2024年6月15日土曜日

プーチン氏、戦争終結に向けた条件提示 ウクライナは拒否「完全な茶番」―【私の論評】受け入れがたいプーチンの和平案と西側諸国がすべき強硬対応

プーチン氏、戦争終結に向けた条件提示 ウクライナは拒否「完全な茶番」

まとめ
  • プーチン大統領は、ウクライナ軍の撤退とNATO不加盟をウクライナ戦争終結の条件として示した
  • これらの条件はウクライナ政府から即座に拒否された
  • プーチン大統領の条件は過去の提案よりも拡大主義的で、ロシアの当初の戦争目標を達成できなかったことを示唆している
  • ロシアは当初、短期間でウクライナ全土を制圧することを目指していたが、現在は領土の約5分の1しか占領していない
  • ゼレンスキー大統領はプーチンの提案を受け入れがたいものと指摘し、戦争終結への道のりは依然として険しいことを示した

 ロシアのプーチン大統領は14日、ウクライナ戦争の終結条件として、ウクライナ軍のロシアが領有を主張する4州(ドネツク、ルハンスク、ヘルソン、ザポリージャ)からの撤退と、ウクライナのNATO加盟申請の即時取り下げを挙げた。この要求は、スイスで開催される平和サミットを前にした演説で述べられ、プーチン氏がウクライナ全面侵攻以降で最も詳しく示した戦争終結の条件である。なお、プーチン氏はこの平和サミットに招待されていない。

 ウクライナ政府はこの条件を「完全な茶番」「良識への攻撃」として即座に拒否した。プーチン氏はまた、ウクライナの非武装化や欧米諸国による対ロシア制裁の解除も要求し、これらの条件を国際協定に明記することを求めた。

 プーチン氏は外務省へのコメントで、戦争終結の条件は「シンプル」だと説明し、ウクライナ軍の安全な撤退を保証するとも述べた。しかし、これらの条件は以前の提案よりも拡大主義的な内容であり、ロシアが戦争の初期目標を達成できなかったことを示唆している。当初、ロシアは短期間で首都キーウやウクライナ全土を制圧することを目指していたが、戦争は2年4カ月近くに及び、ロシアが占領しているのはウクライナ領の約5分の1に過ぎない。

 ウクライナのゼレンスキー大統領は、プーチン氏の「最後通告」を「信用していない」と述べ、これが以前の提案と大差ないとの認識を示した。ゼレンスキー氏は、ロシアの提案がウクライナにとって受け入れ難いものであると強調し、戦争終結への道のりは依然として険しいことを示している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】受け入れがたいプーチンの和平案と西側諸国がすべき強硬対応

まとめ

  • プーチン大統領のウクライナ戦争終結条件は、ウクライナ軍の4州からの撤退、NATO加盟申請の取り下げ、非武装化、対ロシア制裁の解除、これらを国際協定に明記することを含む。
  • ウクライナ政府はこれらの条件を主権侵害とみなし、「茶番」「良識への攻撃」として即座に拒否。
  • 西側諸国の過去の対応には、クリミア併合への限定的制裁や、ドンバス紛争中の決定的対決回避など開戦直前・直後にロシアに対して断固とした対応をしなかった。
  • さらに、ノルド・ストリーム2計画がロシアへのエネルギー依存を助長し、制裁の実効性を損なった。
  • 西側諸国は開戦直前・直後のロシアに対する緩慢な対応を反省し、ロシアへの経済制裁強化、ウクライナ軍への武器供与、軍事的プレゼンス増強、反体制派支援を通じて、ロシアの体制転換を促すなど断固とした対応をすべき


プーチン大統領のウクライナ戦争終結条件の要点は以下の通りです。

  • ウクライナ軍のロシア領有を主張する4州からの撤退
  • ウクライナのNATO加盟申請の即時取り下げ
  • ウクライナの非武装化
  • 欧米諸国による対ロシア制裁の解除
  • これらの条件を国際協定に明記すること
プーチン大統領が示したウクライナ戦争終結条件は、ウクライナやそして西側諸国にとって到底受け入れがたいものです。その理由は以下の通りです。

まず第一に、ロシアが一方的に「領有を主張」する4州からウクライナ軍を撤退させることは、ウクライナの領土的一体性を損なう主権侵害にあたります。ウクライナはその領土保全を最重要課題としており、自らの主権が著しく侵害される状況は決して容認できません。

第二に、プーチン大統領はウクライナのNATO加盟申請の即時取り下げを要求していますが、NATO加盟は主権国家が自由に選択できる権利です。ウクライナがNATO加盟を求めることは正当な権利行使であり、ロシアがこれを一方的に制限することは許されません。

