える抗議活動が頻発している。

 振り返れば、2022年に上海で行われたロックダウンでは、4月上旬時点で26の総合病院が外来・救急・新規入院などの業務を停止させられたが、これは医療を必要とする患者に大きな影響を与えただけでなく、病院の収入源を失うことにもつながった。

 同じようなことが上海以外でも起きている。安徽省宿州市の公立病院では、地元政府の要求に従い、従来入院していた患者を退院させてコロナ感染者を収容した結果、財源を失い、従業員の雇用の維持が困難になった。

 四川省楽山市では、公立病院が閉鎖された。慢性的な赤字を負っていたこの公立病院は、以前から製薬会社などへの支払いが滞っていたが、そこにコロナが襲い経営不能に陥った。

 もとより、中国の医療基盤は脆弱(ぜいじゃく)だった。コロナ禍以前から、上海などの一級都市ですら、公立病院には朝から長蛇の列ができ、順番を取り、診察を終えるには実に1日がかりという状況が当たり前だった。

 中国政府は医療崩壊を予見し、人口に対して少ないと言われる病床確保の目的で厳しいゼロコロナ政策を課したとしている。しかし、上からの通達による一刀両断の措置は、結果として医療機関の収入の低下を招き、地元医療の基盤喪失を招いた。ゼロコロナ政策は、こうしたところでも裏目に出てしまったのである。

● 賃金未払いが中国の国民を直撃

 割を食うのは国民だ。医療従事者の中には、自分が感染してもなお長時間労働を強いられ、現場から逃亡を企てる者もいた。劣悪な条件で働き詰めにさせられ、しかも賃金は未払いという絶望の中で憤死した医療従事者もいた。隔離専門病棟に無料の弁当を運び入れた業者でさえも、「未払い状態」に泣き寝入りだ。

 毎年春節シーズンを迎えると、中国では建設現場などで出稼ぎ労働者を中心に未払い賃金をめぐって、一騒動あるのが通例だが、今年は年末年始にかけてインターネット上で数々の“騒動”が取り上げられた。

 湖北省では不動産大手・恒大集団の下請け業者が未払いの賃金を要求する集団抗議に出た。河南省の鄭州大学では、大学従業員が横断幕を掲げ3カ月の未払いの賃金請求を行った。同じ河南省鄭州市では、昨年末、賃金の未払いにキレた男性が掘削機を使って多くの車両をひっくり返す暴挙に出、直後、警察によって射殺されるという事件が起こった。

 春節前といえば、稼いだお金で故郷の家族とだんらんするのを心待ちにする時期だが、ゼロコロナ政策のツケともいえる“白条”(回収不能の借用書)を手に、やりきれない日々を送る人々も少なくない。「白紙抗議の次は白条抗議か」と、新たな抗議活動の可能性をほのめかすツイートもある。

● 若者の政権離れで、習近平も「火消し」

 昨年12月31日、習近平国家主席は、国営のCCTV(中国中央テレビ)とインターネットを通して2023年の賀詞を国民に贈った。前回とは異なり「台湾統一」を呼びかける声は消え、「中国の発展は若者にかかっている」とする激励のメッセージが加えられた。

 それは、昨年11月末に中国各地で行われた若者の抗議活動に対する“消火活動”のようでもあり、また20%近い失業率に直面する若い世代の不満を和らげる“鎮静剤”のようでもあった。

 中国の若手小売業者のひとりが自分の出店する客もまばらなショッピングモールを撮影し、「中国の専門家のいうリベンジ消費などどこにあるのか」と不満をぶちまけ、動画サイトに投稿した。日本の大学院に進学した留学生は「この3年間で私たちは政府への信頼も失った」と話す。

 中国国家統計局は1月17日、2022年の国内総生産(GDP)について、目標の前年比5.5%を大きく下回る3.0%増だと発表した。民心が離れつつある中で、習指導部が望む“団結”による経済回復を遂げるか否かは、2023年の見どころとなるだろう。

姫田小夏

【私の論評】中国の現状の失業率の高さは、ゼロコロナ政策以前からある構造的問題が原因(゚д゚)!

上の記事、現在の中国がどのような状況におかれているのか、それを見るには良い記事であると思いますが、経済に関しては、あまりに皮相的です。ゼロコロナ政策が突然変換したから、失業が増えたという見方はあまりに非現実的です。

政府が金がなくなったというのなら、政府は金を刷れば良いはずです。しかし、そうはしないのにはそれなりに理由があるのでしょう。というより、できない理由があるとみるべきでしょう。

日本では、どのような政策をしてきたかといえば、このブログに何度か掲載してきました。コロナがまだ深刻な状況だった、安倍・菅両政権において、両首相とも増税をしないことを政治決断して、両政権で合わせて100兆円の補正予算を組みました。安倍政権下では、60兆円、菅政権下では、40兆円の補正予算を組みました。

そうして、この100兆円には根拠がありました。コロナ禍が深刻だったこの時期には、GDPギャップが100兆円あるとされ、まずはこれを埋める政策が必要だったのです。

共に大快挙を成し遂げた菅義偉氏(右)安倍晋三氏(2020年9月14日)

財源は、政府が長期国債を発行して、日銀がそれを買い取るという形で調達しました。これを安倍元総理の言葉を借りると「政府日銀連合軍」で調達したのです。それで、ワクチン接種や、コロナ病床の確保、雇用対策などの対策を実行しました。

金融緩和そのものが、雇用対策になるのですが、これだけだと効果を出すのに時間がかかります。特に雇用対策においては、雇用調整助成金という制度を活用しつつ、対策を行ったため、両政権において失業率は2%台で推移するという大快挙を成し遂げたのです。これは、他国においては、コロナ禍期間中には、失業率が跳ね上がったのとは対照的です。

失業率は、典型的な遅行指標であり、現在行っている失業対策の結果が出るのは、半年後であり、現在の失業率は、半年前に打った雇用政策の結果であるといえます。

岸田政権においては、政権発足してからしばらくの間は、菅政権の雇用対策の恩恵を受けていたといえます。岸田政権においても、発足してから現在に至るまで、失業率は2%台で推移していました。

さて、日本では、雇用に関しては、中国のようなひどい状況になっていません。にもかかわらず、なぜ中国は現状のようにひどい状況になっているのでしょうか。

上の記事では、ゼロコロナ政策をなんの準備もせずに、実施したということだけが原因のように語られていますが、本当にそうでしょうか。

上の記事では、「広州市の財政が底をついた」という記述もみられますが、これは、金融緩和をしていないというかできない状況にあるとみるべきでしょう。

先あげた、「政府日銀連合軍」による資金調達も、これは金融緩和の一種であることには変わりありません。これは、緊急時などの金融緩和の一方策ともいえるものです。

中国も日本のように金融緩和をすれば、今頃なんの問題もなかったと思います。日本が、安倍・菅両政権で100兆円の対策を行ったのですから、人口が10倍超の中国は1000兆円の対策を行っても良いはずです。

このくらいの、大規模な金融緩和策を行っても良いはずですし、行っていれば、中国の雇用は今ほどの落ち込みを見せてはいないはずです。

ところが、中国政府はこのようなことを実行していないばかりか、「2022年1~11月における中国の財政赤字は7兆7500億元(約155兆円)と、前年同期の2倍余りに拡大し2020年を超える水準に膨らんだ」というのですから、これは異常事態です。

しかし、10年以上前の中国なら、雇用が悪化すれば、すぐに効き目が期待できる、財政出動を行い、徐々に効き目がでてくる、金融緩和も大々的に行い、すぐに雇用の悪化を防いでいました。

その頃の中国の経済対策は単純なものでした、景気が悪くなれば、すみやかに積極財政、金融緩和を行い、その結果経済が回復し、加熱してくると、今度は緊縮財政、金融引締をするという具合に繰り返し、経済を安定させてきました。この時期の中国は、緊縮財政、金融引締を繰り返す日本とは対照的でした。

その頃までは、中国では、今では忘れさられた「保8」という言葉も生きていました。これは、中国は発展途上国なので、経済発展が8%以上ないと、雇用を確保できないので、8%の成長率を維持するいう政府の約束です。この「保8」も10年くらい前から、実現されたことはありません。

中国の経済統計はそもそもデタラメであるということは、知られていますが、それにしても今回、中国の失業率の上昇は、もはや中国ではこのような対策はできないことを反映シたものなのだと思います。

このような対策ができなくなったみられたのは、何も最近のことではありません。この記事にも以前掲載したことがあります。
中国・李首相が「バラマキ型量的緩和」を控える発言、その本当の意味―【私の論評】中国が金融緩和できないのは、投資効率を低下させている国有ゾンビ企業のせい(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の元記事である高橋洋一氏の記事から以下に一部を引用します。 

 では、量的緩和や引き締めといった金融政策に中国政府が言及しなかったのはなぜか。これは、中国の政治経済の基本的な構造が関係している

 先進国が採用するマクロ経済政策の基本モデルとして、マンデルフレミング理論というものがある。これはざっくり言うと、変動相場制では金融政策、固定相場制では財政政策を優先するほうが効果的だという理論だ。

 この理論の発展として、国際金融のトリレンマという命題がある。これも簡単に言うと(1)自由な資本移動、(2)固定相場制、(3)独立した金融政策のすべてを実行することはできず、このうちせいぜい2つしか選べない、というものだ
 先進国の経済において、(1)は不可欠である。したがって(2)固定相場制を放棄した日本や米国のようなモデル、圏内では統一通貨を使用するユーロ圏のようなモデルの2択となる。もっとも、ユーロ圏は対外的に変動相場制であるが。

 共産党独裁体制の中国は、完全に自由な資本移動を認めることはできない。外資は中国国内に完全な自己資本の民間会社を持てない。中国へ出資しても、政府の息のかかった国内企業との合弁経営までで、外資が会社の支配権を持つことはない。

 ただ、世界第2位の経済大国へと成長した現在、自由な資本移動も他国から求められ、実質的に3兎を追うような形になっている。現時点で変動相場制は導入されていないので、結果的に独立した金融政策が行えなくなってきているのだ。
結果的に独立した金融政策が行えなくなってきているとは、どういう意味かといえば、今回のような未曾有のコロナ禍にあたって、経済や雇用を支えるには、大規模金融緩和が必要なのですが、それができないということです。

それを行ってしまえば、何かの不都合が起こり、その不都合に対策すると何か別の問題が起こり、もぐらたたきのようになってしまうのでしょう。

中国政府としてはこのことは、前から理解していて、ゼロコロナ政策を継続したかったのでしょうが、それを実行するためには、金融緩和によって資金を調達する必要があるのですが、それが何らかの理由でできない状況になっており、結局ゼロコロナ政策をやめて、放置することにしたとみられます。

