2024年6月6日木曜日

GX投資、北海道に/政府が特区指定、「金融センター」高まる期待―【私の論評】北海道は原子力活用で世界のエネルギー先進地を目指せ

 GX投資、北海道に/政府が特区指定、「金融センター」高まる期待

まとめ

  • 政府が北海道・札幌市など4地域を「金融・資産運用特区」に指定し、GX投資拡大を目指す。
  • 北海道全域が初の国家戦略特区となり、今後10年で40兆円のGX投資を呼び込む計画。

「金融・資産運用特区」に指定された四地域

 政府は国内外の資産運用会社の参入や業容拡大を後押しする「金融・資産運用特区」に、脱炭素化に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)投資の拡大を目指す北海道・札幌市など全国4地域が提案した特区を指定した。北海道全域を初めて国家戦略特区に指定することも決め、銀行によるGX事業への出資緩和など各種の規制緩和を進める。特区への指定を受け、北海道・札幌市は今後10年で40兆円のGX投資を呼び込む国際金融センターとなるための取り組みを加速する。

【私の論評】北海道は原子力活用で世界のエネルギー先進地を目指せ

まとめ
  • 北海道のGXでは、まず泊原発の再稼働、将来的には小型モジュール炉(SMR)、核融合技術の導入をすべき。
  • それまでのつなぎとして、現実的な選択肢として、天然ガスの効率的利用をし、安定した電力供給とCO2排出削減を両立させるべき
  • 北海道のGXは、自然環境への影響を最小限に抑えつつ、高度技術産業の誘致によって産業構造の高度化を図るべき。
  • 北海道のGXは、将来の理想と現実のバランスを取りながら進めるべき。
  • 北海道は、せっかく巡ってきたチャンスを大いに活用すべきであり、本当の意味でのエネルギー利用・活用の世界のフロンティアになることを目指すべき。
GX(グリーントランスフォーメーション)とは、「Green Transformation」の略で、経済社会システム全体を脱炭素化に向けて転換していく取り組みを指します。

主な内容は以下の2点です:
  • 産業構造の転換:CO2排出量の多い産業構造から、再生可能エネルギーや水素、アンモニアなどのクリーンエネルギーを中心とした低炭素型の産業構造へ転換すること。
  • 社会システムの変革:エネルギー供給だけでなく、交通、住宅、ライフスタイルなど、社会システム全体を環境に配慮した持続可能な形に変えていくこと。
GXは単なる技術革新だけでなく、企業の事業モデルや個人の生活様式まで含めた、広範かつ根本的な変革を意味します。日本政府は2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、このGXを国家戦略の中核に位置付けています。

「グリーントランスフォーメーション(GX)金融・資産運用特区」は、日本政府が推進する脱炭素化戦略の一環として設立されました。この特区の主な目的は以下の2点です:
  • GX投資の拡大:脱炭素化技術や事業への投資を大幅に増やすことを目指しています。特に北海道・札幌市は、今後10年間で40兆円というかなり大規模なGX投資を呼び込むことを目標としています。
  • 金融・資産運用業界の活性化:国内外の資産運用会社が日本市場、特にGX関連分野に参入しやすくするため、規制を緩和します。例えば、銀行がGX事業に直接出資できる範囲を広げるなど、金融機関の投資活動の自由度を高めます。
さらに、北海道全域が初めて国家戦略特区に指定されたことで、地域全体でGX投資を促進する環境が整備されます。これにより、札幌市を中心に北海道が国際的なGX金融センターとなることを目指しています。

私自身は、GXについては反対です。反対理由を以下に述べます。

GXの中核である「2050年カーボンニュートラル」という目標設定自体に問題があります。この目標は科学的根拠や経済的実現可能性の検討が不十分なまま政治的に決定されたものです。パリ協定の2℃目標でさえ、その科学的基盤には不確実性が高いことが指摘されています。にもかかわらず、日本はより厳しい目標を掲げ、GXという大規模な社会変革を急いでいます。

次に、エネルギー政策の観点から見ると、GXは日本のエネルギー安全保障を危うくします。再エネは気象条件に左右され、安定供給が困難です。一方、原子力発電は安定した低炭素電源ですが、GXの議論では軽視されがちです。また、水素やアンモニアの大量調達は新たな対外依存を生み、地政学的リスクを高めます。エネルギーミックスの柔軟性を失うことは、日本の国家安全保障上の重大な脅威となります。

