2024年6月3日月曜日

米、中国企業・銀行に措置も ロシアの戦争支援巡り=国務副長官―【私の論評】中国経済の窮地がロシア支援を左右、財布と面子を両天秤にかける中国

米、中国企業・銀行に措置も ロシアの戦争支援巡り=国務副長官

まとめ
  • キャンベル米国務副長官が、ロシア支援の中国企業・金融機関への制裁を示唆
  • 米国だけでなく、他国も中国のロシア支援に対して措置を取る可能性
  • 欧州とNATO諸国に、中国への共同懸念表明を要請
  • 日米韓外務次官協議で、中国のロシア支援を非難
  • 年内の日米韓首脳会談に向けた準備として、3カ国協議を位置付け

キャンベル米国国務副長官

 キャンベル米国務副長官は、ロシアの戦争を支援する中国企業や金融機関に対する制裁措置を検討していることを明らかにしました。

 この発言は、日米韓3カ国の外務次官協議で行われました。キャンベル氏は、米国だけでなく他の国々も中国のロシア支援に対して措置を取る可能性があると述べ、欧州とNATO諸国に中国への懸念表明を求めました。

 また、年内に予定される日米韓首脳会談の準備として、この3カ国協議を位置付けました。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。「まとめ」は元記事を箇条書きにしたものです。

【私の論評】中国経済の窮地がロシア支援を左右、財布と面子を両天秤にかける中国

まとめ
  • 中国は、ロシアに対して軍事関連物資、半導体、エネルギー設備、金融支援など、ロシアの軍事・経済力維持に不可欠な物資を提供。
  • 中国経済は、不動産バブル崩壊と西側諸国からの経済制裁により、経済成長率が低下し、失業率が高騰。
  • 中国のロシア支援は、戦略的パートナーシップよりも、経済的窮地からの脱却が主な目的。
  • 最近の中露のガスパイプライン交渉の行き詰まりは、中国の強硬な価格・購入量要求によるものであり、中国が経済的利益を最優先にしている証拠。
  • 米国の制裁により、中国はロシア支援を取りやめる可能性が高いが、国のプライドや政治的思惑も影響する。

中国によるロシアへの支援は、軍事関連物資、半導体や電子部品、エネルギー関連設備、金融支援など、多岐にわたっています。具体的には、ドローンや車両部品といった軍事利用可能な物資、制裁対象となっている高度な半導体技術製品、さらには石油・ガスの採掘・精製設備など、ロシアの軍事力と経済力を維持するのに不可欠な物資が提供されています。

金融面では、中国企業がロシア企業への投資を増やし、ルーブル建ての取引を拡大することで、国際的な金融システムから孤立したロシアを支援しています。

プーチンと習近平

しかし、この支援の背景には、戦略的パートナーシップ以上の、中国自身の経済的窮地を脱する狙いがあります。

中国経済は現在、二つの大きな問題に直面しています。一つは不動産バブルの崩壊です。中国は長年、不動産部門に依存した経済成長モデルを採用してきました。建設ラッシュと地価の高騰が経済を牽引し、地方政府は土地売却収入に依存していました。

しかし、この不動産バブルが崩壊し始め、大手デベロッパーの経営破綻や建設プロジェクトの停滞など、経済全体に深刻な影響を及ぼしています。

もう一つの問題は、西側諸国、特に米国からの経済制裁です。米中貿易戦争は関税引き上げによる輸出入の減少をもたらし、さらに米国は中国の技術発展を抑制するために、半導体など先端技術分野での制裁を強化しています。これらの制裁は、中国の産業界、特にハイテク産業に大きな打撃を与えています。

これらの要因により、中国の経済成長率は著しく低下し、一時は30年ぶりの低水準に落ち込みました。特に若年層の失業率が高騰し、大学卒業生の約5人に1人が職を見つけられない状況です。消費者信頼感は低下し、内需も伸び悩んでいます。


昨年3月31日、中国の鄭州大学で開催された合同企業説明会には就職先を求める学生が殺到

このような経済的窮地を脱するために、中国はロシアへの輸出拡大を重要な戦略と位置付けています。西側諸国の制裁によって孤立したロシアは、中国にとって格好の市場となっています。ロシアは制裁によって多くの国々から製品を輸入できなくなり、代替供給元を必要としています。一方の中国は、自国製品の新たな販路を求めています。

