まとめ
- バイデン政権の610億ドルの軍事支援とATACMSミサイルの到着により、ウクライナはクリミア内のどの目標も攻撃可能となり、ロシアの軍事インフラが脅かされている。
- ウクライナの作戦は、クリミアをロシア軍にとって居住不可能な場所にしつつあり、黒海艦隊の半分の行動力を奪い、残りの艦隊をロシア本土に避難させた。
- クリミアはロシアにとって守るべきものが多すぎて弱点となっており、将来の譲歩を引き出すための圧力をかける最善の道を提供している。
- プーチンにとってクリミアを失うことは心理的に受け入れがたく、核兵器の使用を含めた極端な対応に出る可能性がある。
- 2014年のクリミア併合の成功体験がプーチンをウクライナ侵攻に向かわせたが、クリミアでのウクライナの反撃が戦争の終わりに貢献する可能性がある。
Economist誌は、ウクライナがクリミアでロシアに対して優位に立っていると報じている。バイデン政権の610億ドルの軍事支援パッケージが大きな影響を与えており、特に射程300キロメートルのATACMSミサイルの到着により、ウクライナはクリミア内のどの目標も攻撃可能となった。さらに、バイデン大統領がロシアの核のエスカレーションを懸念して課していた制約を緩和したことも重要な意味を持つ。
ウクライナの作戦は、クリミアをロシア軍にとって駐留が不可能な場所にしつつある。プーチン大統領はクリミアをロシア本土とつなぐケルチ橋を建設し、クリミアを不沈空母と見なしていたが、その軍事インフラは現在脅かされている。英国の戦略家ローレンス・フリードマンによれば、クリミアはロシアにとって守るべきものが多すぎて弱点となっており、将来ウクライナがロシアの譲歩を引き出すための圧力を最もかけやすい地域になっている。
ウクライナはクリミアをプーチンにとって資産ではなく重荷にすることを目指しており、クリミアを孤立させ、南部ウクライナからロシアの海・空戦力を追い出し、兵站を窒息させることを狙っている。ウクライナは既に無人機とミサイルにより、黒海艦隊の半分の行動力を奪い、残りの艦隊はロシア本土のノヴォロシースク港に避難している。ウクライナはクリミアのジャンスコイ空軍基地やベルベクの空軍基地などのロシアの軍事拠点にATACMS攻撃を加え、大きな被害を与えている。
NATO同盟国の衛星情報や空中偵察、ウクライナ側の深い知識と地上の秘密部隊により、ウクライナはロシア軍のすべての動きを把握している。ATACMSの到着とウクライナの無人機の性能向上により、クリミアでの航空機、道路や鉄道は射程内にある。クリミアの空軍基地もウクライナ側の攻撃の対象となっており、防空のためのS-400システムも攻撃されている。ホッジ将軍によれば、ウクライナ側はケルチ橋を取り壊すことに自信を持っている
クリミアはロシアにとっての戦略的資産から戦略的重荷になってきており、プーチンにとってクリミアを失うことは心理的に受け入れがたいことだ。プーチンは核兵器の使用を含め、極端な対応に出る可能性もある。プーチンをどう抑止するか、米国を含む西側の対応をシミュレーションしておく必要がある。
プーチンをウクライナ侵攻に向かわせたのは2014年のクリミア併合の成功体験であり、ウクライナ侵攻も同じように簡単にできると考えたからだ。クリミアでのウクライナの反撃がこの戦争の終わりに貢献するのであれば、皮肉な結果となるだろう。
この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。「まとめ」は元記事の要点をまとめたものです。
【私の論評】狂人理論の実践とその影響:ヒトラー、スターリンからプーチンまで
まとめ
- 狂人理論は、指導者が予測不可能で危険な人物であると見せかけることで、相手国を威嚇し譲歩を引き出す戦略である。
- この理論はヒトラー、スターリンなども使用したとされ、ニクソン大統領がベトナムやソ連に対して用いた。トランプ大統領も用いたとされている。
- 狂人理論の有効性には疑問が呈されており、相手国が正確にメッセージを受け取らない、信頼しない、屈服しないなどの理由で失敗することがある。
- この戦略は一貫した行動パターンではなく、状況に応じて選択的に用いられる外交・軍事戦術の一つである。
- プーチン大統領の最近の発言も狂人理論の適用と解釈できるが、欧米諸国はこれに過剰反応せず、冷静に対応すべきである。
上の記事の最後の部分で、「プーチンは少しおかしくなっている気がする」としていますが、これは典型的なプーチンによる「狂人理論」の適用ではないかと思われます。
リチャード・ニクソン米大統領 |
狂人理論(Madman Theory)とは、リチャード・ニクソン米大統領の外交政策において重要な役割を果たした戦略です。この理論は、指導者が予測不可能で危険な人物であると見せかけることで、相手国を恐れさせ、譲歩を引き出すことを目的としています。ニクソンは、特にベトナム戦争の際にこの戦略を用い、北ベトナムに対して自分が核兵器を使用する可能性があると信じさせようとしました。
