2024年9月14日土曜日

中国、来年から15年かけ定年引き上げへ 年金財政逼迫を緩和―【私の論評】日・米・中の定年制度比較と小泉進次郎氏のビジョン欠如が招く日本の雇用環境破壊

中国、来年から15年かけ定年引き上げへ 年金財政逼迫を緩和

まとめ
  • 中国全国人民代表大会は法定退職年齢を段階的に引き上げる草案を承認し、男性は63歳、女性は58歳または55歳に設定される。
  • 平均寿命が延びる中、労働人口の減少が懸念されており、定年引き上げは年金財政の改善に寄与する可能性がある。
  • 専門家は、長期的には労働力不足を回避し、生産性の安定に役立つと指摘している。
中国全国人民代表大会常務委員会

 中国全国人民代表大会常務委員会は、退職年齢引き上げの草案を承認した。現在の退職年齢は男性が60歳、女性はホワイトカラーで55歳、工場労働者で50歳と低く、年金財政の逼迫を緩和するために段階的に引き上げる。

 2024年から実施され、最終的に男性は63歳、女性はホワイトカラーで58歳、工場労働者で55歳となる。退職年齢の引き上げは15年かけて行い、労働者は早期退職や延長を選べるようにする。

 年金財政の問題は深刻で、さらなる改革がなければ、2035年までに制度が資金不足に陥る可能性があると指摘されている。労働力人口の減少や平均寿命の延びが背景にある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になって下さい。

【私の論評】日・米・中の定年制度比較と小泉進次郎氏のビジョン欠如が招く日本の雇用環境破壊

まとめ
  • 中国の定年年齢はかなり低く、定年引き上げは平均寿命の延長に伴う当然の措置といえる。
  • 米国には定年制度がなく、年齢に関わらず個人の意思で退職時期を決定できるが、能力低下での解雇は可能。
  • 米国の定年制度のメリットはキャリアの柔軟性が高いことだが、若年層の雇用機会が制限される可能性もある。
  • 小泉進次郎氏が「解雇規制の見直し」を提案しているが、米国と雇用慣行と異なる日本でこれを実施すれば、雇用の不安定化や企業競争力の低下などの懸念がある。
  • 小泉氏や中国共産党の政策は、将来の雇用環境に対する明確なビジョンが欠けている。
上のニュースを見て、中国にも定年制があることは知っていましたが、その定年年齢が非常に低いことには驚きました。中国人の平均寿命は過去数十年で大幅に伸び、現在は78歳前後となっています。さらに今後も寿命が延びると予測されており、今回の退職年齢の引き上げは当然のことといえるでしょう。

中国の定年退職者

一方、米国には「定年」という制度が存在しません。定年がないと聞くと、死ぬまで働かされるのかと思う人もいるかもしれませんが、そうではありません。退職年齢はあくまで個人の判断に委ねられているのです。

米国では、1967年に制定された「雇用における年齢差別禁止法(ADEA)」により、40歳以上の労働者に対する年齢差別が禁止されており、定年制度は事実上廃止されています。そのため、企業が特定の年齢に達した従業員を強制的に退職させることはできません。この法律は採用においても適用され、求人広告や面接で年齢に関する質問をしたり、特定の年齢層を対象にした募集を行うことも禁止されています。

また、履歴書に生年月日の記載を求めることも避けられています。一部の職種(パイロットや公共交通機関の運転手など)では、安全性の観点から年齢制限が設けられることがありますが、一般的には個人の意思に基づいて退職時期を決めることが可能です。

ただし、年齢に関係なく、体力や能力の低下で業務が遂行できなくなった場合には解雇の対象となります。米国では、従業員の業務遂行能力が低下し、職務を適切にこなせない場合、解雇される可能性があります。ADEAは40歳以上の労働者を保護していますが、業務遂行能力に基づく雇用判断は許可されています。

雇用主は、解雇が年齢ではなく、業務遂行能力の低下に基づくものであることを証明する必要があります。また、解雇前に従業員に改善の機会を与えることが推奨されています。このように、年齢そのものを理由にした解雇は禁じられていますが、能力低下が証明されれば解雇が可能です。

米国では年齢を理由とした賃金カットや差別的待遇も厳しく規制されており、労働者の権利が法的に保護されています。ただし、能力や実績に基づく待遇差は認められています。

2021年の調査によれば、米国の平均的な退職予定年齢は64歳です。社会保障給付は62歳から受け取ることができ、65〜67歳で満額受給が可能です。これらが実質的な退職年齢の目安とされています。このように、米国では年齢を理由にした強制退職は認められておらず、個人の選択によって働き続けることが可能です。