先にあげた記事の【私の論評】では、中国が金融緩和できないのは、投資効率を低下させている国有ゾンビ企業のせいなどとしましたが、たしかに当時はそうだったのかもしれませんが、より根本的には中国経済が国際金融のトリレンマにはまってしまい、独立した金融政策ができなくなっていることが原因です。

中国は、ゾンビ企業問題を解消しても、今度は資本の国外逃避が起こる、あるいはインフレになるなどの問題が生じるのでしょう。

中国が、固定相場制をやめて変動相場制に移行するなどの根本的な解決は未だ実施されていません。

AI画像

こうした根本的な問題が放置されたままになっているところに、コロナ禍が起こったたため、ゼロコロナ政策に踏み切ったのでしょうが、この政策を維持するにも莫大な資金が必要です。それには、本来は金融緩和をした上で、資金を調達すれば良いのですが、それを大々的にやってしまうと、資本の海外逃避や、インフレに見舞われることになるので、ゼロコロナ政策をやめることにしたのでしょう。

中国が自由な資本移動を認めるか、変動相場制に移行するなどの大胆な改革を行わない限り、経済の低迷や高い失業率の問題は解決されないでしょう。

それこそ、サマーズ氏が予想していたように、春頃までには、中国は世界第2の経済大国になると思われていた国とはとても思えないような国になっていることでしょう。

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2023年1月19日木曜日

ロシア、ウクライナ侵攻の短期決着になぜ失敗?アメリカが明かした「宇宙」の攻防―【私の論評】陸だけでなく、宇宙・海洋の戦いでも、ますますズタボロになるロシアの現実(゚д゚)!

ロシア、ウクライナ侵攻の短期決着になぜ失敗?アメリカが明かした「宇宙」の攻防

ロシアはすで宇宙大国ではない AI画像

ロシアによるウクライナ侵攻が始まって1年近くが経つ。海外の研究機関によれば、ロシアは当初侵攻から10日で決着をつける計画だった。なぜ、決着をつけられなかったのか。宇宙での「戦い」に敗れ去ったからだ。(牧野愛博)

ロシア軍は2022年2月、ウクライナに対し、南北と東から侵攻した。部隊の一つは首都キーウ(キエフ)を目指し、特殊部隊がキーウに侵入したという報道もあった。当時、ロシア軍が投入した兵力は最大19万人とされ、日本の約1.6倍あるウクライナ全土を占領するためには少なすぎるという評価もあった。

ところが、ウクライナは緒戦の1カ月で、ロシア軍の戦車400両以上、軍用機100機以上を破壊した。ロシアは2022年4月初めまでにキーウ周辺から完全撤退し、作戦の練り直しを迫られた。

英王立防衛安全保障研究所(RUSI)は2022年11月末、ロシアはウクライナを占領するまでに必要な作戦期間を10日間と見積もっていたとする報告書を発表した。11月に『ウクライナ戦争の教訓と日本の安全保障』(東信堂)を共著で出版した松村五郎元陸将は次のように語る。

「ロシアは、2014年のクリミア併合と同じようなハイブリッド戦争で、激しい戦闘を避けながらウクライナの属国化を達成しようと考えたと思います。作戦を2、3日から長くとも1週間で完了するつもりだったと思います。戦力を分散して多数の正面から侵攻したこと、ベラルーシからキーウに突進した部隊の戦闘準備が不十分だったことは、軍事力をもっぱら威嚇のために使用するという狙いだったからでしょう」

ロシアは2022年1月、ウクライナの政府機関や金融機関などにサイバー攻撃をかけた。侵攻前日の2月23日になると、電磁波に攻撃をかけてウクライナの衛星通信網を無力化し、軍の通信や民間のインターネットを使えないようにした。

特殊工作要員をキーウ市内などに潜入させ、彼らは侵攻が始まった後にやってくるロシア軍空挺部隊が襲撃すべきポイントをマーキングして回った。

なぜ、ロシアのハイブリッド戦争が敗れ去ったのか。米国の政府や国防産業関係者、専門家らは2022年5月、ワシントンを訪れた自民党訪米団に対し、ウクライナが勝利した背景の一端を明らかにした。

米国など北大西洋条約機構(NATO)加盟国は、2014年にロシアがクリミア半島を強制併合した事実を深刻に受け止めていた。特に、ロシアがその際に使ったハイブリッド戦争に注目。米国はロシアによるウクライナ侵攻の兆候が出始めた2021年夏ごろから、特殊部隊要員をウクライナに派遣し、ハイブリッド戦争への対応策について教えていた。そのなかで、力を入れた戦術の一つが「宇宙での戦い」だったという。

米国は湾岸戦争(1990年)やイラク戦争(2003年)などで宇宙を独占して勝利した。湾岸戦争で、衛星情報などを使ってイラクの軍事目標を正確に破壊していく米国の戦いは、「初めての宇宙戦争」と言われた。

この動きをみていたのが、中国やロシアだった。中国は2007年1月、自国の衛星を標的にした衛星破壊実験を実施した。ロシアも2021年11月に同様の実験を行っている。元自衛隊幹部は「米国は2007年の中国による衛星破壊実験をみて、宇宙が自分の独占物ではないことに気がついた」と語る。米国は2019年12月、米国の6番目の軍種として宇宙軍を創設した。

米国は、ロシアがハイブリッド戦争を挑み、ウクライナのインターネットや衛星通信などを無力化するだろうと予測した。

日本など世界では、ウクライナの通信インフラを支えたのが、米スペースX社の衛星インターネットサービス「スターリンク」だとされている。米国が仲介し、ウクライナの通信網のバックアップとしてスターリンクのサービスを提供したのは事実で、ウクライナ侵攻は「初めての民間参入宇宙戦争」とも呼ばれる。

しかし、米側は自民党訪米団に対して「スターリンクはあくまでも一部に過ぎない」と説明したという。自民党関係者は「米国の動きをカムフラージュするため、わざとスターリンクの存在を内外メディアにアピールしたようだ」と語る。

米国の国防産業はすでに十数年前、各国が宇宙で使用している様々なシステムをリンクするシステムの開発に成功していた。ウクライナの衛星通信網を米国のシステムに連結することはもちろん、ドローン(無人航空機)などの地上偵察網や戦車、戦闘機などの攻撃システムにも連動させた。

米側の説明によれば、ロシア軍は確かに、ウクライナの衛星通信網の無力化に成功した。ところが、ウクライナ軍は米国の通信網に完全にリンクしていた。インターネットの利用はおろか、接近してくるロシア軍の戦車や装甲車、ドローンなども映像を通して、リアルタイムで把握できたという。ウクライナ軍は、米軍から教えられたロシア軍戦車などの急所を正確に攻撃し、次々に撃破していったという。

政府が12月16日に閣議決定した新たな国家安全保障戦略は、「宇宙の安全保障の分野での対応能力を強化する」とうたった。国家防衛戦略は「日米共同による宇宙・サイバー・電磁波を含む領域横断作戦を円滑に実施するための協力及び相互運用性を高めるための取組を一層深化させる」と宣言した。

今月11日に開かれた日米安全保障協議委員会(2+2)も共同発表で「閣僚は、とりわけ陸、海、空、宇宙、サイバー、電磁波領域及びその他の領域を統合した領 域横断的な能力の強化が死活的に重要であることを強調した」とうたった。現実は「宇宙を制する者はすべてを制する」という時代になっている。

自民党関係者の一人は「これからは、陸海空だけでなく、宇宙もサイバーも電磁波も一体化しないと戦争には勝てない。宇宙はそのカギになる場所だ」と指摘した上で、こう危機感をあらわにした。「もう、米国の51番目の州にならない限り、この国を守れない」

朝日新聞社

【私の論評】陸だけでなく、宇宙・海洋の戦いでも、ますますズタボロになるロシアの現実(゚д゚)!

ロシアに関しては、宇宙大国というイメージがありますが、宇宙大国であれば、ウクライナ軍は米国の通信網に完全にリンクしていたとしても、何とでもできたはずです。にもかかわらず、どうしてそうはならかったのでしょうか。

それは簡単に理解できます。ロシアは、すでにかなり以前から宇宙大国ではないのです。

2019年にプーチン大統領は演説で、ロシアの宇宙開発について「衛星通信システムなどは、品質、信頼性などで競合相手より劣る」「機器や電子部品の大部分をグレードアップする必要がある」などと指摘しました。

ロシアの宇宙開発は、技術力でも、資金力でも、もはや欧米や中国にかなわないのです。その存在感はどんどん薄くなっていました。であれば恫喝で世界を攪乱し、自らの存在感をアピールし、重要な国だと思わせようと、ロシアのロケットで打ち上げる予定だった欧州の衛星を事実上拒否したり、ロシアも含めて15カ国が参加する国際宇宙ステーション(ISS)での任務放棄やISS落下をほのめかしたり、ロシアは宇宙の国際交渉で、事あるごとにこういう「正攻法」ではないやり方をしてきました。

しかし、このやり方が成功するには、「ロシアがいなくなると、宇宙開発が止まってしまう」という状況でなければなりませんが、もうそのようなことはないのです。

モスクワの全ロシア博覧センターに展示されているロケット「ボストーク」

ロシアの宇宙開発の力が落ちたのは、1991年のソ連崩壊後です。予算が激減し、新たな技術開発ができず、技術者や技術が海外へ流出しました。

米国は安全保障上の懸念から、米欧日などの西側諸国で進めていた宇宙ステーションに、ロシアを参加させ流出を抑えようとしました。ロシアもそれを受け入れました。

ところが、ロシア国内に残った技術者の士気は薄れ、質も劣化していきました。2000年代のロシアで、ロケットや衛星の単純なミスや技術不備による失敗が続いたのも、そうしたことが影響したと見られています

そんな中、思わぬ「敵失」がロシアの窮地を救いました。2003年に米スペースシャトルの空中分解事故が起き、乗っていた宇宙飛行士全員が亡くなってしまいました。米国は11年にシャトルを退役させることになりました。

シャトルがなくなると、ISSへ人を運ぶ手段はロシアのロケットと宇宙船だけです。ロシアの影響力は俄然大きくなります。米国の足元を見透かして、飛行士をISSまで運ぶ「座席料金」を引き上げるなど、やりたい放題でした。

