2024年6月11日火曜日

トランプ氏有罪で共和党が連帯した―【私の論評】EU選挙で極右躍進と保守派の反乱:リベラル改革の弊害が浮き彫りに

トランプ氏有罪で共和党が連帯した

古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」
まとめ
  • トランプ前大統領に対する有罪評決が共和党全体の連帯を強めた。
  • 上院で共和党が勢いに乗って民主党に逆転勝し多数派となる展望も。
  • 有罪評決が、民主党の団結や連帯を強める結果になった。


ニューヨーク地裁におけるドナルド・トランプ前大統領への有罪評決は、共和党内の勢力をかつてないほど一気に団結させる効果をもたらした。共和党側は一致して、この評決を民主党による政治的な工作、トランプ氏への選挙妨害、そして司法制度の武器化と激しく非難している。

これまでトランプ氏に距離を置いていた共和党の有力議員たちも、今回は有罪評決への反発からトランプ支持に回った。上院共和党総務のマコーネル氏は評決の逆転を予想し、スーザン・コリンズ氏は検事の捜査の動機に問題があったと批判した。さらにトランプ大統領の弾劾に賛成していたロムニー氏までもが、有罪評決が有権者のトランプ支持を減らすことはないと明言した。

こうした共和党の動きは、11月の連邦議会選挙で共和党が上院で多数派になる展望をも示唆している。下院の共和党議長も今回の裁判を民主党の政治攻撃と糾弾した。

政権関係者のペンス前副大統領やヘイリー元国連大使も、評決を非難しトランプ支持を表明している。トランプ陣営とそれ以外の共和党員の微妙な立場の違いが、この有罪評決への反発で一掃され、かつてない共和党内の結束が生まれたといえる。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事を御覧ください。

【私の論評】EU選挙で極右躍進と保守派の反乱:リベラル改革の弊害が浮き彫りに

まとめ
  • 欧州議会選挙で極右勢力が躍進し、EUの政治的先行きが不透明に。
  • 保守派が、安全な国境や言論の自由を求める「保守の反乱」を強めている。
  • 過度の平等主義やアイデンティティ政治の進展が社会に負の影響を及ぼしている。
  • キャンセル・カルチャーやポリティカル・コレクトネスが言論の自由を脅かし、対立を助長。
  • 現代のリベラル派は、個人の自由と多様性を尊重する真のリベラルの理念に立ち返るべき。
米国では上の記事にあるとおり、保守派が利害を乗り越え結束しつつあります。一方欧州連合(EU)の欧州議会選(定数720)は9日、大勢が判明し、極右勢力が躍進しました。これを受けフランスのマクロン大統領は仏国民議会(下院)の解散総選挙を発表。EUの政治的な先行きが一段と不透明になりました。

親EU会派が引き続き過半数を維持する見通しですが、今回の選挙結果はフランス、ドイツ両政府にとって痛手となりました。

欧州議会選でイタリアのメローニ首相(写真)が率いる右派「イタリアの同胞」が国内第1党に

この現象は、私がかつてこのブログに述べた保守の反乱が加速していることを示すものと考えられます。

保守の反乱とは、以下のようなものです。
保守派は、安全な国境、安全な地域社会、言論の自由、豊かな経済を望んでいます。「極右」のレッテルを貼られた指導者たちは、サイレント・マジョリティの声を返しているだけなのです。

メディアが彼らを中傷し、理性的な保守派を黙らせようとする一方で、私たちは保守派は、もう黙ってはいません。多くの人々は、法、秩序、伝統、愛国心の尊重と生存のバランスを取りながら生活しています。そうして、このバランスを崩す急激な改革は、社会を壊すと多くの人達が再認識するようになったのです。最近設立されたばかりの日本保守党の支持者の急速な拡大も、それを示しています。

日本はもとより、他の国々の指導者も、この傾向に耳を傾けるべきです。人々はいつまでも過激な行き過ぎを容認することはないでしょう。指導者は、騒々しい過激派グループのためだけでなく、国民全体のために政治を行わなければならないのです。

リベラル・左派的な社会工学による改革よりも、国益を優先させる賢明な改革が答えです。未来は、常識のために立ち上がり、自国の文化を守り、ポリティカル・コレクトネスやキャンセル・カルチャーの狂気に対して果敢に「もういい」と言う勇気ある政治家たちのものです。結局のところ、それこそがこの新しい保守の反乱の本質なのです。

