2023年1月22日日曜日

フランス国防費、3割以上増額へ…中国念頭に南太平洋の海軍力も強化―【私の論評】米中の争いは台湾から南太平洋に移り、フランスもこれに参戦(゚д゚)!

フランス国防費、3割以上増額へ…中国念頭に南太平洋の海軍力も強化

フランスのマクロン大統領は20日、仏南西部モン・ド・マルサンの空軍基地で演説し、2024~30年の7年間で計4000億ユーロ(約55兆5000億円)を国防費に充てる方針を示した。19~25年の2950億ユーロ(約41兆円)と比べて、3割以上の増額となる。

20日、仏南西部の空軍基地でドローンを見学するマクロン仏大統領(手前左)

 20日、仏南西部の空軍基地でドローンを見学するマクロン仏大統領(手前左)=ロイター

 マクロン氏は演説で国防費増額の背景について、ロシアによるウクライナ侵略などを挙げ、「危機に見合ったものとなる。軍を変革する」と述べた。

 情報収集活動予算を6割増額するほか、核抑止力の強化や無人機(ドローン)の開発促進などに充てる。中国の海洋進出を念頭に、領土がある南太平洋の海軍力も強化する。近く関連法案を議会に提出する予定だ。

 マクロン政権は現行計画で、25年までに、北大西洋条約機構(NATO)が加盟国に求める国内総生産(GDP)比2%の水準に国防費を引き上げる方針を示していた。

 マクロン氏は、昨年11月に発表した「国家戦略レビュー」で、「フランスの核戦力は欧州の安全保障に貢献している」として、核抑止力を重視するとともに、中国に対抗する姿勢を打ち出していた。

【私の論評】米中の争いは台湾から南太平洋に移り、仏もこれに参戦(゚д゚)!

上の記事で「中国の海洋進出を念頭に、領土がある南太平洋の海軍力も強化する」という下りがありますが、これだけですませるというのが、さすが「読売クオリティー」というところであり、大手新聞だけを読んでいると、世界がわからなくなるということの典型例だと思います。

これについては、すでにこのブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを掲載します。
米中対立の最前線たる南太平洋 日米豪仏の連携を―【私の論評】米中対立の最前線は、すでに台湾から南太平洋に移った(゚д゚)!
日米豪などが参加する太平洋パートナシップ2022(PP22)で演説するソロモン副首相

これは12日の記事です。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、まずは、元記事の結論部分を以下に掲載します。
 そのため(ブログ管理人注:中国に伍して、南太平洋の島嶼国の国々に対してこちらから付け入る余地は十分ある)には、同じ目線で相手の共感を得ることに加え、「こちら側」の陣容の拡充も必要ではないか。それはフランスとの一層の連携だ。仏領ポリネシアは南太平洋におけるフランスの拠点だ。
 元々PIF(太平洋諸国フォーラム:ブログ管理人注)とその前身はフランスの核実験などに反対して結成されたという歴史的経緯はあるが、今や仏領ポリネシアは準メンバーであるし、フランスもパートナー国になっている。我々にはあまり余裕はないはずだ。先の米・島嶼国サミットにもオブザーバーで豪・ニュージーランドは参加する一方、フランスが参加していない点が気になる。

 しかし、島嶼国との関係についても昔から努力しているのは日本だ。日本が太平洋・島サミット(PALM)を始めたのは1997年で、中国より10年近く早い。同じ目線で「共感」を得るアプローチは日本のお家芸だ。上記の論説で取り上げられている不発弾処理についても、既に日本は、ソロモン国家警察爆発物処理部隊に対する支援を開始している。今後これを日米豪(または日米豪仏)のプロジェクトとして進めると言うことも一案だろう。ちなみにPALMには仏領ポリネシアも入っている。
次にこの記事の【私の論評】の部分から引用します。
現在、台湾と外交関係を維持する国は世界でたった14か国です。うち4か国が太平洋の小さな島国です。最近ではソロモン諸島、それにキリバスが台湾から中国へスイッチしました。中国が国交を結んだ国々では中国主導でインフラ整備を進めています。

それは、対象国のためであるとともに、中国自身が共同利用しようという狙いもあるとみられます。台湾問題に行き詰まった中国は、今後も南太平洋でさまざまな活動を行い、活路を見出すつもりでしょう。このままの中国有利な情勢が続けば、断交ドミノ現象はいっそう勢いを増す恐れがあります。米豪日は、今後のマーシャル諸島、ツバル、パラオ、ナウルへ政治的なテコ入れを強化していくでしょう。

