2024年6月18日火曜日

衛星画像に「えぐれた滑走路」...ウクライナがドローン「少なくとも70機」でロシア空軍基地を集中攻撃―【私の論評】ドローン攻撃と防空システムの脆弱性:F-35対零戦の戦術比較

衛星画像に「えぐれた滑走路」...ウクライナがドローン「少なくとも70機」でロシア空軍基地を集中攻撃

まとめ
  • ウクライナ軍は6月13-14日の夜、ロシアのモロゾフスク空軍基地に対し70機以上のドローンを使った大規模攻撃を行った
  • 攻撃後の衛星画像で、同基地の建物や滑走路が大きな被害を受けていることが確認された
  • ウクライナはこの攻撃にアメリカから供与された武器を使い、ロシアの高性能防空システムの一部を破壊できたと主張
  • ウクライナはロシアのハリコフ州攻勢をアメリカの武器で食い止めたと表明し、クリミア半島への攻撃も強める構え
  • 双方の発表した数字は確認できていないが、ウクライナがドローンと西側の武器を併用し、ロシア軍の能力を標的にしていることが見て取れる
ウクライナのドローンにより破壊された(赤枠内)とみられるモロゾフスク空軍基地

 ウクライナ軍は6月13日から14日にかけて、ロシア南部ロストフ州のモロゾフスク空軍基地に対し、少なくとも70機以上のドローンを使った大規模な攻撃を行ったと見られる。

 攻撃前の6月4日の衛星画像では、同基地の建物や滑走路は無傷で、周辺に複数の航空機が駐機していた。しかし、14日の画像では屋根が崩れ、滑走路も大きく破損し、航空機の姿はなくなっていた。

 ウクライナ国防省は、この作戦にウクライナ製ドローン「ドラゴン」と「スプラッシュ」を使い、ウクライナ領内から実施したと主張している。一方でロシア国防省は、この夜にウクライナからの大規模ドローン攻撃を受けたが、87機を迎撃したと発表した。

 モロゾフスク基地には、ロシア製の戦闘爆撃機Su-24、Su-24M、Su-34が配備されていた。ウクライナ側は、この攻撃でアメリカから供与された武器を使い、ロシアの高性能防空システムの一部を破壊できたと主張する。

 4月にもこの基地へのドローン攻撃があり、ウクライナはロシアのハリコフ州への攻勢をアメリカの武器で食い止めたと表明。さらにロシアが一方的に併合したクリミア半島への攻撃も強めていく構えだ。

 双方の発表数字は確認できていないが、ウクライナがドローンと西側の武器供与を活用し、ロシアの空軍力や能力を標的にしていることがうかがえる。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ドローン攻撃と防空システムの脆弱性:F-35対零戦の戦術比較

まとめ
  • ウクライナのドローン攻撃成功は、ロシアの防空システムの脆弱性を露呈した。低コストの小型ドローンを多数投入し、同時に飛行させることで防空システムを突破した。
  • F-35と零戦を数で比較すると、数千機の零戦に対してF-35の数的劣勢が大きな問題となる。F-35は搭載弾薬やパイロットの限界、補給の必要性などで制約を受ける。
  • 現代のドローンは零戦に似た機動性と自爆攻撃能力を持ち、F-35にとって大きな脅威となる。ドローンは自動で動き、長時間の継戦能力があるため、F-35だけでは完全に防ぎきれない可能性が高い。
  • 主要国の軍隊は、レーザー兵器や電子妨害、AI防衛システムなどを導入し、マルチレイヤー防空網を強化している。総合的な対ドローン対処能力の向上が重視される。
  • 日本もドローン脅威に対処するため、先端技術の積極的導入と運用面での革新が求められる。有人戦闘機と無人機の長所を組み合わせた運用が重要であり、日本の技術力と同盟国との絆を基に防衛力を強化すべき。

ウクライナのドローン攻撃が成功したことは、ロシア軍の防空システムの有効性に疑問を投げかけています。

ウクライナが使用した低コストのドローンは、小型で複数同時に飛行することで防空システムに過剰な負荷をかけ、突破に成功しました。さらに、ロストフ州知事が再攻撃の可能性を認めたことは、防空システムの脆弱性を裏付けています。住民が爆発音を聞いたとの報告も、防空システムが市民の安全を完全に保障できていないことを示しており、心理的な不安を引き起こしています。

これらの事実は、ロシアの防空システムがウクライナのドローン攻撃に対して効果的でないことを具体的に示しています。

最近このようなドローンの奮戦の報道がなされることが多くなりました。このような報道から、私が軍事オタク少年であった頃の疑問が少しずつ明らかになるとともに、今後の軍事戦術や戦略が変わりつつあることをひしひしと感じています。

セミ軍事オタクだった少年時代に私が、抱いた疑問は、現代の最新鋭ジェット戦闘機1機(当時はF15)と、それを製造できる経費で、製造した多数の零戦が戦った場合どうなるかという疑問です。当時の私の分析では、約3000機製造できると試算しました。

