2024年9月6日金曜日

与那国町長がアメリカで沖縄県知事批判―【私の論評】与那国島の安全保障と政府の不作為:糸数町長の取り組みと笹川財団の役割

与那国町長がアメリカで沖縄県知事批判

まとめ
  • 糸数町長は米国で日本防衛の重要性を訴え、玉城知事の辺野古移設反対を法治否定と批判した。
  • また、与那国島の自衛隊の抑止効果を強調し、日米同盟の強化を提唱した。
  • 玉城知事の中国への批判回避と対照的に、糸数町長は中国の脅威に対する警戒を呼びかけた。
先月30日、ワシントンの会合で南西諸島の防衛力強化を訴える沖縄県与那国町の糸数健一町長(右)

沖縄県与那国町の糸数健一町長が2024年8月末に米国笹川平和財団などの招待でワシントンを訪問し、8月30日に国防総省や国務省の米側関係者らとも交流南西諸島の防衛強化と中国に対する抑止力の重要性を訴えた。与那国島は日本の最西端に位置し、台湾まで約110キロの距離にあるため、戦略的な重要性を持っている。2016年から自衛隊が駐屯しており、日本防衛と台湾防衛において重要な役割を果たしている。

糸数町長は、南西諸島の防衛強化を通じて中国に対する抑止力を高める必要性を強調し、与那国島の自衛隊駐屯が地元住民にも歓迎されていることを説明した。また、日米同盟の重要性と自衛隊の抑止効果を米側関係者に伝えた。

一方、玉城デニー沖縄県知事への批判も行い、辺野古移設に関する最高裁判決を無視する玉城知事の姿勢を「法治国家の否定」と非難した。玉城知事の米軍基地反対の姿勢とは対照的な立場を示すことで、糸数町長は沖縄の声の多様性を表現した。

さらに、中国の動向についても言及し、尖閣諸島へのメキシコ人男性の上陸を中国が仕組んだ行動の可能性があると指摘した。また、中国軍機による日本領空侵犯を計画的な行動と分析し、これらの事態に対する警戒を呼びかけた。糸数町長の訪米は、これまでの沖縄県の反基地姿勢とは異なる視点をワシントンに提示し、日本の安全保障政策に新たな側面を示す機会となった。

この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】与那国島の安全保障と政府の不作為:糸数町長の取り組みと笹川財団の役割

まとめ
  • 与那国島は日本の最西端に位置し、台湾との関係強化や経済交流の促進を目指す動きがある。
  • 糸数健一与那国町長は、日本の安全保障政策において積極的な姿勢を示し、憲法改正や軍備増強の必要性を訴えている。
  • 今年5月、米国大使エマニュエル氏の訪問時に町長は「コメントない」と返答し、外交的配慮や住民感情に配慮した可能性がある。
  • 笹川財団の関与により、糸数町長の米国訪問は戦略的に計画されたものであり、地方自治体が独自に外交活動を行う必要性が生じている。
  • 日本政府の明確な方針が不足していることが、地方政治家の独自の主張を生む要因となっており、中央政府と地方自治体の連携の見直しが求められている。
与那国島は日本の最西端に位置し、台湾まで約110キロの距離にある戦略的に重要な島です。この地理的特性を活かし、台湾との関係強化や経済交流の促進を目指す動きがあります。


約1年前に台湾立法院トップが与那国島をクルーズ船で訪問しました。これは、台湾と与那国島の間の定期航路開設を目指す試みの一環だったと考えられます。この訪問は、両地域の交流促進と経済的な結びつきを強化する意図があったと推測されます。

一方で、糸数健一与那国町長は、日本の安全保障政策において積極的な姿勢を示しています。

町長は、2023年5月3日に東京都内で開かれた憲法改正を求める集会でのスピーチ中で「一戦を交える覚悟も必要」と述べました。この集会は「公開憲法フォーラム」と称され(写真下)、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」などが共催したものです。

糸数健一氏は、この場で憲法9条の改正を主張し、「全国民がいつでも日本国の平和を脅かす国家に対しては一戦を交える覚悟が今、問われているのではないか」と述べました。

糸数町長は日本の安全保障環境の悪化を背景に、特に中国の台頭に対する危機感から、軍備増強や憲法改正の必要性を訴えました。彼の発言は、台湾有事の際の日本の対応や、旧宗主国としての台湾に対する責任にも触れ、台湾の重要性を強調する形でなされました。

町長のこのような発言に対しては、謝罪や撤回を求める声もありましたが、糸数町長はこの発言を撤回せず、むしろ日本が直面する国家存亡の危機を強調する形で自身の立場を説明しています。

この発言は、中国の軍事的脅威に対する警戒感と、日本の防衛態勢強化の必要性を強調したものと解釈できます。


一方、今年5月17日の米国大使エマニュエル氏の島訪問時に、大使が日米同盟等の重要性をアピールした後で「コメントはないか」と町長にたずねた際には「コメントない」と返答しました。これは、外交的な配慮や慎重な姿勢を示したものかもしれません。国際関係や安全保障問題は複雑で繊細な側面があり、状況に応じて発言を控える判断をしたと考えられます。