さらに、GXは技術的な過大評価に陥っている面があります。例えば、CO2回収・貯留(CCS)技術は、GXの重要な柱の一つとされていますが、大規模展開には地質学的制約や住民の同意など、多くの障害があります。同様に、水素社会の実現にも、インフラ整備から安全基準の策定まで、膨大な課題が山積しています。技術の可能性を過大評価し、その困難を軽視することは、無責任な政策立案と言わざるを得ません。

加えて、GXの経済的影響は日本の社会構造に深刻な歪みをもたらします。高コストのGX投資は企業の収益を圧迫し、賃金上昇や設備投資を抑制します。その結果、経済の停滞と格差の拡大が予想されます。特に、中小企業や地方の製造業は、高コストに耐えられず、廃業や海外移転を余儀なくされるでしょう。これは、地域社会の崩壊や技術の海外流出につながります。

最後に、GXの国際的な視点も欠けています。気候変動は地球規模の課題であり、新興国や途上国の協力なしには解決できません。しかし、高コストのGXモデルは、これらの国々には適用困難です。日本は、自国の取り組みに固執するのではなく、世界各国の事情に適した多様な脱炭素化路線を支援すべきです。例えば、低コストで信頼性の高い原子力技術の輸出や、各国の産業構造に合わせたCO2削減技術の共同開発などが考えられます。

要するに、GXは環境保護という崇高な理念に基づいていますが、その実行計画は科学的、経済的、社会的、国際的な観点から多くの問題を抱えています。イデオロギーや政治的な思惑に左右されることなく、冷静かつ現実的な分析に基づいた政策立案が急務です。日本は、GXを見直し、国益と地球益の双方に資する、より賢明なエネルギー政策を構築する必要があります。

北海道・札幌市が「GX金融・資産運用特区」に指定されたことで、地域に予期せぬ影響が生じる可能性があります。40兆円という巨額の投資目標は、投機的な資金を引き寄せ、短期的な経済活性化をもたらすかもしれません。しかし、それが一時的なバブルに終わるリスクも否定できません。また、GX関連企業への優遇措置が、農業や観光業など北海道の主要産業を相対的に不利にし、地域経済の不均衡を生む可能性も考慮すべきです。

さらに、注目すべき点は、北海道が「エネルギー資源の外部依存」の状態に陥るリスクです。GX特区により、道内に大規模な風力・太陽光発電所が建設されますが、その多くは道外や海外の大企業によって所有・運営される可能性があります。彼らは北海道の豊かな自然を利用してクリーンエネルギーを生産し、そのほとんどを本州に送電するかもしれません。この場合、北海道は一時的な経済効果は得られても、長期的な利益の大部分が道外に流出する事態が懸念されます。

この問題は、小樽市の事例に象徴されています。小樽市は2023年、市有地約600ヘクタールでのメガソーラー建設計画を事実上拒否しました。この決定は、数カ月にわたる慎重な検討と、市民の意見を反映した結果でした。小樽市は、自然環境の破壊、災害リスクの増大、水源への影響、景観の悪化、そして地域経済への貢献度の低さを理由に挙げました。特に「利益の大部分が市外に流出する」という懸念は、北海道全体にも当てはまる問題です。

加えて、急速なGX施設の建設は、北海道の自然環境に影響を与える可能性があります。適切な環境アセスメントなしに開発が進むと、小樽市が危惧したような生態系や景観の変化が生じ、北海道の住民の伝統的な生活様式に影響を及ぼすかもしれません。実際にそのようなことが釧路湿原ですでに起こっています。さらに、道外からの投資や企業の増加により、地域住民の意思決定プロセスへの参加が相対的に弱まる懸念もあります。

小樽市の夜景

一方で、GX特区がもたらす新しい産業は、地元の若者に魅力的な雇用機会を提供する可能性もあります。しかし、高度な専門性が要求される場合、道外からの人材流入が主となり、地元の若者の活躍の場が限られる可能性も考えられます。