ところが、2020年に再び状況が変わりました。米スペースX社が宇宙船で人を宇宙へ運ぶことに成功し、米国は独自の輸送手段を獲得しました。ロシアのロケットと宇宙船も引き続き使われてはいますが、以後、宇宙でのロシアの力は再び弱まっていきます。

プーチン大統領は、ロシアの宇宙開発がここまで弱体化したのは、国が崩壊しばらばらになったためだと考えているかもしれません。

現在のロシアの宇宙施設やロケットは、旧ソ連圏の国々や欧州などとの微妙な力関係の上に成り立っています。バイコヌール宇宙基地は、カザフスタンにあり、ロシアはカザフスタンに借料を払わねばならないのです。

ロシアのロケットは、ウクライナ製の部品やシステムなどの外国技術に依存したり、他国との合弁事業だったりするなど、ロシアだけでは自由にできない状況が長く続いてきました。

ロシア製部品への切り替えなどの対策を講じてきましたが、旧ソ連圏をロシア中心でまとめ直そうとしているプーチン大統領にとって、ロシアの技術だけの純国産ロケットを作り、ロシアが自由に使える宇宙基地から打ち上げることが悲願になっていました。

このため、新ロケット「アンガラ」の開発や、新たな宇宙基地の建設を進めたのですが、どちらもまだ本格的な活用までは至っていません。新基地建設をめぐっては大規模汚職が問題になるなど、負の側面も目立ちました。

このままいけば、ロシアの宇宙開発は国際社会から締め出される可能性がある。昨年3月17日に欧州宇宙機関(ESA)が、ロシアと共同で今年打ち上げる予定だった火星探査機の計画を中断すると発表したように、すでにその兆しが見えていました。

国際社会から締め出さされた時、ロシアは中国との連携を深めるでしょう。

今、米国が主導して国際協力で月面に有人基地を造る「アルテミス」計画が進められています。しかし、ロシアはこれに参加せず、中国と月面基地の建設で協力する政府間合意を交わしており、この計画を進めています。一方、中国は独自の宇宙ステーションを完成させています。ここにロシアが加わることも考えられます。

世界の宇宙開発は二極に分断される恐れがある。双方が目指す月までは、広い宇宙空間が広がる。国際ルールや規範を顧みない中国とロシアがこの広大な宇宙空間でどのようにふるまうか、リスクが高まっているともいえます。

ただ、宇宙開発に必須ともいわれる最新型の半導体ですが、中露とも米国の制裁によって、輸入も製造もできない状態になっています。

このような状況で、中国は最新型の半導体は製造できず、輸入もできず、中国は少し前の技術によって、宇宙開発をせざるを得なくなりました。それでもある程度のことはできるかもしれません。

ただ、最新型の半導体の輸入も、製造もできないロシアには難しいでしょう。ただ、一縷の望みは、中国から最新型ではない半導体を入手できる可能性です。

しかし、これも困難になりそうです。これについては、以前このブログでも述べたばかりです。その記事のリンクを以下に掲載します。
「同盟しない、対抗しない、第3国をターゲットとしない」、習近平政権、ロシア見切りへ外交方針大転換―【私の論評】習近平がロシアを見限ったのは、米国の半導体規制が原因か(゚д゚)!

30日、モスクワで、中国の習国家主席(左)とオンライン形式で会談するプーチン露大統領

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事と関連付けて述べると、中国は米国の制裁をかなり恐れているようです。

現状では、中国では米国の制裁により、軍事転用などもできる最新型の半導体は、製造も輸入もできない状況になっていますが、一世代前のものであれば、製造も輸入もできます。これに対して、ロシアは半導体そのものが、輸入も製造もできない状況です。

中国の場合は、通信でいえば、G5関連の半導体は、製造も輸入もできませんが、G4であれば、できるようです。開発がすすみ、米国でG6が主流になれば、G5は輸入も製造もできるようになるかもしれません。

ただし、中国がロシアとの関係を強めていけば、米国の制裁はさらに厳しくなり、中国もロシアのように半導体そのものが輸入も製造もできなくなるかもしれません。

そうなれば、中国も宇宙開発どころではありません。こういうこともあり、習近平政権は、ロシアを見限ったとみられます。

そうであれば、ロシアが宇宙で覇権を握るなどのことは不可能です。「宇宙での戦い」で優位性を発揮することもないでしょう。

上の記事では、最後に「朝日新聞」の記事らしく、以下のようなことが述べられています。

自民党関係者の一人は「これからは、陸海空だけでなく、宇宙もサイバーも電磁波も一体化しないと戦争には勝てない。宇宙はそのカギになる場所だ」と指摘した上で、こう危機感をあらわにした。「もう、米国の51番目の州にならない限り、この国を守れない」

この自民党関係者の一人の方とは、誰かは知りませんが、この人、もしくは朝日新聞は重要なことを忘れているようです。

それは、監視衛星からは、水中の潜水艦を発見できないという事実です。現代の監視衛星は、宇宙から陸上の戦車などを仔細に監視することはできますし、水上に浮かんでいる艦艇を監視することはできますが、水中に潜っている潜水艦を監視することはできません。

現代海戦においては、水上艦艇は監視衛星や、比較的近いところからならレーダーで監視することができます。しかし、水中に潜る潜水艦はこれでは発見できません。

よって、水上艦艇は巨大空母であろうが、イージス艦であろうが、ミサイルの標的に過ぎませんが、潜水艦はそうではありません。

だからこそ、対潜哨戒能力や潜水艦の能力、敵潜水艦を攻撃する力、これらを総称する対潜水艦戦(ASW:Anti Submarine Wafare)が重要であり、ASWのが強いほうが、海戦を制するのです。

現在の海戦はASWが強いほうが勝つのです。そうして、日米は世界のなかでASWではトップクラスであると言われています。無論、日本は中露のASW能力をはるかに凌いでいます。

海を四方に囲まれた、海洋国日本がASWに力をいれるのは当然のことですし、いままでは予算が少なかった自衛隊が、ASWを世界トップクラスにすることに努力を傾注し、宇宙分野は後回しにしたということは、必然的な流れであり、正しい判断だったいえます。

ただ、日本もこれからは、宇宙の分野にも力をいれていくべきでしょう。日本には、それができる技術力は十分にあります。私は、これからでも力をいれていけば、やがて日本はASWだけではなく、宇宙分野でも米国に並ぶ存在になれると思います。

今後、半導体も満足に入手できないロシアは、陸上の戦いでも、宇宙でもASWでも、さらに劣勢になっていくことでしょう。残るのは、核兵器や化学兵器くらいのものです。ただし、これらを使えば、ロシアに未来はなくなります。

GDPでは、すでにインドを下回り、韓国をも若干下回る規模になったロシア、軍事でも没落は目に見えています。プーチンはそろそろ大国幻想を捨てざるを得なくなるでしょう。

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2023年1月18日水曜日

対中国 P1哨戒機訓練をテレビ初撮影 潜水艦への魚雷攻撃も―【私の論評】実はかなり強力な日本のASW(対潜水艦戦)能力(゚д゚)!

対中国 P1哨戒機訓練をテレビ初撮影 潜水艦への魚雷攻撃も

P1哨戒機

 2022年12月、中国とロシアの軍艦・戦闘機が合同で軍事演習を行った。2023年1月には中国の偵察無人機が東シナ海と太平洋を往復。自衛隊は2日連続での飛行にスクランブル発進で対応した。 

 中国船は東シナ海のみならず、太平洋上にも進出。それが常態化していて、近年ますます活動が活発化している。

  自衛隊は脅かされている日本の海上を守れるのか? テレビ朝日政治部の安西陽太記者は旧帝国海軍の特攻隊でも知られる鹿児島県鹿屋基地を密着取材。防衛の鍵を握るP1哨戒機の訓練を撮影した。

 鹿屋基地は海洋進出を強める中国などを念頭に警戒監視部隊が配備されている国防の要所だ。

  P1哨戒機は、海上自衛隊の最新鋭国産機で、主な任務は日本周辺の不審船や外国艦船、さらに海中の潜水艦を発見することである。

  機内には11人が乗員。パイロット2人と機上整備員、戦術・捜索を指揮する戦術航空士と補佐、レーダー・センサー担当のミッションクルー4人、魚雷などの装備品やシステム管理をする隊員2人がその任についている。 

 海上における警戒監視訓練に続いて高まる緊張感のなか行われたのは潜水艦捜索訓練。この訓練にテレビカメラが入るのは前例がないという。  訓練では、海に潜った潜水艦をレーダーやセンサーを使って発見し位置を細かく特定。P1哨戒機に搭載された魚雷で潜水艦への攻撃も行う。

 鹿屋基地P1哨戒機部隊の津田怜男2佐は中国などと日々対峙する国防の最前線での訓練について、「当然相手がミサイルを発射してくる可能性もありますので、緊張感があります。ミスが許されない」と語り、他の隊員も「任務をやっている中でも身に感じて海洋進出が多くなっているというのは日々感じ取っています」「テレビで見ていた尖閣諸島に近い基地ということで業務量は多いですが、日々やりがいを感じています」などと話した。 

 鹿屋基地P1哨戒部隊を指揮する岩政秀委1佐は緊張が高まる中国などの動向について、「脅威というのはいきなり起きるわけではありません。少しずつ何かしらの兆候が見えてきます。それは毎日の哨戒活動によって一つひとつ見ていかないと変化に気づけないと思います」と力強く語った。 (ABEMA NEWSより)

【私の論評】実はかなり強力な日本のASW(対潜水艦戦)能力(゚д゚)!

