2023年1月16日月曜日

「国債60年償還ルール」と「減債基金」の廃止で、30兆円の埋蔵金が…防衛費増額も本当はこれで解決する―【私の論評】2月後半の令和5年度予算成立まで、自民党内政局は水面下で動くか(゚д゚)!

「国債60年償還ルール」と「減債基金」の廃止で、30兆円の埋蔵金が…防衛費増額も本当はこれで解決する


財務省はまた否定的だが

 防衛費増額の財源確保をめぐり、自民党は近く国債を返済する仕組みである「60年償還ルール」を見直す議論を始める。

 自民党の萩生田光一政調会長は、自らをトップとする特命委員会を近く設置し、増税以外の防衛財源捻出策を議論する考えだ。償還年数の延長や償還ルールの廃止は財源捻出になる。世耕弘成参院幹事長も「(特命委が)償還ルールを議論する場になればいい」と同調している。

 この動きを後押しするのは、自民党若手有志による「責任ある積極財政を推進する議員連盟」(共同代表は中村裕之、顧問城内実)。同連盟はルール自体の廃止を唱え、「償還費を防衛費などに振り向けることについて検討すべきだ」と訴える。

 一方、政府は消極的だ。松野博一官房長官は1月12日の記者会見で「毎年度の債務償還費が減少する分、一般会計の赤字国債は減るが、その分、特別会計の借換債が増える」と指摘。「財政に対する市場の信認を損ねかねない」と語った。その背後には財務省があり、財政規律の観点から見直しに否定的だ。

 60年償還ルールとはどのようなものでなぜ作られたのか。緩和や撤廃をすると問題は生じるのか。

 筆者は、今から30年ほど前の大蔵省(現・財務省)の役人時代に、国債整理基金の担当をしたことがある。その当時、海外の国債管理担当者に対して、「日本では減債基金があるので国債が信用されている」と言った。それに対し、海外の先進国から「うちの国は減債基金がかつてあったものの今はないが、なぜ日本にはあるのか」「借金しながら減債基金への繰入のためにさらに借金するのはいかがなものか」と反論され、まともな再反論が出来ずに参ったことがある。まったく彼らの言うとおりだからだ。

 よく考えてみたら、日本でも民間会社は社債を発行しているが、減債基金という話は聞かない。減債基金の積立のために、さらに借金をするのはおかしいというのは誰でもわかる話だ。

  異例の「減債基金」存在の理由

 民間の社債では、借り換えをして、余裕が出たときに償還するというのが一般的だ。これは、海外の国債でも同じなので、海外の先進国でも、かつては国債の減債基金は存在していたが、今ではなくなっている。

 さらに、金利環境に応じて買入償却するなど国債全体をいかに効率的に管理するかが重要なので、金融のプロを国債管理で配置し、債務管理庁などのプロ組織にしている。

 減債基金は、債券関係の用語だ。辞書には「国債を漸次償還し、その残高を減らすために積み立てる基金」とあるが、国債に限らず地方債にもある。国債の減債基金を「国債整理基金」という。

 60年償還ルールは、減債基金のためにどのように繰り入れるかを示すものだ。建設国債の場合、社会インフラの構築のために発行されるが、その耐用年数が60年程度なので、それに合わせて60年償還とされている。減債基金への毎年の繰入額は国債残高の60分の1で1.6%ということになる。

 それではなぜ日本では減債基金が存在しているのだろうか。地方は国の国債整理基金があるからというだろう。では国の国債整理基金はなぜあるのか。建前としては、国債の償還を円滑に行い、国債の信認を保つためという。これは筆者が30年前に言わされた公式見解だ。しかし、本音でいえば、国の予算作りのために便利な道具だからだ。

 まず、国債費のうち債務償還費(国債整理基金への繰入)といって、毎年10兆円程度以上(2023年度予算で16.4兆円)の予算の水増しが可能になる。本来であれば、債務償還費は不要なので、その分国債発行額を減らせる。少なくとも日本以外の先進国ではみなそうなっている。しかし、日本では国債発行額が膨らむが、財務省にとって財政危機を煽れるメリットがある。

 また、国債金利の市場金利は低いにもかかわらず、予算上の積算金利は市場金利より高めに設定し、国債費のうち利払費を水増ししている。こうした水増しは、年度途中で補正予算を作るときに財源となる。補正予算の財源になるのであれば、水増しは国民に実害がなくそう目くじらをたてることもないが、この点からも、必要以上に国債発行額を膨らまして、財政危機を煽るという悪い面が目立っている。

 的外れの反論

 総務省は、減債基金を金科玉条にして、諸規制によって地方自治体に起債などを統制しようとする。筆者が総務省にいた2007年頃、公募地方債金利を自由化したが、総務省官僚は猛烈な抵抗を示した。その理由は市場によるコントロールではなく自分たちが統制したいというものだ。そうした主張に減債基金がしばしば使われるのだが、それは違うだろう。

