2024年1月28日日曜日

米、ウクライナ戦略転換 領土奪還よりも侵攻抑止に注力―【私の論評】バイデン政権の対外政策の誤りが世界の混乱を招いている5つの理由

米、ウクライナ戦略転換 領土奪還よりも侵攻抑止に注力

まとめ
  • バイデン政権は、ウクライナ支援の戦略を転換する。
  • ロシアによる新たな侵攻を抑止することに注力する。
  • 長期的な戦力強化や経済基盤の立て直しを支援する。

バイデン大統領

 27日付米紙ワシントン・ポストは、バイデン米政権がウクライナ支援を巡り、ロシアが占領した領土の奪還よりも、新たな侵攻を抑止することに注力する戦略を策定していると報じた。ウクライナによる昨年の反転攻勢で期待した戦果を得られなかったことで方針を転換した。長期的な戦力強化や、経済基盤の立て直しに重点を置く。

 バイデン政権は今春、10年先までを見据えた支援策を公表する。11月の米大統領選でウクライナ支援に否定的な共和党のトランプ前大統領が再選される可能性も見据え、米国の支援を将来も保証する狙いもある。

 ウクライナ軍は昨年6月に反転攻勢に出たが不本意な結果に終わった。

【私の論評】バイデン政権の対外政策の誤りが世界の混乱を招いている5つの理由

まとめ
バイデン政権の体外政策の誤りが世界の混乱を招いている
  • バイデン政権のウクライナ支持表明は、ロシアのさらなる侵攻を招く恐れがある
  • トランプ政権下では強硬外交が採られ、反米勢力を抑止できていたが、バイデン政権はそうではない
  • バイデン政権は軍事力を軽視し、対外政策が弱すぎる
  • 中国やロシアなどの反米勢力がそれに乗じて台頭している、ハマスも例外ではないが、それでもバイデンは改めようとしない
  • 反攻作戦の成功には時間がかかるのが常識だが、バイデン政権はせっかちに過ぎる
私には、なぜ今の時点で、バイデン政権がウクライナの領土奪還よりも侵攻抑止に注力を置くなどと公表するのか、理解に苦しみます。戦争が継続している現在、このような発表をすれば、ロシア側は、併合した地域の防備を手薄にしても、さらに侵攻しようとするかもしれません。

ただし、米国がロシアにそのように思わせて、併合した地域で手薄になった地域への侵攻を企てているというのなら理解できます。

しかし、過去のバイデン政権をみているとそうではないようです。バイデン政権の対外政策の軟弱さが米国の国力低下と世界の混乱を招いているといえます。

トランプ大統領と安倍総理

トランプ政権下では、中国機の台湾領空侵犯やヨーロッパ・中東での軍事衝突はありませんでした。これはトランプ政権が軍事力を背景に対外的に強硬な姿勢を示したためだと考えられます。

その例としてトランプ政権は国防費を大幅に増額し、史上最大の防衛支出を行いましたし、中国を意識して海洋発射型の中距離核ミサイルの開発を進めました。

一方、バイデン政権になって、軍事力への配慮が手薄になり、対外政策が柔軟過ぎるという批判がなされています。国防費の伸び率が鈍化し、中距離核ミサイルの開発も中止されてしまいました。

また、ロシアのウクライナ侵攻前にあらかじめ軍事介入しないと表明したことは、ロシアに対する事実上の「侵攻許可」となってしまいしまた。これは、過去の米国の伝統的な政策とは大きく異なります。

このように、バイデン政権の軍事力軽視と対外政策の柔軟すぎる対応が、ロシアや中国といった反米勢力の台頭を許し、現在の世界的な混乱状況を招いているといえます。米国の力の低下と対外政策の失敗が、世界の危機的状況を作り出している根本原因ともいえます。

反米勢力は米国が実力行使をためらう姿勢を察知し、米国の反対する動きを強めており、その背景には、バイデン政権が軍事力行使に後ろ向きな姿勢があります。

特に注目されるのが中国です。中国は習近平政権以降、米国主導の自由民主主義を基調とする国際秩序に対する挑戦を強めています。台湾攻略や東アジアでの勢力圏拡大といった具体的な目標を掲げる一方、グローバルな覇権も視野に入れています。

