2024年6月2日日曜日

ウクライナ、対ロシア逆襲へ転換点か 米国、供与した兵器でロシア領内の軍事拠点への限定攻撃を容認―【私の論評】経済が弱ければ、安保でも自国路線を貫けない

ウクライナ、対ロシア逆襲へ転換点か 米国、供与した兵器でロシア領内の軍事拠点への限定攻撃を容認

まとめ
  • 米国の方針転換:バイデン大統領が、ウクライナによる米国製兵器を使ったロシア国境付近の軍事拠点への限定攻撃を容認。これまでの「レッドライン」方針からの大きな転換。
  • 攻撃対象と制限:ハリコフ州周辺のロシア領内で、出撃準備中の部隊や司令部、武器庫などが対象。民間施設や遠方の軍事拠点は除外。
  • ウクライナと欧州の反応:ウクライナは歓迎し、民間人保護の手段と評価。英国、フランス、ドイツなど欧州諸国も支持を表明。
  • 軍事的・政治的な意義:ウクライナ東部での劣勢挽回と民間人保護が狙い。ロシアの勝利は「独裁国家連合」形成につながると警告。
  • 今後の焦点:ウクライナはF16戦闘機の早期配備を要求。米国の決定が戦局や国際関係に与える影響に注目。
 バイデン米大統領は、ウクライナが米国から供与された兵器を使ってロシア国境付近の軍事拠点を限定的に攻撃することを容認した。これは、戦術核兵器による威嚇を繰り返すロシアへの刺激を避けるために、これまでロシア領内への攻撃を「レッドライン」としていた方針からの大きな転換点となる可能性がある。

ウクライナ東部方面に展開する、ロシア軍兵士

 この決定は、ウクライナ東部ハリコフでのロシア軍の攻勢継続や、英国のキャメロン外相やフランスのマクロン大統領など欧州同盟国からの圧力を受けたものだ。攻撃対象はハリコフ州周辺のロシア領内で、ウクライナ領への出撃やその準備を進める部隊や司令部、武器庫などに限定され、大砲やハイマースで攻撃する。一方、民間施設や国境から離れた軍事拠点は対象外とされる。

 ウクライナのレズニコフ前国防相はこの判断を歓迎し、ロシア側の軍事拠点を攻撃できれば民間人の犠牲を減らす有効な手段になると強調した。また、ロシア軍の制空権に対抗するためF16戦闘機の早期配備を求めた。さらに、ロシアの勝利を許せば「独裁国家連合」が世界中で形成されると警告し、ウクライナ支援の重要性を訴えた。

 ドイツ政府も同様に、供与した兵器でのロシア領内攻撃をウクライナに許可し、「ウクライナには自衛権がある」と表明した。NATOのストルテンベルグ事務総長も、この立場を支持している。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をごらん下さい。なお、「まとめ」は、元記事を箇条書きにまとめたものてす。

【私の論評】経済が弱ければ、安保でも自国路線を貫けない

まとめ
  • 2022年ウクライナは長距離ドローンでロシア国内の空軍基地を攻撃し、ロシアの防空網の脆弱さを露呈させた。
  • ウクライナは国連憲章第51条に基づく自衛権や国際法を根拠に、ロシア領内の軍事施設を攻撃できる。
  • しかし、その攻撃がロシアの核使用を誘発する可能性を懸念し、西側諸国はウクライナにロシア領内への攻撃を控えるよう促してきた。特に西側諸国の武器を用いてこれを実行することを制限してきた。
  • ロシア軍は弾薬庫や補給拠点をロシア領内に配置し、重要な物資を安全に保ちながら効率的な補給を行うようになった。そのため西側諸国は、制限を緩和しつつある。
  • ウクライナは高い技術力を持つが、経済的には脆弱で西側諸国の援助がなければ戦争を継続できず、その制限に従わざるを得ない。そのような制限ない台湾とは対照的である。
ウクライナは、自前の兵器でロシア領内、それもかなりの奥地まで攻撃したこともあります。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
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ロシア領内を攻撃するために持ちられた可能性のあるソ連製の偵察用無人機「ツポレフ141」

