2026年1月19日月曜日

今年のダボス会議でトランプが主役になる──世界秩序は、すでに次の段階へ移っていた


まとめ
  • 自由貿易と国際協調の象徴であるダボス会議で、反グローバリズムの象徴であるトランプが主役になるという事実は、単なる人物ニュースではない。世界の支配層自身が、グローバリズムの時代が終わったことを認め始めた兆候である。本稿は、その転換がなぜ起きたのかを解き明かす。
  • いま世界で進んでいるのは、砲弾ではなく通商と通貨による戦争である。関税、制裁、輸出規制、金融遮断。撃たずに国家を衰弱させる戦いが日常化した。本稿は、世界がすでにどの段階の秩序に入ったのかを示す。
  • そして最も危険なのは、日本がいまなお「貿易立国」という幻想に縛られていることである。実は日米はいずれも内需国であり、この認識の誤りこそが、対外戦略と経済政策を誤らせてきた。本稿は、日本はいまどこに立ち、何を見誤っているのかを浮き彫りにする。
2026年1月、スイス東部の山岳都市ダボスで開かれる世界経済フォーラム年次総会に、ドナルド・トランプ米大統領が出席することが明らかになった。ところが日本では、この事実自体がほとんど報じられていない。多くの読者は、この出来事を知らないままでいる可能性が高い。

だが、これは単なる人物ニュースではない。
国際秩序が静かに、しかし確実に次の段階へ移行したことを告げる象徴的な出来事である。

世界経済フォーラムの年次総会、いわゆるダボス会議は、毎年一月下旬に開催される世界最大級の国際会議である。各国首脳、中央銀行総裁、国連やIMFなどの国際機関幹部、多国籍企業の経営者、金融資本の中枢が一堂に会し、その年の世界経済、地政学、安全保障をめぐる最重要課題を議論する。表向きの議題は多岐にわたるが、その本質は常に一つしかない。「世界秩序を、誰が、どの原理で管理するのか」である。

このダボス会議は、長らくグローバリズムの総本山であった。自由貿易、多国籍資本、国際機関による秩序管理。そこで主役を張ってきたのは、EU官僚、国連関係者、国際金融資本の代表、そして「規範」と「協調」を語る政治家たちである。

そこに登場したトランプは、本来であれば最も場違いな存在であったはずだ。国連を軽視し、WTOを事実上無力化し、同盟を条件付きにし、関税と制裁を武器に国家を屈服させる政治家。グローバリズムの象徴たるダボスと、トランプは本質的に水と油である。

それでも、いまダボスで最も注目されているのがトランプであるという現実がある。ここに、世界のエリート自身が旧秩序の終焉を受け入れ始めた兆候を見るべきである。

1️⃣グローバリズムは「理想」ではなく「敗北」として終わった



彼らが変わり始めた理由は、思想の転換ではない。
グローバリズムは、実践できるほど世界は甘くなかった。それを、ようやく思い知ったのである。

自由貿易、国際協調、規範支配という理想は、美しい。しかしそれは、参加者が同じ価値観を共有している場合にしか機能しない。現実の世界には、その前提を最初から持たない国々が存在した。

しかも彼らは、理想を拒否するのではない。
理想を逆手に取って、自国に有利なように利用することに長けていた。

市場開放を要求しながら、自国市場は閉じる。
自由貿易を唱えながら、国家補助金で産業を育成する。
国際ルールを尊重すると言いながら、都合が悪くなれば無視する。
人権や環境を掲げながら、競争相手の産業だけを規制で締め上げる。

グローバリズムは、善意と相互主義を前提に設計された。
だが現実には、善意を守る側だけが損をし、利用する側だけが得をする構造になっていた。

中国はその典型である。WTOに参加し、市場開放を約束しながら、国家資本主義で産業を育成し、技術移転を事実上強要し、補助金で企業を支え、規範の隙間を突いて世界市場を席巻した。ロシアはエネルギーを武器にし、新興国の一部は環境や人権を外交カードとして使い分けた。

理想を守った国ほど産業を失い、
理想を利用した国ほど力を蓄えた。

この現実を、世界のエリートはようやく直視し始めたのである。

2️⃣経済戦争の時代と「貿易立国・日本」という神話の崩壊

今回、ダボス会議を前に公表された最新のリスク評価は象徴的である。短期的に世界へ最も深刻な影響を与える最大のリスクとして挙げられたのは、戦争でも感染症でもなく、「大国間の経済対立」であった。

