2024年6月4日火曜日

アジアでの米軍の弱点とは―【私の論評】米国のシミュレーション戦略vs中国の弾圧政策を理解し、日本の安保に活かせ

アジアでの米軍の弱点とは

まとめ
  • アメリカ国政の場では、「米中、戦わば」という討論が真剣に展開される。
  • アメリカでは中国との軍事衝突の具体的な予測が公開の場で提起されている。
  • 中国との戦争を現実の可能性とみる脅威認識は米議会では民主党議員の多くも共有する。
フィリピン沖で共同訓練する米国・豪州・日本の艦隊と戦闘機編隊

 ワシントンの政治の場で、米中の軍事衝突の可能性が真剣に議論されている。この議論の背景には、戦争を防ぐためには具体的な想定をして抑止力を機能させる必要があるという戦略思考がある。同時に、インド太平洋地域のアメリカ軍航空基地の防衛が弱体だとの警告も議会から発せられた。

 この状況は、中国の無法行動への対応において、アメリカと日本の間に顕著な温度差があることを示している。アメリカ側は中国の軍事行動に注意を払い、具体的な軍事措置を検討しているのに対し、日本側は尖閣諸島海域への中国軍艦艇の侵入に対して言葉による遺憾表明のみを行っている。

 米中経済安保調査委員会の公聴会では、中国の「介入阻止」能力と、それが米国とその同盟国に与える影響が討論された。ここでは、中国が台湾や東シナ海で攻撃を開始した場合の米軍の介入阻止能力が詳細に分析された。具体的には、中国軍による巡航ミサイル攻撃、海洋攻撃、ロケット軍のミサイル攻撃、さらには宇宙兵器や電子戦争能力を使った情報空間の制圧などが予測された。

 この公聴会は、アメリカ側が中国との軍事衝突の具体的なシナリオを公開の場で提起していることを示している。背景には、中国との全面戦争でも勝つ態勢を整えることが戦争の抑止になるという、皮肉にも響く戦略がある。

 一方、議会の共和党議員たちは、インド太平洋地域の米軍航空基地の防衛が弱いと警告し、格納庫の強化など防衛増強を要請した。彼らは、中国軍が自国の軍用機防衛を進めているのに対し、米軍の多くの基地で格納庫の堅固化や地下壕の建設がなされていないと指摘。最近の模擬演習では、米軍機の90%が中国の攻撃で地上で破壊されるという結果も出ている。

 この要請は、議会で中国への警戒がさらに高まり、軍事衝突への備えの必要性が語られるようになった現実を示している。また、日本国内の米軍基地の対空防衛増強も含まれており、日本の防衛にも影響を及ぼす。

 注目すべきは、中国との戦争を現実の可能性とみるこの種の切迫した脅威認識が、議会の民主党議員の多くも共有していることだ。この超党派的な認識は、前述の公聴会にも表れている。そして何よりも、このような米中軍事衝突は日本への波及も不可避であることを、改めて認識すべきだと指摘されている。


 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。「まとめ」は元記事の要点をまとめて箇条書きにしたものです。

【私の論評】米国のシミュレーション戦略vs中国の弾圧政策を理解し、日本の安保に活かせ

まとめ
  • 米国の軍事シミュレーションは、弱点を明らかにして改善・改革し、予算を獲得するためのもので、決して米国が中国に負けるということを意味しない。
  • 公聴会で公表される内容は、公表しても良いもの、または早急に対処すべきものに限られ、本当に機密性の高い情報は一部の人にのみ伝えられる。
  • 最悪のシナリオ(例:米軍機の90%が破壊される)を示すのは、実際の戦争に備えて弱点を補強し、計画を立て、予算を配分するため。
  • 米国のこのようなアプローチは、軍隊を強化するための戦略的な手法であり、単なる弱点の露呈ではない。
  • 米国は弱点を改善・改革の機会と捉え、中国は指摘者を処罰する。この違いは両国の政治体制と軍事力強化の姿勢を反映している。日本は、両者の違いを理解し、軍事的にも外交的にも新たな力を発揮すべき



上の記事にもあるように、米国では中国との軍事衝突の具体的な予測が公開の場で提起されています。これは、米国の脆弱な部分を明らかにするため、これをもって日米等のメディアは米軍は中国に負けてしまうとも受け取られるような報道をします。

