2024年6月1日土曜日

中国軍による台湾包囲演習はこけおどし、実戦なら台湾のミサイルの好餌―【私の論評】中国による一方的な情報、プロパガンダに基づく見解には慎重であるべき

中国軍による台湾包囲演習はこけおどし、実戦なら台湾のミサイルの好餌

まとめ
  • 中国の台湾包囲演習は、軍事的現実性よりも情報戦(認知戦)の色彩が強い。
  • 台湾軍の強力な対艦・防空ミサイルにより、有事に中国軍が示された海域で活動することは不可能。
  • 中国の狙いは、海上封鎖のイメージを植え付けて台湾の独立主張を思いとどまらせること。
  • 機雷散布や対潜水艦作戦など、他の封鎖手段も台湾軍の能力を考えると今回の演習をそのまま作戦として実行するのは困難。
  • メディアは中国の情報をそのまま報道せず、軍事的現実性を踏まえるべき。
「連合利剣2024A」軍事演習が行われた区域

 2024年5月、台湾で頼清徳総統の就任式が行われた後、中国は「連合利剣2024A」軍事演習を実施した。中国は台湾を包囲し海上封鎖するかのような演習海域を設定し、その図を広くメディアに公表した。これは台湾の独立主張を牽制し、国際社会に強い姿勢を示すためと見られる。

 しかし、この演習は平時には可能でも、実際の有事には非現実的だ。台湾軍は射程120~400キロの対艦ミサイルや、約160キロの射程を持つパトリオットミサイルを保有しており、中国軍の艦船や航空機はこれらの射程内に入れば容易に撃破される。機雷散布や潜水艦作戦、台湾周回飛行による攻撃も、台湾軍の能力を考えると実行は困難だ。

 この「台湾包囲図」の公表は、軍事的な現実性よりも情報戦(認知戦)としての色彩が強い。中国の狙いは、台湾や日本の人々に海上封鎖のイメージを植え付け、台湾の独立主張を思いとどまらせることにある。実際には、有事において中国軍がこのような形で台湾を封鎖することは戦術的に不可能である。

 中国国営通信の情報をそのまま、あるいは「中国軍、台湾封鎖誇示」などの表現を使って報道することは、中国の情報戦に加担することになりかねない。メディアは軍事的な現実性を踏まえて報道すべきであり、そうしなければ中国の情報戦の罠にかかることになる。軍事演習の表面的な報道を超えて、その裏にある戦略的意図と軍事的現実性を鋭く見極めるべきである。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】中国による一方的な情報、プロパガンダに基づく見解には慎重であるべき

まとめ
  • 米国防総省のロイド・オースティン国防長官は、中国軍が台湾を包囲する形で実施した軍事演習と同様な作成では台湾に侵攻することは難しいことを示唆した。
  • 台湾は地理的に防御が容易な地形を有しており、急峻な山岳地帯や複雑な海岸線が特徴であるため、大規模な軍隊の上陸が困難。
  • 台湾軍は対艦ミサイルやパトリオットミサイルを含む現代的な兵器を保有し、長距離ミサイルや潜水艦も自主開発していることで、中国軍の侵攻を阻止する能力がある。
  • 米国がウクライナによるロシア領内攻撃を容認する姿勢を示したことは、台湾が中国本土を攻撃する可能性を示唆し、中国の台湾侵攻の難易度を高めている。
  • 中国軍の台湾侵攻計画は、地政学的な要因や国際的な同盟関係、軍事バランスにより実現が非常に困難であり中国による一方的な情報やプロパガンダに基づく見解には慎重であるべき

上の記事と似たようなことは、すでに米オースティン国防長官が語っていました。これについては、このブログでも解説しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
西側兵器使ったウクライナのロシア領内攻撃、NATO事務総長が支持―【私の論評】ロシア領攻撃能力解禁の波紋、中国の台湾侵攻への難易度がさらにあがる可能性
オースティン米国防長官

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事より、オースティン国防長官の発言を引用します。
米国防総省のロイド・オースティン国防長官は5月25日に、中国軍が台湾を包囲する形で実施した軍事演習について声明を発表しました。この声明の中で、オースティン長官は中国軍が実施したような作戦を成功させることの難しさを示しました。

また、こうした演習が行われるたびに、米軍は中国軍の運用方法についてさらに深い洞察を得ることができると説明しました。これにより、米軍が中国軍の演習動向を分析し、適切な対応策を練っていることを示唆しました​ (Defense.gov)​​ (Military Times)​。

この発言は、オースティン長官がシンガポールで開催されたシャングリラ・ダイアログの場で行ったもので、アジア太平洋地域の安全保障に関する米国の立場を強調するものです​ (New York Post)​。この声明は、中国と台湾の緊張が高まる中で、米国が地域の安定を維持するための取り組みを続けていることを示しています​ (Voice of America)​。
中国軍が今回台湾で実施したような作戦を実際に成功させる見込みはほとんどないでしょう。これについては、この記事でも述べました。

その根拠として、上の記事には指摘されていませんが、そもそも台湾は第二次世界大戦中には日本の領土でしたが、戦争末期に米軍は台湾上陸作戦は実施せずに沖縄上陸作戦をしたことの背景にもなったとみられるように、台湾は天然の要塞といっても良いような地理的条件を備えていることがあげられます。

