2024年9月12日木曜日

<正論>日本は本当にダメな国なのか―【私の論評】日本の防衛強化とシギント能力の向上:対米依存からの脱却と自立的安全保障への道

<正論>日本は本当にダメな国なのか

麗澤大学客員教授・江崎道朗

まとめ
  • 日本の安全保障政策は長年「対米依存」を基調としており、これが対米譲歩と国力の衰退を招いたとされる。
  • 第2次安倍政権以降、日本は自前の国家安全保障戦略を策定し、「自分の国は自分で守る」方針に転換した。
  • 岸田政権はこの路線を強化し、防衛予算の増額や反撃能力の保有を決定した。
  • 日本はインテリジェンス能力の強化、特にシギント(通信情報)能力の向上が求められている。
  • 「日本は米国の言いなりだ」という認識は時代遅れであり、自国の歩みを正確に理解することが重要である。

江崎道朗氏

 日本の安全保障政策は長年「対米依存」を基調としてきたが、これが対米譲歩と日本の衰退を招いたとの見解がある。元外交官の宮川眞喜雄氏は、米国への依存が貿易交渉での譲歩につながり、特に先端技術分野で日本の国力が低下したと証言している。

 第2次安倍政権以降、日本は自前の国家安全保障戦略を策定し、「自分の国は自分で守る」方針へと転換しました。2013年に戦後初めて国家安全保障戦略を策定し、2015年には平和安全法制を制定して集団的自衛権に関する憲法解釈を変更した。

 岸田政権はこの路線をさらに強化し、2022年に改定した国家安全保障戦略では「我が国を守る一義的な責任は我が国にある」と明記した。また、5年間で43兆円の防衛予算を投じ、反撃能力の保有にも踏み切った。2024年度中には長射程ミサイルの配備も予定されている。

 現在、日本は対米依存から脱却し、自己改革を進めているが、効果的な反撃を行うためにはインテリジェンス能力の強化、特にシギント(通信情報)能力の向上が求められている。

 結論として、日本は対米依存から自国防衛のための自己改革を懸命に進めている。「日本は米国の言いなりだ」という認識はもはや時代遅れであり、日本の安全保障政策の変遷と自立への歩みを正確に理解することが重要だ。

 この記事は、元記事の要約です。詳細は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日本の防衛強化とシギント能力の向上:対米依存からの脱却と自立的安全保障への道

まとめ
  • 防衛予算の増額や防衛装備品の国産化により、日本が自国防衛に積極的に取り組み、対米依存から脱却しつつある。
  • 自衛隊の国際平和協力活動の拡大と安全保障政策の多様化自衛隊の国際平和協力活動への参加が増加し、日本の安全保障政策が多角化している。
  • 日米同盟の深化と日本の主体的な関与日米ガイドラインの改定や日米防衛協力の強化により、日本が主体的に同盟関係に関与している。
  • 日本はシギント(信号情報)能力を強化しており、最近の中国機による領空侵犯は「ガメラレーダー」が防衛と情報収集活動で重要な役割を果たしていることを再認識させた。
  • 今後宇宙やサイバー空間での情報収集能力の強化が重要であり、対米依存から自立的なインテリジェンス能力構築への取り組みが求められている。
江崎氏が述べるように「日本は米国の言いなりだ」という認識はもはや時代遅れであり、それは以下の点からもそのことが裏付けられると思います。

まず、防衛予算の増額が挙げられます。2023年度の防衛予算は過去最大の6.8兆円に達し、GDP比2%に向けて増額が続いています。これは日本が自国防衛により積極的に取り組んでいることを示しています。また、防衛産業や技術戦略の確立も重要なポイントです。防衛装備品の国産化や技術基盤の維持・強化に向けた取り組みが進められており、日本の防衛産業の自立性を高める動きが見られます。

さらに、自衛隊の国際平和協力活動への参加が増加し、日本のプレゼンスを世界に示す機会が増えています。安全保障関連法制の整備も進んでおり、2015年に成立した平和安全法制により、集団的自衛権の限定的行使が可能になりました。これにより、日本の安全保障政策の幅が広がっています。

日米同盟の深化と対等化も重要な要素です。日米ガイドラインの改定や日米防衛協力の強化により、日本はより主体的に同盟関係に関与するようになっています。

また、日本はオーストラリア、インド、東南アジア諸国などとの安全保障協力を強化しており、米国一辺倒ではない多角的なアプローチを採用しています。これらの具体的な動きは、日本が対米依存から脱却し、より自立的な安全保障政策を追求していることを示す事実です。