この記事の元記事の内容を要約して以下に掲載します。

ウクライナの長距離ドローンがロシア国内の重要な空軍基地2カ所を攻撃し、戦争は新局面を迎えた。攻撃には旧ソ連時代の無人機かウクライナ製の最新兵器が使われた可能性がある。

この事件はロシアの防空網の脆弱さを露呈させ、ウクライナは航続距離1000kmの新型ドローンでロシア国内のあらゆる標的を攻撃できると示唆。「ロシアに安全地帯はなくなる」と警告している。モスクワも攻撃圏内だが、専門家は戦術核使用を避けるため軍事目標のみを攻撃すべきだと助言。米国はこの攻撃を国際法に合致するものとして是認している。 

この記事を元記事とした【私の論評】の内容の要約を以下に掲載します。 

ウクライナのクレバ外相とドイツのホフマン第一副報道官は、国連憲章第51条に基づく自衛権を根拠に、ウクライナがロシア領内の軍事施設を攻撃する権利があると主張しています。国際法は戦争を禁止していますが、侵略を受けた国家には自衛権が認められています。しかし、国連の集団安全保障体制はロシアの拒否権により機能不全に陥っており、国際司法の手続きも関係国の同意に左右されるため、国際機関を通じた解決は困難です。

その中で、軍事力で劣るはずのウクライナがロシア領内の軍事目標に大々的な攻撃を行い、成功を収めたことが注目されています。実は、ウクライナはソ連時代から高い技術水準を持ち、兵器開発や宇宙開発に貢献し、中国の軍事技術の基礎も築いた実績があります。その技術力を駆使して個別的自衛権を行使することは、ある意味必然だったのです。

さらに、この攻撃はロシアによる核攻撃や生物化学兵器の使用を未然に阻止する意味合いもあると考えられます。ウクライナは、元々腐敗と混乱の中にありましたが、皮肉にもロシアの侵略によって、今や技術力を最大限に生かしてロシア国内を攻撃する強敵に変貌したのです。
ウクライナの攻撃で破壊されたロシアの戦略爆撃機の尾部

上の記事にもあるように、国際法は戦争を禁止していますが、侵略を受けた国家には自衛権が認められています。ウクライナがロシア領内の軍事目標などを攻撃することは、国際法上なんの問題もありません。

ただ、こうした攻撃がその後行われていないですが、それには以下のような理由があると考えられます。

このときロシア領内の攻撃は、核兵器搭載可能な戦略爆撃機が配備されている基地を狙ったものでした。これは、ロシアの核戦力を弱めるとともに、核使用の意図があればそれを思いとどまらせる強い警告を発する意図があったと考えられます。この点で、攻撃は一定の効果を上げたと見られます。

しかし、このような攻撃を継続すれば、プーチン大統領を追い詰め、逆にロシアの核使用を誘発する危険性があります。西側諸国は、ロシアを窮地に追い込みすぎることは危険と考えたのでしょう。

そのため、西側諸国はウクライナに対し、ロシア領内への攻撃の継続を控えるよう働きかけていたのです。あくまで、核使用を未然に阻止する抑止の手段としてのみ、このような攻撃を容認したのでしょう。ウクライナも、国際社会からの継続的な支援を得るには、西側諸国のこの懸念に配慮せざるを得なかったのでしょう。

もう一つの可能性としては、やはり資源の問題があると考えられます。

ロシアとの長期戦の中で、ウクライナの産業基盤は大きな打撃を受けていると考えられます。加えて、彼らは現在「ロシア軍の攻勢に苦戦」しており、限られた資源の多くを防衛に振り向けなければならない状況です。

このような精密な長距離攻撃には、高度な技術と大量の資源が必要です。ロシア領内の軍事拠点を正確に特定し、長距離飛行能力と高い誘導精度を持つドローンを多数製造する必要があります。

