2024年6月16日日曜日

中国の台湾侵攻を「地獄絵図」化する米インド太平洋軍の非対称戦略―【私の論評】中国の台湾侵攻に備える日米台の新旧『地獄絵図戦略』でインド太平洋戦略を守り抜け

中国の台湾侵攻を「地獄絵図」化する米インド太平洋軍の非対称戦略

まとめ
  • 米国は中国の台湾侵攻に備え、無人機・無人艦艇を大量投入する「地獄絵図(ヘルスケープ)戦略」を策定した。
  • この戦略は、米軍の本格増援までの約1カ月間を無人兵器で時間を稼ぐことを目的としている。
  • 「地獄絵図戦略」は、中国の人的・物的な量的優位に対抗する「レプリケーター構想」に基づく。
  • 「レプリケーター構想」は民間技術を活用し、低コスト・大量生産の無人機・自律型兵器を短期開発する。
  • 日本も中国に対する非対称戦力として、無人化技術の積極的防衛分野への導入が不可欠といえよう。


 米インド太平洋軍のパパロ司令官は、中国が台湾に侵攻した際の対応策として「地獄絵図(ヘルスケープ)戦略」を明らかにした。この戦略では、中国軍が台湾海峡を渡ろうとした瞬間に、台湾の全周に数千機の無人機、無人艦艇、潜水艦を展開し、致命的なドローン攻撃で中国軍を「惨めな」状態に陥れることを目指す。

 この構想が生まれた背景には、2022年の台湾有事の際に中国軍が示した迅速な包囲・封鎖能力と、ウクライナ戦でのドローン活用の教訓がある。中国の優位性は兵力の「量」にあり、ウクライナがドローンでこれに対抗したように、米軍もAIを活用した大量の無人兵器で中国の数的優位を打ち破ろうとしている。

 「地獄絵図」戦略は、2023年8月に副長官ヒックスが発表した「レプリケーター」構想に基づく。同構想は、中国の圧倒的な数的優位を打ち負かすため、民間企業と連携しながら「小型で精密、安価で大量生産可能」な無人機・自律型兵器システムを短期間で開発・配備することを目指している。すでに2024年度で約5億ドル、2025年度にも同規模の予算が計上されている。

 一方、米軍の本格的な軍事介入には、大量の重装備や兵站の海上輸送が不可欠で、概ね1カ月程度の時間を要する。その間、台湾軍と在日米軍中心の「地獄絵図」戦略で中国軍の侵攻を阻止し、米本土からの増援を待つ構想となっている。

 ウクライナ戦の経験から、無人機とAIによる自律型兵器の戦術的価値が高まっている。日本も中国の量的優位に対抗するための非対称戦力確保が喫緊の課題であり、民間と連携しながら低コストの無人化技術を積極的に防衛分野に導入することが重要となる。「地獄絵図」戦略に倣い、陸海空のあらゆる領域に無人機・自律型兵器システムを配備する必要があるだろう。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】中国の台湾侵攻に備える日米台の新旧『地獄絵図戦略』でインド太平洋戦略を守り抜け

まとめ
  • 中国が台湾を侵攻しようとすれば、天然の要塞ともいえる台湾の地形的条件から「地獄絵図」を経験する可能性が高い
  • さらに、台湾自身の高性能ミサイル等による防衛力に加え、日米の艦載機・潜水艦などの軍事力で中国軍は大打撃被るだろう
  • 日米台の電子戦・サイバー戦能力で中国の指揮統制システムをマヒ化することになるだろう。
  • 日米主導の対中経済制裁により、中国経済に深刻なダメージ被るだろう
  • 台湾は戦略的に重要であり、台湾が中国の影響下に置かれれば、日米のインド太平洋戦略の根幹が揺らぐため、戦略見直しを余儀なくされることになる。
中国が台湾を侵攻した場合、上記の「地獄絵図戦略」以前にいくつかの「地獄絵」になることが予想されます。

ロイド・オースティン米国防長官

米国防総省のロイド・オースティン国防長官は5月25日に、先月中国軍が台湾を包囲する形で実施した軍事演習について声明を発表しました。この声明の中で、オースティン長官は中国軍が実施したような作戦を成功させることの難しさを示しました。
これは、事実です。このブログでは過去に何回か掲載したように、台湾は地理的に侵攻が難しいです。あの小さな島嶼である台湾に、日本の富士山(標高3,776 m)よりも高い、玉山(3,952m)がそびえたっていることに象徴されるように、国土の大半は急峻な山岳地帯です。

東部は、海岸からすぐに急峻な山岳地帯となっており、大軍が上陸できるような場所はありません。西側には平野もあるのですが、河川や小さな湾が入り組んでおり、こちらも大軍が上陸できる地点は限られています。

また台湾の西側の海は、水深が浅く潜水艦の行動は制限されます。東側の海は水深が深いですが、日本の領海が直ぐ目の前という状況です。まさに、台湾は天然の要塞といっても良いです。

第二次世界大戦末期に米軍は、台湾上陸作戦は実行せずに、沖縄侵攻作戦を実施しました。これは、台湾が天然の要塞であることを理解したため、侵攻作成を実施すれば、多大な被害を被ることを認識していたためと考えられます。