現代の戦争は、砲弾ではなく通商と通貨で行われる。関税、制裁、輸出規制、金融遮断。国家は武器を撃たなくても、相手国を衰弱させることができる。そしてこの戦いを最も早く、最も露骨な形で体現してきた政治家こそ、トランプであった。

世界はすでに、自由貿易体制の延長にはいない。国家が供給網・通商・金融を戦略的に管理する時代に入っている。しかもそれは、全面遮断ではない。重要分野だけを選別して囲い込む、選択的・戦略的分断である。これはブロック経済ではない。経済の軍事化である。

この変化が、我が国にとって持つ意味は極めて大きい。だがその前に、日本社会に刷り込まれてきた幻想を一つ、打ち破っておく必要がある。
それは、「日本は貿易立国であり、外需に依存しなければ生きていけない」という通念である。


現実はまったく違う。日本のGDPに占める輸出の割合は、近年17〜20%前後にすぎない。米国はさらに低く、10〜12%程度である。両国はいずれも、経済の大半を国内需要で回す内需国である。

しかも歴史的に見れば、この水準ですら高い。高度成長期から1980年代前半にかけて、日本の輸出比率は7〜9%前後、米国は5〜7%程度にとどまっていた。日米はいずれも、戦後の長い期間、ほぼ完全な内需国として成長してきたのである。

現在の水準は、1990年代以降のグローバリズム拡張局面で一時的に外需比重が高まった結果にすぎない。にもかかわらず、日本はあたかも生来の輸出国家であるかのように語られてきた。

真の輸出国家は別に存在する。ドイツ、韓国、オランダ、シンガポール。輸出比率30〜50%の国々である。これらの国は、制裁や市場喪失の衝撃を経済全体がまともに受ける。

内需国である日米は違う。巨大な国内市場は、経済戦争の時代において強力な緩衝材となる。皮肉にも、これは現代における大きな強みである。

3️⃣第三章 緊縮の失敗と基盤喪失──国家はどうして弱くなったのか

問題は、我が国の政治と政策当局が、この現実にいまだ十分向き合っていないことである。いまなお、「国際協調」「多国間主義」「自由貿易体制」という言葉が、呪文のように唱えられている。その背後には、長年にわたる金融引き締めと緊縮財政という大失敗がある。

日本は景気回復局面でも引き締めに転じ、増税と歳出抑制を繰り返し、成長力を自ら削いできた。その結果、「内需では成長できない」「外に頼るしかない」という発想が定着した。こうして、グローバリズムは政策失敗を覆い隠す免罪符として過信されてきたのである。

だが、その代償を払っているのは日本だけではない。米国自身が、その典型となりつつある。

製造業は海外へ流出し、軍需産業すら効率化と外注に委ねた。その結果、産業基盤と軍事基盤は目に見えて痩せた。艦艇の建造と修理は遅延が常態化し、即応力は低下している。通常型潜水艦を自国で量産する能力すら失い、同盟国に依存せざるを得ない。造船業の能力不足は、すでに戦略上の弱点として顕在化している。

ドックに入った軍艦 米国

これは偶然ではない。
グローバリズムを過信し、国家が基盤産業を管理しなかった帰結である。

しかし世界は、すでにその前提を捨て始めている。国連は前提ではなくなり、WTOは機能不全に陥り、同盟すら条件付きの時代である。ダボスでトランプが主役になるという光景は、秩序の中心がグローバリズムから国家主導の対立秩序へ移ったことを、誰の目にも見える形で示している。

ここで問われるのは、我が国がどこに立つのかである。供給網をどう守るのか。エネルギーをどう確保するのか。通貨と金融をどう守るのか。これらはいずれも理念ではなく、生存の問題である。

ダボスでトランプが主役になる。この一場面は単なる国際ニュースではない。それは、グローバル秩序の終焉、経済戦争の本格化、国家の生存競争の再開を象徴する、時代の転換点である。いま我々が生きているのは戦後秩序の延長ではない。すでに次の世界である。問題は、我が国の政治と社会が、その事実をどこまで自覚しているかである。


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