以下にどのようなテレビ報道がなされたのか、以下にその動画を掲載します。


海上自衛隊のP-1哨戒機は哨戒(パトロール)が主任務ながらも、多くの武装を搭載でき万一の場合には攻撃もできる航空機です。その特徴は旧海軍が運用した、九六式陸上攻撃機や一式陸上攻撃機などに通ずるものがあります。

毎年1度、防衛省によって発行される「防衛白書」によれば、2020年現在、海上自衛隊は新型で配備が進む国産のP-1を19機、退役が進んでいるP-3Cを55機の、合計74機の「哨戒機」を保有しているとされています。哨戒機は艦艇の10倍にも及ぶスピードを有し、広大な洋上を監視する上で欠かせない航空機です。

哨戒機の名称の頭文字「P」は「Patrol(パトロール)」から取られていますが、攻撃機でもあります。特に対水上戦(潜水艦ではない艦艇との戦闘)におけるその役割は、旧日本海軍が保有した九六式陸上攻撃機一式陸上攻撃機の両「陸攻」と非常によく似ています。

マレー沖海戦に出撃する一式陸攻

九六式、一式は極めて長大な航続距離を有し、兵装を搭載しない状態であれば最大で6000kmを飛行可能でした。この航続距離を活かして洋上を長時間、遠方まで敵艦を索敵し、発見した場合は兵装を搭載した機体が長駆進出し対艦攻撃を加えます。最も有名な成功例は1941(昭和16)年12月10日のマレー沖海戦であり、両陸攻は当時不沈艦といわれは、英軍の戦艦2隻を撃沈しました。

P-1は機体外部のハードポイント(兵装類を吊り下げ搭載する部分)8か所と、さらに胴体部の爆弾倉(ボムベイ)に、レーダー誘導型空対艦ミサイルAGM-84「ハープーン」または国産の91式空対艦誘導弾(ASM-1C)を搭載できます。2020年に入り陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾を原型とした新型対艦ミサイルの搭載試験と思われるP-1の姿が目撃されており、近い将来実用化されるでしょう。

現代の水上艦およびこれが搭載する艦対空ミサイルは非常に優れているため、航空機が接近するとまず撃ち落とされてしまい、また単に水上艦へ対しミサイルを発射しても迎撃されてしまいます。

したがって水上艦を攻撃するには、たくさん対艦ミサイルを搭載する能力が大きな利点となります。つまり目標の艦はもちろん、周囲の護衛艦や戦闘機などと共同で迎撃できないほどの大量の空対艦ミサイルを、同時かつ長距離から撃ち込むのです。

航空自衛隊のF-2戦闘機は、P-1とほぼ同等の空対艦ミサイルを4発、携行できます。戦闘機には戦闘機の利点もあるので単純に比較はできないにせよ、P-1はF-2の、2機分以上の攻撃力を有しているといえます。

そのため、敵国からしてみれば「大量の空対艦ミサイルを持っているかもしれないP-1がどこかで滞空している(飛んでいる)かもしれない」という脅威を受け続けることになり、平時においては抑止力となりえます。

P-1が搭載できるもうひとつの空対艦ミサイルに、AGM-65「マーベリック」があります。こちらは画像認識誘導型で射程と威力は比較的低く、本格的な水上艦以外の目標への攻撃に適しています。

AGM-65は、実戦での戦果において右に出るものがない傑作ミサイルです。これまで他国軍において様々なタイプが合計5000発以上発射され、おもに対戦車ミサイルとして使われました。ターゲットが船舶でも戦車でも射撃前に映像で捕捉し射撃する手順は変わらないので、ある意味ではP-1は地上攻撃能力もあるといえます。

九六式、一式陸攻は爆弾や魚雷も搭載可能でした。これらはおもに水上艦艇への対処に使用されましたが、P-1も対潜(対潜水艦)用途ではありますがどちらも装備可能です。

1999(平成11)年の能登半島沖不審船事件では「海上警備行動」が発令され、警告のためP-3Cから「150kg対潜爆弾」が投下されています。対潜爆弾は無誘導なので、やはり主力は誘導装置を持った「短魚雷」です。

P-1が搭載する「短魚雷」にも種類があり、アメリカ製のMk46、太平洋など深海における能力を改善した97式魚雷、東シナ海など比較的浅い海での能力を改善した12式魚雷があります。

これらの短魚雷は、敵潜水艦の発する音を探知するパッシブソナー、または音波を発信し物体に跳ね返ってきた信号を探知するアクティブソナーを持ち、たとえば潜水艦上空から発射され着水すると、円を描くように潜っていき敵潜水艦を探します。

P-1のコクピット

80年前と現在では社会情勢こそ大きく変わりましたが、日本という国が四方を海に囲まれ海運に依存する地勢的状況は変化していません。九六式、一式陸攻を現代のテクノロジーによって再設計したようなP-1哨戒機ですが、こうした種類の飛行機がいまも重要であり続けることは、必然であるといえるのかもしれません。

2013年のP-1の就役により、海上自衛隊の対潜・対海巡視能力が大幅に引き上げられました。中国は潜水艦の実力強化を急いでおり、総規模が70隻に達しています。

P-1はP-3C(米国制の哨戒機)が捕捉できない音響を捕捉できます。例えば魚雷発射管を開く音、舵を切る音などを捕捉でき、さらにより広範囲な周波数の雑音を処理できます。P-1哨戒機等により、日本は中国の多くの艦艇の音紋を把握しているといわれます。

P-1を含め、日本の対潜水艦戦争(ASW:Anti Submarine Warfare)の能力は、中国を圧倒しており、海戦能力においては、日本のほうが中国を圧倒しています。

日米ともに、ASWは中国を圧倒しており、現代海戦においては、ASWの強いほうが、有利です。今回、その一端でもある、P1哨戒機の訓練の様子が、テレビ初撮影されたのですから、日本のASWに関する情報公開もようやっと進みつつあるようです。

潜水艦の行動や、ASWの能力については、昔から極秘注の秘とされていて、表にはなかなか出てこないのが普通でした。ただし、能力があるにもかかわらず、それを全く公表しないというのも考えものです。

全く公表しなければ、日本のASWは全く脆弱で、中国で海で戦えば、あっという間にやられてしまうと、考える人も多いようです。それは、間違いであり、中国海軍が日本に対して攻撃を加えれば、中国海軍は甚大な被害を被ることになります。

もし、中国のASWが日米を上回っていたら、中国はもっと大胆な行動をしているでしょう。台湾などとっくに侵攻しているでしょう。尖閣諸島もとうの昔に占領されて、前哨基地を設置され、今頃は沖縄侵攻作戦を企図していることでしょう。

中国にそれだけの能力があれば、今頃ハワイ侵攻作戦も企図していたかもしれません。

ただ、あまりにも公開しすぎると、秘密を公開するようなものなので、公開しすぎは禁物です。バランスをとることが欠かせません。しかし、今回はじめてP1哨戒機訓練をテレビ初公開したことは、評価できます。これで、日本でも多くの国民に、日本のASWの一端を知ってもらうことができると思います。

海上自衛隊厚木航空基地(神奈川県大和市、綾瀬市)で11日、第4航空群による今年初の訓練飛行が行われました。

訓練では、P1哨戒機が同基地を出発し、富士山を周回。約1時間半飛行して同基地へ戻ってきました。普段は海上での訓練や任務が主で陸の上を飛ぶことはほとんどないのですが、毎年の初訓練飛行では富士山周辺を飛ぶのが恒例になっているといいます。

今年の初訓練に臨む海自のP1哨戒機(11日午前10時33分、海自機から)

飛行の前には、第4航空群司令の金山哲治海将補が約200人の隊員に対して年頭訓示を行いました。金山海将補はロシアによるウクライナ侵略や周辺国の軍備増強、頻発する自然災害などを挙げ、「いつでも国民の負託に応えられるよう、日々精進し備えなければならない」と呼びかけました。

このような訓練も、国民に自衛隊の守備能力を示すものともなり、良いことだと思います。

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2023年1月17日火曜日

「同盟しない、対抗しない、第3国をターゲットとしない」、習近平政権、ロシア見切りへ外交方針大転換―【私の論評】習近平がロシアを見限ったのは、米国の半導体規制が原因か(゚д゚)!

「同盟しない、対抗しない、第3国をターゲットとしない」、習近平政権、ロシア見切りへ外交方針大転換



 

 昨年12月30日に中国の外交部長(外相)に任命された秦剛氏は年明けてから早速、活発な外交活動をスタートした。1月11日からアフリカ諸国への外遊を始めたのと同時に、アメリカ・ロシア・パキスタン・韓国の4カ国の外相とも電話会談を行い、外相としてのデビューを飾った。

秦剛氏

 一連の電話会談のうち、秦外相が最初に行ったのは米国のブリンケン国務長官との会談である。1月1日の元旦、外相に任命されてからわずか2日後、秦外相はプリンケン長官と通話し、新年の挨拶を交わした上で「米中関係の改善と発展」を語り期待を寄せた。

 外相に任命される直前まで、秦氏は駐米大使を務めていたから、外相になって初めての電話会談相手が米国務長官であることは自然の成り行きとは言えるが、最大の友好国家であるロシア外相との電話会談をその後に回したことはやはり違和感を感じさせる。中国の外交姿勢に何かの変化が起きているのではないかと思いたくなるのである。

 ロシア外相との会談が実現されたのは1月9日、米中外相電話会談から8日後のことだ。同じ9日に秦外相がパキスタン、韓国外相とも電話会談を行ったから、ロシアとの関係を「特別視しない」という中国側の姿勢はそこからも伺える。

 そして中国外務省の公式発表では、秦外相は「予約(要請)に応じて」、ロシアのラブロフ外相との電話会談に臨んだという。それは要するに、「向こうからの要請がなかったら電話会談をやっていないかもしれない」ということを暗に示唆しているような表現であるが、わざと「要請されての電話会談」を強調するのにはやはり、ロシアとの距離感を示す狙いがあるのであろう。その一方、米国務長官との会談に関しては、中国側は「要請されて」との表現を使わなかった。

「3つのしない」とは

 肝心の中露外相会談の中身となると、中国外務省の公式発表では、秦外相は電話の中で「中露関係の高レベルの発展」に意欲を示しておきながらも、「中露関係の成り立つ基礎」として、「同盟しない、対抗しない、第3国をターゲットとしない」という「3つのしない」方針を提示したという。

 この「3つのしない」方針の意味合いを1つずつ考えてみると、「第3国をターゲットとしない」とは当然、アメリカ・EUの存在を強く意識したものであろう。つまり中国の新外相はここで、中露関係は決して欧米と対抗するための関係ではないことを、むしろ欧米に向かって表明したのである。

 もう1つ、秦外相はロシアに対して「対抗しない」との方針を示したことも大変興味深い。本来、「対抗しない」云々というのは、対抗している国同士間で関係の改善を図る時に発する言葉であって、友好国家の間でこのような表現を使われることはまずない。

 例えば日本の外相はあえて、米国国務長官や英国外相やフランス外相に向かって「対抗しない」と語るようなことは考えられない。親密関係の友好国同士の間に、「対抗する」ことは最初から想定されていないからである。

 しかし中国の秦外相は、本来なら一番の友好国であるロシアの外相に対して「対抗しない」という言葉を何気なく使った。捉えるようによってそれは、ロシアとの今までの親密関係を頭から否定するような発言でもあれば、「中露は互いに対抗しなければこれで良い」という、中露観の親密さを打ち消すような「冷たい」言い方にもなっているのである。