しかし、これは全く違います。なぜ米国でこのようなことを明確にして、議論するかといえば、無論議会側からすれば米国の不備を補ったり改革するためにしていますし、米軍としては、もっと具体的に予算を獲得するためにも、具体的に脆弱な部分を報告しているのです。

ただし、中国軍に知られてはまずいような内容は、公には明らかにされていないでしょう。それは、米中経済安保調査委員会の公聴会などでは報告されず、委員会や政府の一部の人にだけ伝えられているというように配慮されているものと思います。

となると、公聴会で公表される部分は公表されても良いもの、あるいは、公表して早急に対処すべきものに限られていると考えるべきです。

たとえば上の記事で「最近の模擬演習では、米軍機の90%が中国の攻撃で地上で破壊される」としていますが、これは無論最悪の場合を示しているのであって、実際戦争になれば、米軍はミサイルなどで応戦するでしょうから、ここまで酷くはならないと考えられます。ただ、実際の戦争に備えて、これを補強しなければならないのは事実で、そのための計画作成や計画に基づいた予算配分がなされることになるのでしょう。

これについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
「執行猶予付き死刑判決」を受けた劉亜洲将軍―【私の論評】「台湾有事」への指摘でそれを改善・改革する米国と、それとあまりに対照的な中国(゚д゚)! 2023年4月4日

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に元記事の要約を掲載します。
 中国の劉亜洲上将が執行猶予付き死刑判決を受けたと香港メディアが報じ、その後確認された。劉亜洲は李先念元国家主席の娘婿で、高位の軍人であり、知識人界では「国と人民を憂う」人物として好感を持たれていた。しかし、2021年12月以降、重大な金融腐敗に関与した疑いで姿を消していた。

 実際には、劉亜洲への処罰は政治的動機があると示唆されている。習近平主席が彼に激怒した理由は、「金門戦役の検討」という論文だ。この論文で劉亜洲は、台湾の険しい地形、強力な空軍、「国民皆兵制」、先進的防衛兵器、さらに米日韓との同盟関係を挙げ、台湾侵攻が極めて困難で、中国軍が勝利できない可能性が高いと主張した。この見解が、台湾武力侵攻を計画する習近平の逆鱗に触れ、汚職疑惑を口実に処罰されたと考えられている。

劉亜洲上将の語ることは、間違いとはいえません。このブログで何度か述べているように台湾は、第二次世界大戦中の末期において、米軍は上陸作戦を実施しなかったことでも理解できるように、天然の要塞といえるほどの地形を有していましす、さらに台湾軍は、各種短・中・長距離ミサイルを大量に備えていますし、特に最近では潜水艦を自主開発しています。

これからすると、台湾侵攻はかなり難しいということは事実です。

 この記事の【私の論評】において述べたことを要約して以下に掲載します。

劉亜洲は「台湾侵攻の難しさ」を詳細に分析し、公表しました。その内容は、台湾の険しい地形や強固な要塞、高度な訓練を受けた空軍、国民皆兵制による200万人以上の予備役など、台湾の強固な防衛体制を指摘するものでした。しかし、この現実的な分析は、習近平の逆鱗に触れ、劉亜洲は執行猶予付き死刑判決を受けることになりました。

一方、米国軍は、中国軍に局所的に負ける可能性を想定したシミュレーションを頻繁に行っています。例えば、台湾有事のシミュレーションでは、当初、攻撃型原潜を登場させず、最悪のシナリオを検討しました。その結果、それでも日米が大損害を受けるものの、中国は台湾に侵攻できないという結論に至りました。

米軍は、十分に強力な軍備を持っていても、弱点を突かれれば大損害を被る可能性を認識しています。そこで、様々な状況を想定し、弱点を見つけ出して政府に報告し、予算を得て改善を図っています。

例えば、哨戒機P-8Aと無人航空機MQ-4C「トライトン」の組み合わせは、こうしたシミュレーションの結果生まれたアイデアでしょう。長時間の洋上監視が可能な「トライトン」と、急行して対処するP-8Aの組み合わせは、原潜不在時の海洋監視能力を高めます。