零式艦上戦闘機

F15が1機と零戦3000機であれば、零戦に十分勝ち目があるのではと考えたのです。

第二次世界大戦中の1944年時点での零戦52型の価格は、約63,000円(当時のレートで約16,000ドル)と推定されています。

現代の最新鋭戦闘機F35の1機分の費用があれば、やはり零戦を数千機は製造できると考えられます。ただし、これは単なる製造コストの比較に過ぎず、性能の違いや開発費用、運用コスト、搭載される武器などはまったく考慮されていない非常に大まかな試算です。

この試算を前提として、F-35 1機が数千機の零戦に対して戦った場合、F-35が勝利は難しいと考えられます。理由は以下の通りです。
  • 対空兵装の制限 F-35が搭載できる対空ミサイルの数には限りがあり、数千機の標的に対して早期に弾薬を射尽くしてしまう可能性が高い。
  • パイロットの体力的限界 パイロット1人が数千機の航空機を同時に捕捉、攻撃することは物理的に不可能である。
  • 整備・補給の問題 F-35が搭載している燃料で飛行できる時間が限られており、燃料や武器の補給なしに長時間戦闘を続けられない。
  • 零戦は低速・低空域での機動性能が非常に優れている 零戦は低速での旋回性能が抜群で、F-35のようなハイテク機器を使ったミサイル誘導などでは的確に捕捉しにくい
つまり、数的劣勢と持続能力の制約から、どんなに性能が優れていてもF-35 1機が数千機の航空機を撃墜できる可能性は極めて低いと言えます。よっておそらく、零戦側が勝利する可能性が高いといえます。

ただし、上の想定では、零戦のパイロットのことなどを想定しておらず、その人件費や教育・訓練など完璧に無視しています。それにF35と多数の零戦が戦うシチュエーションなどほとんどありえません。

編隊飛行するF35

ただし、それに近いことが現代戦では起こっています。そうです。ドローンの存在です。零戦をドローンに置き換えたとすれば、また異なる風景がみえてきます。

多数のドローンの一斉攻撃に対して、たとえF-35が最新鋭の性能を持っていても完全に防ぎきれる保証はありません。ドローンは、かつての零戦が持っていた機動性の良さを小型軽量ボディで体現しています。数千機もの現代の零戦ドローンが一斉に押し寄せれば、F-35の対空兵装では撃墜しきれる数に限界があり、一部が必ず突破してくる可能性が高くなります。

また、ドローンは自らを敵目標に向けて自爆攻撃を仕掛けてくる脅威があり、F-35のミサイルでは完全に防げません。零戦がしばしば自爆特攻を行ったように、ドローンも命令次第でそうした自爆攻撃ができます。この点で、現代のドローンは、数的優位に加えて自爆の脅威という、零戦に似た特性を持っているといえるでしょう。

さらに、たとえF-35のパイロットが優れた能力を持っていても、長時間にわたって多数の小型標的を捕捉・攻撃し続けることには人間の限界があります。一方のドローンはAIにより自動で動くため、そうした疲労はありません。また、F-35も継戦能力には制約があり、整備や給油の体制が整わなければ持続した防空作戦は難しくなります。

つまり、性能が優れていてもF-35単機では、かつての零戦の数的力と自爆攻撃の脅威を併せ持つドローン部隊には対応しきれない可能性が高く、他の防空網や支援部隊との綿密な連携が不可欠になってくるといえます。

ドローン部隊による脅威に対し、米軍を始めとする主要国の軍隊は様々な対処方針を立てています。レーザー兵器の開発や電子妨害能力の強化、AI防衛システムの導入などが検討されており、ドローン対ドローンの運用も視野に入れられています。

また、単なる個々の対ドローン手段だけでなく、地対空ミサイル、戦闘機、レーザー兵器などを統合したマルチレイヤー防空網の強化が重視されています。つまり、革新的な新兵器と既存資産を組み合わせた総合的な対ドローン対処能力の向上が、各国軍でめざしてます。

早期警戒機と無人機(ドローン)とのコラボ 想像図

ただし有人戦闘機を運用するメリットは依然として大きいと言えます。人間パイロットならではの状況判断力、戦闘機の機動的運用能力、重要な攻撃目標への人的判断の確保、大量のセンサーデータ解釈への人間の能力、整備点検での人的対応の必要性などが挙げられます。

一方で無人機には人命リスクがない、持続時間が長い、コストが低いというメリットもあります。したがって、人間とAIの長所を組み合わせ、有人無人の戦力を使い分ける運用が最も合理的であり、その役割分担が今後の課題となるでしょう。

今後は、日本も、ドローンなどの新たな脅威に対処するため、先端技術の積極的な取り入れや、運用面での革新的な発想が求められます。しかし、日本が培ってきた技術力と同盟国との絆があれば、ドローンの脅威にも立ち向かえるでしょう。過去の実績と現在の能力を基に、日本の防衛力はを、将来に向けて磐石のものにすべきです。

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