2020年9月23日水曜日

G20を前に「カショギ事件」幕引きを図ろうとするサウジ―【私の論評】実業家としての本領を発揮する、G20でのトランプ(゚д゚)!

G20を前に「カショギ事件」幕引きを図ろうとするサウジ

岡崎研究所

 今年のG20首脳会議は11月21、22日にサウジのリヤドで開催されることになっている。サウジの実質的な統治者である皇太子のムハンマド・ビン・サルマンはその会議の主宰者になるが、その会議の成功を強く望んでいる。しかし、サウジは、イエメンへの軍事介入における文民をターゲットとした攻撃、国内での反対派の弾圧などにより、国際的に「のけ者」となっている。


 そして、2018年10月にサウジ人ジャーナリストのジャマール・カショギが殺害された事件がある。本件について、9月7日にリヤドの裁判所は、8人の容疑者に有罪判決を言い渡し、この事件に一つの区切りをつけた。これも、11月のG20首脳会議をにらんでのことであると思われる。ただ、言い渡された判決は透明性に欠け、かつ、この犯罪の首謀者を無罪にするもので、国際社会を納得させるものではない。

 9月9日付けのワシントン・ポスト紙社説‘The Khashoggi verdict is meant to provide a fig leaf. Democratic leaders shouldn’t take it.’は、「リヤドの裁判所の判決は全く透明性を欠いている。有罪とされた人の氏名は報道されておらず、彼らの犯罪の詳細は述べられていない」と述べ、国連の報告者アグネス・カマードが判決について、「法的或いは道徳的正統性をもたない」「正義のパロディ」である、なぜならばこの処刑を組織し行った高官は「最初から自由に歩き回っているからである」とツイートしたことを紹介している。社説は、サウジの判決をメルケル、マクロン、ジョンソンなどが受け入れるべきでない、と論じているが、当然彼らは受け入れないだろう。トルコのエルドアンもG20に参加するが、トルコも、当然サウジの裁判所の判決を受け入れないだろう。したがってカショギ事件についてのサウジへの追及は今後も続くし、またそうあるべきであると思われる。

 G20は世界の金融経済問題を扱うフォーラムであり、世界経済で主要な役割を果たす国々が参加している。たまたま今年の開催場所がリヤドということであるが、それだからといって参加を躊躇する理由はない。

 世界経済についても、金融についても、コロナで大きな打撃を受けており、これからの対応についてG20で話し合うべきことは多い。カショギと世界金融・経済問題は分けて対応するのが正解と思われる。政治的な問題はプーチンのナヴァルヌイ問題、習近平のウイグル問題や香港問題、エルドアンの東地中海問題などなど枚挙にいとまがない。諸問題の関連を考えることも時には重要であるが、諸問題を分けて考える方が実り多い結果につながると思われる。

【私の論評】実業家としての本領を発揮する、G20でのトランプ(゚д゚)!

20カ国・地域(G20)の議長国を務めるサウジアラビアは、11月に予定されている首脳会議(サミット)の開催を12月に延期することを次期議長国であるイタリアに非公式に打診した。サウジ政府の協議に詳しい当局者2人が明らかにしています。

G20サミットはサウジの首都リヤドで11月21、22両日に開催が予定されています。協議内容が非公開だとして匿名を条件に述べた同当局者によると、サミットを延期すれば、12月1日に予定するイタリアの議長国開始も後ずれすることになります。

ただし、現在のところ中止という話はないので、いずれ開催されることを前提に話をすすめます。

サウジアラビア人記者 故カッショギ氏

上の記事では、カショギと世界金融・経済問題は、分けて考えるべきとしていますが、まさにそのとおりだと思います。分けて考えるとともに、優先順位と劣後順位をはっきり決めるべきです。世界中の問題をあれこれと少しずつ噛じるように手をつけることは、いたずらにエネルキーを無駄にするだけです。

そもそも、米国にとっては中東はさほど重要ではありません。それを示すデータなどを以下に掲載します。以下に中東の名目GDPを掲載します。


中東においてはサウジアラビアGDPがトップであり、石油で儲けた王族などがイメージされ、さもありなんと思いがちですが、サウジアラビアのGDPは、世界で18番目に過ぎません。中東の全部のGDPをあわせたにしても、世界の4.3%に過ぎないのです。

サウジアラビアのGDPは、米国のペンシルベニア州よりも少ないです。2017年のサウジアラビアのGDPは約6830億ドル、ペンシルベニア州のGDPは7520億ドルでした。そして、ペンシルベニア州のGDPはアメリカ50州のうち6位です。さらに、最近の米国は自国内で石油を生産できるようになっています。

ちなみに、サウジアラビアのGDPの規模は日本の県と比較すると、ほぼ福岡県相当です。

無論、経済の大きさだけで、米国にとっての中東の重要度を推し量ることはできませんが、それにしてもこの程度ということを認識しておくべきです。ただし、日本にとっては、中東は石油の最大の輸入先です。日本は米国のようには中東を軽視することはできないでしょう。ただし、石油価格がかつてないほどに低下しているというのも事実です。

世界には、まだまだ様々な問題があります。これに優先順位をつけないで取り組めば、混乱するばかりです。無論政府という組織の性質上、国際問題でも国内問題でも、優先順位の高いものだけに集中して、それ以外は一切てをつけないというわけにはいかないですが、そのためにこそ官僚などが存在するわけですから、やはり政治家は優先順位、劣後順位をつけるべきなのです。

経営学の大家ドラッカー氏は、優先順位と劣後順位について以下のように述べています。

いかに単純化し組織化しても、なすべきことは利用しうる資源よりも多く残る。機会は実現のための手段よりも多い。したがって優先順位を決定しなければ何事も行えない。(『創造する経営者』)

誰にとっても優先順位の決定は難しくありません。難しいのは劣後順位の決定。つまり、なすべきでないことの決定です。一度延期したものを復活させることは、いかにそれが望ましく見えても失敗というべきです。このことが劣後順位の決定をためらわせるのです。

優先順位の分析については多くのことがいえます。しかしドラッカーは、優先順位と劣後順位に関して重要なことは、分析ではなく勇気だといいます。彼は優先順位の決定についていくつかの原則を挙げています。そしてそのいずれもが、分析ではなく勇気にかかわる原則です。

 第一が、「過去ではなく未来を選ぶこと」である。 

 第二が、「問題ではなく機会に焦点を合わせること」である。

 第三が、「横並びでなく独自性を持つこと」である。

 第四が、「無難なものではなく変革をもたらすものに照準を当てること」である。

容易に成功しそうなものを選ぶようでは大きな成果はあげられない。膨大な注釈の集まりは生み出せるだろうが、自らの名を冠した法則や思想を生み出すことはできない。大きな業績をあげる者は、機会を中心に優先順位を決め、他の要素は決定要因ではなく制約要因にすぎないと見る。(『経営者の条件』)

以上は、企業でまともに、マネジメントをして成功した経験のある人間なら、誰でも知っている原則です。政治家出身ではない、米トランプ大統領はこのことを良く理解しているようです。 そのトランプ氏の最優先課題は、中国問題です。今回のG20でも、コロナ問題と中国問題を最優先するでしょう。一方、中東の諸問題などは中国と対峙する上での制約条件に過ぎないとみているでしょう。

G7もそうすべきです。コロナ問題と、中国問題に集中すれば、それにつれて国際関係も変化していき、他の問題も自動的に解決するか、解決の機運が高まることになります。カジョキ氏の問題は、現状では幕引きにさえしなければ良いでしょう。

そのようなことよりも、コロナと中国の問題に集中すべきです。

トランプ大統領は長い間実業のマネジメントをしてきたので、この原則が骨身に染みているでしょう。それに、選挙で勝利するためにも、優先順位をつけなければ、失敗することも十分理解しているでしょう。しかし、中共はそうではありません。。

物事に集中しない、優先順位をつけないのは、官僚の特性でもあります。どこの国でも官僚は、総合的なやり方を好むようであり、毎年総合的対策を実施し、結局何も達成していないということがほとんどです。

中国では選挙制度がないので、先進国のように選挙で選ばれた政治家はいません。その意味では、習近平を含む中国の指導者は、全員が指名制で選ばれ、その本質は官僚です。そのため、集中したり、優先順位をつけたりして、仕事をこなしていくべきことを理解していません。

先進国の水準では、政治家ではなく官僚である習近平

民間企業であれば、営利企業であろうと、非営利企業であろうと、優先順位や劣後順位をつけずに業務を遂行すれば、いずれ弱体化し倒産します。しかし、官僚は違います。何をしようが役所は潰れることはありません。ただし、共産党内での熾烈な権力闘争はありますが、権力闘争と政策は直接は関係ありません。

中共は、権力闘争には熱心ですが、人民のことなど二の次です。国際関係も二の次です。中国は国際的にも自分の都合で動く国です。

そうして、中共は、南シナ海、東シナ海、太平洋、アフリカ、EU、中東などに手を出しつつ、ロシア、インド、その他の国々との長大な国境線を守備しつつ、米国と対峙して、軍事力、経済力、技術力を分散させる一方、日米加豪、EUなどは、中国との対峙を最優先すれば、中共にとってはますます不利な状況になります。

かつてのソ連も、世界中至る所で存在感を増そうとしただけでなく、米国との軍拡競争・宇宙開発競争でさらに力を分散しました。当時は米国も同じように力を分散したのですが、それでも米国の方が、国力がはるかに優っていたため、結局ソ連は体力勝負に負け崩壊しました。

今日、中共は、習近平とは対照的な、物事に優先順位をつけて実行することが習慣となっているトランプ氏という実務家と対峙しています。G20でも、トラン不大統領は、中国に対して予期せぬ相当厳しい要求をつきつけ、習近平はきりきり舞いさせられるでしょう。今のままだと、中国もかつてのソ連同じ運命を辿ることになります。

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2020年9月22日火曜日

日本の中国エクソダス? 日本企業1700社が中国撤退に向け行列作る―【私の論評】中国共産党が崩壊しない限り、大企業でさえ中国で製造を続ける意味がなくなる(゚д゚)!

