2024年1月31日水曜日

「北方領土への日本の感情 何とも思わない」 露メドベージェフ氏、岸田首相演説に反発―【私の論評】メドベージェフの日本人侮辱発言を受け、プーチン政権の牽制に向けて日本はどう対応すべきか

「北方領土への日本の感情 何とも思わない」 露メドベージェフ氏、岸田首相演説に反発

まとめ
  • メドベージェフ氏は、岸田首相の北方領土問題の解決後に日露平和条約を結ぶ方針に反発し、北方領土はロシア領であり、領土問題は既に存在しないと主張した。
  • メドベージェフ氏は、さらに「つらい思いをしたサムライは日本の伝統的なやり方で命を絶つのがよい。切腹するのだ」と発言した。
メドベージェフ氏

 ロシアのメドベージェフ国家安全保障会議副議長は30日、岸田文雄首相が施政方針演説で対露制裁の維持や北方領土問題の解決後に日露平和条約を結ぶ方針を堅持する姿勢を示したことに対し、「いわゆる『北方領土』は協議対象の土地ではなく、ロシア領だ」「われわれは日本人の『北方領土に対する感情』など何とも思わない」などと交流サイト(SNS)に投稿し、反発した。

 メドベージェフ氏は平和条約締結の条件として、領土問題は既に存在せず、ロシアが新兵器配備を含むクリール諸島(北方領土と千島列島の露側呼称)の開発を進めていることを日本側が理解することが必要だと主張した。

 その上で「つらい思いをしたサムライは日本の伝統的なやり方で命を絶つのがよい。切腹するのだ」などとも言い放った。

【私の論評】メドベージェフの日本人侮辱発言を受け、プーチン政権の牽制に向けて日本はどう対応すべきか

まとめ
  • メドベージェフの発言は日本国民の感情を傷つける挑発的な内容である
  • ロシアはウクライナ侵攻で北方領土の守備が手薄となり、日本の優勢を懸念している可能性がある
  • 日本は安保関係の強化、軍事力増強、ロシアへの対抗、国際的圧力の結集、価値観の強調などの対応が必要
  • ロシアの経済力は日本の約3分の1にすぎず、日本の軍事費倍増はロシアにとって脅威となる
  • メドベージェフの発言はその牽制の可能性もあるが、日本は正しい立場に基づきロシアに対峙すべき
  • 岸田首相は米国訪問時、ロシアへの牽制策を主張するリーダーシップの機会とすべき

アンドレイ・ナザレンコ氏

ウクライナのハルキウ出身の政治評論家、外交評論家、著作家、元英語教師、国際貿易従事者。日本のナショナリスト団体である日本会議、およびウクライナのナショナリスト政党である国民軍団の活動にも参画しているアンドリー・イーホロヴィチ・ナザレンコ氏は、メドベージェフの発言について以下のように発言しています。
メドベージェフ氏のツイートは、非常に挑発的な内容であり、日本国民の感情を傷つけるものであると言えます。

しかし、なぜこのような発言をするのか、それには裏がありそうです。

現在ロシアは現在ウクライ侵攻をしており、北方領土にある軍隊や兵器をウクライナに移動しており、この地域の守備がかなり手薄になっています。その結果として、日本がこの地域で優勢になりつつあることをかなり懸念しているのではないかということです。

日本は以下のようなことを実行すべきです。

1.安全保障関係を強化し、情報面で緊密に協力し、アメリカやインド、オーストラリアなどの同盟国と頻繁に合同軍事演習を行うべきです。

2. 日本の軍事力を増強し、柔軟にすべきです。防衛費を大幅に増やし、ミサイル防衛や新たな海・空軍施設を配備し、オホーツク海などでの軍事演習を通じて強さのメッセージを発信する。日本が強くなればなるほど、ロシアは挑発する勇気をなくすでしょう。

3. ロシアの秘密戦術に積極的に対抗すべきです。ロシアのプロパガンダを弱体化させ、インフラを守り、ハッキングやサイバー作戦で対抗すべきです。防衛だけでなく攻撃も行うべきです。日本はまた、いかなる攻撃に対しても公に責任を負わせ、ロシアにコストを課すべきです。

