まとめ
- ウクライナ侵攻では航空優勢確保が重要だが、双方の地対空ミサイル網のため航空機運用が制限されている
- F-16には地対空ミサイルを無力化する「HARM」ミサイルと「HTS」レーダー探知システムが搭載可能
- 「HARM」と「HTS」の組み合わせにより、敵のレーダーを探知し攻撃できる「SEAD」ミッションが可能
- 一時的な航空優勢を確保し、他の航空作戦を支援できる
- F-16導入は少数機でもロシア側に脅威となり、地対空ミサイル使用を控えさせる効果がある
米海軍のF/A-18Cに搭載されたAGM-88「HARM」。目標が電波を切っても逃げられないよう、マッハ2以上という高速で飛翔する |
ロシアによるウクライナ侵攻では、地上戦に焦点が当てられがちですが、戦争の勝利を左右する航空優勢の確保も重要な要素です。しかし現状では、互いの強力な地対空ミサイル網のため、ウクライナとロシアはともに航空機を積極的に運用できていません。
この膠着状態を打破する可能性があるのが、アメリカ製戦闘機F-16の導入です。F-16は単なる空対空機ではなく、地対空ミサイルを無力化する能力に長けています。F-16には「HARM」という高速対レーダーミサイルと、レーダーの発信源を探知する「HTS」システムを搭載できます。
「HARM」はレーダー電波を逆探知して誘導されますが、ウクライナ既存機のMiG-29とは相性が悪く、運用が限定的でした。しかし「HTS」を搭載したF-16なら、レーダー発信源の詳細位置を特定し、「HARM」による攻撃が可能になります。例えば移動式の地対空ミサイルがF-16に攻撃を仕掛けた際、「HTS」がレーダーを探知すれば、「HARM」で反撃できます。
このように、F-16と「HARM」、「HTS」の組み合わせは、敵にレーダーオフを強制する「SEAD(敵防空網制圧)」ミッションに適しています。一時的な航空優勢を確保でき、他の航空作戦も支援可能です。さらに「HTS」で得た位置情報を使えば、強力な爆弾で発射機などを攻撃する「DEAD(敵防空網破壊)」も可能です。
F-16導入がどの程度戦局に影響するかは現時点で断言できませんが、少数機であってもロシア側には脅威と映るでしょう。F-16の存在自体が、ロシアに地対空ミサイルの無闇な使用を控えさせる効果があるためです。
まとめ
- F-16は1970年代後半に開発が始まったものの、その後幾度もの改修を重ね、最新のアビオニクス(航空機に搭載される電子機器)、各種センサー、武装管理システムが搭載されている
- 単発エンジンのため運用コストが抑えられ、経済性に優れる。またオープンアーキテクチャ設計のため、ソフトウェア/ハードウェアの改修により、将来の任務や新兵器への対応力が高い
- 世界28か国以上で実際に運用されている実績があり、NATO加盟国機としても標準化が進んでいるため、ウクライナでの新規導入も比較的容易
- 運用経済性、将来の拡張性、NATO機準との整合性に優れており、ウクライナへの供与機として最適な選択肢となっている
- ウクライナ軍はiPadなどの民間タブレットを戦闘機に搭載することで、コストを抑えつつ柔軟に西側からの高性能兵器システムを運用してきたがその限界もあったが、F16の導入でそれも撤廃され戦況を好転させる可能性がある
F-16は1970年代後半に開発が始まった古くからの戦闘機ですが、これまで幾度もの改修を重ね、最新のアビオニクス(航空機)に搭載され飛行のために使用される電子機器、センサー、武装管制システムなどを搭載しています。
単発エンジンのため経済的で、メンテナンス性にも優れています。さらにオープンアーキテクチャ設計を採用しているため、ソフトウェア/ハードウェアの改修により、将来の任務や武器への対応力も高いのが特徴です。
加えて、28か国以上の実績があり、NATO機としての標準化も進んでいることから、ウクライナでの新規運用も比較的容易と見込まれています。経済性と拡張性、整合性に優れた機体であり、ウクライナへの最適な選択肢となっているのです。
さて、F16に搭載されている「HARM」に関しては、上の記事では、「ウクライナ既存機のMiG-29とは相性が悪く、運用が限定的でした」としています。ということは、限定的ながらも使っていいたということです。
ウクライナ軍は、アメリカから供与された対レーダーミサイルHARMを使用するため、Su-27やMiG-29戦闘機のコックピットに改造してiPadのタブレットを設置している(写真下)のです。このタブレットには航空地図や標的識別情報が表示され、HARMミサイルの発射時に火器管制に使われていることが動画で確認されています。
ウクライナ軍のミグ19のコクピットに搭載されたiPadとみられるタブレット端末 |
国防当局者の発言により、このタブレットによる火器管制はHARMだけでなく、米国製の精密誘導爆弾JDAMやフランス製の通常弾精密誘導モジュールAASMなど、西側から供与された複数の兵器でも行われていることが明らかになりました。さらに今後、イギリスからJDAMと同様の精密誘導装置の供与も予定されており、タブレット活用はさらに広がる可能性があります。
戦場でのタブレット活用は火器管制だけにとどまらない。ウクライナではドローン制御の様々な場面でもタブレットが不可欠な道具となっています。また、米陸軍でも無人機からの火力支援をタブレットで行えるシステムを開発するなど、現代の戦場においてタブレットは欠かせない存在になりつつあります。