日本の中国エクソダス? 日本企業1700社が中国撤退に向け行列作る

中央日報/中央日報日本語版

  

 日本企業が中国から大挙撤退し中国を困惑させている。17日に中国環球時報は「1700社余の日本企業が相次ぎ中国から撤退することに対する真相」という記事を掲載した。

今月初めに日本経済新聞が報道した、日本企業が相次いで中国から撤退しているという内容の記事が中国人民に否定的な認識を持たせかねないとの判断から釈明に出た様相だ。

日経の9日の報道によると、中国に進出した日本企業90社が6月末までに中国からの撤退を申請した。続けて7月末までにさらに1670社の日本企業が中国撤退を申請し1700社を超える日本企業が中国を離れることにしたのだ。

こうした日本企業の中国撤退は日本政府が主導している。3月5日に当時の安倍晋三首相は、中国に対する依存を減らすとの趣旨から日本企業に中国から撤退し日本に戻るか、そうでなければ東南アジアに生産施設を移転するよう求めた。

安倍政権は1カ月後の4月7日には新型コロナウイルス流行と関連した緊急経済対策をまとめ、サプライチェーン改革の一環として中国から撤退して帰ってくる日本企業に対して一定の補助金を支給することにした。

これに伴い、6月末まで90社の日本企業が中国撤退を申請し、このうち87社が日本政府の補助金の恩恵を受けることになったという。また、7月末までに1670社の日本企業が中国撤退を決めたのだ。

ここに安倍氏に続き16日に就任した菅義偉首相も官房長官在職中の5日に日経とのインタビューで、日本企業の中国撤退を経済安保的な次元から継続して推進するという意向を明らかにした。

こうした状況は中国人には日本企業が大挙中国から脱出しているという印象を与えるのに十分だ。これを受け環球時報など中国メディアが鎮火に乗り出した。環球時報はまず中国から撤退する日本企業の数が多いのではないと主張した。

現在中国に進出した日本企業は3万5000社に達しており、1700社は5%にも満たない。一般的な状況で5~10%程度の企業が経営環境変化や自社の問題のため中国市場から撤収するため1700社の日本企業撤退は正常という状況に属するということだ。

また、現在中国を離れる日本企業の大多数は中小企業であり、中国の低賃金を狙った労働集約型産業に従事した企業のため中国経済に及ぼす影響は大きくないとした。自動車や健康衛生など日本の主力企業は中国市場を離れる計画がない。

したがって日本企業が相次いで中国を離れているという表現は誇張されているという主張だ。環球時報はまた、日本は2008年の金融危機後に海外進出企業に中国以外に東南アジアなど別の所に生産基地をもうひとつ構築するいわゆる「中国+1」戦略を要求してきたという。

このため今回の撤退はそれほど目新しいことではないという話だ。特に日本貿易振興機構(JETRO)のアンケート調査によると、中国進出日本企業のうち90%以上が現状維持や拡大を試みており、日本企業が大挙中国を離れる現象はないだろうと主張した。

しかしこうした中国メディアの説明にもかかわらず、1700社を超える日本企業が6~7月に中国市場から撤退することにしたという事実は、中国とのデカップリング(脱同調化)を試みる米国の戦略とかみ合わさり中国に大きな懸念を抱かせるのに十分にみえる。

【私の論評】中国共産党が崩壊しない限り、大企業でさえ中国で製造を続ける意味がなくなる(゚д゚)!

2020年4月7日、日本政府は「2020年度予算補正予算案」を決定しました。その内容は新型コロナウイルスの感染拡大を受けての経済対策的な意味合いが色濃く、そのなかに「サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金」として2200億円、「海外サプライチェーン多元化等支援事業」として235億円を計上しています。

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これらは新型コロナウイルスの感染拡大で、主に中国などに依存していたマスクや医療品、部品や素材などの供給が滞ったことを受けて、既存の生産拠点を国内に回帰したり(こちらが2200億円)、アジア諸国に分散(こちらが235億円)しようというものです。

もっとわかりやすく言うと、日本国内に工場をUターンさせたり、指定した東南アジアに海外拠点の工場を移転したら補助金を出しますよということです。

つまりはサプライチェーン(部品供給網)の〝脱中国〟を意図したわけです。

これまでも世界的に〝中国頼り〟という状況を懸念する声はありましたが、日本では中国に対して弱腰ということもあって楽観的な姿勢を見せていました。しかし、新型コロナウイルスという予想外の事態に直面して、ついに「これは危機的な状況だ」と思ったのではないでしょうか。

この動きに対して、中国側は余裕の姿勢を見せていました。「中国網日本語版(チャイナネット)」2020年5月14日付の『補助金で日本企業の中国撤退を支援?「いえ、遠慮します」』という記事では、日本政府が国内回帰する企業に補助金を出すことについて、「日本企業の大規模な国内回帰、もしくは東南アジアへの移転が生じる可能性は低いと分析されている」と紹介しました。

トヨタ自動車やLIXILグループなど取材に応じた日本企業5社が「中国で製造を継続する意向を示した」としています。中国としては、ここであわてれば、事態をさらに悪化させると考えたのでしょうか。

日中両国の思惑が錯綜するなか、7月17日には日本の経済産業省から「補助金」の第1弾について発表がなされました。それについて「共同通信」が報じていて、「山陽新聞朝刊」2020年7月18日では『国内供給網強化 マスク生産など574億円を補助 経産省、第1弾』という記事を掲載しました。

経産省が発表した補助金の採択事業について、「生活用品大手のアイリスオーヤマのマスク生産など57件に計574億円を補助する」とし、「供給網の分散化を進めるための支援事業についても30件を採択したと公表。20年度補正予算で計上した235億円のうち、半額程度が支払われる見通し」と紹介しています。

また、「読売新聞 東京朝刊」2020年7月18日でも『生産「国内回帰」57件補助 国、総額574億円 東南ア移転も支援』という記事で追随しています。補助金を受けた件数や金額についてはほぼ同じ内容で、補助金を受けた企業については「アイリスオーヤマのマスク工場をはじめ、医療機器や医薬品など医療関連が多数を占めていました。


アイリスオオヤマのマスク工場

航空機や自動車、電子機器の関連部品の工場も対象」と紹介。支援事業については「東南アジアに拠点を作る企業では、タイやベトナムへの移設が多かった。マスクやガウンなど医療物資のメーカーが大半を占めた。ハイテク製品の生産に欠かせないレアアース(希土類)の関連企業もあった」としています。

企業が、中国大陸に進出する際には、色々な優遇措置があり、大宴会で歓迎されたりもします。しかし、いざ撤退するとなると「万里の長城」のようなハードルが待ち構えています。一言で言えば「有り金を全部おいて、さらに追い銭を払わないとここから出さないよ」という仕組みなのです。

また、中国大陸から退却しようとする企業の社長や幹部が従業員に監禁されるという事件も起こっています。

中国に進出した企業は現在「行くは地獄、帰るも地獄」の状態に追い込まれているようです。

また、もともと中国大陸で稼いだ利益(人民元)の海外への持ち出しには厳しい制限があります。儲かっているように見えても、その儲けは中国大陸で再投資するくらいしか使い道がないのです。

そのため、現金ではなく商品として利益を持ち込み、その商品を日本で換金して円を手に入れるという手法を使っている企業もあります。

物事が追い風の時には「なんとかなる」と甘い考えでやってきたことが、現在のような向かい風の状況では、重い足かせとなります。

結局、中国大陸からの撤退はすべてを失うだけではなく、追い銭を払うことにもなりかねないです。

しかし、それでも従業員の「安心・安全・生命」におけるリスクを軽減できるし、撤退以降はさらなる追い銭を払う必要もないです。

投資には「見切り千両」という有名な言葉がある。判断を間違えたときでも少ない額で損切りをして莫大な損失から逃れることができれば、その見切りという行動には千両の価値があるということです。

確かに、現在の中国大陸からの撤退は損切りになる場合が多いでしょうが、それでもそれ以上の莫大な損失と、モンゴル・チベットそうして最近では内蒙古を迫害した人類の敵中共と取引したという「黒歴史」を背負うよりははるかにましです。

中国からは、昨年から日本人経営の飲食店が脱出していました。

マレーシアの首都クアラルンプールでは、近年日本人が経営する飲食店の新規開業が相次いでいます。これらの飲食店の中には、中国での経営に見切りをつけた"中国脱出組"が少なくありません。

クアラルンプールの日本人が経営するラーメン店


振り返れば、2010年代に入った頃から、徐々にその動きは始まっていました。2012年の反日デモが、一部の日系製造業に撤退決断の契機をもたらしたのですが、コスト上昇で上海経営のうまみが薄れつつあった一部の日系飲食業界でも“撤退作戦”がささやかれるようになっていました。

2000年代に入って中国がWTOに加盟すると、日本から企業がどっと上海に進出。2010年には上海万博が開催され、日系企業の進出がさらに加速しました。日本料理店は日本人駐在員にとっての息抜きの場ともなり、日本飲食店は繁盛しているようにみえました。

しかし、内実はそうではなかったようです。2010年代に入ると、従業員の賃金は一昔前の700元から5倍に、能力のある社員は10倍に跳ね上がりました。食材も日本並みに上がるどころか、テナント料もすでに東京の水準を上回るものになりました。

多くの飲食店経営の日本人仲間が街の再開発とともに立ち退きを迫られ、店を転々とさせられたのもこの時代でした。

この頃から、上海で経営する一部の日本料理店オーナーの間で、“上海脱出”が話題に上るようになったという。彼らが注目したのはマレーシア等の東南アジアでした。賃料、人件費などの固定費が上海の約半分で済むことと、政府の政策に安定性があることが、日本人オーナーたちの関心をひいたようです。

「商機あり」と日本中が注目したのも今は昔。2000年代の魅力は薄れ、2010年代には視界の悪ささえも出てきた上海に、「ここが潮時」と腹を決めた飲食店オーナーは多かったようです。日本-中国-東南アジア。日本人オーナーたちの移動を追うと、市場の変遷と時代感が見えてきます。

先に掲載したように、トヨタ自動車やLIXILグループなど取材に応じた日本企業5社が中国で製造を継続する意向を示したそうですが、これらの大企業は中国での製造は全体の一部にすぎないので、そのまま継続しても中国経済が今後かなり悪化したとしても、損害は一部に過ぎないので、製造を続ける意向なのでしょう。

これから中国がどうなったにしても、現在中国と呼ばれる地域には、14億人の人々が生活しているわけですから、一時とんでもないことになって経済が落ち込んだにしても、日々食べたり、何かを消費しないと生きていけないわけですし、現体制が崩れたにしても、必ず統治の正当性を持った新たな体制がたちあがるはずです。そうして、いずれ商機は必ずでてくるわけです。

大企業なら、そのような商機を逃さないため、中国にとどまり続けるということもできますが、中企業以下の企業はそうもいかないですから、ここは撤退すべきです。

ただ、恐ろしいのは、中国共産党がたとえ経済が悪化しても、しぶとく生き残った場合です。そうして、長い間中国を統治し続けた場合です。その場合は、中国は経済的には落ち込んだまま、他国に影響を及ぼすことができない、図体が大きいだけのアジアの凡庸な独裁国家に成り果てることになります。

そうなれば、富裕層でさえの生活水準が落ち込み毛沢東時代のような経済状況が長く続くことになるというか、それが中国の新たな常態となるわけです。そのときには、中国は中進国どころか、発展途上国に舞い戻るわけです。

その時でも、トヨタなどの大企業が中国で製造を続けていて、意味があるかどうかはわかりません。そうして、米国の対中制裁の最近の苛烈さと、両国とも本格的な戦争に踏み切るつもりはないようなので、どうもそうなる可能性が高いように思います。大企業としても、現状では見極めが難しいところです。

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2020年9月21日月曜日

ロシアの毒殺未遂に対し求められる西側諸国の団結―【私の論評】かつてないほど脆弱化したプーチン!日本も制裁に参加を!その先に日本が主導権を持った北方領土交渉がみえてくる(゚д゚)!

