2024年10月18日金曜日

空母にそっくりで大騒ぎに発展した、自衛隊所有の「ざんねんな乗り物」の名前…なにかと風当りも強かった―【私の論評】おおすみ型輸送艦の実力と日本の防衛戦略の未来

空母にそっくりで大騒ぎに発展した、自衛隊所有の「ざんねんな乗り物」の名前…なにかと風当りも強かった

まとめ
  • 「おおすみ」型輸送艦は空母に似た外観から誤解され、正当な評価を得られず「残念な乗り物」として扱われることがあるが、実際には固定翼機の運用はできない設計である。
  • その広い甲板とヘリコプター運用能力により、物資の輸送や揚陸作戦で優れた性能を発揮できるが、航空戦には不向きである。
  • 「おおすみ」型の本来の機能や活躍が過小評価されているため、正しい理解と評価を促すPRが必要である。

おおすみ型輸送艦と、エアクッション型揚陸艇(LCAC)(手前)

「おおすみ」型輸送艦は、その登場時に海上自衛隊が「ついに空母を保有したのか」と多くの人々に誤解され、大きな話題となった艦船だ。外見上の特徴として、艦首から艦尾までがフラットな全通式の甲板と、アイランド型と呼ばれる右端に配置された艦橋構造物が、第二次世界大戦中の空母に似ていたために、このような誤解を招く結果となった。しかし実際のところ、「おおすみ」型の甲板はヘリコプターの発着に対応しているだけで、戦闘機やその他の固定翼機を運用する設計にはなっていない。

このため、固定翼機を運用する空母とみなすことは無理があるが、「おおすみ」型の広い甲板は物資の輸送やヘリコプターの発着といった任務において優れた利便性を提供している。それにもかかわらず、そのシルエットや外観が原因で誤解され、正当な評価を受けることなく批判にさらされることが多く、その期待に十分に応えられなかった「残念な乗り物」として扱われている面がある。

拙著書籍『ざんねんなのりもの事典』では、このように優れた性能や可能性を持ちながらも、時代のニーズや世間の期待とズレてしまった乗り物を多く紹介している。「おおすみ」型もその一例として挙げられており、登場時には高い期待を寄せられたものの、その後の誤解や手のひら返しにより、正当な評価がなされていない。実際に軍艦の知識が少しでもある人であれば、「おおすみ」型で航空戦を展開することが無謀であることは明らかだろう。

「おおすみ」型は本来の性能と役割をもっとPRされて評価されるべきだとされ、無理解な批判を受け流し、真に評価されるための専守防衛の姿勢を持つべきだ。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】おおすみ型輸送艦の実力と日本の防衛戦略の未来

まとめ
  • 「おおすみ」型輸送艦は設計上、空母としての機能を果たせない。固定翼機の運用に必要な設備がないため、空母として扱うのは無理がある。
  • 一方で、ウェルドックやヘリコプターの発着能力を持ち、強襲揚陸艦としての機能は備えているため、その役割を果たすことが可能である。
  • 日本は「専守防衛」の原則に縛られているため、空母や強襲揚陸艦を建造することに対して国内の抵抗が強い。
  • 近年の安全保障環境の悪化により、「いせ」や「かが」の軽空母化が受け入れられ、防衛力の強化が必要とされる流れがある。
  • 日本は今こそ、防衛戦略を進化させ、より強力な防衛力を持ち、国の独立と安全を守るための決断をするべき時を迎えている。
巨大輸送船「おおすみ」の甲板

「おおすみ」型輸送艦を空母とみなすのは、どうしても無理がある。その理由は明白だ。設計そのものが根本的に違うからである。「おおすみ」型は、兵員や車両の輸送および揚陸作戦を主目的とした艦であり、空母のような固定翼機を運用するために作られたわけではない。空母とは、航空機の運用にすべてを捧げた存在だ。広大な飛行甲板、カタパルト、アレスティング・ギア、格納庫、整備施設、燃料供給設備に至るまで、すべてが航空戦力を最大限に発揮するために設計されている。「おおすみ」型には、そうした装備はどこにも見当たらない。

たしかに、F-35BのようなVTOL(垂直離発着機)を使えば、固定翼機の運用も理論的には可能だろう。しかし、それはあくまで「限定的な可能性」にすぎない。空母とは違い、「おおすみ」型には航空機の格納や整備、燃料補給などを行うための設備が充実しておらず、継続的な航空運用は困難を極める。また、空母には通常、航空機を守るための強力な防空システムと武装が求められるが、「おおすみ」型は軽武装であり、自衛力が限られている。空母としての役割を果たすには、圧倒的な防空能力が不可欠だが、それをこの艦に期待するのは無理な話だ。

しかし、一方で「おおすみ」型を強襲揚陸艦として見なすことには、一定の説得力がある。この艦にはウェルドックが装備され、エアクッション型揚陸艇(LCAC)の運用が可能である。ウェルドックとは、艦内部に設けられた乾ドックで、注水・排水が自在に行われ、上陸用舟艇の迅速な発進を支援する機能を持つ。これにより、兵員や装備を迅速に上陸させることができ、揚陸作戦の展開速度が飛躍的に向上する。

「おおすみ」のウェルドック

「おおすみ」型はさらに、ヘリコプターの発着能力を備えているため、ヘリボーン作戦にも対応可能である。これらの機能を考慮すれば、揚陸艦としての役割を担うには十分な資質を持っていると言える。確かに、強襲揚陸艦と比較した場合に限定的な武装や防空能力の面では劣るが、その揚陸および兵員輸送能力の点では、相応の役割を果たすことができるだろう。

問題は、日本の国防政策が長らく「専守防衛」の原則に縛られてきたことだ。だからこそ、空母や強襲揚陸艦を自ら建造することに対して、日本国内では強い抵抗がある。しかし、ここで注目すべきは、「いせ」や「かが」のように、ヘリコプター搭載護衛艦を軽空母に改装する動きが比較的スムーズに受け入れられたという事実だ。この背景には、急速に悪化する日本の安全保障環境が存在している。

中国の軍事的拡張や北朝鮮のミサイル開発が現実の脅威として迫る中、日本はもはや、旧来の防衛戦略だけでは対処できない状況に直面している。「いせ」や「かが」の軽空母化が受け入れられたのは、防衛力の強化が必要不可欠だという認識が広まったからにほかならない。これにより、日本は国際社会からも柔軟な防衛姿勢を求められ、防衛の「現実路線」を進むことに対する理解が得やすくなっている。


だからこそ、「おおすみ」を強襲揚陸艦へと改修するという選択肢が、将来的に排除されるべきではないという議論が生まれても不思議ではない。だが、そのためには日本国民自身が、専守防衛の枠を超えた新しい防衛戦略を受け入れる覚悟が必要だ。これは単なる軍事装備の問題ではなく、国家の未来と独立を守るための決断である。

同盟国、特に米国は、日本が強力な防衛力を持つことを期待している。今こそ、日本が「守り手」から「攻めの盾」へと進化する時なのだ。我が国は平和を守るために立ち上がり、自由と安全を確保するために、さらなる防衛力強化を進めるべき時を迎えているのだ。専守防衛に甘んじていては、日本の未来を切り開くことはできない。今こそ、日本が真に独立した国として、自らの手で運命を切り拓く時が来たといえる。

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