日本や中国のように定年制がある国と、米国のように定年がない国とでは、労働者にとってどちらが望ましいのでしょうか。

定年制は雇用の安定性を提供し、定年までの雇用が保証される一方で、米国では年齢に関係なく能力に基づいて評価されるため、高齢者でも働き続ける可能性があります。

このため、日本や中国では新卒定期採用が一般的ですが、米国にはそのような制度がありません。キャリアのない新卒者は労働市場で不利になることが多く、人員整理の際にも新卒者が最初に対象になりやすいです。

一方、米国の制度はキャリアの柔軟性を高め、新しい挑戦をしやすくする利点がありますが、定年制がある国では年金受給開始年齢と連動して退職後の生活設計がしやすいというメリットもあります。また、米国の制度は年齢差別を防ぐ一方で、高齢者が長く働くことで若年層の雇用機会が制限される可能性も指摘されています。

定年がある日本ではバイデンの年齢が問題にされたが、定年がない米国では認知能力が問題とされた

どちらの制度が良いかは、一概には言えません。個人の価値観、キャリア目標、健康状態、経済状況によって、適した制度は異なります。理想的には、個人が選択肢を持ち、年齢に関係なく能力を発揮できる環境を提供しつつ、社会保障制度とのバランスを取ることが望ましいでしょう。

ところで、雇用というと、小泉進次郎氏は9月6日の総裁選出馬会見で、首相として1年以内に解雇規制の見直しを断行する意向を表明していました。現行の解雇規制について「大企業は解雇が困難で、配置転換が促進されている」と指摘し、特に「解雇回避の努力」を見直す方針を示しました。

小泉氏が言及している「4要件」とは、日本の労働法に基づく「整理解雇の4要件」のことです。これは企業が経済的理由で従業員を解雇する際に満たすべき条件として確立されたものです。

整理解雇の4要件は以下の通りです。

1. 人員整理の必要性:企業に経済的な人員削減の必要があること。
2. 解雇回避の努力義務:配置転換や希望退職の募集など、解雇を回避するための努力が行われたこと。
3. 被解雇者選定の合理性:解雇対象者の選定が合理的かつ公平な基準に基づいていること。
4. 手続きの妥当性:労働組合や従業員との協議が適切に行われたこと。小泉氏は、特に2番目の「解雇回避の努力義務」の見直しに意欲を示し、現行規制が大企業の解雇を難しくし、配置転換を促していると述べています。彼の提案は、これらの要件を緩和し、企業が人員整理をより柔軟に行えるようにすることを目指しています。

もし日本が米国のような雇用慣行を採用しているなら、小泉氏の主張にも一定の理解ができるかもしれませんが、現状では「解雇回避の努力義務」を軽減することは日本の雇用環境にいくつかのデメリットをもたらす恐れがあります。

まず、雇用の不安定化が進み、労働者の生活基盤が脅かされる可能性があります。また、企業が容易に従業員を解雇できるようになると、長期的な人材育成や技能の継承が困難になり、企業の競争力が低下するかもしれません。

さらに、解雇が容易になることで労使関係が悪化し、労働争議が増えることも考えられます。これにより企業の生産性が低下し、イメージも損なわれる恐れがあります。加えて、雇用不安が消費意欲を減退させ、内需が低迷するリスクもあります。

失業者が増えることで、社会保障制度への負担が増し、企業の社会的責任が軽視される可能性もあります。結果として、正規雇用の減少や非正規雇用の増加が進み、所得格差が拡大する懸念があります。これらの点を考慮すると、日本の雇用環境に適した改革を慎重に進めるべきです。

小泉氏の発言は、これらの影響を十分に考慮しておらず、しかも1年間で断行するというのですから、拙速であるといわざるを得ません。

小泉進次郎氏

中国共産党ですら、定年引き上げという雇用環境に大きな影響を与える改革を15年かけて段階的に進めようとしています。それにもかかわらず、小泉氏は1年以内に雇用環境に大きな変化をもたらす可能性のある改革を実行すると語っており、これは暴挙と言えるでしょう。

さらに、小泉氏と中国共産党には共通点があります。それは、両者ともビジョンのない政策を提案していることです。雇用環境を大きく変える可能性のある政策を掲げているものの、将来的にどのような雇用環境を目指すのかというビジョンが欠けています。

ビジョンのない政策は短期的な対応に終始し、長期的な発展には繋がりにくいものです。一貫性が欠如し、政策の効果が相殺される恐れがあります。また、限られた資源が非効率に使われ、無駄な投資が増える可能性もあります。さらに、短期的な利益に基づく政策が優先されることで、社会の分断が深まり、国際競争力が低下する恐れもあります。

このような背景を踏まえれば、小泉氏の主張は政治的センスを欠いており、総裁選への出馬は再考すべきではないかと感じます。

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