2024年6月26日水曜日

【急速に深まるロシアと中国の軍事協力】狙いは台湾か、いざという時にどこまで行動に移すのか―【私の論評】ロシアの極東軍事力低下による中露連携強化:日米がすべき現実的対応

【急速に深まるロシアと中国の軍事協力】狙いは台湾か、いざという時にどこまで行動に移すのか

まとめ
  • 中国とロシアの軍事協力関係が深化し、特に台湾周辺での活動が米国の懸念事項となっている。
  • 両国の軍事協力は合同演習、ミサイル防衛協力、情報共有など多岐にわたり、その多くが日本近海で行われている。
  • ロシアのミサイル防衛早期警戒システム技術の中国への移転が重要な要素となっている。
  • 実際の戦闘では共に戦わないまでも、両国は政治的・経済的・軍事的に相互支援を行う可能性が高い。
  • この状況は日本を含む西側諸国にとって脅威となり、警戒を強める必要がある。

ロシア海軍記念日観艦式に参加した中国駆逐艦「西安」2019年7月

 中国とロシアの軍事協力関係が深まっており、特に台湾周辺での活動が米国の懸念を高めている。米国の情報機関長官らは、中露両国が台湾に関して初めて合同軍事演習を行っていると警告した。この協力関係は、緊密な合同演習やミサイル防衛協力にまで発展しており、その多くが日本近辺で行われている

 専門家らは、ロシアが中国の対台湾軍事作戦を支援する可能性があると指摘している。両国は戦闘協力に必要な通信システムの構築や機密データの共有を進めており、特にロシアのミサイル防衛早期警戒システム技術の中国への移転が重要な要素となっている。

 さらに、中国が台湾をめぐって戦争をする場合、ロシアからの物資輸送が米国の海上封鎖の影響を緩和する可能性があるとの見方もある。実際の戦闘では共に戦わないまでも、両国は政治的・経済的・軍事的に相互支援を行う可能性が高いとされている。

 この状況は日本を含む西側諸国にとって脅威となり、警戒を強める必要がある。米国の情報機関は、この新たな軍事協力関係を踏まえて防衛計画の見直しを行っており、潜在的な二正面作戦の可能性も考慮に入れている。

 一方で、中露関係には依然として一定の警戒感も存在していると指摘されている。両国の協力関係が深まる中で、互いの核心的利益を尊重し合うという姿勢が強調されており、これは長年の相手に対する警戒感の表れとも解釈できる。

 このような状況下で、台湾の総統は中国に対して地域の安定に向けた責任の共有を呼びかけており、国際社会も中国の軍事演習に対して懸念を表明している。今後も中露の軍事協力の動向は、アジア太平洋地域の安全保障環境に大きな影響を与える可能性があり、継続的な注視が必要である。

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】ロシアの極東軍事力低下による中露連携強化:日米がすべき現実的対応

  • ロシアは極東の軍事力が低下しており、台湾に対する直接的または間接的な支援能力は限定的。プーチン大統領の訪朝時のロシア軍行動から、ロシア軍の極東の軍事力低下を認識できる。
  • 米軍の「バリアント・シールド」や北朝鮮の弾道ミサイルの実戦配備は、地域の緊張を高めており、日米はこれに対処するためにサイバーセキュリティや情報戦の強化を進める必要がある。
  • ロシアの海軍演習は規模が小さく、空軍の活動も見られず、その能力低下が露味の連携強化の要因になっている
  • 日米は同盟国との協力を強化し、多国間での安全保障体制を構築することで中露の連携に対抗すべき。また、技術開発や経済制裁の強化、防御力とミサイル防衛システムの増強を通じて脅威に対応すべき。
  • ロシアの太平洋艦隊と極東の軍事基地の課題は深刻だが、日米の対潜水艦戦(ASW)能力の優位性を活かし、戦略的な軍事演習と共同訓練を通じて地域の安定を図ることが重要。

上の記事では、中露の軍事協力の動向に注視が必要と述べていますが、現実にはロシアは中国の武力侵攻に対して直接的にも、間接的にも支援する能力はほとんどないというのが実情です。


これについては、最近プーチンが北朝鮮を訪問したときのロシアの動きをみていると良く理解できます。

プーチン大統領は深夜2時過ぎという異例の時間帯に平壌の空港に到着し、金正恩総書記が直接出迎えました。このような時間帯に一国の首脳が他国を訪問すること自体が極めて異例であり、さらに受け入れ国の首脳が直接空港まで出迎えるというのも尋常ではありません。これは、戦時下の国家元首が警戒心を強めつつ、重要かつ緊急な用件で同盟国を訪れたことを示唆しています。

この訪問の背景には、米軍の大規模な軍事演習「バリアント・シールド」があります。米空軍のステルス戦略爆撃機「B-2スピリット」、ステルス戦闘機「F-22ラプター」、米海兵隊の垂直/短距離離着陸戦闘機「F-35B」などが編隊で飛行し、グアム周辺での演習に参加しました。さらに、この演習には日本の自衛隊も約4,000人が参加し、初めて日本国内の基地で共同訓練を行いました。