ロシアの毒殺未遂に対し求められる西側諸国の団結
岡崎研究所

 ロシアの野党指導者アレクセイ・ナヴァルヌイは8月20日、シベリア西部の都市トムスクからモスクワに向かう航空機の機中で突然苦しみだし、航空機はオムスクに緊急着陸した。ナヴァルヌイはオムスク緊急病院No1に意識不明のまま運び込まれた。その後、8月22日、ドイツに移送された。オムスクの病院は容態が不安定であるとして、移送を8月22日まで遅らせたが、これは体内から毒物が検出されなくなるまで、移送を引き延ばしたと疑われている。オムスクの病院は移送の前にナヴァルヌイの体内には毒物の痕跡はないと発表している。


 ところが8月30日、ドイツはナヴァルヌイにはノヴィチョクが使われたことが「疑いの余地なく明らかになった」と発表した。

 ノヴィチョックは軍用に開発された神経剤であり、KGB、今のFSBのような治安機関や軍にしかないはずである。国家機関がナヴァルヌイを毒殺しようとしたことはほぼ確実とみてよい。プーチンの特別命令で行われたのか、あるいはプーチンの意図を忖度した下僚の行為かはわからないが、ロシア政府は調査を拒否し、証拠を疑問視し、ロシアに対する「情報キャンペーン」を非難している。

 9月4日付のフィナンシャル・タイムズ紙社説‘Putin’s poison’は、こういうことが繰り返されないように西側はきちんとした対応をすべしと論じている。具体的には、(1)ロシアと欧州を結ぶノルドストリーム2パイプライン計画の見直し、(2)ロシアの国際的な「クラブ」のメンバーシップの制限、特にG7にロシアを復帰させないこと、(3)「汚い」ロシアのお金の流れと影響力拡大工作を抑えることを挙げ、こうしたことについて西側は協調して取り組むよう主張している。

 当然、同社説の言うようにすべきである。そうでないと、プーチンはこういう事件を繰り返し起こす恐れがある。

 ロシアをG7に復帰させるなど論外であるし、ロシアのエネルギーへのEU依存も見直されるべきであろう。人権侵害に対しビザ発給禁止や資産凍結などを科すマグニツキー法に基づく制裁も考えたらよい。プーチンはどうしようもない「ならず者」であるという認識で対応すべきであろう。トランプが対ロ制裁には消極的で、「証拠を見たい」などと言っているが、奇怪である。

 プーチンとその政権がなぜこれほどまでにナヴァルヌイを敵視し、警戒するするのか。ナヴァルヌイは9月中旬に行われるロシアの地方選挙で野党勢力を応援するために東部に行っていた。プーチンとその政権は改憲後、盤石な政権基盤を持つように見えるが、プーチンの認識ではそうでもないということだろう。恐怖政治を行う独裁者は自らも恐怖の中で生きていると言われるが、プーチンの常軌を逸した行動は、彼の恐怖心の反映かも知れない。ナヴァルヌイはある刑事裁判で有罪判決を受けており、プーチンに対抗して大統領選には出られないが、それでもプーチンは心配しているのであろう。

【私の論評】かつてないほど脆弱化したプーチン!日本も制裁に参加を!その先に日本が主導権を持った北方領土交渉がみえてくる(゚д゚)!

原油安と新型コロナのパンデミック(世界的大流行)悪化でロシア経済は崩壊に向かいつつあります。

プーチン氏に対抗する者はいないですが、かつてなかったほど脆弱(ぜいじゃく)になったと見受けられます。

かつてないほど脆弱化したプーチン
パンデミックの対処に苦しんでいるのは世界のどの政府も同じですが、ロシア政府は三つの戦いに直面しています。

一つは他国同様、急速に広がるウイルスによる直接的な医療や経済面の影響への対処。

二つ目は記録的な原油安。

最後にプーチン氏が2024年以降も大統領にとどまるための憲法改正を諮る全国投票を成功させなければならないです。

この3つを首尾よくこなすことは、実行力のある指導者として自らを描いてきたプーチン氏にとっても荷が重そうに見えます。

ロシア経済はソ連崩壊以来の深刻なリセッション(景気後退)に陥りつつあります。セルゲイ・グリエフ氏らエコノミストの試算によると、ロシアの今年の国内総生産(GDP)は最大9%ないし10%縮小する見通しで、落ち込みは09年の金融危機をはるかに上回ります。

セルゲイ・グリコフ氏
ロシア高等経済学院の調査によると、3月に収入は変わっていないと回答したロシア国民は約60%でしたのですが、4月にはそれが20%程度に低下しました。失業者は急増する見込みです。

パンデミックの管理が計画されることはなく、ロシアの感染者数はいまや111万人で、世界第四位です。不正確な検査からベッドの不足まで、新型コロナはロシアの医療制度の惨状を浮き彫りにしています。

ただ、死者数が比較的少ないようですが、それはロシアではコロナ死者数に含めるのは、コロナのみで死亡した人以外は、コロナ死者数に含めない(コロナ罹患者ががん患者だった場合には、がんで死亡すする)ことや、ソ連が崩壊してロシアに変わったときに、平均寿命がかなり下がり、他国に比較すると老人が少ないことなども影響しているようです。

そのため、死者が少ないとはいっても現実にはかなり被害は大きいものとみるべきです。

20年にわたり最高権力者として君臨するプーチン氏にとっては、最大の政治危機が訪れています。新型コロナと原油安の対策ではトップダウンの強みを示すチャンスでもあったのですが、代わりに明らかにされたのは行政機構の空洞化でした。

プーチン氏はこれまでも統治の核心部分には入り込みたがらなかったのですが、自らが掌握できそうにない今回の危機から、いつも以上に距離を置いています。大統領報道官はプーチン氏が地下壕(ごう)に隠れているとのうわさを否定しなければならなかったほどです。

独立系調査機関のレバダによると、新型コロナ感染拡大以前からプーチン氏の支持率は14年のクリミア併合前以来の水準に低下していました。ところが、さらに下がったように思われます。

国営の全ロシア世論調査センター(VTsIOM)が先週発表した調査結果では、信頼できる政治家としてプーチン氏を挙げたのはわずか28%にとどまりました。

プーチンがナヴァルヌイ氏を敵視し、警戒するにはプーチンがかつてなかったほど脆弱になったことも絡んでいるでしょう。もしそうでなければ、ナヴァルヌイ氏を警戒したり、ましさや毒殺を試みるなどのことは必要ないはずです。

現在の脆弱なプーチンには、さらに西側諸国が結束して、制裁を強化すれば、かなりこたえるのは間違いないです。

毎年9月に露極東ウラジオストクで開催され、安倍晋三首相も2016年以降参加を続けてきた「東方経済フォーラム」が、今年は新型コロナウイルスの影響で中止されました。外資の導入による極東振興を狙うプーチン露大統領の肝いりで15年から毎年行われてきた同イベントだが、そもそも、巨額の投資に似合う成果が得られていなかったとの批判が露国内で出ていました。

2017年「東方フォーラム」 安倍総理とプーチン大統領

ロシアでビジネスを手掛ける日本企業の間でも「会社の幹部を連れてくるだけのメリットがない」などとして、関与を縮小させる動きが出ているといいます。

「フォーラムで発表されている経済合意の一部は実行されていない上、新型コロナの影響、欧米による経済制裁、また割に合わないとして、投資家が“危険な計画”を避けた事例もあったとされている」

露地方政治・経済成長センターのグラシェンコフ代表は記者の書面インタビューで、フォーラムの現状をそう指摘しました。

東方経済フォーラムは、人口減少と経済の衰退が続くロシア極東の振興策として、プーチン氏が15年5月に大統領令で実施を決めた同国最大級の経済イベントです。プーチン氏は第1回会合で、「ビジネスのために最高の環境を整える」と豪語。

以後、日本や中国、韓国、その他アジアの首脳らが毎年出席し、それに随行して企業関係者による大規模な投資ミッションが現地を訪れるのが通例となっていました。

ただ、域内人口がわずか600万人(そもそもロシアの人口は、1億4千万人であり、日本とあまり変わらない、ちなみに北海道の人口は500万人台)規模とされる極東地域でビジネスを展開することは、エネルギーや水産業など1次産業を除けば、至難の業です。主催者は「270件、3.4兆ルーブル規模の合意がなされた」「国内外から1200人超のメディア関係者が参加した」などと成果を強調しますが、グラシェンコフ氏は「主要な経済合意は全て東方経済フォーラムより前になされているもので、フォーラムはそれを追認する場にすぎない」と断じています。

さらにフォーラム開催に、巨額の予算が費やされている実態などにも批判の声が上がっています。 とはいいながら、これは日本でいうと、都道府県に対する予算同程度のものであり、日本レベルでは元々、たいしたものではないのですが、そもそもロシアのGDPは東京都と同程度であり、ロシアにとってはかなり大きなもののようです。

露極東の通信社、デイタ・ルーは6月、フォーラムが膨大な支出で成り立っている一方で、開催手法は時代遅れで、参加する外国人のレベルも年々低下しているなどと指摘した。報道によれば、昨年のフォーラムでは、使い捨ての展示物に数千万ルーブルが費やされていた実態が明るみに出て、「極東地方の住民に衝撃を与えた」といいます。

露政府の巨額投資(日本では通常レベル)にもかかわらず、極東の経済成長は順調とは言い難いです。フォーラムの開催地であるウラジオストクは堅調とされますが、周辺地域では停滞が目立つといいます。

ハバロフスクでは知事の拘束を発端に、7月11日から長期の反政権デモが発生したのですが、露極東連邦大学のアルチョム・ルキン准教授は「ハバロフスク地方の住民が、経済の停滞にも強い不満を抱いていることは疑いようがない」と指摘します。

極東の現状は、安倍首相と同行する形でフォーラムに参加してきた日本企業にも影響を及ぼしています。

ある関係者は「ホテルや交通手段が脆弱(ぜいじゃく)なウラジオストクでのフォーラムの参加には相当額の費用がかかる。現地の政権幹部との会合アレンジなどに失敗すれば、担当者の評価も下がるため、年々参加規模が縮小する傾向にある」と明かしています。

ロシアとの関係強化に注力した安倍政権が終わるのを受け、日本が今後、どのような形でフォーラムに関与するかも注目されます。

焦点の北方領土問題をめぐっては、日本政府が8項目の対露経済協力などを打ち出すなど二国間関係の改善に尽力したものの、進展しなかったのが実情です。そのため日本政府が今後、フォーラム参加を含めて従来通りに露極東の経済プロジェクトに関与し続けるかには疑問が残ります。

ルキン氏は「日本企業の極東への関心が薄まっている事実は明らかだ」とし、「来年、日本の首相がフォーラムに参加することはないだろう」と予測しています。

菅総理は、これからフォーラムに参加しないほうが良いでしょう。それよりも、日本もEUや米国と歩調をあわせ制裁を強化していくべきでしょう。そうすれば、ロシア経済はますます脆弱化していき、プーチンもますます脆弱化していきます。
その先に、日本が主導権を持った北方領土交渉がみえてきます。

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2020年9月20日日曜日

【新聞に喝!】安倍政権支えた「若者の勝利」 作家・ジャーナリスト・門田隆将―【私の論評】ドラッカー流の"体系的廃棄"をしなければ、新聞はいきづまる(゚д゚)!

