2024年6月7日金曜日

【ウクライナ防衛が台湾の守護に?】ロシアの中国「属国化」への傾倒と、日本も取り組むべき3つのこと―【私の論評】ウクライナ・台湾問題に対処すべき自由主義陣営の共通の課題

【ウクライナ防衛が台湾の守護に?】ロシアの中国「属国化」への傾倒と、日本も取り組むべき3つのこと

岡崎研究所

まとめ
  • ウクライナ支援が台湾防衛につながり、中国の覇権主義への抑止力になる ・台湾の戦略的重要性は極めて高い(世界経済へのインパクト、海上交通路の要衝)
  • 中国は台湾に対し、軍事的威嚇、偽情報工作、選挙介入など多方面から圧力をかけている 
  • 民主主義国家は以下の3点で対処すべき 1.中国の威嚇行為への確実な対抗 2.台湾との経済統合の深化 3.台湾が中国の「一つの省」とする中国の主張への反対
  • 台湾の運命は日本を含めた民主主義国家の失敗が許されない重大な試練
台湾人義勇兵、曽聖光の追悼式で、ウクライナ国旗と台湾「国旗」を掲げる参列者='22年11月、ウクライナ西部リビウ

 2024年5月9日付のフォーリン・アフェアーズ誌で、Joseph Wu台湾外交部長(当時)は、「ウクライナ防衛による台湾防衛」と題する論説ウクライナ支援が実は台湾防衛につながり、中国の覇権主義に対する重要な抑止力になるという主張がなされている。

 グローバル化した現代世界において、各国の安全保障は密接に結びついているため、ロシアによるウクライナ侵攻を黙認すれば、次は中国による台湾侵攻が現実味を帯びてくる。

 中国とロシアが「制限のないパートナーシップ」を結んでいる以上、民主主義陣営も一致協力して対処する必要があり、ウクライナ支援を通じて中露連合に対する相対的な力を高められると指摘している。

 さらに、台湾の戦略的重要性が強く説かれている。仮に台湾有事となれば、世界経済に10兆ドル、つまり世界のGDPの約10%近くに相当する壊滅的な損失がもたらされる。また、主要な国際海上交通路の要衝でもあり、台湾海峡が遮断されればグローバルサプライチェーンに甚大な影響を与えかねない。

 こうした観点から、台湾防衛は単なる地域問題に留まらず、世界的な意味合いを持つ。一方の中国政府は、武力行使も辞さない姿勢を鮮明にし、台湾に対して軍事的威嚇、偽情報工作、選挙介入など様々な圧力を継続的にかけている状況にある。それに対し台湾側は、国を挙げて中国による軍事的侵攻に立ち向かう決意を固めている。

 そこで国際社会、特に民主主義国家に対し、中国の脅威に対処すべく3点の行動が求められている。第一に、中国の軍事的威嚇行為などに対し、それには必ず結果が伴うことを明確に示し、抑止力を働かせること。第二に、台湾との経済統合をいっそう深化させ、中国の経済的影響力を排除すること。第三に、台湾が中国の一部ではないことを認めた国連決議の精神に反する解釈に反対すること。

 台湾側が国防予算の大幅増額や徴兵期間延長など自助努力に乗り出していることにも言及し、「自衛への強いコミットメントがなければ、同盟国からの支援も望めない」とのウクライナからの教訓を強調している。そして結論として、台湾の運命がウクライナ同様、民主主義国家が失敗を許されない極めて重要な試練であると訴えている。権威主義者の横暴を容認する世界秩序は作り出してはならないと力説している。

 この文章は、元記事の要約です。詳細は元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ウクライナ・台湾問題に対処すべき自由主義陣営の共通の課題

まとめ
  • 地理的条件や台湾軍の実力から、中国による台湾への全面的な武力侵攻は容易ではない。しかし、それが中国による何らかの武力行使がないことを意味するわけではない。
  • ロシアはウクライナに対し、当初は政権交代を企図していたが、ウクライナ軍の抵抗に遭い失速した。しかし、無差別の攻撃を続けることで、結果的に同じ目的の実現を追求している。
  • 習近平は台湾統一を中国の「核心的利益」と位置づけており、決して譲歩する様子はない。平和的手段のみならず、武力行使も辞さない姿勢である。
  • 自由主義陣営は中国の一方的現状変更を決して許してはならず、ロシアがウクライナに対してとった手段(サイバー攻撃、偽情報工作など)にも注意が必要。
  • 具体的な対処方針として、有事の支援体制構築、安全保障協力の枠組み、サイバー防衛の連携、中国企業への規制強化など、多角的な取り組みが求められるが、日本を含む主要国の結束した取り組みが何より重要