その判断とは、まず、米民主党政権に発言が利用されることを恐れた可能性があります。また、大使の訪問に対して、一部の住民から反発の声が上がっていたため、町長としては住民感情に配慮する必要があったと考えられます。

さらに、与那国島は台湾に近く、経済的な交流も視野に入れているため、中国を過度に刺激することを避けたかった可能性もあります。国際関係や安全保障政策は国の専管事項であり、一自治体の長として踏み込んだ発言を避けたかったとも解釈できます。

エマニュエル大使の訪問には、在日米軍のトップである四軍調整官も同行していました。これは、訪問が単なる友好的なものではなく、軍事的な意味合いを持っていたことを示唆しています。このような複雑な状況下で、糸数町長は慎重に対応せざるを得なかったと考えられます。町長は地域の安全保障と経済発展のバランスを取りつつ、国際的な政治的駆け引きに巻き込まれることを避けようとしたのかもしれません。

エマニュエル大使は、昨年LGBT理解増進法案の成立に向けて積極的な姿勢を示してきました。大使は、日本がLGBTQなど性的少数者の権利を守るための法整備を早期に進める必要性を訴え、「早期に法律を制定すべきだ」と強調し、さらにはデモにも参加していました。この姿勢は、日本の国内政治に対する一種の圧力とも解釈でき、いわば、米国大使による越権行為ともみられるものでした。

この背景を考えると、糸数町長が以前エマニュエル大使の与那国島訪問時に「コメントない」と返答したことは、米民主党政権の一部の勢力に発言が政治的に利用されることを恐れたためだと解釈できます。この慎重な姿勢は、今回の米国訪問でも維持されたと考えられます。

つまり、糸数町長の米国訪問は、LGBT理解増進法案を巡るような米国内の政治的な駆け引きから距離を置き、より広範な日米関係の文脈で、党派性を超えた形で米国に対応する試みだったと解釈できます。このアプローチは、特定の政治的アジェンダに利用されることを避けつつ、日米関係の重要性を強調する巧妙な外交戦略だったと言えるでしょう。

このような解釈は、複雑な国際関係と国内政治の相互作用を反映しており、糸数町長の行動を単純な親米姿勢や反中姿勢としてではなく、より洗練された外交的対応として理解することを可能にします。

与那国島を訪れたエマニュエル大使(左)と糸数健一与那国町長

無論、これには笹川財団の関与があった可能性が高いと考えられます。笹川財団は日米関係強化に長年取り組んでおり、糸数町長の米国訪問を招待したことからも、この訪問が戦略的に計画されたものであることが示唆されます。

笹川財団の豊富な知見と人脈は、複雑な国際情勢や国内政治の動向を踏まえた効果的な外交戦略の立案に寄与したと推測されます。特に、米国内の安保を巡る政治的な駆け引きや、エマニュエル大使の行動に対する反応など、微妙な問題に対処する上で重要な役割を果たした可能性があります。

また、笹川財団は日本の地方自治体と米国関係者との橋渡し役としても機能し、糸数町長が党派性を超えた形で米国に対応することを可能にしたとも考えられます

もし日本政府が与那国島を含む南西諸島の安全保障上の重要性について明確な立場を示していれば、地方自治体の長が独自に外交活動を行う必要性は低くなったいたでしょう。政府の明確な方針があれば、エマニュエル大使の質問に対しても、糸数町長は政府の見解を引用するだけで十分だったはずです。

しかし、日本政府は与那国島をはじめとする日本の西南海域の軍備を強化するなか、これに関する外交姿勢は必ずしも明確ではなく。そうしたさなかで、笹川財団のような民間組織が橋渡し役となり、地方自治体の長が直接米国の政策決定者と対話する機会を設けたことは、一定の意義があったと考えられます。

この状況は、日本の安全保障政策における課題を浮き彫りにしています。政府の明確な方針や発信が不足していることで、地方自治体や民間組織が独自の外交活動を行わざるを得ない状況が生まれています。これは同時に、沖縄県知事のような地方政治家が、中央政府の方針とは異なる独自の主張を展開する余地を与えているとも言えます。

中央政府が明確な方針を示さない中で、地方政治家がそれぞれの立場から独自の主張を展開することになり、結果として国としての一貫した方針が見えにくくなっている可能性があります。

この状況は、日本の安全保障政策の策定と実施において、中央政府と地方自治体、そして民間組織の役割と連携のあり方を再考する必要性を示唆しています。特に、国家安全保障に関わる重要な問題については、政府がより明確な方針を示し、それに基づいて地方自治体や民間組織と協力していく体制づくりが求められるでしょう。次の自民党総裁には、このようなことを指導できる人になっていただきたいものです。

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