台湾の東海岸

台湾は米軍に侵攻されることなく、1945年10月25日、連合国軍の一員として、中華民国軍が台湾に上陸し、日本の台湾総督府から統治権を移譲されました。戦後の台湾は、米国ではなく、中国の国民党政権によって統治されるようになったのです。米国は連合国の一員として、台湾の対日「返還」を求める立場にはあったものの、直接の実効支配はしませんでした。

中国軍が台湾に侵攻しようとした場合、天然の要塞台湾という地形に阻まれ「地獄図絵」をみることになる可能性が高いです。

「地獄図絵」はそれだけではありません。

まず台湾自身の防衛力が重要な役割を果たします。台湾が保有する高性能の地対空・地対艦ミサイルシステムは、中国軍の艦船や航空機に甚大な被害を与えるでしょう。特に台湾東部の山岳地帯に展開された大量の地対艦ミサイルは、中国艦隊の台湾東部への진出を事実上阻止できる能力を持っています。また、台湾は国産の精密誘導長距離ミサイル「雲峰」を保有しており、これらで中国本土の軍事施設や指揮所、兵站基地、監視衛星関連地上施設、レーダー基地を攻撃できます。

次に日米の海上優勢が極めて大きな影響力を持ちます。日本とグアムに展開する米軍の強力な空母機動部隊は、中国艦隊に対して圧倒的な航空優勢を持っており、艦載機からの空爆で中国艦船に壊滅的な被害を与えられます。

さらに日米の最新鋭の潜水艦群の脅威は計り知れません。中国海軍のASW能力の低さから、これらの潜水艦に対する対処は極めて難しく、中国の艦船は潜水艦からのミサイル攻撃の標的となり、多数が撃沈される可能性があります。また、台湾も自主開発した新型潜水艦を運用しています。

さらに日米台の電子戦・サイバー戦能力によって、中国軍の指揮統制システムや通信網が完全にマヒさせられる可能性があります。これにより中国軍の作戦能力が著しく低下し、組織的な軍事行動を取ることすら困難になるでしょう。

加えて、日米主導の対中国経済制裁が極めて深刻なダメージとなります。中国の対外貿易が完全に止まり、企業活動が麻痺すれば、中国経済は深刻な打撃を受けることになります。これは中国の国力の根幹を揺るがすものです。

上記で示したように、中国が台湾に侵攻しようとした場合、すでにいくつかの「地獄図絵」が予想されるのです。

島嶼である台湾は、ウクライナのような国土の大半が平坦な陸上国であり、他国(特に敵国ロシア)と国境を接しているような国とは違い、海洋での戦いで勝利すれば、守り抜くことが出来ます。

多数のドローンが飛行している想像図

それでも、米軍は、さらに無人機・自律型兵器システムを短期間で開発・配備し新たな「地獄絵図」を作り出し、時間的猶予をつくりだし、米本土からの増援を送ると表明したのです。

これは、台湾だけは香港などのように中国にやすやすとは取らせないという強い決意を表明したものと受け取ることができます。これがいわゆる、レッドラインであり、これを中国が超えた場合、直接の武力衝突もいとわないという意思表示です。

それだけ、台湾の戦略的な価値は高いのです。台湾が、武力であろがなかろうが、何らかの形で、中国の覇権の及ぶ地域になったり、最悪中国の領土になり、中国の支配下に置かれてしまい中国が自由に台湾に軍事基地を設置できるようになってしまえば、日米のインド太平洋戦略に甚大な影響を及ぼすことになります。

台湾が中国に組み込まれれば、中国の軍事力が一気に増強され、日米の対中国抑止力は著しく低下します。さらに、台湾周辺の海上交通路が中国のコントロール下に置かれ、日本を含めた多くの国々の経済安全保障が脅かされかねません。

また、台湾有事により、東アジアや太平洋における地政学的パワーバランスが大きく変化し、価値観の対立も一層深刻になる恐れがあります。

台湾が中国化すれば、日米が目指す自由で開かれたインド太平洋の秩序維持という戦略の根幹が揺らぐことになり、戦略自体を抜本的に見直さざるを得なくなるのです。まさに、台湾有事は、日本有事なのです。

【関連記事】


中国軍による台湾包囲演習はこけおどし、実戦なら台湾のミサイルの好餌―【私の論評】中国による一方的な情報、プロパガンダに基づく見解には慎重であるべき 2024年6月1日


0 件のコメント:

特報 米国司法省 IR疑惑で500ドットコムと前CEOを起訴 どうなる岩屋外務大臣―【私の論評】岩屋外務大臣の賄賂疑惑が日本に与える影響と重要性が増した企業の自立したリスク管理

特報 米国司法省 IR疑惑で500ドットコムと前CEOを起訴 どうなる岩屋外務大臣 渡邉哲也(作家・経済評論家) まとめ 米国司法省は500ドットコムと元CEOを起訴し、両者が有罪答弁を行い司法取引を結んだ。 日本側では5名が資金を受け取ったが、立件されたのは秋本司被告のみで、他...