 【新聞に喝!】安倍政権支えた「若者の勝利」 作家・ジャーナリスト・門田隆将

  安倍政権の7年8カ月は、新聞や地上波という“オールドメディア”による印象操作報道との闘いでもあった。その意味でマスコミに対して全面戦争を厭(いと)わなかった政権という見方もできるだろう。

 それをあと押ししたのは、ネットの発達だ。マスコミの印象操作の手法は次々とネットで明らかにされ、安倍政権には大きな助けとなった。だが“敵”も最後までその攻撃を止めることはなかった。

 代表格である朝日新聞が12日付で〈若者が見た安倍さんの7年8カ月〉という興味深い記事を掲載した。ネットといえば若者。安倍政権の政権支持率は平均で44%。だが、18~29歳男性の支持率に限ると実に57%だった。まさに安倍政権を支えたのは、若者層だったのだ。その最大支持層の話を集めた記事である。記者はモリカケ・桜への批判を若者から聞き出そうとするが、ほとんど出てこない。

 それはそうだろう。ネットでは多くの証拠が提示され、事実無視の単なる印象操作記事は糾弾対象になってきたからだ。若者は世論誘導に騙(だま)され易(やす)い“情報弱者”たちと一線を画していたのだ。

 だが朝日は〈モリカケや桜を見る会の問題は「国家予算からしたら大きな話ではない」としか思えない〉と、本当は悪いが若者は金銭的な比較で「問題にしていない」と、ここでも印象操作を忘れない。それでも「小中学生のころは、首相がコロコロと交代していた印象がある。在任7年8カ月は長いと思うけど、安倍さんは外交などで行動力もあって信頼していた」と記者の誘導に負けない若者たちの話は頼もしい。いくら“操作”しようとしても、それが通じない層によって安倍政権は支えられたことが分かる。

 記事は「ここ5、6年は特に、学生が妙に大人びていてまじめ」との大学教授のコメントを紹介し、東日本大震災の影響などで、若者は将来の生活や経済に不安を感じており、〈変化を求めず、与党である自民党を支持する学生が多い〉とし、〈若さゆえに政治についての自分の意見が未熟なのは、いまも昔も変わらない〉と締めくくった。とてもこのネット時代には通じない“定番”の終わり方だ。

 朝日は翌13日付で、編集委員による〈またも言葉を光らせられぬ首相を選ぶ。ピンチの温床まるごと継承。すがすがしいほどおめでたい〉との悔しさ満杯のコラムを掲載した。

政権発足前から実に250万部以上も部数を激減(ABC公査)させた朝日。軍配(ぐんぱい)は明確に安倍首相と若者の側に上がったのである。

                 ◇

【プロフィル】門田隆将(かどた・りゅうしょう) 作家・ジャーナリスト。昭和33年、高知県出身。中央大法卒。新刊は『疫病2020』。

【私の論評】ドラッカー流の"体系的廃棄"をしなければ、新聞は必ずいきづまる(゚д゚)!

門田氏の主張することは、数字上でも如実に示されています。

日本ABC協会のまとめによりますと、朝日新聞の8月の販売部数は499万1642部で、前月比2万1千部、前年同月比43万部の減少となりました。朝日新聞の販売部数は1980年代末から2009年にかけて800万部台を誇っていましたが、14年12月に700万部を割り、18年2月には600万部を下回りました。10年ほどで300万部も失った上、減少の速度は増しています。

新聞業界全体で見てもこの20年ほど減少傾向が続いていますが、朝日新聞の場合、14年8月の慰安婦誤報問題や同9月の東京電力福島第1原発事故に関する「吉田調書」問題などで長年のコアの読者が離れたという事情が重なったとみられます。

朝日新聞関係者らによると、販売店の現場では500万部割れには関心が薄いといいます。コロナウイルスの影響で販売店の経営が困難さを増しているため「それどころではない」という気持ちが強い上、販売部数から販売店が注文する以上の分を押し付けられる押し紙の数を引いた実売部数ではとうの昔に500万部を割っているからです。

全国紙などの販売局・販売店関係者の話を総合すると、全国紙の押し紙の割合は販売部数の3~4割を占めるといいます。朝日新聞の場合、押し紙が3割だとすると8月時点での実売部数は約350万部となります。

同新聞の「販売局有志」が16年に出した内部告発文書では同年の押し紙の割合は「32%」と記されており、これを当てはめると、実売部数は約339万部と推測できます。販売関係者の間では300万部は維持しているものの350万部よりは少ないとの見方が強いです。

有力紙の販売局関係者は「(朝日新聞だけでなく)新聞全体の部数減は今後ますます加速していく」と語ります。上述の内部告発文書は、22年には朝日新聞の販売部数は378万部(実売部数は264万部)と400万部を下回り、24年には292万部(同204万部)と300万部を割ると予測しています。

以下に昨年の新聞に関するグラフを二つ掲載します。


昨年もこの状況ですから、今年の販売部数が経つているのは、コロナ禍による一時的なものではないのは明らかです。

この状況を書く新聞社はどのように捉えているのでしょうか。

ドラッカー氏は、昨日を切り捨て廃棄することで新しいことを始めるべきことを主張しています。

長い航海を続けてきた船は、船底に付着した貝を洗い落とす。さもなければ、スピードは落ち、機動力は失われる。(『乱気流時代の経営』)

船底にこびりついた貝と海藻 定期的に除去しないとこうなる

あらゆる製品、あらゆるサービス、あらゆるプロセスが、常時、見直されなければならないのです。多少の改善ではなく、根本からの見直しが必要です。

なぜなら、あらゆるものが、出来上がった途端に陳腐化を始めているからです。そうして、明日を切り開くべき有能な人材がそこに縛り付けられるからです。ドラッカー氏は、こうした陳腐化を防ぐためには、まず廃棄せよと言うのです。廃棄せずして、新しいことは始められないのです。

ところが、あまりにわずかの企業しか、昨日を切り捨てていません。そのため、あまりにわずかの企業しか、明日のために必要な人材を手にしていません。

自らが陳腐化させられることを防ぐには、自らのものはすべて自らが陳腐化するしかないのです。そのためには人材がいります。その人材はどこで手に入れるのでしょうか。外から探してくるのでは遅いのです。

成長の基盤は変化します。企業にとっては、自らの強みを発揮できる成長分野を探し出し、もはや成果を期待できない分野から人材を引き揚げ、機会のあるところに移すことが必要となります。

 乱気流の時代においては、陳腐化が急速に進行する。したがって昨日を組織的に切り捨てるとともに、資源を体系的に集中することが、成長のための戦略の基本となる。(『乱気流時代の経営』)
『乱気流時代の経営』初版本 表紙

『乱気流時代の経営』の日本での初版は1980年です。40年も前からドラッカー氏はこのような主張をしていたのです。

日本のまともな大企業は、ドラッカーの主張をとりあげたのかどうかは知りませんが、昔から少しずつでも、体系的な廃棄を実践してきました。だからこそ、今日の姿があるのでしょう。

しかし、新聞業界はそうではありませんでした。こうしたことからも今日の新聞社は危機的な状況にあるのです。

大手新聞はいますぐに、まずは印象操作をやめること、それに財務省など官庁の発表をそのまま報道するのではなく、きちんと吟味してから、報道するなどのことをすへきです。

デジタル化なども推進すべきですが、その前にまず体質を改めなければ、せっかくのデジタル化投資も無駄になるでしょう。

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2020年9月19日土曜日

中国、ウクライナの軍用エンジン技術に触手 訴訟警告で米中対立―【私の論評】日本の製造業は、モトール・シーチを対岸の火事ではなく、他山の石と捕らえよ(゚д゚)!

中国、ウクライナの軍用エンジン技術に触手 訴訟警告で米中対立


 中国の投資会社が今月、ウクライナの航空エンジン製造大手「モトール・シーチ」の株式の過半数を取得しながら同国政府の妨害で経営に関与できず巨額の損害を被ったとして、同国政府に賠償を求める訴訟を起こすと警告した。中国は同社の軍用エンジン技術の取得を目指しているとされ、米国はウクライナに技術流出への懸念を伝達。事態は中国の軍事技術獲得へのこだわりと、激化する米中対立を浮き彫りにした。

  ウクライナ最大の民間通信社ウニアンが18日までに報じた。同国政府に訴訟を警告したのは中国企業「北京天驕航空産業投資有限公司」(スカイリゾン)。同社の王靖代表は中国共産党や人民解放軍に近いとされる。警告で同社は、ウクライナ政府の妨害で議決権が行使できず経営に障害が生じ、35億ドル(約3700億円)超の損害を被ったと主張。事態解決のための交渉を同国政府に要求し、応じない場合は賠償請求訴訟を起こすと警告した。提訴先の裁判所や請求額などは明らかになっていない。

  モトール・シーチはウクライナを代表する大企業で、旧ソ連時代からソ連と後継国ロシアに軍用機やヘリコプターのエンジンを供給。しかし2014年のロシアによるウクライナ南部クリミア半島併合でロシアとの取引が困難となり、経営が悪化した同社は17年、中国企業と合弁工場の設立計画に合意するなど中国との取引を拡大させていた。

  ウクライナ治安当局は同時期、モトール・シーチと中国の関係について捜査に着手。その結果、同社株式の計56%がスカイリゾンなど複数の中国企業に取得されていたことが判明した。治安当局は国家の安全保障リスクを理由に、取得された株式に基づく議決権の一時凍結などを同国の裁判所に請求し、認められた。 

 一連のウクライナの動きの背後には、ウクライナが対ロシアの後ろ盾とする米国の意向がある。昨年8月に同国を訪問したボルトン米大統領補佐官(当時)は「中国との取引には技術流出のリスクがある」と懸念を表明。ポンペオ国務長官も8月末、ウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談で「モトール・シーチ獲得への努力を含む、中国によるウクライナ投資に懸念を提起した」と発表した。

  中国は活発な軍用機開発を進めているが、エンジン技術に課題を抱えるとされ、過去にも輸入したロシアの戦闘機エンジンの盗用などが指摘された。モトール・シーチの技術を獲得した場合、中国のエンジン技術の向上は確実とされる。

  モトール・シーチをめぐっては現在、ウクライナ政府が買収を阻止する方策を検討している。ただ、株取引自体は成立済みで、取引の無効化は法的に困難とみられている。仮に取引を無効化した場合でも、中国側からさらなる賠償を請求される可能性が高い。

  事態を報じた露経済紙ベドモスチは「ウクライナは米国の不興を買うか、中国に巨額賠償を支払うか二択にさらされた」と伝えた。

【私の論評】日本の製造業は、モトール・シーチを対岸の火事ではなく、他山の石と捕らえよ(゚д゚)!

