まとめ
- 台湾の顧立雄国防部長は、中国の原子力潜水艦が台湾海峡で浮上した写真が公開されたことについて、状況を注視し、冷静に対処する必要があると述べた。
- 顧氏は、中国の継続的な軍事的嫌がらせに警戒し、台湾は挑発せず、中国に対してもトラブルメーカーにならないよう求めた。
台湾の顧立雄国防部長 |
台湾メディアは、台湾西岸から約200キロメートル離れた地点で浮上した潜水艦の写真を公開し、これは「晋級」戦略原潜とみられます。顧氏は情報を把握しているとしつつ、監視方法や詳細については言及を避けました。
また、中国の継続的な軍事的嫌がらせに警戒し、冷静に対処する必要があると強調し、台湾は挑発せず、中国に対してもトラブルメーカーにならないよう求めました。
この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧下さい。
潜水艦の隠密性はその存在理由の一つであり、通常はその行動が公にされることはほとんどありません。米国の戦略原潜の位置は、米軍のトップですら知らないことがあるほどです。したがって、中国の原子力潜水艦が浮上し、その写真が公開されたことは非常に異例な行動といえます。これは、潜水艦の隠密性を損なう行動であり、通常の軍事運用から大きく逸脱しています。
台湾の西側に位置する台湾海峡は、比較的浅い海域です。台湾海峡の大部分は水深が50~100メートル程度であり、澎湖列島と台湾島との間にある澎湖水道が最も深く、水深は100~200メートルに達します。
【私の論評】中国潜水艦の浮上は情報戦の一環、台湾海峡の軍事的現実
まとめ
- 潜水艦の行動が公にされることはほとんどなく、中国の原子力潜水艦が浮上し写真が公開されたのは非常に異例で、情報戦の一環と考えらる。
- 台湾海峡は水深が50~100メートルと浅く、平坦な海底地形であり、潜水艦の隠密行動には不向き。
- 台湾海峡は強い海流や霧、台風の影響を受けやすく、多くの商船や漁船が行き交うため、潜水艦の隠密行動が難しい。
- 台湾軍は一定以上の対潜水艦戦能力(ASW)を有しており、アクティブ・ソナーを用いて浅い海に潜む潜水艦を探知・攻撃でき、魚雷や爆雷で中国の潜水艦を駆逐でき。
- 以上を考慮すると、中国の狙いは海上封鎖のイメージを植え付けて台湾の独立主張を抑えることであり、今回の潜水艦の浮上は情報戦の色彩が強い行動といえる。
中国の「普型戦略原潜」 |
台湾の西側に位置する台湾海峡は、比較的浅い海域です。台湾海峡の大部分は水深が50~100メートル程度であり、澎湖列島と台湾島との間にある澎湖水道が最も深く、水深は100~200メートルに達します。
台湾付近の海底を示す地図 青色が濃いほうが水深が深い |
一方、台湾の東側の海域は急激に深くなります。沿岸からすぐに水深が2000メートルに達することがあり、深海が広がっています。このように、台湾の西側と東側では海域の水深に大きな違いがあります。
先にあげたように、台湾海峡の浅い水深(50~100メートル程度)と平坦な海底地形は、潜水艦の隠密行動に不向きです。浅い海域では航空機や衛星、ソナーによる探知が容易であり、潜水艦の機動も制約されます。
さらに、強い海流や霧、台風の影響を受けやすい環境も潜水艦の行動に不利です。加えて、台湾海峡は国際的な海上交通の要所であり、多くの商船や漁船が行き交うため、隠密行動が難しくなります。
中国と台湾の間の緊張が高い地域であり、両国の軍事的プレゼンスが強いため、潜水艦の行動が容易に発見されるリスクもあります。これらの理由から、台湾海峡は潜水艦の作戦行動に適していないと考えられます。
先にあげたように、台湾海峡の浅い水深(50~100メートル程度)と平坦な海底地形は、潜水艦の隠密行動に不向きです。浅い海域では航空機や衛星、ソナーによる探知が容易であり、潜水艦の機動も制約されます。
さらに、強い海流や霧、台風の影響を受けやすい環境も潜水艦の行動に不利です。加えて、台湾海峡は国際的な海上交通の要所であり、多くの商船や漁船が行き交うため、隠密行動が難しくなります。
中国と台湾の間の緊張が高い地域であり、両国の軍事的プレゼンスが強いため、潜水艦の行動が容易に発見されるリスクもあります。これらの理由から、台湾海峡は潜水艦の作戦行動に適していないと考えられます。
中国が台湾海峡という潜水艦の行動には不向きな海域で潜水艦を浮上させたことは、軍事的な意味よりも情報戦(認知戦)の一環と考えられます。このようなところに、戦略原潜を配置するようなことは考えられず、しかも浮上してみせるなど軍事上非常識といっても良いです。わざわざ標的として差し出しているようなものです。
このブログでも述べたように、台湾軍の強力な対艦・防空ミサイルにより、中国軍が実施した台湾包囲演習のように台湾を包囲する軍事作戦は、現実には困難です。よって、包囲演習は、現実的なものというよりは、情報戦争の一環とみるべきです。
一方潜水艦に関してはどう見るべきなのでしょうか。確かに、潜水艦は浮上しているときは対艦ミサイルなどで攻撃が可能ですが、水中に潜っているときは魚雷や爆雷などを用いないと攻撃できません。
しかし、台湾軍は対潜水艦戦(ASW)能力を持っており、比較的浅い海に潜む潜水艦を確実に攻撃することができます。対潜戦では、ソナーを用いて潜水艦を探知し、航空機や水上艦から対潜兵器を発射して攻撃できます。
台湾海峡のような浅海域では、アクティブ・ソナーが有効であり、台湾軍はこれを活用して潜水艦を探知・追尾することが可能です。これは、パルス状の音波を発射し、反射音を受信して標的の位置を特定する技術です。
しかし、台湾軍は対潜水艦戦(ASW)能力を持っており、比較的浅い海に潜む潜水艦を確実に攻撃することができます。対潜戦では、ソナーを用いて潜水艦を探知し、航空機や水上艦から対潜兵器を発射して攻撃できます。
台湾海峡のような浅海域では、アクティブ・ソナーが有効であり、台湾軍はこれを活用して潜水艦を探知・追尾することが可能です。これは、パルス状の音波を発射し、反射音を受信して標的の位置を特定する技術です。
台湾は、自主開発した潜水艦もありますが、このような浅い海域では、台湾側も潜水艦を用いることは危険であり、台湾軍はこの海域では潜水艦を用いずに、中国潜水艦を攻撃することでしょう。それでも十分に対処できます。
中国の狙いは、海上封鎖のイメージを植え付けることで台湾の独立主張を思いとどまらせることにあると考えられます。実際の軍事作戦としては、たとえ中国がこの海域に潜水艦を投入したとしても、機雷散布や対潜水艦作戦などの他の封鎖手段をしたとしても、台湾軍の能力を考えると実行が難しいです。したがって、今回の潜水艦の浮上は、軍事的現実性よりも情報戦の色彩が強い行動といえます。
無論だからといって、台湾有事が皆無と言っているわけではありません。台湾は、昔から軍事的にも地政学的にも、重要拠点であることには変わりはなく、これが中国の傘下に入ってしまえば、インド太平洋地域の軍事バランスは一気に崩れ日米は不利になり、中国には有利になります。これを中国がなんとしても、あらゆる手段を講じて手に入れたいと考えていることだけは間違いありません。
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