両者のアプローチは対照的です。米国は、弱点を指摘されてもそれを改善・改革の機会と捉え、軍隊を強化しています。一方、中国は、その指摘をした人物を処罰しました。これは中国に弱点を克服する余裕がないからではないかと推測できます。中国は弱点を指摘されても、すぐには解決策を見出せない可能性があり、だからこそ習近平は劉亜洲の分析に激怒したのではないかと考えられます。

この対比は、両国の軍事力強化に対する根本的な姿勢の違いを示しています。米国は自己の弱点を直視し、それを克服することで力を高めていく。一方、中国は弱点の指摘を否定し、その指摘者を罰することで、実際の問題解決を避けている。この違いは、長期的には両国の軍事力の質的な差となって現れる可能性があります。
劉亜洲の論文は、中国内部の政治的緊張を露呈させるだけでなく、台湾海峡の軍事バランスに関する国際的な議論にも影響を与えています。それは、軍事的洞察と政治的勇気を備えた一人の将軍が、権力者の怒りを恐れず真実を語った結果といえます。

米国と中国の軍事的アプローチの違いは、両国の政治体制を鮮明に反映しています。米国では、弱点を率直に認め、それを改善する過程を通じて組織的な学習と革新を促進します。一方、権威主義的な中国では、弱点の指摘は体制への挑戦と見なされ、その指摘者は罰せられます。劉亜洲将軍の事例は、この対照的な姿勢を象徴的に示しています。

この状況下で、日本はどのように対応すべきでしょうか。まず、日本は米国式の自己批判的アプローチを採用すべきです。自衛隊の弱点を率直に議論し、それを改善の機会とする文化を醸成することが重要です。日米共同訓練・演習等の厳しい結果を公開して議論することは、その好例となるでしょう。


同時に、日本は劉亜洲のような中国内部の声に耳を傾け、彼らの分析を日本の防衛戦略に活かすことが有効です。台湾の地形的利点を南西諸島の防衛に応用したり、国民皆兵制の考えを予備自衛官制度の拡充につなげたりすることができます。さらに、米国との情報共有と共同分析を強化し、日本の視点を加えることで、より現実的な想定が可能になります。

また、日本は自国の弱点をある程度公開することで、逆説的に抑止力を高められます。弱点を明らかにすることにより、それに対する備えをすすめることができます。弱点をそのまま放置しない体制を築くべきです。

たとえば、最近であれば横須賀基地の「いずも」がドローン撮影され、ネットで公開されたことがあります。あるいは、原子力発電所の警備を民間会社が行っていることなど、陸自の弾薬使用量が、米国の軍楽隊並であること、自衛隊の哨戒機p1が韓国の艦艇からレーダー照射を受けた問題などがあります。さらには、スパイ防止法がないことから、軍事機密が漏洩し易いこと等などがあります。

これらの問題はまだまだあります。広範で、奥行きも深いです。これらを、なおざりにせず、明るみに出して、議論を通じて改めていくべきです。そうして、なによりも重要なのは憲法改正です。いつまでも、自衛隊を違憲状態にしておくのは、いくら日本に特殊事情があるからとはいっても異常です。

加えて、国連人権理事会などの場で中国の言論弾圧を批判し、おそらく中国当局によって拘束されているとみられる劉亜洲のような人物の解放を求める外交は、単なる人道的行為を超えて、中国の内部改革を促すきっかけにもなり得ます。

このアプローチは、日本の文化的特性とも合致します。日本の「和を以て貴しとなす」精神は、表面的な一致ではなく、建設的な批判を通じた調和を意味します。この特性を活かし、自己批判的な姿勢を通じて国防を強化することは、日本の文化的伝統にも沿うものです。

将来を見据えれば、教育を通じてこの姿勢を国民に浸透させることも重要です。学校教育や防衛大学校で自国の弱点を率直に議論する文化を育てることは、長期的に日本の防衛力を強化する土壌となります。

現在の国際情勢は緊張に満ちていますが、それはまた日本が自国の特性を活かして独自の道を歩む機会でもあります。自己批判と建設的な議論を通じて防衛力を高め、同時に中国内部の批判的な声に耳を傾け、それを活かすことで、日本は軍事的にも外交的にも新たな力を発揮できるのです。

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