中国は、以前から独力ではまともなジエット・エンジンを製造できないと言われていましたが、改めてそれ事実が暴露されたともいえます。

中国は2016年10月、ロシアから戦闘機用エンジン「AL-31」と、爆撃機や輸送機用エンジン「D-30」を輸入しました。総額10億ドル(約1150億円)に上る契約を締結しました。この契約で、中国は3年以内に、ロシアから合計約100台のエンジンを入手することになりました。

中国は10年から、D-30エンジンを調達していて、人民解放軍の「轟-6」爆撃機や、「運-20」輸送機に搭載しています。

また、1990年代から、AL-31エンジンを搭載した「Su-27(スホーイ27)戦闘機」「Su-30(スホーイ30)戦闘機」を輸入してきました。2000年代からは「殲-10(J-10)」(=イスラエルの支援を得て開発した国産戦闘機)や、「殲-11(J-11)」(=Su-27をライセンス生産した戦闘機)にも、AL-31が搭載されるようになりました。

中国は、国産エンジン「WS-10」の開発を進めてきたのですが、期待通りの性能を達成できず、ロシア製のAL-31を使わざるを得ない現状がありました。一方で、WS-10の後継であるWS-15の開発を進めていて、国産エンジン開発に執着していました。

中国は「WS-10」国産エンジンを「J-15」戦闘機に搭載したが、まともに使えなかった

2018年には、元米上院外交顧問が、ウクライナによる中国への軍用ジェットエンジンの供与について、「背信行為」だとして抗議しています。

8月14日に中国国営メディアが、中国の新型ジェット練習機「洪都 JL―10」の公開を報じました。JL―10練習機は、中国海軍の空母パイロットの訓練に使用されると公式に中国軍が発言しています。

ワシントンタイムズ紙(2018年8月15日付)によると、中国政府が発行する英字メディア・チャイナデイリー(中国日報)には、最初の12機のJL―10練習機がウクライナのジェットエンジンを使用していることがご都合主義で書かれていないとしました。

中国の軍用ジェットエンジン技術は、ここ約十年にわたって中国軍の大きな弱点のひとつと言われてきた分野です。

現在はそこまで酷くはないでしょうが、2016年あたりまでは、中国の戦闘機の稼働率は20%ともいわれていました。国産のエンジンは故障しがちで、ロシア制エンジンは、部品の供給が不足がちでこのようなことになっていたと思われます。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【緊迫・南シナ海】ベトナムが中国・人工島射程にスプラトリー諸島でロケット弾を配備 インドからミサイル購入も―【私の論評】日本の備えはベトナムよりはるかに強固、戦えば中国海軍は崩壊(゚д゚)!

中国j11戦闘機

この記事は、2016年8月11日木曜日のものです。詳細はこの記事をご覧いただくものとして、稼働率が20%とは何を意味したのか、その部分のみを以下に掲載します。
保有していても稼動しないのは飛べないので、存在しないのと同じです。航空自衛隊の稼働率90%、従って実数は315機です。中国空軍の稼働率推定20%、従って実数は50機です。

日本と中国が尖閣諸島で戦う時には、日本の315機が中国の50機の戦闘機と戦う事になるのです。これも、中国が本格的に尖閣に攻めて来ない理由なのです。

しかしながら、日本は中国機のスクランブルできりきり舞いさせられているということも報道されています。あれは、いつどこに来るか前もってわからないことと、中国は戦力外といいながらも多数の戦闘機を持っているからです。 

当時、中国は1450機の戦闘機・攻撃機を有しているといわれてましたが、旧式の戦力外の戦闘機を除外すると、当時は実際に稼働できる機体は50機程度と考えられました。これに対して、日本の航空自衛隊の戦闘機の実数は少ないですが、稼働率が90%なので315機が実働していたのです。

この状況は現在では、改善されてはいるでしょうが、稼働率はあいかわらず低いでしょう。なぜなら、国産のエンジンは故障しがちで、ロシア制エンジンは、部品の供給が不足がちと言う現実はそう簡単に改善はできないからです。

この状況をなくすためにも、中国はモトール・シーチを何としても手に入れたいのでしょう。

しかし、米国もこれについては以前から反対していました。ワシントンタイムズ紙によると、2016年に中国の12機のJL―10練習機のために、ウクライナは20基のエンジンを販売しました。同紙によると、トランプ政権がウクライナに圧力をかけて、他の軍用製品の譲渡と同様に、中国へのエンジンの販売をやめさせるべきだと批評家たちが主張していたといいます。

中国のジェットエンジン生産問題を解決するためウクライナが支援している、と米国の中国専門家で元アメリカ合衆国上院外交顧問のウィリアム・トリプレットは抗議しています。

「中国海軍のパイロットが空母への着艦を学ぶペースを加速度的に早くする手助けをすることを、米国は望まない」とトリプレットは不満を述べています。ウクライナのエンジンで飛行する空母パイロット用中国ジェット練習機が公開されたのは、米国国防総省がウクライナ軍を援助するために2億ドルを提供すると発表してから、わずか1カ月後のことでした。

一方、環球網(2018年8月20日付)によると、ウクライナ急進党党首オレグ・リャシコ議員が、批判に対して反論しています。リャシコ議員はフェイスブックで次のように発言しました。

「ウクライナのモトール・シーチ社の航空機エンジンが中国に売られるのを、米国人が批判している。けれども、ウクライナが中国に航空機エンジンを売るのを米国人が嫌がるのなら、米国がウクライナの航空機エンジンを買うべきだ。ウクライナが中国に売ることを禁止しながら、米国が買わないのなら、モトール・シーチ社は破産するしかなく、高度な技術を持つ数千人のウクライナ人が失業することになる」。

かつて、ウクライナはソビエト連邦の一部として、多くの軍需にかかわる製品を製造していまし。しかし、ソ連が崩壊し、ウクライナの軍需産業はソ連という最も重要な顧客を失いました。

ソ連崩壊後に至っても、多くの軍需品をウクライナはロシアに供給していたのですが、2014年のロシアによるクリミア併合ではじまったウクライナ危機で、ウクライナとロシアとの軍事産業分野での断絶は決定的なものとなりました。内需の少ないウクライナの軍需産業は、製品の販売先の大部分を海外の顧客に頼っていました。

ロシア軍事アナリスト小泉悠氏は、日本語ウェブメディアJBpress(2014年4月24日付)『ウクライナで軍事技術流出の危機』で、次のように書いています。「ロシアがウクライナに依存していたのと同様、ウクライナもまた、ロシアに大きく依存していたわけだが、両国の断交が今後も続けば、ウクライナ軍需産業がたちまち苦境に陥るであろうことは容易に想像がつく。(中略)そこで懸念されるのが、技術流出である」。

ウクライナの中国への軍需品の提供は多岐にわたっています。ウクライナから製品そのもの、もしくはライセンス生産などで中国に提供された軍需品としては、航空機や軍用ヘリコプター用のエンジン、戦車用ディーゼルエンジン、軍艦用のガスタービンエンジンをはじめ、その他多くのものが存在します。

 世界最大のウクライナ製貨物輸送機「アントノフ An-225 ムリーヤ」。モトール・シーチのエンジンを
 6発搭載し、サイズはジャンボジエットの倍。元々はソ連製スペース・シャトル運搬用に作られたという

中国の空母である「遼寧」は、元はソ連の未完成空母「ヴァリャーグ」だったのは、よく知られているところです。ヴァリヤーグはウクライナの造船所で建造されていました。ソ連が崩壊すると、ヴァリヤーグは完成に至らず放置されていたのですが、それをスクラップとして中国が購入し、完成させたのが現在の中国空母遼寧です。

多維新聞(2017年9月4日付)によると、ウクライナの技師バレリー・バビッチ氏が、中国の空母遼寧の再生・建造においてコンサルタントをしたといいます。バレリー・バビッチ氏は、ウクライナの造船事業で働いていた設計技師です。

しかも、遼寧の前身である空母ヴァリヤーグの建造においては、バビッチ氏は同空母の設計技師長を勤めていたといいます。バレリー・バビッチ氏はソ連時代の数多くの空母や巡洋艦の設計・建造のブレインとして高く評価されていた人物です。

日本としては、この出来事を対岸の火事とみるべきでしょうか。私はそうは思いません。他山の石と見るべきと思います。

現在、日本の技術は中国をはじめとして、世界中で使われています。たとえば、工作機械などは、日本とドイツの機械が世界のシェアのほとんどを占めています。ただし、日本の工作機械のほうが、故障も少なく小回りが効き使いやすく、この点に関しては日本の工作機械は独壇場と言っても良いです。

これがなければ、中国もロシアも他の世界中の国々も、半導体は無論のこと、高度な航空機や船舶、乗用車、戦車などや、その部品を等を作成することが困難になります。

これがなければ、おそらくロシアも中国もまともに戦闘機を含めた、軍需品などを工作できなくなるでしょう。そうなると、米国は軍事的にかなり有利になります。

ただ、現状では、米国が中国に対して冷戦を挑んでいるとはいえ、米中のデカップリングがまだ進んでいない部分も多く、また日本も日本の高度な技術の詰まった機器などを中国だけではなく、世界中に供給しているので、米国等も日本がこれらを中国に輸出していることを批判したり、やめさせようとはしていません。

しかし、米中デカップリングが進んだときに、日独が中国への製品輸出をやめなければ、中国を利するとして、現在ウクライナが米国の不興を買いつつあるような事態に追い込まれることも十分に考えられます。そのような事態になる時期は、意外と近いかもしれません。

ただし、ウクライナの輸出先は、元々ロシア向けがほとんどだったことと、最近は中国にシフトしていたということで、元々世界中に輸出していた日独が、ウクライナのような危機に至ることはないでしょうが、それにしても日本はウクライナを他山の石として、いまから米中デカップリングに備えるべきです。

2020年9月18日金曜日

米中軍事衝突の危機迫る中での中国の歪な世界観―【私の論評】米国はASEAN諸国に、地政学的状況の変化の恐ろしさと、米海軍の圧倒的な優位性を伝えるべき(゚д゚)!

