2026年1月26日月曜日

解散総選挙の本当の大義──悪しきグローバリズムからの脱却

まとめ

  • 今回の解散総選挙は、政権争いではない。日本が「国家として責任を引き受け直せるか」を初めて真正面から問われる選挙である。
  • 自由貿易、ESG、脱炭素という理念の裏で、なぜ日本の製造業と供給力は弱体化したのか。本稿は、「悪しきグローバリズム」が国家を壊した過程を具体的に検証する。
  • 高市路線と野党再編の違いは、政策の数ではない。「国家を具体的に実装できるかどうか」という一点から、今回の選挙を読み直す。
1️⃣この選挙は政局ではない――グローバリズムの時代の終わり


日本の政局を論じる前に、まず動かしてはならない前提がある。我が国は大統領制ではなく、議会制民主主義の国であるという一点である。

内閣は国民によって直接選ばれているわけではない。衆議院の多数を基礎として成立し、その多数が揺らげば、内閣の正統性も揺らぐ。したがって、一定の節目で民意を問い直すこと自体が、制度の中にあらかじめ組み込まれている。解散総選挙とは、首相の恣意的な権力行使ではなく、議会制民主主義が自らを更新するための制度装置である。

衆議院の任期は4年である。前回の総選挙は2022年10月に行われた。制度上、遅くとも2026年秋までに総選挙を行うことは避けられない。その中で、高市首相は2026年1月23日、通常国会召集の冒頭という異例のタイミングで衆議院を解散した。公示日は1月27日、投開票日は2月8日である。通常国会冒頭解散は戦後2回目にすぎない。この一点だけでも、今回の解散が、単なる政局操作ではなく、強い政治的意思に基づく判断であることは明らかである。

しかし、この解散を制度論や国内政局だけで説明してしまえば、やはり本質は見えてこない。今回の選挙は、より大きな歴史の流れの中に置いて初めて、その意味が浮かび上がる。

冷戦終結後30年、世界は「自由貿易」「国境なき資本移動」「市場万能主義」を前提とするグローバリズムの秩序の中で動いてきた。我が国もまた、その最も忠実な受益国であり、同時に最も深刻な被害国でもあった。製造業の空洞化、賃金停滞、長期デフレ、エネルギーと食料の過度な対外依存。その多くは、理念としてのグローバリズムが、国家の実体を静かに削り取ってきた結果である。

この秩序を精神的に支えてきたのが、ダボス会議に象徴される「グローバル・エリートの理念」であった。持続可能性、多様性、包摂、脱炭素。美しい言葉は並んだ。しかし、その多くは、現実の産業、エネルギー、安全保障、通貨という国家の基盤から、次第に遊離していった。

ESGは投資の判断を歪め、脱炭素はエネルギー安全保障を空洞化させ、多様性の理念は組織統治の軸を曖昧にした。理念は洗練されたが、実装は崩れた。正しさは語られたが、供給力は削られた。

その結果として現れたのが、製造業の空洞化、賃金停滞、エネルギー依存の拡大、サプライチェーンの脆弱化である。グローバリズムは、国家を超えた秩序を作ろうとして、国家そのものの実装能力を静かに壊していった。

いま世界で起きている転換は、閉鎖への回帰ではない。排外への後退でもない。
それは、理念による統治から、責任による統治への回帰である。

市場に委ね、国際秩序に委ね、誰も最終責任を取らなかった時代が終わり、各国が、自らの産業と社会と安全を、再び自分の責任で引き受け直す時代に入った。

今回の選挙は、その世界史的転換の中で、日本が初めて真正面から迎える国政選挙である。

2️⃣高市路線の意味――経済・供給力・主権を取り戻す国家戦略

この文脈に置いたとき、高市首相が掲げる「責任ある積極財政」の意味は、単なる景気対策ではない。

それは、グローバル市場に過度に依存してきた経済構造を、内需と国内供給力に引き戻すための、明確な国家戦略である。

食品消費税を2年間に限り0%とする時限的減税は、単なる減税ではない。輸入物価と為替変動に直撃される家計を、国際市場の変動から一時的に切り離すための制度装置である。課税最低限の引き上げや物価スライド式控除は、グローバルインフレを国内制度の中で吸収するための仕組みである。

供給力強化策は、ここで初めて、国家が自らの経済基盤を戦略的に設計し直そうとする、前向きなナショナリズムの姿を明確に示している。無論、長い間の財政・金融政策の誤りを是正するという意味もあるが、それだけではない。設備投資減税、戦略技術への研究開発支援、AI、量子、バイオを国家の戦略技術と位置づける発想は、市場任せのグローバリズムから、国家が供給力を主体的に再構築する経済モデルへの転換である。