このブログでも何度か述べてきたように、天然の要塞とも形容できる台湾の地形、ウクライナ戦争勃発時に比較すれば、当時のウクライナ軍より、はるかに精強な台湾軍の存在などから、中国による台湾への全面的な武力侵攻は容易ではありません。

台湾の東は急峻な山岳地帯、西側の平野は河川と小さな湾が入り込んでいる

しかし、それがただちに中国が台湾に対して武力行使をしないことを意味するわけではありません。むしろ台湾有事の恐れは常に存在し、その際の中国の武力行使は十分に考えられます。

ロシアのウクライナ侵攻を見れば、その点はよく分かります。当初ロシアは、それができるできない、本意かそうでないかは別にして、本格侵攻の意図をウクライナにみせつけ、キエフなどの主要都市を制圧し、結果としてゼレンスキー政権を追放または弱体化させ、親ロシア政権を樹立することを企図していたと見られています。これは、習近平の台湾に対する思惑や姿勢と軌を一にしていると言ってよいでしょう。

しかし、プーチンの思惑は見事に外れ、ウクライナ軍の強硬な抵抗にあってロシア軍は失速、当初の目的は遂行できないまま長期戦に入っています。

プーチン

しかし一方で、ロシアはウクライナに対する無差別なミサイル攻撃や砲撃を続け、多くの都市が壊滅的な被害を受けています。これは恐らく、ウクライナ側に最大限の痛手を与え、結果的に当初の目論見の実現を追求し続ける狙いがあるのだと言えるでしょう。

ここで仮にウクライナがロシアの圧力に屈し、事実上のロシア傘下に入ってしまえば、台湾の置かれた状況は一変することになります。そうした事態は世界的な権威主義の勝利を意味し、民主主義陣営に重大な打撃を与えかねません。

したがって、日本を含む主要民主主義国家は、ウクライナがロシアの脅威に屈することのないよう、断固たる支援を継続する必要があります。同時に、中国による台湾に対するあらゆる武力行使の可能性に備え、それを牽制し続けることが不可欠です。

中国は台湾問題を平和的に解決する考えはありません。本格的な武力侵攻はないかもしれませんが、それでも中国は武力行使も辞さない超限戦を挑み、あくまで台湾を中国の一つの省と位置づけ、その編入を目指しています。習近平国家主席はこれを中国の核心的利益としており、決して譲歩する姿勢はみられません。

習近平

したがって、日本を含む自由主義陣営は、中国のこうした姿勢に気を許すわけにはいきません。中国による一方的な現状変更を決して許さぬよう、断固たる対応を取る必要があります。

ウクライナ情勢を見れば、全面侵攻に踏み切る前に、ロシアは長期に渡りウクライナを揺さぶり、弱体化させようとしてきました。サイバー攻撃、偽情報工作、親ロシア派への支援など、さまざまな手段が講じられてきました。

中国も同様に、台湾に対し、すでに軍事的威嚇、サイバー攻撃、デマ工作、野党への支援など、あらゆる超限戦の手段を講じています。

日本を含む主要国は、こうした「グレーゾーン」の脅威にも油断なく対処する必要があります。具体的には、

①中台間の軍事的緊張がさらに高まった場合の対処方針を明確化

  • 有事における武器の供与や後方支援体制の構築
  • 中国による台湾封鎖時の対抗措置(海上交通路の確保など)の検討

②台湾に対する安全保障支援の枠組みづくり

  • 日米台の3か国による安全保障対話の常設化
  • 台湾との武器譲渡やミサイル防衛における技術協力の拡大

③サイバー防衛や認識戦(偽情報対策)での連携強化

  • 台湾を標的とするサイバー攻撃への共同対処能力の強化
  • デマや偽情報対策でのインテリジェンス共有や対策の協調

④中国企業への厳格な輸出規制

  • 半導体をはじめとする先端技術の中国企業への供給規制
  • 軍民両用技術や貨物の移転を水際で厳格にチェック
⑤その他

  • 中台有事における経済制裁措置の検討(金融・貿易面での制裁)
  • NATOプラスアジア枠組みによる安保協力の推進
  • 台湾有事における在留邦人の退避計画の整備
  • ADIZ(防空識別圏)を含む台湾周辺の監視能力の強化

などが考えられます。経済的な側面では、台湾との関係を一層緊密化し、重要技術や資源確保においても中国依存からの脱却を進めることが重要でしょう。

同時に、中国に対しても、一方的な現状変更が暴力の行使によってもたらされれば、重大な代償が伴うことを断固たる姿勢で示し続ける必要があります。

ウクライナ情勢への対応が試される中、台湾有事への備えは待ったなしの課題であり、日本を含む主要国の結束した取り組みが何より重要となってきています。

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