米中軍事衝突の危機迫る中での中国の歪な世界観

岡崎研究所

 Zhou Bo(清華大学国際安全保障・戦略センター上級フェロー)が、8月25日付の英フィナンシャル・タイムズ紙に「中米軍事紛争のリスクは憂慮すべきほど高い。米国と中国は南シナ海でその面子を保つ軍事行動のパターンに落ちいっている」との論説を寄せ、中米軍事衝突のリスクを警告している。


 筆者のZhou Boは、中国国防部の国際安全保障協力部長、中国軍事科学院の米中防衛関係室の名誉フェロー等もしている人民解放軍の高官である。英語圏での滞在歴もあり、英語に堪能で、国際会議等にもよく出席する。彼の論説は中国の考え方を説明したものであり、参考になる。ただ、中国が国際法を無視して、南シナ海を自己の領域のように考え、好き勝手に行動しようとしていることを明らかにしたものであり、読んでの感想は、米中の軍事衝突の可能性は論説の筆者が言うようにかなり高いと思われるということである。

 南シナ海の人工島について、ボウは次のように主張する。「これら(人工島)は中国が拡大することを選択した自然な中国の領土であり、埋め立て前に名前があったことはそれが人工的ではない証拠である。中国の法律の下で、外国の軍事船の領海への進入には政府の許可が必要である。」これについて、国際法の観点からいくつかコメントする。まず、名前を付けたから人工島が領土になるわけではない。満潮時に海上に陸上部分が出ていること、それが人間が居住しうる大きさを持つことが島になる要件である。名前をつけるか否かではない。

 次に、領海については、国際法上無害通航権がある。それを、中国の国内法で一方的に中国政府の許可に掛からしめるのは国際法違反である。海洋法条約第58条の解釈も間違っている。中国が米軍の自由航行作戦を挑発であると言っているが、正当な国際法上の権利の行使を挑発などと言う国とは話し合う意味もないかもしれない。

 国際政治上の情勢判断については、これも間違っているように思う。中国の近くの米国の同盟諸国は、米中対決の中で、中国の核や中国との貿易に鑑みて米国の味方はしないだろうとボウは主張する。が、多分そうはならないだろう。それに、核兵器で非核兵器国を脅すなど、とんでもない発想をしている。日本に関しては、米国の側に立つことは明らかであるし、豪州についてもそうであろう。ASEAN諸国は割れるだろうが、ベトナムやインドネシアが米国側につく可能性は高い。

 中国がこういう国際法違反行為をしていることには、多くの関係国を糾合し、中国の9段線による囲い込み主張は国際法上違法であると言うことを明確に言い、中国を孤立化させることが重要であると考える。日本は率先してそういう働きかけをすべきであり、それが南シナ海での平和を守ることになるだろう。グアムでの河野=エスパー日米防衛相会談はそういう方向に向けての一歩になったのではないかと思われる。

 8月26日、中国はグアムを射程に収める「DF26」ミサイル、空母キラーと言われる「DF21D」を南シナ海に発射したが、自己の力を過信しているきらいがある。危険な状況をさらに危険にしている。自ら米中軍事衝突のリスクを高めているように見える。

【私の論評】米国はASEAN諸国に、地政学的状況の変化の恐ろしさと、米海軍の圧倒的な優位性を伝えるべき(゚д゚)!

多くの国・地域に囲まれた南シナ海に、中国は「九段線」と呼ぶ独自の境界線を設定し、広大な海域の大半が自らの主権の範囲内にあると主張してきました。こうした動きに対しベトナムやフィリピン、マレーシア、ブルネイ、台湾がそれぞれ自らの領有権を訴え論争になっています。

 中国が九段線を言い始めたのは1950年ごろからです。軍事力を使い、徐々に実効支配の範囲を南へと広げてきました。ベトナムとは1974年と88年の2度、軍事衝突を起こしています。近年は埋め立てや軍事施設の建設、示威活動を続けています。 

南シナ海は、世界の貨物の3分の1が行き交うという海上輸送の大動脈です。漁獲量は1割超を占め、石油・天然ガスを含めた天然資源も豊富です。中国は力ずくで自国の支配下に置こうとしています。

中国は「南シナ海の島々は歴史的に中国固有の領土である」と主張してきました。ところがフィリピンからの提訴を受けたオランダ・ハーグの仲裁裁判所は2016年7月、九段線には国際法上の根拠がないと断定しました。

 仲裁裁が論拠としたのは、1994年に発効した国連海洋法条約です。中国も締結国のひとつで、判決に従う義務があります。ところが中国は判決を「紙くず」と呼んで無視を決め込み、むしろ実効支配を加速しました力によって国際法の秩序に挑戦する行動が、周辺諸国の強い警戒を引き起こしてきたのです。

この南シナ海でなぜいま、さらに緊張が高まったかといえば、7月半ば、米国が中国の言い分を「完全に違法」と断じたからです。中国の強引な進出をけん制しつつも、中立的な立場から当事者に平和的な解決を促してきた姿勢を、完璧に転換したのです。

背景には中国が4月以降、南シナ海での示威行為をエスカレートさせたことがあります。巡視船がベトナム漁船に体当たりして沈没させたり、マレーシアの国営石油会社が資源開発する海域に調査船を派遣し、探査の動きをみせたりしました。 

世界が新型コロナウイルスへの対応に追われるなか、支配を既成事実化しようとする中国の手法に、米国は危機感を強めました。貿易戦争から始まった米中対立が南シナ海にも波及したといえます。 

東南アジア各国は米国の肩入れを無条件には歓迎していません。中国に経済面で依存している国が多く「米中どちらか」の選択は避けたいのが本音です。米国の同盟国であり、仲裁裁への提訴の原告だったフィリピンが、米中両国と一定の距離をとる構えをみせているのが象徴的です。

米国は中国の主張を完全否定した後、原子力空母2隻を南シナ海へ派遣して軍事演習を重ね、中国をけん制しています。負けじと中国も、同じ海域で実弾演習を実施しました。互いが対抗措置を競うなかで、偶発的な衝突が起きる可能性は否定できません。

 一方で中国は東南アジア各国と、南シナ海での各国の活動を法的に規制する「行動規範(COC)」の策定作業を急いでいます。外交筋によれば、中国はCOCについて

(1)海洋法条約の適用外とする
(2)域外国との合同軍事演習に関係国の事前同意を義務付ける
(3)資源開発を域外国とは行わない。

といった条項を盛り込むよう迫っています。 日本にとっても南シナ海は中東からの原油輸入の通り道であり、中国が沖縄県・尖閣諸島の領有権を主張するなか、人ごとではありません。各国と連携し、中国に強く自制を求めていく必要性がますます高まっています。

南シナ海を巡る米中のけん制合戦は一段とエスカレートしています。8月26日、中国が同海域へ弾道ミサイルを発射したのに対し、米国は軍事施設の建設に関わった中国企業に禁輸措置を発動しました。

片や軍事的な示威、片や経済制裁の応酬の先に、軍事衝突の懸念は高まりつつあるようにみえます。 フィリピンなどが最も恐れるのは、自国の「庭先」で米中が戦争を始める事態です。それを防ごうと、中国とのCOC交渉で妥協し、締結を優先する展開もあり得ます。米国は対中圧力を強めるだけでなく、東南アジア各国をどう味方につけるかが肝要です。

そのためには、米国はASEAN諸国に以下の二つのことを納得させるべきです。

まず第一に、タイの運河ができれば、この地域の地政学的状況が一変し、タイがこれに苦しむことになるのは、目に見えています。中国による東シナ海の領有を認めるようなことをした場合、この地域の地政学的な状況が一変し、そのことがASEAN諸国を長年にわたって苦しめることになることを認識してもらうべきです。

タイ運河については、最近もこのブログで述べたことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国の海洋進出を容易にするタイ運河建設計画―【私の論評】運河ができれば、地政学的な状況が変わりタイは中国によって苦しめられることになる(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
タイ運河の位置については複数の候補があります。現在有力なのは9Aルートと呼ばれ、東はタイ南部ソンクラー県から、西はアンダマン海のクラビまで約120キロにわたり、深さ30メートル、幅180メートルの水路を掘るというものです。

ところが、タイにとってこのルートは、自国を二分する危険があります。9Aルートはタイ最南部の3つの県を、北側の「本土」と切り離すことになります。それはマレー系イスラム教徒が住民の大多数を占めるこの地域の住民がまさに望んできたことです。

近年、この地域では分離独立を求める反体制運動が活発化しており、しばしば国軍(タイ政治で極めて大きな力を持つ)と激しい衝突が起きています。そこに運河が建設されれば、二度と埋めることのできない溝となり、タイは今後何世紀にもわたり分断されることになるでしょう。

パナマ運河が良い例です。かつてコロンビア領だったパナマ地峡では、1903年に分離独立を求める運動が起こり、運河建設を望んだ米国の介入を招きました。結果的にパナマは独立を果たし、1914年にはパナマ運河が開通したのですが、以来パナマは事実上アメリカの保護領となっています。
今のところ、タイの領土的一体性は保たれています。ところが、タイ運河が実現すれば、東南アジアの地政学は大きく変わるでしょう。必然的にこの地域の安全保障パートナーとして、中国の介入を招くことになります。一度そうなれば、容易に追い出すことはできなくなります。パナマの事例からもこれは明らかです。

タイ運河はアメリカとその同盟国、あるいは戦略的要衝を軍備増強して中国の拡張主義に対抗し得るインドには大きな脅威にはならないかもしれないです。しかし一方で、ミャンマーやカンボジアなど、近隣の貧困国の独立を一段と脅かす恐れがあります。これらの国は市民社会が比較的弱く、中国に介入されやすいからです。それこそがタイにとっての絶対的な危険です。
ASEANが中国による南シナ海の支配を認めてしまえば、タイの運河どころの話ではなく、南シナ海の地政学的な状況は一変します。

中国は、自国に対して親和的な国々に対しては、この地域、特にマラッカ海峡などの通行を認めるものの、そうではない国に対しては認めなくなる可能性もあります。そうなれば、日本も多いに影響を受けます。

さらに、中国は本格的にASEAN諸国に介入をするでしょう。貧困国からはじまり、比較的裕福なシンガポールにまで介入して、南シナ海全体とその近隣諸国を自国の覇権が及ぶ地域としてしまうことでしょう。

こうなると、ASEAN諸国は完璧に中国の傘下に入り、現在のように中国との交渉の余地などなくなり、中国は我が者顔で、この地域の富を簒奪したり、中国が儲かる形で様様な開発をするでしょう。ASEAN諸国は苦しむことになります。

端的にいえば、それこそ現在の香港や、ウイグル、内蒙古のようにされ、これらの地域に中国の工場をたてて、地元民を安い賃金でこき使い、南シナ海の近隣諸国に輸出を始めるかもしれません。抵抗すれば、徹底的に弾圧され、この地域の政権はすべて中国の傀儡政権になり、注語に都合の良い政策ばかりを打ち出すようになるかもしれません。

第二に、このブログでも何度か強調してきたように海軍力においては米中を比較すると、海洋国国家の米軍のほうが圧倒的に優れていて陸上国家の中国には全く歯がたたないことを、米国はASEAN諸国に理解させるべきです。

これについても、以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国軍機が台湾侵入!防空識別圏内に 米中対立激化のなか、露骨な挑発続ける中国 日米の“政治空白”も懸念―【私の論評】すでに米軍は、台湾海峡と南シナ海、東シナ海での中国軍との対峙には準備万端(゚д゚)!