その意味では、米中対立の最前線は、台湾そのものではなく、すでに南太平洋に移っていると認識を改めるべきです。そうして、南太平洋でも軍事力の衝突というよりは、経済支援や、外交的な駆け引きが主であり、米国とその同盟国と、中国との間の戦いということになるでしょう。特に同盟国がほとんどない中国にとっては、南太平洋の島嶼国を味方につけることは重要です。国連の会議などでは、どのような小さな国でも、一票は一票です。
・・・・・・・・・〈一部略〉・・・・・・・・・
現在、台湾と外交関係を維持する国は世界でたった14か国です。うち4か国が太平洋の小さな島国です。最近ではソロモン諸島、それにキリバスが台湾から中国へスイッチしました。中国が国交を結んだ国々では中国主導でインフラ整備を進めています。

それは、対象国のためであるとともに、中国自身が共同利用しようという狙いもあるとみられます。台湾問題に行き詰まった中国は、今後も南太平洋でさまざまな活動を行い、活路を見出すつもりでしょう。このままの中国有利な情勢が続けば、断交ドミノ現象はいっそう勢いを増す恐れがあります。米豪日は、今後のマーシャル諸島、ツバル、パラオ、ナウルへ政治的なテコ入れを強化していくでしょう。

その意味では、米中対立の最前線は、台湾そのものではなく、すでに南太平洋に移っていると認識を改めるべきです。そうして、南太平洋でも軍事力の衝突というよりは、経済支援や、外交的な駆け引きが主であり、米国とその同盟国と、中国との間の戦いということになるでしょう。特に同盟国がほとんどない中国にとっては、南太平洋の島嶼国を味方につけることは重要です。国連の会議などでは、どのような小さな国でも、一票は一票です。

中国の台湾侵攻は、現実にはかなり難しいです。実際、最近米国でシミレーションシした結果では、中国は台湾に侵攻できないという結果になっています。中国の報復によって、日本と日本にある米軍基地などは甚大な被害を受けますが、それでも中国は台湾に侵攻できないという結果になっています。そうして、無論中国海軍も壊滅的な打撃を受けることになります。

であれば、中国としては、台湾侵攻はいずれ実施するということで、まずは南太平洋の島嶼国をなるべく味方に引き入れるという現実的な路線を歩もうとするでしょう。これによって台湾と断交する国をなるべく増やし、台湾を世界で孤立させるとともに、これら島嶼国のいずれかに、中国海軍基地を建設するなどして、この地域での覇権を拡大しようとするでしょう。

南太平洋の島嶼国といっても、ニューカレドニアは仏領であり続けることを選びましたし、そもそも一人あたりのGDPは34,942ドルであり仏本国を若干下回る程度です。ただ、南太平洋の島嶼国のほとんどは一万ドルを下回る貧困国です。

現代的な軍隊を持った、台湾や日本、韓国、NATO加盟国などの領海近くを中国の空母が通ったにしても、それに対する対艦ミサイル、魚雷など対抗手段は十分にあるので、これを警戒はするものの、大きな脅威とはなりませんが、南太平洋の島嶼国は、貧乏で小さな国が多く、これは大きな脅威になります。

そのときに、日米豪などだけでもこれに対処はできるでしょうが、これに南太平洋に海軍基地を持つフランスもこれに対処できれば、それこそ百人力になります。

フランスとしては、こうした南太平洋の中国の脅威に自ら対抗し、さらに日米豪とも連携し強化するためにも、国防費を増やすのでしょう。

現状では、以下の表でもわかる通り、日本の軍事費はフランスよりも下です。


倍増なら防衛費は世界3位となります。ただ、対GDP比でみれば、また違った見方もできます。


フランスの軍事費は2020年時点ですでにGDP比で2%を超えています。ドイツも2%超を目指しています。日本としては、2%は当然ともいえるかもしれません。

ただ、防衛費増を増税で賄うという岸田政権の方針には、あきれてしまいます。フランスも防衛費を増税では賄うことはないのでしょう。もし、増税で賄うとすれば、多くのメディアはそれを報道するでしょう。フランス財務省としては、そのようなことは考えも及ばず、当然のことながら、長期国債でこれを賄うのでしょう。

これは、あまりにも当たり前のど真ん中で、ニュースバリューもなく、報道もされないのでしょう。もし増税ということになれば、とんでもないことになるでしょう。

フランス政府は最近年金の支給を開始する年齢を64歳に引き上げる年金制度改革案を示しています。これに反対するデモが各地で行われ、参加者は100万人を超えました。もし、増税で防衛費増を賄うなどとすれば、フランス各地で大暴動がおこり、それこそ、2018年から行われている、黄色いベスト運動が苛烈となり、マクロンの政治生命が危ぶまれることになるでしょう。

マクロンが防衛増税をすれば黄色いベスト運動は苛烈となり政治生命が危ぶまれることに(AI画像)

岸田政権も同じです。もし、増税を強行すれば、とんでもないことになるでしょうし、岸田政権は崩壊するでしょう。しかし、増税されれば、日本の財政基盤は脆弱となり、将来安定的に防衛費を賄うことはできなくなるでしょう。

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