2024年10月27日日曜日

ロシア派兵の賭けに出た金正恩―【私の論評】体制の脆弱さを浮き彫りにする北のロシア派兵

ロシア派兵の賭けに出た金正恩

まとめ
  • 北朝鮮がロシアに現在まで3000人余りを派兵し、12月ごろには計1万人余りを派兵すると予測。
  • 「朝露包括的戦略的パートナーシップ条約」による具体的行動として注目。
  • 北朝鮮のロシアへの派兵は、危機脱出を狙う金正恩にとって大きな賭け。


韓国の国家情報院は、北朝鮮がロシアに兵力を派遣していると発表した。具体的には、特殊部隊「暴風軍団」から1万2000人規模の兵士がウクライナ戦争に参加し、すでに1500人以上がロシア極東部に移動したことを確認。さらに、計1万人以上が12月までに派兵される見込みである。報酬は月2000ドルとされる。

ウクライナのゼレンスキー大統領や米国のオースティン国防長官も北朝鮮のロシア派兵を認めた。これにより、北朝鮮とロシアの関係は事実上の「血盟関係」となり、6月の「朝露包括的戦略的パートナーシップ条約」に基づく行動と見られる。

北朝鮮は公式に派兵を否定したが、金与正の談話では明確な言及を避けた。金正恩政権は体制危機から脱するためにこの措置を取ったと考えられ、派兵による報酬やロシアとの協力で軍事・経済力を強化しようとしている。

韓国の尹錫悦大統領は緊急安保会議を開き、北朝鮮の行動を重大な安保脅威と位置付け、ロシアとの軍事協力進展に応じた段階的対応を示唆。ウクライナへの攻撃用武器支援も視野に入れている。

北朝鮮のこの賭けが成功するかは不透明で、戦死や捕虜、脱走のリスクがある。また、ロシアの敗北は金正恩政権に壊滅的な打撃を与える可能性がある。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】体制の脆弱さを浮き彫りにする北のロシア派兵

まとめ
  • 北朝鮮兵士がロシアで働くことで得られる収入は北朝鮮にとって大金だが、国家規模では日本の県単位交付金程度で影響力は限定的。
  • 金正恩は、韓国への敵意を強調し国内の統制を図り、韓国文化の浸透や経済制裁による国内不満を抑制しようとしている。
  • 南北間の緊張が高まっているが、金正恩の目的は韓国を「敵」と見なして国内の危機感を煽り、体制維持を図ることにある。
  • 核の威嚇はかつてほど効果的でなく、ウクライナ戦争で核使用の恫喝を外交カードに使うこと限界が明らかになった。
  • ロシアとの協力を通じて核やミサイル技術の強化を図る一方、ロシアに頼らざるを得ない北朝鮮の脆弱性が浮き彫りになっている。
上の記事には、北朝鮮兵がロシア受け取る賃金が、毎月2000ドルとされていたので、仮に、1万ニ千人の北朝鮮兵が毎月2000ドルの賃金を3年間受け取ったとして全額でいくらになるか計算し、さらに、その総額を日本円に換算してみると、1296億円という結果となった。計算過程はこの記事の一番下に資料として掲載する。

ウクライナで戦う北朝鮮兵士ら AI生成画像

しかし、これは個人レベルでは大きな額かもしれないが、国規模の話になるとさほど大きな金額ではない。日本の県単位の交付金と同等かそれ以下であり、特に日本の大都市圏と比べれば小規模な予算に過ぎない。北朝鮮にとっては巨額であっても、国家間の力学を変える規模ではないのだ。

では、なぜ金正恩政権はこうした措置に出たのか。背景には、政権の体制維持への焦りが透けて見える。彼は、派兵やロシアとの協力を通じて軍事力や経済力を強化しようとしている。しかし、この限られた金額が本当に北朝鮮を強化するのかは疑問だ。むしろ、これは逆に北朝鮮の弱体化を証明しているといえる。政権内部には経済制裁や韓国文化の浸透に伴う国民の不満が渦巻き、金正恩は「韓国は敵だ」とのメッセージを強調することで、国民の目を外に向けさせ、自力で耐え忍ぶ覚悟を固めさせようとしている。