1997年から就役するアメリカ海軍有する世界最強の攻撃型原子力潜水艦シーウルフ級

海中の領域、つまり潜水艦による水中の戦いは今でも米軍が絶対優位を維持している分野です。私は米軍は、まだ公にしていないものの、根本的に戦略を変えていると思います。緒戦において米軍は、潜水艦を多様するものと思います。

軍事評論家の中には、このことを無視して、米軍は南シナ海で負けるとする人もいますが、そのようなことはないと思います。かつて米軍は、日本が空母を建造して、優位性を発揮し、真珠湾で大敗を喫した後にすぐに海軍の戦術を変えて、空母を用いるようにしました。

日本軍が、多数の南太平洋の島々に迅速に上陸した有様を研究して、海兵隊の戦法をすぐにかえました。現在では米中は戦争に突入してはいないものの、中国海軍の様子をみて、戦略を変える時間はいままでも十分にありました。おそらく戦術上も戦略上も有利なほうに迅速にシフトするのは今でも変わりないでしょう。

かつて、朝鮮有事が懸念された2017年に、トランプ大統はFOXビジネスネットワークの番組、「モーニングス・ウィズ・マリア」で朝鮮半島付近への、自ら空母派遣について言及しました。

トランプ大統領は、この番組の中で対北朝鮮問題にふれ「我々は無敵艦隊(カール・ヴィンソン打撃群)を送りつつある。とても強力だ。我々は潜水艦も保有している。大変強力で空母よりももっと強力なものだ。それが私の言えることだ」と発言しています。これこそが、私は米国の戦略の転換を示していたと考えています。

しかし、米軍は未だに潜水艦を多様する戦術・戦略を発表していません。それは、もちろん極秘中の極秘だからでしょう。

トランプ大統領が具体的に何を言っていたのか断定はできませんが、たとえばアメリカ海軍は4隻、太平洋側と大西洋側に2隻ずつ改良型オハイオ級巡航ミサイル潜水艦を持っています。他の潜水かもあわせると70隻の潜水艦を所有しています。

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、何をいいたかったかというと、 米中の原潜と他対潜哨戒能力を比較すると、米君は潜水艦の静寂性や攻撃力にはるかに優れ、対潜哨戒能力では米軍は世界一であるのに比較して、中国の能力現在でもかなり低く、米軍のほうが圧倒的に勝っているといるということです。

具体的にどうなるかといえば、この海域で中国海軍は、米国の原潜を探そうとオタオタしているうちに、ほとんどが米国の原潜の魚雷などによって撃沈されてしまうということです。

上の記事にもある通り、8月26日、中国はグアムを射程に収める「DF26」ミサイル、空母キラーと言われる「DF21D」を南シナ海に発射しましたが、自己の力を過信しているきらいがあります。危険な状況をさらに危険にしています。自ら米中軍事衝突のリスクを高めているように見えます。

確かに、空母キラーと言われる「DF21D」は米国の空母を撃沈できるかもしれません。しかし、海中に潜む米軍の原潜に対しては、そもそも中国はそれを発見する能力がかなり低いので、手を下すことはできません。

米原潜は中国に発見される可能性が低いので、中国の港の近くどころか、港の中を航行している可能性すらあります。第二次世界大戦中の米軍の潜水艦は、日本の潜水艦と比較すると小さく、技術的にも劣る面がありましたが、米軍は活用方法には秀でていて東京湾の中にまで侵入して偵察行動をしていたといわれてます。米軍が中国と南シナ海で戦争をしようと決意した場合、最初は中国のミサイル発射基地を原潜で破壊するということも十分に考えられます。

そうでなくても、米軍は緒戦で、空母や強襲揚陸艦を南シナ海に派遣し、最初にこれらを中国側に叩かせるなどという馬鹿真似はしないでしょう。最初に原潜で脅威となる中国のミサイル基地をたたくか、ミサイル発射の兆候があればすぐに破壊できるようにしておき、その上で南シナ海の中国軍基地に補給をしようと艦艇や航空機が近づけば、それを排除するなどのことをするでしょう。

これは、兵糧攻めであり、南シナ海の中国軍基地の要因は、戦うことなく手をあげるしかしかたなくなるような状況に追い込まれます。この戦法なら犠牲者もあまり出ず、米軍もかなり実行しやすいです。

この圧倒的な優位性があるうちには、中国がいくら優れた対艦ミサイルを開発しようが、宇宙の軍事利用をすすめようが、サイバー攻撃をしようが、米国の原潜を発見できないので海の戦いで勝つことはできません。

この圧倒的優位性を背景としてでしょうか、米国の有名な戦略化ルトワック氏は「南シナ海の中国軍基地は象徴的なものに過ぎず、米軍なら5分で吹き飛ばせる」と語っています。

潜水艦の行動に関しては、隠密を旨とするため、いずれの国も第二次世界大戦から公表することはほとんどありませんでした。そのため、ASEAN諸国は無論のこと、世界中の国々に、米軍の空母の恐ろしさは伝わっていないところがあります。

日本の河野前防衛大臣は、今年の6月中国の潜水艦が奄美大島接続水域を航行した事実を公表しました。これは、通常はありえないことですが、河野前大臣としては、日本も中国よりもはるかに対潜哨戒能力が段違いですぐれていることから、中国側に警告を発したものと思われます。

おそらく、中国側は、中国としては静寂性に優れた潜水艦が日本に発見されるかどうか試してみたのでしょうが、すぐに発見されてしまったわけです。この状況では、未だ尖閣を奪取するのは、かなり困難であると中国側も再認識したことでしょう。

何しろ、現在の最新鋭の日本の潜水艦は、リチュウム電池で駆動し、ほとんど無音で航行できます。このような日本の潜水艦は、対潜哨戒能力の低い中国には探知できませんし、対潜哨戒能力に優れた米軍でもほとんど不可能です。

そうなると、当然のことながら、東シナ海に潜んでいる日本の潜水艦を中国は発見できず、仮に中国が尖閣を奪取したとしても、日本の潜水艦に包囲されてしまえば、中国は艦艇や航空機で、補給しようとしても、それを絶たれる可能性が大です。それでは、全く無意味どころか、大恥をかくだけです。

米国も、このような中国に対する優位性を公表するまでのことをする必要はないとは思いますが、少なくともASEAN諸国のリーダーたちには理解してもらうことなどが、かなり有効な手段となると考えられます。

軍事機密というもの特に優位性に関するものは、完璧に隠していれば、抑止力にはなりません。さしつかえない範囲で、ある程度公開してはじめて抑止力になります。

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2020年9月17日木曜日

「岸信夫防衛相」に中国が慌てふためく理由―【私の論評】岸氏は軍事面では素人かもしれないが、安保に関しては素人ではないし、確たる信念を持っている(゚д゚)!

 「岸信夫防衛相」に中国が慌てふためく理由

                           

岸信夫氏

 アンシンフ――この日本人の名前に、早くも「中南海」(北京の中国最高幹部の職住地)がザワついている。昨日発足した菅義偉新政権で、新たに防衛大臣を拝命した岸信夫氏(61歳)、安倍晋三前首相の実弟である。

 中国最大の国際紙『環球時報』(9月17日付)は、岸防衛大臣に関する長文の記事を発表した。そこでは、生まれて間もなく岸家に養子に出された岸信夫氏の数奇な半生を詳述した上で、次のように記している。

 <岸信夫は、二つの点において注目に値する。第一に、岸信夫は日本の政界において著名な「親台派」である。現在まで、岸信夫は日本の国会議員の親台団体である「日華議員懇談会」の幹事長を務めている。第二に、岸信夫は何度も靖国神社を参拝している。2013年10月19日、岸信夫は靖国神社を参拝したが、これは兄(安倍首相)の代理で参拝したと見られている。安倍晋三本人も、2013年12月26日に参拝している>

 このように、中国は警戒感を隠せない様子なのだ。

当初、「菅政権」を楽観視していた中国だったが・・・

 今月の自民党総裁選の最中、ある中国の外交関係者は、私にこう述べていた。

 「菅義偉新首相が誕生しそうだということよりも、その際に二階俊博幹事長が留任するだろうことが大きい。極論すれば、日本の次の首相が誰になろうと、二階幹事長さえ留任してくれればよいのだ。

 二階幹事長は、日本政界の親中派筆頭で、わが王毅国務委員兼外交部長(外相)も、二階幹事長と会った時だけは、まるで旧友と再会した時のように両手を差し出し、相好を崩すほどだ。習近平国家主席にも面会してもらっている。

 安倍首相は、二階幹事長の進言を聞かず、対中強硬外交に走った。だが菅新首相は、『後見人』の二階幹事長の声を無視するわけにはいかないだろう」

 このように中国政府は当初、菅新政権を「楽観視」していた。だが「岸信夫新防衛大臣」の発表は、冷や水を浴びせられたような恰好なのだ。

 実際、岸防衛大臣は、中国政府が「民族の三逆賊」と呼ぶ台湾の政治家(李登輝元総統、陳水扁元総統、蔡英文現総統)のうち、少なくとも二人と親友だ。李登輝氏とは長年にわたって親交があり、8月9日には、森喜朗元首相とともに、李元総統の弔問のため、台北を訪れた。

  その際、蔡英文総統にも面会している。蔡総統に関しては、総統就任直前の2015年10月に日本に招待し、自分と安倍首相の故郷である山口県下関市まで、わざわざ案内している。

 安倍政権下では「中国担当は兄、台湾担当は弟」で役割分担 

 この時、ある首相官邸関係者はこう述べていた。

  「蔡英文氏の宿泊先を、首相官邸から一番近いザ・キャピトルホテル東急に決めたのも岸信夫氏だった。10月8日昼、ホテル特別室のランチの場に、岸氏は安倍首相を連れてきた。日台合わせて10数人のランチだったが、安倍首相が自分がいかに台湾ファンかを熱く語ったりして、大変盛り上がった。

  だがこのランチは、安倍首相の首相動静からは削除され、日本側も台湾側も、一切極秘とした。それは、中国政府に配慮したからだった」 

 このように、安倍政権の7年8カ月、安倍首相が中国を担当し、弟の信夫氏が台湾を担当するという役割分担をしてきた。だが菅新政権になって、「台湾担当者」が表舞台に登壇したのである。しかもその役職は、中国政府が最も敏感な防衛大臣とあっては、中国側が穏やかでないのもむべなるかなだ。

  一方、台湾(中華民国)総統府は、日本の国会で菅氏が首相に選出されるや、直ちに祝賀コメントを発表した。

  <日本では今日、臨時国会が開かれ、自民党党首に選出された菅義偉官房長官を、第99代首相に選出した。これに対し、総統府の張惇涵報道官は、蔡総統はわが国の政府と国民を代表して、菅義偉首相に祝賀を表し、合わせて日本政府が菅首相のリーダーシップのもとで、順調に各種の国政を進め、国家が発展繁栄していくことを祝う。

  張惇涵報道官はこう述べた。「菅首相は過去に複数回、わが国公開の場で支持している。そして双方が、自由、民主、人権、法治などの基本的価値を共有していると認めている。また、わが国が国際組織に加盟することへの支持を唱えており、台湾にとって重要な海外の友人と言える。