これらの点を十分に認識し、住民の権利と地域の持続可能性を中心に据えた慎重な計画を立てることが重要です。小樽市の事例は、開発の規模や場所、地元への利益還元など、GX特区が検討すべき重要な課題を提示しています。北海道全体がこの教訓を生かし、地域にとって真に有益な方向にGX特区を導くことが、行政と住民に求められています。

以上は、GXにおいて再エネを多様することを前提として、そのマイナス面を論じました。しかし、原発の役割を再評価することで異なるシナリオを描くことができます。

岸田文雄首相は2022年8月24日、原子力の活用や原発の新増設について検討を進める考えを示しています。脱炭素の実現について議論するGX実行会議で表明しました。これは、GXには原子力の利用も含まれていることを示しています。

GX(グリーントランスフォーメーション)における原子力発電の役割は、しばしば軽視されがちですが、北海道の文脈でこれに着目すると、GXの様相は大きく変わります。

まず、泊原発の早期再稼働を目指すべきです。泊原発は現在、3基すべてが停止中ですが、設備容量は合計207万kWにも及びます。これは、北海道全域の電力需要の約3分の1を賄える規模です。泊原発を再稼働させることで、北海道は短期間で大規模な低炭素電源を確保できます。障害となっている安全審査や地元同意の問題には、国と道が連携して取り組むべきです。例えば、安全対策の徹底実施や、泊村をはじめとする地元への経済的支援の拡充などが考えられます。

北海道の特性を考えると、泊原発の再稼働はGXにおいて極めて合理的です。広大で寒冷な北海道では、太陽光発電の効率が低く、大規模な風力発電は自然環境への影響が懸念されます。小樽市の事例が示すように、大規模再エネ開発に対する地元の反対も根強いのです。一方、原子力発電は気候条件に左右されず、少ない敷地で大きな電力を生み出せます。また、泊原発の立地する積丹半島は人口密度が低く、冷却水も豊富です。

泊原発

次の展開として、小型モジュール炉(SMR)の北海道への導入を提案します。SMRは出力が数十MW〜数百MWで、製造期間が短く、立地の自由度も高いのが特徴です。従来の原発のような現地で大部分を組み立てるのではなく、工場でSMRを製造し、現場に設置するという方式です。

小型であるがゆえに、冷却水の問題もなく、従来の原発よりは安全で、柔軟に電力需要に対応することができます。小型で各地に設定できるので、大規模な送電網なども必要ありません。

北海道の各地域に分散配置すれば、送電ロスを減らし、地域ごとの電力自給も可能になります。例えば、十勝や根釧などの農業地帯にSMRを設置すれば、寒冷地農業に必要な大量の電力を現地で供給できます。また、SMRの排熱を利用した植物工場や、データセンターの誘致も考えられます。

さらに、将来的には北海道を核融合研究の拠点にすることを提案します。核融合は放射性廃棄物が少なく、燃料も豊富です。北海道には、核融合炉の開発に適した条件がそろっています。広大な土地、豊富な水資源、そして高度な技術者を惹きつける自然環境です。例えば、稚内や利尻島などの北部地域に国際的な研究施設を設置すれば、寒冷地技術と融合した独自の核融合技術を生み出せるでしょう。これは、北海道を世界の科学技術のフロンティアにするチャンスです。

さらに、最終的には小型核融合炉の開発を目指すべきです。小型核融合炉は、立地や経済面で設置しやすく、核融合を競争力のある技術にする上で大きな利点があります。核融合炉を小型化するには、高温超電導コイルや高温に耐えられる材料などの技術開発が重要です。北海道をこの開発拠点とすべきです。

このように、北海道のGXを原子力発電を軸に展開することで、いくつかの利点があります。第一に、大規模再エネ開発に比べ、自然環境への影響を最小限に抑えられます。第二に、気候に左右されない安定した電力供給が可能になります。第三に、高度技術産業の誘致により、北海道の産業構造を高度化できます。

原子力発電には、安全性や廃棄物の問題など、慎重に検討すべき課題もあります。しかし、科学的な議論と透明性の高い政策立案によって、これらの課題に対処することは可能です。北海道は、原子力を基軸としたGXで、環境保全と経済発展を両立させる新たなモデルを世界に示すことができるのです。