 そして「3つのしない」の一番目の「同盟しない」となると、要するに中国側は明確に、ロシアと同盟関係を結ぶ可能性を否定した訳である。

それまでは「無制限の関係強化」だった

 しかし、秦外相が示した中国の対露外交の「3つのしない」方針は実は、2021年以来の習政権の進む対露外交方針からの大転換である。

 それまでに、中国の外相や外交関係者は中露関係についてどう語ってきたのか。いくつかの実例をあげてみよう。

 例えば2021年1月2日、王毅外相(当時)は人民日報からのインタビュー取材において、「中露間の戦略的協力は無止境、無禁区、無上限である」と述べ、中国はロシアとの間で軍事協力の強化や同盟関係の締結を含めた、全く無制限の関係強化に対して意欲を強く示した。

 2020年10月23日、中国外務省趙立堅報道官(当時)は記者会見で、王外相と同じ表現を使って「中露協力は無止境、無禁区である」と語った。そして2022年10月4日、王外相は新華社通信のインタビュ取材で再び、「中露関係は無止境、無禁区、無上限」と強調した。

 しかし、去年の年末に王外相が退任して前述の秦剛氏は新外相に就任した。そして、ロシア外相の初電話会談ではこの新外相の発する言葉から上述の「3つの無」は完全に消えた。その代わりに、秦外相はロシア側に提示したのは前述の「3つのしない」方針であるが、それはどう考えても、これまでの「3つの無」方針に対する明確な否定であって、習政権による対露外交方針の180度の大転換であると言っても過言ではない。

 「3つの無」の「無止境・無禁区・無上限」が明らかに、軍事同盟を含めた同盟関係結成の可能性を強く示唆した表現であるのに対し、秦外相の「3つのしない」方針は真っ先に、ロシアと同盟する可能性を明確に否定した訳である。

「戦狼」報道官更迭もその一環

 そしてその意味するところすなわち、習政権は今までの数年間の「連露抗米」戦略を放棄し、米国との関係改善を図る一方、ロシアとの親密関係を根本的に見なおす方針に転じたことである。

 そう考えると、前駐米大使の秦剛氏を新外相に任命したのもまさにこのような外交方針転換の一環であって、そして秦氏は就任早々、一連の電話会談をもってこの新方針を実施に移し始めたと見て良い。

 その一方、今までに中国の「戦狼外交」の顔一つとして傲慢姿勢を貫き、欧米では受けの悪い趙立堅報道官は、秦外相の就任直後に表舞台から異動させられたこともまた、こうした外交方針の転換の現れであると理解できよう。

 このようにして中国の習政権は、対ウクライナ戦争で「負け馬」となって「世界の大国」の地位から転落したプーチンのロシアに見切りをつける一方、経済の立て直しのためには欧米との関係改善を図ろうとしていることは分かる。

 欧米との関係改善は中国の思惑通りになるとは限らないが、中露関係は新しい局面を迎えようとしていることは確実であろう。

石 平(評論家)

【私の論評】習近平がロシアを見限ったのは、米国の半導体規制が原因か(゚д゚)!

昨年の暮には、このブログでは、中露の結びつきが強くなるかもしれないことを懸念しました。その記事のリンクを掲載します。
プーチンが「戦争」を初めて認めた理由―【私の論評】戦争・コロナで弱体化する中露が強く結びつけは、和平は遠のく(゚д゚)!

30日、モスクワで、中国の習国家主席(左)とオンライン形式で会談するプーチン露大統領

この記事は、昨年12月30日のものです。詳細はこの記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。

プーチンと 習近平は30日、オンライン形式で会談しました。露大統領府によると、プーチン氏は会談の冒頭、習氏に訪露を招請し、来春のモスクワ訪問に向けて準備していることを明らかにしました。ウクライナ侵略後の米欧からの圧力に対し、中露の軍事協力の拡大で対抗する姿勢も強調しました。

さらにこの記事から引用します。

来年の4月頃には、このブログにも以前掲載したとおり、サマーズ氏が予告したように、中国は国内生産(GDP)で米国を追い越すと言われていた国とは思えないような国になっているでしょう。その頃には、中国の最大の課題はコロナ禍からの回復に絞られているはずです。 
プーチンはこのことも理解していると思われます。にもかかわらす、来春に習の訪露を招請するのでしょうか。 
コロナで弱りきった中国は、西側諸国のように同盟国は存在せず、しかも現状では西側諸国と対立しており、コロナ復興は自力で行わなければなりません。コロナ前の中国なら、先あげた二番目のシナリオで、和平どころか、プーチン大統領の説得にも動かず、現在のポジションを維持をする公算が高かったと考えられます。 
しかし、弱りきった中国なら、ロシアにかなり接近してくる可能性は高まるでしょう。特に、エネルギーや食料に関しては、中国はロシアにかなり頼れそうです。ロシア側とすれば、中国に武器に関しては頼れそうです。両者の利益が合致して、なりふり構わず、両者のパートナーシップは強まり、同盟関係に近くなるかもしれません。
結局、習近平はこうしたプーチンの意図を読み解いた上で、これは得策ではないと判断したのでしょう。

現状で中国が最も欲しいのは、半導体です。このブログでも以前掲載したように、バイデン政権は昨年もさらに中国に対して半導体規制を行っており、もはや中国では、新型の半導体は製造できず、輸入もできない状態になっています。

しかし、ロシアにはこれを中国に提供できる程の半導体技術はありません。半導体製造機械も、日米蘭の独壇場で、これも無論提供できません。

それでも中国は健在の段階だと、新型ではない半導体は、自らも製造できますし、輸入もできます。たとえば、現状ではスマホでいうと、5G関連半導体は輸入も、製造もできません。しかし、4G関連なら輸入、製造ともできます。

現状のロシアは、半導体そのものが製造も輸入もできない状態にあります。ロシアとして、古いタイプの中国の半導体でも入手したいと考えていることでしょう。

中露関係が緊密になれば、当然ロシアはこれを中国に要求することでしょう。そうなれば、どうなるかと、習近平は考えたのでしょう。もし、中国が一世代前の半導体でも提供するということになれば、米国はさらに中国に対する制裁を厳しくするだろうと、考えたのだと思います。

苦悩する習近平 AI画像

現状だと、たとえば、5Gが古くなり、6Gが新しいものになった場合、6G対応の半導体は、中国が輸入したり、製造できるようになる可能性はあります。

ただ、中露が接近して、同盟関係に近くなれば、米国は制裁をさらに強めて、半導体そのものを輸入も製造もできなくする可能性があります。

そうなれば、中国も現在のロシアと同じような状況になります。それでも、中露は抜け道を探すでしょうが、それでも入手できる半導体には限りがあり、兵器の製造そのものにかなり支障が出ることになります。

習近平としては、このような最悪な事態は避けたかったのでしょう。今回、中国がこのような態度にでたことで、ロシアは徹底的に追い込まれことになるでしょう。

ウクライナは半導体を入手できるでしょうから、これからも独自の兵器開発ができます。ちなみに、ウクライナは中国の軍事技術の基礎を築いた実績があります。今はまだ、余裕もないですが、いずれ独自の兵器の開発もする可能性は十分あります。

ロシアに対する半導体の輸出・販売禁止はウクライナ戦争が始まってからすぐに実行されています。

半導体などを外国から調達するのが困難となったため「ウラルワゴンザボード」と「チェリャビンスクトラクター工場」というロシア軍の戦車を生産する2大拠点が操業停止に追い込まれたとされています。

ロシアの戦車工場

ロシア軍は戦車などの兵器に外国産の半導体を多く使用していて、特に台湾の大手TSMCに依存していたと言われています。

そのためTSMCが米国などの意向を受けてロシアでの販売停止を決めたことが、大きな打撃になっています。

ただロシア軍は軍事用の半導体が入手できないことから、家電などで使われている民間の半導体を転用しているという指摘があります。

米国議会の公聴会の場でレモンド商務長官は、ウクライナ側からロシア軍の兵器には皿洗い機や冷蔵庫から取り出した半導体が搭載されていたと報告を受けたと発言していました。

現状は、ウクライナもロシアも弾薬が不足気味のようで、戦線は膠着していますが、中国がロシアに対して、見切り外交に舵を切ったことから、今後はウクライナのほうが圧倒的に有利になる可能性がでてきました。

今春に習近平はロシアを訪問するのでしょうか、私は訪問しない可能性も出てきたと思います。訪問したとしても、型通りの話ししかなく、形式的なものになる可能性が高まってきたものと思います。

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2023年1月16日月曜日

「国債60年償還ルール」と「減債基金」の廃止で、30兆円の埋蔵金が…防衛費増額も本当はこれで解決する―【私の論評】2月後半の令和5年度予算成立まで、自民党内政局は水面下で動くか(゚д゚)!

「国債60年償還ルール」と「減債基金」の廃止で、30兆円の埋蔵金が…防衛費増額も本当はこれで解決する


財務省はまた否定的だが

 防衛費増額の財源確保をめぐり、自民党は近く国債を返済する仕組みである「60年償還ルール」を見直す議論を始める。

 自民党の萩生田光一政調会長は、自らをトップとする特命委員会を近く設置し、増税以外の防衛財源捻出策を議論する考えだ。償還年数の延長や償還ルールの廃止は財源捻出になる。世耕弘成参院幹事長も「(特命委が)償還ルールを議論する場になればいい」と同調している。

 この動きを後押しするのは、自民党若手有志による「責任ある積極財政を推進する議員連盟」(共同代表は中村裕之、顧問城内実)。同連盟はルール自体の廃止を唱え、「償還費を防衛費などに振り向けることについて検討すべきだ」と訴える。

 一方、政府は消極的だ。松野博一官房長官は1月12日の記者会見で「毎年度の債務償還費が減少する分、一般会計の赤字国債は減るが、その分、特別会計の借換債が増える」と指摘。「財政に対する市場の信認を損ねかねない」と語った。その背後には財務省があり、財政規律の観点から見直しに否定的だ。

 60年償還ルールとはどのようなものでなぜ作られたのか。緩和や撤廃をすると問題は生じるのか。

 筆者は、今から30年ほど前の大蔵省(現・財務省)の役人時代に、国債整理基金の担当をしたことがある。その当時、海外の国債管理担当者に対して、「日本では減債基金があるので国債が信用されている」と言った。それに対し、海外の先進国から「うちの国は減債基金がかつてあったものの今はないが、なぜ日本にはあるのか」「借金しながら減債基金への繰入のためにさらに借金するのはいかがなものか」と反論され、まともな再反論が出来ずに参ったことがある。まったく彼らの言うとおりだからだ。