例えば、ロシア市場での中国車の販売は急増しており、ロシアの自動車市場における中国ブランドのシェアは、2022年に約5%だったものが2023年には約40%にまで拡大しました。同様の傾向は他の産業分野でも見られ、家電製品、建設機械、通信機器など、幅広い中国製品がロシア市場に流入しています。

つまり、中国のロシア支援は、単なる戦略的パートナーシップの表れというより、自国の経済的な苦境を乗り越えるための打開策としての側面が強いのです。ロシアへの軍事関連物資の提供は、確かに両国の戦略的な結びつきを示していますが、それ以上に、制裁下のロシアへの輸出拡大を通じて、中国は自国経済の回復と成長を図ろうとしているのです。

また、中国が明確に軍事目的の物資をロシアに提供しているとの証拠はまだ限定的です。「軍事利用可能な」物資という表現は適切ですが、直接的な武器供与の証拠は少ないのが現状です。パートナーシップ、特に軍事的なそれを重視するなら、直接的な武器・弾薬等の供与を重視するはずです。

以上ので述べたように、経済的動機が、中国のロシア支援を促進する主要な要因となっています。

このようなことを裏付けるようなことも発生しています。

中国との大型ガスパイプライン契約をまとめようとするロシアの取り組みが暗礁に乗り上げているというのです。ロシア政府は、ガスの取引価格と供給水準に関する中国政府の無理な要求が足かせになっていると見ています。

英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が2日、関係者3人の発言を引用して伝えました。 中国はガスの取引価格を、大幅な補助金が付いているロシアの国内価格に近づけるよう要請していました。

その半面、中国が表明している購入量は、建設を計画しているパイプラインの輸送能力の一部にとどまるというのです。 ロシアは同国産天然ガスを北部ヤマル半島からモンゴル経由で中国に輸送するパイプライン「シベリアの力2」(年間輸送能力500億立方メートル)の建設について何年も協議してきました。

ロシアのノバク副首相は先月、同パイプラインに関して同国と中国が「近い将来」契約を締結する見通しだと発言しました。


中国とロシアのガスパイプライン交渉の行き詰まりは、中国のロシア支援が経済的打開策としての側面が強いことを裏付けています。中国はロシアの国内価格に近い大幅な値引きを求め、さらにパイプライン能力の一部しか使用しない意向を示しています。

この強硬な姿勢の背景には、不動産バブル崩壊と西側諸国の制裁による中国経済の悪化があります。中国は、エネルギーコストを引き下げることで、製造業の競争力維持と消費の刺激を図ろうとしています。

この交渉は、中国がロシアの孤立を利用して、自国の経済的利益を最大化しようとしていることを象徴しています。中国のロシア支援は、戦略的パートナーシップというより、自国の経済的窮地を脱する手段としての性格が強いのです。

ちなみに北朝鮮のロシア支援も、中国と同様に、自国の経済的窮地を脱する手段としての性格が極めて強いと言えます。

長年の経済制裁、非効率な経済体制、コロナ禍による国境封鎖で、北朝鮮の経済は壊滅的状態です。この危機を乗り越えるため、北朝鮮はロシアに大量の弾薬を供給しています。見返りに、北朝鮮は食料、エネルギー、外貨、技術、インフラ支援など、生存に不可欠な資源をロシアから得ています。

金正恩総書記のロシア訪問も、この文脈で理解できます。北朝鮮は自国の軍事資産を、経済再建に必要な資源と交換しているのです。表面上は戦略的協力に見えますが、その本質は極めて切迫した経済的動機に基づいています。中国が経済回復と成長を目指すのに対し、北朝鮮は文字通りの経済的生存を賭けているのです。

米国が中国企業や銀行を制裁したら、中国はロシア支援をやめるでしょうか?可能性は高いです。

今、中国経済は不動産問題などで苦しい上、制裁が加われば更に悪化します。経済的に苦しい時、国のプライドより財布の心配が先に立つからです。

ただ、簡単には決められません。米国に屈するのは面子が立たず、長期的にはロシアとの関係も大事だと考えるかもしれません。また、制裁範囲次第で支援継続の余地もあります。

結局、中国は経済重視でロシア支援をやめたい、でも国のプライドや政治的思惑もあり、財布と面子、どちらを取るか最後まで悩むでしょう。米国としては、様子を見ながら、さらに制裁を強化するかどうか検討するでしょう。

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