さらに、攻撃が成功したとしても、ロシアの戦略爆撃機のような高価値目標を一機破壊するのに、多数のドローンを失う可能性があります。そうなると、費用対効果の面で「割に合わない」ということになります。

ウクライナにとって、このようなハイリスク・ハイリターンの作戦を大々的に継続することは、技術的にも物質的にも現実的ではないでしょう。むしろ、この種の攻撃を戦略的に重要な場面に限定し、主力は防衛と反撃に注ぐことが賢明な選択だと考えられます。

こうしたことが相まって、ウクライナはロシア領内深くにまで、攻撃の範囲を広めることはやめたと考えれます。

ただロシア領内の比較的国境に近いウクライナ戦争のためのロシアの兵站基地、軍事拠点などの重要施設などを西側の長距離攻撃可能な武器で攻撃したいというのは当然の要求であり、これまで禁止すれば、当然のことながら、ロシア側はこれを利用して有利な展開ができます。

これに関してロシア側の軍事行動は「ちぐはぐ」であり、この有利さを認識していたとはとても思えません。ロシア軍の最も顕著な「ちぐはぐ」な軍事行動は、開戦初期のキーウ攻略作戦の失敗です。

電撃戦で首都を早期に陥落させる計画でしたが、兵站の確保が不十分で、前線の部隊は物資不足に陥りました。さらに、ウクライナ国民を解放者として歓迎すると思い込んでいるふしがありましたが、実際には強い抵抗に遭いました。

結果、ロシア軍は戦術を180度転換し、ドンバスへの戦線縮小を余儀なくされました。現場の実態を正しく把握せず、誤った前提で作戦を展開した典型例と言えるでしょう。

しかし、このロシア軍も戦争を継続するうちに、経験知がついてきたようで「ちぐはぐ」さ自体は今でもあまり変わってはいないようですが、少なくともウクライナ側がロシア領内を攻撃しないということを逆手に取ることはできるようになったようです。

具体的には、弾薬庫や補給拠点をロシア領内に配置しています。これにより、重要な物資を安全に保ちながら、前線への効率的な補給を行うことが可能になっています。ロシア軍は、ウクライナの攻撃範囲外にこれらの拠点を設置することで、物資の破壊リスクを減らし、迅速な供給を実現しています。この戦略は、ロシア軍にとって安全性と補給効率を高め、国際的な反発を避ける利点があります。

だからこそ、これに対する攻撃は、西側諸国も容認すべきと考えるに至ったのでしょう。

ウクライナは、技術力がありながらも、その実体は発展途上国といって良い状況であり、西側諸国からの援助がないと戦争を継続できません。西側諸国が、兵器使用の制限を設ければ、それに従わざるを得ません。しかし、その制限が緩んできたため、これからはウクライナにとって有利な展開も期待できます。

台湾の自主開発による長距離ミサイル

しかし、世界には似た境遇にありながらウクライナよりははるかに資源の制約が少なく、西側諸国の兵器使用の制限(特にミサイル)のない国もあります。それがまさしく台湾です。台湾は、知陽距離ミサイルの他、潜水艦も自主開発しています。これについては、昨日のブログに掲載したばかりです。興味のあるかたは、是非こちらの記事もご覧になって下さい。

台湾の一人当たりGDPは約33,000ドル、ウクライナの一人当たりGDPは約4,000ドルです。桁が違います。一方人口は、最新の人口データによると台湾は 約2,350万人、ウクライナは約3,700万人(戦争による影響で変動があります)これらの数字は2023年時点の推定値です。

この違いをみていると、安保には技術力、軍事力だけではなく、経済も大きな要素であることが理解できます。いかなる国も経済をおろそかにしていれば、安保にも悪影響があることを理解すべきであり、それは日本も例外ではありません。

財務省のいいなりで、防衛費を増税で賄うような馬鹿真似をすれば、いずれ経済が弱り、その結果としてウクライナのような運命をたどることになるかもしれないです。いまはまさにその瀬戸際なのかもしれません。

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