 よく考えてみたら、日本でも民間会社は社債を発行しているが、減債基金という話は聞かない。減債基金の積立のために、さらに借金をするのはおかしいというのは誰でもわかる話だ。

  異例の「減債基金」存在の理由

 民間の社債では、借り換えをして、余裕が出たときに償還するというのが一般的だ。これは、海外の国債でも同じなので、海外の先進国でも、かつては国債の減債基金は存在していたが、今ではなくなっている。

 さらに、金利環境に応じて買入償却するなど国債全体をいかに効率的に管理するかが重要なので、金融のプロを国債管理で配置し、債務管理庁などのプロ組織にしている。

 減債基金は、債券関係の用語だ。辞書には「国債を漸次償還し、その残高を減らすために積み立てる基金」とあるが、国債に限らず地方債にもある。国債の減債基金を「国債整理基金」という。

 60年償還ルールは、減債基金のためにどのように繰り入れるかを示すものだ。建設国債の場合、社会インフラの構築のために発行されるが、その耐用年数が60年程度なので、それに合わせて60年償還とされている。減債基金への毎年の繰入額は国債残高の60分の1で1.6%ということになる。

 それではなぜ日本では減債基金が存在しているのだろうか。地方は国の国債整理基金があるからというだろう。では国の国債整理基金はなぜあるのか。建前としては、国債の償還を円滑に行い、国債の信認を保つためという。これは筆者が30年前に言わされた公式見解だ。しかし、本音でいえば、国の予算作りのために便利な道具だからだ。

 まず、国債費のうち債務償還費(国債整理基金への繰入)といって、毎年10兆円程度以上(2023年度予算で16.4兆円)の予算の水増しが可能になる。本来であれば、債務償還費は不要なので、その分国債発行額を減らせる。少なくとも日本以外の先進国ではみなそうなっている。しかし、日本では国債発行額が膨らむが、財務省にとって財政危機を煽れるメリットがある。

 また、国債金利の市場金利は低いにもかかわらず、予算上の積算金利は市場金利より高めに設定し、国債費のうち利払費を水増ししている。こうした水増しは、年度途中で補正予算を作るときに財源となる。補正予算の財源になるのであれば、水増しは国民に実害がなくそう目くじらをたてることもないが、この点からも、必要以上に国債発行額を膨らまして、財政危機を煽るという悪い面が目立っている。

 的外れの反論

 総務省は、減債基金を金科玉条にして、諸規制によって地方自治体に起債などを統制しようとする。筆者が総務省にいた2007年頃、公募地方債金利を自由化したが、総務省官僚は猛烈な抵抗を示した。その理由は市場によるコントロールではなく自分たちが統制したいというものだ。そうした主張に減債基金がしばしば使われるのだが、それは違うだろう。

 いずれにしても、日本では、国債・地方債の減債基金はまだ存在している。大学の財政学のテキストにも、国債・地方債の減債基金の制度やその重要性が説明されている。ただ、海外では存在していないことや、減債基金がなぜ必要なのかについてはあまり言及されない。もし学生がそうした質問をしたら、大学教員は困るだろう。

 国際基準からの正解は、まず60年償還ルールを廃止してプロの債務管理庁を創設することだ。

 60年償還ルールを廃止すると国債の信任が失われると財務省はいうが、他国の例から的外れだ。また、過去に1.6%の債務償還費を計上しなかったことも、1982~89年、1993~95年と11回もあるが、国債の信任という問題になっていない。

 60年債務償還ルールを持ちだすと、財務省からは、アメリカでは債務上限ルールがあり、ドイツでは国債発行を例外とするルールがあるという、やや的外れの反論もある。それらに対し、筆者は、アメリカの債務上限はあまりにバカげていて、毎年のように政治取引に使われており、参考とすべき例でない、ドイツについては欧州の国は債務をEU機関に振り替えられるので全体として見れば緩く、一部だけを切り取りのは不適切と再反論してきた。財務省は筆者が当時の大蔵省見解を言った30年前からまったく進化していないのは驚く。

 国で60年償還ルール、減債基金を見直し・廃止すると地方まで波及する。それは地方財政に無用な制約をなくして財政余力が高まることを意味する。

 地方の場合、減債基金残高は2~3兆円であるが、そのほかに満期一括償還に備えた積立金が10兆円程度ある。国の償還ルール変更により、地方もおそらく10数兆円程度の財政余裕になるだろう。

 国と地方をあわせて30兆円程度の財源になり得る。これは令和の埋蔵金だ。4月に統一地方選があるので、国の償還ルールの見直しを是非とも政治課題にすべきだ。

髙橋 洋一(経済学者)

【私の論評】2月後半の令和5年度予算成立まで、自民党内政局は水面下で動くか(゚д゚)!

「国債60年償還ルール」と「減債基金」の廃止で、30兆円の財源を捻出できることは、すでに多くの人が指摘していました。

私自身も以前このブログで財源となりうるものを列挙したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
①特別会計剰余金(円安効果で外為特会増加分約30兆円)
②一般会計剰余金(昨年度は6.3兆円)
③自然増収(昨年度は9.5兆円)
④国債60年償還ルール撤廃(毎年の国債費16兆円が浮く)
私の場合は、「国債60年償還ルール」だけを考えていたので、16兆円であると考えてはいましたが、「減債基金」の廃止で合計30兆円は財源としてつかえます。増税の効果などもあり、増収は今年度も十分に見込めます。円安効果は、最近は若干薄れてきたものの、これは日銀が実質的な利上げをしたせいですが、これをやめれば、十分に財源化できます。

このようなこと、誰でも思いつきますし、多くの政治家や評論家などもこれについて語っていました。

ただ、これを自民党の萩生田光一政調会長が、自らをトップとする特命委員会を近く設置して、議論するといいだしたわけです。岸田総理の「検討」とは、意味合いが違います。萩生田光一氏が具体的に言い出したということで、これはかなり意味のあることです。

萩生田光一政調会長

見直しの検討を主張する自民党の萩生田光一政調会長は、償還年数を80年に延長する案に言及しています。延長すれば、毎年度の債務償還費を減らせます。
自民党若手有志による「責任ある積極財政を推進する議員連盟」はルール自体の廃止を唱え、「償還費を防衛費などに振り向けることについて検討すべきだ」と訴えています。

昨日もこのブログに掲載したように、菅義偉前首相が、岸田首相の「派閥主導の政治」や、増税路線に苦言を呈した。

菅前総理

これだけの動きがあれば、いずれ政局の動きになるのは確実であるとみられます。

当面の政治日程は以下のとおりです。
1月23日 通常国会召集
2月下旬? 2023年度予算成立
4月8日 黒田東彦日銀総裁の任期満了
4月9日 統一地方選前半戦 
4月23日 統一地方選後半戦(衆院千葉5区、和歌山1区、山口4区補欠選挙の見通し)
5月19日 G7広島サミット(21日まで)
現在のところ、財源確保法案に向けての、閣議決定の動きはまだ見えていません。通常国会への提出はされないかもしれません。ただ、提出されれば、財務省等による自民党各派閥への根回しなどは終了したことを意味しており、増税が決められてしまうことになります。

今国会では増税が決められないにしても、岸田首相は増税の方向性をはっきり打ち出していますし、日銀の黒田総裁の後任人事では、金融引締め派の総裁に決まることが、懸念されています。

そうなると、2 月後半の2023年度予算成立をもって、自民党内が大きな政局になる可能性が高まったといえます。それまでは、水面下で、政局がすすんでいき、2月後半で動きが見えてくると考えられます。岸田首相に関しては、G7広島サミット後勇退論が囁かれていましたが、これを前に辞任に追い込まれる可能性がでてきたといえます。

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2023年1月15日日曜日

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菅義偉前首相動く「岸田降ろし」宣戦布告 「大増税路線」に苦言、嵐吹き荒れるか 勉強会で派閥勢力結集「政局見極め動き出す決断した」鈴木哲夫氏


 2023年が幕を開け、国内外の情勢が風雲急を告げている。欧米歴訪中の岸田文雄首相は13日午前(日本時間14日未明)、ジョー・バイデン米大統領とワシントンのホワイトハウスで会談し、軍事的覇権拡大を進める中国などを念頭に「日米同盟の強化」などで一致した。一方、国内では菅義偉前首相が、岸田首相の「派閥主導の政治」や、増税路線に苦言を呈した。内閣支持率が低迷するなか、十分な説明や議論のないまま「大増税路線」に突き進む岸田政権に待ったをかけたのか。「政局の嵐」が吹き荒れそうだ。


 「派閥政治を引きずっているとのメッセージになり、国民の見る目は厳しくなる」

 菅氏は10日発売の月刊誌「文芸春秋」のインタビューで、首相就任後も宏池会の会長を続ける岸田首相をこう批判した。同日夜、菅氏は外遊先のベトナムでも、岸田首相の経済政策について次のように語った。

 「『少子化対策』は極めて重要だと思うが、消費税を増税してやるということは(私は)まったく考えていない」

 岸田首相は年明け4日の年頭記者会見で、「異次元の少子化対策」を打ち出した。首相に近い自民党の甘利明前幹事長は翌5日放送のBSテレ東番組で「消費税増税論」に言及した。菅氏はこれに異議を唱えたのだ。

 さらに、菅氏はベトナムで記者団に、「政治家は国民の負託を受けている。自らの理念や政策よりも、派閥の意向を優先するようなことはすべきでない」「歴代の多くは所属派閥を出て務めていた」などと続けた。

 この経緯をどう見るのか。

 菅氏の取材を20年近く続けるジャーナリストの鈴木哲夫氏は「月刊誌での発言、マスコミへの発信を含め、入念にタイミングを計算していた。岸田首相への『宣戦布告』だろう」と分析した。

 菅氏の上げた〝狼煙〟は波紋を呼んだ。

 菅氏が一昨年の自民党総裁選で推した河野太郎デジタル相は11日、「言うことも分からないではない。自民党の中はいろいろなものが派閥で動いているが、国民と向き合うのが大事」と述べた。

 石破茂元幹事長も13日のTBSのCS番組収録で、「至極全うなことを言っている。形式として(首相になれば)派閥を離れるのは自民党の良識ではなかったか」と同調した。

 一方、安倍晋三元首相が率いた安倍派所属の世耕弘成参院幹事長は「岸田首相が派閥色を露骨に出して仕事をしたり、決定したことは全くなかった」としながら、「派閥のトップ、派閥を離脱して首相や総裁を務めるというのが、安倍首相までの慣例だった。岸田首相自身が判断すればよい」と語った。