しかし、この最大の脅威である中国に対して、バイデン政権は「競争相手」と位置づけるに留まり、危機感が弱いです。ロシアやイランなど他の反米勢力も、軍事面だけでなく価値観の面でアメリカとの対立を深めています。

最近のハマスによるイスラエル攻撃の背景にも、バイデン政権の対外政策の弱さがあります

ハマスは、バイデン政権下でアメリカの中東関与が弱まり、イスラエルへの支援力が低下したと判断して攻撃に踏み切ったとみられます。米国の「弱さ」は軍事力そのものの問題ではなく、バイデン政権の消極的な力の行使に問題があるとみれます。

11月の中間選挙後は、米国の世論や議会は反米勢力に対する強硬姿勢を要求する可能性が高いです。

長期的には、アメリカの対外政策は誰が大統領になったとしても、現在の弱さか少なくても、中間的な強さへと回帰する公算が大きいです。

昨年の6月に始まったウクライナ軍の反攻作戦

さて、ここでウクライナに話を戻します。上の記事では、「ウクライナによる昨年の反転攻勢で期待した戦果を得られなかった」としていますが、反攻作成は、元々守備と違って、労力や時間もかなりかかるものなのです。

場合によってはこれがあてはまるとは限りませんが、一般の軍事作戦において、攻撃する側は、守備する側の三倍の兵力を必要とするといわれています。

ウクライナ軍の反攻については、このブログでも2年〜3年は続くだろうとしました。その記事のリンクを以下に掲載します。
ウクライナ、反攻で「破滅的」損失 プーチン氏―【私の論評】今回の反転攻勢が成功すると、2~3年以内に占領された土地を奪還できるかも!戦争はまだ続く(゚д゚)!


この記事は、昨年6月14日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にウクライナの領土奪還作戦に時間がかかる理由を述べた部分を引用します。

今後の見通しとしては 、 今回の反転攻勢によりロシアの占領地の分断に成功すれば、かなり有利になります 。

ただ 、分断すると 、今度は突破した部分が挟み撃ちに遭うので 、逆にウクライナ側は挟み撃ちから守りきる陣地をつくらなければなりません 。

これを秋冬の地面がぬかるむ時期にまでに できれば 、 分断されたロシア軍の弱い方を来年 ( 2024年 ) 攻めることになるでしょう 。 つまり 、 ドンバス地方かクリミアのどちらか弱い方を攻めて 、 再来年にもう片方残った方を攻める形になるでしょう 。

今回の反転攻勢が成功すると 、 2 ~ 3年以内には占領された土地を奪還できるかも知れないです 。 無論奪還しても戦争が終わるとは限りませんが 、 少なくとも見通しは立ちます 。

一方で反転攻勢に失敗し 、 投入された12旅団が磨り潰されるようなことになると、 組織的な反転攻勢は今後 、 難しくなります 。 そうなると5年以上 、 下手をすると10年ぐらい膠着状態が続くかもしれません。いずれにせよ、現在の反転攻勢が成功したとしても、すぐに戦争が終わるとはみるべきではないです。
ウクライナ軍の反攻は、最高にうまくいっても最初から2〜3年はかかる見通しだったといえます。これは、第二次世界大戦中の連合軍によるノルマンディー上陸作戦をみてもわります。ノルマンディー上陸作戦を実施した頃には、連合軍は、制海権も、制空権も完璧に握っており、兵力や物量からいっても連合軍が圧倒的に有利であり、事実上ノルマンディー上陸によって、ドイツの敗北は決定づけられたと云って良いです。

しかし実際には、ノルマンディー上陸作戦からドイツの降伏までは、約1年1ヶ月かかっています。

ノルマンディー上陸作戦

反攻作戦をはじめたからといって、すぐにそれが成功するとか、現時点で失敗だと考えるのは、あまりにせっかちにすぎます。

バイデンはせっかちどころか、現時点でわざわざ「ウクライナの領土奪還よりも侵攻抑止に注力を置く」などと公表し、プーチンを奮い立たせるようなことをするのは、こうした軍事的な現実を無視するようなものであり、バイデン政権の軍事力軽視と対外政策の柔軟すぎる対応は明らかに、世界を危険にさらしているといえます。

ただし、これは、今年の大統領選挙で誰が大統領になったとしても、振り子のように元に戻ることにはなるでしょう。米国民そうして、世界中の米国同盟国やパートナー国が現状をそのまま許容するとはとても思えません。

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