第三に、ウクライナの非武装化を求める条件は、国家の自衛権を完全に剥奪するものであり、ウクライナの主権と安全保障上の権利を著しく損なうことになります。

第四に、プーチン大統領は欧米諸国による対ロシア制裁の解除を求めていますが、これらの制裁はロシアの違法な軍事侵攻に対する正当な対応措置です。不当な要求を受け入れれば、国際社会の規範が軽んじられてしまいます。

最後に、これらの条件を国際協定に明記することは、ウクライナや西側諸国がその内容を事実上承認することを意味します。つまり、ウクライナの主権と領土保全、そして西側の価値観や国際規範に完全に反するこの提案を受け入れざるをえなくなるのです。

以上のように、プーチン大統領の戦争終結条件は、あまりにもウクライナや西側諸国の立場を無視した一方的で不当なものであり、到底受け入れられるはずがありません。

このような和平案は考慮に値しないことをはっきりと西側諸国は、示すべきです。

そもそも、西側諸国はウクライナ侵攻直前・直後にロシアに対して強硬な手段を取らなかったことは、大きな失策でした。

2014年のロシアによるウクライナ領クリミア半島の不法併合に対し、西側は経済制裁を科しましたが、その水準は限定的でした。ロシアの一層の領土侵略を強く牽制するだけの制裁ではありませんでした。

また、ロシアがウクライナ東部で引き起こしたドンバス紛争が長期化する中、西側はロシアとの決定的な対決を避け、事態の沈静化を優先しました。さらに、ドイツ主導で推進されたノルド・ストリーム2計画は、ロシアへのエネルギー依存を助長し、制裁の実効性を損なう結果となりました。

加えて、ウクライナ侵攻直前の2022年1月、バイデン大統領は「ロシアによるウクライナ侵攻」について問われた際、NATO加盟国間で対応が分かれる可能性があることを示唆しました。

一部メディアがバイデン発言を「小規模な侵攻なら対応が分かれる」と誤報したことから、この「小規模な侵攻」発言があったかのように広まってしまいました。しかし、バイデン氏が当初から徹底抗戦を主張するなどの発言をしていれば、このような間違いは起こらなかったでしょう。こればプーチンに積極的な行動を取るよう促す結果となったとみられます。


このように、西側は一貫してロシアの動きに強く反発するだけの手段を取ってこなかったことが、プーチンのさらなる傲慢な行動を許す一因となってしまった点は否めません。

西側諸国は、プーチンの今回の和平案に対し、これまでの緩慢な対応を反省し、より強硬な手段を取るべきです。

具体的には、ロシアへの経済制裁を更に強化し、石油・ガス禁輸、金融システムからの排除など、制裁の水準を格段に引き上げる必要があります。

また、ウクライナ軍に対し、精密誘導ミサイルや無人攻撃機など最新鋭武器を大量に供与し、ロシア軍に対する決定的優位を築かせます。

さらに、NATO・EUが一体となって、ウクライナ国境周辺への軍事的プレゼンスを増強するとともに、一定の軍隊をウクライナ領内に配置し、直接的な軍事支援も行うことが求められるでしょう。

加えて、ロシアの野党・反体制派への支援を強化し、プーチン政権の早期崩壊を狙う必要もあります。

経済的、軍事的、そして政治的に、ロシアを完全に包囲し、その存続と今後の侵略を許さない環境を整えるべきです。

プーチンが示した今回の和平案は、主権国家であるウクライナに対する一方的な要求の押し付けに過ぎません。ウクライナの領土的一体性を損ない、NATO加盟の権利を制限し、非武装化までを迫るものです。これは対等な交渉による平和的解決とはかけ離れています。

プーチンはこれまで、クリミア併合、ドンバス紛争の引き起こしと様々な機会に、国際規範を無視し、武力の一方的な行使によってしか自国の利益を追求できないことを示してきました。今回の侵攻でも、同様に軍事力で現状を有利に作り変えようとしているにすぎません。

つまり、プーチンは対話による建設的な平和を志向しているのではなく、ウクライナに対する力による支配と従属を強要しようとしているだけなのです。こうした体制には一切の妥協の余地がありません。

したがって、西側諸国が多角的な対抗手段で最大限の圧力をかけ、プーチンを力で現状から引き離させるしかありません。これが、プーチンに対する唯一の対処方法であり、真の平和への条件でもあると言えるでしょう。さらにこれは、中国の台湾侵攻に対する牽制にもなるでしょう。ここで中途半端な対応をすると、習近平の台湾武力侵攻を後押しすることになりかねません。

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