 支持率低迷に直面する岸田政権は今年、統一地方選や衆院補選を控える。岸田首相が強い意欲を示す、5月に地元・広島で開催するG7(先進7カ国)首脳会議もにらみつつ、衆院解散に打って出るかが注目だ。

 前出の鈴木氏は「だからこそ、菅氏は『政局』の年と見極めた。まずは増税路線に反対したが、安全保障政策などを含め、さらに対案を提示していくだろう」とみる。

 具体的な動きは、どうなりそうか。

 自民党内の勢力図=別表=は複雑だ。岸田首相は自身の岸田派と、茂木敏充幹事長の茂木派、麻生太郎副総裁の麻生派で主流派を形成するが、岸田派は第4派閥で、基盤は脆弱(ぜいじゃく)だ。

 一方、菅氏は無派閥系議員に加え、二階俊博元幹事長の二階派、森山裕選挙対策委員長が率いる森山派との連携も強める。最大派閥で岸田政権と距離がある安倍派の有力者、萩生田光一政調会長とも距離が近い。

 勉強会で勢力結集「ポスト岸田」人材探しか

 鈴木氏は「岸田政権の増税方針は、財務省による『安倍派への報復』という側面がある。岸田首相はこうした官僚主導に乗っているが、政治主導を目指す菅氏が最も嫌う方向性だ」と指摘する。

 菅氏と岸田首相には因縁がある。2021年10月に退陣した菅政権の末期、〝菅降ろし〟の火ブタを切ったのは、政調会長の岸田首相だった。

 菅氏は退陣後、目立った行動を避けてきた。菅氏の今回の動きについて、立憲民主党の安住淳国対委員長は「いろいろな意味で、自民党内に不満がたまっている証拠かなと思う」と分析した。

 鈴木氏は「岸田首相は最近、茂木氏、麻生氏と距離感も出つつある。菅氏は、安倍氏の悲報を受けて喪に服していたが、いよいよ動き出す決断をした。当面は、勉強会などの形で、勢力を結集し、政治情勢もみながら、『ポスト岸田』の適任となる人材を見定めていくことになるのではないか」と語った。

【自民党派閥勢力】

《主流派》岸田派(宏池会) 43人 茂木派(平成研究会) 53人 麻生派(志公会) 53人

《非主流派》安倍派(清和政策研究会) 96人 二階派(志帥会) 43人 森山派(近未来政治研究会) 7人

《無派閥》 83人

※国会資料などをもとに作成

【私の論評】とうとう菅前総理は、党内「積極財政派」対「緊縮派+財務省」の拮抗を崩す戦いに参戦したか(゚д゚)!

私は、このブログに以前「菅氏再登板」待望論を掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
菅義偉氏、岸田首相に反旗か 派閥政治、増税を批判「国民の声が届きにくくなっている」 自民党議員「意趣返しする意向があるのでは」との声も―【私の論評】今となっては短期政権になった理由が良くわからない菅政権、菅氏の再登板はあり得る(゚д゚)!

菅前首相(左)は、岸田首相の官僚主導政治に反発したのか

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事より一部を引用します。

増税一辺倒の岸田氏と比較すれば、菅氏の政策や安定感には定評があるほか、仕事師という異名を持つほど、徹底した仕事ぶりで、岸田首相が唐突に辞任するようなことがあれば当面の“リリーフ(継投)”として白羽の矢が立つ可能性は十分にあります。安倍元首相も1年で辞任した後、再登板して戦後最長の長期政権を築いたという事例もあります。

「検討師」などと揶揄される岸田氏から比較すれば、菅氏の仕事師ぶりが、ますます光りを増したともいえます。岸田首相が、経済面でも安倍路線を引き継いでいれば、こんなことにはならかったかもしれれません。
私自身は、菅元総理が再登板していただくのが、現状では最も良いと思います。ただ菅元総理としては、コロナ政策など本来は他国などと比較すれば、成功だったにもかかわらず、マスコミ等に印象操作をされて、失敗であるかのように喧伝され、挙句の果てに宏池会が、菅降ろしの口火を切るなどのことをされ、結局自ら辞任したという苦い経験があります。

そのため、自身が返り咲くというよりは、上の記事にもあるように、「ポスト岸田」の人材を派閥との関係とは無関係に見出し、自らがメンターとなり、育て上げいずれ総裁選に出馬させるという意図があるのかもしれません。これは、亡くなった安倍元総理もそのようなことをいずれするつもりだっようです。ただし、それにはまだ時間がかかります。

現状では岸田首相に反旗というよりは、岸田首相に変化を促していると見たほうが良いかもしれません。


昨日は、このブログに以下のような現状の政局の見たてをあげました。
岸田総理は安保では、安倍路線を引き継ぐ行動をするのに、経済面ではそうではありません。両方とも引き継いだ上で、それ以外のところで、岸田色を出せば、今日のような事態を招くことなく、政権は安定したとみられるので、この点は、残念でなりません。

それに、将来日本の経済が落ち込めば、安保にも悪い影響を及ぼすことにもなりかねません。そうなれば、日本と安全保障で関係のある米英豪等の国々にも悪影響を及ぼすことになりかねません。

これは、安保に関しては、今や日本国内だけを考えていれば良いということはなく、米英をはじめとする西側諸国との関係の中で考えなければならず、他国との関係で行動しなければならないからかもしれません。

日本国経済に関しては、無論貿易関係にあることから、他国のことも考慮しなければならないところもありますが、現状では安保ほどではないということがあるのかもしれません。

さらに、日本国経済に他国が口を挟むということなれば、内政干渉と受け取られることになりかねず、他国も日本経済に対して、口を挟むようなことしずらいということがあるのでしょう。
一昨年秋の自民党総裁選挙で争った総理大臣の岸田文雄と、政務調査会長の高市早苗。その2人のもとに財政政策を議論する2つの組織が発足しました。

岸田のもとにできた組織の最高顧問は党副総裁の麻生太郎、名称は「財政健全化推進本部」、高市のもとにできた組織の最高顧問は元総理大臣の安倍晋、名称は「財政政策検討本部」です。

自民党内では、財政再建派と、積極財政派と色分けすると、積極財政派が多数となっているといわれています。

ただ、財政再建派は数は少ないものの、年齢がどちらかというと高めで、しかも財務省がバックについています。積極財政派のほうが数自体としては、多めですが、年齢は財政再建派と比較すると、低めで、しかも財務省のバックはついていないということで、現状では両派は、拮抗しているようです。

現状では、岸田総理は、閣議決定などで、増税をすすめようとはしているものの、そうなれば積極財政派らの激しい反発は必定であり、本格的な岸田おろしの政局になりかねず、考えあぐねている最中であると考えられます。

増税に関しては、実は多くの人が思う以上に、切迫しています。1月27日からはじまる通常国会に防衛増税確保法案が出されることが閣議決定されれば、それでほぼ防衛増税が決まり、その後は消費税増税もいずれ15%は決まりになるだろという見立てを高橋洋一氏はしています。実際、財務省はそれを目指して、昨年から動いて、多くの議員等を説得しているとみられます。

おそらく、増税確保法案が出されることになれば、財務省や岸田政権による各派閥に対する根回しは終了しており、国会では野党などの反対はあるものの、最終的には多数決で決定してしまうでしょう。

こうなると、かつて三党合意で「消費税増税」が決まってしまったのと、同じで、結局安倍総理が2度も増税延期をしたにもかかわらず、結局は総理在任中に2度も消費税増税しなくてはならなくなってしまったのと同じ状況になることが予想されます。

政局があって、岸田総理が総理をやめようが、誰が総理大臣になろうが、防衛増税とそれに続く消費税増税もやらざるを得ない状況に追い込まれる可能性が高いのです。

だかこそ、自民党内部の会議では、積極財政派の大怒号が飛び交うようなことがあったのですが、軽減税率の適用を受けている新聞社などは、こうしたことは背景はほとんど報道しません。テレビ局と新聞社は提携会社や協力会社という関係性にあり、各テレビ局のニュース系列と全国紙との結びつきは強く、テレビもほとんど報道しません。


菅前総理としては、無論このような状況は熟知しており、自分が総理になろうとか、岸田降ろしを主導しようというのではなく、岸田総理の増税に対する翻意を促そうとしているのではないかと考えられます。

確かに、防衛増税、消費是増税などをしてしまえば、昨年の参議院選公約でそのようなことを示していない岸田総理に対する国民や党内外からの風当たりは相当強くなり、退陣に追い込まれることになるでしょうし、その後誰が総理になったにしても、日本経済は落ち込み、雇用も悪化し、自民党政権の基盤は揺らいでしまいます。下手をすれば、自民党は再び下野する可能性も否定しきれません。

そのような事態を防ぐためにも、派閥に属しない菅前総理は、現在の拮抗する、「自民党積極財政派」対「自民党緊縮財政派+財務省」の争いに参戦し、何らかの方法でこのバランスを「積極財政派」に有利にしようと目論んでいるのかもしれません。

確かに、この戦いには、派閥に属さいない菅前首相は適任だと思います。菅前総理は、安倍元総理に比較すると、マクロ経済に関しては詳しくはないですが、少なくとも増税すべきではない時期、増税すべき時期の判断はつくようです。そうして、判断がつけば、その方向に向かって行動し、仕事師の本領を発揮できる人です。

自民の「積極財政派」及び「緊縮派」の議員もいずれかの派閥に属しています。出身派閥の意向を完全に無視することはできません。そこに、菅前総理が参戦すれば、「積極財政派」議員も動きやすくなると考えられます。

過去の自民党総裁選では「数の力」を背景に主要派閥の出身者が選出されることが多く、中でも1990年代以降の勝者は国会議員の2世、3世がほとんどを占めてきました。その中で、派閥にも属さず、世襲議員でもない菅氏が、いくら安倍氏が病気で辞任したという変則的な状況であったにしても、総理大臣になったことは奇跡ともいえます。

こうした奇跡を起こした菅前総理に、再び新たな奇跡をおこしていただきたいです。

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2023年1月14日土曜日

「日英同盟」復活! 岸田首相が〝安倍レガシー〟継承 共産中国の脅威が目前、協定署名にこぎつけた「グッドジョブ」―【私の論評】地政学的にもともと関係を強化することが運命づけられている日英(゚д゚)!