米軍の大規模な軍事演習「バリアント・シールド」

一方で、北朝鮮もこのような日米韓の動きに対抗して、弾道ミサイルを実戦配備につけていつでも発射できる態勢をとっていたと考えられます。米空軍の弾道ミサイル追尾専用機「RC-135Sコブラボール」が北朝鮮東方沖の日本海上空で偵察活動を行っていたことから、北朝鮮で弾道ミサイルの発射兆候があることを米軍が探知していた可能性が高いです。

ロシアもまた、米韓の動きに対応して海軍演習を発表しました。ロシア国防省は、約40隻の艦船と約20機の航空機が参加する海軍演習を日本海、オホーツク海及び太平洋の海域で行うと発表しました。しかし、実際に確認されたのは、駆逐艦1隻と戦車揚陸艦2隻の計3隻のみでした。これは、現在の極東ロシア軍にとってできる精一杯の対抗措置であり、ロシア軍の窮状を強く示しています。

さらに注目すべきは、ロシア空軍の活動が全く見られなかったことです。日本海周辺での偵察活動や戦闘機による警戒飛行が行われなかったことは、ロシア空軍の能力が著しく低下していることを示唆しています。これは、ロシア軍の国防力が大幅に低下していることを示すものであり、特に空軍の窮状が深刻です。

今回のプーチン大統領の訪朝は、日米韓の結束の強化やNATOを含む民主主義国間の軍事的連携の強化によって、ロシアや北朝鮮が苦しい立場に立たされていることを示しています。これが露朝の軍事同盟化へと駆り立てている要因であることは間違いありません。金正恩総書記にとっては大きな賭けであり、今後の露朝情勢がどのように展開するかは注視する必要があります。

ロシア太平洋艦隊と極東の軍事基地は、ウクライナ戦争前から、複数の深刻な課題に直面していました。まず、装備の老朽化が顕著な問題となっています。ロシア海軍の専門家であるパベル・リザソフ氏によると、太平洋艦隊の主力艦の多くが1980年代に建造されたものであり、現代の海軍作戦に必要な能力を欠いているとのことです。

さらに、ロシア国防省の公表した予算データによれば、極東地域の軍事施設への投資は他の地域と比べて低い水準にとどまっています。このことは、インフラの更新や新規装備の導入を困難にしています。

人材確保の面でも苦戦しています。ロシア国家統計局の人口移動データによれば、極東地域からの人口流出が続いており、特に若年層の流出が顕著です。これは軍にとっても優秀な人材の確保を難しくする要因となっています。

地理的な課題も無視できません。ロシア太平洋艦隊の管轄範囲は広大で、ウラジオストクからカムチャツカまで約4,000キロメートルに及びます。この広大な範囲をカバーするには多大な労力とコストがかかります。

国際情勢の緊張も艦隊の活動に影響を与えています。例えば、2022年以降、日本政府は対ロシア制裁を強化しており、これによりロシア艦艇の日本寄港が事実上不可能になっています。

これらの問題に対し、ロシア政府は対策を講じようとしていますが、その進展は遅いのが現状です。例えば、2020年に発表された「極東社会経済発展国家プログラム」には軍事インフラの近代化も含まれていますが、その成果はまだ限定的です。というより、ウクライナ戦争により、さらに後退した状況にあります。

ロシア太平洋艦隊旗艦「ワリャーグ」

ロシアの太平洋艦隊と極東の軍事基地の現状を考慮すると、ロシアが中国の台湾侵攻に直接的または間接的に加勢することは現実的ではありません。老朽化したインフラ、予算の制約、装備の更新の遅れ、人員不足、地理的孤立、そして対潜水艦(ASW)戦能力の低さがその主な要因です。これらの要因は、中国とロシアが日米に対抗する際の大きな障害となっており、特にASWにおいては日米の優位性が顕著です。

中露の軍事連携が強化されているものの、ロシアの極東の軍事力が低下しているため、中露県警による台湾を巡る直接的な危機は直ちには生じないと考えられます。しかし、中露の連携強化は依然として脅威となります。

中露の戦略的プレゼンスがアジア太平洋地域で拡大し、日米に対する軍事的圧力が増大する可能性があります。サイバー戦争や情報戦のリスクも高まるため、日米はサイバーセキュリティと情報戦対策を強化する必要があります。

また、中露の経済的および技術的協力により、中国がロシアの軍事技術を活用する可能性があるため、日米は技術開発と経済制裁を強化する必要があります。対潜水艦戦(ASW)能力のさらなる向上や潜水艦活動の監視も重要です。

さらに、日米の基地や戦略的拠点への脅威に対抗するため、防御力とミサイル防衛システムの強化が求められます。中露の連携に対抗するため、同盟国との協力を強化し、多国間での安全保障体制を築く必要があります。外交的な取り組みも重要で、中国およびロシアとの対話を続けるべきです。

総じて、日米は中露の連携強化に対抗するために、中露を等身大で見たうえで戦略的かつ総合的なアプローチが必要です。

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