 いずれにしても、日本では、国債・地方債の減債基金はまだ存在している。大学の財政学のテキストにも、国債・地方債の減債基金の制度やその重要性が説明されている。ただ、海外では存在していないことや、減債基金がなぜ必要なのかについてはあまり言及されない。もし学生がそうした質問をしたら、大学教員は困るだろう。

 国際基準からの正解は、まず60年償還ルールを廃止してプロの債務管理庁を創設することだ。

 60年償還ルールを廃止すると国債の信任が失われると財務省はいうが、他国の例から的外れだ。また、過去に1.6%の債務償還費を計上しなかったことも、1982~89年、1993~95年と11回もあるが、国債の信任という問題になっていない。

 60年債務償還ルールを持ちだすと、財務省からは、アメリカでは債務上限ルールがあり、ドイツでは国債発行を例外とするルールがあるという、やや的外れの反論もある。それらに対し、筆者は、アメリカの債務上限はあまりにバカげていて、毎年のように政治取引に使われており、参考とすべき例でない、ドイツについては欧州の国は債務をEU機関に振り替えられるので全体として見れば緩く、一部だけを切り取りのは不適切と再反論してきた。財務省は筆者が当時の大蔵省見解を言った30年前からまったく進化していないのは驚く。

 国で60年償還ルール、減債基金を見直し・廃止すると地方まで波及する。それは地方財政に無用な制約をなくして財政余力が高まることを意味する。

 地方の場合、減債基金残高は2~3兆円であるが、そのほかに満期一括償還に備えた積立金が10兆円程度ある。国の償還ルール変更により、地方もおそらく10数兆円程度の財政余裕になるだろう。

 国と地方をあわせて30兆円程度の財源になり得る。これは令和の埋蔵金だ。4月に統一地方選があるので、国の償還ルールの見直しを是非とも政治課題にすべきだ。

髙橋 洋一(経済学者)

【私の論評】2月後半の令和5年度予算成立まで、自民党内政局は水面下で動くか(゚д゚)!

「国債60年償還ルール」と「減債基金」の廃止で、30兆円の財源を捻出できることは、すでに多くの人が指摘していました。

私自身も以前このブログで財源となりうるものを列挙したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
①特別会計剰余金(円安効果で外為特会増加分約30兆円)
②一般会計剰余金(昨年度は6.3兆円)
③自然増収(昨年度は9.5兆円)
④国債60年償還ルール撤廃(毎年の国債費16兆円が浮く)
私の場合は、「国債60年償還ルール」だけを考えていたので、16兆円であると考えてはいましたが、「減債基金」の廃止で合計30兆円は財源としてつかえます。増税の効果などもあり、増収は今年度も十分に見込めます。円安効果は、最近は若干薄れてきたものの、これは日銀が実質的な利上げをしたせいですが、これをやめれば、十分に財源化できます。

このようなこと、誰でも思いつきますし、多くの政治家や評論家などもこれについて語っていました。

ただ、これを自民党の萩生田光一政調会長が、自らをトップとする特命委員会を近く設置して、議論するといいだしたわけです。岸田総理の「検討」とは、意味合いが違います。萩生田光一氏が具体的に言い出したということで、これはかなり意味のあることです。

萩生田光一政調会長

見直しの検討を主張する自民党の萩生田光一政調会長は、償還年数を80年に延長する案に言及しています。延長すれば、毎年度の債務償還費を減らせます。
自民党若手有志による「責任ある積極財政を推進する議員連盟」はルール自体の廃止を唱え、「償還費を防衛費などに振り向けることについて検討すべきだ」と訴えています。

昨日もこのブログに掲載したように、菅義偉前首相が、岸田首相の「派閥主導の政治」や、増税路線に苦言を呈した。

菅前総理

これだけの動きがあれば、いずれ政局の動きになるのは確実であるとみられます。

当面の政治日程は以下のとおりです。
1月23日 通常国会召集
2月下旬? 2023年度予算成立
4月8日 黒田東彦日銀総裁の任期満了
4月9日 統一地方選前半戦 
4月23日 統一地方選後半戦(衆院千葉5区、和歌山1区、山口4区補欠選挙の見通し)
5月19日 G7広島サミット(21日まで)
現在のところ、財源確保法案に向けての、閣議決定の動きはまだ見えていません。通常国会への提出はされないかもしれません。ただ、提出されれば、財務省等による自民党各派閥への根回しなどは終了したことを意味しており、増税が決められてしまうことになります。

今国会では増税が決められないにしても、岸田首相は増税の方向性をはっきり打ち出していますし、日銀の黒田総裁の後任人事では、金融引締め派の総裁に決まることが、懸念されています。

そうなると、2 月後半の2023年度予算成立をもって、自民党内が大きな政局になる可能性が高まったといえます。それまでは、水面下で、政局がすすんでいき、2月後半で動きが見えてくると考えられます。岸田首相に関しては、G7広島サミット後勇退論が囁かれていましたが、これを前に辞任に追い込まれる可能性がでてきたといえます。

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