4. 協調的な国際的圧力を結集すべぎてす。民主主義諸国と協力してさらにロシアを外交的に孤立させ、主要なオリガルヒ/産業をグローバル金融から切り離す制裁を課し、ロシアの侵略と帝国主義に対して統一的な動きをすべきです。

5. 長期的な繁栄と価値に焦点を合わせるべきです。ロシアに対抗する一方で、日本は経済成長、社会的結束の維持、次世代の民主的価値観の育成を見失うべきではありません。ソフトパワーと道徳的権威が鍵となるでしょう。

6. 民主主義モデルと権威主義モデルのギャップを強調すべきです。開かれた、公正で繁栄した同盟国として繁栄することで、日本はロシア市民と世界に、それに比べてプーチンの権威主義体制の弱さを示すべきです。あらゆる場面で民主主義と自由を推進すべきです。

日本は、同盟関係を強化し、軍事力を強化し、あらゆる分野でロシアに対抗し、同盟国との協調行動を結集し、繁栄と価値観の基本に焦点を当て、統治モデル間の格差を広げるようにすべきです。

クレムリン

日本は、もはや弱小国に陥りかけているロシアを抑止するために強者の立場から、緊張も挑発も避けるべきではありますが、その目的はロシアの帝国的野心に挑戦することであり、単に開戦を回避することではないことを自覚すべきです。

ロシアが今も大国であるとの認識は大間違いです。2023年のIMF(国際通貨基金)の推計によると、ロシアのGDPは1.7兆ドル、日本のGDPは5.1兆ドルです。したがって、ロシアのGDPは日本の約33%です。

一人当たりGDPでは、ロシアは2023年で1万ドル、日本は4万ドルです。したがって、ロシアの一人当たりGDPは日本の約25%です。

つまり、ロシアのGDPは日本の約3分の1、一人当たりGDPは日本の約4分の1ということになります。この経済力で、あれだけ広大な地域を守備しなければならないのです。しかも、守備といった場合、広大な国境を持つロシア連邦は外国からの侵入から守るだけではなく、多民族国家であるロシア連邦内の他民族の造反からロシア人を守らなければならないという宿命も負っています。

一昔前は、領土が大きいほうが、軍事的にも経済的にも強国であることの証となりましたが、現在のロシアは、領土が広大すぎることが軍事的にも経済的に足かせになっています。

日本が軍事費を倍増すると、2023年のSIPRIの調査によれば、日本の軍事費は約920億ドルとなります。これは、現状のロシアの軍事費(863億ドル)を上回ることになります。無論単純比較はできず、ロシアは、旧ソ連の核や軍事技術を継承する国であり、決して侮ることはできません。

しかし、ロシアに対する日本の抑止力は大きく高まります。また、米国との同盟関係に基づき、日本と米国の連合軍の軍事力は、世界でもトップクラスに位置づけられることになります。

なお、ロシアのGDPは、現状では落ち込んではいませんが、それは戦争、特に総力戦に入った国家にはよく見られることであり、兵器等の軍事物資の生産などがGDPに反映されるためです。しかし、ロシア経済はあいかわらず、インフレ傾向です。経済制裁の影響で引き続き実質経済は低迷する見通しです。ロシアにとってこれは、日本の軍事費倍増は、大きな脅威です。これに対する牽制が上のメドベージェフによる発言である可能性もあります。

このような状況であるにもかかわらず、メドベージェフなどの脅しに屈して、開戦を回避するためだけに、ロシアに過度に譲歩したり宥和的に接すれば、プーチンに日米や同盟国の免罪符を得たと勘違いさせるだけです。

日本と同盟国は、正しい立場(人を殺すべきではないという倫理的立場)にあるからこそ、ロシアのウクライナ侵攻を非難し、さらなる経済制裁を科すべきです。


このブログでは、昨日岸田首相が、今年の4月に訪米した際に、日本や他の同盟国が米国の対イラン政策に期待する立場を声高に具体的に主張することで、リーダーシップを発揮する機会を得ることになるとしました。

岸田首相は、米国訪問時にバイデンに対して、ロシアに対する牽制も声高に具体的に主張していただきたいものです。

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