簡単にいうと、台湾は日本の本州より小さい島でもあるにもかかわらず、玉山という富士山よりも高い山があることに象徴されるように、国土の大半が急峻な山岳地帯なのです。

そのため東側は海岸からすぐに急峻な山が連なっており、西側は平地は存在するものの、複雑に湾や河川が入り組んでおり、大きな軍隊が上陸できる地点は限られています。

こうした地理的条件の他、現代的な台湾軍の存在があります。その一部は、上の記事にも掲載されています。
台湾軍は射程120~400キロの対艦ミサイルや、約160キロの射程を持つパトリオットミサイルを保有しており、中国軍の艦船や航空機はこれらの射程内に入れば容易に撃破される。機雷散布や潜水艦作戦、台湾周回飛行による攻撃も、台湾軍の能力を考えると実行は困難だ。
先のブログ記事にもあげたように、さらに台湾は自前で開発した長距離ミサイルと、潜水艦も保有しています。

台湾が保有する他の重要な長距離ミサイルとして雄風2Eと雄風3E(拡張型)があります。

雄風2Eは、対艦ミサイルの雄風2を基に開発された地対地巡航ミサイルで、射程は約1,000キロ以上と推定されています。このミサイルは、台湾海峡を越えて中国本土の軍事施設や港湾を攻撃する能力を持っています。

雄風3

一方、雄風3Eは雄風3の射程を大幅に延長したもので、射程は約1,500キロ以上と見られています。これにより、台湾は中国東部沿岸の主要都市や軍事基地を射程に収めることができます。両ミサイルとも、有事の際に中国本土にある軍事資産を攻撃し、台湾への侵攻を阻止する「反攻」能力を台湾に与えるものです。

これらのミサイルの存在は、台湾が単に防御的な態勢だけでなく、抑止力としての攻撃的な能力も保有していることを示しています。

そうして、米国がウクライナがロシア領内を攻撃することを容認する発言をしたことは、台湾が中国本土を攻撃する可能性も示唆していることになり、このブログ記事では、中国の台湾侵攻への難易度がさらにあがったかもしれないことを指摘したのです。

さらに台湾は潜水艦を自主開発しました。これは、対潜哨戒能力が低いため、対潜水艦戦(ASW:Anti Submarine Warefare)能力が低い中国にとって脅威です。

これを裏付ける事実として、ペロシ訪台のときの中国軍の演習があげられます。  
ペロシ訪台の陰で“敗北”した人民解放軍―【私の論評】海中の戦いでも負けていたとみられる中国海軍(゚д゚)!

この記事の元記事では、ペロシ氏が台湾訪問を終えた後に中国軍が演習を行っており、これは、あくまでも習政権が“面子”を保つための行動だろうとしています。

そうして、【私の論評】では、中国軍は海中の戦いでも負けていたことを主張しました。この記事から、その部分を以下に引用します。
ペロシ訪台中に米軍は当然のことながら、攻撃型原潜を台湾海峡のいずれかに潜ませていたでしょうが、中国としては中国軍が目立った動きをすれば、米国側を刺激することになりかねず、ペロシが台湾を去ってから数日後の8日になって、しかも予定では7日で終わるはずたったものを8日になってようやっと海空統合で、対潜訓練などを重点的に行ったのです。

これは、米国を刺激したくないか、あるいは米国側に中国のASWが未だに弱いことを再確認されたくないという考えの現れであるとも解釈できます。もし、中国側がASWに自信があるといのなら、もっと早い時点で実施して、米側にこれみよがしに見せつけたと考えられます。
以上のことから、台湾周辺での中国軍の軍事演習は、この演習の類似の作戦では台湾を侵攻することは不可能と結論が出せると思います。

では、なぜこのような演習をするのかといえば、上の記事にもあるように、軍事的な現実性よりも情報戦(認知戦)としての色彩が強いのでしょう。中国の狙いは、台湾や日本の人々に海上封鎖のイメージを植え付け、台湾の独立主張を思いとどまらせることにあるのでしょう。

中国軍による台湾侵攻が簡単にできるという思い込みがあるとすれば、その思い込みにとらわれている人は、中国側のプロパガンダに影響されている可能性があります。中国政府は、自国の軍事力を誇示し、国民や国際社会に強力なイメージを持たせるために、メディアや公式発表を通じて様々な情報を発信しています。こうした情報操作は、台湾だけでなく、世界中の人々の認識に影響を与えかねません。

また、中国は台湾問題において、「一つの中国」原則を強調し、台湾を自国の一部と見なしています。このため、台湾に対する軍事的な圧力を加えることで、統一を促進しようとする姿勢を見せることがあります。しかし、台湾海峡は複雑な地政学的な要因や、国際的な同盟関係、軍事バランスなどにより、実際には侵攻が「簡単」には行えない非常に困難な状況であることを理解することが重要です。

さらに、台湾自身も自衛能力を高めるために、軍備を強化し、国際社会との関係を深めています。このように、台湾侵攻をめぐる状況は、単純な軍事力の問題ではなく、より広い国際関係や政治的な戦略、地理的・地政学的なバランス等が絡み合っています。したがって、一方的な情報やプロパガンダに基づく見解には慎重である必要があります。 

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