 リベラル・左派的な社会改革は、平等と多様性の理念から様々な変革を推し進めてきました。しかしその過剰な進展が、かえって大きな負の影響を社会にもたらしつつあります。

まず、過度の平等主義は、努力と実力に応じた格差を是正するあまり、個人の自由な活動意欲を損ね、生産性の低下を招きつつあります。高額所得者への過剰な課税は、働く意欲を失わせかねません。また企業への過剰な規制は、事業活動を衰退させ、経済成長を阻害する要因となります。

一方、移民の受け入れ拡大は、移民コミュニティの治安悪化や、現地住民との文化的軋轢から社会分断を生む危険性があります。伝統的価値観の軽視は、家族や地域コミュニティなどの社会の基礎的な紐帯を弱体化させかねません。

さらに、キャンセル・カルチャーの台頭により、表現の自由が脅かされ、建設的な議論が阻害されてしまいます。キャンセル・カルチャーとは、不適切と見なされる発言や行為に対し、社会的制裁を加えて"存在しなかったことに"する動きです。

同様にアイデンティティ政治の過剰な進展は、人種や性別で人々を分断し、対立を助長する恐れがあります。アイデンティティ政治とは、個人や集団のアイデンティティ(性別、人種、民族、宗教など)に基づいて、権利や利益を主張する政治運動のことを指します。

具体的には、これまで差別されてきた少数者集団(女性、有色人種、LGBTなど)が自らのアイデンティティを前面に押し出し、機会の平等や権利の獲得を訴える動きがこれにあたります。

アイデンティティ政治の目的は、こうした集団が社会から受けてきた不当な扱いを是正し、平等な地位と権利を獲得することにあります。しかし一方で、アイデンティティに基づく過度な主張は、かえって人々を性別や人種で分断し、対立を助長することになりかねません。

またポリティカル・コレクトネスの追求も、言論の自由を損なう危険があります。ポリティカル・コレクトネスとは、性別、人種、宗教などのマイノリティに配慮した言葉遣いを求める動きですが、過度になれば言論の萎縮を招きかねません。

少数派の権利重視があまりにも極端になれば、多数派の不満が高まり社会の不安定化につながります。さらに、伝統や歴史への配慮不足は、社会の連続性を損ね、アイデンティティの喪失につながる可能性もあります。

こうした弊害が指摘されるなか、最近の米国やEUでは、リベラル・左派の改革への保守派から反発が高まっています。共和党はトランプ氏有罪評決に一致して反発し、EUの欧州議会選でも極右勢力が伸長するなか反移民や伝統重視への回帰を求める動きが出てきました。

こうした動きは、リベラル改革の弊害への危惧から、保守勢力がその是正を求めている現れと言えます。キャンセル・カルチャーやアイデンティティ政治、ポリティカル・コレクトネスの過剰な進展への批判の声が、その一因となっているのです。

一方、現在のいわゆるリベラル派の多くは、真のリベラルとはいえない状況になっています。真のリベラルとは、個人の自由と権利を最優先に考えながらも、寛容性と平等の実現を目指す立場です。彼らは個々人の選択の自由を尊重し、強制や不当な規制に反対します。同時に、人種、宗教、性別を問わず、多様性を受け入れる開放性があります。少数者の権利にも配慮しつつ、機会の平等と社会的公正の実現に努めるのがリベラルの理念です。

また、伝統的な因習に捕らわれることなく、新しいものを積極的に受け入れます。宗教的戒律よりも合理主義と科学的根拠を重んじ、社会の改革と進歩を前向きに支持する姿勢があります。ただし、利己主義に走ることなく、過度な平等主義の追求をするものではありません。

理想的なリベラル派の例としては、米国の建国の理念にも影響を与えたジョン・ロックが有名です。英国の経済学者で社会改革を訴えたジョン・スチュアート・ミルも代表的なリベラル思想家です。日本人では、明治時代に個人の自由と権利を強く訴えた福沢諭吉が、リベラル的思想の先駆けと評されています。

真のリベラルは、時代を見据えつつ、個人の自由と多様性の調和、そして寛容と合理性の共存を目指し続けるものであって、社会工学による改革を推進するものでありません。現代のリベラル派の中には、リベラル理念から逸脱した極端な傾向が見られます。真のリベラルは、個人の自由と権利、合理主義、寛容性を尊重しつつ、機会の平等と社会正義を追求する必要があります。アイデンティティ政治に走ることなく、すべての個人の自由と多様性を包摂する姿勢が重要になっています。

よって、リベラル派はこの反省を踏まえ、リベラル精神の本来の理念に立ち返るべき時期にきているのではないでしょうか。

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