軍用機に民間のタブレットを改造して搭載するという発想の転換により、ウクライナはコストを抑えつつ、柔軟に西側の高性能兵器を運用できるようになりましたた。戦略的にも戦術的にも、タブレット活用は大きな効果を発揮していると言えます。
ただし、分かりました。文章形式で再度まとめます。
iPadなどのタブレットを、もともとは専用の火器管制システムと連携するよう設計されたHARMなどの兵器に後付けで使うことには、設計上の制約から使い勝手が大きく限定されてしまいます。
兵器システムは、コックピットに統合された専用の火器管制システムを前提に設計されており、レーダー、ナビゲーションデータ、各種センサーなどの情報が一元的に集約され、パイロットに適切に提示されるよう最適化されています。
しかしiPadはあくまでタブレットPCであり、兵器との連携は考慮されていません。そのため、情報の集約と表示が不十分になったり、操作性やユーザーインターフェースが非最適になる可能性があります。
また、センサーやナビゲーションとのデータ連携が限定的になる上、各種モードや安全機構の統合も困難です。つまり、専用システムに比べてiPadを使った運用では、情報の収集、判断、命令実行の一連の流れがスムーズに行えず、パイロットへの過剰な負荷や操作ミスのリスクが高まってしまうのです。
さらに、iPadは汎用品なので、兵器固有の高度な機能を最大限活用することもできません。機能面での制限に加え、セキュリティや安全性についても専用システムほど保証されません。緊急避難的な一時的な対応にはなり得ますが、iPadを統合的な火器管制システムの代替とするには多くの問題があり、長期的で本格的な運用は極めて難しいと考えられます。
さらに、iPadは汎用品なので、兵器固有の高度な機能を最大限活用することもできません。機能面での制限に加え、セキュリティや安全性についても専用システムほど保証されません。緊急避難的な一時的な対応にはなり得ますが、iPadを統合的な火器管制システムの代替とするには多くの問題があり、長期的で本格的な運用は極めて難しいと考えられます。
ただし、汎用のタブレット端末を前提として設計された兵器システムは、開発コストの大幅な削減が期待できます。高価な専用コンポーネントを用いる必要がなく、民生品のタブレットを活用できるためです。さらに短いサイクルでのソフトウェア更新が可能になり、機能拡張や性能向上、セキュリティ対策の素早い適用など、機動的な能力強化が図れます。
また、タブレットならば直感的な操作性とシンプルなUIを実現しやすく、操作者の訓練負担を大幅に軽減できます。さらに、同じタブレットベースのシステムであれば、戦闘機、ドローン、艦艇などさまざまなプラットフォームで共通の操作手順が適用できるメリットもあります。
一方で、専用設計のシステムに比べるとセキュリティ面での課題はありますが、適切な対策を講じることで十分に対応可能と考えられています。むしろ迅速なソフトウェア更新によるリスク低減が期待できます。
このように、安価で機動的、かつ汎用性の高いタブレットベース兵器システムは、コストパフォーマンスに優れている点から、今後ますます多くの軍隊に普及していくと予想されます。
戦場で用いられるタブレット端末 |
さてF16がウクライナ軍に配備されれば、HARMの性能を遺憾なく発揮できるわけですが、これが与える戦況への影響を以下にあげます。
- ロシアの地対空ミサイル施設への攻撃が容易になる F-16には「HARMターゲティングシステム(HTS)」が搭載されており、ロシアの地対空ミサイルレーダーの位置を正確に特定し、HARMで攻撃できます。これにより、ロシアの重要な防空施設を効率的に無力化できるようになります。
- ウクライナの航空優勢の確保が期待できる 地対空ミサイルの脅威が低下すれば、ウクライナ空軍の他の航空機の運用範囲が広がります。これにより、爆撃や偵察、航空支援など、航空力を最大限に活用した作戦が可能になります。
- 上の記事にもあるように、ロシア側の行動が制約される F-16/HARMの脅威を認識したロシア側は、地対空ミサイルの無秩序な運用を控えざるを得なくなります。これにより、ロシア側の機動性と対空防御能力が低下する可能性があります。
- 戦線の膠着状況が打破される これまで双方の対空能力の高さから、航空機の効果的な運用が制限されていましたが、F-16/HARMによってその状況が変わる可能性があります。これが新たな地上での突破口を開く契機となるかもしれません。
- 和平交渉の発言力が高まる ウクライナ側が航空優勢を確保できれば、交渉力の源泉となり、有利な和平条件を引き出せる可能性が高まります。
当初、西側諸国はロシアの過度な反発による戦争のエスカレーションを恐れ、F-16などの最新鋭戦闘機をウクライナに直接供与することには慎重でした。また、ウクライナ側にF-16を運用する十分な訓練基盤や整備体制がなかったことも理由の一つです。
一部NATO加盟国の難色もあり、旧式機から段階的に武器供与を強化する方針を取らざるを得ませんでした。しかし戦況が長期化する中で、ウクライナの航空力の抜本的強化が不可欠となり、エスカレーションリスクを承知の上でF-16供与に踏み切る決断を下したと考えられます。
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