「日英同盟」復活! 岸田首相が〝安倍レガシー〟継承 共産中国の脅威が目前、協定署名にこぎつけた「グッドジョブ」

【有本香の以読制毒】

  戦争、疫病、隣国から迫りくる軍事的脅威…。年が改まっても悪いニュースばかりで気が滅入るという向きも少なくなかろう。そんななか、少しばかり意気上がるニュースが聞こえてきた。

「円滑化協定」の署名を終えて握手をする岸田首相とスナク英首相
 英国訪問した岸田文雄首相と、リシ・スナク英首相は11日(日本時間同)、防衛分野での協力強化に向け、自衛隊と英軍部隊の共同訓練を推進し、相互往来をスムーズにする「円滑化協定(RAA)」に署名した。 

 本件は昨年5月すでに、日英両政府が大枠で合意していた。当時は首相就任前だったスナク氏は、この協定を「両国にとって非常に重要であり、インド太平洋に対するわれわれのコミットメントを強固にするもの」と表現した。

  ちなみに2020年、当時の菅義偉首相と、オーストラリアのスコット・モリソン首相(同)が、同じ「円滑化協定」に合意した際には、オーストラリア最大の全国紙「「The Australian(オーストラリアン)」はこれを、「防衛協定(=安保条約と言い換えてもいい)」という単語を使って報じている。

  これに倣うなら、今回の日英首脳の署名はさしずめ「日英同盟の復活」ともいえる。だが、果たして、この一大事にふさわしい報じ方を、日本の大メディアがするかというと、甚だ心もとないのである。

 というのも、20年のオーストラリアとの合意の際、「オーストラリアン」の書きぶりと比べると、日本メディアがいずれも、抑制的過ぎる表現に終始したからだ。 

 具体例を挙げると、日豪の合意に中国が激しく反発したことを、オーストラリアンはこう書いた。

  「北京のプロパガンダ機関は、オーストラリアと日本は〝歴史的な防衛協定〟に署名したことで代償を払うことになる、と言い、両国は米国の『道具』だと非難している」 なかなか辛辣(しんらつ)だ。

 しかし、一方の日本メディアは、というと、おしなべて対照的に、まるで北京のご機嫌を損ねないよう忖度(そんたく)したかと思われるほどの控えめな表現だった。当時の各紙一報の見出しは次のとおりだ。

 「日豪首脳が会談 軍事訓練に関する協定合意、中国を牽制(けんせい)」(朝日新聞)

 「日豪首脳会談 『円滑化協定』に大枠合意 中国念頭『インド太平洋』推進」(産経新聞)

 「日豪、訓練円滑化で協定 首脳会談、大枠合意」(毎日新聞) 

 「『自由で開かれたインド太平洋』実現へ日豪で連携強化…首脳会談で一致」(読売新聞) 

 今回も、英国との円滑化協定署名を「日英同盟復活」と表現するのは筆者と夕刊フジのみだろうが、これは実際、それほどの重みを持つ。日本の未来に多大な影響を与えるだろう。

 かつて、非白人国家の日本が、「無敵」といわれたロシアのバルチック艦隊を打ち破って勝利し、世界を驚かせた日露戦争。その戦果も、日英同盟によるところが大きかった。100年以上の時を経て、共産中国の脅威を目前にするいま、再びこの「同盟」を力とする私たちでありたい。

2017年日本を訪問したテリサ・メイ首相(当時)と安倍首相(当時)

 今般、協定署名にこぎつけた岸田首相のグッドジョブを大いに評価し、さらに、この日英同盟復活への路線を敷いた故・安倍晋三元首相の功績に改めて感謝を申し上げたい。 ■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書・共著に『中国の「日本買収」計画』(ワック)、『「小池劇場」の真実』(幻冬舎文庫)、『「日本国紀」の副読本 学校が教えない日本史』『「日本国紀」の天皇論』(ともに産経新聞出版)など多数。

【私の論評】地政学的にもともと関係を強化することが運命づけられている日英(゚д゚)!


英国との円滑化協定署名は事実上の「日英同盟復活」です。そもそも、日英は同盟すべき理由があります。それについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
英国政府、TPP参加で“中国包囲網” 日米豪印「クアッド」にも参加検討 識者「親中懸念のバイデン米政権の不安埋めてくれる」 ―【私の論評】日本と英国は、ユーラシアのランドパワーに対峙している(゚д゚)!
この記事は、2021年2月のものです。
東西冷戦時代から今日に至るまで、アジア太平洋地域では、米国を中心に、日本、韓国、フィリピン、タイ、オーストラリアがそれぞれ別個に同盟を結んでいました。それは「ハブ・アンド・スポークの同盟」と呼ばれ、米国が常にハブであり、スポークがその相手国でした。これに対して、欧州のNATOのように複数の国が互いに同盟を結び、協力し合う関係を、「ネットワーク型の同盟」と呼びます。

ハブ・アンド・スポーク同盟の最大の問題は、協力し合う相手が常に一国しかないために、国同士の利害が一致しない場合、機能不全に陥ることです。また、二国間の力のバランスに大きな差があると、弱い側が常に強い側に寄り添う追従主義に陥りがちであり、スポークの国は戦略的に自律するのが難しいです。そのため、2000年代以降、スポークの国同士の協力が急速に進展してきています。

具体的には、日本では安倍政権発足以来、政府の首脳陣がほとんど毎月のように東南アジア、南アジア、さらに欧州諸国に足を伸ばし、安全保障協力を拡大しようとしていますし、自衛隊も、オーストラリア、インドなどと定期的に共同の演習を実施しています。また、日米とオーストラリアとインド(クアッド)、日米と韓国、日米とインドといった三国間での安全保障協力も進んでいます。米国との同盟関係を共有する国同士が個別に同盟関係を築き、米国との同盟を支えようとしているのです。
ただし、このようなネットワーク型の同盟には、NATOにとっての米英がそうであるように、コアとなる二国間関係が必要です。日英同盟はまさにそのコアになりえます。

日英はユーラシア大陸の両端に位置しているシーパワーであり、その安全のためにユーラシアのランドパワーを牽制(けんせい)する宿命を負っています。
ユーラシア大陸の両端に位置する海洋国家、英国と日本
日本は中国の海洋進出を警戒しているし、英国はロシアの覇権を抑え込んできました。英国はロシア、日本は中国と別々の脅威に対峙(たいじ)しているようにも見えますが、日本と英国は、ユーラシアというひとかたまりのランドパワーを相手にしているのであって、本質的には同じ脅威に対峙しているのです。

その両国が、TPPとクアッド+英国で、協力しあうのは、まさに理にかなっているといえます。さらには、ファイブアイスとの関係を強化していくこともそうだと思います。
日英は100年前には、日英同盟を組んでいました。日露戦争の勝利や第一次世界大戦後、「(戦勝)五大国」に列せられるまでになったのは、日英同盟の存在が大きいです。

この同盟が破棄された背景は、以下の記事をご覧になってください。
日本の命運を暗転させた日英同盟廃棄の教訓| 「新・日英同盟」の行方(5)
同盟関係の解消と、日本の国際連盟の脱退、日独伊三国同盟締結、太平洋戦争開戦、そして敗戦と日本の命運が180度暗転したこととは、決して無関係ではありません。

英国にとっても、この解消は決して良い結果を招きませんでした。第二次世界大戦において、最も得をした国と、損をした国はどこかとえば、多くの日本人は米英と答えるかもしれません。

しかし、それは真実とはいえません。損をした国は、はっきりしています。それは、無論日独です。これは、論を待たないでしょう。

では、最大に得をした国は、どこかといえば、それは米英とはいえないでしょう。それは、当時のソ連です。ソ連は、日本の北方領土を含む、領土を増やすとともに、東ヨーロッパ諸国を衛星国とし、覇権を強化し、国連では常任理事国の地位を得ました。

米国は、ソ連と比較すれば、損も得もしなかったといえます。英国はどうかといえば、領土は失い、基軸通貨を失い、覇権も弱まり、どちらかといえば、損をした国ということができます。

中国はといえば、終戦直後は国民党による中華民国は、大陸から追い出され、新たな共産党国家にとって変わられたということから、中華民国からみれば、この戦争で大損したといえます。中共にとっては、戦後中華人民共和国を設立できたということで、得したといえます。

このように、多くの日本人が、第二次世界大戦に勝った国と思っている英国は、あまり得られるところがなかったといえます。

もし、先の日英同盟が破棄されていなかったら、英国は朝鮮半島ならびに中国において、当時ソ連と対峙していた日本の立場を理解して、欧米諸国を説得、日本も説得し、互いに歩み寄れるところは、歩み寄り、第二次世界大戦において、最もソ連が得するようなことは、回避できたかもしれません。

しかし、ご承知のとおり歴史には「もし・・・」という言葉は成り立ちません。ただ、歴史から学ぶことはできます。

やはり、日英というシーパワー国が、ランドパワー国のロシア、中国を間に挟んで、両側から対峙しているという構図のほうが英国にとっても良かったし、これかもそうだといえると思います。

先の日英同盟を結んでいた100年前と、時代は変わりましたが、この構図は変わらないどころか、中国の海洋進出、ロシアのウクライナな侵攻等により、増々顕著になってきたといえます。

ユーラシア大陸があり、そこにランドバワー国が存在し、シーパワー国日英が、それを挟む形になっていることから、日英は、地政学的にもともと関係を強化することが運命づけられているともいえます。

とはいえ、100年間も途切れた日英同盟を復活されることに貢献された、安倍元総理と、実際に「円滑化協定(RAA)」に署名し事実上の同盟関係を築いた岸田総理には敬意を表したいです。


それにしても、岸田総理は安保では、安倍路線を引き継ぐ行動をするのに、経済面ではそうではありません。両方とも引き継いだ上で、それ以外のところで、岸田色を出せば、今日のような事態を招くことなく、政権は安定したとみられるので、この点は、残念でなりません。

それに、将来日本の経済が落ち込めば、安保にも悪い影響を及ぼすことにもなりかねません。そうなれば、日本と安全保障で関係のある米英豪等の国々にも悪影響を及ぼすことになりかねません。

これは、安保に関しては、今や日本国内だけを考えていれば良いということはなく、米英をはじめとする西側諸国との関係の中で考えなければならず、他国との関係で行動しなければならないからかもしれません。

日本国経済に関しては、無論貿易関係にあることから、他国のことも考慮しなければならないところもありますが、現状では安保ほどではないということがあるのかもしれません。

さらに、日本国経済に他国が口を挟むということなれば、内政干渉と受け取られることになりかねず、他国も日本経済に対して、口を挟むようなことしずらいということがあるのでしょう。しかし、これは何とかして逆手に取るということもできるかもしれません。

これは、現在思案中です。


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