日本国内の半導体製造工場

この転換は、すでに経済安全保障政策と結びついている。半導体の国内回帰、重要鉱物の友好国調達、医薬品原料の国産化支援は、国家が自国の供給網と技術を、再び主権の下に取り戻そうとする動きである。

この反グローバリズムへの転換は、経済政策だけにとどまらない。より深刻な形で表れているのは、人口、治安、主権、対中関係といった領域である。

外国人労働者政策は、その典型である。人手不足の名の下に、制度設計の不十分なまま受け入れられてきた外国人労働者は、技能実習制度の形骸化、失踪問題、治安悪化、地域社会の分断という形で、静かに社会の歪みを蓄積させてきた。これは理念の問題ではない。国家が、自国の人口構成と治安と社会制度を、自ら統制できるかどうかという主権の問題である。

入管制度の見直し、在留管理の厳格化、技能実習制度の廃止と新制度への移行は、労働市場の自由化から、国家による人口管理への転換を意味している。これもまた、反グローバリズムの一環である。

対中国政策は、これらとは本質的に性格を異にしている。
中国は、単なる貿易相手国ではない。国家資本主義と軍民融合を制度として組み込み、技術、資本、人的資源を、意図的に国家戦略へと動員する体制国家である。

その中国に対して、「経済と安全保障は切り離せる」という発想そのものが、すでに致命的な錯誤であった。レアアース、電池材料、半導体部材、医薬品原料、太陽光パネル。これらの一国依存は、市場の失敗ではない。戦略的に作られた依存構造である。

現在進められている対中輸出管理、技術流出規制、サプライチェーンの再編は、保護主義ではない。
主権国家が、意図的に仕掛けられた経済的脆弱性から脱却するための、防衛行動である。

こうして見れば、積極財政、国内供給力の再構築、外国人受け入れ制度の再設計、対中依存の縮小、経済安全保障の強化。これらはばらばらの政策ではない。すべてが、「グローバリズムから、責任を取り戻した国家へ」という1つの国家戦略の異なる側面である。

3️⃣日本は国家に戻れるか――決断回避型政治の最終局

 衆議院議員会議場

ここで、この政局を、我が国自身の長期的な病理と重ねて見る必要がある。

私はこれまで繰り返し、我が国の停滞の本質は、財源不足でも、技術力の低下でもなく、決断を先送りし続ける政治の構造そのものにあると書いてきた。理念は語られるが、実装は遅れる。正しさは叫ばれるが、産業、エネルギー、通貨、安全保障を同時に動かす決断は、常に回避されてきた。

冷戦後30年、我が国は成長戦略、構造改革、規制緩和、分配重視と、言葉だけは何度も更新してきた。しかし、製造とエネルギーと通貨と安全保障を一体で再設計する政治決断は、ほとんど行われてこなかった。さらに財政政策、金融政策の間違いも相まって、長期デフレであり、賃金停滞であり、供給力の空洞化を招いたのである。

この観点から見れば、中道改革連合の限界も明らかである。安保、原発、辺野古と、表面的には現実路線へと転換した。しかし、決定的に欠けているのは、グローバリズムから、責任を引き受ける国家への時代転換への自覚である。

彼らは過去の立場を修正した。しかし、これからの国家をどう実装するのかという設計図を、ほとんど提示していない。製造業をどこまで国内に戻すのか。エネルギーをどこまで自給するのか。食料をどこまで国内で賄うのか。通貨と金利をどう国家戦略に組み込むのか。これらの問いに対して、彼らは沈黙している。

だからこそ、有権者はこの再編を「野合」と感じ、「踏み絵」と感じている。問題は路線転換ではない。転換の先に、国家像が存在しないことにある。

こうして見れば、今回の選挙の本質ははっきりする。これは、高市か中道改革連合かという選挙ではない。自民か野党かという選挙でもない。

これは、
グローバリズムの時代に削り取られた国家の実装能力を、
日本が本当に取り戻せるかどうかを問う選挙である。

経済だけではない。
人口、治安、技術、通貨、エネルギー、食料、安全保障。
これらすべてを、理念ではなく、責任として引き受け直せるかどうか。

その現実を直視し、国家として再び実装に踏み出すのか。
それとも、理念に身を委ねたまま、責任を引き受けることを回避し続けるのか。

今回の総選挙は、
日本が「国家としての責任を取り戻せるかどうか」を、
初めて真正面から問われる選挙である。

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