たたし小型原発や核融合は北海道の魅力的な将来像を描き出しますが、それらの実現には相当の時間を要します。現在を生きる私たちのためのエネルギー政策を、今すぐに実行に移す必要があります。

その手段として、化石燃料、特に天然ガスの環境に適合した効率的な利用を模索すべきです。確かに、GX(グリーントランスフォーメーション)の文脈では化石燃料は忌避される傾向にありますが、現実的に見れば、天然ガスは「トランジション(移行期)」における重要な橋渡しの役割を果たします。

石狩LGN基地

北海道には、2019年に稼働を開始した石狩LNG基地があります。これは、年間約230万トンのLNGを受け入れ可能な、道内最大級の設備です。さらに、同基地には天然ガス火力発電所が併設されており、高効率のコンバインドサイクル方式を採用しています。この方式は、ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせることで、発電効率を最大62%まで高められます。これは、従来の石炭火力発電の約1.5倍の効率性です。

このシステムを活用することで、北海道は以下のような利点を享受できます:
  • 安定供給の確保:泊原発の再稼働には技術的な問題というよりは、地元の同意など政治的な障害があり時間がかかり、再生可能エネルギーは気候に左右されます。天然ガスは安定した電力供給を可能にし、北海道の産業を支えます。
  • CO2排出量の削減:天然ガスは石炭に比べてCO2排出量が約半分です。高効率発電と組み合わせれば、さらに排出量を減らせます。
  •  熱利用の可能性:LNG基地や発電所からの排熱を、近隣の工業団地や農業施設に供給できます。これは北海道の冬季暖房需要にも貢献します。
  • 水素社会への布石:将来的に、この設備を水素やアンモニアの受入・発電にも転用できます。つまり、インフラ投資を無駄にせず、次世代エネルギーへの移行を図れます。
  • 経済効果:LNG基地と発電所の運営は、安定した雇用を生み出します。さらに、エネルギーコストの安定化は、北海道への企業誘致にも寄与します。
このように、天然ガスの効率的利用は、北海道のGXを加速させる現実的な選択肢です。もちろん、天然ガスも化石燃料であり、最終的には縮小すべきです。しかし、原子力発電の再稼働や再生可能エネルギーの大規模展開には時間がかかります。その過渡期において、天然ガスは北海道の産業と生活を支えつつ、CO2排出量を徐々に減らしていく役割を果たすのです。

さらに、この戦略は北海道・札幌市の「GX金融・資産運用特区」構想とも整合性があります。つまり、GX投資の対象を再エネだけでなく、高効率ガス発電や将来の水素インフラなど、幅広い脱炭素技術に広げることができます。これにより、投資家に多様な選択肢を提供でき、40兆円という大規模な投資目標の達成可能性も高まります。

そうして、私は再エネを電力供給源として使うことには反対ですが、再エネの実験をすること自体は継続しても良いと思います。現状では、再エネを現実社会において、電力源とすることにはとても賛成できるものではありませんが、あくまで科学・社会実験として小規模に継続することには、問題はないと思います。

なぜなら、現在の科学技術水準で考えると再エネは様々な問題がありますが、実験を継続するうちに突破口がみつかるかもしれないからです。再エネを現在の技術水準だけで推し量り、未来永劫にわたって否定し続ける必要はないでしょう。ただ、不安定で、発電コストが低い限りにおいては、これを現実社会の基盤とするべきではないです。

重要なのは、これらの選択が移行のためであることを明確に示すことです。天然ガスへの投資は、あくまで原子力への移行を円滑にするためのものであり、決して化石燃料への回帰ではありません。GXの文脈でこの点を明確にすることで、投資家や市民の理解を得やすくなるでしょう。

北海道のGXは、将来の理想と現実のバランスを取りながら進めるべきです。小型原発や核融合などの先進技術への投資は、北海道の長期的な魅力を高めます。一方、効率的な天然ガス利用は、足元の経済と環境のニーズに応えます。この二つのアプローチを組み合わせることで、北海道は持続可能な発展のモデルケースになり得るのです。

北海道は、せっかく巡ってきたチャンスを大いに活用すべきです。これを正しく活用せず、単なる太陽光パネルや風力発電風車の墓場とすることなく、本当の意味でのエネルギー利用・活用の世界のフロンティアになることを目指すべきです。

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