最近、北朝鮮は韓国に対して挑発的な態度を強めている。平壌上空への反体制ビラ散布を韓国の仕業と決めつけ、南北の連絡道路や鉄道を爆破し、国境封鎖を強化し、さらには140万の志願兵を動員したと報道されている。これにより、一触即発の緊張が生まれているように見えるが、実際には大規模な軍事衝突には至らない可能性が高い。無人機の侵入も、韓国軍の関与ではなく、むしろ民間団体の行動か、中国の影響の可能性もある。

韓国軍の監視カメラが捉えた東海線(韓国に続く道路)の爆破の様子

金正恩の真の意図は、対外敵対行動を通じて国内の引き締めを図ることにあるのだ。韓国文化の浸透や経済疲弊によって、北朝鮮の体制維持に対する脅威が増大している。金正恩は、この状況を利用して、韓国への敵意を強調し、「韓国は敵である」というメッセージを国民に叩き込み、祖国の存続を外敵の脅威から守るために耐え抜くよう説いているのである。

ただし、1950年の朝鮮戦争以来、韓国が北朝鮮の「敵国」であるのは変わらない事実であり、現在に至るまで休戦状態は続いている。南北関係の危機は、金正恩政権の思惑がどれだけ国民の危機意識を煽ろうとしても、それほど新しいものではない。南北連絡路の爆破が示すのは、韓国文化の浸透が金正恩にとってどれほど大きな脅威と映っているかということを示している。

核を巡る動きも重要な鍵だ。金正恩はかつて核ミサイルの威嚇を通じ、米トランプ大統領との直接会談を実現させるなど、一度は世界の注目を集めた。しかし、今では核による脅威の有効性はかつてほど確固たるものではない。プーチンがウクライナ戦争で核のカードを強く打ち出せず、逆にウクライナの反攻を許している状況は、金正恩に核兵器のリスクを改めて認識させたはずだ。核兵器の威嚇には限界がある。その限界が、ウクライナ戦争によって浮き彫りにされたのだ。

ただし、北朝鮮の核は韓国や日本に向けたものだけではない。事実、北の核は、中国にとっても潜在的な脅威である。北朝鮮とその核の存在が、中国の朝鮮半島への浸透を防いできたともいえる。

北朝鮮は中国からの経済支援を受けてきた一方で、中国による干渉や浸透を強く警戒している。金正恩もまた、金王朝を守るために中国の介入を嫌い、親中派の金正男やその後見人であった張成沢を粛清するなど、国内統制に腐心してきた。このため、金はロシアとの友好に転換を図りつつあり、2019年には、ロシアを訪問したものの目ぼしい成果は得られなかった。

ロシア・ハサン駅に到着した正恩氏=2019年4月24日

しかし、ウクライナ戦争が状況を一変させた。戦局が長期化する中、ロシアは北朝鮮から砲弾やミサイルを求めるようになり、金正恩はこれを好機と捉えた。ロシアとの関係を強化し、核技術やミサイル技術を向上させ、中国の影響力をさらに削ぐ可能性が見えてきた。加えて、中短距離ミサイルの技術向上により、韓国、米国、日本を含む近隣諸国への対抗手段も強化できると考えたようだ。

ただ、自国の命運をウクライナ戦争を実行し、未だに戦争目的を果たせないどころか、その戦争目的すら曖昧になっているロシアに賭けざるを得ない北朝鮮の体制は、かなり弱体化しているとみるのが妥当だろう。

資料
仮に、1万ニ千人の北朝鮮兵が毎月2000ドルの賃金を3年間受け取ったとして全額でいくらになるか計算し円に換算する計算過程を以下に掲載する。

まず、1万2000人の北朝鮮兵が毎月2000ドルの賃金を3年間受け取る総額を計算。
■1人あたりの年間の賃金:
2000ドル×12ヶ月=24000ドル
■3年間の総額:
24000ドル×3年=72000ドル
1万2000人分の3年間の総額:
72000ドル×12000人=864000000ドル

次に、この総額を日本円に換算。為替レートは変動するが、2024年10月時点での大まかなレートを使う。
為替レートが1ドル = 150円と仮定する:
864000000ドル×150円=129600000000円

よって、1万2000人が3年間毎月2000ドルを受取った場合の総額は、日本円で約1296億円になる。
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