  かつ日本と台湾との往来は密接で、日本はわが国の重要なパートナーだ。わが国はこれからも継続して、日本と多様な協力を進めていき、台日友好のパートナーシップ関係を深化させていく。それによって両国の国民の福祉を共同で推進し、地域の繁栄と発展、平和と安定を維持、保護していく> 

 このように、「岸信夫新防衛大臣」には触れていないが、菅新政権を手放しで歓迎するムードである。

岸氏の防衛相起用は「安倍政権の継承」の証 

 菅新首相が、岸氏を防衛大臣に抜擢した理由は何だったのか?  安倍政権時代の官邸関係者に聞くと、こう答えた。

 「それは、安倍前首相に気を遣うと同時に、同盟国アメリカのトランプ政権に、『安倍政権の継承』を示すためだ。このところのトランプ政権は、『台湾シフト』を鮮明にしており、今後は日本にも役割を求めてくる。そうした日米台の連携に、最もふさわしいのが岸氏の起用だったというわけだ」  当の岸防衛大臣は、16日の就任会見で、官僚が用意したペーパーを読み上げて、こう述べた。

 「今月11日に発表された(安倍)総理大臣の談話や菅総理大臣の指示を踏まえ、憲法の範囲内で国際法を順守し、専守防衛の考えのもとで厳しい判然保障環境において、平和と安全を守り抜く方策を検討していきたいと思います」

 「11日の総理談話」とは、次のようなものだ。

 <迎撃能力を向上させるだけで本当に国民の命と平和な暮らしを守り抜くことができるのか。そういった問題意識の下、抑止力を強化するため、ミサイル阻止に関する安全保障政策の新たな方針を検討してまいりました。今年末までに、あるべき方策を示し、わが国を取り巻く厳しい安全保障環境に対応していくことといたします>

 いわば安倍前首相の「遺訓」とも言うべき「敵基地攻撃能力の保有」である。「敵」とは表向きは北朝鮮だが、実際には中国だろう。

 「米台vs中国」――岸防衛大臣の就任で、この米中新冷戦の「断面」に、日本も組み込まれつつある。「まずはコロナウイルスの防止に全力を尽くす」と述べた菅新首相だが、その先には、大きな地政学的リスクが横たわっている。

近藤 大介

【私の論評】岸氏は軍事面では素人かもしれないが、安保に関しては素人ではないし、確たる信念を持っている(゚д゚)!

中国の習近平国家主席は16日、菅義偉新首相に祝電を送り、「中日は友好的な隣国で、長期的な(関係の)安定発展は両国人民の根本的な利益にかなう」と述べ、関係強化を呼び掛けました。これは、異例なことです。李克強首相も祝電を発出。日本の新首相への国家主席と首相による祝電は「珍しい対応」(外交筋)で、習指導部は日本重視の姿勢を鮮明にしました。

汪文斌外務省副報道局長は記者会見で「菅氏が中国と安定した外交関係を構築すると表明していることを高く評価する」と強調しました。

菅首相が7年8カ月にわたり安倍晋三前首相の下で官房長官を務めたことから、中国では「中国に一定の配慮を見せた安倍氏の路線を受け継ぐ」(日本専門家)という見方が強いです。15日付の共産党機関紙・人民日報系の環球時報は社説で「(新政権は)日米同盟を基軸として中国との関係も発展させ、利益の最大化を図る」と予想しました。

一方で、沖縄県・尖閣諸島をめぐる問題などで、日中の立場の隔たりは大きいです。中国は、安倍前首相の実弟で、台湾との関係が深い岸信夫防衛相を警戒しています。汪氏は会見で、岸氏について「防衛部門の交流を強化し、『一つの中国』原則を守り、いかなる形でも台湾との公式往来を避けるように希望する」と語りました。

産経新聞社が発行する雑誌「正論」1月号増刊には岸氏は「日米台の安全保障対話を」と題した文章を寄せました。蔡氏が日本との安保対話を呼び掛けたことに言及し、「日台の安保対話はぜひ進めていくべき」と言明。それには米国の関与が重要だとし、日米台で安保対話ができるようにしていくべきだとの考えを示しました。

台湾への訪問を重ねてきた岸氏。今年1月の総統選で蔡氏が再選を果たした翌日の12日には、台北市の公邸を訪れ蔡氏と面会しました。日本は台湾や米国と同様、自由で民主的なインド太平洋戦略に着目しているとの考えを示し、台湾が「日本との関係をより緊密にし、共に地域の平和と安定を維持していけることを期待する」と述べていました。

岸信夫氏(左)と蔡英文台湾総統(右)

一方米有力シンクタンク、ヘリテージ財団が16日に開催した日本の安全保障を巡るオンライン会合で、米識者から菅政権の閣僚起用法に疑念を示す意見が出ました。岸信夫防衛相は「初心者だ」として、敵基地攻撃能力保有の是非や軍事力を強める中国への対応など課題が山積する中、厳しく評価されました。

米軍が創設に関わり安全保障分野の研究に定評があるシンクタンク、ランド研究所のジェフリー・ホーナン研究員は岸氏は新参者や未熟者などを意味する「ノービス」だと指摘。その上で「菅政権が敵基地攻撃能力など微妙な問題のある安保分野で大胆な措置を取るとは思えない」との見方を示しました。

安倍氏の下で、7年8カ月間、官房長官を務めた菅氏は、就任前から「安倍政権継承」を旗印に掲げていました。日本では、今回の岸入閣はこのような意志を示すものという見方があります。

安倍氏は辞任を控えて防衛政策関連の談話を発表するなど意欲を見せていました。岸氏を防衛相に起用することによって『敵地攻撃能力』など、安倍氏が完遂できなかった政策を最後まで成しとげるというメッセージを伝えようとしたとの見方です。

 米国は短期間に終わる可能性がある菅義偉体制にまだ信頼を持てずにいると思います。そうした中岸氏を防衛相に据えたことは、安倍氏の下の日本の安全保障路線、強力な日米同盟を継承していくというメッセージとみることができます。

 岸氏は上でも述べたように、「日本・台湾 経済文化交流を促進する若手議員の会」を率い、台湾関係法を推進するなど議会内の「親台湾派」としても知られています。

安全保障と軍事は、イコールではありません。それは、石破氏をみていればわかります。石破氏は軍事オタクではありますが、安全保障に関しては現実的には素人以下だったかもしれません。

朝日新聞などのオールドメディアで「国民世論第1位」と紹介されていた石破茂氏は得票数がなんと最下位で終わりました。結局オールドメディアは事前に調査等せずに、印象や願望で報道するということが暴露されたと思います。

この石破氏の転機は、集団的自衛権の限定行使を容認した、いわゆる安全保障法制を巡る氏の対応だったと思います。

集団的自衛権の限定行使で戦争になると安保法制改正に反対する人々

石破氏は安倍首相から安全保障法制担当大臣の就任を要請されながらも、これを辞退しました。

氏は安全保障政策に精通し国会答弁能力も高く、過去に防衛庁長官として有事法制の成立に尽力しました。日本の安全保障政策は国会審議で停滞、混乱するのが常でしたから石破氏の国会答弁能力の高さは貴重でした。

だから安倍首相による安全保障法制担当大臣への就任要請も政局的要素が皆無とは言えないですがやはり石破氏の能力を評価しての話ではなかったと思います。

ご存知のとおり安全保障法制の国会審議は大変、混乱しました。混乱の直接的原因は自民党による参考人の人選ミスでしたが、これを差し引いても「石破安全保障法制担当大臣」ならば国会審議も大分落ちついただろうし、変わらず混乱したとしても石破氏の政治的威信は著しく高まったでしょう。

そしてこの政治的威信を背景に自民党が大敗した2017年の都議選直後に安倍首相に辞任を迫ることもできたかもしれませんし、同年9月に起きた民進党の分裂騒動にも多大な影響を与えることもできたかもしれません。

この「石破安全保障法制担当大臣」という「歴史のif」は色々な想像を掻き立ててくれます。

石破氏の表す言葉として「軍事オタク」があります。否定的なニュアンスも含む言葉だと思いますが氏自身は、まんざらでもなかったように思えます。

総裁選で地方遊説をした石破氏

軍事オタクという言葉に動揺しない石破氏の姿は正真正銘の政治家でした。「自分は知識をひけらかすだけで終わっていない」という自信がみえました。実際、氏は防衛庁長官として活躍しました。

しかし、安全保障法制を巡る氏の対応はリスクを避け知識をひけらかすだけの軍事オタクでした。そして今なお軍事オタクの状態にあります。

だから自民党総裁選に出馬した石破茂とは政治家ではなくただの軍事オタクだったのです。ただの軍事オタクが政党代表、内閣総理大臣になれないのは当然です。

端的に言えば石破茂氏は勝負所を間違えました、彼にとって勝負所は最大の総裁選ではなく安全保障法制だったのです。

石破は政治家にとって「決断」がいかに重要なのか身をもって証明したと言えます。もちろん、歴史に彼の名は残らないでしょう。

一方、安倍総理とともに歩んだ岸信夫氏は、少なくとも軍事オタクではありません。福田改造内閣~麻生内閣では防衛大臣政務官、第2次安倍内閣では、衆院外務委員長、外務副大臣、衆院安全保障委員長などを歴任しました。

岸氏は、沖縄県・尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突し、那覇地検が船長を「わが国国民への影響や、今後の日中関係を考慮して」釈放した問題で、当時の民主党政権の対応の不十分さをたびたび非難しています。例えば10年10月8日の参院本会議では、

 「中国が反応してくることが容易に想像できたにもかかわらず、すべてを地検に押し付けた形にして、自ら前向きに対処しようという気構えが全く見られない。むしろ早く厄介払いしたかったようにしか思えない」 

「この度の尖閣諸島での漁船衝突は、その間隙(編注;岸氏は演説の中で、基地問題の迷走が日米同盟を危うくさせたと主張)をついて中国が仕掛けてきた海洋進出の結果じゃないですか」

 「後々、中国の圧力に屈し我が国の領土、領海について日本が譲歩したことが日本外交最大の敗北の日として歴史に残るかもしれない」 などと述べています。

岸氏は、国会で中台関係に言及したこともあります。日米安全保障協議委員会が05年2月に発表した共同声明で「地域における共通の戦略目標」のひとつとして「台湾海峡を巡る問題の対話を通じた平和的解決を促す」ことを挙げ、中国が反発した問題です。

岸氏は05年3月16日の参院予算委員会で、 「我が国と米国が台湾問題に関して平和的解決を促して、また中国の軍事分野における透明性を高めることを通して中国がアジアの、アジア太平洋地域で責任ある役割を果たしていくよう求めることは、これは我が国としても当然のことだと思う」 などと述べています。

岸氏は、現在のところは、確かに純粋な軍事面では素人に近いかもしれません。しかし安全保障については素人ではないし、確たる信念を持っているようです。軍事面に関しては、これから学んでいけば良いことだと思います。

信念がなく、オタクになる政治家には明日はありません。

そうして、政治家は何と言っても結果を出せなければ、無意味です。岸信夫氏が防衛大臣として立派な成果を残されることに期待したいです。

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