狂人理論の基本的な考え方は、相手に「何をするかわからない」と思わせることで、相手の行動を制約し、自国に有利な状況を作り出すことです。ニクソンは、ソ連や北ベトナムに対して自分が予測不可能であると見せかけることで、交渉を有利に進めようとしました。
しかし、この理論の有効性には疑問が呈されています。専門家によれば、狂人理論が失敗する理由として、ターゲットとした国家が「狂人」のメッセージを正確に受け取らない、信頼できるものと見なさない、または将来の行動について確証を得られないため屈服しないことが挙げられます。
近年では、ドナルド・トランプ大統領もこの理論を用いたとされています。トランプは、予測不可能な行動を取ることで、他国に対して圧力をかけ、交渉を有利に進めようとしました。例えば、日本の安倍晋三元首相は、トランプの狂人理論に影響を受けたとされ、トランプの予測不可能な行動に対して対応を迫られました。
安倍晋三元首相は、トランプ大統領の狂人理論に対して、慎重かつ戦略的に対応しました。安倍氏は、トランプの予測不可能な行動に対して、柔軟かつ迅速に対応することで、日米関係を安定させることを目指しました。
ゴルフに興じるトランプ米大統領と安倍首相 |
具体的には、安倍氏はトランプとの個人的な信頼関係を築くことに注力し、頻繁に会談や電話会談を行うことで、トランプの意図を把握し、適切な対応を取るよう努めました。また、安倍氏はトランプの政策に対しても柔軟に対応し、例えば貿易問題や安全保障問題において、トランプの要求に対して一定の譲歩を行う一方で、日本の利益を守るための交渉も行いました。
このように、安倍氏はトランプの狂人理論に対して、冷静かつ戦略的に対応することで、日米関係を安定させることに成功しました。
ヒトラーとスターリンも、特定の状況下で狂人理論を効果的に用いていました。ヒトラーは、1938年のミュンヘン会談でチェコスロバキアのズデーテン地方の割譲を要求し、戦争も辞さない姿勢を示すことでイギリスとフランスに譲歩を強いることに成功しました。
ヒトラーとスターリンも、特定の状況下で狂人理論を効果的に用いていました。ヒトラーは、1938年のミュンヘン会談でチェコスロバキアのズデーテン地方の割譲を要求し、戦争も辞さない姿勢を示すことでイギリスとフランスに譲歩を強いることに成功しました。
また、1939年のポーランド侵攻では、西側諸国が介入しないだろうと計算しつつ、極端な行動を取る用意があることを示しました。これらの行動は、狂人理論の典型的な適用といえます。
一方、スターリンも特定の状況下で狂人理論を活用していました。1948年から1949年にかけてのベルリン封鎖では、西ベルリンへのアクセスを遮断し、核戦争の可能性すら示唆しました。これは西側諸国に対する極端な圧力戦術であり、狂人理論の要素を含んでいます。
一方、スターリンも特定の状況下で狂人理論を活用していました。1948年から1949年にかけてのベルリン封鎖では、西ベルリンへのアクセスを遮断し、核戦争の可能性すら示唆しました。これは西側諸国に対する極端な圧力戦術であり、狂人理論の要素を含んでいます。
また、1950年から1953年の朝鮮戦争では、スターリンは北朝鮮の南進を支持し、アメリカとの直接対決の可能性を示唆しました。これも予測不可能で危険な行動を取る用意があることを示す狂人理論の適用といえます。
ヒトラーとスターリンは、常に狂人のように振る舞っていたわけではありませんが、特定の外交・軍事的局面において狂人理論を効果的に用いていました。彼らは、予測不可能で極端な行動を取る用意があることを示すことで、相手国を威嚇し、譲歩を引き出そうとしました。
ヒトラーとスターリンは、常に狂人のように振る舞っていたわけではありませんが、特定の外交・軍事的局面において狂人理論を効果的に用いていました。彼らは、予測不可能で極端な行動を取る用意があることを示すことで、相手国を威嚇し、譲歩を引き出そうとしました。
このように、狂人理論は一貫した行動パターンではなく、状況に応じて戦略的に適用される外交・軍事戦術の一つであることが明確になります。ヒトラーとスターリンの事例は、狂人理論が強力な指導者によって、特定の目的を達成するために選択的に用いられる可能性を示しています。
また、プーチンの発言は、国内外の支持を得るためのプロパガンダの一環としても解釈できます。ロシア国内での支持を維持するために、強硬な姿勢を示すことが重要であり、そのために過激な発言を行うことがあります。
しかし、これが実際の政策に反映されるかどうかは別問題です。欧米諸国は、プーチンの発言を冷静に分析し、過剰に反応することなく、国際法に基づいた対応を続けるべきです。プーチンの狂人理論的な発言に振り回されることなく、ウクライナ支援を継続し、国際社会の結束を強化することが重要です。
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