江崎氏は「特にシギント(通信による情報収集活動)能力の向上が求められている」と強調していますが、日本はこの分野でも対応を進めており、江崎氏が求めるさらなる強化が期待されています。

その象徴的な出来事として、以前このブログでも紹介した男女群島付近での中国機による領空侵犯が挙げられます。この件に関しては、以下の記事に詳しく解説しています。
領空侵犯をした中国の情報集収機と同じ型のY-9JB

詳細は記事をご覧いただきたいのですが、この記事では以下のような説明をしています。「自衛隊としては、この地域に注目されたくないという意図があるのかもしれません。ただし、地図などがすでに新聞で公表され、多くのメディアでも引用されています。この海域で重要な何かが行われていた可能性もあります」。

中国機の動きから考えると、狙いは空自・西部航空方面隊第9警戒隊が駐屯する鹿児島県・下甑島分屯基地にある「ガメラレーダー」だった可能性があります。

私は、中国が意図的に領空侵犯をして「ガメラレーダー」など日本の即応力を試した可能性もあると見ています。

以下の地図は、男女群島と甑島群島の位置関係を示すものです。「甑島周辺の海域」の赤い星の下にある群島の中に下甑島があります。特に注目すべきは、最深部が800メートルである五島海底谷です。ここに潜む潜水艦を発見するのは難しく、潜水艦運用にあたっての、重要な場所であることは間違いありません。

九州西部の海域は「ガメラレーダー」の存在や深い水域の存在など、中国側にとっても重要な探索拠点であることは間違いありません。

この地図自体は、マッコウクジラが確認された地域を示すものですが、同時にこの海域の安保上の重要性を示すものとなっているので、掲載させていただきました。


「J/FPS-5」フェーズド・アレイ・レーダー、通称「ガメラレーダー」は、日本の防空システムにおいて極めて重要な役割を果たす高性能レーダーであり、日本のシギント活動における重要な拠点でもあります。

このレーダーは高い探知能力と広範囲な監視能力を持ち、日本の防衛と情報収集活動の両面で重要な役割を担っています。周辺国の軍事活動に関する重要な情報を収集する手段として、軍用機や艦船の動向、ミサイル発射の兆候などを監視し、通信や電子信号を捕捉・分析する能力を持っています。

特に下甑島の位置は、グアムの米軍基地や西太平洋に展開する米空母を狙う中国の弾道ミサイル発射を早期に探知できる絶好の場所であり、日本の防衛だけでなく同盟国である米国の安全保障にも貢献しています。

日本側は、このレーダーを通じて収集した情報を分析し、国家安全保障上の重要な判断材料としています。また、外国のシギント活動から自国のシステムを守るため、レーダーの運用パターンを不規則に変更したり、電子防護措置を強化したりするなどの対策を講じています。「ガメラレーダー」はその高い性能と戦略的重要性から、日本のシギント活動の要となる重要な資産であり、防衛と情報収集能力の中核を成しています。

ガメラレーダー

最近の日本のシギントに関する活動は以下のとおりです。

日本のシギント(SIGINT: 信号情報関連情報活動)に関しては、2020年以降、国家安全保障局(NSS)のインテリジェンス機能が強化され、経済安全保障や先端技術分野でのシギント能力向上が進んでいます。防衛省では、自衛隊のサイバー防衛隊が2022年に約540人から約800人に増強され、サイバー空間におけるシギント能力が向上しています。宇宙領域での情報収集能力も強化されており、2020年に宇宙領域専門部隊が創設され、宇宙からのシギント能力も強化されています。

情報収集衛星の打ち上げも継続され、AIを活用したシギント分析システムの開発も進行中です。国際協力の面では、日本は「ファイブアイズ」諸国との情報共有を強化し、経済安全保障分野での協力が進んでいます。

政府は民間企業や大学との連携を強化し、最新の通信技術や暗号技術をシギント能力の向上に活用しています。法制度の整備も進み、2022年には経済安全保障推進法が成立し、重要技術情報の保護やサプライチェーンの安全確保に関する法的基盤が強化されました。

今後の課題としては、宇宙空間での測位信号の活用や、より高度な情報収集能力の獲得が挙げられます。多様な宇宙システムの構築・維持・向上のため、基幹ロケットの継続運用・強化、打ち上げ能力の強化や費用低減を進める必要があります。さらに、民間ロケットの活用を含め、即時に小型衛星を打ち上げる能力の確保も重要です。安全保障と危機管理に関する情報力の強化も引き続き進める必要があります。

これらの取り組みを通じて、日本は従来の対米依存から脱却し、自立的なインテリジェンス能力を構築することで、現代の複雑な安全保障環境に対応していくことが求められています。

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